2023年05月12日

ゲーム紹介「モバイルマーケット」


 数寄ゲームズはスマートフォン開発会社のCEOとなってスマホ市場の覇権を争う戦略ゲーム「モバイルマーケット」を発売します。プレイ人数1-4人、対象年齢12歳以上、プレイ時間60分で、小売希望価格は税込5500円となります。

 一般販売に先駆けて、ゲームマーケット2023春の「コ35」数寄ゲームズブースにて先行発売を行います。イベント特別価格5000円での提供となります。

 ゲームマーケット後は数寄ゲームズ通販サイトにて販売を行い、後に全国のボードゲームショップさんでもお買い求め頂けるようにする予定です。



 「モバイルマーケット」は2018年にCosmodrome Gamesから発売されてスマッシュヒットとなった「スマートフォン株式会社」の流れを組むタイトルで、「ファーナス」でもその技巧を見せつけたロシア人デザイナーIwan Lashinの作品です。「スマートフォン株式会社」の拡張ではなく、単体で遊ぶことができるタイトルとなります。


 「スマートフォン株式会社」は、そのユニークなアクション決定システムとスピーディで流麗なゲームデザインが高く評価された作品でして、「モバイルマーケット」はその特徴を受け継ぎつつも、より今風のエッセンスを採り入れた手強くも華のあるタイトルに仕上がっています。

 両者の一番の相違はボードメインだった「スマートフォン株式会社」に対して、「モバイルマーケット」はカードメインのゲームに変貌したということでしょう。一見、これは巷によくある〇〇○カードゲームのような元ゲームの精髄を抜き出して小型化したゲームのように思えますが、「モバイルマーケット」について言えば、むしろより情報を詰め込んでマッシブさを増した「フルアーマー版スマートフォン株式会社」と言う趣があります。既存のゲームで言えば「テラミスティカ」と「ガイアプロジェクト」の関係に近いかもしれません。



 カードメインということもあって「スマートフォン株式会社」よりもお手頃な価格でご提供できるのですが(というか全体ボードを2層構造化した「スマートフォン株式会社」はそりゃ高くなって当然という仕様なのですが……)、中身までお手頃かと言えば全然そんなことはなく、むしろそういう気分で取り組むと逆に頭をぶん殴られるまである、非常に挑戦的かつ歯ごたえのある経済ゲームです。「スマートフォン株式会社」をすでにプレイしたことのあるプレイヤーにとっても新鮮味の多い、探究余地の広大なゲームと言えましょう。


 では、その魅力はどういったものなのか。それをこれからご紹介していきましょう。


◆ゲームの概要や流れを簡単にご紹介

 テーマやゲームの流れは概ね「スマートフォン株式会社」と同じではありますが、「モバイルマーケット」独自の部分も多くあります。


 「モバイルマーケット」において、プレイヤーはスマホ開発会社のCEOとなって、(1ラウンド1年に換算される)5ラウンドを通してより多くの利益=VPを稼ぐことを目指します。



 各ラウンドはスマホ販売にまつわる様々な業務を表すいくつかのフェイズから構成され、プレイヤーは技術開発や広報活動、スマホの設計、製造、販売活動を通してより多くの利益を上げられるように努めます。


 プレイヤーが各ラウンドで最初に決定を求められるのが2枚のパッドの組み合わせです。簡潔かつ悩ましいこのアクション決定メカニクスは「モバイルマーケット」の心臓部分と言っていいでしょう。先述の様々な企業活動の方向性はこのパッドの組み合わせによって決定されます。



 さらにパッドの組み合わせによって、スマホの販売価格も同時に決定されます。この販売価格は単純に将来の売上の見込みが決まるというだけではなく、以降のフェイズの行動順を決定する重要な要素です。

 基本的にこのゲームは、早取りのゲームです。技術の獲得、販売施策の獲得、顧客への販売、全てが早取りで構成されていて、先手を取ることに大きな強みのあるゲームと言えます。

 そして、スマホの販売価格をより安く抑えたプレイヤーは、他プレイヤーよりも先に行動することができます。……基本的には。

 そのため、時には得られるであろう利益を投げ売ってでも先手を取らなければならないタイミングがあるのです。この互いの読み合い、駆け引きが「モバイルマーケット」の醍醐味と言えます。


 さて、それぞれがアクションを決定し、行動順が決まったところで迎えるのが技術フェイズです。



 このフェイズでは、スマホを製造する工場をアップグレードする技術カードやスマホに様々な機能を搭載する機能カードが購入できます。

 さきほどのパッドの組み合わせによってプレイヤーはいくつかの技術ポイントが貰えます。この技術ポイントを支払うことでプレイヤーは技術カードや機能カードをお買い物できるのですが、先述の通り、スマホの販売価格によって決まる手番順で購入していくので、後手番のプレイヤーは残り物を買うかどうかという辛い選択を迫られます。

 余った技術ポイントは次ラウンドでも使えるので無駄にはならないのですが、このゲームは拡大再生産のゲームなので基本的には使い切るのがベストです。よーく考えて自社に必要な技術や機能を開発しましょう。


 続くフェイズは販売促進フェイズです。このフェイズでプレイヤーはスマホ販売活動にまつわる様々な販売施策カードを購入します。



 「スマートフォン株式会社」既プレイヤーにとって注意して頂きたいのはこのフェイズのみ手番順とは逆順に処理を行うということです。つまり、スマホをより高値で販売するプレイヤーが先に行動することができます(このフェイズは「スマートフォン株式会社」既プレイヤーほど処理を間違えやすいので注意が必要です)。

 技術フェイズと同様にパッドから得られたポイントを支払ってカードを購入するのですが、余ったポイントは持ち越しできず、後に商品を販売する顧客カードの獲得に使用されます。


 続く生産フェイズではスマホの生産数が決まります。とは言え、ここは手順に沿って生産数が決まるのでプレイヤーの判断が絡む部分はありません。

 重要なのは次の販売フェイズです。プレイヤーは先程生産したスマホを全て売り切ることを目指します。顧客にはガジェット好き、一般顧客、コアユーザーの3種があります。



 顧客は販売する製品の機能と価格にのみ興味があります。そこで、プレイヤーは購入した機能カードのうち、必要と思われる機能をスマホに搭載し、機種の設計を行います。



 プレイヤーは様々な機能を搭載したハイエンド機種を販売するのか、それとも手頃な機能で価格を抑えた割安スマホを販売するのか、どの顧客にどういった商品をアピールするかを考えなければなりません。

 注意するべきは製造コストの概念でしょうか。ありとあらゆるコストの高騰が頭痛の種となる昨今ではありますが、その世相を反映したのか、スマホがタダで生産できた「スマートフォン株式会社」とは異なり、「モバイルマーケット」では様々な機能を搭載すると製造コストも上がってしまうというデメリットがあります。


 製品を販売できる顧客には大きく分けて2種類あります。各社競合で奪い合う「市場の顧客」と、自社の製品のみを買ってくれる「お得意様」です。

 「市場の顧客」は、それぞれの顧客の手持ち予算に合わせて並べられた顧客カードの一群です。プレイヤーは手番順にそれぞれの顧客カードをチェックし、条件が満たされた顧客カードがあれば、商品を販売できたものとして獲得します。これは先述の通り、手番順に実行するので、後手プレイヤーには製品を販売できる顧客カードが残っていない場合もあります。



 一方で「お得意様」はそれぞれの企業が独自に囲い込んだ顧客で、他プレイヤーに奪われることがない自社だけのファンです。しかしながら「お得意様」には優先的に商品を提供する必要があり、「市場の顧客」に商品を販売する前に「お得意様」の都合を優先しなければなりません。「お得意様」ばかりにかまけているとせっかくの「市場の顧客」を逃してしまうこともあるのです。


 こうして商品の販売を行った後、利益の精算を行います。まず最も多くの商品を販売したプレイヤー(これはこのラウンドで獲得した顧客カードの枚数で表現されます)は、市場シェアのボーナスを得ます。

 続いて最初に決めた販売価格からスマホの製造原価を引いた「粗利」と「販売したスマホ数」を乗算した額を乗算した「利益」を受け取ります。より利益幅の大きいスマホをより多く売るのがベストですが、遊んでみるとそれがなかなか難しいことがわかるでしょう。


 以上がラウンドのざっくりとした流れで、これを5回繰り返したところで最も多くの利益を上げたプレイヤーが最終的な勝者となります。


◆タブロービルドに舵を切って、よりゲーマーズゲームに

 さて、「スマートフォン株式会社」と「モバイルマーケット」、両者の細かい違いを上げればキリがないのですが、その一番の大きな違いはやはり内容物の変化と密接に関わっています。つまりカードをメインに用いることで最近の流行の一つであるタブロービルド性の強いゲームに変貌しているということです。


 タブロービルドとはなんぞや? 「タブロー」は日本語で言えば「場」のことで、ザックリと言えばタブロービルドとは場にズラズラとカードを並べて、それぞれの各カードが自分の様々な要素をパワーアップさせるゲームのことです。こういったゲーム、お好きな方は多いのではないでしょうか。

 「スマートフォン株式会社」でもそういった自社の強化要素は用意されていたのですが、さほど組み合わせに広がりはなく6枚のタイルの裏表によって利用できる組み合わせが決まっていました。

 一方で「モバイルマーケット」では30枚の技術カード、30枚の販売施策カードの計60枚によってこれらが表現されるため、バリエーションは爆発的に増加しています。さらにこれらのカードは、カードという形質から他者との共有ができない…… 言い換えれば自社独占のアドバンテージになるため、それぞれの企業がそれぞれの独自戦略を行使できるゲームに変貌しました。



 そのため、どの技術カード、どの販売施策カードを狙うかの駆け引きは実に濃厚で、最初の価格設定から早くも激しい読み合いが始まります。「スマートフォン株式会社」の第1ラウンドなんかはまあのんびりしたもので、お互いの本拠地は離れているし、技術の獲得に出遅れても別に後乗りできるしで、「まあ、ゆるゆると肩を暖めて行こうや」と言ったノリだったのですが、「モバイルマーケット」では各カードを取得できるのは先着1名限りということもあって、最初から激アツなテンションでゲームが始まります。

 そして、技術カードは販売価格を安く設定したプレイヤーから、販売施策カードは販売価格を高く設定したプレイヤーから獲得するため、必ずしも安売りが正義ではありません。重視すべきは技術か宣伝か、自社の成長性を踏まえた選択が重要になります。


 強化要素の増大は自由度という観点から言えば大幅なパワーアップではあります。一方で、特殊能力をゲーム冒頭にだけ確認すればよかった「スマートフォン株式会社」に対して、「モバイルマーケット」は各ラウンドでユニークカードを確認する必要があるため、プレイの負荷は高まっているとも言えます。


 遊びやすさだけに焦点を絞るのであれば、軍配は「スマートフォン株式会社」に上がるとは思います。スッキリとしたプレイ感でドッシリとした満足感を得られるのは「スマートフォン株式会社」の大きな利点です。

 一方で、回数を重ねるとどうしても戦略が似通ってしまう、同じようなゲーム展開になりやすいと感じる方もいるのではないかとも思います。そういった方々に対して「モバイルマーケット」が用意するカード群はバリエーション豊かな戦略を提供します。完成度が高いのはどちらかを云々するのは実に難しいのですが、ゲートウェイゲームとしての「スマートフォン株式会社」、エキスパートゲームとしての「モバイルマーケット」という表現が両者の対比としては適切なのかなと感じています。

 ただ、そのエキスパートゲームという表現にしてもメチャクチャ複雑な処理を要求するよという意味合いではなく、比較対象はあくまで「スマートフォン株式会社」ですから、この手のゲーム(数寄ゲームズがよく出すゲーム)に慣れている人であれば標準的な複雑度ではあります。その辺の塩梅の取り方はデザイナーIwan Lashinの上手さですね。


 また、プレイ感の割と大きな変化として、タブロービルド感が強まって、手元のカードの構築要素の比重が高まったため、最終ラウンドのジャンケン感がうまく漂白されているようにも感じます。もちろん、最終ラウンドの結果が一番大きく勝敗に影響を与えるように意図的なインフレが設定されているんですけども、それ以上にそれまでのラウンドで積み重ねてきた技術や販売施策の蓄積が勝敗を左右する部分が大きく、結果への納得感が強いのではないかと思います。


 テーマ性からの視座で言えば、大きなボードならではの陣取り要素がオミットされて、単一の市場にフォーカスされたのも感覚としては大きな変化があります。要するに「スマートフォン株式会社」で地球を捉えていた衛星カメラがグーッと地表をズームアップしていって顧客の顔が見える距離まで近づいたのが「モバイルマーケット」という感じで、ゲームのスケール感で言えば小さくなってはいるんですけども、泥臭くも現実味のある単一商圏での争いはよりロールプレイの肥やしにしやすい舞台設定とも言えます。

 また、各ラウンド冒頭で公開され、ゲーム展開にちょっとした影響を及ぼすイベントカードも実装されました。これはKS版「スマートフォン株式会社」のストレッチゴールの要素を取り込んだものなんですけども、フレーバーとその影響がよくマッチしていて面白いですね。




◆スマホ&モバマ比較レビューコンテスト、やります

 とまあ、それぞれの違いを軽く語り出したらなかなか終わらないのでちょっと困っているんですけども、「スマートフォン株式会社」と「モバイルマーケット」は同じようでいて結構な違いがある両作です。どちらかがどちらかの完全上位互換ということはなく、相補的な関係の二作と言えるので、ぜひ両作の違いを楽しんでみて貰えると楽しいのかなと思っています。


 また、個人的にこうしたゲームデザインの比較対照を趣味として楽しんではいるんですけども、もっと多くの方々にそういった楽しさを共有してもらいたいなと思いまして、今回の発売を記念して、「スマートフォン株式会社」と「モバイルマーケット」の両者の違いに関するレビューを募集するコンテストを実施したいと思います。これはテキストだけに限らず、動画レビューも受け付けたいなと。


 今回の紹介記事でもいくつかの相違点については述べさせて貰ったんですけども、いやいや、両作にはこれだけに留まらない様々な特徴の違いがあります。似通っているだけにその差が際立つところはあるので、レビュー記事を書くためのお題としてはやりやすいのではないかと思っています。


 以前発売した「厄介なゲストたち」でバリアントルールを募集するコンテストを開催したんですけども、ノリとしては同じような感じで、優れたレビューを応募して頂いた方には賞品を贈呈したいなと考えています。

 「厄介なゲストたち」のバリアントルールコンテストは審査がめちゃくちゃ大変なこともあって応募者の方々にご迷惑をおかけした部分もあるんですけども、こちらはそれほど審査の負担は大きくないとは思うので大丈夫なんじゃないかと思っています。詳しい要綱は改めて告知させて頂きますが、それまでに「スマートフォン株式会社」を復習して頂きまして、レビュー内容を練って頂けると嬉しいです。


 また、レビューコンテストの開催に合わせて両作のオトクなセット販売なんかも考えていますので、どうぞご検討頂ければと思います。


◆長らくお待たせした「モバイルマーケット」がいよいよ発売です

 さて、この「モバイルマーケット」は、出版社がロシアのCosmodrome Gamesということもあり、なかなか先行きが見えなかったタイトルではあります。戦争が継続中の間はCosmodrome Gamesもなかなか動きにくい状況ではあるでしょうね(今年のエッセンも出展できないでしょうし)。

 ついでに言えば、開発会社のOpen Borders Studioは旧名Comrades Development(和訳すると「同士開発」)という名前だったんですけども、この響きがあまりにもロシアっぽかったんで設立後わずか数年で改名したりもありました。戦争の影響はこんな形で現れたりもするワケです。


 そうした事情もあり、なかなか発売を発表できず、やきもきさせた方々も少なくないのではないかと思いますが、なんとか発売までの道筋が見えたこともあり、先日告知をさせて頂きました。大変多くの反響を頂きまして、ちょっとビックリしたくらいです。


 Cosmodrome Gamesは戦争を抜きにしても仕事が早いとは言えない出版社ではありまして、「スマートフォン株式会社」は日本語版の発売までに相当な時間がかかりましたし、こちらもなんだかんだで5年くらいは付き合いがあるので、その辺の性格も熟知してる感じではあります。


 なので、ようやく発売できそうな…… まあ、この記事を書いている最中はまだ手元に現物が届いてないんですけども、なんとか発売できそうで、いやー、良かったなーと思っています。


 また、「スマートフォン株式会社」と比べて対応人数が1−4人と狭まりはしましたが、これは単純なスペックダウンと言うよりは「スマートフォン株式会社」がフルスペックを発揮するのに多くのプレイヤーを必要としていた面もあるため、「モバイルマーケット」は意図して少人数寄りにフォーカスしたゲームと言えます。タブロービルド系のゲームはそもそもが内向きの少人数寄りのデザインになりがちではあります。

 ソロプレイ用のバリアントではAIプレイヤー「スティーブJr.」が対戦相手を務めてくれますが、これを2人プレイに持ち込んでもいいかもしれません(ルールブックではそうした推奨はありませんが)。


 元々「スマートフォン株式会社」は優れたタイトルではあったんですけども、それがよりお求めやすい価格で、かつ、より深化した内容のものをお届けできるということで、個人的にもとても期待しているタイトルです。

 ぜひ皆さん、大いに遊んで頂いて、さらに言えばゲームレビューコンテストにも応募して頂ければこれ以上の嬉しさはありません。

 どうぞ「モバイルマーケット」をよろしくお願いいたします!


モバイルマーケット

プレイ人数:1-4人
対象年齢:12歳以上
プレイ時間:60分

ゲームデザイン:Ivan Lashin
アートワーク:Viktor Miller Gausa
小売希望価格:5500円(税込)
posted by 円卓P at 11:30| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年03月17日

ゲーム紹介「エンバーカデロ」




 数寄ゲームズはアメリカ西海岸で廃船を土台に建物を建設する都市発展ゲーム「エンバーカデロ」を発売します。プレイ人数1-4人、対象年齢12歳以上、プレイ時間60-90分で、小売希望価格は税込8800円となります。

 また、拡張「沈まない船」も同時発売となります。こちらはプレイ人数を5人まで拡張し、新たな船カード、建物カード、イベントカードを含むミニ拡張となります。小売希望価格は税込2530円となります。

 数寄ゲームズ通販サイトでは3月20日より予約販売を始め、その後、全国のボードゲームショップさんでの販売も予定しております。




 「エンバーカデロ」は新人Adam Buckinghamと、唐辛子を栽培して注文を達成する戦略ゲーム「Scoville」の作者Ed Marriottの共作…… ということで、制作陣の顔ぶれからはそこまでガツンと響くタイトルとは言えません。誰やねん? という人も多いでしょうし、その辺はぼくも割と同じ印象です。

 つまり、この手のゲーマーズゲームで極めて信頼性の高い「作者買い」の通じにくいゲームではあるのですが、そんな無名のゲームの日本語版を敢えて出版する…… というところに数寄ゲームズとしての意気込みやら自信やらを感じて頂ければ幸いです。近い例で言えば「リフトフォース」もこのパターンでしたね。

 数寄ゲームズは後発の出版社ではありますので、新規出版については取引先からの売り込みを待つよりも、自分から積極的に問い合わせていく例のほうが多いです。このゲームは「惑星Xの探索」で知られるRenegade Game Studiosの作品なので、傍目からは「惑星Xの探索」で出版実績を作ってからの第2弾というように見えるかもしれませんが、実は「エンバーカデロ」を出版したいがためにRenegade Game Studiosに問い合わせを行い、その副産物として「惑星Xの探索」も出版したのが流れとしては正しかったりします。つまり、それほど出版を熱望していたタイトルではあったのです。


 じゃあ、なぜ出版の順番が前後したのかと言えば、「エンバーカデロ」はこれまで英語版以外のローカライズ例がなく、そのために海外のディストリビューターに提供するローカライズキットを用意するために余分な時間がかかってしまったという裏事情があったりします。しかもローカライズキットが届いてみたらKS版の古いバージョンで使い物にならず、作り直しが発生したりなんだりと…… いやまあ、色々ありました。

 それに比べると「惑星Xの探索」は各国で販売されているため、すでにローカライズキットが整備されていて、速やかにローカライズが進んだのです。同じ会社のタイトルであっても雲泥の差、月とスッポンなんですね。

 このように日本語版制作というものは、様々な事情によって時間がかかったりかからなかったりするものなのです。多分、皆様が思っている以上に様々な遅延のバリエーションがあります。


 ……とまあ、のっけから早速ゲーム内容とは全く関係のない周辺事情を語ってしまいましたが、なぜその辺りを触れたかと言えば、やっぱりこのゲームを扱う理由の一端を雰囲気としてでも感じて貰いたかったという点があります。

 数寄ゲームズが前評判の高い著名なゲームを扱うことは、まあ、ほぼないんですけども(後発の小規模出版社ですゆえ)、その中でも「エンバーカデロ」はゲーム好きしか知らないような「無名のゲーム」であることは間違いなく、では、なぜ、そのタイトルを敢えて出版するのかといった点を詳らかにするのはメッセージとして大事なんじゃないかなと思っているワケです。まあ、それはまた後で改めてたっぷりと。


◆廃船を土台に街を作るぞ! ……それって、ホントにあった話?

 さて、この「エンバーカデロ」の舞台は1850年のサンフランシスコ。時折しもゴールドラッシュの真っ最中、一攫千金を夢見る労働者が船に乗って大挙した。よおっ、べべん!

 こうして街には移民船として使われた遺棄船が溢れることとなりました。「エンバーカデロ」においてプレイヤーはこの街の実業家の一人となり、これらの遺棄船を土台にしてホテルや倉庫、学校や市庁舎など様々な建物を建設することになるのです。


 プレイヤーは手札として船カードと建物カードを持っています。船カードをプレイすることで土台となる船タイルを配置するとともに資源を入手し、建物カードを配置することで船タイルの上に建物を作っていきます。基本的には建物を建設することで様々な得点要素にアクセスできるようになっているので、資源を集めて建物と建てればええんやとゲームの構造は極めてオーソドックスです。



 さて、各建物にはそれぞれ建設するために必要なスペースを示す「建物のサイズ」が設定されていて、大きな建物ほど大きな土台が必要となります。そうした建物を建てるためには土台となる多くの船が必要になりますし、また建物の壁となる「構造物」も必要となります。

 このゲームの建物は言ってみれば「壁」と「屋根」から成り立っていまして、最終的な目的となる建物カードのプレイは「屋根をかけて建物を完成させること」を意味しています。



 一方で屋根をかける前には、まず「壁」が必要です。「壁」の建設には「構造物」を獲得する必要がありまして、この構造物は(主な手段として)手札を捨てることで獲得することができるのです。

 ……察しのいい方であればもうお気づきかもしれませんが、つまり手札を屋根としてプレイするか、捨て札として壁にするか、ここに1つジレンマがあるワケです。この辺は「サンファン」なんかの、カードをコストとして使うか建物として使うかの感覚に近いかもしれません。

 ただ、「エンバーカデロ」ではこの捨て札効果が一律同じではなく、カードそれぞれで異なるため、どのカードを捨ててどのカードを使うかの組み合わせがべらぼうに悩ましくなっています。カードを捨てて得られるのは構造物だけでなく、お金だったり、得点だったり…… なんか色々ある! 組み合わせが! 組み合わせが多い!


 手番にはカードを1枚プレイするか、カードを1枚捨てるか。言ってしまえばそれだけの簡単なゲームなんですけども、やりたいことを達成するためのルート探しが非常に悩ましいゲームでもあります。

 正直に言えば、初回プレイはこの情報量の多さに面食らいました。インストが終わってから始めてみるものの、一手目が踏み出せない。ぼくは重ゲーにはそれなりに慣れている方だと思うんですけども、そういうゲーム、たまにあります。

 で、こういうゲームって明確な正解に辿り着けるようにはなってるけども正解へのアクセスが難しいというタイプのゲームで、飲み込んでしまえば大好物なんですけども、飲み込むまでが大変ではありますね。2手目から早くも「もう1回最初からやらせてくれー!」って叫びたくなるゲームではあって、これをボードゲームあるあるとして共感できる方はこのゲームも肌に合うのではないかと思います。



 また、このゲームでは建設された建物がプラスチック駒の壁と厚紙タイルの屋根で立体的に表現されるのが見た目として面白いところで、ゲームの終了時には高層建築が林立するサンフランシスコ市街が完成します。

 基本的にこのゲームは同じ建物カードでも上層階に建設することで効率的に得点を稼ぐことができるようになっているので、建物は上に伸ばしていった方がオトクです。建物は最大で4階層まで建てられますが、最上階まで建て切るには長期的な建設プランが必要となります。

 また、1点注意として、各パーツは崩れにくいように工夫されてはいるんですけども、いかんせん軽くてちょっと触っただけでもズレるので、特に猫ちゃんなど飼われている方はお気をつけください。


 あと、船上に街を作るとか、そういうアクロバチックな建設って本当にあったの? とかツッコミたくはなりますよね。どうもサンフランシスコの街の下に廃船が埋まっているのは事実らしいんですけども、プカプカ浮いている船の上に建物を建てるというトンチキではなく、湾岸の埋め立ての際に船ごと埋め立てて基礎とした、というのが実際のところのようです。

 このゲームではあたかも現役の船がそのまま土台として使われているかのような表現をしていますが、それはゲーム上の誇張表現ではあるようです。水上都市サンフランシスコではなかったと。

 ちなみに勝海舟が咸臨丸でサンフランシスコに訪れるのはこのゲームの10年後の1860年になります。つまり日本で言えば江戸時代の末期にサンフランシスコでは建物をボコボコ建設してたってことですね。バブリー!


◆カードプレイだけじゃない悩ましさ。カード補充にも一捻り

 さて、このゲーム、手番にカードを1枚プレイするか、捨てるかを選ぶだけの簡単なゲーム…… 先程はそう言いましたが実はそれはウソです。

 カードの使い道と並んでもう1つの悩まし要素…… それが手札の補充です。このゲームは山札からランダムにカードを引くのではなく、公開された4枚の船カードと建物カードの合計8枚の中から欲しい1枚をお金を払って購入します。これはマストです。

 で、単純に8枚のカードの中からベストの1枚を選ぶのは相応に悩ましいよねという話に留まらず、それに加えてプレイヤーは購入したカードも含めて手札から1枚を選んで次ラウンドのために保管しなければなりません。これが! 実に! 悩ましい!

 各ラウンド、プレイヤーは手札5枚からスタートするんですけども、5手番をかけて次ラウンドの手札5枚を選出していくワケです。ちなみに手札を使い切ったところでラウンドは終了。つまり1ラウンドは5手番ということになりますね。



 プレイヤーは常にどのカードを手札に残すかの短期計画と次ラウンドでどのカードが必要になるかを見通す長期計画を求められます。次ラウンドで自分の手札を見て「この手札でどうしろと……」と呻いたとしても、それは前ラウンドの自分がプレゼントしてくれたものなのです。責めるのは己しかありません。


 基本的にこのゲームは強力な建築物はコストが嵩むようにできているため、プレイを後回しにしたいんですよね。また、先程も少し触れたとおり、同じカードでもより上層に建設することでより多くの得点を得られたりもします。

 そのためにカードの確保だけして「建設は次ラウンドの自分に期待しよう」というムーブを取りがちになります。で、こういうことが続くと「過去の自分は未来の自分を過大評価しすぎやねん……」となったりします。

 また、逆のパターンで、すぐに使いたいカードが2枚あるけども、どちらか1枚は次ラウンドに送らなければならない…… という局面もよくあって、このカードの保管はちょっとしたツイストなんですけども、めちゃくちゃ悩ましい仕組みなんですよね。いやらしい!


 ちなみに、カードをプレイするのではなく、カードを捨てることで、購入可能な公開カードのうち船カードか建物カードをリフレッシュできたりします。これは忘れがちな処理ではありますが、覚えておくとイザと言うときに役立ちます。


 ということで、手番の流れをまとめると下記の通りとなります。

1. 船カードのプレイ or 建物カードのプレイ or 手札1枚を捨てる
2. 船カードか建物カード1枚を購入。手札を捨てていればリフレッシュも可
3. 手札1枚を次ラウンドのために保管

 この3ステップで1手番が終わりです。先ほども少し触れましたが1ラウンドは5手番。そしてゲームは3ラウンドで終了、つまり全部で15手番のゲームということですね。

 この手の戦略ゲームの平均的な手数は20手番前後なので、そこからするとやや少ない手番数です。それだけに一手の密度が濃い、知恵熱必至のゲームと言えましょう。


◆陣取り合戦は近寄るか離れるか? ハリネズミのジレンマ!

 さて、このゲームでは全体ボード上に船タイルを配置して、自分の建設予定地を示していきます。大きな建物を建設するためには広い建設予定地が必要となるため、時にはスペースの奪い合いも起こります。


 この手の陣取りゲームではすでに配置しているタイルに隣接するように新しいタイルを配置してね〜、といった制約があるものが多いですが、このゲームではそうした制約が薄いせいもあり、唐突に仁義なき土地争奪戦(海だけど)が発生することがままあります。
 では、殴り合い要素の強いゲームなのか? と言われればそうでもなく、そうした空中戦が起きる可能性を孕みつつも、多くの場合は他者と共存する形に落ち着く局面が多いゲームではあります。

 というのは「他人の建物に隣接するように構造物を置くと、議会トラックを進められるよ」というボーナスがあるため、お隣様の存在が時にありがたい作りでもあるのです。「テラミスティカ」みたいですね(恩恵を施す側と受ける側は逆ですけども)。

 議会トラックは進めることで様々なボーナスを得ることができ、また様々な機会で得点にも絡んでくるので、それを無料で進められるのは絶対的にオトクなんですね。広々とした空間でのんびり建築に勤しむよりも、他人と競いながら建設する方がトータルでは点数が伸びるようにできています。

 そんな事情から、このゲームは他プレイヤーとの場所取り合戦は遠からず近からずの絶妙なポジション取りを要求されるゲームでもあります。相手に隣接しつつも今後拡張する逃げ場所を確保するような冷静なポジショニングが重要です。


 ちょいと上記のルールを補足すると、配置した構造物1個ごとに隣接のチェックは行われます。3個の構造物を配置した場合、議会トラックを最大3スペース進められる可能性があります。


 また、全体ボードには何本かの桟橋が初期配置されていて、この桟橋を巡るマジョリティ争いもゲームの重要なポイントです。



 1ラウンド目と3ラウンド目の終了時には、各桟橋について、桟橋に隣接している構造物の数でマジョリティ争いを行います。これが結構バカにならない得点源なので、桟橋には積極的に船タイルを隣接配置したい…… のですが、桟橋に隣接するように船タイルを配置するには入港料を支払う必要があるため、お財布との相談が必要になります。このゲーム、手番ごとにカードを購入する必要があるため出費の機会は多いのですが、それに反して定期収入は少ないため、お金周りがズンドコにシビアです。


◆粗さは見え隠れするも、最近の流行を捉えたモダンゲーム

 とまあ、そんな感じでこの「エンバーカデロ」、カードの使い道や取捨選択をメインに手元を育てる箱庭感をメインに据えつつ、桟橋や議会トラックと言ったマジョリティ争いや、全体ボード上でのポジション争いといったインタラクションを備えたゲームです。

 少し前のドイツゲームはプレイヤー同士の絡み合いが濃厚なインタラクションの強い「外向き」のゲーム、昨今のゲームは手元をカチャカチャするパズル要素の強い「内向き」のゲームが主流と言えますが、このゲームは「内向き:外向き」の割合で言えば「7:3」くらいで、内向きベースのちょうどいい塩梅のゲームと言えるのではないかと思います。

 ちょうどいい、という意味では、最近のゲームは端々まで丹精に整えられたキッチリとしたゲームも多いんですけども、このゲームは随所に荒々しさ、野趣も残していて、その辺りがカードメインのゲームの楽しさの根本をキチンと踏まえているなと感じさせてくれます。カードゲームの楽しさ、をもうちょっと噛み砕くと「そのカード強すぎだろ!」「このカード弱いんだけど!?」といったカード価値の評論という視点が一つあって、カードバランスが整いすぎたゲームはお上品すぎて塩気まで足りないと感じることもあるんですけども、このゲームはゲームバランスを逸脱しない範囲での強カード、弱カードというグラデーションがあるように感じます。負けたのは引き運のせい!


 また、ゲームの進行と共に発展していく立体的な街並みは目にも楽しいです。一方でバランスゲーム的な手先の器用さを要求される局面もあり、100%ポジティブな要素かと言えば、そこは手間とのトレードオフとの関係ではあります。

 ぼくは根がシステム派なので見た目一辺倒の要素の評価は辛いんですけども、とは言え、これを別のものに代替するのが難しいゲームデザインであることは確かですし、そのためにタイルやらプラ駒やら工夫している点を見ると意欲は感じられます。


 資源を集めて建物を建設するというゲームの構造自体はそこまで目新しい点はないのですが、カードの補充と保管でジレンマを増やしつつ、より計画的なゲーム運びを実現していて、遊び終わった後に納得感があるのはよいところです。運に翻弄される感じもありつつ、でも終わってみれば落ち着くところに落ち着いたなという感もあり、次はもっとうまくやれるんじゃないかと思わせてくれるので、運要素のまぶし方が適切なんだと思います。


 一方で、端々まで気の効いた、全てのルールが適切で美しいゲームかと言えば、実はそうとも言えない、脇の甘さも垣間見えるゲームではあります。野性味!

 例えば、「2ラウンド目以降は、その時点で最も得点の少ないプレイヤーがスタートプレイヤーになる」ルールがあるんですけども、マジョリティ争いをするゲームって基本的には後手が有利なんですね。デザイナーは「先手番はカードの購入で選択肢が広いため有利である」とBGGで述べているんですけども、これはちょっとプレイした実感とは違うかなーという印象もあります。

 また、議会トラックを進めることでプレイヤー共有の建造物となる「ランドマークカード」が公開されるんですけども、これも単純なめくりでガチャ運が相当に強いんです。自分が得しないばかりか他人の得になってしまう局面もあるため、やや乱暴に感じる人もいるかもしれません。


 なので、その辺が気になるようであれば、ハウスルールとして下記のような処理を行うのもアリかとは思います。ただ、「絶対にこうした方がいいよ!」というものではありませんので、適用の際には参加者の同意を得たほうがよいかと思います。単純にプレイヤーに判断を迫る機会を増やしてテンポを悪くするので、こうしたゲームに慣れている人向けの選択肢です。


●P16 「次ラウンドの準備」の最後の項目を読み替えます。

読み替え前:
・得点トラック上で最高尾にいるプレイヤーにスタートプレイヤーマーカーを渡します。〜〜〜

読み替え後:
・得点トラック上で最高尾にいるプレイヤーは、任意のプレイヤーにスタートプレイヤーマーカーを渡します。〜〜〜


●P11 「ランドマークカード」の最初の段落を読み替えます。
読み替え前:
議会トラック上のランドマークスペースに到達(または通過)するたびに、プレイヤーはランドマークカードの山の一番上のカードを表向きにし、船/建物市場の近くに置きます。〜〜〜

読み替え後:
議会トラック上のランドマークスペースに到達(または通過)するたびに、プレイヤーはランドマークカードの山の上からカードを2枚引き、1枚を表向きにして船/建物市場の近くに置き、もう1枚を裏向きのまま山の底に戻します。〜〜〜


 まあ、プレイヤーの皆様におかれましては色々と試してみて頂いて、様々な意見を交わして貰えると面白いのかなとも思っています。ゲームバランスについて諸々議論できるのもゲーマーズゲームならではの魅力、懐の深さだと個人的には思っています。


◆拡張「沈まない船」について



 同時発売する拡張「沈まない船」には3つの要素が含まれています。「新しい船カード/建物カード」「イベントカード」「5人プレイ対応」です。


 「沈まない船」の名の通り、この拡張では「不沈船」が登場します。建物の建設コストとして手持ちの船を沈める必要がある建物カードがいくつかあるのですが、「不沈船」はそうしたコストとして割り当てることができないデメリットがある反面、様々な特殊効果を持っています。



 また特殊能力を持った新しい建物カードも追加され、カードプールが潤沢になります。基本的にこの追加カードはパワーカードが多いので、カード選択の面では先手有利に傾くのではないかと思います(し、ゲームデザイナーの先手有利発言は拡張の存在前提の話かとも思います)。


 「イベントカード」を導入すると各ラウンドでちょっとしたランダムイベントが発生します。プレイ感を大きく変えるほどではなく、若干キツさが緩和する方向のラッキーイベントを追加するといった塩梅です。

 ちなみに拡張の各要素はモジュール式となっているため、実装の取捨選択が可能です。

 「5人プレイ対応」は、その名の通りに5人目のプレイヤー用の内容物が含まれています。マップは4人用と変わらないので桟橋の奪い合いがより激化することでしょう。


 マストバイな拡張かと聞かれれば、どうかなー、あった方が嬉しくはあるけどなー、くらいの拡張だとは思います。一度基本を試してみてからでも遅くはないのかなと。追加のカードは面白い効果のものが多いですけども、最初は振り回されちゃいそうな気がしますし、慣れたから目にした方がパワーカードは笑えて面白いのはあると思います。


◆面白さは太鼓判! あとは皆様のご支持が頂ければと!

 「エンバーカデロ」は数寄ゲームズとしては珍しい出版プロセスを踏んだタイトルと言えます。というのは、このゲーム、友人がゲーム会に持ち込んだものを遊ばせて貰ったのが最初の出会いなんですけども、その時点では出版意欲はゼロだったんですね。

 というのは、版元のRenegade Game Studiosは日本でも付き合い先が多いところなので、まあ、面白ければどこかが日本語版を出すだろうし、そうでなければそういうことだろう、と構えていたからです。なのでいっちょ試してやろう的な感覚ではなく、普通にゲームを遊ぶ感覚、完全にニュートラルな気持ちで遊んだんですね。

 でまあ、遊んでみたら、こりゃ面白いぞと。ゲームの構造は理に適っているし、オリジナリティもあって、スケール感もある。多少の粗はあるにしてもそれをねじ伏せる快感があるし、もう1回遊びたい気持ちも強くてインパクトも脳裏に残ると。こりゃどこかから日本語版が出るなーと思ったワケです。

 ただ、待ってみても、どうにもそうした雰囲気がなかったので、うーん、これは問い合わせてみてもいいのかなと思えてきました。そこでRenegade Game Studiosに問い合わせてみたところ版権は利用可能だったので契約に至るという運びになります。まあ、そこからが結構長かったんですけども。


 1プレイヤーの立場で遊んだタイトルを自分主導で出版できるのは本当に稀有な例でして(まあ、トリテでは例があるんですけども)、これはラッキーなのかもしれないし、いや、自分の感覚が単に世の中とズレているのかもしれない、と思うところもあります。

 ただまあ、これまで出版してきたタイトルの受け取られ方を見る分には、そこまで自分の感覚は狂ったものではないハズで、だとすると、このゲーム、めちゃくちゃ面白いのに埋もれているタイトルということになるぞ、と思ってはいるんですよね。

 なので、このゲームについては「遊んだ人に損はさせないぜ!」という結構な自信があります。とは言え、最初に述べたとおり、このゲームは「知る人ぞ知る」というヤツでして、「全ゲームファン待望のあの名作がついに発売!」というテンションではありません。残念ながら。少しでも知って貰おう、知られないままに終わってしまうのはあまりにもったいないぞ、と思っているのでこうして紹介記事を書いています。


 逆に言えば、このゲームの本当の面白さを広められるのは、実際に手に取って遊んでみたあなたかもしれません。あなたの感性と体験をもってして、このゲームの真価を広く世に問うこともできる。そういう機会を与えてくれるタイトルとも言えます。

 年初の話として「メッシーナ1347」が発売からまあまあな時間差があってから盛り上がったことがありまして、ぼくはこのムーブメントを興味深く感じていたんですよね。

 発売した直後も、発売から半年後も、ゲームの面白さ自体に変化があったワケではありません。でも、受け取られ方が大きく変わったワケです。不思議なもんですね。

 「メッシーナ1347」も発売前からぼくとしては自信のあったタイトルではありまして、「これは日本のゲームファンの肌感に合うぞ!」と思って送り出したものの、その価値が皆様に浸透するまでは思ったよりも時間がかかりました。だから発売直後は、「うーん、感覚がズレてたかな?」と不安に思ったこともあったんですけども、徐々に盛り上がってくれたことでなんとか自信が取り戻せた気持ちにもなったんですよね。


 結局のところ、ゲームの盛り上がりってユーザー主導と言いますか、本当の熱気は遊んだ人達の中から醸成されるものであって、究極的にはこっち側の都合でどうこうできるもんじゃないんですよ。ただまあ、本当に面白いゲームはちゃんと評価されるので。そこはぼくはゲーム好きの人たちを信頼しています。

 なので、信じて、送り出す。こっちにできることはそこまでですよと。「これは絶対に面白いよ!」と確信したゲームだけを送り出して、あとはジャッジを受け手に委ねる。それがまあ、一番健全なやり方なのかなと思っています。

 そういうワケでこの「エンバーカデロ」、尖った面白さは保証済みのタイトルです。そこは自信があります。
 あとはこの面白さをもっと多くの人と共有したいと皆様にも思って貰えれば嬉しいんですが、はてさて、どうなるでしょうか。ここは神のみぞ知るといった心境です。


 また、そんな抜群の面白タイトルをお届けするまで大変なお時間を頂いてしまったことは申し訳ない気持ちもあります。とは言え、ようやくお届けできそうだぞという安堵感が今は勝っています。

 まあ、先述の通りに粗もあるタイトルと言えばそうですが、そうした粗さも含めて愛嬌のあるタイトルだとは思いますし、多くの方にぜひ遊んで頂きたい一作です。どうか触ってみて貰って、一言でもいいので感想をつぶやいて貰えれば嬉しいです。


エンバーカデロ

プレイ人数:1-4人
対象年齢:12歳以上
プレイ時間:60-90分

ゲームデザイン:Adam Buckingham, Ed Marriott
アートワーク:Janos Orban
小売希望価格:8800円(税込)

拡張:沈まない船
プレイ人数:1-5人
小売希望価格:2530円(税込)
posted by 円卓P at 18:40| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月13日

ゲーム紹介「シュティッヒルン」



 数寄ゲームズはKlaus Paleschデザインのメイフォローのトリックテイキングゲーム「シュティッヒルン」を発売します。プレイ人数3-6人、対象年齢10歳以上、プレイ時間30分で、小売希望価格は税込1980円となります。

 1月14日より数寄ゲームズ通販サイトにて先行予約を行い、その後、全国のボードゲームショップさんへのご案内、流通を予定しております。


 さて、数寄ゲームズでは世界の名作トリックテイキングゲームを集中的に取り扱っていまして、この「シュティッヒルン」はその第7弾という位置づけになります。数寄ゲームズ名作トリテシリーズをおさらいしますと、

000:ボトルインプ
001:知略悪略
002:トランプ、トリックス、ゲーム!
003:地下迷宮と5つの部族
004:ブードゥープリンス
005:乗り間違い
006:パーラ
007:シュティッヒルン

 ……という並びになります。面白いゲームしかないですね! 今回「ボトルインプ」は小箱版として再販が決まり、晴れてナンバリングを付加することができました。

 さて、このシリーズで言えば、「シュティッヒルン」は「知略悪略」の作者Klaus Paleschの作品でもあり、両作は似通う部分も多々あります。しかしながら「知略悪略」が「言わば知る人ぞ知る名作ゲーム」だったのに対して「シュティッヒルン」は「発売から30年間遊ばれているベストセラーゲーム」という位置づけであり、両作の立場・認知度は大きく異なっていると言えましょう。

 名作トリテシリーズは世界的な絶版タイトルを扱うことが割と多いのですが、この「シュティッヒルン」に関しては英語版やドイツ語版は現在も流通していて、これらのタイトルの中では圧倒的に入手が容易なタイトルではあります(「ブードゥープリンス」も今やドイツでは絶版だったりします)。

 しかしながら、そんなクラシックタイトルであっても、これまで日本語版が出版されたことがなく、手軽に買い求められない現状はよろしくないなーとは常々思っていました。そこで「知略悪略」を出版した縁から作者Klaus Paleschに「シュティッヒルン」の日本語版出版を打診し、色々あって今に至るという形になります。

 実は着手したのは「乗り間違い」や「パーラ」よりも先だったんですけども、これも長々と時間がかかりましてようやく形にすることができました。そういったタイトルが重なったこともありまして、「乗り間違い」「パーラ」「シュティッヒルン」と出版が相次ぐ事態になっております。


◆愉快で美しい完璧なメイフォローのゲーム

 さて、この「シュティッヒルン」の最たる特徴。それはもう完璧なメイフォローのトリテであるという点に尽きるかと思います。

 トリテ界隈にはマストフォロー、メイフォローといった用語があります。これはカードプレイの縛りを意味する言葉で、マストフォローは「最初にプレイされたカードと同スートのカードをなるべく出さないといけないよ」という意味の言葉ですが、翻ってメイフォローとは「同スートのカードを出す場合もあるよ」くらいの意味の言葉です。

 作者のKlaus Paleschは「シュティッヒルン」の他にも「知略悪略」や「ハットトリック」と言ったメイフォローのゲームを作っているのですが、カードプレイに独自の縛りがあったりします。「知略悪略」では4色目のカードはプレイしてはいけない、といった感じですね。

 で、「シュティッヒルン」はこうした付帯条件みたいなものがまっっったくない完全なメイフォローのゲームなのです。ここにどんな価値があるかと言えば、まずルール説明がラクです! マストフォローのゲームに比べて圧倒的にラク!


 手番順にカード1枚を表向きにプレイします。全員がカードをプレイしたら勝敗を判定して、勝った人がカードを総取りします。それだけ! 終わり!


 フォローできる場合とできない場合でどーのこーのとか、切り札がある場合とない場合でどーのこーのとかが取ったカードの配分がどーのこーのとかまったくない。ルールブックもめちゃ簡単でシンプルです。

 日頃めんどくさいトリテばっかり出版してる身でこんなことを言ってしまうのは身も蓋もないんですけども、ルールは簡単なほうが絶対にいいんですよ! 遊ぶ側も説明する側にもメリットしかない!


 もちろん、ゲームを成立させるために必要最低限のルール量というものはあり、独自の面白さを創出するためにルールを書き足していく必要性はあります。それは確かです。トリテで言えば「パーラ」なんかは、まさにそういうゲームですし、基本的にぼくはインストに30分以上かかるような重量級ゲーム大好き人間なのです。

 が、この「シュティッヒルン」は削りに削ったゲームであって、必要最低限のルール量で最高効率の面白さを発揮しているゲームなのです。そりゃ30年間遊ばれるゲームだわなという貫禄を備えています。


 遊ぶ上で必要なルールとしてはあとは3つくらいですかね。

・ディールの初めに全員同時にカード1枚を選んで失点色を決める。その色のカードを獲得したらランクに等しい失点、それ以外の色のカードを獲得したら1枚1点。
・各トリックでは、最初にプレイされたカード色が最弱となり、それ以外のカード色があれば、その中でランクの一番高いカードが最強(同値は先出し勝ち)。トリックに勝った人が次のリードプレイヤーになる。
・0のカードだけは特殊なカードで、これは必ず負け。全員が0を出したらそのトリックはお流れ。


 ……こんなもんじゃないかなマジで。で、これでゲームが成り立っているのかと言えば、驚くことに成り立ってるんですよこれが。

 このゲーム、得点は獲得したカード1枚1点なのでチマチマとしか入らないんですけども、失点はランクに等しい分だけドカッと食らうんで、いかに大きな失点を避けつつこまかく得点していくか、実にテクニカルなゲームなんですよね。相手のアッパーを避けつつボディボディボディ! みたいな。

 で、それだと地味渋いゲームなのかなと思うんですけども、手札の綾で避けられなかったアッパーで一発KOみたいな見せ場もあって、チマチマチマチマ……ドッカーン! みたいな静と動のメリハリがすごく強いゲームなんですよね。

 全員が不慣れだとドッカーンドッカーンドッカーンみたいな展開もあるにはあります。ゲームに慣れるにつれて致命傷を避けるためのテクニックを覚えていくので地味寄りに推移していきますが、攻撃をただ避け続けるだけでは得点を得られないのでどこで勇気を出して得点にチャレンジしていくかが試されるゲームになっていきます。逃げれば1つ、進めば2つ。


 ぼくはこのゲームを「勇気が必要なゲーム」と呼んでいます。砲撃の雨の中、塹壕に引きこもりつつ、勝つために撃って出る。そのタイミングを見極めるゲームとも言えます。このリターンを得るためにリスクを取るという構造こそがまさにゲームだなと思わされるんですよね。

 もちろん、運悪くボッコボコにされることもあるゲームなので、人によっては心に大きなキズを負う可能性もあるゲームとは言えます。ですが、このゲームは「痛くなければ覚えませぬ」というゲームでもありまして、その痛みは必ず次のゲームで役立つのです。

 なので、このゲームはできれば最低2ディール、可能なら3ディールでも4ディールでもいいので、複数ディール繰り返して遊んでほしいんです。最初は脇が甘くてうっかりで地雷を踏み抜いていた新米兵士がいつの間にか酸いも甘いも噛み分けたシュティッヒルンソルジャーに成長していくのは傍で見ててもめちゃ面白いんですよ。


 蛇足ながら、ぼくは長野にいた頃に「シュティッヒルン」だけを何時間も延々と遊び続けたことがありまして、それが今回の日本語版出版の動機の一つになってもいるんですけども、いつまでもダラダラと遊べてしまうポテンシャルを持ったゲームと言えます。それも全てはプレイヤーへのルール量の負荷の小ささと、メイフォローならではの選択肢の広さ、局面の豊富さ、小技を差し込む余地のある懐の深さがなせる業なのかなと思っています。


 一方で30年前のゲーム(言わば「カタン」以前のゲームです)ともなると今のゲームのような気遣いや心配りはないというか、手札運の強弱が素直に勝敗に直結するゲームではあります。手札で勝負の良し悪しが見えるというか運7割、技術3割なゲームです。

 なので、「初めて遊んだら悪い手札で何もできずボロ負け」というトラウマ製造機的な側面もあったりするんですけども、そこは「君が悪いんじゃなくて手札が悪いだけだから!」とちょこっとフォローしてあげてほしいなと思っています。それだけ尖っているというか、ソリッドなゲームではあります。

 ただ、何ディールも繰り返し遊んでみると上手い人はやっぱり上手いことがわかったりもして、技術の介入する余地のあるゲームなのは確かなんですね。このゲーム、基本的にプラス点になることはないゲームだと思っている方もいるかもしれませんが、慣れてくるとコンスタントにプラス点が出せたりします。

 ゲームのちょっとしたコツを言えば、2番手のプレイヤーは物凄く危険です。では、2番手になるのを避けるにはどうしたらいいかというと、自分の右隣のプレイヤーにとっての失点色をプレイすれば2番手になる可能性を抑えられるワケです。なんでもカードを出せるメイフォローならではの考え方ですね。

 基本的に最後手番だったり最後から2番目のプレイヤーが得点チャンスを持っているプレイヤーです。自分をその場所に持ってこれるように立ち回れると得点チャンスが俄然増えることでしょう。

 とまあ、そんな感じの細かいテクニックが色々とあるゲームです。手札運は確実にありますけども、手札運だけでは片付かないゲームなので色々と研究してみてほしいですね。


◆非トリテとトリテの世界を繋げるゲーム

 いつにもなくベタ褒めなんですけども、正直な話、「シュティッヒルン」は完璧なゲームだからです。完璧なので仕方ない。

 何が完璧かと言えば、トリテのトの字を知らなくても普通のカードゲームとして遊べてしまうゲームだからです。事実、ぼくは「シュティッヒルン」をBSW(うーん、懐かしい響き)で初めて遊んだですけども、その時のトリテの知識は0%でした。それでも問題なく遊べますし、地雷だけ避けてなんとかうまいこと得点だけしようという楽しさもわかるワケです。

 なので、「このゲームを数寄ゲームズのトリテシリーズに含めていいのか!?」という葛藤すら実はあるんですよね。別にトリテの枠に押し込む必要はないじゃん、もっと単純に「面白いカードゲームですよ」っていうだけで十分じゃんという。

 もちろん、このゲーム、ルールブックを読むとトリテの文脈から作られたゲームであることがわかりますし、トリテ知識があれば「逆切り札」みたいな表現をすることでゲームの構造が理解しやすくなるので、やはりトリテの文法を踏まえたゲームではあるんです。

 なので、個人的には「シュティッヒルン」はトリテと非トリテの世界を繋げてくれるタイトルなのではないかなと思っています。そして、今まさに必要なのはそうしたタイトルなのです。


 というのは、自分の接客経験からすると「何か面白いカードゲームが欲しいんだけど……」というお客さんにトリテを薦めるのは結構躊躇われるんですよね。でも「シュティッヒルン」であれば、全く臆することなく推していけます。必要な前提知識が全くないのはそれだけ強いです。で、そこから「シュティッヒルンが面白かったので似たようなゲームを探しています」という人が出てくれば、そこからトリテの世界に繋げていくこともできるワケです。

 そういう価値を有したゲームなので、このゲームの出版はとても重要なポイントだと考えています。トリテの世界を知った人が探す定番トリテはいくつかありますが、さらにその前段階、トリテに繋がる定番カードゲームって中々なかったんじゃないかなと思うんです。

 なので、これから「シュティッヒルン」を発売できることにすごくワクワクしています。まだ触ったことがない方はぜひ遊んでみて頂きたいです。


 10年くらいボドゲを遊んでいる人であれば、「シュティッヒルン」はどこかで一度は触ったことがあるくらいの定番タイトルではあるんですけども、最近ボドゲを遊び始めた人にとっては意外と縁遠いタイトルでもあるとは思います。まあ、出版されるタイトル数がめちゃ増えてる昨今、海外のみで流通しているタイトルを積極的に探しに行かなくてもよくなりましたしね。

 でも、遊んだ経験のある人でも、改めて遊んでみると「あれ、これどうするんだっけ?」ってなるタイトルでもあります。やはり普通のトリテとは構造がまったく異なるゲームなので考えどころが全然違うんですよね。

 昔遊んだトリテを久しぶりに遊んでみると「あれ、これってこんなに面白かったっけ?」って言う人、周りで結構多いんですよね。どうも、トリテを遊んでいるとトリテ力って自然と上がっていくみたいなんです。「シュティッヒルン」はクラシカルなタイトルではありますが、改めて遊んでみることで新しい楽しさに気づくことがあるかもしれません。長らく遊んでいないなーという方も久しぶりに手にとってもらえると嬉しいです。


◆日本語版独自のバリアントルール&数寄ゲームズ通販特典

 さて、今回の「シュティッヒルン」日本語版はNSVから発売されているドイツ語版をベースにしています。「シュティッヒルン」はいくつかのバージョンがあるんですけども、箱と説明書を日本語化した点を除いてNSV版と同一と考えていただければと思います(印刷工場も同じ)。なので、すでにNSV版をお持ちの方が買い替えるほどのことはないかなーと思っています。

 ただ、日本語版では作者から提案されたバリアントルール1つを独自に加えています。アミーゴ版「シュティッヒルン」では5つのバリアントルールが掲載されていましたが、今回の日本語版バリアントルールはそれらとは異なるものです。非常に手応えのあるルールなので、ぜひ試してみてください。

 また、数寄ゲームズ通販サイトでの直販分に限り、アミーゴ版で掲載されたバリアントルール5種を含む6種のバリアントルールが掲載されたバリアントルールカードをお付けいたします。色々な楽しみ方ができてプレイバリューがグッと高まりますので、ぜひ数寄ゲームズ通販サイトもご利用いただければと思います。


 あと、話は逸れますが「シュティッヒルン」と言えば「ハットトリック」。アミーゴ版では「シュティッヒルン」を使って同作者の「ハットトリック」も遊ぶことができるよという作りだったので、「アミーゴ版ベースの2in1スタイルで制作できないか?」と作者には問い合わせたのですが、現在の「シュティッヒルン」の版権はNSVが持っているため断念せざるを得ず、NSVベースの仕様で制作しています。はい、昔からの人が言い出しそうなことは当然問い合わせてるんですよ!

 そうした事情もあり、箱のサイズも数寄ゲームズのトリテシリーズとはやや異なるNSVサイズとなります。ここは個人的には口惜しい気持ちもあるにはあるんですけども、前述の通りに日本で出版することに大きな価値のあるタイトルなので、ここは実利を優先しました。


 NSVサイズはちょっと縦長。

 ……数年後にNSVが「シュティッヒルン」の版権を手放したらワンチャンあるかもしれないですけども、まあ、NSV的には定番タイトルなのでそうしたタイミングはなさそうかなー。逆に「ザ・ゲーム」くらい売れてくれれば日本独自のバージョンみたいなのも作れる可能性も出てくるかもしれません。……が、まあ、それだったらNSVが版権を手放す可能性のほうが期待できますね!

 いずれにしても、多くの方に手にとって貰えると、それだけ色々な可能性が生まれてきますので、どうぞご購入をご検討いただければと思います。よろしくお願いいします!


シュティッヒルン

プレイ人数:3-6人
対象年齢:10歳以上
プレイ時間:30分

ゲームデザイン:Klaus Palesch
アートワーク:Oliver Freudenreich
小売希望価格:1980円(税込)
posted by 円卓P at 11:46| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月13日

ゲーム紹介「惑星Xの探索」



 数寄ゲームズは太陽系9番目の惑星を探索する論理推理ゲーム「惑星Xの探索」を発売します。プレイ人数1-4人、対象年齢13歳以上、プレイ時間60分で、小売希望価格は税込6380円となります。


 数寄ゲームズ通販サイトでは12月5日より販売開始、12月21日より全国のボードゲームショップさんでの販売を予定しております。

数寄ゲームズ通販サイト「惑星Xの探索」


 「惑星Xの探索」は、「ふたつの街の物語」の作者としても知られるMatthew O'MalleyとBen Rossetが共作したタイトルで、論理推理ゲームの最先端に位置する作品です。その一番の特徴は積極的な専用アプリの活用で、準備や片付けを含めて遊びやすさを極めたところが特徴的な作品と言えます。




◆惑星Xを当てるだけじゃダメ? 宇宙の全てを解き明かせ!

 このゲームはタイトル通り、太陽系9番目の惑星「X」を発見することを目指すゲームです。皆様が理科の時間で習ったように、太陽系には水金地火木土天海冥……このうち冥王星は今では惑星とはみなされなくなってしまったのでこれを省いて8つの惑星があるワケですけども、それぞれの天体の軌道を計測すると「計算上では太陽系にはさらにもう1個惑星があるはずなんだ!」という仮説が成り立つそうです。これを「プラネットナイン仮説」と呼びます。

 このゲームではプラネットナイン仮説によって存在するはずの惑星、Xを発見することが目的となります。ちなみにXは変数のXの意味ではなくローマ数字のX、つまり10番目を意味する単語なんですけど、「プラネットナイン仮説なのに10番目?」という話はちょっと説明が面倒臭くなるので詳しくはウィキペディアをご参照ください。

プラネットナイン仮説

 さて、惑星Xが存在する宇宙空間はボード上に12の区画として表現されています(初級モードの場合)。そして、プレイヤーは惑星Xの位置を当てるだけでなく、その両隣の区画にある天体も正しく推測しなければなりません。
 天体は惑星Xの他に、小惑星、彗星、準惑星、ガス雲の4種があり、それぞれが独自のルールに基づいて各区画に配置されています。プレイヤーはこれらの天体を様々なアクションを利用して探していくのです。




 プレイヤーが手番で選べるアクションは4つ。そのうち1つは惑星Xの位置を特定した上で宣言するフィニッシュアクションなので、ゲーム中でもっぱら利用するアクションは「天体の調査」「1区画の精密探査」「課題の研究」の3つとなります。これらのアクションはどれも質問事項をアプリに入力するとアプリが答えを返してくれるもので、ゲーム中の光景は「アプリさまアプリさま、どうぞ答えを教えてください」という感じになります。神託を求める巫女かしら?




 プレイヤーはこうして得られた情報を専用シートに逐次書き込むことで情報の整理を行い、様々な惑星の位置を特定していくことになります。各天体は「小」「彗」「準」「ガ」など省略して書き込む形になるんですけども、面倒でも丁寧に漢字で書いたほうが後で見返す時にラクです(体験談)。自分の汚い字を呪いたくなりますね……




 また、ゲーム中、特定のタイミングで訪れる「学説フェイズ」では、これまで得た情報を元にプレイヤーはそれぞれ「この区画にはこの惑星があるんですよ」という学説を発表します。学説を提出するか否かはプレイヤーの気持ち次第、任意ではありますが、正しい学説を発表できると得点になります。……ん、得点!?

 そう、このゲームは惑星Xを一番最初に当てた人が勝ち……という構造のゲームではなく、惑星Xの発見も含めて一番多い得点を獲得したプレイヤーが勝利するゲームなのです。学説で得られる得点が6-7割、惑星X発見の得点が3-4割くらいかな。

 そのため、プレイヤーはこまめに学説を発表していく必要があるのですが、この……発表までの締め切りが結構タイトでして…… ゲーム中課題提出の締め切りに追われ続ける学生のような気持ちでプレイする気分になったりならなかったりもします。ああっ、学説発表したばかりなのにもう次の〆切がっ!


◆学説発表。スムーズな情報公開と悩ましいインタラクション

 さて、このゲームのキモがこの学説発表です。このゲームはソロプレイに対応していることからもお分かり頂けるように、本質的にはインタラクションを必要としない構造のゲームではあるんですけども、この学説発表を巡る選択が他の論理パズルゲームとは一味違うこのゲームならではの駆け引きを生み出しています。

 というのは、学説は「区画10には小惑星があります」といった内容を発表するもので、正解によって得点を得られるものの、プレイヤー全員に貴重な情報が周知されてしまう側面もあるのです。誰も知らない、自分だけが知っている惑星の情報は伏せておくことで独自の立ち回りができますが、一方でゲームの目的としては得点を稼ぐことにあるのですから、情報を寝かせておくだけでは勝利に繋がりません。このジレンマ!


 どのタイミングでどの学説を発表するかは悩ましいところではありますが、基本的には学説による得点の比重が大きめなゲームなので、積極的な情報提供を推奨しているゲームデザインとも言えます。

 しかし、同時にゲーム最終盤の誰が一歩先に惑星Xを特定するかという首の上げ下げ勝負みたいなところでは、持っている情報のほんのわずかな差が明暗を分けるので、公開すべき情報と伏せるべき情報は深く吟味する必要があります。うーん、悩ましい。

 論理推理ゲームでありながらプレイヤー同士が積極的に情報の公開を行っていくスタイルは珍しい手法ではありまして、それも「惑星Xを見つけたら勝ち」というゲームデザインではなく、情報公開も得点として評価する仕組みから来ています。研究者同士が互いの研究成果を引用しあってより真実に迫っていく光景が自然と醸し出されるのは宇宙探査テーマとうまくマッチしています。


 また、ゲームを遊んでて驚くのが、この手のゲームにありがちな情報の停滞、デッドロックがほとんどないことなんですよね。新しい情報が欲しい、ここを埋める何かがないと一歩も進めない、というポイントで天啓のようにポンと新情報が提供されるんです。

 このゲームの情報公開の巧みさは素晴らしくて、デベロップがしっかりと行き届いた新世代の論理推理ゲームだなと驚嘆させられます。遊んでて実に気持ちいいというか、ストレスをギリギリ限界までかけたところでスッと開放してくれるので「そういうことか!」「わかったぞ!」って快感がハンパないんですよね。めちゃくちゃデザイナーの手のひらの上で弄ばれている感もなくはないんですけども、いやいや、これだけうまく踊らせてくれるのであれば文句はございませんよ。


◆専用アプリの積極的活用。これが新世代の論理推理ゲームや!

 また、このゲームでは専用アプリの導入により論理推理ゲームの弱点の多くを克服しています。




 自社製品なので俎上に上げやすいという意味で「厄介なゲストたち」との比較をしますと、まずセットアップが圧倒的にラクです。「厄介なゲストたち」を遊んだ人の多くが「あー、自動的にカードを抜き出してくれる機械とかないもんかなー」とか妄想すると思うんですけども、はい、このゲームのアプリはボタンポチッでセットアップが完了するゲームです。めっちゃ早い。

 当然お片付けも簡単なので、ゲームそのものに取り組める時間の割合が非常に大きいワケです。シャインマスカット並に可食部が多い!


 また、こうした論理推理ゲームの多くはプレイヤー相互の情報のやり取りを通して情報を整理していく構造となっています。ここには一つ問題がありまして、「誤った情報を誰かが発信してしまった場合ゲームが崩壊してしまう」という危うさを抱えてもいます。

 これは意図的であるか否かに関わらず、例えその人の思い込みや小さな勘違いであったとしても、大局的にはパズルが崩れてしまう可能性があるリスクを抱えているわけです。これはもう構造上の問題なので解決策としては「間違えないように注意する」しかないんですけども。


 で、「惑星Xの探索」は、論理推理ゲームの伝統的な構造をアプリの介入によって改善しています。「プレイヤーA ←→ プレイヤーB」が旧来の論理推理ゲームの構造であるとしたらこのゲームの構造は「プレイヤーA ←→ アプリ ←→ プレイヤーB」です。プレイヤー間にアプリを噛ませることでプレイヤー同士の直接的な情報交換を封じているのです。

 こうすることでたとえプレイヤーAがアプリから得た情報を誤解して受け取ったとしても、その誤情報がプレイヤーBまで届くことはありません。プレイヤーBがその情報を必要とするとき、尋ねる相手はプレイヤーAではなくアプリだからです。誤情報の延焼がない、極めて堅牢な構造の論理推理ゲームと言えます。


 こうしたアプリの活用によって「惑星Xの探索」は、遊びやすさとゲーム上の堅牢さの2つの長所を獲得しています。言わばゲームマスター、審判役をアプリに委ねたゲームとも言えます。

 こうしたアプリの本格的活用はTRPG的なゲームや、脱出ゲーム的なゲームではいくつか見られるものの、論理推理ゲームに取り入れた例としては珍しいのではないでしょうか。

 ただ、逆に言えば、アプリをゲームシステムに深く組み込んでいる都合上、アプリなしで遊ぶことができないゲームであるという弱点もあるにはあります。アプリをインストールした端末が1台あれば全員がその端末を交互に使ってプレイすることもできますが、理想を言えばプレイヤー全員が個別に端末を持ってアプリを使うのが一番遊びやすいです(ちなみに英語ベータ版であれば、PC上で操作することもできるにはできます https://beta.planetxapp.com/ )。

 とは言え、諸々の事情でそうした環境を作るのが難しい場合もあるかもしれません。そういう意味では他のゲームと比べて遊ぶためのハードルが一つ多いゲームなのは確かです。


◆悩ましくて快適全振り。論理推理ゲーム入門としても。

 「惑星Xの探索」は、論理推理ゲームというジャンルにおいて、アプリの積極的活用を通して独自の立ち位置を生み出している稀有なゲームと言えます。徹底的なプレイアビリティの追及がストレスのない快適なゲーム体験に繋がっているので、この手のゲームが苦手な人にも一度遊んでほしいタイトルと言えます。「そういうことか!」と目の前が開けるような快感は病みつきになりますよ。


 ただ、ゲーム自体は非常によく練られた作りである一方、ダウンタイムが長くなりがちなゲームという側面はあります。あとちょっと! あとちょっと考えたらいいアプローチが浮かびそうな気がする!

 そう思わせてくれるところが優れたゲームの証明ではあるんですけども、ヒントの出し方、脳のくすぐり方が絶妙すぎて、人によっては考え込んでしまうゲームではあるかもしれません。また前述の学説発表までの〆切がタイトなこともあって最適な一手は何かを考えこんでしまうゲームではあります。

 とは言え、基本的には全員が考え込むゲームなので、自分の手番外もあーだこーだ考え続けていて手隙な感覚はあまりないです。手番になって「あれ、何するつもりだったっけ?」とはなりがちなので、そこは事前にアクションの予定をメモしておくといいかもしれません。


 大変な人気で現在在庫切れとなっています「厄介なゲストたち」との比較で言えば、カード引きの運要素高めな「厄介なゲストたち」と比べて、こちらは運要素が極めて少ない競技的なゲームとも言えます。セットアップ後の運要素はおしなべて控えめで、「研究」や「惑星X学会」でどんなヒントが出てくるかで運試しの側面があるものの、多くの調査に関してはプレイヤーのアプローチや閃きが重要なファクターとなります。

 プレイ感としては相当異なる両タイトルになりますので、片方が片方の上位互換、ということにはならないかと思います。テーマも含めていい意味で差別化ができているんではないかなと。皆様にはぜひ両者を遊び比べて貰って、どちらがより好みか評価してもらいたいです。


 とまあ、全編に渡る悩ましさも含めてゲームで脳のエンジンを回し続けることが好きな人にお勧めのゲームです。ソロプレイや2人プレイでも多人数プレイと遜色なく楽しめるタイトルなので、多くの方に気に入って貰えるタイトルだと確信しておりますよ。

惑星Xの探索(数寄ゲームズ通販サイト「惑星Xの探索」)

プレイ人数:1-4人
対象年齢:13歳以上
プレイ時間:60分

ゲームデザイン:Matthew O'Malley,Ben Rosset
アートワーク:James Masino, Michael Pedro
小売希望価格:6380円(税込)
ラベル:惑星Xの探索
posted by 円卓P at 11:30| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年10月27日

ゲーム紹介「リフトフォース」



 数寄ゲームズは10種のギルドから4種を選んで対戦する2人用ゲーム「リフトフォース」を販売します。プレイ人数2人、対象年齢10歳以上、プレイ時間30分で、小売希望価格は税込3300円となります。


 10月29日、30日のゲームマーケット2022秋にて先行販売を行います。こちらはイベント価格3000円でご提供させていただきます。
 その後、数寄ゲームズ通販サイトでの販売、全国のボードゲームショップさんへのご案内、流通を予定しております。



 「リフトフォース」はオーストリアの1 More Time Gamesという新興出版社が出版したゲームで、ひねりのある神経衰弱ゲームとして人気を博した「メモアァール!」(ゲムマで3団体が英語版・日本語版を販売するカオスを生み出したことで一部で有名)の作者でもあるイタリア人デザイナーCarlo Bortoliniの2作目となります。新興出版社かつキャリアの浅いデザイナーの作品ということで、発売前はさほど注目を集めてはいなかったのですが、じわじわと評価を高めた結果、なんと2021年のドイツ年間ゲーム大賞エキスパート部門推薦リスト入りを果たしています。

 ちなみにこの時の推薦リスト入りタイトルは他に「バラージ」「グルームヘイヴン:獅子のあぎと」「イーオンズエンド」と高評価のゲーマーズゲームが勢揃い。これらの中で「リフトフォース」は2人用かつ軽量級ということで浮いた存在にも見えるんですけども、それだけこのゲームには確かな地力があるのだとも言えます。

 ゲームの見た目としてはTCGでよくある2人用の殴り合いゲームなんですけども、アメリカンな特殊効果でハデハデな攻防を楽しむゲームではなく、計画的な選択と適度な運要素を織り込んだ典型的なユーロスタイルのゲームです。ボクシングというよりは柔術というか。野球というよりはサッカーというか。出会い頭の一発ではなく試合運びの巧みさが勝敗を分けるテクニカルなゲームです。


◆10種のギルドから4種を選択。最強のチームを作り上げる!

 ゲームの初めにプレイヤーがまず行うのは、今回使用するギルドの選択です。このゲームには火、水、風、土など10種のエレメンタルを使役するサマナーのギルドがありまして、プレイヤーはそれらから4種のギルドをドラフトして選択し、それぞれのチーム同士で対決するのです。



 各エレメンタルはそれぞれ異なる能力を持っています。
 例えば火のエレメンタルは相手に与えるダメージが大きいですが、バックファイアとして味方を傷つけてしまうおそれがあります。風のエレメンタルであれば、戦場を自由に移動してダメージをばら撒くことができます。

 


 こうしたエレメンタルの特徴や能力をうまく組み合わせて自分なりの戦略を模索できるところがこのゲームの醍醐味です。各能力はシンプルなテキストでまとめられているもののよく考えられていて、組み合わせによって思いもよらない強力なエンジンとなることもあります。

 それぞれ自分のチームを組み上げたら対戦です。先に12リフトフォース(得点)を獲得したプレイヤーがゲームに勝利します。

 得点を得る手段は2つ。相手のエレメンタルにダメージを与えて倒すか、自分のエレメンタルだけがいる土地で決算を行うかです。



 手番では3つのアクション「手札のプレイ」「場札の起動」「手札の補充と土地の決算」のいずれかを行います。アクション1つを行ったら手番を相手に渡し、それを交互に繰り返していきます。

 「手札のプレイ」では最大3枚までの手札をプレイして場札にできますが、プレイするすべてのカードの色か数字が同じでなければなりません。できるならば1手番で多くのカードをプレイしたいところです。

 「場札の起動」ではコストとして手札を1枚捨てて、相手のエレメンタルに攻撃をしかけます。プレイヤーは最大3枚までの場札を起動することができるのですが、コストとして支払ったカードと同じ色か数字の場札しか起動できません。

 「手札の補充と土地の決算」では手札を7枚まで補充し、自分のエレメンタルだけがいる土地から得点を得ます。

 基本的な流れは「手札をプレイして場札を増やす」→「場札を使って相手を攻撃」→「手札が減ったら補充しつつ決算」とシンプルながら、それぞれのアクションは「まとめて実行できる」というところがポイントです。手札はまとめてプレイしたいし、場札はまとめて起動したいし、手札補充は一気に7枚ドローしたい…… それができればベストなんですけども、刻々と移り変わる戦況の中では理想的な動き方は難しく、プレイヤーは手札をどのように使うか、起動コストをどのように支払うかで終始頭を悩ませることになります。



 基本的にはこのように箱裏に書いてあるのがルールのほぼすべてとも言っていいほどのシンプルさで、用意された多種のギルドによって肉付けがなされている感じです。ルールは簡潔ながら発見や研究余地の多い、遊びごたえのあるゲームと言えるでしょう。


◆あらゆる場所から滲み出る小粋なデザインセンス

 このゲームは小品ではあるのですが、遊んでて思わずニヤリとしてしまうデザインの巧みさが垣間見えるのが魅力でもあります。

 例えば、エレメンタルのカード構成もその一つです。
 各ギルドは実際に戦闘を行う9枚のエレメンタルと、それぞれのエレメンタルの能力が記されたサマナー1枚からなります。エレメンタルはその両肩に数字が記されていて、これがエレメンタルの持つ体力(タフネス)となります。

 エレメンタルの体力は5,6,7と3種類あるのですが、カード構成は5が4枚、6が3枚、7が2枚と統一されています。これがどういうことかと言えば、5のエレメンタルはデッキ内に多くあるので攻撃に使いやすく、反面、体力は少ないので防御力はひ弱なのです。7のエレメンタルはその逆になります。
 シンプルなカード構成をエレメンタルの性格付けに結びつけているところなど気が利いていて、いやあ、職人技だなと感じ入ってしまいます。



 他にも、「手札の補充と土地の決算」のアクションは手札が7枚の時には行えない、というのもよく練られたルールだったりします。最初にルールブックを読んだ時には単純に「手札7枚の時に補充するのは損だからやめようねー」というだけの話かと思っていたのですが、実際に遊んでみると手札の補充はどうでもよくて土地の決算だけを続けてやりたい局面が出てくるんですね。

 しかしながらルール的には「手札のプレイ」なり「場札の起動」なりで手札を減らさないと再び「手札の補充と土地の決算」のアクションを行うことはできず、その一手番の間に相手が体勢を整えてしまうかもしれない……といった運びがあり、一度作った有利な状況でそのまま押し切ることが難しい作りになっているんですね。言い方を変えれば逆転の余地を持たせた作りと言いますか、攻守の状況が頻繁に入れ替わるテンポ感が心地よいゲームでもあります。


 ボードゲームの魅力の一つに「ルールの行間に隠された意図の発見」があると思います。ルールを読んだだけでは全くなんのこっちゃとなるゲームを実際に遊んでみて「ああ、そういうことだったのか!」と気付かされる経験こそが、ボードゲームを鑑賞する最大のご褒美であるとさえ思っています。

 古典的なドイツゲームはそうした行間に潜む相互干渉を活かしたゲームが多かったのですが、インタラクションが薄いゲームが主流となってきた昨今ではそうしたルール読みの楽しさを味わえるゲームが減ってきたように思います。「うん、ルールに書いてある通りの楽しさだね」というような。

 その中で「リフトフォース」は久々に「そういうことか!」と膝を叩いた小気味よいゲームだったんですよね。これは、2人用ゲームがマルチプレイゲームと違ってインタラクションを薄める必要が少ないことが理由の一つとしてはあるとは思うのですが、デザイナーの工夫と手腕を読み解くことに楽しさを覚える人、ゲームデザインの奥深さを探究したい人にとっては、望外のプレゼントになるタイトルだと思っています。


◆新定番となりうる優れた2人用ゲーム

 まあ、そういう研究者的な目線でなくても、このゲームには多くの魅力があります。ルールはシンプル、随所に気の利いた工夫があり、組み合わせにもバラエティがある、と長所に富んだこのゲーム、出版に至ったのは「今の時代に必要とされているゲーム」と感じたのが理由の一つとしてあります。

 実は今年の1月に、東京は上野のコロコロ堂さんでゲームカフェのスタッフとして働かせて貰ったことがありまして(コロナの影響などもあって短期間ではありますが)、そこでの経験がこのゲームの出版に密かに結びついていたりもします。


 ゲームカフェで実際にお客様と触れ合ってみて思ったことの一つは「良質な2人用ゲームっていくらでも欲しいな」ということです。コロコロ堂さんの「パッチワーク」なんかはめちゃくちゃ遊びこまれてタイルの印刷が剥げかけているのにビックリしたんですけども、実際にゲームを案内する立場になると「パッチワーク」のようなゲームってすごく紹介しやすいんですね。

 良質、という言葉をもう少し噛み砕くと、ルールはシンプル、テーマに普遍性があって、プレイ時間はほどほど、なおかつ研究余地があって繰り返し遊びたくなるゲーム、と言い換えることができるかもしれません。特にインストの負担とそれに伴うプレイ時間の比率のコストパフォーマンスがゲームカフェではとても重要だなと感じたんです。


 例えば、数寄ゲームズでは2人用ゲームとして「ウォーターゲート」を販売していますけども、これがゲームカフェ向きかと言えばちょっと難しいところがあるようにも思うんですよね。まず、絵面がいかめしい……(笑)

 ゲームとしては抜群に面白いですし、遊びこむ余地も膨大なんですけども、インスト負荷もまあまああって、ファーストチョイスとしては中々選びにくいタイトルなのではないかと客観的に見ています。


 それに比べると「リフトフォース」は、まさに理想的なゲームカフェ向きの2人用ゲームだと思うんですよね。それはもっと広く言えば、ご家庭内でゲームを遊ぶ人に楽しんで貰える2人用ゲームという意味でもあります。

 もちろん「リフトフォース」の一番の魅力は面白いゲームであることそのものなんですけども、面白いゲームには事欠かない昨今、その中で生き残るにはより現環境に適した長所が必要なのではないかと思っています。ゲームの戦国時代ですな。

 そんなワケで数寄ゲームズから提案する「ゲームカフェに一番ピッタリな2人用ゲームはこれだ!」というのが、「リフトフォース」でございます。海外ではすでに拡張が発売されていて、人気もますます加熱しております。

 ぼく個人としても拡張の新しいギルドやルールを遊んでみたいなーという気持ちが強いので、拡張の発売に繋がるような皆様のご支援、ご声援を頂ければありがたいです。そのためには広く遊んで貰うことが第一だと思いますので、ゲームカフェでもどちらでも、どうぞ一度試してみて頂きたいと思っています。


◆数寄ゲームズは2人用ゲームに注力します!

 数寄ゲームズと言えば、先日紹介記事を書きました「パーラ」のようなトリックテイキングゲームに力を入れている出版社というイメージをお持ちの方もいるかと思います。そういうイメージを持って頂けていたらありがたいなあとも思うのですが、今後は同様に2人用ゲームの発掘にも力を入れていきたいと思っています。「リフトフォース」はその1つ目のチャレンジという形にもなります。

 これは以前発売した「ウォーターゲート」が思った以上の好評を得たことも影響してまして、ぼくが思っている以上に2人用ゲームへの要望って大きいんだなと気付かされたことが一因としてあります。ボードゲームを遊ぶ人の母数が以前と比べて増えていることで、2人用ゲームをメインに遊ぶ層も形成されてきているのかしら……と。

 もちろん、2人用ゲームであればなんでもいいというワケではなく、確かな魅力を備えていて、しかしなかなか知られていない、そんなダイヤの原石のようなゲームを発掘して届けられればベストです。先程も少し触れましたが、様々なゲームが溢れる昨今、出版社により求められているのはゲームの面白さを見抜く力、相馬眼ならぬ相ゲーム眼なんじゃないかなと考えています。

 自分自身の相ゲーム眼をより磨いていくためにも、新しいチャレンジは必要でして、2人用ゲームの世界という新しいグラウンドは自分にとっても魅力的な分野です。マルチプレイでは実装が難しい2人用ゲームならではのエレガントなシステムやルールって本当に多いんですよね。「ヨーロッパディバイデッド」の得点システムとかよかったなあ。パオロ・モリの「ブリッツクリーグ!」や「カエサル!」もえがった……

 そういったアイディアの数々に触れられるのは、単純に1ゲーム好きとして楽しいし、嬉しいので、優れたメカニクスに触れる感動みたいなものを多くの人と共有していければいいなあと思っています。お前もシステム派にならないか?



リフトフォース

プレイ人数:2人
対象年齢:10歳以上
プレイ時間:30分

ゲームデザイン:Carlo Bortolini
アートワーク:Miguel Coimbra
小売希望価格:3300円(税込)
posted by 円卓P at 12:36| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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