2017年04月18日

解説! 「六次化農村」ってこんなゲーム

 考えてみたらなんも画像素材がない…… なんか貰えばよかったな。

「六次化農村」をゲームマーケットで発売致します。
http://www.b2fgames.com/article.php?story=20170414160157881

 さて、ゲームマーケット2017春にて拙作「六次化農村」がニューゲームズオーダーさんから発売されることになりました。
 このゲームは去年開催された第2回東京ドイツゲーム賞にて審査員特別賞を受賞したタイトルでして、かなりフリーク向けに寄せた2時間級のゲーマーズゲームということになります。
 このゲームについては上記のリンク先でNGOの吉田さんが色々と語っているんですが、ぼくも語りたいことが色々とあります。もうありすぎて困るんですが。ざっと書き出してみると以下の項目があります。

・六次化農村はどんなゲームなのか?
・六次化農村はどのようにデザインされたのか?
・六次化農村はどのように商品化が決まったのか?
・六次化農村はどのようにダメ出しされ、ディベロップされたのか?

 しかしながら、現状、周辺事情(項目としては最後)ばかりがオモシロがられていて、このゲームの魅力については全くアピールできていないような…… これはどうなんじゃろなという話でして。
 ニューゲームズオーダーさんの公式サイトでゲムマ春での取り置き予約も始まったことですし、「六次化農村はどんなゲームなのか?」という部分をざっくりと紹介したいと思います。

 さて、六次化農村。まずタイトルに冠された「六次化」という言葉は、殆どの方が耳慣れない単語だと思われます。
 ここでの「六次」とはいわゆる一次産業、二次産業、三次産業の乗算を意味していまして、生産(一次産業)、加工(二次産業)、販売(三次産業)の全てを一つの主体が行う、的な意味合いになります。旧来の農家は、農作物の生産だけを担当して、その加工や販売については協同組合に委託する役割分担を図ってきたのですが、これからの農家は加工や販売まで自前で賄うことで商品力を強めたり収益率を上げたりしよう、という動きです。……と、ぼくは理解していますが、詳しい人からはツッコミが入るかもしれません。
 ちなみにこの六次化という概念は一次二次三次の積なのがポイントで決して和ではないんですね。それはつまり全ての産業のシナジーを重視するという意味で、いずれかの産業が疎かになれば積もゼロになってしまうよ、ということなんです。

 ということでこの六次化農村は、その名が現すように農産物を生産・加工・販売してお金を稼ぐゲームです。もう少し踏み込むとそうやって得たお金を元手に新たな畑を購入することでドンドンと収入が膨らんでいく(みんな大好き)拡大再生産のゲームでもあります。ゲームに勝つためには「農産物の生産・加工・販売」と「畑の購入」をいかに効率的にぐるぐると回していけるかが課題となるでしょう。

 さらにこのゲームの要素をもう少し分解して、BGG的なメカニズム表記に落とし込むならば、

・Pick-up and Deliver
・Route/Network Building
・Voting

 のゲームという感じになるかと思います。ピックアンドデリバーやルート構築については「自分で作った農産物をピックしてルート内の直売所までデリバリーするゲームですよ」と言えばイメージは掴みやすいかと思います。
 プレイヤーは畑や牧場から3マス以内の任意の直売所に農産物を出荷できます。いち早く直売所まで農産物を出荷すれば高額で販売できる(かもしれない)ので手番順が重要です。
 ただし、一つの直売所に同種の農産物が出荷された場合、よりランクの低い農産物、より高価な農産物は売れ残ってしまいます。売れ残った農産物は廃棄されてしまい、一銭も得ることができませんので、生産の段階から他のプレイヤーとのバッティングを避ける作付計画を練らなければなりません。
 とは言え、基本的にこのゲームはバッティングが起こるようになってます。そこを何とかするのが「加工所」の存在。加工所に持ち込まれた農産物は加工品に生まれ変わって別物扱いとなるのでこれで晴れてバッティングを避けることができるワケです。

 では、プレイヤーはどうやって加工所を建設するのかと言いますと、ここで最後の要素、Voting、つまり投票要素の登場になります。
 このゲームには「議会」の要素があり、加工所を含めた様々な建物から「どの建物を建設するのか」「どのマスに建設するのか」をプレイヤーの投票によって採択します。
 バッティングしているプレイヤー間では加工所の建設自体は論を俟たないでしょう。しかし、加工所を「どこに建設するか」は意見が分かれるかもしれません。なにせ自分だけが使えて、相手が使えない場所に加工所を建設できればこのバッティングでは俄然優位に立てるからです。もちろん、お互いが使える場所に加工所を建設するという穏便な擦り合わせもありえますが、それには地理的条件など様々な前提が必要になることでしょう。
 また、「議会」では「建物の建設議案」と並行して「補助金制度の議案」の採択も行われます。「建物の建設議案」と「補助金制度の議案」で使用する投票コマは共用なので、投票コマをどちらで使うかの配分にプレイヤーは頭を悩ませることになるでしょうし、相手のそうした懐事情を見越して投票を優位に進めることもできるでしょう。
 さらに頭を悩ませるのは未使用で終わった投票コマの数に応じて、以降の手番順を決める権利が得られることです(※投票コマの持ち越しはできません)。先述の出荷の順番も含めてこのゲームは先手が有利な局面が数多くあり、ゲームが進むに従って手番順の重みはいや増して行くことでしょう。
 そんなこともあって「議会」での立ち回りは重要です。また、議案の採択に投票コマを使うと採択の結果に関わらず貢献度(※農地購入のコストとして使う)を得られるので議案の採択には積極的に関わった方がいいでしょう。

 さて、このように使い道が多岐に渡る投票コマ。でも使える投票コマは限られているし…… とお嘆きの皆様には朗報があります。

 なんと、このゲームでは手持ちのお金を減らすことで使える投票コマを増やせるのです。ふしぎ!

 ……農村における発言力とはすなわち財力なのかもしれませんね。あ、これはゲームの話です。
 ちなみに投票コマの相場(?)ですが、1つで1金、2つで3金、3つで6金…… とゲーマーにはお馴染みの三角数となっております。一時にドバッと集めると出費が激しいので、毎回コツコツ集めるのが経済的でしょう。なんかマキャベリの「褒美は小出しにせよ」という言葉に通じるものがありますね……



 とまあ、そんな感じでこのゲームの概要について簡単に触れてきましたが、ピックアンドデリバーに投票という要素の組み合わせがこのゲームのユニークな点と言えるかもしれません。そして、このゲームでぼくが表現したかったのはまさにそこなのです。
 多分、「農業ゲー」と聞いて多くの方が想像するのは「自然と共生するロハスでエコな生活」とか「自然の厳しさと対峙して収穫を得る喜び」みたいな、人間と自然とを対比した内容ではないかと思います。
 が、このゲームがスポットライトを当てるのは、プレイヤー同士の利害関係の調整だったり村に貢献しないと土地を買えない気風と言った農村における人間と人間の絡み合いなのです。六次化農村はそういう割とブラックな加減の農村風景を描こうとしている「農業ゲー」です。
 プレイヤーは意識高く六次化・自立化を目指すけれど、村社会では協調が大事で目立つ人は叩かれるし、補助金からは逃げられないんだよね、みたいな、ある種の農村への偏見が篭ったテーマチックなゲームとも言えます。

 また、こうしたゲーマーズゲームは各種リソースをいかに遺漏なく管理するかの内向きなリソースマネジメントの手腕を競うゲームが多いです。ぼく個人としてはそうしたゲームも大の好物です。
 しかし、このゲームに関しては(もちろんプレイヤーに最低限の計画性は求めますが)、自分と他人の都合をどのように擦り合わせるか、プレイヤーVSシステムではなく、プレイヤーVSプレイヤーのインタラクションを色濃くにじませた内容となっています。
 それはこのゲームが東京ドイツゲーム賞の応募作品だからです。「90年代ドイツゲームとはなんぞや?」という命題からコンセプトが立てられたゲームだからです。
 と言っても、この東京ドイツゲーム賞、実は90年代ドイツゲームそのままを提示したらアウトという罠が仕掛けられた賞なのではないかとぼくは思っていまして、90年代を踏まえた上でもっと古い時代、あるいは逆に時代の最先端の文脈をアクセントとして加味した今にしかないゲームこそ求められていたのではないかと思っています。
 なのでこのゲームでは、近年の洗練されたモダンユーロとは一風色合いの異なる、懐かしさを含んだ泥臭くも粘っこいマルチゲーム、大人のための経済ゲームを指向してみました。でも、本当にドロッドロなマルチゲーム(イントリーゲとか)はどうにも疲れるので、そこは今風の軽さに留めています。
 また、ぼく自身のゲーム経験について言えば、ぼくはドミニオン以降にボードゲームにハマったクチで90年代ドイツゲームをリアルタイムで経験してきた身ではありません。それだけに近年のゲームの様々な文法を織り込んでこのゲームは形作られています。
 つまりこのゲームは古くて新しいゲームなのではないかなあとぼくは思うのです。そういう意味で色々とユニークなゲームであるこの六次化農村。お手に取って頂ければそれに勝る嬉しさはありません。どうぞよろしくお願いします。


 なお、ゲームマーケット当日のご案内となりますが、六次化農村は「A-45 ニューゲームズオーダー」ブースのみの販売となります。「C31-32 蒼猫の巣出張所」ブースでの取り扱いはありませんので、「せっかくだから円卓さんから手渡しで買おうっと」と思っているJKの皆様にはとってもとっても申し訳ないのですが、どうぞニューゲームズオーダーブースにてお買い求めください。現在NGOサイトで当日分の取り置き予約も受け付けておりますのでこちらもご利用ください。
 ちなみに「ハツデン」はittenさんのブースで買えるのになんで六次化農村はダメなんよ、という話をちょっとしますと、このゲームのパッケージですが実はフードチェーンマグネイトと同サイズでして「あんな嵩張るもん狭い個人ブースに置けるか!」という話からそうなった次第です。どうぞご理解頂ければ幸いです。

「六次化農村」ゲームマーケット取り置き予約を受け付けます。
http://www.b2fgames.com/article.php?story=20170415192603248
ラベル:六次化農村
posted by 円卓P at 21:12| Comment(0) | 六次化農村 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月03日

「蒼猫の巣 出張所」ゲームマーケット2017神戸特設ページ

 2017年3月12日に開催されるゲームマーケット2017神戸に出展する「蒼猫の巣 出張所」のポータルページです。ゲムマ当日までトップページに固定しています。新着記事は↓をどうぞ。


 サークルカットではゲムマ秋で新発売の2作を紹介しています。ゲムマ春では「夏休み大作戦」「どっちの始末Show」の2作を出したので、関西初上陸のゲームが4作もあることに…… 去年はがんばったなあ。


 蒼猫の巣出張所はG-37/38ブースです。今回割りとメイン通路近くで嬉しい! お隣はいつも仲良くさせて貰っています「鍋野企画」さんです。

 新規出展とはちょっと違いますが、去年委託されたボードゲーム同人誌「cafe GLASSROAD」のVol2を今回も委託で持ち込みます。今回取り上げるゲームは「宝石の煌めき」。



 3人プレイでもサクサク楽しいのでゲーム会ではマルチな活躍をするゲームですね。


 最初は手を出せなかった高額カードがどんどん買えるようになるのがこのゲームの醍醐味。

 前作のVol1もありますのでご興味の沸いた方は一緒にご購入いただければと。価格はどちらも400円になります。またVol1のサンプルはこちらをご覧ください。 
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=54553060

 今回は各ゲームの取り置き予約を行いません。ゲームに関しては十分な量を持ち込む予定なのでお目当てのブースで買い物した後ゆっくりとお立ち寄りください。

おしながき
cafe GLASS ROAD ボードゲームマンガ Vol1.Vol2.ともに400円
そんな顔してどうしたの? 3-8人:20分:6才-:3000円
娘は誰にもやらん 2-6人:10分:10才-:1000円
夏休み大作戦 3-4人:45-60分:10才-:2500円
どっちの始末Show 3-5人:20分:10才-:1500円
犯人は踊るポーカー 3-4人:10分:10才-:500円
姫騎士逃ゲテ〜 4人専用:20分:10才-:1000円











posted by 円卓P at 20:00| Comment(0) | 告知 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年12月22日

タイブレークの話

 この記事は、Board Game Design Advent Calendar 2016 の第22日目の記事として書いたものです。

 どうも、数寄ゲームズの円卓Pです。なんかボードゲームの動画とかポッドキャストとか色々やってます。ゲーム作りは一昨年のゲームマーケット秋に初出展しましてこれから3年目になります。
 去年に続き、Board Game Design Advent Calendarについて記事を書かせて頂きます。去年の記事は「マジョリティについての話」というドイツゲームによくあるメカニクスの一つの特徴を挙げた内容です。

 で、今年はタイブレークについて書きます。タイブレークというのは言葉通りにタイをブレークすること、引き分け状態を勝ちか負けかに収斂させる方法を指す……のではないかなと思います。とりあえず今回の記事中ではそんな感じの意味合いとして扱います。
 で、このタイブレークという概念はどんなゲームにも大体出てきます。勝利点制のゲームを作るなら、ゲームの終了時に勝利点トップタイのプレイヤーがいた場合、どちらを最終的な勝者とするのか、あるいは「全員が勝利を分かち合う」のか、デザイナーはルールにそれを書き記す必要があるでしょう。
 勝ち負けを分けるのは副次的なリソースだったり手番順だったり…… つまりタイブレークのルールには「結局このゲームにおいては何が大切なのか」が込められています。タイブレークのルール設計によってゲームの方向性をより良く伝えることができるのではないかという話を今回はしてみたいと思います。

 さて、年の瀬になって振り返ってみれば今年もそれなりに多くのゲームに触れてきましたが、今年最も鮮明に覚えているタイブレークのルール…… それはレスリングです。

 いやあ、オリンピックの緊張感は凄かったですね。吉田沙保里選手、残念でした。普段はオリンピック全然見ないマンなんですが、吉田沙保里選手の試合だけは見逃すまいと思って、あの日は夜更かししたのでした。

 いきなりボードゲームから離れた話題でズッコケてる方もいるかもしれませんが、さて、レスリングはポイント制の2人用ゲームです。ゲーム終了時に獲得ポイントの高いプレイヤーが勝利します。そしてフォール勝ちやテクニカルフォールと言ったサドンデスルールもあります。ポイントとサドンデスを併用しているのは、ボードゲームで言えば世界の七不思議:デュエルみたいな感じですね。
 でまあ、サドンデスで決着した試合はおいといて、取り上げたいのは時間切れ同点で終わった場合です。この場合、レスリングのタイブレークルールは以下のように規定されています。

http://www.japan-wrestling.jp/wrestling_rule/

■同点で終わった場合は下記の基準で勝敗を決める。
(1) ビッグポイントの多い選手
(2) 警告が少ない選手 
(3) ラストポイントを取った選手 ⇒ 両者とも2点と判定された展開が最後だった場合は、その技を仕掛けた選手が勝利


 この3つのルールにはそれぞれデザイナーの「レスリングとはこういうゲームであって欲しい」という意思が垣間見えます。が、とりあえず(1)と(2)の説明は割愛します。このルールは真の意味でのタイブレークとしては機能していないからです。
 真の意味でのタイブレーク…… カッコイイ表現だ…… まあ、別にちょっと気取ったことを言いたいワケではなくて、(1)と(2)のルールは両者ともに同値である可能性があって、このルールだけで勝ちと負けを完全に切り分けることはできないんですよね。
 仮に(1)(2)のルールがなくても(3)があれば勝者か決まります。逆に(3)がなかったら(1)(2)のルールだけでは勝者を決められない場合があります。そういう意味でタイブレークとして完全に機能していると言えるのは(3)のルールだけなんです。

 「……ん、だけど両者0ポイントの場合、(3)のルールでも勝敗を切り分けることはできないぞ?」と思った方、なかなかルールを読むことに慣れている方ですね。ぼくも今気づきました。

 で、慌てて今調べてみたところ、レスリングでは試合開始から規定時間が経過した時点で両者0ポイントだった場合、どちらかのレスラーが必ず消極的な試合をしているハズなので審判団は無理矢理にでもどちらかに警告を発して両者0ポイントの状態を崩す、ということらしいです。凄い力技だな!
 この辺、めちゃくちゃ噛み砕いた説明ですので、詳しい人はどうか暖かく見てやってください。

 ともあれ、このルールを加えたことで(3)のルールはようやく完全にタイブレークとして機能することになりました。いやあ、よかったよかった。

 さて、ここで改めて(3)のルールの意図について考えてみましょう。(1)のルールはハイリスクな大技を決めたプレイヤーを評価する意図、(2)のルールはフェアプレイに徹したプレイヤーを評価する意図が窺えます。さて、それでは(3)のルールにはどのような意図があるのでしょうか。

 答えを言えば、(3)には積極的なプレイヤーを評価するという意図があります。先に得点を取ったプレイヤーはリードを守れば時間切れでも勝てるのですから自ずと及び腰になります。しかし、防御に徹したプレイヤーを崩すのは(特にオリンピックのようなハイレベルで選手の技能が拮抗した舞台では)難しいですから、最終的に同点でも劣勢から挽回したプレイヤーをより勝利に近いプレイヤーと見なすワケです。
 同点に追いつかれたらタイブレークルールで負けるとなれば、ポイントで先行しているプレイヤーもなお追加のポイントを狙いに行かなければなりませんし、そうなれば劣勢のプレイヤーにも逆転のチャンスが巡ってくるでしょう。これは安易な先行逃げ切りを許さない、とても良くできたルールだと思います。

 先制点を取ったプレイヤーがそのまま勝ってしまうゲームは、ぼく達の界隈でもあまりよろしくないゲームとして扱われます。逆転の機会をいかにプレイヤーに提供するかはデザイナーの手腕の見せ所ですが、レスリングにおいてもそれは同様なのでしょう。

 こうしたルールの整備によって「レスリングとはプレイヤーが積極的にポイントを取っていくゲームなんだよ」という意思をデザイナーは表明しています。タイブレークのルール設計によってゲームの方向性が明らかになるというこれは一つの例ですね。

 さて、タイブレークのルール設計はゲームの勝敗のみならず、ゲームを構成する各種メカニクスにも歯車として組み込まれています。例えば去年の記事で触れたマジョリティではタイブレークのルール設計は不可欠ですし、メイフォローのトリックテイキングなんかでもこれは避けて通れない課題です。

 例えばメイフォローのトリックテイキングにおいて、あるトリックで最上ランクのカードが複数枚プレイされた場合、先にプレイしたプレイヤーがトリックを取るか、後からプレイしたプレイヤーがトリックを取るか、どのようにタイブレークを設計するかによってゲームの性質はガラリと変わります。
 それは恐らくゲームの目指すべき方向性、トリックを多く取ることを目指すゲームなのか、トリックをなるべく取らないようにするゲームなのか、あるいはビッドに応じてトリック数を調節するゲームなのか、にもよるでしょう。タイブレークはゲームの方向性をより強調するために設計するのが基本になります。

 また、タイブレークの設計次第では、このゲームならではのユニークな味わいを演出することもできます。その例の一つとして挙げられるのは「ハゲタカのえじき」でしょうか。
 これはいわゆるバッティング部分を指してタイブレークと言っているのではなく、全員がバッティングした場合に場札がキャリーオーバーされる部分を指しています。基本的に「ハゲタカのえじき」は1手で獲得できる得点の上限は10点ですが、キャリーオーバーが発生した場合は次のラウンドの得点が11点以上になる可能性があります。まあ、得点が減る場合もあるんですけど。
 タイブレークの設計として全員がバッティングした場合、場札を捨ててもゲームとしては問題なく成立します。しかしながら、キャリーオーバーが発生する方がよりプレイヤーの興奮を掻き立てる展開になることからランドルフは「ハゲタカのえじき」をそのようにデザインしたのでしょう。

 ぼく個人の話をすると「ハゲタカのえじき」はバッティングゲームの常として多人数で遊ぶゲームという印象から4-5人で遊ぶことが多いです。「少なくとも2人で遊ぶゲームじゃねーよ」と思ってもいました。
 結果的にキャリーオーバーが発生したことは稀です。ですが、むしろ2-3人で遊ぶとキャリーオーバーもそれなりに発生するんじゃないでしょうか。
 そうなると切り札となる15をいつ使うのか、相手が15を使ったならこちらはキャリーオーバーも見据えてバッティングを意図して仕掛けていくような、多人数プレイとはまたちょっとキモが異なるゲームに変貌するのかもしれません。

 シンプルなルールの奥底に展開に豊かさを与える仕掛けを隠している。これが凡百のバッティングゲームとは一線を画す「ハゲタカのえじき」の凄さなのかもしれませんね。うーむ、多人数ゲーだと思い込んでいて、ランドルフくんスマンな!

 ちなみに「ハゲタカのえじき」の総得点でタイが発生した場合はどうするんだろう、と思ってルールを読み返してみたんですが、そこはなんも書いてないですね…… まあ、そういうこともあります。

 さて、もう一つユニークなタイブレークルールの設計の実例を挙げたいと思います。それは「そんな顔してどうしたの?」です。ああっ、漂うステマ臭!
 このゲーム、出題者の動物の顔まねを見て、どの動物の顔まねをしているかを回答者が当てるゲームなんですが、正解者が複数いた場合「直接対決」というタイブレークルールが発動します。

 ちなみにこの「直接対決」は原文では「FACE-OFF」というのですが、デザイナーのPenelope Taylorさんが「顔まねゲームでFACE-OFFって、ププッ、シャレてるわー」と思いながら名付けたのではないかと推測しています。訳文ではその辺のダジャレ感を演出できなかったのはちょっと残念なところですが。

 さて、この「直接対決」では、正解者同士が当該の動物の顔まねをするという、かなりぶっ飛んだ処理が唐突に始まります。かつての回答者が今度は顔まねをして、かつての出題者が今度は誰の顔まねが一番ナイスかを判定するんです。
 まあ、そのあべこべ感というか、役割がグルッと反転しちゃう感覚自体がユニークと言えばユニークなんですけども、ぼくが着目したいのはこのタイブレークルールがゲームの局面に幅広さをもたらしているということです。

 このゲームは言ってしまえば、動物の顔まねをいかに上手く再現するかの「表現力」、そして出題者の顔まねがどの動物のものかを見抜く「観察力」、この2つの能力を競うゲームと言えます。そしてこのタイブレークルールのおかげでこのゲームは求められる「表現力」と「観察力」のバランスが毎回変化するゲームになっているなとぼくは感じているのです。
 ……まあ、そこまで真面目に能力を競うゲームかという疑問はここでは置いときます。



 どういうことかと言えば、このようにカードが並んでいて出題者がガバッと口を開けた顔まねを始めたら、回答者一同は「こりゃもう疑う余地なくカコミスルだわ」とカコミスルを指差すことになります。で、その後は正解者全員でカコミスルの顔まねをして、一番ナイスだった人が勝ちになるんですけども、この場合、回答者に求められる能力比は「表現力」:「観察力」が10:0ということになります。観察するまでもなく正解がわかるので、あとはどれだけカコミスルの表情をうまく再現するかの「表現力」の勝負になるワケです。

 逆に同じカードの並びでも例えば出題者がなんか無表情の顔まねを始めたら、これはどの動物の顔まねをしているのか当てるのは難しい…… つまりこの場合、「表現力」よりも「観察力」を競うゲームになるワケです。さらに出題者の表現力の高低によっても求められる「表現力」と「観察力」のバランスは変わってくるでしょう。

 全く同じインターフェースで展開されているにも関わらず、求められる能力が毎回少しずつ変化するこの展開のグラデーション、実は深いゲームなんじゃないですか……? 正直デザイナーさんがそこまでキチンと考えてタイブレークルールを設計したとは思わないんですが(失礼な)、これは天然ならではの直感で正解に辿り着いちゃった一例なんじゃないかと思っています。

 とは言え、正直このタイブレークルールの存在が「そんな顔してどうしたの?」の個性を一段引き上げていることは間違いないので…… フツーのゲームから一歩抜きん出るための工夫とはタイブレーク処理にあるかもしれない、という視座はゲームを作る上で何かしらのヒントになるかもしれません。


 ということでここまでタイブレークルールの幾つかの事例について触れてきました。最後の「そんな顔してどうしたの?」の例でもわかるように個性的なタイブレークルールはゲームのインパクトを決定づける強さを持っていることもあります。
 ただ、凝ったタイブレークルールは煩雑さの裏返しでもあり、どこで力を入れるか、どこで力を抜くかはセンスの求められるところです。ランドルフだってハゲタカの最終得点では手を抜いているんです。力を込めたところで劇的にゲーム展開が広がるのでもなければ無理に工夫を凝らす必要もないでしょう。
 あとは逆にタイブレークの機会を極力なくすゲームデザインというのもあるかと思います。スッキリしたルールになると思いますが、スッキリしすぎて意外性が乏しくなることもあるので、そこをどう味付けするかですね。

 そう、タイブレークルールを考える上で意外性という言葉はキーワードだと思います。基本的に勝ちか負けが本線のところにスッと出てくる第3の道タイブレークの存在感というような。ゲーム自体がスッキリしすぎているならタイブレークでコクを出す的な使い方はあるかもしれません。
 まあ、そこまでタイブレークだけに拘る必要ってないんですけど、なんか一つの手法として頭の隅に留めておくとそのうち役に立つかもしれませんね。


 そんなところで。
posted by 円卓P at 23:41| Comment(0) | ゲームデザイン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする