2024年11月13日

ゲーム紹介:レオナルド・ダ・ヴィンチ レスター手稿



数寄ゲームズは、「レオナルド・ダ・ヴィンチ レスター手稿」日本語版を発売します。プレイ人数1-5人、対象年齢14歳以上、プレイ時間30-150分で、小売希望価格は税込12650円となります。

11月16、17日のゲームマーケットで先行発売を行い、その後、数寄ゲームズ通販サイトでも予約受付を始めます。その後、全国のボードゲームショップさんへのご案内、流通を予定しております。



「レオナルド・ダ・ヴィンチ レスター手稿」は、巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチの弟子の一人となり、様々な発明を完成させ、最も独創的な発明家となることを目指します。評議会や後援者から支援を得て、工房を拡大し、手足となる弟子を増やし、様々な資材を市場から入手し、7ラウンドの後、最も多くの財産を蓄えたプレイヤーが勝利します。

本作は「アルマ・マータ(2020)」「テラマラ(2019)」などで知られるイタリアのゲームデザイナー集団「アッキトッカ」のデビュー作のリメイクとなります。先ほど上げた2作はアッキトッカ名義……つまり4人組のゲームデザイナー集団として発表したタイトルでして、各デザイナーの関係作を上げると「ロレンツォ・イル・マニーフィコ(2016)」「コインブラ(2018)」「グランドオーストリアホテル(2015)」「ゴーレム(2021)」などなど、重量級名作ゲームがわんさかと出てきます。

今でこそイタリアのゲームスクール(「学校」ではなく「勢力」くらいの意味)は一流ブランドとして世界から一目置かれる存在となりましたが、ドイツがボードゲームシーンの中心地にあった時代に、イタリアにおいてアッキトッカが誕生したことはドイツゲームがユーロゲームへとその定義を広げる駆動力として機能しました(最も大きなのはフランス、アメリカの台頭ではありますが、イタリアの存在感も決して無視できる存在ではありませんでした)。その彼らのデビュー作が2006年に発売された「レオナルド・ダ・ヴィンチ」で、先年フランスのウィリアム・アティアが発表した「ケイラス(2005)」によって芽生えたワーカープレイスメント概念を彼ら流に解釈するという鮮烈なデビュー作となったのです。それは、その後数年に渡りゲームシーンを沸騰させたワーカープレイスメントの探求と発展というムーブメントの最初の一歩でもありました。


原版「レオナルド・ダ・ヴィンチ」はダヴィンチゲームズ(現DVゲームズ)から出版。

その後のアッキトッカの活躍ぶりは先程の関係諸作からもわかるとおりではありますが、一方で今から18年前に発表された「レオナルド・ダ・ヴィンチ」自体の評価はというと、デビュー作という出自も相まって洗練されたゲームとは言いづらく、随所に荒っぽさが見え隠れするゲームではありました。また、当時としては最先端のゲームメカニクスに挑戦しているとは言え、今の時代から見るとその先進性はくすんでしまい、素直な評価が難しいという側面もあります。

とは言え、彼らの挑戦が時代に大きな楔を打ち込んだことは間違いなく、また普遍的な魅力や見るべき長所も数多く備えている作品ではあることに間違いはありません。

そこでゲーム根幹の力学はそのままに、様々な改良を施して今風にリメイクしたものが今回の「レオナルド・ダ・ヴィンチ レスター手稿」となります。出版社は13項目の変更点を挙げていますが、ぼくがルールを読んだところ、それに加えてゲーム進行に大きく関わる変更がいくつもあります。

また、この新版では作家陣にChanghyun Baekの名前が加わっています。彼は本作の出版社Dicetree Gamesの創設者でもあるのですが、ゲームデザイナーとして名前が登場するのは本作が初めてとなります。

Dicetree Gamesは「アベカエサル」「トライコーダ」など古典の名作ゲームを豪華内容物を携えてリメイクする手腕で知られる出版社なのですが、ゲーム自体の大胆な改変を行うイメージはあまりないため、今作は同社としてはかなりアグレッシブに踏み込んだ試みと言えます。それだけ、「レオナルド・ダ・ヴィンチ」は扱いが難しいというか、内容物を刷新するだけで今のゲーマーに満足してもらえるような簡単なタイトルではないという判断があったのかもしれません。そして、その試みは見事に結実していると言えます。

Dicetree Gamesお得意のリッチなコンポーネントで遊びやすさを追求し、ルール面ではゲーム進行の洗練を図り、往時の荒々しさを彷彿とさせる激しい鍔迫り合いを心ゆくまで堪能できる充実の2時間半。当時のゲーム特有の輪郭のはっきりしたインタラクションはそのままに、今風の味付けを施した実にバランスのいい一品に仕上がっていると言えます。

……能書きが長くなってしまいましたが、では「レオナルド・ダ・ヴィンチ レスター手稿」はどんなゲームなのか。それをこれからお伝えしていきましょう。



◆ワーカープレイスメントと競りの融合。先手で逃げる? 後手でまくる?

先ほど述べたとおり、ワーカープレイスメントは2005年の「ケイラス」が先駆けとなって世界に広まったゲームメカニクスです。ワーカープレイスメントはつまりアクションの公開ドラフトで、手順番にワーカーを配置することで様々な効果を持つアクションの実行権を先取りするメカニクスと言えます。

また、現代ではワーカーを配置すると即時にアクションを実行する仕組みのものが多いのですが、「ケイラス」の頃のワーカープレイスメントは「ワーカーの配置」と「アクションの実行」が別フェイズのものが主流でした。つまり、ワーカーを3つ持っていたら3つのワーカーを手順番に配置して、その後、全員がパスしてから実行フェイズで3つのアクションが行われる、といった塩梅です。

何度もお伝えしていますが本作は「ケイラス」の翌年に発表されたタイトルなので、この配置と実行が分離した「初期ワーカープレイスメント」に属するゲームです。さらに本作ではワーカーを配置するだけではアクションの実行権を獲得することができません。

というのは、誰かがワーカーを置いたアクションスペースに他プレイヤーも後乗りでワーカーを置くことができるからです。こうなると1つのアクションスペースに複数のプレイヤーのワーカーが置かれることになるのですが、プレイヤーAとプレイヤーBがそれぞれワーカーを置いているアクションスペースは、さて、どちらが実行権を得るのでしょう? ……実は、この設問に「レオナルド・ダ・ヴィンチ レスター手稿」の最大の魅力が詰まっていると言っても過言ではありません。

答えは「より多くのワーカーを配置しているプレイヤーから、全部で4回あるアクションの実行権を順番に獲得する」です。

4回? 順番? なんのこっちゃ? と思われるかもしれません。こういうときは極端に簡単な例から徐々に話を進めていきましょう。

局面1. あるアクションスペースにプレイヤーがワーカーを1つ置いています。
結果1. プレイヤーはそのアクションを4回実行します。

……うん、これはそこまで難しい話ではないでしょう。

局面2. あるアクションスペースにプレイヤーAがワーカーを2個、プレイヤーBがワーカーを1個置いています。
結果2. プレイヤーAがアクションを行い、プレイヤーBがアクションを行います。その後、プレイヤーAが2回目のアクションを行い、プレイヤーBも2回目のアクションを行います。

全4回のアクションが、ワーカーの配置が多い順番で、プレイヤーA → プレイヤーB → プレイヤーA → プレイヤーBの順番で行われるということです。

人によっては「ワーカーが同数だったらどうなるの?」と疑問に思うかもしれません。ゲームに慣れている人なら「そもそも同数になるようにワーカーを配置できないルールなのかも?」と推測を進めるかもしれませんね。

答えとしては、同数の場合、より先にワーカーを配置している方がより多くのワーカーを配置しているものとみなします。翻って言えばワーカーの同数配置もできますよ、ということになりますね。


さて、全4回のアクションをワーカーを配置したプレイヤー間で振り分ける…… という仕組み自体はそれほど難しいことではないかと思います。が、さらに本作ではアクションの実行コストが絡んできます。1回目のアクションは無料、2回目のアクションは2金、3回目のアクションは3金、4回目のアクションは4金のコストを、ワーカーの配置とは別に支払う必要があるのです。



このルールを加えて先程の局面をアップデートするとこうなります。

局面1. あるアクションスペースにプレイヤーがワーカーを1つ置いています。
結果1. プレイヤーは無料で1回目のアクションを実行し、2金を払って2回目のアクションを実行し、3金を払って3回目のアクションを実行し、4金を払って4回目のアクションを実行します。

テキストが倍以上に増えた! もちろん、十分なお金を持っていない場合は払える限りのアクションを実行するだけとなります。

局面2に至ってはこうです。

局面2. あるアクションスペースにプレイヤーAがワーカーを2個、プレイヤーBがワーカーを1個置いています。
結果2. プレイヤーA無料でアクションを行い、プレイヤーB2金を払ってアクションを行います。その後、プレイヤーA3金を払って2回目のアクションを行い、プレイヤーB4金を払って2回目のアクションを行います。

なかなか複雑になってきました。さらに面倒な話としては、プレイヤーが十分なお金を持っていない場合はどうなるか? という話です。

局面2. あるアクションスペースにプレイヤーAがワーカーを2個、プレイヤーBがワーカーを1個置いています。プレイヤーAは1金、プレイヤーBは7金を持っています。
結果2. プレイヤーAが無料でアクションを行い、プレイヤーBが2金を払ってアクションを行います。その後、プレイヤーAは3金を支払えないのでもうアクションを行えません。プレイヤーBは3金を払って2回目のアクションを行い、さらに4金を払って3回目のアクションを行います。

アクションの実行権は全部で4回あって、それをプレイヤー間で分け合うのですが、お金を支払えないと実行権を得られない、というのがミソなんですね。なので、アクションの実行のためには前もって十分なお金を用意する必要があります。

が、実はこのゲーム、最終的にはお金=勝利点だったりもします。なので、プレイヤーはどこまで勝利点を削ってアクションを実行するかで終始悩むことになります。

その上で様々なアクションスペースにどれくらいのワーカーを割り振るか。これが実に悩ましい。

先手であれば同数配置のタイブレークで有利ではありますが、あまりに少ない配置だと後手にオーバービッドされてしまうかもしれません。ワーカープレイスメント特有のアクションの奪い合いではあるのですが、実態としてはワーカーを使った競りとも言えます。

さらにここに「見習い」と「師匠」という2種のワーカーの配置ルールが絶妙に絡んできます。見習いは一般的なワーカーで、一度見習いを置いたアクションスペースには追加で見習いを置くことはできません。



が、師匠は見習いの置かれたアクションスペースに追加で置くことができます(逆の順番の「師匠 → 見習い」も可)。師匠は見習い2個分相当の強力なワーカーでもあり、どのタイミングで師匠を置くか、師匠と見習いのどちらを先に使うか、細かい判断が実は大きな影響を及ぼす作りになっています(ちなみに能力の異なるワーカーという仕組みを世界で初めて発明したのが原版「レオナルド・ダ・ヴィンチ」の功績の一つでもあります)。


ワーカー配置の総まとめとしてはこう。

本作のワーカープレイスメントは、UI装置としての機能に特化した現代のそれと比べると、相当に濃密なやり取りをプレイヤーに求めるシステムになっています。しかしながら、ゲームの根幹となるアクションスペースは「スタートプレイヤーの獲得」「研究施設の改良」「ワーカーの増加」の3種に絞られていて、「ハイ、ここで争ってくださいね」という意図が極めて明瞭です。リソースやお金を獲得するアクションスペースも用意されているのですが、それらは副次的な存在で争いが起きることはあまりありません。

……とまあ、そんな感じで、2種のワーカーを使い分けてアクションの実行権を競るこのメインエンジン、相当に独特な作りです。結構長いことボードゲームを嗜んでいる身ではありますが、類似の作品は見たことがありません(競りとワーカープレイスメントの組み合わせだと「キーフラワー(2012)」がちょい近いのですが、あれはまた別軸のゲームではあります)。

このシンプルかつユニークなメインエンジンを試してみるだけでもこのゲームを遊ぶ価値があります。18年前に作られたゲームとは思えないほど斬新な……というか、今の時代だからこそ一周回って新鮮さすら覚えるバチバチなプレイフィールをぜひ味わって貰えればと思いますよ。


◆発明を完成させ、巨万の富を得よ!

さて、前項にて本作は中心的なエンジンとしてワーカーを使った競りを行う旨をお伝えしましたが、実は競りの原資となるワーカーにはアクションの実行以外にもう一つ重要な役割があります。それが工房での作業です。

十分な資源が手元にある場合、プレイヤーは発明宣言フェイズで発明を予約することができます。各発明には完成のために必要な作業時間が設定されていて、その数に等しいワーカーを工房で働かせることで発明は完成します。

完成した発明は主に3つの利益である「お金」「カードの特殊効果」「セットコレクション用のアイコン」をもたらします。「お金」「カードの特殊効果」はそのままですが、「セットコレクション用のアイコン」は集めることでゲームの終了時にアイコン数に応じたボーナス点が入ります。



また、ちょっと面白い仕組みとして、1つの発明カードに複数のプレイヤーが同時に予約を行うこともできます。こうなるとどちらが先に発明を完成させるかの競争が始まることになるのですが、一番最初に発明を完成させたプレイヤーがすべての利益を総取りする10:0の関係ではなく、2番目に完成させたプレイヤーも先述の3つの利益のうち「お金」「セットコレクション用のアイコン」の利益だけは貰うことができるようになっています。つまり10:7くらいの関係。裏を返すと「カードの特殊効果」は最初に完成させたプレイヤーだけしか得られないということになるので、カード効果目当ての発明であれば、他人に先んじて完成させる必要があります。


また、利益の中で特に重要なのはお金です。先ほどアクションの実行にはお金が必要だと述べましたが、このゲームのお金の主な入手先は発明の完成によるものです。

そのため、アクションを競り合うことも重要なのですが、並行して発明も完成させなければ効率的に手が進みません。他プレイヤーが発明に注力するならば競りが緩くなるのでアクションを数多く実行するチャンスですし、逆に競りが熾烈ならば自分は発明に没頭するべき、というような他プレイヤーとの押し引きが実は重要なゲームです。


さて、アクションの実行にも研究の進展にも人手が必要なこのゲーム、現代日本と同様に万事人手が足りません。

そこは稀代の天才レオナルド・ダ・ヴィンチ、このゲームでは研究を手伝ってくれる自動人形が登場します。自動人形は発明の作業だけを行うワーカーといった存在で、「専用の部屋を用意して」「自動人形を購入して」「その上でワーカーを配置する」ことでラウンドごとに1回働いてくれるというなかなかに面倒な手続きが必要な存在ではあるのですが、非常に便利な存在です。


自動人形を働かせるには専用の部屋も必要。

特筆すべきはお給料を払わなくてもよいという点で、このゲームでは数ラウンドごとにワーカーにお給料を支払う必要があるのですが、自動人形は人間と違って文句も言わず無給で働いてくれるのです(経営者にとっての理想の労働者!)。

さらに自動人形は改良することでワーカー2人分の作業をこなしてくれるようにもなり、工房運営の戦力として大活躍します。競り&作業に活躍するもお給料の必要なワーカーか、初期投資がかかるもコスパ抜群な自動人形か、どちらを先に充実させるべきかも悩ましい選択です。


◆Book Boxシリーズならではの豪華な内容物も必見

本作は「アベカエサル」と同じくDicetree Games発のBook Boxシリーズと呼ばれる作品群の一作で、豪華でハイグレードな内容物は今回も健在です。実はこの日本語版を出版する際、版元のDicetree Gamesからは「内容物のグレードを松・竹・梅の3つから選べるけどどうする?」と聞かれました。梅コースと松コースの違いは例えば、梅だとお金が厚紙チップになりますが、松だとクレイチップ(!)になったり……といった違いです。



で、「どうせやるなら松でお願いします!」と答えたのが今回の日本語版になります。そのため、ゲームで使用するお金70枚はすべてクレイチップ…… おいおい、キックスターターのアドオンじゃないんやぞという豪華さです。



資材120個のうち木材、レンガ、ロープはUVプリントで模様が印刷されていますし、3枚の個人ボードはダブルレイヤー仕様で機能性バッチリ。ゲームの内容物をスッキリと収める専用トレイも付属していて、すべての内容物を箱の中にキッチリ気持ちよく収納することができます。



そんなワケで本作のお値段は小売希望価格12650円(税込)…… と、数寄ゲームズ史上最高額の製品となってしまったんですけども、様々なアドオンを突っ込んだ豪華版と捉えて頂ければ高すぎる内容ではないことがご理解頂けるのではないでしょうか。……ご理解頂けるとありがたいです。


また、ここまで読んで頂いた方にもう一つ検討材料をお知らせさせて頂きますと、本作は通常の製品よりも製造数を絞っています(これは同時発売の「トライコーダ」も同様です)。製品の性質や価格帯などを考慮するに少しディフェンシブに動かざるを得ない事情はありまして、他の製品とは異なり、本当に欲しい人に届けることを第一の勝利条件として設定しています。

そのため、これからの動きがどうなるかは予想がしにくい部分があるんですけども、本作を待ち望んでいた方はこの機会をぜひお見逃しなく! と、強く強くお知らせしておきたいです。本作はゲームマーケットでの先行発売となりますが、間を置かずに数寄ゲームズ通販サイトでの予約も実施する予定ですので、ゲムマに来場予定のない方もそこはご安心頂ければと思います。

ただ、その後の一般販売や流通、将来的な再販予定などについては他の作品よりも不透明な製品と言わざるを得ません。まあ、爆発的にヒットしたりすれば話はまた違ってきますけども、うーん、それはさすがにないでしょうしね。

元々の原版も「知る人ぞ知る怪作」という立ち位置ではありましたし、重厚な本格派タイトルが並ぶアッキトッカ諸作の中でも賛否の分かれる一作ではありました。ただ、今回のリメイクで賛否の否の部分は相当に削られまして、様々な形で手触りの良化とバランス改善が図られた一線級のゲームに作り直されたのは確かです。

原版が備えていた激しくも精緻なインタラクションはそのままに、独特なワーカープレイスメントの旨味がよりハッキリと味わえる秀逸なリメイク作品となっています。重量級のゲームではありながら処理はスッキリとしていて初回プレイからゲームのキモがわかる明瞭な導線も遊びやすさに貢献しています。

個人的にちょっと驚いているのはプレイ時間で、以前開催された超新作体験会で本作の試遊を4回行ったんですけども、インスト込み3時間で3卓が余裕を持って終了し、残る1卓もロスタイム内でゲームを終わらせることができました。このときはすべて4人プレイだったので、5人プレイになるともう少しプレイ時間が延びるかなという雰囲気はありますが、箱に表記された150分表記がウソじゃないのは確かです。これはなかなか凄いなと。

また、こうした重量級ゲームで拡張なしに5人対応しているものは昨今珍しいので、そうしたゲームを入り用としている人には面白い選択肢になるのではないでしょうか。一方でボード裏面は少人数プレイに対応していて原版よりも少人数プレイへのアジャストが図られています。

そんなワケで、様々な方にどっぷり堪能していただけることは間違いない、令和に蘇った「レオナルド・ダ・ヴィンチ レスター手稿」を、ぜひ多くの方に試してみて頂ければと思います。


……ちなみに豆知識なんですが、箱絵の有名な画像はレスター手稿(水理学を主題として観察や理論が記載された紙片)に記載されたものではなく、ウィトルウィウス的人体図という素描だそうです。




レオナルド・ダ・ヴィンチ レスター手稿

プレイ人数:1-5人
対象年齢:14歳以上
プレイ時間:30-150分

ゲームデザイン:Changhyun Baek, Flaminia Brasini, Virginio Gigli, Stefano Luperto, Antonio Tinto
アートワーク:Seongho Lee
小売希望価格:12650円(税込)
posted by 円卓P at 01:36| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年10月11日

ゲーム紹介:アルデバランデュエル



数寄ゲームズは、「アルデバランデュエル」日本語版を発売します。プレイ人数1-2人、対象年齢12歳以上、プレイ時間60-90分で、小売希望価格は税込6600円となります。

10月14日から数寄ゲームズ通販サイトにて先行販売の予約受付を始めます。その後、全国のボードゲームショップさんへのご案内、流通を予定しております。

「アルデバランデュエル」は、「アンダーウォーターシティーズ」「エヴァキュエーション」などで知られるウラジミール・スヒィの手による2人用ゲームです(ソロプレイもあり)。実際遊んでみて個人的には「これはスヒィさん流の『宝石の煌き』の解釈では!?」などと思ったのですが、一緒に遊んだ人からはあまり賛同を得られていません(笑)

いや、でも、自分としてはかなりその色合いを感じるところが大きいので、この紹介記事ではその辺りも含めてゲームのキモをご紹介していければと思います。一言で言えば、カードプレイを通して手元を育てていくタブロービルド、拡大再生産の色味が強いゲームです。



テーマ的には2つの帝国の間で惑星間紛争が勃発するぞ、というお話ではありますが、生粋のユーロ畑のデザイナーであるスヒィさんらしく、殴り合いなどの直接的な妨害要素はなく、カードのドラフトやカット、2人用ゲームにつきものの綱引きの攻防などでインタラクションが作られています。

また、スヒィ作品と言えば2人プレイ適性の高さに定評があります。「アンダーウォーターシティーズ」は言うに及ばず、「ウッドクラフト」や「エヴァキュエーション」……「シップヤード」もそうかな? 多人数ゲームでも2人で遜色なく遊べるタイトルが数多い今風のデザインを得意としている人なのですが、「それじゃスヒィさんが2人専用ゲームを作ったらどうなるの?」という問いかけはなかなか面白い設問だと思うのですね。

そして、この「アルデバランデュエル」はまさに本気で作られた2人専用ゲームであり、2人専用ゲームならではの工夫がそこかしこに散りばめられています。また、数寄ゲームズではこれまでスヒィさん作品を多く取り扱ってきたのですが、最近では魅力的な2人用ゲームにも注力しています。

ウラジミール・スヒィ×2人専用ゲーム! まさにこれは数寄ゲームズでやるべきゲームでしょ!

……ということで、今回、日本語版を出版することになったのです。

ということで具体的なゲーム内容をご紹介していきましょう。



◆手番には、カードを取るか、プレイするかの2択だけ

「手番にはAかBをするだけの簡単なゲームです」のような言い回しは、昨今では重量級ゲームのインストでの常套句となっている感もありますが(大体は簡単ではない)、本作も組み立てとしては同じです(簡単かどうかで言えば、少し難しい、くらい)。具体的にはカードを取るか、カードをプレイするかの2択。1アクションを行ったら相手に手番を移し、2人ともパスするまでこれを繰り返します。

カードを取るアクションでは、場に並べられた6枚のカードから欲しいものを取るのですが、取り方として「価値3までのカードを取ることができる」というルールがあります。

さて、価値とはなんぞや? と言いますと、カードは場に3段2列に並べられているのですが、下段のカードは価値1、中段のカードは価値2、上段のカードは価値3となります。これらの中から組み合わせで価値3までカードを買っていいよーという仕組みなので、実際にカードを取る組み合わせは「下段2枚」「下段1枚+中段1枚」「上段1枚のみ」のいずれかになります。



カードを獲得した後、空いたスペースは下に詰められて新しいカードが補充されます。そのため、価値3のカードでも待っていれば価値が下がって入手しやすくなります。


注意事項として、このゲームには7枚の手札上限があります。手札上限をオーバーするようにカードを取ることはできませんし、手札が7枚ある場合はカードを取るアクションは行えず、カードをプレイするアクションを選ばなければなりません。

それでは具体的にどのようなカードを取るべきなのか? それをお話しするためには、もう1つのアクション、カードのプレイから説明する必要があります。


カードのプレイでは手札から任意の1枚をプレイします。この時、カードに示されているコストを別のカードで支払う必要があります。

つまり、各カードは「カード」と「コスト」のどちらかの用途で使用することになるわけです。「サンファン」などのゲームを遊んだことがある人ならイメージしやすいかもしれませんね。



そのため、カードを取る際には、もちろんプレイしたいカードを取ることが第一なのですが、そのカードをプレイするためのコストとなるカードも確保しなければなりません。欲しいコストのカードが常に場に出てくるとは限らないのでコストの確保も結構なポイントですよ。


さて、ゲーム中には5種類のカードが登場します。各カードはプレイすることで様々なボーナスをプレイヤーにもたらしてくれるのですが、中にはボーナスを得るために条件が必要なものもあります。

1. 生産ステーション

「生産ステーション」は、プレイすることで、カードプレイに必要な資源を永続的に割引きます。「宝石の煌き」などを遊んだ人ならばわかると思いますが、割引はめちゃ重要です!


2. スペースシャトル

「スペースシャトル」は、プレイすることでラウンド終了時に得点の綱引きを行う軍事/貿易/外交のトラックを1歩進めます。要するに得点獲得手段です。


3. 惑星

3つ目の「惑星」は……ここからがちょっと複雑なのですが、プレイするだけではボーナスを得られず、完成させて初めてボーナスを得られるカードです。基本的には後述する「入植」を行わないと惑星からはボーナスを得られません。


4. 入植

続く4つ目は「入植カード」で、惑星の空きスペースを埋めるようにして配置することで惑星のセットを完成させるパーツです。大体の惑星は入植カードの色を指定してくるので、この辺をマッチさせるのがなかなか難しいところです。


入植の図。最終的には風車みたいな感じになったり。


5. 植民船

最後の5つ目は「植民船」で、入植が完了した惑星1つにつき1枚プレイすることができます。様々なボーナスをもたらすのですが、コストが安くてオトクなカードです。見た目が「スペースシャトル」と似てるのですが、カード右下のアイコンで判別することができます。

コスト比で考えると「植民船」は単純に強いので、惑星の入植を行うならば植民船のプレイまで終わらせて1セットと考えたほうがいいでしょう。「惑星」「植民」「入植船」は1セット。入植は結構手間がかかるので、ここまでやらないと元が取れません。


とまあ、そんな感じで、ゲームの基本的な流れとしては、「カードを取ってプレイする」「カードのボーナスを得ることで割引や得点源を得る」のサイクルを繰り返していく形になります。

これを続けていくとそのうち場札が尽きますので、カードを取ることもプレイすることもできなくなったらパス。両プレイヤーがパスしたところで1ラウンドが終了という流れになります。


◆ラウンド間に研究と綱引き

両プレイヤーがパスしたら次に「研究」を行います。実はプレイヤーの手にはゲーム開始時にドラフトで獲得した研究カードが5枚あり、このうち1枚をこのタイミングでプレイすることができます。カードのプレイにはここだけでしか使えない「科学」の資源を支払う必要があり、この支払いが結構重いです。

科学カード


で、実はこの研究カードが戦略上はかなり重要です。「手札上限が7枚から8枚になる」効果を得られたり、「特定のカードをプレイすると追加の得点を獲得する」効果を得られたりと、かなりハデ目な特殊能力を獲得することができます。この研究カードの選択とプレイが勝敗に大きな影響を及ぼします。

先述の通り、研究カードはゲーム開始時にドラフトで獲得するので、目指すべき戦略の補助線となります。科学カードはゲーム中3枚しかプレイできないので、どのカードをどのタイミングでプレイするかを事前に検討する長期的な視野も必要になりますね。


続いて、影響力ボード上で綱引きを行います。

これは「スペースシャトル」のボーナスで得られた軍事(オレンジ)、経済(緑)、外交(紫)のトラックの差分だけ駒を自分方向に引き寄せるもので、自分の陣地側に駒をより多く引き寄せることで高得点を狙うことができます。



基本的にはある分野に特化すると得点効率がいいので、どれか1分野に集中して1点突破を狙いたいところです。ということは、相手の特化行動を阻止するのも大事ということなんですけども。

また、影響力ボード上の駒はラウンドを跨いでもリセットされない! ので、一度大敗すると2度3度と点数を献上することになってしまったりも。逆に序盤でそうした得点基盤を作れると強いのですが、序盤は生産の土台を作りたい時期でもあるので悩ましく……


とまあ、こんな流れを1ラウンドとして、3回繰り返したらゲーム終了。カードは時代を経るに従ってよりコストが重く、より強力になっていきます。


◆2人専用ゲームならではの駆け引きが熱い!

プレイ時間60-90分という表記からもわかる通り、それなりに要素の多いゲームではあるのですが、慣れてくるとカードの取り合いが熱いことがわかります。

実はこのゲーム、コストを割引してくれる「生産ステーション」が強力です。というのは、先述の通り、後半になればなるほどカードプレイのコストが重くなるため、割引力の差が手数の差として顕著に出てくるのです。そのため、特に序盤の「生産ステーション」は見かけたら即確保で正解と言えます。

例え、価値3で手番に「生産ステーション」1枚しか取れないとしても見返りは十分にあります。というのは、「生産ステーション」を取る行為は同時に相手が取るのを防ぐ行為でもあるからです。いわゆるカットですね。

その前提で、「生産ステーション」を入手するためには手札に空きを作っておく必要があります。そう、手札は7枚までしか持てないんですよ! この縛りが実に効いてます。

手札を7枚にした瞬間にポロッと「生産ステーション」が出てきたら、相手は悠々とそのカードを獲得することができます。こちらは次の手番にはカードをプレイしないと手札が空かないのに!


そのため、ゲームに慣れてくると「今、手札何枚?」と相手の手札枚数を確認する機会が増えてきます。そうした手札枚数のハンドリング、マネジメントが地味に効いてくるゲームなのです。

手札枚数が多いと行動の選択肢が狭まるけど、そもそも手札を溜めないとカードのプレイ自体ができないというこのジレンマ。これを解決する意味でも割引は強力な要素です。また、別解として手札とは別に保持できて、ワイルド資源として支払えるワイルド資源トークンというものもあります。これも強力。


ゲーム全体に渡って「手札上限は7枚」という縛りと「カードをプレイするのにコストとして別のカードが必要」という仕組みがすーーーごくよく噛み合っているんですよね。ぼくが「宝石の煌き」っぽいと評するのはこの辺りのジレンマ構造を指していて、かつ、このジレンマって多人数ゲームでは制御しにくいので(上家の気分次第)、自分の行動が相手に直接的な影響を及ぼす2人ゲームでより輝く組み合わせでもあります(なのでぼくは「宝石の煌き」は理論上は2人ベストだと思っています。が、2人だとガチに寄り過ぎるので3人のほうが適度にゆるく遊べるというのも事実です)。


慣れてくると、いかに「生産ステーション」をポロリさせないように立ち回るかとか、「生産ステーション」がポロリしたとしてもダメージを最小限に抑える動き方だとか、細かいテクニックも見えてくると思います。この辺のリスク管理は、ちょっと「ジャイプル」っぽさがあるかもしれません。

ただ、この駆け引きって「『生産ステーション』が強い」という事前知識がないと思い至らない部分でもあると思います。まあ、1回遊べばすぐわかることでゲームの寿命を縮めるようなことでもないので言ってしまいますが、「『生産ステーション』は強い!」です。

その前提でゲームに取り組むと「相手が欲しがってる資源をカットする手があるぞ」とか、「相手が特化したい分野をカットする手があるぞ」とか、様々な応用も思いつくかと思います。直接的な攻撃手段こそ用意されてはいないのですが、どうしたら相手が嫌がるかを考えて締め付け合い、互いに我慢比べを始める洗面器ゲームの側面もあります。

とは言え、同時に欲しいカードがポロッと出てくるガチャ的な快感もあり、運と技術の要素がバランスよく用意されたタイトルだと思います。苦しいけども窮屈過ぎないというか。また、そうした小細工を吹き飛ばす科学カードのオーバーパワーぶりがチマチマ刺し合うだけのゲームで終始しないスケール感を演出してもいます。


◆出版社 Dino Toysとはナニモノ?

さて、このゲームは、スヒィさんの作品でありながら、出版はいつものデリシャスゲームズではなく、Dino Toysという聞きなれない会社から出版されています。その辺り、ちょっと不思議に思った方もいるかもしれません。

このDino Toys、実はチェコのおもちゃメーカーです。日本だと……カワダさんとかの会社のイメージなんですかね(ぼく自身、カワダさんもDino Toysも全貌を知っているワケではないのであくまでイメージです)。

で、Dino Toysは自前で印刷工場を持っていまして、デリシャスゲームズの作品は殆どがDino Toysの印刷工場で印刷されていたりします。Dino Toysは少量ながらボードゲームを出版していることもあり、そこからの繋がりでスヒィさんのゲームがDino Toysから出版されることになったのでしょう。

一方のデリシャスゲームズ側としても、ゲームを出版する計画が数年先まで既に決まっていて、かつ、それらは多人数用のタイトルであるという方針があり、デリシャスゲームズのリソースでは2人専用の「アルデバランデュエル」まで手が回らなかったという事情もあるようです。まあ、デリシャスゲームズって数人で運営している家庭内出版社ですからね。


Dino Toys自体はボードゲームがメイン事業ではないそうなので、ルールブックの書き方やらアイコンデザインやらサマリーの構成やら、ちょっとこなれてない面はあります。ゲーム自体はそこまで難しくはないんですが、各要素の順序構成など、ルールを読んでて、ちょっとこんがらがる箇所はあり……

個人的にそうした読みにくさを感じたこともあり、今回は手製のサマリーを用意しました。こちらは数寄ゲームズ通販サイトの直販分に添付いたします。大分スッキリと要素をまとめられたと思いますのでプレイの補助にお役立ていただければ幸いです。




そう言えば豆情報ですが、日本語版では「アルデバランデュエル」のタイトルロゴを新たに書き起こしています。原版は意図してレトロを狙っているのでしょうが、なんか古めかしさが先だってちょっと好きになれなかったんですよね。



個人的には日本語版の方が今風な仕上がりになっていると思います。日本のファンの方々に気に入って貰えるように日頃から知恵を絞っているのですが、少しでも気持ちが伝わっていれば嬉しいです。


アルデバランデュエル

プレイ人数:1-2人
対象年齢:12歳以上
プレイ時間:60-90分

ゲームデザイン:Vladimir Suchy
アートワーク:Jozef Bard Murcko
小売希望価格:6600円(税込)
posted by 円卓P at 11:14| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年07月01日

ゲーム紹介「スマートフォン株式会社 拡張:Update1.1」



数寄ゲームズは、「スマートフォン株式会社 拡張:Update1.1」を発売します。プレイ人数1-5人、対象年齢14歳以上、プレイ時間90分で、小売希望価格は税込4400円となります。

7月1日から数寄ゲームズ通販サイトにて先行販売の予約受付を始めます。その後、全国のボードゲームショップさんへのご案内、流通を予定しております。

「スマートフォン株式会社 拡張:Update1.1」は、スマートフォンの製造販売というホットなテーマと、パットを組み合わせてアクションポイントを割り振りする洗練されたアクション選択システムで人気を博した経済ゲーム「スマートフォン株式会社」の待望の拡張セットとなります。

「スマートフォン株式会社」の初版は2018年に発売と、すでに6年もの月日が過ぎているのに個人的には驚きを隠せないのですが、考えてみれば4G通信が最新技術としてフィーチャーされている時代のゲームではありましたねえ、と思い直しました。今の時代だと、1からスマホ会社を立ち上げて先行者からシェアを奪うのは難しいかもしれませんねえ…… バルミューダフォン的な……

そうした時代設定も含めて一世代前のゲームとも言えるのですが、奥深さと遊びやすさを両立させたゲームデザインは今もなお先進的な存在と言えますし、アートワークもバッチリキマっていて、今回の拡張セットのパッケージアートも素晴らしい出来栄えです。今でも衰えない人気があり、時代を越えても古びない、稀有なゲームと言っていいんじゃないかなと思います。



さて、そんな「スマートフォン株式会社」の拡張キット「Update1.1」では、「2−3人プレイ用ボード」「新技術タイル」「指令タイル」「ハードコアモード」の大きく分けて4つの要素が登場します。各要素はモジュール式になっているため、それぞれを加えるかどうかを細かく調整することも可能です。

それでは、各要素について詳しく説明していきましょう。



◆少人数でも申し分なし! 贅沢な専用マップ

「スマートフォン株式会社」は世界中のスマートフォンの需要を奪い合う対戦ゲームです。各プレイヤーはスマートフォン製造会社のCEOとなり、世界各地で市場争いに血道を上げるのですが、やはり舞台が広大な「世界!」ということもあり、熱いバトルを繰り広げるにはそれなりのプレイヤー人数が必要という前提がありました。

そのため、このゲームのポテンシャルを引き出せるのは最大人数の5人というのもよく聞こえてくる言説です。ソロプレイにも対応し、AIプレイヤーのスティーブをプレイヤーとして追加するオプションもあるとは言え、プレイ人数の制約が強めのゲームなのは否めません(また、後発の「モバイルマーケット」はそうした少人数プレイのニーズに応える形で開発された側面もあるでしょう)。



今回追加される2-3人プレイ用ボードは、その名の通り2-3人プレイ専用の新しいマップとなります。「スマートフォン株式会社」は、全体ボードがダブルレイヤー仕様という大掛かりな設計のゲームなだけに、新マップの追加は結構な難しさを感じさせるのですが、ルールの変更で対応するのではなく「新マップを作ります!」という大胆さには大きな意気込みを感じます。

そのため、少人数で遊ぶ機会が多い方にはまさに念願の拡張セットと言えるのではないでしょうか。体積が箱の半分を占めるこの新マップを存分に楽しんでいただければと思います。



また、新マップは単純に少人数向けにアジャストしただけでなく、予算か技術かのどちらかの条件を満たすことでスマホを購入してくれる新タイプのバイヤーも登場します。個人的には少人数で遊ぶ機会が少ない側のプレイヤーなので、なかなかこのマップを楽しむチャンスを得られなさそうなのが歯がゆいところですが、どこかで折を見て試してみたいなと思っています。

ちなみに新マップでは改善ブロックの数が絞られ、各ラウンドで3枚だけしか改善タイルが公開されないのですが、このルールは基本ゲームのマップに流用することもできます。

また、基本ゲームの日本語版とは異なり、マップに貼り付ける地名用の和訳シールはありませんので、ご注意ください。


◆よりシャープな体験をもたらす新技術タイル

それじゃ普段から4-5人で「スマートフォン株式会社」を遊んでいる人にとって「Update1.1」はバリューの薄い拡張セットなのか、と言われれば、いいえ、そんなことはありません。熟練プレイヤーにとっては待望の新しい技術タイルが登場します。


「スマートフォン株式会社」ではゲームごとに5枚の技術タイルが登場します。これらの技術の組み合わせによってゲームの展開は大きく変化します。

ただ、基本ゲームの10種類の技術は組み合わせのパターンが限られているため、繰り返し遊ぶ上ではもう少し新味が欲しいというニーズがありました。



今回の拡張セットでは新しく10種類の技術が加わるため、組み合わせパターンも大きく増加します。基本ゲーム以上にリスクとリターンが顕著な「尖った」技術が数多く登場するため、プレイングにはより高度な判断力が求められるようになります。



中でも白眉なのはゲームに同梱されたCEO駒を盤上で動かし、CEO駒がいる地域に大きな影響力をもたらすCEOテクノロジーでしょう。この技術は他社を圧倒する強烈な効果をもたらす一方、CEOの移動のためにコストを支払う必要があり、効率的にCEOを働かせるという新しいレイヤーの思考が必要になります。


◆指令モジュールで早取り達成要素がプラス



指令モジュールでは、プレイヤー全員の共通目標となる指令タイルがゲームに加わります。他プレイヤーに先んじて目標を達成することで大きなVPを得ることができるので、各プレイヤーの動きにはより細かく目配せする必要があるでしょう。

指令タイルはゲーム開始時に規定枚数が用意されるだけで、ゲーム中に補充されることはありません。獲得の機会は限られるため、指令タイルを目指してプレイするか、それとも自分の戦略を貫き通すかでジレンマが発生することもあるでしょう(もちろん自分の戦略を構築しつつ指令タイルを確保できればベストなのですが)。


指令タイルは多くのゲームでよく目にする早取りの目標達成要素なので、要素自体にはさほど新味はないのですが、手番順がキモな「スマートフォン株式会社」での「早取り」は少し味わいが異なるところがあります。

例えば、指令タイルの目標を複数のプレイヤーが同時に達成した場合です。その場合、タイブレーカーとしてはアクティブな手番プレイヤーが優先され、誰もアクティブではない場合はスマホの設定価格が低いプレイヤーがより優先的に指令タイルを獲得することになります。

そのため、(手番順にしても設定価格にしても)基本ゲームに比べて値下げによりベネフィットを与えた作りと言え、要所での価格競争がより激化するモジュールという性格も持っています。


◆これぞ熟練者向け。コストに頭を悩ませるハードコアモード

「スマートフォン株式会社」の優れた部分は、現実の経済活動を簡略化、抽象化し、複雑なうねりを持つ社会活動を遊びやすくゲーム的に表現しているところにあります。それは大きな美点の一つですが、一方でそうした抽象化によってシミュレーション的な精緻さを失っている側面もあります。



ハードコアモードは「スマートフォン株式会社」の力学を少しシミュレーションに寄せたルールと言えます。具体的には各アクションにそれぞれ費用が発生します。ノーマルモードでは無料で作れるだけ作ったスマホを売れるだけ売り捌き、売れ残りはそのままポイしてきたのが、これからは無駄なく作り、無駄なく売り切ることを目指すようになります。潤沢に予算をかけることができた研究開発や支店開設もこれからは社内の金食い虫と揶揄されることになるかもしれません。

「スマートフォン株式会社」では売り上げはすべてVPとして処理されてきたので、コストの支払いとはすなわちVPの喪失となります。ゲーム開始時の売り上げが立ち行かない時期にはVPがマイナスの領域に飛び込んでしまうこともあるでしょう。

そうした場合には「利子」が発生し、追加でVPを支払わなければなりません! 逆に潤沢にVPを獲得している企業はボーナスとしての「利息」を得ることができます(ただ、支払う利子に対して、得られる利息は小さく、銀行業への暗い感情を抱きそうになります)。ならば先に売り上げを立ててから技術なり販売網なりを拡充するほうがいいのか……? と戦略の立て方が大きく変わってきます。


こうしたコストの概念の登場によって、「スマートフォン株式会社」は大きく様変わりします。技術が全てをいい方向に動かしていくという技術至上主義のゲームが、現実との折り合いをつけるゲームに変貌するのです。コスト周りの計算によって手間は増えますが、よりリアルな経営ゲームを遊びたいという方にお勧めのルールと言えます。スピンオフタイトルの「モバイルマーケット」でもコストの概念が取り入れられていましたが、やはりこの辺りを意識したものなのでしょう。


ハードコアモードがお届けするのはスマートフォン株式会社の持ち味である「心地よいゲーム体験」とは一風異なるものとなります。より世知辛い、苦みの籠ったゲーム体験を味わえると思いますので、こちらもぜひ遊んでみて頂ければと思います。


なお、ハードコアモードでは指令タイルの達成によって即金が手に入るので、基本ルールと比べて指令タイルの重要度がかなり高くなるかもしれません。


◆様々な遊び方が広がる拡張セット

この拡張セットは大幅なルールの刷新といった要素はなく、基本ゲームにある要素を活かしてゲーム展開のバリエーションを増やした内容と言えます。まさに「Update1.1」の名の示す通りの内容と言えます(とは言え、ハードコアモードはゲーム哲学的には結構大胆な変更だとも思います)。

「スマートフォン株式会社」を楽しんでいる方にとっては選んで間違いのない拡張ですので、ぜひとも一緒に楽しんで貰えればと思います。

また、発売までファンの皆様には大変長い時間お待たせしましたが、やはり、ここが拡張セットの難しいところでして、こちらが出したいと思っていても版元の都合によって実現が難しいということは本当に本当によくあることなのです。

そういう細い糸を掴んでなんとか出版に漕ぎ付けたタイトルになりますので、今後も拡張セットの販売を続けられるように皆様のご助力を頂ければと思っています。どうぞよろしくお願いします!
posted by 円卓P at 11:59| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする