数寄ゲームズは、「ストゥポル・ムンディ:リテール版」日本語版を発売します。プレイ人数1-4人、対象年齢12歳以上、プレイ時間90-150分で、希望小売価格は税込9350円となります。
6月30日より数寄ゲームズ通販サイトにて先行発売を行い、その後、全国のボードゲームショップさんへのご案内、流通を予定しています。

※写真はリテール版ではなく、特別版。見た目の差としては城がプラ駒(特別版)から木製駒(リテール版)に変わります。
「ストゥポル・ムンディ」は、「ニュートン(2018)」「ダーウィンズ・ジャーニー(2023)」(どちらもシモーネ・ルチアーニとの共作)などで知られるネスター・マンゴーネの手による単独作品です。イタリア人デザイナーあるあるなんですが、この人の作品は共作がほとんどで、本作は極めて珍しい単独作です。いかんせん舌を噛みそうなタイトルではありますので、ストポでもストムンでも好きなように略してお呼びください。
出版社のQuined Gamesは「カーネギー」などで知られるオランダの出版社で、その代名詞でもあるMaster Printシリーズはハイレベルなゲーマーズゲームの作品群として知られています。「ストゥポル・ムンディ」の特別版はMaster Printシリーズの28作目となります(なお、リテール版は背表紙に番号はありません)。
そのマンゴーネとQuined Gamesのコラボ作品ということもあり、事前から注目度の高かった本作は、遊びやすくも特徴的なシステムを備えた優れたゲーマーズゲームとして結実しています。マンゴーネのデザインの特徴はユニークな作りのインタラクションにあると感じているのですが(言うても「ニュートン」なんかはほぼインタラクション皆無な作品ですが)、このゲームでもそうした独自性が如実に現れています。
本作においてプレイヤーは「世界の驚異(ストゥポル・ムンディ)」と称された神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世の臣下となり、中世の地中海沿岸を舞台に王国の繁栄を目指します。プレイヤーは協力者を集め、城を建設し、専門家を昇進させることで、フリードリヒ2世への影響力を高め、最終的な勝利点獲得を目指します。
プレイ時間からもわかる通り、要素の多いゲームではありますが、ゲームの特徴はハッキリしていまして、この記事では、ゲームエンジン、成長要素、インタラクションの3点に絞ってご紹介していきたいと思います。
◆カードを表裏で使い分ける悩ましさが特徴のデッキ構築型ゲーム本作のゲームエンジンはデッキ構築に分類されます。プレイヤー駒が輪状のマップを移動する要素もありますが、これをロンデルとか呼ぶ人にはロンデル警察が令状片手に押しかけますからねー。

ちなみに移動「しない」ことを選ぶこともできます。
さて、ラウンド開始時にプレイヤーは手札としてカードを5枚持ち、手番にはカードを1枚プレイしてアクションを実行します。ツイストとして、この時、プレイヤーはカードをオモテ向きでプレイするか、ウラ向きでプレイするかを選択します。
オモテ向き → カードに書かれている効果を実行する
ウラ向き → ボードのスロットに差し込んで槍が示した先のボードアクションを実行する

基本的には穀物、石材、お金といった資源を獲得するためにカードをオモテ向きでプレイし、集めた資源の消費先としてウラ向きでカードをプレイする、という流れになります。ウラ向きのアクションには「専門家の昇進」「市場の訪問」「建造物の建設」「協力者の招集」「アクションカードの購入」の5種があり、どれも重要なアクションです。

オモテ向きでもウラ向きでも、カード1枚のプレイによってボードのスロットが1つ埋まり、すべてのスロットが埋まるとそのラウンドはパスするしかなくなります。
ラウンド終了時には残った手札を好きなだけ捨て、手札上限になるまでカードを引きます。「手札上限」という概念のあるゲームではありますが、手札枚数をチェックするのはラウンド跨ぎの処理だけとなるため、ラウンド中は手札上限を越えてカードを保持する場面もあります。
ちょっとした捻りこそあれ、基本的にはスタンダードなUIなので、ゲームの進め方で戸惑うことは少ないかと思います。ただ、オモテ向きでカードをプレイする場合にもカードスロット1つを埋める必要があるため、どのスロットを埋めるかは悩ましい選択と言えるでしょう。
また、こうしたメインエンジン部分は、後述する「天守」の建設によって強化することができます。
◆カード、建物、専門家の3本柱が織り成す成長要素最初はできなかったことがゲームの進展に応じてできるようになる、成長・強化要素は重量級ゲームの快楽装置の最たるものです。これをもって拡大再生産などと呼ぶこともあります。
本作における成長・強化要素は大きく3種類あります。
1つ目。新カードの購入によるデッキの充実
2つ目。建物の建設による能力の強化
3つ目。専門家の昇進による特殊能力
です。それぞれについて説明しましょう。

新しいカードを購入することでデッキの質をより高める楽しさはデッキ構築というエンジンの存在意義と言えるでしょう。本作ではボードアクションの1つ、「アクションカードの購入」によって上級アクションカードを購入できます。
で、この購入したカードの処理に工夫がありまして、新しいカードを購入するとその効果を即時で使用することができます。展開が早い!
すなわち「カード購入アクション」=「新カードをプレイするアクション」でもあるのです。……カード購入コストが払えればね。
また、こうして購入したカードは効果を使用したあと、
捨て札に置かれずに手札に入ります。この手のデッキ構築ゲームでは購入したカードは一旦捨て札に置かれるのが通例ですが、このゲームでは即時で使用した上に手札に入り、さらに次の手番で使用することもできるという…… 実にリターンの速いゲームとなっています。
まあ、基本的には1手番にはカードを1枚しか使わず、慣れてくればゲームはおおよそ20手番前後で終わるため、デッキがぐるぐる回転する類のゲームではないのですね。なので、わざわざ手番を使って購入したカードがちゃんと利益を出せるようにアウトプットが早い設計になっているわけです。
また、初期カードの効果は「資源1個を得ます」とか「3金を得ます」とか、まあ、シンプル弱いです。いかに初期カードを使わずに回していくかが攻略のポイントと言えます。

それに対して上級アクションカードは「資源2個を得ます」とか、「6金得ます」とか単純に2倍や3倍強い効果だったりするので、じゃんじゃんカードを買ってじゃんじゃんデッキを強化していきましょう。……そしてデッキが太る!

そう言えば、圧縮戦術を好む諸兄にお伝えしておきますと、このゲームでは能動的にデッキを圧縮する手段はありません。一部のカードは購入コストとして手札か捨て札からカードを1枚廃棄するものがあるのですが、これが唯一の圧縮要素です。
デッキの回転効率を上げる方法は、どちらかと言えば手札上限を増やしてドロー数を増やすというアプローチになります。
2つ目の成長要素は、建造物の建設によるプレイヤー能力の強化です。このゲーム、結局は何をするゲームなのかと言えば、資源を集めて建物を建てるゲームです。よくあるやつ!
で、建物には「塔」「壁」「天守」の3種があり、それぞれ建設することで対応した利益がアンロックされるようになっています。

1つ目の「塔」は、建設することでプレイヤーは協力者を置くための部屋を作ることができます。協力者はこのゲームの主要な得点源で、塔を建てることでより多くの協力者を獲得できるようになります。
2つ目の「壁」は、資源を保管する倉庫の役割を持ちます。初期状態ではプレイヤーは資源を最大3つしか持つことができません。壁を建設することでプレイヤーは資源をより多く持つことができ、資源のやりくりが簡便になります。地味ながら重要!
3つ目の「天守」は、様々なプレイヤー能力がアンロックされます。例えば手札上限が5枚から7枚に増えたり、1ラウンド中の行動回数が1回増えたり、1回の手番で2つのボードアクションが行えたりします。
天守の能力解放は実に強力なのですが、天守の建設にはコストとして資源が4つ必要です。そしてプレイヤーが初期状態で持てる資源の上限は3つ…… おわかりですね、天守を作るためにはまず壁を作って倉庫のキャパを広げる必要があるのです。
また、塔と壁はセットで作ることでラウンドごとに収入をもたらすようになります。これは「マルコポーロの旅路(2015)」よろしく、完成した瞬間にも1回収入を得られる仕組みなので、なるべく早く完成させたいところですね。

収入は「石材」「穀物」「3金」「交易1回」「1勝利点」の5種。どれから作る?
最後の3つ目の成長要素は専門家の昇進です。
ゲームボードには3つの進路、特殊能力トラックがありまして、プレイヤーは自分の持っている3つの専門家をこの進路に沿って進めることで様々な特殊能力を得ることができます。

ゲーム好きなら「ツォルキン(2012)」の頃から見知っている技術トラック(注1)的なものなんですが、特徴的なのは「今、専門家がいるスペースの特殊能力のみ使用できる」点です。専門家が昇進して次のスペースに移動すると、今まで使用していた特殊能力は失われて、新しい特殊能力だけが使用できるようになるのです。

昇進によって「天守を建てると4点」の能力は失われ、これからは「塔か壁を建てると3点」の能力を得た、という例。
なので、ゲーム中に「専門家の効果を使います」「あ、それ昇進しちゃったんでもう使えないっすよ」みたいな会話が起きたりします。再びその能力を使うためには別の専門家をそこまで持ってこなければならない……!
それを踏まえて、さて、手元にいる3つの専門家をどう進めるか。得られる効果は最大3つまで。専門家同士のコンボが発生するような効果もあるので、セットアップを見てどのような戦略を取るかの組み立ても重要です。
以上、3つの成長要素についてさっくりとご紹介しました。手札を強めるか、建物を建てるか、専門家を昇進させるか、成長の方向性が色々あり、なおかつどこからアクセスしてもよい自由度も担保されているのがワクワクするところです。強いて言えばカードだけは現品1枚限りの早い者勝ちなので、欲しいカードは人に先んじて確保した方がいいかもしれませんね。
◆NPC皇帝を介した間接的マジョリティ争いと布告による盤面操作さて、このゲームの最たる特徴は得点にまつわるインタラクションの仕組みです。
このゲームのテーマは神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世の家臣として王国(帝国ではない)の発展に努めるといったものなのですが、このゲームではNPCプレイヤーとしてフリードリヒ2世が登場します。他のゲームでもソロプレイなどでNPCプレイヤーが登場することはありますが、本作ではプレイ人数に関わらずNPCプレイヤーが常に登場します。
ちなみにフリードリヒは常に黄色の駒を使うので、プレイヤー色として黄色を使用している方は本作では別の色をご使用ください。ぼくも黄色使いの身なのですが、このゲームではやむなく別の色を使ってます。
あと、プレイヤー色と言えば、色によって初期カードの構成が異なる非対称の作りなので、色々なプレイヤー色を試してみるのもいいと思います。上級カードを購入できる赤のサヴォイア家なんかは安定して強いんじゃないでしょうか。まあ、とは言え、このカードを最初に引けるかどうかは運なんですが……

……話が逸れました。NPCプレイヤーのフリードリヒはプレイヤーのように手番を行うことはありませんが、様々なタイミングでマジョリティ比べに出張ってきます。先ほど、プレイヤー色によって初期カードの構成が異なることをお伝えしましたが、各プレイヤーはフリードリヒの盤面に応じて得られる効果が変わるカードをそれぞれ持っています。
例えば赤のサヴォイア家であれば「フリードリヒの協力者1枚ごとに穀物1個を得る」という効果です。ですから、フリードリヒのお城に協力者がいればいるほどこのカードによる実入りが増える…… ので、このプレイヤーはフリードリヒの協力者を増やすことにメリットが生まれます。相対的に、他のプレイヤーにとってはフリードリヒの協力者は邪魔だ、という話にもなります。
さて、プレイヤーは「協力者の招集」アクションで協力者を得ることができます。協力者は各ラウンドでの収入としてプレイヤーに1勝利点をもたらすのですが、フリードリヒの城と自分の城を比較して協力者特有の条件を満たしている場合、さらにボーナスとして追加の2勝利点ももたらします。

そのため、自分の確保した協力者の条件に沿って自分の盤面を充実させることが点数行動としては重要になります。また、逆にフリードリヒの盤面を弱体化させるのも手です。
弱体化……? はい、このゲームでは「布告」を介することで、フリードリヒの盤面を弄り回し、建造物や資源や協力者を増やしたり減らしたりできるのです。ゲーム中、プレイヤーは様々な方法で布告を発令することができるので、自分の都合のいいようにバシバシ布告を発令していきましょう。

例えば一番上の布告はフリードリヒの城に壁2つと天守1つをそれぞれ建設するか取り除くかを選ぶ、という内容。
フリードリヒには布告に逆らう権限はないので(神聖ローマ皇帝……!)、当初は立派だった城郭があっという間に取り壊されたりもします。このゲームの建物はタイルでも事足りるのですが、わざわざ立派な木駒がごっそり用意されていて、家臣の損得勘定に振り回される光景が愉快な作りとなっています。
こうした協力者と布告の政治力学が本作の独特なインタラクションを形作っています。通常のゲームではプレイヤー間のリソースの多寡でマジョリティ比べを行うところ、このゲームではフリードリヒというNPCプレイヤーを介した間接的なマジョリティ比べを行うのです。
なので、他プレイヤーの取った何気ない布告の選択が自分にとって致命的な一手になりえることもあります。布告は他のプレイヤーの盤面をよーく確認してから選びましょう。

通常、緑の独立派(皇帝うるせえよ派)と赤の王党派(皇帝大好き派)の条件は対立します。独立派の「テオフィロス」は自分がより多く穀物を持っているとボーナスが得られ、王党派の「シゲベルト」はフリードリヒがより多く穀物を持っているとボーナスが得られます。
◆内向きの成長と外向きの政治が融合した、中世テーマの重量級戦略ゲーム「ストゥポル・ムンディ」は様々な成長要素にアクセスして自分の能力を高めていく箱庭ゲームの内向きの楽しさと、協力者の条件を満たしたり、他プレイヤーを牽制するために布告を発令するポリティクスの外向きの楽しさが高度にミックスされたゲームと言えます。
慣れないうちは他人の発令した布告によって自分の意思の範囲外から振り回されるゲームとも感じるかもしれませんが、実のところ、しっかりと自分のエンジンを形作れば収入も増えて布告の発令回数も増えるため、アドバンテージを握りやすくなります。
エンジン強化で力押しもできますし、そうした派手なエンジンを作った人を布告で刺すこともできるので、「結局強いエンジンを作った人が勝つんでしょ」とも「結局マルチ的に得した人が勝つんでしょ」とも言い難い絶妙なバランスのゲームに仕上がっています(初プレイの人が経験者に勝つのは結構難儀かなーと思えるくらいには習熟の段階があるゲームなので、どちらかと言えばエンジンでねじ伏せられると思ってはいますが、自分vs他3人の構図になったらさすがにしんどいかな)。
プレイ人数的には1〜4人のどの人数でも変わらず楽しめる内容です。インタラクションの強いゲームは少人数だと楽しめない向きもあるのですが、このゲームは先述の通り、NPCプレイヤーを介してインタラクションを生んでいるゲームなので、少人数でも本質が損なわれることはありません。ダウンタイムが気になる方は3人までの方がいいかもしれませんが、ここは好みかなと思います。
唯一注意するべき点は、ゲームの終了条件が固定ラウンドではないので、初回プレイは特にプレイ時間が延びやすいということでしょうか。これは「ドミニオン(2008)」や「カタン(1994)」を初プレイの人が遊ぶと間延びしやすいのと同じ話ではありまして、ゲームに慣れるに連れてより効率的な行動が取れるようになり、結果として手数が少なくなるということです。
「地味なゲーム」という感想を目にすることもたまにあるんですが「手番に石1個貰って終わり」「次の手番に3金貰って終わり」という動きを続けてたら、まあ、そういう印象にもなるかな、という気はします。で、この記事をここまで読んで貰った方には通じると思うんですが、そういうプレイをしてる限りは勝てないゲームです。
それだけ乗りこなし甲斐があるゲームとも言えますので、こうした重量級ゲームがお好きな方はぜひぜひ遊んでみて頂ければと思います。プレイ時間自体は結構ゴツい表記ではありますが、要素の繋がりが複雑な捻くれた作りではなく、モダンユーロ本流の素直な部類の作りです。
まあ、やることは資源集めて建物建てて協力者集めて布告を出すだけですからね。リソースも3種だけですし、穀物は基本的に協力者に使い、石材は建設に使うと用途もわかりやすいです。
こうした中世ヨーロッパテーマの戦略ゲームも考えてみれば最近はかなり少数派なので(宇宙or自然ばっかり)そうしたゲームを久々に遊びたいなーという方もぜひ触ってみて貰えればと思います。面白いですよ!
ストゥポル・ムンディ:リテール版

プレイ人数:1-4人
対象年齢:12歳以上
プレイ時間:90-150分
ゲームデザイン:Nestore Mangone
アートワーク:Maciej Janik
希望小売価格:9350円(税込)
(注1) トラックを進めることで累積的に別種の能力を獲得する仕組みって「ツォルキン」以前のゲームがちょっと思い当たりません。単一の要素(カードドロー数とか)がインクリメントしていく仕組みだと「ゴア(2004)」とか「インドネシア(2005)」とかが思い浮かびますが。「ケイラス(2005)」は即時効果であって能力の強化ではないのでこれも違うかも。今では「サルトフィヨルド(2024)」のように当たり前に使われてる仕組みですが、そういう意味でも「ツォルキン」はエポックだったのかも。