2022年09月02日

ゲーム紹介「厄介なゲストたち」



 数寄ゲームズは1000回遊べる推理ゲームの最新機軸「厄介なゲストたち」を販売します。プレイ人数1-8人、対象年齢12歳以上、プレイ時間45-75分で、小売希望価格は税込5940円となります。


 数寄ゲームズ通販サイトにて9月6日より予約開始、9月14日より先行発売を始めます。その後、全国のボードゲームショップさんへのご案内、流通を予定しております。




 「厄介なゲストたち」は、1946年に発売された古典推理ゲーム「Cluedo」の系譜を組む推理ゲームです。「Cluedo」は容疑者、凶器、犯行現場のカードの束からそれぞれ1枚を秘密裏に引いて伏せることで「事件」を作り、その事件の真相を明らかにすることをプレイヤーが目指すという骨組みのゲームです。

 「厄介なゲストたち」ではこの骨組みがさらに拡張され、プレイヤーは事件の犯人、凶器、動機、そして共犯者の有無とその動機までもを突き止めなければなりません。


 しかも事件は単純なカードの順列組み合わせから形作られるのではなく、243枚のカードから特定の組み合わせで選ばれた70枚のカードの組み合わせによって作られるのです。「ブリリアントデッキシステム」と名付けられたこの独特なシステムは、素直に「どうやって作ってるんや!?」と驚かされる仕組みになっています。







 ゲームの流れについては文章を書くことのプロであるところの我孫子武丸先生が紹介記事をしたためてくださったので、そちらをご覧頂ければと思います。ぼくがダラダラと書き連ねるよりも断然読みやすい!


 Awkward Guests(厄介なゲストたち)
 https://note.com/abikotakemaru/n/n583030a3fcfe


 こちらは以前に販売した和訳付き英語版の紹介なので、用語等は日本語版とは異なる箇所がありますが、ゲームの流れに違いはありません。


 ちなみに我孫子先生には「厄介なゲストたち」の制作にひとかたならぬご協力を頂いておりまして、以前入荷した和訳付き英語版では用語の選定を監修をお願いし、今回の日本語版ではキャラクター造形、背景設定についてもお力添えを頂いております。

 「厄介なゲストたち」のキャラクターは見た目通りのコッテコテなバタ臭さなので、人物設定も原文では日本人にとってちょっと馴染みのない要素が散見されたのですが、そこを古典推理小説に見合った重みと胡散臭さを保たせつつ、日本人にもわかりやすいように整えて頂いた形になります。この辺りはさすが本職のバランス感覚で、硬軟の取り方がなかなか難しいところをうまくやって頂きました。


◆コンボ。ガチャ運。カードゲームの快感を備えた推理ゲーム

 さて、このゲームならではの魅力として「実際に推理してる感が強い」という点が挙げられます。やっていることは古典的な推理ゲームと同じ消去法ではあるのですが、それらと比較して真相に至るための道筋がいくつもあるというか、同じ事件に取り組んだプレイヤー同士でも、それぞれが違うアプローチで真相解明に近づいていくという辺りがこのゲームのユニークなポイントであると言えます。



 これを違うゲームで例えると、「TCGで即死コンボデッキを完成させるゲーム」という例え方ができるんではないか、とこっそり思っています。そのコンボを組み上げた瞬間に勝ちが確定するような強力なコンボ。しかしそのコンボを完成させるためには様々なカードを組み合わせなければならない。そんなイメージです。

 で、最終的な即死コンボは決まっているものの、コンボパーツの組み合わせパターンがデッキの中に無数にあり、プレイヤーによって「今回行けそうなコンボはこの流れだ!」というのが異なる、というような感じ。

 すげえ昔のM:tG話で申し訳ないのですが、停滞/Stasisを維持するために吠えたける鉱山/Howling Mineを使うのか、資源の浪費/Squandered Resourcesを使うのか、時エイトグ/Chronatogを使うのか、まあ、カウンターとかライブラリー制御とか色々なパーツが全部デッキに入ってるから、どれが早く完成しそうかは流れを見て判断してね、みたいな。


 また、「カード70枚で構成されている事件のデッキ」というのが実にうまい作りなのです。このカード枚数は、この手の推理ゲームとしては、べらぼうに多い枚数です。


 例えば「Cluedo」なんかは6人の容疑者、6つの凶器、9つの部屋を示す21枚のカードから、最初に除かれた3枚のカードを推理するゲームです。真相を解明するには残り18枚のカードを見る必要があります。

 「厄介なゲストたち」は1回のゲームで「Cluedo」の3倍以上のカードを使うゲームなのですが、全部のカードを見る必要はありません。難易度にもよりますが、70枚のうち半分くらいを見れば真相に辿り着くようにできています。事件の真相に辿り着くカードの組み合わせがデッキの中に何パターンも用意されているという感じです。

 つまり、カード1枚辺りの情報の重みが他のゲームに比べて軽いため、カードドローの回数を増やせるというゲーム体験上の利点があります。

 「カードを引く」「ダイスを振る」と言った運試し、ギャンブル、ガチャはもうそれだけで単純に強烈な快感なのです。「厄介なゲストたち」は他のゲームに比して多量のカードを投入することで情報を断片化し、ガチャの回数を増やし、快感を得られる回数を増やすとともに、プレイヤーごとのアタリ・ハズレにも豊富なバリエーションを持たせています。

 「厄介なゲストたち」は、まさに見出しの通りに「カードゲームの快感を備えた推理ゲーム」なのです。楽しさのタネはなんぞや、という観点から見た場合、カードドローの回数が圧倒的に多い点が従来の推理ゲームと大きく異なる点と言えましょう。



 さて、このように「厄介なゲストたち」は、構造自体は実にユニークで、素晴らしいゲーム理論を実現しているものの、肝心のカード引き、カード分配の部分には「Cluedo」からの進化があまりなく、ここが体験として若干惜しい部分とも言えます。対戦相手に情報を与えない立ち回りは「Cluedo」くらいシンプルなゲームであればゲームテクニックとして成り立つのですが、いかんせんこのゲームくらい情報が複雑化するとストレスが先立ちやすい面があります。もっと素直に快感に寄せてよいのではないかなと個人的には思います。


 優れた仕組みの多いゲームなだけにこの点だけは惜しいなー、と思うので、このモヤモヤを解決すべく、今回はバリアントルールコンテストを開催しようと思っています。よりゲームをクイックにカジュアルに遊べるバリアントルールを公募して、数寄ゲームズ公認バリアントとして公開するという考えです。

 コンテストの要綱は後日告知させて頂きたいと思います。英語版を持ってるんだけど日本語版を買い直すにはちょっと……という方向けに日本語版製品を賞品でご用意させていただく他、入賞者にはちょっと面白い賞品を贈呈させていただく予定です。


◆これぞ古典の超進化。1000回遊べる推理ゲーム

 さて、「厄介なゲストたち」のルールブックには30件以上の事件が掲載されていて、これを遊びきるだけでも一苦労なのですが、対応の専用アプリ(日本語化されてます!)を利用することで何千何万という事件をランダム生成して、遊ぶこともできます。最近はマーダーミステリーや脱出ゲームのように練り上げられた謎やシナリオを遊ぶ1回限りのゲームも人気ですが、それらとは異なり、このゲームではランダム生成された様々な事件シナリオを心ゆくまで遊べる点が大きく異なります。言わばシナリオやギミックを練り込んだ本格RPGとランダム生成されたダンジョンを練り歩くローグライクRPGの違いとでも言いましょうか。



 そう言えば、「厄介なゲストたち」の「1000回遊べる推理ゲーム」というキャッチフレーズは、まさにローグライクRPGの「トルネコの大冒険」でダンジョンがランダム生成されるように、事件が無数にランダム生成されるところをイメージしています。それで今気づいたんですが、「トルネコの大冒険」は我孫子先生がシナリオを担当した「かまいたちの夜」と同じチュンソフトなので、これはチュンソフト繋がりで脳内から這い出てきたフレーズなのかもしれません……


 少し長くボードゲームを遊んでいる人には驚かれるかもしれないのですが、店頭でお客さんから「四人の容疑者」について「これって1回だけしか遊べないゲームですか?」と聞かれることって少なくないんですよね。これはそうしたシナリオタイプのゲームが最近大いに盛り上がっていることから来るものでしょう。

 「Cluedo」系譜の推理ゲーム、「四人の容疑者」もそうですし、「スルース」「ブラックウィーン」「カテリーナの陰謀」、新しいところでは「クリプティッド」「惑星Xの探索」もこのグループと言っていいでしょうか、そうしたゲームを知っている人であれば、「1000回遊べる推理ゲーム」という惹句は「今更何を言ってるのか」と思われるかもしれないのですが、シナリオタイプの推理ゲームとは違う文脈、系譜のゲームなんだよ、ということをここで今改めて強く宣言しておきたいなということで、このように表現しております。ちょうどのこの辺りも「トルネコの大冒険」で、ローグライクという概念がまったく浸透していなかった日本で、どのようにローグライクを紹介するかで腐心したという当時の話に通じるものがあるようなないような……


◆ソロプレイもオススメ。秋の夜長に推理ゲーム

 また、このゲームの推しポイントとして、専用アプリを使ったソロプレイも実はかなりのオススメです。こうした推理ゲームって原理的に人数が必要なのですが、そうしたボトルネックさえもアプリの導入によって解決されているのは一つの革命なんではないかと思います。かがくのちからってすげー!

 安楽椅子探偵のように、ゆったりと心ゆくまで自分の推理に没頭できるのはソロプレイならではの特権と言いますか、比較的長考気味な自分にとってはマイペースに遊べるのはマルチプレイゲームとはまた違った楽しさがあります。


 ソロプレイについての詳しい遊び方は、こちらの記事で紹介しております。

 「Awkward Guests / 厄介なゲストたち」ソロプレイの遊び方
 http://sukigames.seesaa.net/article/477481314.html

 こちらは和訳付き英語版を販売した際に書いたものなので、アプリ画面も英語ですが、現在はアプリも日本語化されていますので相当遊びやすくなっています。UIもアップデートで若干変わっています。


 カードの準備と片づけがやや面倒くさいのが難点ではありますが、自分の持っていない情報をいかにアプリから引き出すか、質問の仕方にテクニックがありますので、色々と試して頂ければと思います。


◆唯一無二の推理ゲームをぜひ

 ということで、「厄介なゲストたち」は様々なユニークな長所を備えた推理ゲームです。このゲームが発売された2016年であれば、文句なしに推理ゲームの最新鋭と言えたのですが、それから6年が経ち、後継作としてより洗練された同作者の「ScandalOh!」が発売されたり、細々としたセットアップを完全にアプリに任せてプレイアビリティを向上させた「惑星Xの探索」といったゲームも生まれ、このゲームの先進性は若干過去のものとなりつつはあります。

 しかしながら、洋館での殺人事件というベタベタな推理小説テーマのゲームとしては今なお「厄介なゲストたち」は唯一無二の存在ではあります。マーダーミステリーなどが流行るところからも分かる通りに、日本人は推理テーマが殊の外好みです。

 名探偵コナンなんかは今や国民的マンガ、アニメですしね。まあ、わしらが子供の頃はコナンと言ったら未来少年か蛮人だったのじゃが…… と言うか、今回の記事は昔話が多すぎますね!

 駄話は置いといて、そういう意味でもこのゲームは広く愛されるゲームなのではないかと思います。英語版でも何度か遊んだのですが、今回の日本語版を改めて遊んでみるとやっぱり面白いゲームだなあ(あと日本語版は遊びやすいなあ)と思わされたので、ぜひ多くの方に触れて頂きたいと思います。


 あと、数寄ゲームズ通販サイトにて販売する「厄介なゲストたち」日本語版にはゲームの手助けとなる「推理の手引きシート8枚」を同梱いたします。ルールブックからは読み解きにくい細かいゲームの仕様についての補足を記したシートで、初めてこのゲームを遊ぶ際に落としやすい情報を記しています。

 ルール自体はさほど難しいことは書いてないんですけどね。ゲームの細かい仕様が読み取りづらいと言いますか。



 シート自体は印刷可能なPDFファイルを後日公開しますので、数寄ゲームズ通販サイト以外で購入される方でも入手できます。手作りなのでデザイン的な部分は目を瞑って貰えれば幸いです!


厄介なゲストたち(2022/原版は2016)

プレイ人数:1-8人
対象年齢:12歳以上
プレイ時間:45-75分

ゲームデザイン:Ron Gonzalo García
アートワーク:Samuel Gonzalo García, Laura Medina Solera
出版社:Megacorpin Games / 数寄ゲームズ

小売希望価格:5940円(税込)
posted by 円卓P at 12:20| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年09月01日

ゲーム紹介「メッシーナ1347」



 数寄ゲームズはデリシャスゲームズのワーカープレイスメントゲーム「メッシーナ1347」を販売します。プレイ人数1-4人、対象年齢12歳以上、プレイ時間60-140分で、小売希望価格は税込8800円となります。


 数寄ゲームズ通販サイトにて9月6日より予約開始、9月14日より先行発売を始めます。その後、全国のボードゲームショップさんへのご案内、流通を予定しております。



 「メッシーナ1347」は、「アンダーウォーターシティーズ」「プラハ 王国の首都」「パルサー2849」など優れたゲーマーズゲームの作者として知られるVladimír Suchýと、これがデビュー作となる新鋭Raúl Fernández Aparicioがタッグを組んで送り出すワーカープレイスメントです。プレイヤーはシチリア島北部にある都市メッシーナにおいて有力な貴族となり、蔓延する黒死病の脅威と戦い、街の復興に尽力にします。

 舞台こそ時代も距離も遠く離れた場所の出来事を描いた作品ではありますが、新型コロナウィルスという未曾有の疫病と今まさに対面している私達にとって、災害とも言えるほどの疫病との戦いというテーマは極めて身近で刺激的な設定と言えましょう。



 ちなみに歴史的にも黒死病の大流行が始まった年である1347年は「いざ死なせまいメッシーナ」と語呂合わせで覚えていただければと思います。世界史のテストにぜひお役立てください!


◆名作請負人スヒィさんの新たな挑戦は、共作!

 「コードネーム」や「スルー・ジ・エイジス」、最近では「アルナックの失われし遺跡」などで知られるチェコゲームズエディション(CGE)。そこで「パルサー2849」や「おかしな遺言」などのタイトルをデザインしていたウラジミール・スヒィが独立し、個人出版社であるデリシャスゲームズを立ち上げたのは5年前の2017年になります。

 そこからスヒィさんは「アンダーウォーターシティーズ」でCGE時代に垣間見せたデザインセンスが本物であることを証明し、デリシャスゲームズの三作目として自身の生まれ故郷から名を取った「プラハ 王国の首都」を発表し、これまた高い評価を得ることに成功しました。


 タイトルからも分かる通りに「プラハ 王国の首都」はスヒィさんにとってまさに乾坤一擲の一作。「果たして次の一手は!?」と注目が集まっていたところ、繰り出してきたのが今作の「メッシーナ1347」ということになります。

 今回スヒィさんが選んだのは共作という新たな挑戦。今回の「メッシーナ1347」はスヒィさんの単独作ではなく、これがデビュー作となるラウル・フェルナンデス・アパリシオとの共同作業になります。

 CGE時代から通してもスヒィさんは共作という形でゲームを出版したことはなかったため「スヒィさんがメインなのか、サブなのか?」「CGEはディベロップに定評があるが、スヒィさん自身のディベロップ力はどうなのか?」「一体どんなゲームができあがるのか?」と、ぼく個人としても様々な興味が湧き上がったものです。

 BGGに寄稿されたデザイナーダイアリーによると、テーマの選択に始まりゲームのコンセプトの大部分はアパリシオによって組み上げられたもので、ゲーマーズゲームとしての調整をスヒィさんが行うという役割分担が行われていたようです。

「メッシーナ1347」のデザイナーダイアリー(英語)
https://boardgamegeek.com/blogpost/122130/designer-diary-messina-1347

 実際に遊んでみると、その仕上がりはデリシャスゲームズ諸作に通じる上品で充実度の高い一品。しかしながら、「アンダーウォーターシティーズ」「プラハ 王国の首都」に比べてより引き締まった硬質な触感もあり、このタイトさにアパリシオの作風が出ているのかもしれません。スヒィさんだけだともう少し揺らぎを持たせるのではないか、という箇所がビシッと固められていて、歯応えを楽しませる方向に寄せているように思います。


 スヒィさん特有のデベロップ、例えば各要素のコンボ性や時代IとIIに分けたコンポーネント構成、タイルのめくり運の緩和、最終得点ボーナスの掛け算など、「らしさ」は随所に見られます。一方でこれまでのデリシャスゲームズ諸作に比べてアドリブ性よりも計画性を重視した作りとなっていて、ゲーマーズゲームを好む人にはむしろこの実直さが好まれるように思いますね。ここがアパリシオらしさ、なのかなあ。

 アパリシオの一番の仕事はテーマ選定で、流行病の蔓延した都市とそれに関わる人々の姿を描き出すことで、独特のプレイフィールやメッセージ性を生み出しています。オチから言うと「なんか思ってたんと違う!」なんですが、今の時代にも通じる実に風刺的な味わいのテーマ性を生み出しています。

 基本的にスヒィさんはユーロ畑のシステムモンスターなので、ゲームのテーマ付けにはそれほど興味がない人ではあると思います。そんなスヒィさんの諸作の中で唯一テーマ性から興味を惹かせてくれるゲームが「おかしな遺言」なのですが、このゲームも「おかしな遺言」に並ぶテーマとシステムの結びつきが強いゲームなのではないかと考えています。


 それは一体どういうことなのか? その辺りをテーマから深く掘り下げていきましょう。


◆メッシーナの街から市民を救助せよ! ……救助とは?

 さて、繰り返しになりますが、このゲームは、黒死病の蔓延したメッシーナの街から市民を救い出し、荒廃した街を再興するテーマのゲームです。死と再生と言いますか、一度は滅び、そして復活に至る物語がラウンドの流れに沿って展開されます。



 このゲームはワーカープレイスメントで〜、最初にワーカーを3つ持ってるんだけど最大で5つ持てて〜、アクションスペースがランダムに配置されてて遠くのアクションを実行するには余計なコストがかかって〜、ラウンドごとの手番順は様々なトラックの進み具合で決まってて〜、などなど、細かい仕様を言い出したらキリがないので、その辺のゲーム的な仕様説明は割愛します!

 いや、この辺の工夫の数々を語るのはゲーム好きとして楽しいところではあるんですけども、逆にゲーム好きにしか伝わらない「細かすぎて伝わらないモノマネ」みたいになるので、どこかの機会で語れたらいいなあと思っています。というか、一回書き出してみたらあまりに膨大すぎたのでザックリ除きました。ルールブックに書いてあるので読んでください!


 様々な要素の渦巻く本作において、一番のポイントは何か!? 端的にそれをお伝えするとなると、それはメッシーナの街で救出する「市民」の扱いにあるのではないか、と考えました。

 このゲームにおける「市民」は言わばリソースの一種で、様々な使い道…… いや、利用法…… 違うか、処遇……? ダメだ、どんな言葉を選んでもアレな感じになってしまう…… ともかく、市民を助けることは自分にも利があるのです。


 このゲームでは選択したアクションスペースに市民がいた場合、市民を救助して自領に避難させることができます。今やメッシーナの街は黒死病が蔓延し、壊滅の危機に瀕しているのです!

 自領に避難させた市民には、幾つかの配置の選択肢があります。1つは個人ボードの各マスに配置することで監督アクションと呼ばれるアクションを起動する「鍵」にできます。もう1つは建設した作業所に配置することで、その作業所から収入を得ることができるようになります。どちらにしても、市民はプレイヤーに利益をもたらしてくれる存在なのです。もしかして拉致では?



 また、市民には「職人」「修道女」「貴族」の3種があり、種類によって配置できる区画が異なっていたり、働ける作業所が異なっています。そのため、自分にとって必要な市民の種類はどれかを考えることが重要です。命の選別では?


 こうして一度は自領に保護した市民は、ゲーム後半にメッシーナの街の再開発のために旅立っていきます。……テーマ的な表現としてはそんな感じなんですが、プレイヤー目線的には市民(と様々なリソース)を支払うことで大量得点を獲得できる塩梅です。市民から利益をチュウチュウするか、得点を得るかが悩ましい!(人として最低のセリフ)




 さて、こうした市民の中には運悪く疫病に罹患してしまった人もいます。市民を救助する際にアクションスペースに疫病駒がある場合、その人はすでに疫病に罹患済みなのです。

 しかし、ご安心ください。プレイヤーは慈悲深い貴族ですゆえ、病気の有無なく、別け隔てなく市民を自領に避難させます。貴族様あったけえ……

 しかしながら、疫病の蔓延を防ぐため、やむを得ないのですが、病気の市民は隔離小屋に配置する処置を取らせて頂きます。隔離小屋に配置された病気の市民は2ラウンド後には健康を取り戻し、他の市民と同様に区画に配置したり、作業所で働けるようになります。回復おめでとうございます。


 隔離小屋まで来れば一安心ですね。じゃあ、健康になるまでの2ラウンドの間、働いてもらいましょう。


 なんと、このゲームには隔離小屋の改善という要素があり、改善された隔離小屋は、病気の市民を配置することで作業所と同様に収入を生み出すのです。鬼の所業では?




 ちなみに2ラウンド後、市民が健康になると隔離小屋は働き手を失い、収入を生み出さなくなってしまいます。健康な市民を隔離小屋に留め置くことなどできないのです! そりゃもう人道的な観点から!

 そのため、隔離小屋の新たな働き手はメッシーナの街から補充してこなければなりません。もはや救助と経営の主客が転倒しておる……

 ゲーム中のプレイヤーは「健康な職人はいらん。病気の修道女が欲しい」などと常時口走っているため、まるで新手の貧困ビジネスのようです。

 いえ、しかしこれもまたメッシーナの再興のためなのです。得られた収入はいずれメッシーナの再開発費用として還元され、そしてプレイヤーは得点という名の名誉を得るのですから。Win-Winということですよ。

 ちなみにアクションスペース上で疫病駒と一緒に置かれた市民はラウンド終了時にゲームから取り除かれてしまいます。抽象的な死の表現ですね。ですので、救助は立派な人助けなのです。


 ということで、ツッコミどころは多いのですが、このゲームにおいて、様々な利益をもたらす市民の救助はプレイヤーにとって極めて重要な選択なのです。果たして自分にとって必要なのは、職人なのか、修道女なのか、貴族なのか、その中でさらに健康な人なのか、病気の人なのか、深く検討する局面が訪れます。


◆決してイロモノではない、硬質なワーカープレイスメント

 とまあ、ゲームシステムとテーマの関係性から読み取るに、このゲームはこういうメッセージのゲームだよね、と解釈してはいるのですが、ゲームそのものはテーマ先行のイロモノでは決してなく、数寄者が唸る本格的なワーカープレイスメントです。

 先程も少し触れたのですが「アンダーウォーターシティーズ」や「プラハ 王国の首都」より運要素を削ってシュッとさせた印象さえあります。例えば、ぼくは「プラハ 王国の首都」の最終得点タイルのガチャが苦手なのですが、「メッシーナ1347」ではそうした最終得点の掛け算は最初から提示されていますし、プレイヤー同士で奪い合うこともありません。インタラクションを持たせるところと、そうでないところの境界線の引き方がかなりぼく好みというか、日本人好みな感じではないかと思います。


 また、基幹のワーカープレイスメント部分も、1つのアクション選択で、アクション自体の選択は元より、先程の市民の選択や、疫病駒に対する対処など、考えることは無数にあり、一手が実に悩まし楽しいゲームです。とは言え、この部分にさほど突飛なアイディアを盛り込むようなことはしていないため、デリシャスゲームズとしてはスッキリとした部類のゲームかと思います。

 6ラウンドでワーカーが3個、途中でワーカーが増えたり減ったりするので、トータルでは手数は20手番前後になるのではないかと思います。手数が少ないと1手辺りが重くなりますし、多すぎると間延びしやすくなるので、ちょうどいい塩梅ですね。


 ビジュアルも含めてゲーム的な見どころとしては、プレイヤーボードの曼荼羅じみたデザインが挙げられるでしょうか。先程少し触れた避難した市民を配置する区画というのがこれで、茶色が職人、緑が貴族、青が修道女を配置できる区画と決まっています。この時代は厳密に居住地が分かれていたのですね(というテーマ性から来るものなのでしょうか)。



 このプレイヤーボードでは、中央に配置されている「監督駒」が前進することで、隣接するアクションを発動させることができます。ただし、発動には条件として市民が配置されている必要があるため、まずは市民を配置して、その後監督を前進させる、という手順を踏まなければ無駄アクションになってしまいます。

 また、監督駒は裏返すことで「改善」し、より効率的にアクションを発動させることもできます。なので「監督駒を動かして利益を得たい! でも、その前に監督駒を改善したい! でもそのためには別のアクションを先にやらなきゃならない!」といった感じの悶えるマネジメント要素が当然のようにあるワケですね。



 そうして得た様々なアクションによって別のアクションが発動し〜、といったコンボ性は今回も健在で、これをやってこれを得てこれを取ってこれを貰う、といったズルくさい動きをしてると、あー、スヒィさんのゲームを遊んでるなーという感覚になります。

 資源のやりくりはシビアですし、手数は慢性的に足りないですし、ラウンド跨ぎの収入はガバッと入ってきますし、かと思えばその資源も一瞬で枯渇してしまうしで、その辺のトータルとしての味わいがやっぱりスヒィさんなんですよね。


 こういう個人ボードのデザインでワクワクする人とか、あとはセットアップでランダム配置のメッシーナの街を作るモジュラーボードでワクワクする人には、このゲームは絶対に肌に合うと思います。一方でカードを引いたりダイスを振ったりするようなインスタントに盛り上がる運要素はあまりないので、そういったものを求める方には向かないとは思います。



 同じデリシャスゲームズでも「アンダーウォーターシティーズ」なんかはカード引きガチャ要素での一喜一憂が強いゲームですけども、逆にそこにストレスを感じる人は「メッシーナ1347」のドライさこそが肌に合うかもしれません。


◆新人の創意を職人が鍛える、理想的な二人三脚

 ということで、「メッシーナ1347」は、新人アパリシオのアイディアを存分に活かしつつゲーマーズゲーム職人スヒィさんの仕上げの見事さを味わうことができ、放埒ながら極めて完成度の高い一作と言えましょう。


 控えめに言っても箱絵は地味…… 明度の低い絵柄ですし、テーマも相まってとにかく陰鬱な雰囲気なんですけども、その裏に隠されたメッセージ性が刺激的というか風刺的で、一風変わったテーマが好きな人にもオススメしたいゲームです。同じシステムでもこれが現代を舞台にしたゲームだったら相当エグい光景だったと思いますよ。


 正直なところ、こういうテーマのゲームって「パンデミック」の例を持ち出すまでもなく、疫病の怖さ、強大さ、人を選ばない無慈悲さ、みたいなところを描き出すものだと思うのですが、このゲームの疫病は正直そこまでインパクトがないというか、システム的には体の良い得点源という扱いなので、相対的に「本当に怖いのは疫病ではなく人間なのではないか?」というメッセージになっているのが愉快なところです。

 これが意図したものなのかどうなのかはわからないのですが、新型コロナウィルスが2020年から本格的に流行してからはや2年半以上が過ぎ、確かにそういう見方もあるのかもしれないなー、と思わせるに至る…… いや、なんだか、それも困ったものではあるのですが、そういう機会にもなるゲームなような気がします。


 人によって、真面目にも不真面目にも捉えることのできる解釈の広さはスヒィさん個人からはなかなか出てこなかったと思うので、この2人のケミストリーは結果としてよい出会いだったのではないかと思います。

 すでに発表されている今年のエッセン新作「Woodcraft」も「メッシーナ1347」と同様にスヒィさんと新人デザイナーのコラボレーションという形になるため、スヒィさんのディベロップ力の一端をぜひこのゲームから感じ取っていただければと思います。


 ちなみにデリシャスゲームズのゲームではお馴染みのバリアントルールやソロゲームバリアントもあります。

 バリアントルールでは各プレイヤーに配布される個人ボードが非対称となり、それぞれ異なる得点獲得手段を得たり、追加の得点方法が増えたりします。あとはラウンド毎のスタプレの決め方が変わったりするんですけども、この決め方の捻りが独特で面白いんですよね。今回の記事では説明を割愛したんですけども、スタプレを取るべきか取らざるべきかジレンマが増えているので、かなりの好きポイントです。


 ソロバリアントは対戦相手が邪魔してくるなかで目標点を目指すタイプのソロゲームです。仮想プレイヤー専用のタイルをランダムで引き、そこに書かれているアクションスペースが使えなくなってしまう、という感じです。


 あと、どうでもいい話ですけども、箱の芯材がめちゃくちゃ分厚いです。マジでこれまで見たことのないような分厚さで、芯材分厚さコンテスト優勝間違いなし。

 今回の日本語版は中国で印刷されていて、英語版とは印刷工場が違うんですね。サンプルとして貰った英語版初版と比べても全然違う分厚さ。印刷品質はめちゃ良いです。そこまで内容物が詰まっているのか、重いのか、と言われるとそこまでではないんですけども。


メッシーナ1347(2022/原版は2021)

プレイ人数:1-4人
対象年齢:12歳以上
プレイ時間:60-140分

ゲームデザイン:Raúl Fernández Aparicio, Vladimír Suchý
アートワーク:Michal Peichl
出版社:Delicious Games / 数寄ゲームズ

小売希望価格:8800円(税込)
ラベル:メッシーナ1347
posted by 円卓P at 11:09| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年07月24日

ゲーム紹介「コード破り」



 数寄ゲームズは、Reiner Kniziaデザインのダイスゲーム「コード破り」の日本語版を発売します。プレイ人数は1-4人、対象年齢8歳以上、プレイ時間30分です。小売希望価格は2420円(税込)となります。

 数寄ゲームズ通販サイトにて本日7月25日夜より予約開始、8月1日より先行発売を始めます。その後、全国のボードゲームショップさんへのご案内、流通を予定しております。


 数寄ゲームズの名作小箱ゲームシリーズ第1弾と銘打ったこちらの作品は、2007年にラベンスバーガーから発売された「Code Knacker(Code Cracker)」の復刻という形になります。

 ルール上の変更点は特にありませんが、プレイ人数が元々1-6人だったものを1-4人に変更するとともに、自分の得点更新を狙うだけだったソロゲームに段階的な目標設定を加えています。この辺りは「2007年ではともかく、令和の時代であればこうあるべきでしょう」というモダナイゼーションとなっています。


◆基本的なゲームの流れをご紹介



 「コード破り」はより多く、より価値の高いお宝タイルを集めるゲームです。

 テーブルの上には、3枚のお宝タイルが並べられています。このうちいずれかのお宝タイルに描かれたすべての暗証番号(コード)に赤チップが置くことができたら、手番終了時にそのお宝タイルを取ることができます。

 獲得されたお宝タイルはすぐに補充されるので、手番プレイヤーは常に3枚のお宝入り金庫と勝負することになります。お宝タイルが補充できなくなったところでゲームは終了し、獲得したお宝タイルの価値の合計が最も大きいプレイヤーがゲームに勝ちます。


 手番にはまず5個のダイスを振ります。そして、少なくとも1個以上のダイスを脇によけてキープします。1個もダイスがキープできない場合、手番は強制的に終了してしまいます。

 キープするダイスの出目が数字の場合は、その出目と同じコードに赤チップを1個置きます。ダイスはいくつでもキープできますが、それぞれ出目に対応するコードに赤チップを置く必要があります。

 キープするダイスの出目がマイクロチップの場合は、赤チップを置かず、今のところはただキープするだけです。


 この時点で、いずれかのお宝タイルのすべてのコードに赤チップが置かれていたら、そのお宝タイルを取って手番を終えることができます。あるいは、残ったダイスを振りなおすこともできます。

 何度か振りなおして、すべてのダイスをキープした時、2個以上マイクロチップをキープしていれば、ダイス5個すべてを改めて振りなおすこともできます。マイクロチップの数が足りない場合は手番終了です。


 手番終了時、手番プレイヤーは、すべてのコードに赤チップが置かれているお宝タイルを獲得し、3枚になるようにお宝タイルを補充します。赤チップを置ききれなかったお宝タイルは赤チップを取り除かずにそのままにしておきます。


◆進むか、引くか、ジレンマたっぷりのチキンレース

 「コード破り」は「ヤッツィー」(最近の人には「ヨット」でも通じるかも)の系譜にあるダイスゲームです。ヤッツィー系とはつまり、手番にダイスをじゃらっと全部振り、そのうち1つ以上の出目をキープして残りを振り直し、以降キープと振り直しを続ける……という手順のゲームです。

 その中で「コード破り」の最も特徴的なポイントは、赤チップを置いていくお宝タイルを個々人がそれぞれ保有しているのではなく、全員で共有している点にあります。

 これがどういうゲーム力学を生み出すかと言いますと、お宝タイルに中途半端に赤チップを置いたまま手番を終了させた場合、次のプレイヤーはそのお宝タイルを容易に獲得できてしまうのです。つまり、次のプレイヤーにおいしいトスを上げることに繋がってしまうのですね。


 この仕組みが実に強烈なジレンマを生み出す種になっています。首尾よく金庫を解錠できればよし。しかしながら、やりかけの仕事は他人の助けになってしまう。それでは、どこまでダイスを振り続けるのか、どこでやめるのか。進むか引くかのチキンレースに悶え苦しむことになるのです。


 また、特殊な出目であるマイクロチップもいい味を出しています。このマイクロチップ自体は解錠を直接的には進めないのですが、2個以上のマイクロチップを揃えることで、言わば追加の手番を得ることができます。追加手番! なんと心地のよい言葉か!



 実際のところ、このゲームの一番楽しい時間(そして他プレイヤーにとってイライラする時間)は、このマイクロチップの多用による「ずっと俺のターン!」の実行でしょう。この間、まるで自分が全能のハッカーにでもなったかのような気分でダイスを振り続けることができます。

 しかしながら「ビンゴ!(ッターン!)」とかハッカーごっこに興じてると、他プレイヤーからなじられますので、そこはホドホドにしておきましょう。


 さらにご注意ください。運良く金庫の解錠に成功したとしても、「自ら手番を終えることを選択」しないとお宝タイルを獲得することはできません。もう一つ金庫を解錠できそうだからと欲張って、運悪く1つもダイスがキープできなかったら、その瞬間に手番は強制終了してしまうのです。

 室内には突如として警報が鳴り響き、あなたはお宝を置いて逃げ出す羽目になります。「やっぱり止めておけばよかった!」と後悔することにもなるでしょう。


 こうしたリスクとリターンの検討も含めて、このゲームは、「もう一振りするのかい? しないのかい? どっちなんだい!?」という問い掛けを常にプレイヤーに投げかけてきます。答えるために必要なのは、確率計算、そして運。果たしてあなたはどのような判断を下すでしょうか?

 自分の手番で解錠は無理だと判断したならば、いっそ一振りだけで手番を終えることが正解になることさえある。そんな局面もあるのがこのゲームの奥深いところです。


◆ダイスの名手クニツィアの、これまた優れたダイスゲーム

 さて、このゲームは、数多の名作で知られるライナー・クニツィアの手によるダイスゲームの一つです。クニツィアと言えば、競りゲームがその得意ジャンルとして知られていますが、同様に得意ジャンルとして知られているのがダイスゲームです。クニツィアの著書である「ダイスゲーム百科」を読むと、ダイスというランダマイザが、彼の得意フィールドである確率計算や駆け引きといった要素と極めて相性がいいことがわかります。

 ダイスを使ったゲームの代表作として「ヘックメック」「ロイヤルターフ」「ロスバンディッド」と言った辺りはよく知られているところですし、「ラー」「メディチ」「ケルト」「頭脳絶好調」といった有名タイトルをダイスゲームに転用することも珍しくはありません。その中でもこの「コード破り」はダイスの魅力と奥深さを気軽に楽しめるタイトルとして「ヘックメック」と双璧をなす存在と言えましょう。

 その上で「ヘックメック」が得点の奪い合いというスパイシーで直接的なインタラクションを採用しているのに対して(クニツィアは時にそうしたインタラクションを好む場合があります)、「コード破り」は得点機会の譲渡といういやらしくも婉曲的なインタラクションを採用しているところに大きな違いがあります。

 どちらかが好みかは人にもよりますが、同じダイスという題材でありながら異なるインタラクションでそれぞれ違った個性を創出しているのは見事です。この辺りのクニツィアの引き出しの広さにはまったく驚かされるものがあります。


 また、クニツィアと言えば、よくよく言われるのが「クニツィアはゲームのテーマ性に興味がない」という指摘です。まあ、どちらかと言えば、これはクニツィア個人の性向というよりもドイツゲーム、ユーロゲーム全般に当てはまりがちな性向ではあります。

 ちなみに、クニツィア自身は「私はテーマを重視している」と反論しています。が、これは「別にノンテーマでも問題ないゲームにテーマ付けしているからテーマはめっちゃ重視してるよ」くらいの意味合いだと個人的には思っています。個人的な! 個人的な見解ですよ!


 えーっと、話が逸れましたが、まあ、一般的には、クニツィアのゲームはテーマ性が薄いとされています、ということを言いたかったのです。「ケルト」がケルトテーマである理由ってなんや? という話と言いますか。

 基本的にクニツィアのゲームの多くはテーマを別のものに差し替えても、まあ、大した変化はないと言えばないのです。逆に言えば、クニツィアのゲームはテーマに左右されないしっかりとしたゲーム性を内包しているということでもあるんですけども。


 その上で、この「コード破り」は、クニツィアにしては珍しくテーマ性とシステムがマッチしたゲームです。もうちょっと正確に言えば、テーマ性と内容物がマッチしたゲーム……という表現になるかもしれませんが。

 この辺りが原版をディベロップしたラベンスバーガーの功績なのか、クニツィアのアイディアなのかはちょっと知らないのですが(聞いてみればよかったなー)、内容物に大きな特徴があるところを見るに、ラベンスバーガー側の仕事のような気もします。うっ、やはりクニツィアはあまりテーマに興味がない可能性が……


 さておいて、「コード破り」においては、進むか引くかのジレンマが金庫破りの緊張感とすこぶるマッチしていまして、鬼に金棒、クニツィアに良テーマと言わんばかりの良質なプレイフィールをもたらしてもいます。興奮を生み出す手法としてギャンブル性の高いダイスというランダマイザはとかく優れていまして、例えばその最たる例は先程も名前を挙げた「ロイヤルターフ」なんですけども、「コード破り」もまたうまい建付けでクニツィアらしからぬ…… と言っては怒られるかもしれませんが、テーマとシステムがシンクロしているゲーム特有の気持ちよさを存分に味わうことができます。


◆ラベンスバーガー版の特徴的な内容物を踏襲

 先程も少し触れましたが、「コード破り」の内容物は相当に特徴的です。全般的におもちゃテイストの雰囲気が強い内容物で、やはりおもちゃメーカーであるところのラベンスバーガーの風合いといった趣があるのですが、今回の日本語版ではそうしたラベンスバーガー版の内容物の構成を踏襲しています。

 お宝タイルに半透明の赤チップを置くことで、覆われたコードは数字が見えなくなり、✗マークが浮かび上がります。この仕掛けが! いいんだよ!



 実は「コード破り」は海外では何度かリメイクされているタイトルで、英語版ではモンスターを作るゲームになってたり、韓国語版ではアイドルユニットを作るゲームになってたりします。で、当然ながらそのテーマでは赤チップなんかは必要ないワケでして、単純にカードの上に厚紙チップを置く形になっています。

 つまり、赤チップでどーのこーのというのはゲーム性そのものには1ミリたりとも関与してないのです。なくてもゲームは成立する。それが赤チップなのです。


 で、当然ながらそんな特殊な仕様を選択するよりも、ただのカードとチップの方が製造費的には安く上がるワケです。では、なぜ今回の「コード破り」でその方向を選択しなかったかと言ったら、「赤チップのない『コード破り』は『コード破り』足り得ないだろ!」とぼくは結論づけたからです。

 「コード破り」は現在において、ちょいとレア感のあるゲームです。世の中に数多あるダイスゲームの中で、なぜ「コード破り」が独自の立ち位置を形成できたかと言えば、やはり、1にも2にもその特徴的な内容物の存在あってこそだと思っています。

 もちろん、「コード破り」は十分なゲーム性を備えたゲームではありますが、システム面はそこまで奇抜なゲームではありません。でも総体として考えてみるとやっぱり他に例を見ないユニークなゲームではあって、そのユニークさを支えているのは内容物の独自性なのです。


 なので、英語版や韓国語版のような路線は、最初からぼくの中には選択肢としてはありませんでした。「自分が欲しいものは何か?」を突き詰めて「やっぱりこれだよなあ!」という、偽らざる本音に従ったのです。


 置いた時に嬉しさのある半透明赤チップと特殊印刷!
 赤チップを置いてズレるようなカードは気持ちよくないから、やはりタイルは厚みが欲しい!
 そしてコンパクトに収納できる箱! ラベンスバーガー版のタイルはスペース余り過ぎやからもっとデザインを詰め込めるでしょ!


 ということで、今回の「コード破り」は原版よりもコンパクトサイズに仕上がっています。原版のコード破りはラベンスバーガーの小箱サイズというちょい大きめの弁当箱みたいなサイズだったのですが、今回はアミーゴサイズよりやや大きめサイズの箱になっています(NSVとかあの辺)。ただ、厚みはありますけども。

 これはやはり日本のゲームシーンにおいて、特にこの手の軽量級ゲームは小箱の方が持ち運びに便利で活用機会が多いであろうという観点からそうしてます。この辺はクニツィアの諸作をリメイクしてきた実績を持つニューゲームズオーダーさんメソッドを勝手に踏襲しています。


 しかし、あまりにも内容物に拘るあまり、完成まではメチャクチャ時間がかかってしまいました。これは、お待ちして頂いた皆様にはお詫びしなければなりませんし、作者であるクニツィアにもお詫びしなければなりません。

 コロナ禍という特殊な情勢下という事情はあるにはあるのですが…… というか、コロナ禍の最中という状況を逆に利用して、「遅れてゴメンね! コロナだから! 仕方なくて!」くらいの勢いで試作をガンガン繰り返していた感も…… 実は…… あります…… まあ、いい言い方をすれば「ピンチをチャンスに変えた」という表現になるでしょうか。


 今回、アートワークに携わって頂いたSEIMIさんにはめちゃくちゃ精力的にアイディアを出して頂きました。こちらがドン引きするほどに様々なアイディアを出して頂いたので、こちらもがっぷり四つで組み合う、非常にパワフルで創造的な時間を過ごさせて頂きました。終わってみればいい思い出だったなー感もありますが、やってる最中は果たしてゴールがどこにあるのか、五里霧中で走り回ってた感もあります。

 折角の機会なので、ここでは、SEIMIさんから提案されたアイディアをご紹介したいと思います。いや、ホント、これがぼくのハードディスクの中にだけあるのはもったいないので。








 これまた色々な方向性で作ってもらった案。どれも異なる魅力があってSEIMIさんすごいなーと思いました(小並感)。

 チップの色も赤じゃなくて青でもいいんじゃないか、とか検討していたこともありました。クールな感じでテーマにも合うのではと。結局は視認性優先で従来通りの赤になりました。






 徐々に固まってきた感じ。キャラクターはメカニカルな方向性を模索もしていたのですが、ちょい怖いかも、ということで今の方向に。この辺の大人すぎず、子供すぎず、という塩梅が難しいところでした。

 どこかの段階で「グリッチを強く入れたい」という提案をして、最終形に至ったような記憶があります。


 当初は赤チップで浮かび上がるマークも工夫を凝らしたものにしようとか、マイクロチップのデザインも凝ったものにしようといった考えがあったのですが、試作を重ねていくにつれ、あまり凝ったデザインを作っても視認性が確保できないということがわかり、最終的にラベンスバーガー版のデザインに近似の場所に落ち着くという工程を辿ったりもして、最終的な出力物からは窺い知ることのできない試行錯誤の成れの果てだったりもします。

 デザイン上の試行錯誤という点では、技術的な課題も含めて、これまで作ってきたどのゲームよりも難航したのは確かです。特に赤チップの見え方は非常な苦労があって、「赤チップを置く前は赤い数字が見えなければならない」「赤チップを置いた後は青いバッテンが見えなければならない」というバランスをどう取るか、これが本当に難しかったのです。

 最終的にはドイツ語版の原版をサンプルとして印刷工場さんに送り、印刷工場さんで分析してもらうという手段を取って、ようやく納得の行く色味のバランスを取ることができました。最後の決め手は赤チップの厚みでした。タイルの色味じゃなくてそっちか! わかんないワケだわ!


 まあ、ラベンスバーガー版の内容物を踏襲する、という時点である程度の苦労は予想していたのですが、予想と実践は大違いで、企画の立案から完成まで実に3年近くの時間が経過しています。自分でメールを見返してみてちょっとイヤな汗が出てきました。

 まあ、その時間、ずーーーーっと制作にかかりっきりだったワケではないんですが、半年ほどの製作期間で「ブードゥープリンス」を完成させて勝ち得た信頼で手を付けた「コード破り」がこの有様で、いやー、マジで申し訳ないなーという気分ではいます。まあ、すべてコロナのせいということにさせてください。


◆今の時代に適した「ちょうどいい」ダイスゲーム
 
 さて、今このタイミングで「コード破り」を復刻する狙いの1つとして、このゲームが「実にちょうどいいダイスゲームである」という点が挙げられます。

 「ちょうどよさ」とは何か? それは初めてボードゲームを楽しむ人にオススメできるゲームという表現が近いかもしれません。これはこのゲームならではのいくつかの強みによるものです。


 まず、1つ目の強みは「小箱のダイスゲーム」という点です。ルールの平易さ、どこへでも持ち運びできる取り回しやすさや収納の簡便さ、手に取りやすい価格…… 消費者目線に立った時、小箱ゲームは、ローリスクで挑戦しやすいタイトルです。

 その上でボードゲームならではの要素であるダイスを使ったゲーム。「ダイスを使うゲームが一つ欲しいな」と思った時にスッと候補に上がりやすいゲームなのではないかと思います。


 2つ目の強みとして「非ロール&ライトのゲーム」という点も挙げられます。小箱のダイスゲームにおいてロール&ライトは今では主流ジャンルの1つで、手元のカチャカチャ感が楽しいタイプのジャンルではあるものの、ダイスを振ってワッと盛り上がる感覚がその分弱まるところがあります。戦略的な内容のゲームも多いのですが、ややマニアックな方向に振れがちでもあるので、シンプルにダイスを振る楽しさにフォーカスしたゲームが望ましいかなとも思います。


 3つ目の強みとして「1人プレイ対応、2人でも楽しい」という点も挙げられます。これはぼくのボードゲームショップ勤めの体感から来るものなんですけども「2人でも楽しいゲームで、できれば多人数でも楽しめるゲームはないですか?」と聞かれるケースがひっじょーーーーに多いのです。

 「コード破り」は人数が少なくても楽しい…… 人によっては2人が一番面白いという意見もあるゲームですし、人数によってゲーム性が大きく変わるということもありません。店頭で接客していて「あ、手元に『コード破り』があればご紹介できたのに!」という場面が少なくなかったんです。いやまあ、完成が遅れたのは自らの不徳の致すところなんですけども……

 ともあれ、人数を問わない。2人でも楽しい。なんなら1人でも遊べる。おまけにカードゲームではなく「やっぱりせっかくだからボードゲームが欲しいんですよね」というニーズにも対応できる。これはなかなかに対応範囲の広いゲームなのではないかと思うのですね。


 4つ目の強みとして「テーマがよい」という点も挙げられます。何をするゲームなのか、何をしたら勝ちなのかが、物凄くわかりやすいんですね。

 子供と一緒に遊ぼうとする親御さんからするとアングラなテーマはちょっと顔をしかめるところかもしれませんが、お金や宝石といった光り物は老若男女万人が興味を抱く強力なテーマです。訴求年齢をどこに設定するかはデザイン上、非常に悩ましいところではあったんですけども、今回は数寄ゲームズのプロダクトとしては珍しく「広いところに向けよう」という方向性で行きました。


 とまあ、こうした理由から「実は今、求められているゲームはこれなんじゃないか?」という仮定をぼくは立てています。この仮定が果たして的を射ているのか否か…… うーん、こればっかりは正直なところわかりません!

 そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない…… これまで色々なタイトルに関わってきましたが、この辺りはなかなか読めないところです。だからこそ面白いんですけども。


 とは言え、このゲームならではの魅力を存分に備えているゲームであることは確かです。それはルールも、テーマも、内容物もです。

 これら3拍子が揃ったゲームはなかなかに希少です。その上でダイスゲームの魅力である「今、どの目が欲しいか全員が容易に理解できる」「その上で成功と失敗が即座にわかる」と言う構造が十全に備わっているのですから、これは価値のあるタイトルなんではなかろうかと。

 皆様に喜んで貰える製品であることには自信がありますので、ぜひ、一度触ってみて頂ければと思います。よろしくお願いいたします!


コード破り(2022/原版は2007)

プレイ人数:1〜4人
対象年齢:8歳以上
プレイ時間:30分

ゲームデザイン:Reiner Knizia
アートワーク:SEIMI
ルールブックデザイン:別府さい
出版社:数寄ゲームズ

小売希望価格:2420円(税込)
ラベル:コード破り
posted by 円卓P at 23:14| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年07月22日

ゲーム紹介「乗り間違い」



 数寄ゲームズは、Jürgen Kraulデザインのトリックテイキングゲーム「乗り間違い」の日本語版を発売します。プレイ人数は3-4人、対象年齢10歳以上、プレイ時間30分です。小売希望価格は1980円(税込)となります。


 数寄ゲームズ通販サイトにて7月25日より予約開始、8月1日より先行発売を始めます。その後、全国のボードゲームショップさんへのご案内、流通を予定しております。


 ぼくのライフワーク、もしくは商売抜きの趣味として続けています、数寄ゲームズの名作トリックテイキングシリーズの第5弾にあたるこの作品は、トリテ好きの中では知られた……というか、トリテ好き以外に知られることのないゲームの一つでして、まあ、その日本語版が出る世界線というのは、結構えらいところに来てしまったなーという感もあります。まあ、その辺りの顛末は後ほど書きたいと思います。


◆勝つべきか、負けるべきか、徐々に明らかになるトリテ

 さて、このトリテ、トリテ部分だけを切り出してみると物凄くスタンダートな仕組みのゲームです。マストフォロー、切り札スートあり、4スート、ランクは0から12まで。

 これだけで、「はい、どうぞ始めてください」で通じるくらい、シンプルな仕組みなのです。逆にこれだけ読んで「なんのこっちゃ?」とお思いの方はもちろんいるでしょうが、これはスタバの注文みたいなものなので、そういう暗号めいたやり取りがある界隈も世の中にはあるのだとご理解頂ければ幸いです(ぼく自身はスタバで流暢に注文できる自信はないですが、まあ、そういう慣例は自ずと生えてくるものなのだろうなあと捉えています)。

 さて、しかし、これでゲームを始めろと言われても、これだけではおそらくカードをプレイする手は動かないでしょう。と言うのは、ゲームで一番大事な要素である得点体系について、全く説明していないからです。

 果たしてこのゲームはトリックを取っていいトリテなのか、それともトリックを取ってはいけないトリテなのか。ビッドがあるのかないのか、あるとしたらそれはどういう形式なのか……


 トリテの真髄はまさにこの得点システムにあります。それ以外の部分は得点システムを活かすためだけに存在するもので、カレーで言えば福神漬くらいの立ち位置です。

 ですから、あるカレーがユニークかどうかを問う時、一番大事なのはカレールー自体がユニークかどうかです。福神漬を酢ダコに取り替えてみても、それはちょっと変化をつけたカレーだね、というだけであって、ユニークなカレーとは呼べません。

 その上で、「乗り間違い」がユニークなカレーなのかと言えば、そうですね…… 間違いなくユニークだと思われます。というのは、このカレー、甘口なのか辛口なのか、一口食べただけではわからなく、食べ進めるにつれて徐々に辛さが判明してくるカレーだからです。


 ……変な喩えをしたせいで謎ばかりが深まってしまいましたね。もっと直截的な表現をすると、このトリテは「トリックを取るべきか、取らざるべきかがラウンド中に決まるトリテ」ということになります。

 あるラウンドは「なるべくトリックを取った方がいいラウンド」になり、また別のラウンドでは「なるべくトリックを取らない方がいいラウンド」になる。得点ルールがまったく真逆になるワケです。
 しかもそれがラウンド冒頭に決まっているのではなく、ラウンドの最中にどちらになるかが決まる…… 摩訶不思議ですよね。

 では、この得点ルールがどう決まるかと言えば、その方法にこのゲーム一番のハイライトがあります。プレイヤーはそれぞれが最初に配られた手札から1枚を選んで秘密裏に伏せます。伏せられたカードはすべてをシャッフルして捜査情報の山を作ります。

 捜査情報…… そうそう、言い忘れましたが、このゲームにおいてプレイヤーの立場はロンドン市街を飛び回る怪盗の行方を突き止めんと奮闘する警察組織やらの一員になります。

 捜査情報の山からは特定のタイミングでカードが1枚ずつ公開されていくのですが、ここで着目すべきはカードのランクです。このようにして公開されたカードのランクの合計によって、このラウンドの得点ルールが決まります。


・公開されたすべてのカードのランクの合計が一定値を超えた場合 → 怪盗は市外に逃げた! なるべく多くのトリックを取るラウンドになります。

・公開されたすべてのカードのランクの合計が一定値を超えなかった場合 → 怪盗は市内に潜伏している! なるべくトリックを取らないようにするラウンドになります。


 つまり、各ラウンドの得点ルールはプレイヤーの総意によって決まるのです。多くのプレイヤーが「より多くのトリックを取りましょうよ!」と意思表示すればそうなるし、逆もまた然りということです。

 しかしながら、伏せるカードとプレイヤーの希望は概ね相反することが多いのです。ここがシンプルながらよくできていて、「トリックをなるべく多く取るラウンド」を実現するためには、トリックを確実に取れるような強いカード1枚を伏せなければならないのです。うーん、ジレンマ!

 あるいは、他にも同じように考えている人がいて、自分が少し手抜きをしても事態が都合よく展開するかも…… という可能性も当然あるにはありますが、果たして未来がどうなるかはわからない…… 遊んでみるとわかるんですが、ラウンドの得点ルールを定める閾値設定が実に絶妙なのです。


◆ディール中に様々なイベントが起こる賑やかトリテ

 さて、先述のように、「全員の総意によって得点ルールが分岐する」という点が「乗り間違い」の最大の特徴と言えます。そして、そのメインギミックを活かすために様々な工夫が用意されているのもこのゲームの巧みなところです。


 例えば、4人プレイでは、伏せられた4枚のカードは2,3,4,5トリックの終了時に開示されます。じわりじわりと情報が公開されていく過程には独特な緊張感がありますし、自分が伏せたカードがどのタイミングで公開されるかによっても有利不利が微妙に変化します。

 「いきなり切り札をプレイしてトリックを取るプレイヤーがいる…… ということは……?」と推測を働かせることもできたりもして、他人の思惑を推理するのが殊の外楽しいんですね。トリテの序盤ってスートが枯れないうちに確実にトリックを取りに行くようなムーブが多かったりで、ゲーム体験としては淡白になりがちなんですけども、このゲームは最初から腹の探り合い全開で一挙手一投足に込められたメッセージを見落とすまいとアレコレ考えるのが楽しいところです。


 また、手札が残り4枚になったところで切り札が変わる可能性がある、というのもユニーク……というか変なギミックです。

 このゲームは特定の1色が切り札カラーに指定されるタイプのトリテなんですが、そのラウンドにおいて一番不利なプレイヤー(最も多くのトリックを取っているプレイヤー、もしくはその逆)は、手札が残り4枚になったタイミングで切り札を変更する権利をもらえます。

 当然ながら自分の手札に合わせて切り札を選択できるため、残り4トリックでの逆転の余地が生まれます。手札がめちゃくちゃ弱くても、突然切り札ばかりの手札に変貌する可能性があるのです。

 このルールを考慮すると、切り札の使用タイミングは悩ましいです。得点ルールが(おおよそ)決まってからの切り札の変更タイミングまでは2トリック程度しかないので、手札に切り札をいっぱい抱えていても使い切れない可能性があるのです。

 かといって早めに切り札を使った後に、そのラウンドがトリックを取らないラウンドに決まったら目も当てられません。さて、切り札をプレイする最適なタイミングは……? なかなかテクニカルなプレイングを要求されるゲームなのです。


 とまあ、こんな感じで、「捜査情報の公開」と「切り札の変更」という2種のイベントが用意されているゲームなのですが「どこで何が起こるかなんて覚えてられないよー」という方もいるかと思います。手札残り4枚になったところで切り札変更とか絶対に忘れるでしょ!



 ご安心ください。それに備えて、今回の日本語版では各イベントが起こるタイミングがわかるようにバスチケット型のチップを用意しております。トリックを獲得したプレイヤーはバスチケットを1枚獲得し、獲得したバスチケットが青なら「捜査情報の公開」、赤なら「切り札の変更」を実行することで、イベントの遺漏なく進行することができるのです。

 なお、恥ずかしながら、同梱のルールブックとサマリーにおいてバスチケットの配置の記述に誤りがありました。製品には修正したルールブックとサマリーを添付いたします。また、上記の図は修正後の配置図ということになります。発売前から気勢を削いでしまって申し訳ないのですが、お買い求めの際にはご理解を頂ければと思います。


◆王道にして異端。要素の組み合わせが絶妙なパーティートリテ

 ということで、「乗り間違い」の特徴を纏めますと、トリテ部分は極めてオーソドックスなスタイルながら、得点ルールにまつわる部分にこれでもかとばかりに奇妙な工夫が盛り込まれている王道かつ異端なトリテです。トリテを知ってる人ならプレイ感は極めて軽く、遊びやすいルールなのですが、やはりこの独自性を理解して乗りこなすまでは結構なじゃじゃ馬ぶりを感じさせてくれます。


 トリテを全く知らないという方には…… ちょっとルールが多いかもしれません。日本語版ではバスチケットを用意して視覚的に流れを理解しやすくなってはいるとは思いますが、ルール量自体は普通のトリテ+αなので、まずは「ブードゥープリンス」辺りから始めてみるのもいいかもしれません。


 また、トリテには競技的なカッチリとしたトリテと、パーティーライクなワイワイ楽しむトリテの2種があるのですが、このゲームはどちらかと言えば後者です。そもそもがディール中に切り札を変更できるルールを採用してる時点で結構なカオス属性、パーティ寄りと言いますか、志向しているのが明らかにそっち側なんですよね。

 推理要素的な部分もそこまでカッチリしたものではなく、ある程度見切り発車で動いた方が結果的にうまくいくこともあり、格闘ゲームでいうところの「ぶっぱ上等」なところもあるにはあります。まあ、そういう大らかさも含めて、感情を振幅させる装置としてはうまく機能していて、ともするとプレイングが地味になりがちなトリテにおいては珍しく感情を揺らすポイントがいくつも用意されているゲームです。


 そういう意味で、古典的、競技的なトリテを好む人にはちょっと肌に合わないかもしれませんが、昨今のトリテ事情的にはこうしたタイプのトリテは多くの人に好まれるのではないかと思っています。回り回って王道的なところと、変化球的なところのバランスのいいトリテなのではないかなと。

 ちなみにトリテ部分は前述の通りスタンダードなものなので、アンコントローラブルな理不尽さは感じないとは思います。稀によくある気持ち悪さが先に立つトリテではない、ということです。

 まあ、切り札の変更などという飛び道具はありますが、トリテ者ならイベントが起きる前になんとかできますよねー。


 また、このゲームにはバリアントとして、「プレイした場合には最弱となり、さらに切り札を変更する権利を貰える怪盗カード」を加えたルールも同梱されています。このルールだと切り札は最大2回変更される可能性があるため、ゲーム展開はよりカオスに! どのタイミングで怪盗が出てくるかでゲーム展開も大きく変わりそうなので、こちらもぜひ試してみてください。


◆自分でも驚いた、まさかの復刻

 さて、以降はゲームそのものとはあまり関係の内容です。ゲームの出版の周辺の事情に興味があるという方だけお読み頂ければと思います。


 「乗り間違い」は、出版社が今は亡きBerliner Spielkarten(「知略悪略」もここの出版社)から出ていたゲームということもあり、ファンからは復刻が絶望視されていたタイトルの一つです(復刻が絶望視されてるトリテ、結構多い)。

 「知略悪略」も結構な難物ではあったんですけども、「乗り間違い」の一番の障害はこのゲームの権利者であり、作者であるJürgen Kraulが、これ以外のゲームを全く作っていないという点にありました。このゲームは元々が2001年に発売されたそうですが、つまり20年近くゲーム業界との接点がない人と交渉する必要があったのです。

 「知略悪略」のKlaus Paleschなんかはそうは言っても「シュティッヒルン」やらの現行作品がありまして「とりあえず権利者が明確に存在していて、かつ対話が可能な状態である」ことがわかっている状態だったのですが、一昔前の寡作のデザイナーはひょっとしたら現在はご存命でないかもしれないという可能性もあり(新型コロナウイルスという人を選ばない災禍の最中ということもあります)、まず対話のテーブルに着くことができるかどうか、という点が一つのハードルとして如実に存在していたのです。


 で、当然ながらぼくは日本在住の身でして、ドイツのどこかにいる(かもしれない)1デザイナーとコンタクトを取るというのはかなりの難問です。早々に独力での解決を諦め、コネに頼ることにしました。

 コネ……つっても微々たるものですが、やはりここは「知略悪略」でもお世話になったBerliner Spielkartenの元編集の方にお力添えを願うべきでしょう(細々とでもこうした活動を続けることの意義の一つは、こうした人間関係を広げていけることだと思います)。「乗り間違い」の日本語版を出版したい旨を伝え、デザイナーの連絡先を知ってたら教えて欲しいと頼みました。

 ところがやはり20年前の話、メールも電話も不通であると返信があり、あー、これは断念せざるを得ないかー、と肩を落としたのでした(ちなみにアートワークのデータが残っているかも聞きましたが、これも当然のように存在しないとのこと)。

 「Jürgenはベルリンにいると思うよ」というのが彼から得られた唯一の情報でした。ベルリンて。広いて。


 それから数日後。彼から再び連絡がありました。曰く、Jürgen Kraulの古い住所を見つけたのでそこに手紙を送ってみるとのこと。手紙作戦! この令和の時代に! 手紙!

 手紙作戦の弱点はこれまでの条件の諸々に加えて「転居してない」という条件が課せられることです。しかしながら、ここまで来たら手がかりとなるのはそれくらいしかありません。ぜひ手紙を送ってみて欲しいと彼に嘆願し、返信を待つことにしました。

 しかし、自分には何の得にもならんというのにお手紙まで書いてくれる元編集の人、めちゃくちゃいい人じゃないか? ボドゲ業界の聖人だわ。


 それからさらに数日後。なんとJürgen Kraulから返信があり、彼とコンタクトを取ることに成功したという連絡がありました。うおおおお、マジでかー! ちなみに本当にベルリンにいました。


 正直なところ、「こういう形で追い詰められてからの一手が逆転に結びつくなんて、そんなマンガみたいな話はさすがにないよなあ〜〜〜」と諦観していたので、手紙作戦が成功したことにめちゃくちゃビックリしました。メールも電話もダメなら最後は手紙。人間最後まで諦めてはなりません。


 で、Jürgen Kraulに直接連絡を取ってみたところ、彼は日本語版の出版にとても乗り気で、これなら現実的に日本語版を出せそうだぞ、という段になりました。

 しかしながら、日本語版を作れる…… 作れるかもしれないけど、果たして一体どれくらいの人が「乗り間違い」を喜んでくれるんだ!?

 この点については、大きな疑問が拭えないのは確かでした。なんつってもマイナーオブマイナーゲームなんですよこれ。


 正直なところ、これまでの数寄ゲームズトリテシリーズの中で一番ヤバい…… 一番勝算のない戦いと言ってもいいかもしれません。皆さんに覚えておいて貰いたいんですけども、絶版になるゲームって言うのはですね、そもそもが重版するだけの人気がなかったってことなんですYO!

 それを今になって身銭を切ってアレコレ復刻しているというのは…… 冷静に考えてみるとなんなんでしょうね…… まあ、当世の人気だけでは計り切れない価値がこのゲームにはあるんじゃないかと思い込んで、暴走しているだけなのかもしれません。基本的にダイヤグラム10:1で分の悪い勝負なので、他人には絶対にオススメしません!


 そんなワケで連絡がついた喜びから一転、「マジで出版するの?」という非常に現実的で身も蓋もない判断を要求される事態になったのですが、しかしながら、最終的には「この機会を逃したら一生出せなくなるかもしれん! そして一生悔いるかもしれん!」という強迫観念にも似た感情に押されて契約書にサインしました。


 ……そんなワケでこのゲーム、自分の中ではすごく複雑な感情を持っている作品ではあります。相当に分の悪い勝負に挑んでいるなという実感はあるので、このシリーズの存続のために、どうぞ皆様、お買い求め頂けると幸いです。


◆アートワークとテーマ設定について

 さて、分の悪い勝負を分の悪いままにするのは、これまた本意ではないので、なるべく足掻いてみようとは思いました。アートワークの選択です。

 先述の通り、原版のアートワークは残っていませんでした。ということで、日本語版のために改めて描き起こす必要があります。

 しかし、この原版のアートワークが極めて魅力的なことは、復刻においては逆に問題でした。あまり美術の造詣がないので言語化が難しいんですが、すごくポップでインパクトが強いイラストなんですよね。グラフィックデザインもいい……

 これはどうやってもアートワークでどうこう言われるやつー、と思ったので、ここは方針を切り替えて、原版とは全く違う切り口で行くことにしました。

 さて、話は全く逸れますが、そもそもの「乗り間違い」という邦題は「Auf falscher Fährte=間違った手がかり」を「Auf falscher Fahrte=間違った旅」とウムラウトの有無からくる誤訳で生まれた邦題だったりするんですけども、この誤訳はトリテ好きにはちょっとは知られた定番ネタだったりします。なので、日本語版を作るにあたってはタイトルについてもこの誤訳に則るのか、それとも正確な邦訳を改めて当てるのか、これがディレクションの一つとして提示されました。


 個人的にこのジレンマを「どきどきワクワク相性チェックゲームを復刻するとしたらタイトルはどうするか問題」と呼んでいるんですが、個人的な思いとして、これまでの日本のトリテ文化を尊重する向きで行きたい、という考えから、恥も含めて文化であると、敢えて誤訳である「乗り間違い」というタイトルを選択することにしました。


 でまあ、元々は誤訳なんですが、だったらそれに合わせてテーマを揃えればええんちゃうのと。ついでに言えば、それがルールの理解に沿った形にもできそうだぞと。

 そんなところから「乗り間違い」のテーマ設定を市バスを乗り継いで逃亡する怪盗と、それを追いかける探偵や警察の面々といった形に落とし込むことにしました。


 ちなみにシャーロック・ホームズやら名探偵が活躍する時代には公共交通機関としてのバス網というのは存在しなかったので、バスと探偵という取り合わせは時代考証としてはちょっと歪な感じになります(人力車に乗る侍みたいな?)。時代的には鉄道の方が適してはいるんですが、鉄道の乗り継ぎとなると規模感が大きくなりすぎてしまうので(1回の乗り間違いがあまりにもクリティカルになるので)、取り回しのいいバスをここでは選択しています。


 でまあ、テーマ選択としての大枠を決めたところで、「さて、誰にイラストをお願いするか」が非常に難問でした。先述の通り、原版のイラストがすごく魅力的な作品なだけに、それに力負けしないイラストが必要なのです。

 ここはやはり実力のある方にご登板願おうということで、ニューゲームズオーダーさんの諸作でお馴染みのママダユースケさんに今回はイラストをお願いすることになりました。ママダさんからは最初から現在のテイストの絵柄をご提案頂き、こちらとしてもこれでぜひお願いしたいということで、イラストの作業自体は非常にスムーズに進んだように思います。

 一点だけ、こちらからは「このゲームはパーティーライクなトリテのため、ちょっと間の抜けたユーモラスな要素が欲しい」ということをお願いしました。

 そのため、ゲームの登場人物は誰もが、本人のアイコンとなるようなアイテムを別のものにすり替えられてしまっています。探偵であればパイプ、警官であれば警棒というような……
 

 で、このすり替えは怪盗によって行われたものであるということが、実は怪盗のカードで示されているんですね。この辺のアイディアはママダさんによるものです。



 このすり替えによって、登場人物にも怪盗を追いかける動機が生まれる側面もあり、ゲーム内の物語性を広げる一助になっていたらいいなあ、と思っています。


 ルールブックのデザインや、イラストを除くグラフィックデザインは、これまでのトリテシリーズと同様に別府さいさんに担当して貰いました。ニューゲームズオーダーさんのゲームではママダさんはグラフィックデザインも担当していらっしゃるのでどうなのかなと聞いてみたところ、ママダさんからは「そちらは専門の方にお任せしたい」という要望があり、今回のような座組になりました。

 こちらからするとママダさんのグラフィックデザインは十分な出来栄えにも見えるのですが、画業の方からは見え方が違うのかもしれません。別府さんには今回もいい仕事をして頂きました。

 とまあ、そんな経緯があり、原版とはまったく異なるテイストのアートワークに仕上がったのですが、皆様からの反応も上々でまずはホッと胸を撫で下ろしています。なかなか分の悪い勝負だったのが、なんとか勝負できるところまで持ち込めたのではないかと思っています。


 ということで、アートワークが完成したのが実は去年の夏……(笑) 本当に本当に多くの方をお待たせしたタイトルになってしまったのですが、いよいよ販売の準備が整いました。数寄ゲームズの名作トリテシリーズ第5弾として、非常に意義のある一作をお送りできるのではないかと思っています。


 名作トリテシリーズと言えば、最近よく「次はどのレアトリテを復刻するんですか?」的な質問を受けるのですが、実はこれはぼくの本意ではありません。別にレアトリテを扱いたいワケじゃないんです! そんな分の悪い勝負ばっかりしたくないんです! 売れるゲームを扱わせてください!(本音)


 さて、数寄ゲームズ名作トリテシリーズの選定条件はまず最初に「面白いこと」が挙げられます。これは、多くの方に面白いトリテを遊んでもらってトリテの世界の豊かさを知ってもらうことをミッションの最重要課題に据えているからです。

 ですから面白いことが大前提なんです。例えば「ブードゥープリンス」はまったくレアでもなければ昔のゲームでもないのですが、遊んでみて実に面白いトリテだったのでシリーズに加えました(ちなみにシュミット版が絶版になってしまったせいで、現行のアートを使っているのは日本語版だけになってしまい、結果として世界規模ではレアっぽい立場になりつつはあります……)。結果を見れば、それは大正解だったと思っています。

 そして、「乗り間違い」もこのシリーズに相応しい、実にユニークな面白いトリテです。レアである、ということが選定の理由には……なってる節もまあ、なくはないんですけども、決して「レアだから復刻した」という理由ではないことはお伝えしておきたいと思います。それは「乗り間違い」の後に控えている「パーラ」についても同様です。

 シリーズを銘打つからには、個々のタイトルが連なることでそれらが一つの文脈を浮かび上がらせることが望ましいのです。その上で、このシリーズに通底する文脈とはやっぱり「面白いトリテ」に尽きますし、それが翻って「トリテは面白い」に繋がってくれると、ぼくにとっては望ましい未来に繋がるんじゃあないかなあ、と思っています。



乗り間違い(2022/原版は2001)

プレイ人数:3〜4人
対象年齢:10歳以上
プレイ時間:30分

ゲームデザイン:Jürgen Kraul
イラストレーション:ママダユースケ
グラフィックデザイン:別府さい
出版社:数寄ゲームズ

小売希望価格:1980円(税込)
ラベル:乗り間違い
posted by 円卓P at 11:37| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年02月01日

ゲーム紹介「スマートフォン株式会社」



 数寄ゲームズは、Ivan Lashinデザインの経済ゲーム「スマートフォン株式会社」の日本語版を発売します。プレイ人数1-5人、対象年齢12歳以上、プレイ時間60-90分、小売希望価格は税込7700円となります。


 数寄ゲームズ通販サイトにて2月2日より予約開始、2月9日より先行発売を始めます。その後、全国のボードゲームショップさんへのご案内、流通を予定しております。


 「スマートフォン株式会社」は、2018年に初版が発売された経済ゲームで、作者のIvan Lashinは最近では「ファーナス」の作者としても知られています。版元のCosmodrome Gamesは「アクアティカ」の出版社でもあり、この「スマートフォン株式会社」を皮切りにその名前が広く知られるようになりました。

 様々な関係者にとって飛躍の一作になったこともあり「スマートフォン株式会社」は極めて印象的なタイトルでもあります。数寄ゲームズにとっても2018年の当時に和訳付き輸入版を初めて入荷したゲームでもあり、とても思い入れのある作品です。


 あれから早くも3年が経ちまして、ようやく日本語版を皆様にお届けできる態勢が整いました。当時のプレイ前の紹介記事はこちらにあるのですが、この記事では改めて「スマートフォン株式会社」の概要とその魅力をお伝えしたいと思います。


◆手強く、しかし、遊びやすい。洗練された経済ゲーム


 ※画像は英語版のものです。

 「スマートフォン株式会社」において、プレイヤーはそれぞれがスマートフォンを製造販売する会社のCEOとなり、この世界最高の企業となるべく熾烈な市場争いを繰り広げます。

 ゲームは全部で5ラウンドで構成され、それぞれのラウンドは8つのフェーズに分割されます。5ラウンドを通して最も多くのVP(勝利点=売上)を稼いだプレイヤーがゲームに勝利します。


 テーマや目標は古典的な経済ゲームでありながら、モダンなテーマとUIによって極めて洗練されたプレイフィールを実現しているのがこのゲームの大きな特徴です。

 この手の経済ゲームは時にリアリティへの傾斜を要求されがちではありますが、「スマートフォン株式会社」ではそれらが極端に抽象化、簡素化されています。

 例えばこの手のゲームにつきものの製造費、人件費、広告費といった支出の側面は完全にオミットされていて、ひたすらスマホを作っては売って儲ける収入の側面に完全にフォーカスされています。なので、計算を間違えたら資金がショートして経営が立ち行かなくなるようなストレスがありません。

 その上で、作った製品をキチンと売り切り、他社を凌ぐ利益を稼ぎ出すには創意工夫が必要です。経済ゲームならではの限られた市場を奪い合う熾烈な競争は健在で、他プレイヤーを出し抜く快感、一瞬の経営判断がダイレクトに勝敗に結びつくスケールの大きさはこのゲームの醍醐味の最たるものでしょう。


 経済ゲームならではの楽しさを凝縮しつつ、遊びやすさ、親しみやすさも両立しているのがこのゲームの1番のアピールポイントです。本格的なテーマと内容ながら2時間以内でゲームが決着するので、重量級ゲームへ足を踏み入れる第一歩としてもオススメのゲームと言えるでしょう。


 プレイ人数は1-5人となっていまして、基本的には人数が多い方が激しい市場争いを楽しめるかと思います。1-4人プレイでは、独自のルールに沿って動く人工知能「スティーブ」をNPCに加えて遊ぶこともできます。




 今回の日本語版では先行する英語版との大きな差異はありません。初版と比べて内容物には若干の変更(駒類のアクリルから透明樹脂への変更、オーガナイザーの耐久性向上)はありますが、買い替えが必要なほどの変化はありません。
 また、日本語版では全体ボードの地名表記は英語となりますが、日本語シールが同梱されています。




◆会社の命運を決める、パッドの組み合わせ

 先述の通り、このゲームは8つのフェーズで構成されています。中でも意思決定に大きく関わるのがフェーズ1の計画フェイズで、ここでプレイヤーはスマートフォンを模した2枚のタイル(パッド)を重ね合わせて以降のフェイズの行動指針を決定します。



 このフェーズは同時処理で、各プレイヤーはついたての後ろでそれぞれがパッドを組み合わせ、その後一斉公開します。そのため、(各自がやりたいアクションの選択に悩む時間はあるものの)ダウンタイムが短いのが特徴です。


 パットにはそれぞれのフェーズに関連するシンボルや商品の製造を意味するシンボルが記されていて、プレイヤーはそれらをどう配分するかに頭を悩ませることになります。言わばアクションポイントの振り分けのような感じです。

 多くのシンボルが見えるようにパッドを配置すれば、各フェーズで実行できるアクション数は増えますが、一方でパッドをより深く重ね合わせることでより多くの商品を生産することができます。

 アクション数を重視するか? 商品生産数を重視するか? ここがまず1個目のジレンマとなります。



 また、より高性能なスマホを作る「技術の研究」と、製造したスマホを世界中に販売する「物流網の拡大」は、どちらも大企業への成長を目指す上で欠かすことのできない要素で、これらも同時には満たすことができないように巧みにパッドがデザインされています。

 よい商品を作るか? 広告宣伝に力を入れるか? 2つ目のジレンマです。


 さらに、パッドの組み合わせによってスマホの販売価格も同時に決まります。スマホの販売価格は行動順に影響し、価格を抑えれば相手の機先を制することができますが、高額なスマホを販売することができればその利益は莫大なものとなるでしょう。

 狙うはローリスク・ローリターンか? ハイリスク・ハイリターンか? 3つ目のジレンマです。



 こうした3つのジレンマをパッドの組み合わせ1つに集約したところが「スマートフォン株式会社」の白眉な点でしょう。選択の自由度を担保しつつ、様々な要素をギュッと押し込んだ簡明さは、短時間で充実したプレイ体験を提供するこのゲームの密度の高さを支える太い幹になっています。


 フェーズ1でこのラウンドの実行計画を決めてしまえば、以降は半自動的に進むフェーズが大半です。例えばフェーズ2「価格設定」やフェーズ3「生産」はパッドの組み合わせで自動的にスマホの価格や製造数が決まります。


 フェーズ4以降は前述の通り、スマホの販売価格によって行動順が決まります。基本的にはスマホを安価に抑えたプレイヤーが先に行動できて有利です。


 フェーズ4「生産改善」では、パッドを強化できる改善タイルを獲得できます。獲得した改善タイルは次のラウンドから使用可能で、2ラウンド目以降はそれぞれの会社の方向性の違いが際立ってくることでしょう。




 フェーズ5「技術の研究」では、「4G」「NFC」「Wi-Fi」「リチウムイオンバッテリー」など、スマホの性能を向上させる新技術を研究します。新技術を開発すれば新しもの好きの顧客のハートを掴むことができますし、様々な特殊効果を得ることもできます。



 他社に先んじて技術を開発することでゲーム終了時にボーナス点となる特許を取得することもできますが、コモディティ化した技術は他社にとって後追いしやすくもなるでしょう。


 フェーズ6「物流」では、新しい地域に進出し、支社を設立することで、新規の市場開拓を目指します。どれだけ高性能のスマホを開発したとしてもそれを販売するマーケットがなければ利益には結びつきません。逆に、自分だけが独占するマーケットを作ることができれば、どれだけ低性能なスマホであっても容易に売り捌くことができるでしょう。




 フェーズ7「販売」では、自分の支社がある地域のバイヤーにスマホを販売します。バイヤーには大きく2種類あり、「予算の範囲内でスマホを購入するタイプのバイヤー」と、「欲しい技術を搭載したスマホなら幾らでもお金を出すタイプのバイヤー」がいます。各バイヤーは各ラウンドでそれぞれスマホを1個しか購入しないので、各プレイヤーは競合相手に先んじてバイヤーにスマホを売りつける必要があります。




 フェーズ8「VP取得」は、販売したスマホからVP(得点)を得ます。得られるVPはスマホの設定価格と販売数の積なので、簡単に計算することができます(ちなみについたての裏には乗算表が掲載されています)。

 また、各地域で一番多くのスマホを販売して市場を支配したプレイヤーはボーナスVPを受け取ります。このため、薄利多売によって競争相手を圧倒する戦略を取ることもできるでしょう。



 以上の8フェーズを経て1ラウンドが終了します。ラウンド跨ぎの処理では売れ残ったスマホは全て廃棄されてしまうので(旧式のスマホには誰も見向きもしないのです!)、CEOの皆様はせっかく作ったスマホが売れ残らないように頑張って販売計画を遂行してください。


◆あの衝撃から3年。新星の輝きは今も健在なのか?

 この「スマートフォン株式会社」の初版は2018年の冬、エッセンシュピールで初めてお目見えしたタイトルで、発売からは早くも3年が経過しました。3年という時間はなかなかに長いもので、作中に登場する4G通信技術も当時の先端技術ではありましたが、今では日本でのカバー率は90%超とのことで、さほど珍しくもない、言わば身近な存在となっています。


 ボードゲームは通信技術やビデオゲームと違って技術の向上がストレートに性能や表現に反映されるジャンルではないものの、その技術体系や思想は日々更新を続けています。

 個人的な話ですが、ぼくがボードゲームを好きなのは、まさにこの技術の改善が絶え間なく続いている点にあって、まだ見ぬボードゲームはきっと素晴らしい体験をもたらしてくれるだろう、という期待の源泉にもなっています。毎年、毎年、新鮮で楽しいゲームが遊べるおかげでなんだかんだでこの趣味も10余年を数えることになりました。


 さて、このゲームが出版された3年前。無名の出版社、無名のデザイナー、無名のタイトルながら、このゲームの販売によってぼくの観測範囲では結構な衝撃が走りました。「いや、これ、ちょっと凄いゲームなんじゃないの?」

 こちらのまとめではそんな当時の様子が少しは伝わるかもしれません。

「スマートフォン株式会社」感想まとめ


 3年前の「スマートフォン株式会社」は、間違いなく当時の最先端の思想と製造技術が組み合わさったゲームだったのです。

 古典的な経済ゲームのインタラクションの核を残しつつ、手触りはスッキリとした洗練された組み立て。でもってボードは流行りの二層構造で、駒は珍しいアクリル製で見栄えもよく。アートワークも美麗かつ洗練されていてハイクオリティ……

 まあ、それと同時に新興出版社ならではの未熟なルールブックなんかもついて回ったんですけども。

 とは言え、クサい言葉を使えば夢がありました。まだ見ぬ世界が自分たちを驚かせてくれるんじゃないか、ここから何かが始まるんじゃないか、という未来を感じられたゲームだったんですよね。


 それから3年が経ち、当時無名だったロシアの出版社は数々の注目作を発表する期待株へと成長し、当時その出版社の編集者だったデザイナーは開発スタジオを立ち上げ独立を果たしました。あの時感じた未来の種は今振り返ってみると確かに芽吹いているなと感じます(ちなみにデザイナーからは「君が日本で販売してくれたから独立する自信ができたよ」と言われたこともあります。まあ、社交辞令でしょうけど)。

 ただ、ちょっとこの出版社、仕事が遅くて、なかなかその注目作を見せてくれないんですけどもね(笑) 「アクアティカ」作者の新作「Astrum」とかどうなってるんじゃーい。

 ただまあ、Cosmodrome Gamesとは3年つきあってみてなんとなくわかってきたんですが、どうもコダワリが強いのか、自分が納得しないとGOサインを出さない職人タイプの出版社なのかもしれません。

 毎年キッチリ1作仕上げてくるDelicious Gamesのような職人タイプとはまた違った感じの職人で、納期より品質を優先する…… まあ、ファンにとってはかくあるべしという出版社なんですけども、ディストリビューターとしては先行きが見えなくて大変ヤキモキする…… そんな憎いアンチクショウです。


 話が逸れましたが、さて、そんな「スマートフォン株式会社」には、今もなお曇らぬ輝きがあるのか? この移り変わりの激しい時代において、今もなお手に取る価値のあるゲームと言えるのか?

 ぼくの答えを言えば、それはYESです。あれから3年が過ぎても、このゲームは未だにユニークな存在であり続けています。

 馴染みがありつつも緩すぎないテーマ選択。そこから期待される本格感と遊びやすさのバランス。経済を簡素に抽象化しつつも適度にコクを感じさせる特殊能力の数々。それ自体がエポックなパッド重ね合わせシステム……

 このゲームの代替になるものはこの3年では見当たらないんですよね。そもそものテーマ自体がフックがめちゃ強くてユニークですし、なおかつシステム的にも完成度がすこぶる高い…… そりゃあ、そんなゲーム、ポンポンと出てくるものではないですよね。

 3年という時間は新作補正の興奮が冷めるには十分過ぎる時間です。それでも今振り返ってみて、確かな新しさと面白さのあるゲームだよな、としみじみ思わせるのは、このゲームの地力の高さだと思うんですよね。


 英語版では限られた方にしかお届けできなかったこのゲーム、今回の日本語版によって日本全国津々浦々にお届けできるようになるので、このゲームの本当の価値が伝わるのはむしろこれからだと思っています。それだけ力のあるタイトルというか、普遍性のあるタイトルだと思っているので、末永く愛されるようになるといいなと思っています。

 ……いつもは「このゲームはニッチだから! 好きな人しか買わんから!」と言ってる身なので、ここまで全方向にオススメですよと言えてしまうタイトルを紹介するのも不思議な気分ではあるんですけども。

 いや、このゲームも最初はニッチ向けとして取り扱うつもりだったんですが、なぜかこうなってしまい…… まあ、人生そういうこともありますね。


◆完全無欠、と思いきや…… その唯一の弱点とは?

 先述の通りで「スマートフォン株式会社」は、いいとこだらけなゲームではあるんですが、明確な弱点が一点あります。それはフルスペックを引き出すには5人ないし4人プレイが望ましいという点です。


 少人数でのプレイでもセットアップで人数に伴ったバランス調整を行うので、緩くなりすぎるということはないのですが(そもそもどの人数でも序盤は緩さのあるゲームではあります)、限られた需要を奪い合うという根本的なゲーム性から人数が多い方が争いが激しくなってヒートアップしますし、玉突き事故的なアクシデントも顕著になって笑える場面が生まれるというような、感情を動かす局面が顕著に出やすい点はあります。


 人工知能「スティーブ」との対戦を含む1人からプレイ可能なゲームとは銘打っていますが、やはりこのゲームの醍醐味を味わうのであれば、大人数で挑んで欲しいと思います。また、少人数で遊ぶのであれば「スティーブ」の力もぜひ借りてみて欲しいです。

 このコロナ禍の状況において、ぜひとも大人数で集まって遊んで欲しいとはなかなか口にしづらくはあるのですが、持続性のあるゲーム文化を実現するためには、「ゲームが楽しく遊ばれること」が「ゲームを楽しく遊ぶこと」と同じくらい大事なことだとも個人的には思っているので、ぜひとも骨折りしていい機会を作って頂いて、それで遊び終わってから「ああ、苦労してお膳立てしてよかったな」と満足して頂きたいです。それだけの価値のあるゲームだと思っています。


 ちなみに英語版ではすでに発売されている拡張キット「Status Update 1.1」では、この少人数対応という弱点に対して2-3人用のマップを同梱するという力技で解決を図っています。ただ、今回は拡張キットの取り扱いはなく、基本ゲームのみの販売となります。



 つまり、そう、ここまで言えばもうお分かりでしょう、今回の日本語版が皆様に広く楽しまれるようであれば拡張キットの日本語版出版にも繋がりますよということです。ぜひとも多くの方に遊んで頂いて、夢のある未来を作っていきたいと考えている次第です。

 拡張キットは当然ながら基本ゲーム以上に売れることはないワケでして、まずは基本ゲームを販売してから考えましょう、という段取りです。個人的にも拡張キットの日本語版は出したいなあと思っていますので、皆様と同じ未来を共有できたらこれに勝る嬉しさはありません。

 つまり、例によって「これからの展開は皆様のお力添え次第です」というワケですね。先述の通り、版元はクセの強い出版社でもあるので一筋縄ではいかないかもしれませんが、向こうが喜んで協力してくれるような提案を持ち込めれば実現性も高まると思います。ぜひともご検討よろしくお願いいたします。


スマートフォン株式会社(2022/原版は2018)

プレイ人数:1〜5人
対象年齢:12歳以上
プレイ時間:60-90分

ゲームデザイン:Ivan Lashin
アートワーク:Viktor Miller Gausa
出版社:Cosmodrome Games / 数寄ゲームズ

小売希望価格:7700円
posted by 円卓P at 02:47| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする