2021年01月18日

ゲーム紹介「Minigolf Designer / ミニゴルフデザイナー」



 「Minigolf Designer」は、ミニチュアゴルフ(パターゴルフ)のコースデザイナーとなり、クライアント夫妻の要望を基に最高のゴルフコースをデザインするゲームです。出版社は新興のThematic Games、作者はこれがデビュー作となるAlban Nantyと、良くも悪くも未知数なタイトルながら、ユニークなテーマと遊びやすい内容で要注目な作品となっています。

◆ボードゲーム版「シムゴルフ」を遊びたかった!

 のっけから極めて個人的な話で申し訳ないのですが、ぼくは2001年に発売されたPCゲーム「シムゴルフ」が大好きでして、ゴルフコース作成ゲーム、めちゃくちゃ遊びたかったのです。
 「シムゴルフ」はその名前からも分かる通り、「シムシティ」などで知られるシムシリーズの一作で、これまた想像のつく通りのゴルフリゾート経営シミュレーションとなっています。自由にコースをエディットできるので、プロゴルファー猿もかくやというような攻略不可能じみた難ホールを作ったりできるんですが、そういうホールを作るといつまでもお客さんがホールアウトできず、組が渋滞してコースの評判が下がる! という連鎖が起きるため、ほどよいコースを作ることを求められたりします。

 というかどっちかと言えば、お客さんにはさっさとホールアウトして貰ってコースの回転率を上げるために、600ヤードPAR5のコースで傾斜をめっちゃつけてどこに打ってもボールが延々転がってグリーンにワンオンするような北の将軍様接待ホールみたいなのばっかり作ってました。
 ともあれ、そんな感じでゴルフコースのエディットゲームは熱い! 遊びたい! とは日頃から思っていまして。どうにかボドゲでそれが実現できないものかと一人妄想もしてたので、このゲームを知ったときにはもう「マストバイ!」という気分でした。
 ちなみにトンデモゴルフカードゲーム「グリーン」も、ぼくは大好きです。



◆自分だけのゴルフコースをデザインするタイル配置ゲーム

 話を戻して「Minigolf Designer」は、タイル置き場から手番順に1枚ずつタイルを取り、自分のレイアウトに配置してゴルフコースの完成を目指すタイル配置ゲームです。
 ゲームのセットアップで配られる「土地カード」を元にコースレイアウトを決めるのですが、「限られた区画内で9ホールを作らなければならない」「ホールのグリーンと次のホールのティーはなるべく接続させたい」「土地は全部埋めなければならない」「各ホールの打数は3〜5に収めたい」「コース全体の打数は36打ピッタリにしたい」といったゴルフならではの縛りがよく効いていて、場当たり的にタイルを選択するのではなく、ホールの全体像をざっくり脳内で描いてコースを拡張しつつ時には修正する、という流れがよくできているんですよね。

 また、こうしたタイル配置ゲームでは基本的に1辺が接するようにタイルを配置することが多いのですが、このゲームでは「タイル同士が角で隣接するような配置もOK」という「ブロックス」的な配置もできて、これによって先を見越したタイル選択も重要なのがよくできています。
 とは言え、タイル同士は「カルカソンヌ」のように矛盾のない模様の接続が必要なので、こうした「斜め置き」は将来の待ちを狭めるリスクを持ちます。
 この手のゲームのキモとして終盤ほどタイル配置の選択肢は狭まるので将来のリスクはなるべく抑えたいのですが、なにせこのゲームはゴルフ場を作るゲームです。つまり、十分な数のティーとグリーンが必ず必要になります! 「今はティーいらないんだけど、絶対後で使うから取っとかなきゃ……!」みたいなジレンマにプレイヤーは終始悩まされることになります。
 タイル配置のルールはシンプルでわかりやすく、かつテーマに沿った内容で呑み込みやすいのが◎。ゲームにテーマを乗せる一番の理由かつ効能は、すなわち「ルールを咀嚼しやすくすること」なんですが、このゲームはそこが実に気持ちよく作られています。それでいて、タイルの都合でティーとグリーンだけしかないパー2のホールなんかもできちゃったりして、リアルさとありえなさのバランスもよくできています。

 ゲームは誰かがコースを完成させたところで終了トリガーが引かれ、全員がコースを完成させるか設計中止したところでゲームが終了します。
 最終的な得点計算として、「人気度」「完成速度」「クライアント夫人の要望」「クライアントの要望」「難易度」「土地活用度」「快適度」「可用性」の各項目を採点して、最も満足ポイントを稼いだプレイヤーが勝者となります。
 上級者向けのアドバンスルールでは各項目でマジョリティを競う契約の要素が加わり、より尖ったコースデザインを求められます。

◆「キングドミノ」から、さらに一歩踏み込んだタイルドラフト

 コースデザインに使用するタイルは、それぞれ裏面に数字が書かれていてタイル置き場に昇順に並んでいます。プレイヤーがタイルを選択すると同時にコマを置くことで次のラウンドの手番順も決まり……
 もうここまで言えばこのブログを読んでいる方には説明は不要でしょう。そう、このゲームでは「キングドミノ」のタイルドラフトシステムを採用しています。

 実は「キングドミノ」のあのルール、めちゃくちゃ管理が面倒な変則手番順システムを誰でも遊べるように簡潔明瞭に表現したエポックな仕組みではありまして、個人的に物凄く高く評価しているメカニクスです。「Minigolf Designer」もやっていることは同じなんですが、キックスターターのゲーム特有のリッチなコンポーネント仕様で、「キングドミノ」にはできなかった「あること」を実現しています。
 それがベルトコンベア式タイル補充システム(勝手に命名)です。「Minigolf Designer」にはタイル置き場となるボードが3枚用意されており、これらがベルトコンベア式に入れ替わることによって実にストレスなくタイルを取っていけるんですね。

 「キングドミノ」ってタイルの「選択」と「獲得」にはタイムラグがあって、それが「キングドミノ」特有の滑らかさと言いますか、一手と一手の繋がりを生み出しているんですが、王様コマの下にあるタイルを取るのではなく、これから王様コマを置くタイルを誤って取ってしまうことがあるんですよね。反復横跳びのUIが混乱を招きやすいというか。
 それを完全に解消するためにはタイル置き場を3つ用意して、それらをぐるぐる利用することではないか…… とは、ぼくも考えていたんですけども、コンポーネントが大掛かりになってしまって、現実的ではないなとも思っていたのです。このゲームではそれを実現してタイルの「選択」と「獲得」をタイムラグなく行えるので、個人的には「やるな!」と快哉を叫びたいです。

 また、システムこそ「キングドミノ」に倣ってはいますが、当然ながらタイルの形状はドミノ型ではないのでプレイフィールは異なります。「キングドミノ」は訪れる未来を取捨選択するゲームと言いますか、様々な方向に伸びるはずだった未来から状況に応じて最適な選択肢を選び取って一つの結果に収束させるゲームなんですけども、「Minigolf Designer」は、(おぼろげながら)理想的な未来が最初に提示されていて、タイル運に翻弄されつつもそれに向かってなんとか進んでいく風情があります。

 手番には「タイルを獲得する」以外の選択肢として「パスを行う」という選択肢もあり、これはこの手番でのタイル獲得を完全に諦める代わりに次の手番順を最速にするというオプションで、これによって手番順の変動がよりダイナミックになるとともに「本当にいらないタイルならパスしてもいい」という割り切りができてストレスレスです。単純に「キングドミノ」を引用するのではなく、結構な研究の跡が窺えます。

 結果として、コースが完成した時は、結構思った通りのコースデザインになってます。こういうゲームって「作ってみて実際にそれっぽいコースになるの?」という懸念があるとは思うんですが、いや、これがちゃんとしたコースになるんですよ。ちゃんと作れば。

◆ミニゴルフというテーマ選択の鋭さに着目!

 Thematic Gamesという名前からも分かる通り、ぶっ刺さるテーマ選択(主にぼくに)に全振りしてきたこの出版社ですが、タダのイロモノではなく、実は合理的なコンセプトデザインが垣間見えます。
 まず、テーマが「ゴルフ」ではなく「ミニゴルフ」であること。これは以下のような利点があります。

・9ホール作るだけでいい省力設計
 ゴルフコースは18ホールで構成されているため、もしこれを完全に再現しようとしたら素直に面倒です(手数がめちゃ多くなるし、時間も伸びる……)。ミニゴルフコースは半分の9ホールで構成されているため、コースエディットを楽しむボリュームとしてはいい落とし所です。
 もちろん「ゲームだから」という理由でホール数を減らすことはできるんですけども、なんかそれだとテーマ性としてはどうなのよ、という話にもなるのです。この点をクリアしているのは大きな加点です。

・ゴルフコースのデザインにバラエティがある
 「Minigolf Designer」ではホールを構成するタイルは赤の「通路」と緑の「コース外」に分けられています。この色味の区分けがグッド!
 普通にゴルフコースを作ろうとすると盤面が緑一色に染まってしまい、見た目の面白さに欠ける上にプレイアビリティ的にも不都合があります。
 またミニゴルフならではのマリオゴルフじみた障害物の数々は「そんなんアリ!?」とツッコミ甲斐もあり、完成時には見た目にも面白いコースができあがって満足感があります。

・グリーンの扱いが合理的
 ゴルフコースに必ず必要なのがティーとグリーンです。そしてこの両者は必ず1対1で結びついている必要があります。
 その上で、ゴルフコースって必ずフェアウェイとグリーンが繋がっているワケではないので、この1対1の結びつきを手間なく表現するのって結構難しかったりします。孤島にあるあのグリーンは果たして何番ホールのグリーンなのか…… というような。
 ミニゴルフの場合、ティーとグリーンは通路で必ず繋がっているので、その結びつきが明瞭です。パッと見にも流れを追いやすくジオラマ感が味わえます。

 また、そもそもが「ゴルファーとしてコースを巡るゲーム」ではなく、「ゴルフコースをエディットするゲーム」というコンセプト自体が面白いですよね。「スポーツゲームに当たりなし」とはボードゲームではよく言われる言葉で、これはスポーツの持つ躍動感やスピード感、派手さといったものを静的なボードゲームでは表現しづらく、よって相性が悪いという話ではあるんですが、このゲームはコースデザイン自体をゲームの主眼に据えることで、そうしたスポーツの呪縛からうまく逃れています。

◆テーマも相まって誰でも遊べる楽しいゲーム

 スポーツを題材にしたゲームと言えば、数寄ゲームズで扱っている「タイムオブサッカー」もありますが、あちらはサッカー好きが作ったちょっとネジのハズれたゲーマーズゲーム(だがそれがいい)なのに対して、こちらは家族で遊ぶことを相当に意識したモダンなファミリーゲームに仕上がっています。
 言い換えれば、ゲーマーが喜ぶような斬新なシステムやルールには欠けますし、一手に様々な深慮遠謀を塗り込んで相手の急所を狙い撃つ戦略ゲーならではの重厚さや重苦しさもありません。どっちかと言えば、わんこそばのようなリズムよく手番が進んでいくタイプのゲームです。

 それでいて手応えがスカスカしているかと言えばそんなことはなく、時にリスクを取って将来に必要なタイルを取らなければなりませんし、「このタイル、1手番後なら取れたのに!」と叫ばずに済むようなマネジメント、待ちの広さを意識したプレイングも要求されます。タイル引きの運要素はありながら、結果的にうまく進められた人が勝つ、運と実力のバランスがすごく整ったゲームだと感じています。

 そんなワケで普段からスプロッターとかシュピールヴォルクスのゲームばっかりやってるスレきったゲーマー以外には全力でオススメしたい「Minigolf Designer」。テーマ、コンポーネント、システムがハイレベルで揃ったゲームで(あ、でも、アートは賛否両論あるかもしれないヘタウマ感はあり。ぼくは好きだけど)、買って遊んで損のないゲームだと思います。
 今年もこんな感じで唐突に和訳付き輸入ゲームを紹介していきたいと思っていますが、2021年一発目のサプライズとなる本作をぜひお試し頂ければ幸いです。
ラベル:Minigolf Designer
posted by 円卓P at 22:45| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ゲーム紹介「アクアティカ:氷海」



◆まずは「アクアティカ」の紹介を

 2019年のエッセンシュピールで発表された「アクアティカ」は、「手番に1枚のカードをプレイするだけ」というシンプルな手続きと、「マンタトークンやロケーションカードを利用したフリーアクションの組み合わせ」でコンボ性を演出する華やかさがマッチした極めて現代的なゲームとして注目を集めました。

 発売元は「スマートフォン株式会社」で一躍その名を知られることになったロシアのCosmodrome Gamesで、「アクアティカ」自体は現在7カ国で流通している人気作です(ポーランドのPotal GamesとかイタリアのCranio Creationsとかが扱ってる)。
 また、「スマートフォン株式会社」は、全面2層レイヤーボードという大掛かりなコンポーネントが話題となりましたが(折り畳むと超分厚い!)、こちらの「アクアティカ」も3層レイヤーのプレイヤーボードというこれまた新機軸のコンポーネントを引っさげて登場しました。この3層レイヤーボードは、カードを差し込むことでカードの状態変化をストレスレスに追跡できる点がエポックで、新技術の投入が見た目の変化だけに留まらずプレイアビリティの向上に繋がっている点が特筆に値します。

 そんな野心的な試みを持つ「アクアティカ」は、発売当初から「最大4人プレイなのに5人プレイ用のスペースがある」など、拡張展開をプンプンと匂わせていていました。野心的というか冒険的というか……
 幸いなことに「アクアティカ」は各国で人気を博し、この拡張展開もポシャらず実現する運びになりました。そうした事情もあり、この度発売される「アクアティカ:氷海」は、まさにファン待望の一作ということになります。

 「アクアティカ」自体の紹介については過去の紹介記事もご覧頂くことで、より深く知ることができるかと思います。
 こちらのプレイ感想もどうぞ。

◆新要素の一番の目玉! 「部族」モジュールとは?

 さて、ここからは具体的に「アクアティカ:氷海」の新要素について触れていきましょう。新登場の「部族」モジュールは、基本ゲームの「目標」モジュールと差し替えて使用する新システムです。

 元の「アクアティカ」には、全員共通の4つの「目標」があり、誰かがその全てを達成することでゲームが終了に向かう仕組みです。基本的にはより早く「目標」を達成することでより多くの勝利点を得ることができるのですが、仕組み自体にゲーム的な駆け引きは薄く、「とにかく早く達成を目指すのが最善」というシンプルな早取りレースではありました。

 初級ルールの目標は普段からボードゲームを嗜んでいる人だと7手番くらいで全部達成できてしまうため、これだけを見て「あっという間に終わってしまうゲーム」という印象を持ってしまう人もいたかもしれません。上級ルールだと攻略に必要な手数は大分増えるんですが、初回の印象に引きずられることはままあるものですよね。
 個人的にはゲームに慣れている人向けには「インストがてらに初級ルールを1回、その後上級ルールを1回遊ぶところまでをワンセット」として遊ぶのをオススメします。まあ、時間があればですけども。



 そして、今回新たに登場する「部族」モジュールは、目標トークンのようにゲーム終了時の得点をもたらすだけでなく、それぞれの「部族」が異なる常時効果/即時効果も与えるゲーマー好みの仕様となっています。「どの部族の効果を軸に戦略を組み立てるか」をゲーム開始時点から模索する、より計画性を求められる作りになりました。



 とても強力、かつ得点も大きい「部族」の雇用は、勝利を目指す上では避けて通れないのですが、実は「目標」ほど気軽にマンタを放り投げられなくなっています。
 というのは、「目標」の達成は言わばフリーアクションのようなもので、本来のメインアクションとは別に手番を消費することなく行えたのですが、部族の「雇用」は(深海シーフォークを雇用するように)1手番をわざわざ使って雇用しなければなりません。
 また、「部族」の雇用では、コインだけでなく、得点化済みのロケーションカードを廃棄することでその得点を仮想コインとして扱える、これまたゲーマー好みの借金めいた仕様があるのですが、これもよくよく考えないと「10点貰える部族を雇用するのに9点を投げてしまった」という事態になりかねません。そのため、基本に比べてコインの価値が上がっているように感じます。

 条件さえ整えば最速で達成が大正義だった目標モジュールに比べて、部族モジュールの活用はかなりテクニカルです。ゲーム終了までの手数も基本的には増加傾向にあり、山札切れによるゲーム終了のみに終了トリガーが絞られました(ちなみに拡張でカード枚数が全般的に増えるのでここも調整が入っています)。
 「部族」モジュールの導入により、ゲームはよりコンボ感が増し、相当にサギ臭い動きができるようになるので、華々しいゲーム展開をお求めの方には特にオススメのモジュールです。一方で勝利への道筋は複雑になるので、基本ゲームのシンプルさがお好みということであれば、今回追加された目標トークンのご利用をオススメします。

 ちなみに部族カードはAとBの2種が10枚ずつあって、1ゲームではAを4種、Bを4種だけしか使わないので、組み合わせのバラエティはかなり豊富ではないかと。それぞれの部族カードもクセのある能力を持っているので、長く楽しめそうです。

◆拡張と言えばこれ! 新カードが続々登場!

 拡張キットと言えば、ゲームプレイをさらに拡充させる新カードの追加がやはり外せません。「アクアティカ」には大きく分けて「海の王」「深海シーフォーク」「ロケーション」の3種のカードがあるのですが、それぞれに新カードが追加されています。



 「海の王」と「深海シーフォーク」を合わせたシーフォークカードでは、新能力の「時間差効果」を持つものが登場します。「時間差効果」は、カードの左側面にテキストが記されているもので、カードプレイ時に通常の効果を行い、さらに捨札の一番上にある時には追加効果を発生させる、一粒で二度おいしいカードです。



 この「時間差効果」は「〇〇する場合、追加の▲▲を得る」といった内容が多いため、カードをプレイする順番がよりパズルチックになります。また、自分の手札を捨てたり、相手の手札を捨てさせたりと言った効果にも深みが生まれることでしょう。まさにそのシナジーを意図した「部族」なんかもあって、「時間差効果」は要注目のカードです。


 部族カード「銀の槌」で時間差効果カードを捨てればエヘヘ……




 「ロケーション」では、5番目の「凍てついた深海」という地形が登場し、5番目のプレイヤーセットのマンタに対応しています。この「凍てついた深海」のロケーションカードには新しい効果として「他人のマンタを1つ疲労させる」「他のロケーションアイコンの効果をコピーして実行する」といったものがあり、特にコピー効果は強力な深海ロケーションアイコンを制約薄めに利用できるので相当に強力です。しかしながら、完全上昇で獲得できるマンタは能力控えめな設定のため、うまくバランスが調整されています。

◆かゆいところに手が届く5人プレイにも対応



 「アクアティカ:氷海」では、基本から予告されていた5人プレイにいよいよ対応します。追加のプレイヤーボード、マンタやカードなど用具一式が追加されていて、より幅広いシーンで遊べるようになりました。

 「拡張キットで5人まで遊べるようになります!」という謳い文句、一昔前はよく目にしたものの、最近では却って珍しさすらあるようにも思います。全世界的にも「大人数で遊べるゲーム」よりも「少人数で遊べるゲーム」への注力が強いトレンドがあり、5人でも遊べる手応えのあるゲームって割と希少ではないかと思います。
 オープン会だと人数調整の効きやすいゲームは重宝するんですが、このご時世としてはなかなか活かしづらいところはあるかもしれません。ともあれ、そういったゲームをお求めの方にはまさにジャストな一作なのではないかと思います。

 ちなみに新要素の部族モジュールではボードの5人目用の目標スペースを躊躇なく潰しているので、「いやこれ結局後からでも5人対応できたんちゃう?」と思ったりなんだり。

◆基本セットのルール変更にも言及

 今回発売する日本語版の「アクアティカ」「アクアティカ:氷海」は2版となり、去年数寄ゲームズで扱った初版の英語版「Aquatica」から若干ルールが更新されています。「アクアティカ:氷海」では、そうしたルールの変更についても言及されていて、英語版と混ぜて遊ぶことができます。
 基本的にはゲームの高速化を図った内容となっていて、初版英語版と拡張日本語版の組み合わせで特定のコンポーネントが足りないということはありません。むしろ2版になってコンポーネントが減ったくらいなので……
 あと2版の基本セットは目標トークンの内容が若干変わっているんですが、これは部族モジュールを使用するなら特に気にならない内容かと思います。

 あと、2版のルールでは表記が曖昧だった「リソース」と「アクション」の差が明確化されています。これは実際に遊んでいる人でも間違いやすいところなので、念の為にここで触れておきますと、「リソース」は「コインと武力」の2種のアイコンを指します。「アクション」はそれ以外のアイコンです。

 また、「リソース」はメインアクションの最中に使用可能で、逆に言えばそれ以外では利用できません。
 「アクション」はメインアクションの最中には使用できず、メインアクションの前後にフリーアクションとしてのみ使用できます。


 ここだけ抑えておけば「リソース」と「アクション」は問題なく活用できるはずです。メインアクションで購入をする時に、「ロケーションからコインを得て、マンタでそのロケーションを上昇させてもう1回コインを得る」とかはできないから気をつけてね!(※「上昇」は「アクション」なので、メインアクション中には使えないのです)

◆新要素でさらに幅広く遊べるように。日本語版から触れるのもいいタイミング

 というワケで「アクアティカ:氷海」、発表から長らくお待たせしましたが、それだけの価値ある内容をお届けできるかと思います。言うてもリリース速度としては日本語版は世界最速の部類ではありまして、やはり去年はコロナの影響が大きく、Cosmodrome Gamesが予定していた出版物の多くが遅延しているようです。



 また、今回は同時に「アクアティカ」の日本語版もリリースします。なのでこれまで「アクアティカ」を遊んだことがない、という方がこれから触れるにもいいタイミングではないかと思います。

 なにせ「アクアティカ」は、手番にカード1枚をプレイするだけというシンプルさ。そしてリソースとアクションによるコンボの爽快感もあり。つまり、わかりやすくて派手さがある。
 これらは日本市場で特に重宝がられる要素です。1ゲーム30-60分というボリューム感もまたよし。拡張ではさらにリプレイアビリティが拡充され、より長く深く楽しむ余地が広がりました。
 また、全体を貫く幻想的なアートは美麗かつ優雅で、深海の蠱惑的な暗さとその奥深くに眠る光景を色とりどりに表現しています。ロシアのゲームは現代的なボードゲームに求められるアートへの意識が相当に強いように感じます。

 余談になりますが、今回の日本語版では日本語ロゴの作成を「ハリウッドセンセーション」のアートワークで評判の高い坂本奈津希さんに依頼しました。坂本さんは職業柄もあってかボードゲームのアートワークには相当にうるさい人なんですけども、「アクアティカ」のアートワークについては「美麗ですね」と一目を置いていらっしゃいました(ぼくは社交辞令だと思っていたんですけども、後で話を聞いてみたらそれ以上の含意があったようです)。
 正直ぼくはあまりアートワークの選り好みがない人種なので、その「美麗」と「美麗じゃない」一線を画すラインがどこに引かれているのか、まったく見えない方なのですが、それからは、ほう、そういうものなのかー、という角度で見ています。なんとなくわかるようなわからないような。

 話が逸れましたが、そういう意味ではコアからカジュアルまで多くの方に楽しんで貰える、極めてバランスのいいタイトルではないかと思っています。それでいてこのゲームならではのリソースマネジメントのユニークさもあり、このゲームだけの確かな魅力を備えたゲームです。この機会にぜひ触って貰えると嬉しいです。

 以下はゲーム内容とは関係のない蛇足です。「アクアティカ」日本語版を出版する意図などについて。




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posted by 円卓P at 11:40| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年11月13日

「ヨーロッパディバイデッド」ってこんなゲーム



◆ウォーとユーロのいいとこ取り! 非対称の2人用デッキ構築ゲーム

 ゲームマーケット秋で先行販売する「ヨーロッパディバイデッド」は2人用のデッキ構築ゲーム。EUとロシア、2つの陣営に分かれて両陣営の間に横たわる中央・東ヨーロッパとコーカサスの支配を巡って争います。

 最も特徴的なポイントは、EU、ロシアの両陣営が全く異なるデッキを持ち、それぞれの立ち回りも異なる点でしょうか。初期デッキからして、EU側は13枚、ロシア側は7枚とカード枚数が違いますし、カードは全てユニークで個別の効果も異なります。

 「経済的に恵まれる国を多く有するものの、デッキが太いため強力なカードの再利用が難しい」EUと、「常に資金不足に悩まされるもののデッキの回転が早く戦力の集中に長ける」ロシアという性格の違いもあります。このような初期条件から戦い方まで異なる非対称の2人用ゲームは、ウォーゲームの得意とする分野と言えましょう。


◆「ヨーロッパディバイデッド」はウォーゲームなの?

 と言っても、多くのボードゲームファンにとってウォーゲームは縁遠いもので、ウォーゲームと聞くだけでどこか身構えてしまうところがあるかもしれません。「ヨーロッパの紛争と言ってもイメージが沸かないし……」という方もいるでしょう。

 しかし、安心してください! このゲームはテーマこそウォーではありますが、ゲームデザインはびっくりするほどユーロ味の濃い内容で、ウォーゲームを知らない人も違和感なく遊べる内容です。ぼく自身も正直なところ、純粋なウォーゲームを遊んだことはないんですが(一番近いところでCOINシリーズの「アンデアンアビス」かな)、相当に遊びやすい内容で面食らいました。


 特筆すべき点はゲーム全体の見通しの良さです。戦闘はダイスを振って勝敗を決めるようなランダム性はなく、互いの軍隊が対消滅するタイプで、戦闘が起きたらどっちが勝つかは明白です。

 運要素は3種のカードのドローに集約されていますが、「あのカードが引けなかったから負けた!」というような理不尽さは極力薄められていて、適度な運要素をもたらすためのカード引きという塩梅です。下手すると2人用アブストラクトになってしまいそうなドライさをやんわりと運要素でウェットに包んでいて、デベロップが行き届いている感じ。この温度感、よいです!


 その上で、ヨーロッパの支配権を巡るハードなテーマを当事者目線で堪能できるのがウォーゲーム由来の魅力でもあって、先日まで戦争してたアルメニアとアゼルバイジャンの仲の悪さがゲーム上で反映されているのを見てニヤニヤしたりできるんですね。

 システムはユーロ、テーマはウォーという異種混交、「最近のユーロはどれも同じに見えるなー」という人には、異文化の香り漂うこの接近は極めて刺激的に感じられると思いますよ!


◆2ラウンドごとの決算。ヘッドラインカードのシステムにシビれる!

 このゲームにはあまりユーロでは見たことのないメカニクスが盛り込まれているのですが、特にぼくが一番感銘を覚えたのが「ヘッドラインカード」を巡る駆け引きです。



 ヘッドラインカードは得点とその獲得条件が記されたカード群で、例えば「決算時、バルト三国でNATOの影響力がロシアよりも強く、NATO軍が駐留していればEUプレイヤーは2点を得る」的なことが書かれています。

 ヘッドラインカードにはEUの得点源とロシアの得点源の2種があるので、自陣営の得点条件を満たしつつ敵陣営の妨害をするのが基本の動き…… 2ラウンドごとに決算が行われるのでプレイヤーにとっての短期目標となるワケです。

 1回の決算では2枚のヘッドラインカードが決算されるので、どちらの目標を達成するか、あるいは妨害するかで頭を悩ませることになります。自分の目標を達成しつつ、相手の目標を妨害できればもちろん最高です、が、これはなかなか難しい!


 で、ここからが本題なんですが、このヘッドラインカード、完全にランダムで選ばれるのではなく、プレイヤーが3枚の手札から1枚を選んでプレイします(このカードは4ラウンド後に決算)。なのでゲーム展開のコントロールがかなり効くんです。

 しかも! EUとロシアはそれぞれが個別の山札を持つワケではなく、両者の得点カードを混ぜて一つの山札にして、そこから両者がドローするワケです。

 するとどうなるか…… EU陣営なのに手札が真っ赤に染まってしまうこともあったりして、プレイしたくないロシア得点カードを泣く泣くプレイするハメになったりなるのです。

 で、対するロシアはこれで有利になるかと言えば、むしろ想定していなかった新しい目標に頭を抱えることになったりもして。相手が達成しにくいヘッドラインカードを嫌がらせ気味にプレイするのが基本なので、予定外のヘッドラインカードをプレイされると心底困るんですよね。


 このようにヘッドラインカードに纏わるルールは運用はシンプルながらそこから生まれる展開の幅広さと言ったら驚くほどで、いやあ、スジのいいルールだなあと感心します。

 これ、ユーロに取り入れても面白いルールだと思うんですよね。3人以上だとコントロールが効かなすぎるので、2人プレイだからこそ生きる仕組みかもしれせんが。ちょっと「スルージエイジス」のイベントカードの扱いにも似てるかもしれません。


◆アクションはたったの2回。気合の入るイニシアチブ勝負



 各ラウンドでは4枚の手札からこのラウンドで使用する2枚のカードを秘密裏に選び、同時公開します。この時、2枚のカードに記されたイニシアチブ値を足し、合計が大きい陣営が先にアクションを行います。

 基本的には相手の動きを見てから動きたいので後手が有利なのですが、イニシアチブ値の低いカード=弱いカードなので、行動順とカード効果でどう折り合いをつけるかは思案のしどころです。


 アクションは

・影響力の配置
・影響力の増加
・資金の獲得
・軍隊の設立
・軍隊の移動
・特殊アクション

 の6種類があり、カードによって行えるアクションが指定されています。アクションそのものは極めてシンプル……というか細切れすぎてびっくりするほど。

 1ラウンドでは2回のアクションを行うのですが、フリーアクション盛りだくさんのモダンユーロに慣れてる身だとメチャクチャ簡素に感じられます。1手使って軍隊1個作って、1手使って軍隊1個動かしたらもうラウンド終わっちゃう…… 「纏めて軍隊配置」とか「纏めて軍隊移動」とかねえから!

 なんかもう慢性的に手数が足りない作りになっています。ちなみにロシアはお金も足りない。

 その上で2ラウンドごとにヘッドラインカードを達成しなければならないのですから、選択と集中が重要です。やるべきことは明確なのに悩ましい……!


◆デッキ構築の華、新カードの獲得が……?

 おまけに紛争地域に影響力を及ぼすと得られる新しいカードは基本的に……弱い。カードはそれぞれが国や地域を示しているのですが、初期デッキのドイツとかフランスは超リッチで使い手も広いのに比べて、紛争地域は小国ばっかりなので経済力もなければ軍隊も作れないという…… 世知辛い……!

 さらにおまけに紛争地域カードの中にはプレイすると敵陣営に利益をもたらすReaction/対応カードなんてものまであって、紛争地域に迂闊に介入すると身動きが取れなくなります。この辺もまたリアル。

 ちなみにこのゲーム、基本的にデッキ圧縮の手段はありません! なのでどの紛争地域に肩入れするかは計画的に……


 ゲームを通してデッキをカスタマイズする手段は正直少ないので、一般的な「デッキ構築ゲーム」のイメージとはちょっと違った感覚です。デッキカスタマイズの自由度に楽しさがあるというよりは、ランダマイザとしてデッキを使っている、くらいの感覚で、デッキ構築自体は付随するサブ要素といった趣です。


◆ユーロ好きにこそ遊んで欲しい、システム重視の重厚ゲーム



 ということで、ここまで色々と特徴を述べてきたんですが、正直なところ見どころがかなり多いゲームです。触ってみて想像以上の面白さでした。

 見通しがよく、適度な運要素があり、地味かと思いきやスパイスも効いていて(説明を省いたんですが「優位カード」というのが超スパイス効いてるんです)、2人用ゲームとしての完成度がまず高い。それでいて本格的な2人用ウォーと比べると手頃なルール量と時間で遊ぶことができるのもいいところ。

 ハードなテーマで敬遠する人も少なくないとは思うんですが、ゲーム自体が面白く、しかもテーマの知識は必要ない(知ってたらより楽しめるけど知らなくてもゲームとして楽しい)ので、軽々な気持ちで遊んでみればいいと思います。

 その上で、ユーロとは異なる文脈から成り立つこのシステムはユーロ好きからすると異国感、新鮮味があり、一種オリエンタリズムな味わいとでも言いましょうか、和洋折衷的な接合の風合いが刺激的です。

 ゲームマーケットで販売するからというワケではないんですが、ゲームデザインのヒントを求めている人、ユーロに浸かりすぎて新しい境地を探している人にとって、ウォーとユーロの川で作られた三角州は宝の宝庫かもしれませんよ。


 また、今回販売する和訳付き英語版では、数々のゲーム翻訳を手掛ける永峯さんに翻訳をお願いしました。テーマを深堀りしたい人のためにフレーバーの翻訳も完備したので、ぜひ読んで貰えればと思います(なお、このフレーバー、ゲーム中に読まれることはありませんでした)。



 「ヨーロッパディバイデッド」はゲームマーケット秋にてイベント価格6500円で先行販売します。その後、数寄ゲームズ通販サイトでも販売しますがこちらは価格を調整中です。よろしくお願いします。


※ ちなみに1点エラッタがあります。これは元のルールブックからのエラッタなんですが、P20のインデックス、「ブドウ革命」は緑の背景が正しいです。カードとインデックスで相違がありますが、カードの表記が正しいです。
ラベル:Europe Divided
posted by 円卓P at 09:50| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年11月09日

3つのシステムから見る「ハリウッドセンセーション」



 ゲームマーケット秋に販売する「ハリウッドセンセーション」は2人用のトリックテイキングゲームです。4スート、7ランク、マストフォロー、切り札あり、ビッドなしの極めてスタンダートな構成と言えるこのゲームにはどのような特徴があるのでしょうか。

 今回は3つのシステムから「ハリウッドセンセーション」を紹介します。




・切り札は段階式のスートの強弱

 「ハリウッドセンセーション」の切り札はかなり独特です。一般的なトリテの切り札は、1つの切り札スートが他の3種のスートよりも強いもので、スートの強弱としては、「切り札スート > リードされたスート > それ以外のスート」となります。

 言い回しから切り札は「スペードのエース」のような特定の1枚を指すものと誤解しやすいのですが、一般的には、切り札は「スペードのスートが切り札」というように、1つのスート全体を指し示す場合が多いです。

 で、このゲームでは、ディールの開始時に4スートのカードをランダムに並べ、その順番でスートの強弱が決まります。「コケティッシュ > ホリック > モード > スキャンダル」というように。そういう意味ではワンアンドオンリーな従来の切り札とはちょっと趣が異なります。

 このようにスート間で強弱があるゲームは例えば「インシディアスセブン」のような例があり、基本的にはランクが同値のカードが複数プレイされた場合の判定用として取り入れられることが多いように思います。それに対して、このゲームでは2人用のトリテのままならなさを緩和するためにスートの強弱を取り入れています。

 この仕組みの効能として、弱いカードを差し込みやすい利点があります。2人用のトリテではハイランクのカードを手元に抱えている場合トリックに負けることが難しいのですが、スートに強弱をつけることで逃げる余地が生まれます。

 このゲームは得点システムの都合からそれぞれのスートに対して「カードをすべて集めるか、過半数を取るか(押し付けるか)」の方針を前もって立てる必要があるゲームです。スートの強弱が明確なことで、ディールの開始時からどちらの方針を取るべきかの補助線が引かれています。




・手札は6枚。1トリックごとに補充

 このゲームではカードは配りきりではありません。そもそもの話として、2人用トリテでカードを配りきってしまうと、自分の持っていないカードは相手が必ず持っていることになり、あとは最適解を辿るだけのパズルになってしまうからです。パズルを避けるために2人用のトリテでは何かしらの工夫が必要です。

 このゲームでは28枚のカードのうち手札としてそれぞれ6枚を配り、残り16枚を伏せて山札を作り、一番上の1枚をめくって公開カードとします。そして、トリックに勝ったプレイヤーは公開カードを手札に加え、トリックに負けたプレイヤーは山札から非公開カードを1枚手札に加えます。

 このシステムは「ジャーマンホイスト」という2人用トリックテイキングゲームの、えー、平たく言えばパクリなんですが、物凄く優れた仕組みです。


・まず2人用トリテの最初のハードルである、パズルを避けられる
・トリックに勝つ動機、負ける動機を明確にプレイヤーに与えられる
・1トリックごとに情報量が緩やかに蓄積していき、情報量のグラデーションをかけられる


 そもそも、手札を補充するトリテは基本的にスジが悪い仕組みです。「狙って枯らしたスートが手札の補充で復活したら……」とか考えるだけでイヤじゃないですか。

 これはトリテのマストフォローという大枠と強烈に相反するものです。ぼくとしては「トリテデザインべからず集」に載せるべき項目だと思っています。

 ただし、それは3人以上のトリテに限った話です。2人用のトリテでは、ゲームの綾を生むために手札の補充を組み込んだゲームがいくつもあります。それでいて、このシステムでは手札に加えられる新しい2枚のカードのうち1枚は素性がバレているので「さっきボイドしたスートでもう一度リードしたのにフォローされた」みたいな不条理な展開を生みにくい仕組みになっています。

 情報量のコントロールと言いますか、カード全体の何%が見えているとゲームは地に足が着くか、という話ではありまして、2人用のゲームでは情報量のコントロールは特に気をつけるべき観点です。カードの70%以上が見えないとぼくとしては遊びづらいなという印象です。




・手札の枚数に差をつける

 このゲームで最大に奇っ怪なシステムがこれです。2ディール目以降、得点的に劣勢なプレイヤーは配られた6枚の手札から規定の枚数を減らします。手札は最低で3枚になります。

 手札は減りますが、選んだ残りのカードは脇に伏せて置いて自分用の補充山札になります。これは共用の山札が尽きたあと、自分専用の山札として扱います。


 そもそもデザイナーのしぶさんはこれをハンデとして実装してきたんですが、ぼくとしては「ハンデとして機能するのかこれ……?」と首を傾げるルールでした。手札の枚数差がどのように機能するか直感的にわかる人がどれほどいるのか。「手札減った! よーしこれなら勝てるぞ!」ってなるか? ならんやろ?

 機能的には、手札が減ると選択肢が絞られるのでハンドリングがピーキーになります。基本的には先手に回ると選択肢が狭くてプレイしづらく、後手に回ると強烈なカウンターを繰り出せるか一方的にボコられるかのどちらか。

 逃げ場がなくなる一方で、ハマったときは強い、極端なゲームになります。単純に手札が多い/少ない方が弱い/強いという話にはなりません。100ポイントのスキルポイントを攻撃力と防御力にどう振り分けるか、みたいな話です。

 ただ、ゲーム的に劣勢な立場に置かれたプレイヤーは自ずとハイリスク・ハイリターンの戦術を取らざるを得ないのは確かで(「インカの黄金」とかそうですよね)、そういう意味ではゲームの進行に伴って逆転性を高めるための仕組みを取り入れるのは正しいのかもしれません。


 ……正しいのかもしれませんが、このルールのおかげでルールブックのテキスト量が2割増しになっていることを思うと、ルールブックをライティングする側の人間としては「クソ面倒なルール考えやがって!」とプンスカしています。

 そもそも、しぶさん原案では「個人用の山札」というものはなく、これをなんとかハンデっぽく機能させるためにぼくがひねり出したのが「個人用の山札」という仕組みではありまして、おかげでルールテキストがさらに増えたのが増改築に次ぐ増改築みたいでホントヤダなと思っています。美しくない!


 しかしながら、この仕組みは「トリテを複数ディール遊ばせるにはどうしたらいいのか?」という命題に対する踏み込みでもあって、なんとかディールごとにプレイ感に変化を持たせられないかと思ってやってるところがあります。単純にプレイヤー人数分だけディールを繰り返してねという提言はちょっと時代遅れなのかなとも思っています(で、これに今のところ最高の答えを出しているのが「ザ・クルー」です)。

 個人的にはこれ「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」みたいなルールなんですが、果たしてどれだけの人がこのルールに価値を感じて貰えるのか、楽しみでもあり、不安でもあります。




 ということで、今回は

・切り札は段階式のスートの強弱
・手札は6枚。1トリックごとに補充
・手札の枚数に差をつける

 という3つの観点から「ハリウッドセンセーション」の独自性について触れてみました。

 正直なところ、2人用トリテは面白くするためのハードルが非常に高いジャンルです。3人以上のトリテなら気にかける必要のない些末な事柄が、トリックテイキングを成立させるための障害として重くのしかかってきます。

 その課題に対して色々な工夫で答えを提案したのが本作ということになりますが、一方で遊びやすさを損なわないように極力シンプルな構造に絞りました。得点ルールとかやろうと思えばいくらでも複雑にできるんですが、それは今の環境的に向いてないなと。デザイナーのしぶさんが基本的に奇妙なことをやりたがる人なので今回はブレーキ役に回りまくりました。

 工夫には「スジのいい工夫」と、「スジの悪い工夫」があります。「スジのいい工夫」とはゲームを簡潔にする工夫です。「スジの悪い工夫」はゲームを複雑にする工夫です。

 「スジの悪い工夫」をなんとか「スジのいい工夫」に転化できないか知恵を凝らした結果、遊びやすさを担保しつつ、独自性のあるゲームに仕上がったのではないかと思っています。他では味わえない独特なプレイ感を持っているゲームなので、ぜひ遊んでいただけると嬉しいです。
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2020年11月06日

「ハリウッドセンセーション」のルールブックを公開します



 ゲームマーケット秋で販売する「ハリウッドセンセーション」のルールブックを公開します。
 このゲームは2人用のトリックテイキングゲームになりますが、一般的なトリテと異なる部分が割とあるので「トリテなら知ってるで!」という人も1ページ目の用語解説も読み飛ばさず読んで貰えるとゲーム概要を掴みやすいかと思います。

※画像をクリックすると大きな画像が表示されます。



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