2024年12月11日

ゲーム紹介:失われた種の探索



数寄ゲームズは、「失われた種の探索」日本語版を発売します。プレイ人数1-4人、対象年齢13歳以上、プレイ時間60-75分で、小売希望価格は税込6600円となります。

12月16日より数寄ゲームズ通販サイトにて先行予約を始めます。その後、全国のボードゲームショップさんへのご案内、流通を予定しておりますが、こちらは年明けとなる見込みです。


「失われた種の探索」は、絶滅の危機に瀕している動植物を救うため、それら「失われた種」の調査を行うゲームです。インドネシアやパプアニューギニアをイメージした島々をボートや徒歩で移動したり、現地住民に協力を仰ぎながら、失われた種をより早く発見したプレイヤーが勝利に近づきます。ただ、失われた種の発見はあくまで得点源の一つであり、最終的には発表した論文や町カードから得られる得点の合計点で勝敗を競います。


「失われた種」の一つ、アルオオコウモリ。ゲームには6種の失われた種が登場します。

手番ではアプリに質問を行い、その回答を専用シートに書きこんでいくことで情報を整理しています。現在の情報から適切な質問を考えることが勝利へ近づく要諦となるでしょう。



このゲームは太陽系10番目の惑星を探す「惑星Xの探索」の続編です。コンセプトも「惑星Xの探索」と同様に、専用アプリとの対話を通して情報を整理していく論理推理ゲームなので、ゲームの概要については「惑星Xの探索」の紹介も参考になるかと思います。どうぞこちらもご一読を。

ゲーム紹介「惑星Xの探索」

その上で、「失われた種の探索」は「惑星Xの探索」とどのように違うのか? その辺りの差異を中心に「失われた種の探索」の魅力について今回はご紹介していきたいと思います。


◆舞台は東南アジアの島々。島中を歩き回って動物の痕跡を追う!



さて、「失われた種の探索」の最も大きな変更点と言えば、ルックスからもわかる通りのテーマの変更となります。「惑星Xの探索」においてプレイヤーは、白衣に身を包み、望遠鏡をのぞき込み、遥か彼方、遠大に広がる大宇宙をコーヒー片手に仰ぎ見ていましたが、今作では草木生い茂る東南アジアの島々に単身赴き、危険生物の牙や棘を通さない厚手のサファリジャケットで身を守り、時に徒歩で、時にボートで実地調査に臨む探検隊の様相を呈しています。

これは単純なテーマの違いに留まらず、ゲームシステムの変化にも繋がっています。「惑星Xの探索」では夜間にしか見えない星の特性に沿って、調査範囲は常にボードの夜部分、半円に限られていました。

対して「失われた種の探索」ではボードの中心に舞台となる島が存在し、プレイヤー扮する科学者駒が(小さいながらも人間にとっては巨大な)島を巡り巡って調査を行います。つまり、移動力、移動範囲の概念が調査範囲を制限する要素となります。



地球の自転はさすがに人間にコントロールできる代物ではないのですが、島内をどう移動するか、どこに着地するかはコントロールできる、というのが両者の調査アプローチの大きな違いでしょうか。ざっくりと言えば「失われた種の探索」の方が、よりプレイヤーの意思を反映した、自由度の高い調査が可能になっていると言えます。様々なパターンを検討した結果、一手で多くの情報を引き出せるような調査が決まった瞬間は天才になったような気分が味わえて気持ちいいですよ。

ただ、工夫の余地があるがゆえに、よりプレイヤーのテクニックが反映されやすいというか…… 思考空間が広がって自由度が高まったために前作よりもダウンタイムは伸びがちかもしれません。また、プレイヤーの巧拙の差も出やすい作りではあるとは言えます。

そのため、「失われた種の探索」は「惑星Xの探索」から少し踏み込んだゲームではあります。とは言え、その差は0.5歩くらいなので「失われた種の探索」から遊んでも全く問題はないですけどね。

また、プレイヤーの力量差については「惑星Xの探索」と同様に、初期情報の量でハンデをつけることができる作りでもあります。なので、プレイ経験がバラバラのプレイグループであれば、初期情報をうまく調整して挑むとよいのかなと思います。公式にハンデをつけることも可能なゲームって結構珍しいですよね。


小粒ながらも大きな変更点としては「町カード」の存在があります。これは調査隊を助けてくれる現地住民などをイメージしたものなのですが、調査を補助するちょっとした特殊効果をもたらしてくれたり、ゲーム終了時にボーナス得点を貰えたりします。


町カード「道案内人」は時間コスト3の徒歩アクションをコスト2に低減する能力を与えてくれる。

「惑星Xの探索」は、ランダム要素が事実上ないアブストラクト味の強いゲームではあったのですが、「失われた種の探索」は、町カードのランダム性やちょっとした博打性が加わって前作に比べて雰囲気が柔らかくなっています。ゲーム終了時の加点要素が増えたことで、逆転の余地が増えたのは個人的にはよい味付けだと思っていますし、調査の方針決定の補助線としても役立つところもいいですね。


逆転性の強化と言えば、論文の提出のルールが微妙に変わっていて、「惑星Xの探索」では発表フェイズで0-1個の論文を発表していたのが、「失われた種の探索」では0-2個の論文を発表できるようになっています。

「惑星Xの探索」では論文発表が遅れるとその差がなかなか縮めにくい側面があったのですが、「失われた種の探索」では、論文を2個発表し続けるのは難しいため、キャッチアップがしやすい作りにはなっています。ここは後発ならではの冗長性の強化と言えましょう。


とまあ、そんな感じで全体的に「失われた種の探索」は、雰囲気が柔らかい! やっていることの本質は「惑星Xの探索」とあまり変わらないのですが、プレイ中の空気感が結構明るくなっているように感じられます。

ただ、論理推理部分は先ほど触れたように多少難しくなっているようにも思います。今回は前作の「惑星X」に相当する「失われた種」が6種類登場し、それぞれが固有の生息ルールを持っています。失われた種はそれぞれが島に登場する他の動物、ヒインコ、クスクス、ヒキガエル、ニシキヘビとの独自の関係性を持っているため、これらの動物もしっかりと生息地を調査しないと本丸に辿り着かない作りになっている気がします(と思ってたんですが、NPCのティニは一足飛びで失われた種に到達したのでそうでもないっぽい……?)。



プレイのヒントを一つ挙げるとするならば、まずは発見難易度の低いヒインコの生息地を発見し、そこを足掛かりとして他の動物の所在を探っていくのがよいのかなと思います。まあ、これはゲーム中に登場する学説(今回のゲーム特有のルール)との兼ね合いもあるのですが。


登場する学説はゲームごとに異なります。


◆専用アプリも使いやすく、ソロプレイもオススメ

専用アプリは開発元が変わっているため、UIから結構な変化があります。宇宙テーマらしくフラットデザインだった前作も遊びやすい作りではあったのですが、今作のアプリも(ボタンがちょっとわかりにくい作りではありますが)細かいフォローが行き届いていて快適なプレイが可能です。

例えば、セットアップでは様々な初期情報を教えてくれますが、「要は画像の通りにチェックしてったらええんや!」と明快。


とりあえず見たままに✗印をメモシートに書く! それだけ!

質問に対する回答では「メモにはこう書き込んだらいいよ」まで教えてくれるので初見でも遊びやすいです。


今回登場する失われた種がアッテンボローミユビハリネズミであればメモシートには「?はヒキに隣接しない」と書き込めばOK。

NPCプレイヤー「ティニ」との対戦ソロプレイもアプリの補助があって快適です。「ティニ」はソロプレイに限った対戦相手ではありますが、2人プレイに追加のプレイヤーとして加えてもいいかも(ただ、疑似3人プレイだとプレイヤー側の情報が増えるのでティニが相対的に弱体化しそうではあります)



ティニの強さは「簡単」「困難」の2段階から選べますが、困難レベルだとよくわからない調査から唐突に失われた種を発見してきたりもするので油断がならないですよ。他人を気にすることなくじっくりと心ゆくまで時間が使えて、なおかつNPCの操作はアプリが補助してくれるので、とかくソロプレイが楽しいゲームです。ぼくは普段あまりソロプレイをしないほうなんですがこのゲームは「1時間空きがあるなー」みたいな時に取り出して、すでに5回くらい遊んでますね。


◆大変お待たせしましたが、それだけに自信を持ってお届けできるタイトルです!

元々が完成度の高い「惑星Xの探索」をブラッシュアップしたタイトルなだけに「失われた種の探索」は、論理推理ゲーム好きの方には抜群にオススメのタイトルです。最大の特徴であるアプリの積極的活用は今回も健在で、それは裏を返せばアプリを使う環境を整えないと遊びにくい弱点もそのままではあるんですけども、まあ、良くも悪くもそうしたエッジの鋭さがこのゲームの魅力かなと思っています。

また、余談ではありますが、「失われた種の探索」では絶滅危惧種への興味を持ってもらおうという意図から、ルールブックには登場する動物に関するちょっとした解説記事もあります。



ローカライズ作業の難しいポイントとしまして、このゲームにはLoryとCane toadという動物が登場します。これは日本語名ではそれぞれ「ヒインコ」と「ヒキガエル」になります。

で、このゲーム、それぞれの動物の頭文字をメモする作りになっていまして、英語版ではそれぞれ頭文字が異なる「L」と「C」なのが、日本語ではどちらも「ヒ」になってしまうという問題が出てきました。

これをどう解決するかは非常に悩みました。「インコ」と「カエル」の「イ」と「カ」にするか、一方は「ヒ」で、一方を変えるか等々…… 結局、頭文字2文字を取って「ヒイ」「ヒキ」で分別するという形にしましたが、果たしてこれでよかったのかは、今でも悩むところです。

なので、もし、遊んでみて、遊びにくさを感じるようでしたら、そこは柔軟にやって貰えればと思います。自分が情報を整理する上で一番しっくりくる形でやって貰えればいいのかなと。

「惑星Xの探索」の制作の際には頭文字をアルファベットにするか、ひらがなにするか、漢字にするかで頭を悩ませたものですが、なかなかこうした問題は尽きないものです。


また、これまた余談ではありますが、最近ではドイツ製品を始めとしてシュリンク包装を排したゲームが増えてきています。本作もゲーム自体のテーマから環境保護指向の強いタイトルではあり、内容物もプラスチック製品を避けて紙包装への置き換えが進められています。箱の外装も英語版ではシュリンク包装ではなく、四辺へのシール貼りとなっています。

では、日本語版も英語版と同様にシール貼りなのか、と問われると、実は日本語版では箱にシュリンク包装を行っています。

というのは、日本市場においてシュリンク包装を好む人が(現状では)多数派だとぼくは考えているからです。日本語版の出版に際して色々と検討を行ったのですが、最終的に今回はシュリンク包装を行うこととしました。

シュリンク包装の是非については様々なご意見があるかとは思いますが、数寄ゲームズとして何を大事に考えるか、コンフリクトする諸々の事情にどのように優先順位を与えるか、という点を考えた時、「ファンの方に満足して貰うプロダクトをお届けしよう」「何よりもユーザーファーストの立場に立とう」という考えから今回の判断を行っています。

誤解を招かぬようにお伝えしておきますと、個人として、団体として、シュリンク包装の廃絶に絶対的に反対です、という立場ではありません。今回の「失われた種の探索」に限ってはこのように判断したという次第です。自然環境に対する皆様の関心は歳月と共に徐々に変化していくかとは思いますので、数寄ゲームズはアンテナを高くして都度柔軟に対応していきたいと考えていますし、今回の判断についても皆様のご意見を広く聞いてみたいところです(なので今回の判断の是非についてもツイッターとかでもいいので呟いて貰えればと)。


とまあ、そんな感じで色々と制作の際に判断に悩む箇所が多かった作品でもあり、「失われた種の探索」はそれだけに思い入れがあります。発売まで相当な時間がかかってしまいましたが、なんとか発売まで辿り着けて安堵しています。どうぞ皆様に楽しんで貰えれば幸いです。



失われた種の探索

プレイ人数:1-4人
対象年齢:13歳以上
プレイ時間:60-75分

ゲームデザイン:Matthew O'Malley, Ben Rosset
アートワーク:Anh Le Art, Anita Osburn
小売希望価格:6600円(税込)
posted by 円卓P at 14:14| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年11月13日

ゲーム紹介:レオナルド・ダ・ヴィンチ レスター手稿



数寄ゲームズは、「レオナルド・ダ・ヴィンチ レスター手稿」日本語版を発売します。プレイ人数1-5人、対象年齢14歳以上、プレイ時間30-150分で、小売希望価格は税込12650円となります。

11月16、17日のゲームマーケットで先行発売を行い、その後、数寄ゲームズ通販サイトでも予約受付を始めます。その後、全国のボードゲームショップさんへのご案内、流通を予定しております。



「レオナルド・ダ・ヴィンチ レスター手稿」は、巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチの弟子の一人となり、様々な発明を完成させ、最も独創的な発明家となることを目指します。評議会や後援者から支援を得て、工房を拡大し、手足となる弟子を増やし、様々な資材を市場から入手し、7ラウンドの後、最も多くの財産を蓄えたプレイヤーが勝利します。

本作は「アルマ・マータ(2020)」「テラマラ(2019)」などで知られるイタリアのゲームデザイナー集団「アッキトッカ」のデビュー作のリメイクとなります。先ほど上げた2作はアッキトッカ名義……つまり4人組のゲームデザイナー集団として発表したタイトルでして、各デザイナーの関係作を上げると「ロレンツォ・イル・マニーフィコ(2016)」「コインブラ(2018)」「グランドオーストリアホテル(2015)」「ゴーレム(2021)」などなど、重量級名作ゲームがわんさかと出てきます。

今でこそイタリアのゲームスクール(「学校」ではなく「勢力」くらいの意味)は一流ブランドとして世界から一目置かれる存在となりましたが、ドイツがボードゲームシーンの中心地にあった時代に、イタリアにおいてアッキトッカが誕生したことはドイツゲームがユーロゲームへとその定義を広げる駆動力として機能しました(最も大きなのはフランス、アメリカの台頭ではありますが、イタリアの存在感も決して無視できる存在ではありませんでした)。その彼らのデビュー作が2006年に発売された「レオナルド・ダ・ヴィンチ」で、先年フランスのウィリアム・アティアが発表した「ケイラス(2005)」によって芽生えたワーカープレイスメント概念を彼ら流に解釈するという鮮烈なデビュー作となったのです。それは、その後数年に渡りゲームシーンを沸騰させたワーカープレイスメントの探求と発展というムーブメントの最初の一歩でもありました。


原版「レオナルド・ダ・ヴィンチ」はダヴィンチゲームズ(現DVゲームズ)から出版。

その後のアッキトッカの活躍ぶりは先程の関係諸作からもわかるとおりではありますが、一方で今から18年前に発表された「レオナルド・ダ・ヴィンチ」自体の評価はというと、デビュー作という出自も相まって洗練されたゲームとは言いづらく、随所に荒っぽさが見え隠れするゲームではありました。また、当時としては最先端のゲームメカニクスに挑戦しているとは言え、今の時代から見るとその先進性はくすんでしまい、素直な評価が難しいという側面もあります。

とは言え、彼らの挑戦が時代に大きな楔を打ち込んだことは間違いなく、また普遍的な魅力や見るべき長所も数多く備えている作品ではあることに間違いはありません。

そこでゲーム根幹の力学はそのままに、様々な改良を施して今風にリメイクしたものが今回の「レオナルド・ダ・ヴィンチ レスター手稿」となります。出版社は13項目の変更点を挙げていますが、ぼくがルールを読んだところ、それに加えてゲーム進行に大きく関わる変更がいくつもあります。

また、この新版では作家陣にChanghyun Baekの名前が加わっています。彼は本作の出版社Dicetree Gamesの創設者でもあるのですが、ゲームデザイナーとして名前が登場するのは本作が初めてとなります。

Dicetree Gamesは「アベカエサル」「トライコーダ」など古典の名作ゲームを豪華内容物を携えてリメイクする手腕で知られる出版社なのですが、ゲーム自体の大胆な改変を行うイメージはあまりないため、今作は同社としてはかなりアグレッシブに踏み込んだ試みと言えます。それだけ、「レオナルド・ダ・ヴィンチ」は扱いが難しいというか、内容物を刷新するだけで今のゲーマーに満足してもらえるような簡単なタイトルではないという判断があったのかもしれません。そして、その試みは見事に結実していると言えます。

Dicetree Gamesお得意のリッチなコンポーネントで遊びやすさを追求し、ルール面ではゲーム進行の洗練を図り、往時の荒々しさを彷彿とさせる激しい鍔迫り合いを心ゆくまで堪能できる充実の2時間半。当時のゲーム特有の輪郭のはっきりしたインタラクションはそのままに、今風の味付けを施した実にバランスのいい一品に仕上がっていると言えます。

……能書きが長くなってしまいましたが、では「レオナルド・ダ・ヴィンチ レスター手稿」はどんなゲームなのか。それをこれからお伝えしていきましょう。



◆ワーカープレイスメントと競りの融合。先手で逃げる? 後手でまくる?

先ほど述べたとおり、ワーカープレイスメントは2005年の「ケイラス」が先駆けとなって世界に広まったゲームメカニクスです。ワーカープレイスメントはつまりアクションの公開ドラフトで、手順番にワーカーを配置することで様々な効果を持つアクションの実行権を先取りするメカニクスと言えます。

また、現代ではワーカーを配置すると即時にアクションを実行する仕組みのものが多いのですが、「ケイラス」の頃のワーカープレイスメントは「ワーカーの配置」と「アクションの実行」が別フェイズのものが主流でした。つまり、ワーカーを3つ持っていたら3つのワーカーを手順番に配置して、その後、全員がパスしてから実行フェイズで3つのアクションが行われる、といった塩梅です。

何度もお伝えしていますが本作は「ケイラス」の翌年に発表されたタイトルなので、この配置と実行が分離した「初期ワーカープレイスメント」に属するゲームです。さらに本作ではワーカーを配置するだけではアクションの実行権を獲得することができません。

というのは、誰かがワーカーを置いたアクションスペースに他プレイヤーも後乗りでワーカーを置くことができるからです。こうなると1つのアクションスペースに複数のプレイヤーのワーカーが置かれることになるのですが、プレイヤーAとプレイヤーBがそれぞれワーカーを置いているアクションスペースは、さて、どちらが実行権を得るのでしょう? ……実は、この設問に「レオナルド・ダ・ヴィンチ レスター手稿」の最大の魅力が詰まっていると言っても過言ではありません。

答えは「より多くのワーカーを配置しているプレイヤーから、全部で4回あるアクションの実行権を順番に獲得する」です。

4回? 順番? なんのこっちゃ? と思われるかもしれません。こういうときは極端に簡単な例から徐々に話を進めていきましょう。

局面1. あるアクションスペースにプレイヤーがワーカーを1つ置いています。
結果1. プレイヤーはそのアクションを4回実行します。

……うん、これはそこまで難しい話ではないでしょう。

局面2. あるアクションスペースにプレイヤーAがワーカーを2個、プレイヤーBがワーカーを1個置いています。
結果2. プレイヤーAがアクションを行い、プレイヤーBがアクションを行います。その後、プレイヤーAが2回目のアクションを行い、プレイヤーBも2回目のアクションを行います。

全4回のアクションが、ワーカーの配置が多い順番で、プレイヤーA → プレイヤーB → プレイヤーA → プレイヤーBの順番で行われるということです。

人によっては「ワーカーが同数だったらどうなるの?」と疑問に思うかもしれません。ゲームに慣れている人なら「そもそも同数になるようにワーカーを配置できないルールなのかも?」と推測を進めるかもしれませんね。

答えとしては、同数の場合、より先にワーカーを配置している方がより多くのワーカーを配置しているものとみなします。翻って言えばワーカーの同数配置もできますよ、ということになりますね。


さて、全4回のアクションをワーカーを配置したプレイヤー間で振り分ける…… という仕組み自体はそれほど難しいことではないかと思います。が、さらに本作ではアクションの実行コストが絡んできます。1回目のアクションは無料、2回目のアクションは2金、3回目のアクションは3金、4回目のアクションは4金のコストを、ワーカーの配置とは別に支払う必要があるのです。



このルールを加えて先程の局面をアップデートするとこうなります。

局面1. あるアクションスペースにプレイヤーがワーカーを1つ置いています。
結果1. プレイヤーは無料で1回目のアクションを実行し、2金を払って2回目のアクションを実行し、3金を払って3回目のアクションを実行し、4金を払って4回目のアクションを実行します。

テキストが倍以上に増えた! もちろん、十分なお金を持っていない場合は払える限りのアクションを実行するだけとなります。

局面2に至ってはこうです。

局面2. あるアクションスペースにプレイヤーAがワーカーを2個、プレイヤーBがワーカーを1個置いています。
結果2. プレイヤーA無料でアクションを行い、プレイヤーB2金を払ってアクションを行います。その後、プレイヤーA3金を払って2回目のアクションを行い、プレイヤーB4金を払って2回目のアクションを行います。

なかなか複雑になってきました。さらに面倒な話としては、プレイヤーが十分なお金を持っていない場合はどうなるか? という話です。

局面2. あるアクションスペースにプレイヤーAがワーカーを2個、プレイヤーBがワーカーを1個置いています。プレイヤーAは1金、プレイヤーBは7金を持っています。
結果2. プレイヤーAが無料でアクションを行い、プレイヤーBが2金を払ってアクションを行います。その後、プレイヤーAは3金を支払えないのでもうアクションを行えません。プレイヤーBは3金を払って2回目のアクションを行い、さらに4金を払って3回目のアクションを行います。

アクションの実行権は全部で4回あって、それをプレイヤー間で分け合うのですが、お金を支払えないと実行権を得られない、というのがミソなんですね。なので、アクションの実行のためには前もって十分なお金を用意する必要があります。

が、実はこのゲーム、最終的にはお金=勝利点だったりもします。なので、プレイヤーはどこまで勝利点を削ってアクションを実行するかで終始悩むことになります。

その上で様々なアクションスペースにどれくらいのワーカーを割り振るか。これが実に悩ましい。

先手であれば同数配置のタイブレークで有利ではありますが、あまりに少ない配置だと後手にオーバービッドされてしまうかもしれません。ワーカープレイスメント特有のアクションの奪い合いではあるのですが、実態としてはワーカーを使った競りとも言えます。

さらにここに「見習い」と「師匠」という2種のワーカーの配置ルールが絶妙に絡んできます。見習いは一般的なワーカーで、一度見習いを置いたアクションスペースには追加で見習いを置くことはできません。



が、師匠は見習いの置かれたアクションスペースに追加で置くことができます(逆の順番の「師匠 → 見習い」も可)。師匠は見習い2個分相当の強力なワーカーでもあり、どのタイミングで師匠を置くか、師匠と見習いのどちらを先に使うか、細かい判断が実は大きな影響を及ぼす作りになっています(ちなみに能力の異なるワーカーという仕組みを世界で初めて発明したのが原版「レオナルド・ダ・ヴィンチ」の功績の一つでもあります)。


ワーカー配置の総まとめとしてはこう。

本作のワーカープレイスメントは、UI装置としての機能に特化した現代のそれと比べると、相当に濃密なやり取りをプレイヤーに求めるシステムになっています。しかしながら、ゲームの根幹となるアクションスペースは「スタートプレイヤーの獲得」「研究施設の改良」「ワーカーの増加」の3種に絞られていて、「ハイ、ここで争ってくださいね」という意図が極めて明瞭です。リソースやお金を獲得するアクションスペースも用意されているのですが、それらは副次的な存在で争いが起きることはあまりありません。

……とまあ、そんな感じで、2種のワーカーを使い分けてアクションの実行権を競るこのメインエンジン、相当に独特な作りです。結構長いことボードゲームを嗜んでいる身ではありますが、類似の作品は見たことがありません(競りとワーカープレイスメントの組み合わせだと「キーフラワー(2012)」がちょい近いのですが、あれはまた別軸のゲームではあります)。

このシンプルかつユニークなメインエンジンを試してみるだけでもこのゲームを遊ぶ価値があります。18年前に作られたゲームとは思えないほど斬新な……というか、今の時代だからこそ一周回って新鮮さすら覚えるバチバチなプレイフィールをぜひ味わって貰えればと思いますよ。


◆発明を完成させ、巨万の富を得よ!

さて、前項にて本作は中心的なエンジンとしてワーカーを使った競りを行う旨をお伝えしましたが、実は競りの原資となるワーカーにはアクションの実行以外にもう一つ重要な役割があります。それが工房での作業です。

十分な資源が手元にある場合、プレイヤーは発明宣言フェイズで発明を予約することができます。各発明には完成のために必要な作業時間が設定されていて、その数に等しいワーカーを工房で働かせることで発明は完成します。

完成した発明は主に3つの利益である「お金」「カードの特殊効果」「セットコレクション用のアイコン」をもたらします。「お金」「カードの特殊効果」はそのままですが、「セットコレクション用のアイコン」は集めることでゲームの終了時にアイコン数に応じたボーナス点が入ります。



また、ちょっと面白い仕組みとして、1つの発明カードに複数のプレイヤーが同時に予約を行うこともできます。こうなるとどちらが先に発明を完成させるかの競争が始まることになるのですが、一番最初に発明を完成させたプレイヤーがすべての利益を総取りする10:0の関係ではなく、2番目に完成させたプレイヤーも先述の3つの利益のうち「お金」「セットコレクション用のアイコン」の利益だけは貰うことができるようになっています。つまり10:7くらいの関係。裏を返すと「カードの特殊効果」は最初に完成させたプレイヤーだけしか得られないということになるので、カード効果目当ての発明であれば、他人に先んじて完成させる必要があります。


また、利益の中で特に重要なのはお金です。先ほどアクションの実行にはお金が必要だと述べましたが、このゲームのお金の主な入手先は発明の完成によるものです。

そのため、アクションを競り合うことも重要なのですが、並行して発明も完成させなければ効率的に手が進みません。他プレイヤーが発明に注力するならば競りが緩くなるのでアクションを数多く実行するチャンスですし、逆に競りが熾烈ならば自分は発明に没頭するべき、というような他プレイヤーとの押し引きが実は重要なゲームです。


さて、アクションの実行にも研究の進展にも人手が必要なこのゲーム、現代日本と同様に万事人手が足りません。

そこは稀代の天才レオナルド・ダ・ヴィンチ、このゲームでは研究を手伝ってくれる自動人形が登場します。自動人形は発明の作業だけを行うワーカーといった存在で、「専用の部屋を用意して」「自動人形を購入して」「その上でワーカーを配置する」ことでラウンドごとに1回働いてくれるというなかなかに面倒な手続きが必要な存在ではあるのですが、非常に便利な存在です。


自動人形を働かせるには専用の部屋も必要。

特筆すべきはお給料を払わなくてもよいという点で、このゲームでは数ラウンドごとにワーカーにお給料を支払う必要があるのですが、自動人形は人間と違って文句も言わず無給で働いてくれるのです(経営者にとっての理想の労働者!)。

さらに自動人形は改良することでワーカー2人分の作業をこなしてくれるようにもなり、工房運営の戦力として大活躍します。競り&作業に活躍するもお給料の必要なワーカーか、初期投資がかかるもコスパ抜群な自動人形か、どちらを先に充実させるべきかも悩ましい選択です。


◆Book Boxシリーズならではの豪華な内容物も必見

本作は「アベカエサル」と同じくDicetree Games発のBook Boxシリーズと呼ばれる作品群の一作で、豪華でハイグレードな内容物は今回も健在です。実はこの日本語版を出版する際、版元のDicetree Gamesからは「内容物のグレードを松・竹・梅の3つから選べるけどどうする?」と聞かれました。梅コースと松コースの違いは例えば、梅だとお金が厚紙チップになりますが、松だとクレイチップ(!)になったり……といった違いです。



で、「どうせやるなら松でお願いします!」と答えたのが今回の日本語版になります。そのため、ゲームで使用するお金70枚はすべてクレイチップ…… おいおい、キックスターターのアドオンじゃないんやぞという豪華さです。



資材120個のうち木材、レンガ、ロープはUVプリントで模様が印刷されていますし、3枚の個人ボードはダブルレイヤー仕様で機能性バッチリ。ゲームの内容物をスッキリと収める専用トレイも付属していて、すべての内容物を箱の中にキッチリ気持ちよく収納することができます。



そんなワケで本作のお値段は小売希望価格12650円(税込)…… と、数寄ゲームズ史上最高額の製品となってしまったんですけども、様々なアドオンを突っ込んだ豪華版と捉えて頂ければ高すぎる内容ではないことがご理解頂けるのではないでしょうか。……ご理解頂けるとありがたいです。


また、ここまで読んで頂いた方にもう一つ検討材料をお知らせさせて頂きますと、本作は通常の製品よりも製造数を絞っています(これは同時発売の「トライコーダ」も同様です)。製品の性質や価格帯などを考慮するに少しディフェンシブに動かざるを得ない事情はありまして、他の製品とは異なり、本当に欲しい人に届けることを第一の勝利条件として設定しています。

そのため、これからの動きがどうなるかは予想がしにくい部分があるんですけども、本作を待ち望んでいた方はこの機会をぜひお見逃しなく! と、強く強くお知らせしておきたいです。本作はゲームマーケットでの先行発売となりますが、間を置かずに数寄ゲームズ通販サイトでの予約も実施する予定ですので、ゲムマに来場予定のない方もそこはご安心頂ければと思います。

ただ、その後の一般販売や流通、将来的な再販予定などについては他の作品よりも不透明な製品と言わざるを得ません。まあ、爆発的にヒットしたりすれば話はまた違ってきますけども、うーん、それはさすがにないでしょうしね。

元々の原版も「知る人ぞ知る怪作」という立ち位置ではありましたし、重厚な本格派タイトルが並ぶアッキトッカ諸作の中でも賛否の分かれる一作ではありました。ただ、今回のリメイクで賛否の否の部分は相当に削られまして、様々な形で手触りの良化とバランス改善が図られた一線級のゲームに作り直されたのは確かです。

原版が備えていた激しくも精緻なインタラクションはそのままに、独特なワーカープレイスメントの旨味がよりハッキリと味わえる秀逸なリメイク作品となっています。重量級のゲームではありながら処理はスッキリとしていて初回プレイからゲームのキモがわかる明瞭な導線も遊びやすさに貢献しています。

個人的にちょっと驚いているのはプレイ時間で、以前開催された超新作体験会で本作の試遊を4回行ったんですけども、インスト込み3時間で3卓が余裕を持って終了し、残る1卓もロスタイム内でゲームを終わらせることができました。このときはすべて4人プレイだったので、5人プレイになるともう少しプレイ時間が延びるかなという雰囲気はありますが、箱に表記された150分表記がウソじゃないのは確かです。これはなかなか凄いなと。

また、こうした重量級ゲームで拡張なしに5人対応しているものは昨今珍しいので、そうしたゲームを入り用としている人には面白い選択肢になるのではないでしょうか。一方でボード裏面は少人数プレイに対応していて原版よりも少人数プレイへのアジャストが図られています。

そんなワケで、様々な方にどっぷり堪能していただけることは間違いない、令和に蘇った「レオナルド・ダ・ヴィンチ レスター手稿」を、ぜひ多くの方に試してみて頂ければと思います。


……ちなみに豆知識なんですが、箱絵の有名な画像はレスター手稿(水理学を主題として観察や理論が記載された紙片)に記載されたものではなく、ウィトルウィウス的人体図という素描だそうです。




レオナルド・ダ・ヴィンチ レスター手稿

プレイ人数:1-5人
対象年齢:14歳以上
プレイ時間:30-150分

ゲームデザイン:Changhyun Baek, Flaminia Brasini, Virginio Gigli, Stefano Luperto, Antonio Tinto
アートワーク:Seongho Lee
小売希望価格:12650円(税込)
posted by 円卓P at 01:36| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年10月11日

ゲーム紹介:アルデバランデュエル



数寄ゲームズは、「アルデバランデュエル」日本語版を発売します。プレイ人数1-2人、対象年齢12歳以上、プレイ時間60-90分で、小売希望価格は税込6600円となります。

10月14日から数寄ゲームズ通販サイトにて先行販売の予約受付を始めます。その後、全国のボードゲームショップさんへのご案内、流通を予定しております。

「アルデバランデュエル」は、「アンダーウォーターシティーズ」「エヴァキュエーション」などで知られるウラジミール・スヒィの手による2人用ゲームです(ソロプレイもあり)。実際遊んでみて個人的には「これはスヒィさん流の『宝石の煌き』の解釈では!?」などと思ったのですが、一緒に遊んだ人からはあまり賛同を得られていません(笑)

いや、でも、自分としてはかなりその色合いを感じるところが大きいので、この紹介記事ではその辺りも含めてゲームのキモをご紹介していければと思います。一言で言えば、カードプレイを通して手元を育てていくタブロービルド、拡大再生産の色味が強いゲームです。



テーマ的には2つの帝国の間で惑星間紛争が勃発するぞ、というお話ではありますが、生粋のユーロ畑のデザイナーであるスヒィさんらしく、殴り合いなどの直接的な妨害要素はなく、カードのドラフトやカット、2人用ゲームにつきものの綱引きの攻防などでインタラクションが作られています。

また、スヒィ作品と言えば2人プレイ適性の高さに定評があります。「アンダーウォーターシティーズ」は言うに及ばず、「ウッドクラフト」や「エヴァキュエーション」……「シップヤード」もそうかな? 多人数ゲームでも2人で遜色なく遊べるタイトルが数多い今風のデザインを得意としている人なのですが、「それじゃスヒィさんが2人専用ゲームを作ったらどうなるの?」という問いかけはなかなか面白い設問だと思うのですね。

そして、この「アルデバランデュエル」はまさに本気で作られた2人専用ゲームであり、2人専用ゲームならではの工夫がそこかしこに散りばめられています。また、数寄ゲームズではこれまでスヒィさん作品を多く取り扱ってきたのですが、最近では魅力的な2人用ゲームにも注力しています。

ウラジミール・スヒィ×2人専用ゲーム! まさにこれは数寄ゲームズでやるべきゲームでしょ!

……ということで、今回、日本語版を出版することになったのです。

ということで具体的なゲーム内容をご紹介していきましょう。



◆手番には、カードを取るか、プレイするかの2択だけ

「手番にはAかBをするだけの簡単なゲームです」のような言い回しは、昨今では重量級ゲームのインストでの常套句となっている感もありますが(大体は簡単ではない)、本作も組み立てとしては同じです(簡単かどうかで言えば、少し難しい、くらい)。具体的にはカードを取るか、カードをプレイするかの2択。1アクションを行ったら相手に手番を移し、2人ともパスするまでこれを繰り返します。

カードを取るアクションでは、場に並べられた6枚のカードから欲しいものを取るのですが、取り方として「価値3までのカードを取ることができる」というルールがあります。

さて、価値とはなんぞや? と言いますと、カードは場に3段2列に並べられているのですが、下段のカードは価値1、中段のカードは価値2、上段のカードは価値3となります。これらの中から組み合わせで価値3までカードを買っていいよーという仕組みなので、実際にカードを取る組み合わせは「下段2枚」「下段1枚+中段1枚」「上段1枚のみ」のいずれかになります。



カードを獲得した後、空いたスペースは下に詰められて新しいカードが補充されます。そのため、価値3のカードでも待っていれば価値が下がって入手しやすくなります。


注意事項として、このゲームには7枚の手札上限があります。手札上限をオーバーするようにカードを取ることはできませんし、手札が7枚ある場合はカードを取るアクションは行えず、カードをプレイするアクションを選ばなければなりません。

それでは具体的にどのようなカードを取るべきなのか? それをお話しするためには、もう1つのアクション、カードのプレイから説明する必要があります。


カードのプレイでは手札から任意の1枚をプレイします。この時、カードに示されているコストを別のカードで支払う必要があります。

つまり、各カードは「カード」と「コスト」のどちらかの用途で使用することになるわけです。「サンファン」などのゲームを遊んだことがある人ならイメージしやすいかもしれませんね。



そのため、カードを取る際には、もちろんプレイしたいカードを取ることが第一なのですが、そのカードをプレイするためのコストとなるカードも確保しなければなりません。欲しいコストのカードが常に場に出てくるとは限らないのでコストの確保も結構なポイントですよ。


さて、ゲーム中には5種類のカードが登場します。各カードはプレイすることで様々なボーナスをプレイヤーにもたらしてくれるのですが、中にはボーナスを得るために条件が必要なものもあります。

1. 生産ステーション

「生産ステーション」は、プレイすることで、カードプレイに必要な資源を永続的に割引きます。「宝石の煌き」などを遊んだ人ならばわかると思いますが、割引はめちゃ重要です!


2. スペースシャトル

「スペースシャトル」は、プレイすることでラウンド終了時に得点の綱引きを行う軍事/貿易/外交のトラックを1歩進めます。要するに得点獲得手段です。


3. 惑星

3つ目の「惑星」は……ここからがちょっと複雑なのですが、プレイするだけではボーナスを得られず、完成させて初めてボーナスを得られるカードです。基本的には後述する「入植」を行わないと惑星からはボーナスを得られません。


4. 入植

続く4つ目は「入植カード」で、惑星の空きスペースを埋めるようにして配置することで惑星のセットを完成させるパーツです。大体の惑星は入植カードの色を指定してくるので、この辺をマッチさせるのがなかなか難しいところです。


入植の図。最終的には風車みたいな感じになったり。


5. 植民船

最後の5つ目は「植民船」で、入植が完了した惑星1つにつき1枚プレイすることができます。様々なボーナスをもたらすのですが、コストが安くてオトクなカードです。見た目が「スペースシャトル」と似てるのですが、カード右下のアイコンで判別することができます。

コスト比で考えると「植民船」は単純に強いので、惑星の入植を行うならば植民船のプレイまで終わらせて1セットと考えたほうがいいでしょう。「惑星」「植民」「入植船」は1セット。入植は結構手間がかかるので、ここまでやらないと元が取れません。


とまあ、そんな感じで、ゲームの基本的な流れとしては、「カードを取ってプレイする」「カードのボーナスを得ることで割引や得点源を得る」のサイクルを繰り返していく形になります。

これを続けていくとそのうち場札が尽きますので、カードを取ることもプレイすることもできなくなったらパス。両プレイヤーがパスしたところで1ラウンドが終了という流れになります。


◆ラウンド間に研究と綱引き

両プレイヤーがパスしたら次に「研究」を行います。実はプレイヤーの手にはゲーム開始時にドラフトで獲得した研究カードが5枚あり、このうち1枚をこのタイミングでプレイすることができます。カードのプレイにはここだけでしか使えない「科学」の資源を支払う必要があり、この支払いが結構重いです。

科学カード


で、実はこの研究カードが戦略上はかなり重要です。「手札上限が7枚から8枚になる」効果を得られたり、「特定のカードをプレイすると追加の得点を獲得する」効果を得られたりと、かなりハデ目な特殊能力を獲得することができます。この研究カードの選択とプレイが勝敗に大きな影響を及ぼします。

先述の通り、研究カードはゲーム開始時にドラフトで獲得するので、目指すべき戦略の補助線となります。科学カードはゲーム中3枚しかプレイできないので、どのカードをどのタイミングでプレイするかを事前に検討する長期的な視野も必要になりますね。


続いて、影響力ボード上で綱引きを行います。

これは「スペースシャトル」のボーナスで得られた軍事(オレンジ)、経済(緑)、外交(紫)のトラックの差分だけ駒を自分方向に引き寄せるもので、自分の陣地側に駒をより多く引き寄せることで高得点を狙うことができます。



基本的にはある分野に特化すると得点効率がいいので、どれか1分野に集中して1点突破を狙いたいところです。ということは、相手の特化行動を阻止するのも大事ということなんですけども。

また、影響力ボード上の駒はラウンドを跨いでもリセットされない! ので、一度大敗すると2度3度と点数を献上することになってしまったりも。逆に序盤でそうした得点基盤を作れると強いのですが、序盤は生産の土台を作りたい時期でもあるので悩ましく……


とまあ、こんな流れを1ラウンドとして、3回繰り返したらゲーム終了。カードは時代を経るに従ってよりコストが重く、より強力になっていきます。


◆2人専用ゲームならではの駆け引きが熱い!

プレイ時間60-90分という表記からもわかる通り、それなりに要素の多いゲームではあるのですが、慣れてくるとカードの取り合いが熱いことがわかります。

実はこのゲーム、コストを割引してくれる「生産ステーション」が強力です。というのは、先述の通り、後半になればなるほどカードプレイのコストが重くなるため、割引力の差が手数の差として顕著に出てくるのです。そのため、特に序盤の「生産ステーション」は見かけたら即確保で正解と言えます。

例え、価値3で手番に「生産ステーション」1枚しか取れないとしても見返りは十分にあります。というのは、「生産ステーション」を取る行為は同時に相手が取るのを防ぐ行為でもあるからです。いわゆるカットですね。

その前提で、「生産ステーション」を入手するためには手札に空きを作っておく必要があります。そう、手札は7枚までしか持てないんですよ! この縛りが実に効いてます。

手札を7枚にした瞬間にポロッと「生産ステーション」が出てきたら、相手は悠々とそのカードを獲得することができます。こちらは次の手番にはカードをプレイしないと手札が空かないのに!


そのため、ゲームに慣れてくると「今、手札何枚?」と相手の手札枚数を確認する機会が増えてきます。そうした手札枚数のハンドリング、マネジメントが地味に効いてくるゲームなのです。

手札枚数が多いと行動の選択肢が狭まるけど、そもそも手札を溜めないとカードのプレイ自体ができないというこのジレンマ。これを解決する意味でも割引は強力な要素です。また、別解として手札とは別に保持できて、ワイルド資源として支払えるワイルド資源トークンというものもあります。これも強力。


ゲーム全体に渡って「手札上限は7枚」という縛りと「カードをプレイするのにコストとして別のカードが必要」という仕組みがすーーーごくよく噛み合っているんですよね。ぼくが「宝石の煌き」っぽいと評するのはこの辺りのジレンマ構造を指していて、かつ、このジレンマって多人数ゲームでは制御しにくいので(上家の気分次第)、自分の行動が相手に直接的な影響を及ぼす2人ゲームでより輝く組み合わせでもあります(なのでぼくは「宝石の煌き」は理論上は2人ベストだと思っています。が、2人だとガチに寄り過ぎるので3人のほうが適度にゆるく遊べるというのも事実です)。


慣れてくると、いかに「生産ステーション」をポロリさせないように立ち回るかとか、「生産ステーション」がポロリしたとしてもダメージを最小限に抑える動き方だとか、細かいテクニックも見えてくると思います。この辺のリスク管理は、ちょっと「ジャイプル」っぽさがあるかもしれません。

ただ、この駆け引きって「『生産ステーション』が強い」という事前知識がないと思い至らない部分でもあると思います。まあ、1回遊べばすぐわかることでゲームの寿命を縮めるようなことでもないので言ってしまいますが、「『生産ステーション』は強い!」です。

その前提でゲームに取り組むと「相手が欲しがってる資源をカットする手があるぞ」とか、「相手が特化したい分野をカットする手があるぞ」とか、様々な応用も思いつくかと思います。直接的な攻撃手段こそ用意されてはいないのですが、どうしたら相手が嫌がるかを考えて締め付け合い、互いに我慢比べを始める洗面器ゲームの側面もあります。

とは言え、同時に欲しいカードがポロッと出てくるガチャ的な快感もあり、運と技術の要素がバランスよく用意されたタイトルだと思います。苦しいけども窮屈過ぎないというか。また、そうした小細工を吹き飛ばす科学カードのオーバーパワーぶりがチマチマ刺し合うだけのゲームで終始しないスケール感を演出してもいます。


◆出版社 Dino Toysとはナニモノ?

さて、このゲームは、スヒィさんの作品でありながら、出版はいつものデリシャスゲームズではなく、Dino Toysという聞きなれない会社から出版されています。その辺り、ちょっと不思議に思った方もいるかもしれません。

このDino Toys、実はチェコのおもちゃメーカーです。日本だと……カワダさんとかの会社のイメージなんですかね(ぼく自身、カワダさんもDino Toysも全貌を知っているワケではないのであくまでイメージです)。

で、Dino Toysは自前で印刷工場を持っていまして、デリシャスゲームズの作品は殆どがDino Toysの印刷工場で印刷されていたりします。Dino Toysは少量ながらボードゲームを出版していることもあり、そこからの繋がりでスヒィさんのゲームがDino Toysから出版されることになったのでしょう。

一方のデリシャスゲームズ側としても、ゲームを出版する計画が数年先まで既に決まっていて、かつ、それらは多人数用のタイトルであるという方針があり、デリシャスゲームズのリソースでは2人専用の「アルデバランデュエル」まで手が回らなかったという事情もあるようです。まあ、デリシャスゲームズって数人で運営している家庭内出版社ですからね。


Dino Toys自体はボードゲームがメイン事業ではないそうなので、ルールブックの書き方やらアイコンデザインやらサマリーの構成やら、ちょっとこなれてない面はあります。ゲーム自体はそこまで難しくはないんですが、各要素の順序構成など、ルールを読んでて、ちょっとこんがらがる箇所はあり……

個人的にそうした読みにくさを感じたこともあり、今回は手製のサマリーを用意しました。こちらは数寄ゲームズ通販サイトの直販分に添付いたします。大分スッキリと要素をまとめられたと思いますのでプレイの補助にお役立ていただければ幸いです。




そう言えば豆情報ですが、日本語版では「アルデバランデュエル」のタイトルロゴを新たに書き起こしています。原版は意図してレトロを狙っているのでしょうが、なんか古めかしさが先だってちょっと好きになれなかったんですよね。



個人的には日本語版の方が今風な仕上がりになっていると思います。日本のファンの方々に気に入って貰えるように日頃から知恵を絞っているのですが、少しでも気持ちが伝わっていれば嬉しいです。


アルデバランデュエル

プレイ人数:1-2人
対象年齢:12歳以上
プレイ時間:60-90分

ゲームデザイン:Vladimir Suchy
アートワーク:Jozef Bard Murcko
小売希望価格:6600円(税込)
posted by 円卓P at 11:14| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年07月01日

ゲーム紹介「スマートフォン株式会社 拡張:Update1.1」



数寄ゲームズは、「スマートフォン株式会社 拡張:Update1.1」を発売します。プレイ人数1-5人、対象年齢14歳以上、プレイ時間90分で、小売希望価格は税込4400円となります。

7月1日から数寄ゲームズ通販サイトにて先行販売の予約受付を始めます。その後、全国のボードゲームショップさんへのご案内、流通を予定しております。

「スマートフォン株式会社 拡張:Update1.1」は、スマートフォンの製造販売というホットなテーマと、パットを組み合わせてアクションポイントを割り振りする洗練されたアクション選択システムで人気を博した経済ゲーム「スマートフォン株式会社」の待望の拡張セットとなります。

「スマートフォン株式会社」の初版は2018年に発売と、すでに6年もの月日が過ぎているのに個人的には驚きを隠せないのですが、考えてみれば4G通信が最新技術としてフィーチャーされている時代のゲームではありましたねえ、と思い直しました。今の時代だと、1からスマホ会社を立ち上げて先行者からシェアを奪うのは難しいかもしれませんねえ…… バルミューダフォン的な……

そうした時代設定も含めて一世代前のゲームとも言えるのですが、奥深さと遊びやすさを両立させたゲームデザインは今もなお先進的な存在と言えますし、アートワークもバッチリキマっていて、今回の拡張セットのパッケージアートも素晴らしい出来栄えです。今でも衰えない人気があり、時代を越えても古びない、稀有なゲームと言っていいんじゃないかなと思います。



さて、そんな「スマートフォン株式会社」の拡張キット「Update1.1」では、「2−3人プレイ用ボード」「新技術タイル」「指令タイル」「ハードコアモード」の大きく分けて4つの要素が登場します。各要素はモジュール式になっているため、それぞれを加えるかどうかを細かく調整することも可能です。

それでは、各要素について詳しく説明していきましょう。



◆少人数でも申し分なし! 贅沢な専用マップ

「スマートフォン株式会社」は世界中のスマートフォンの需要を奪い合う対戦ゲームです。各プレイヤーはスマートフォン製造会社のCEOとなり、世界各地で市場争いに血道を上げるのですが、やはり舞台が広大な「世界!」ということもあり、熱いバトルを繰り広げるにはそれなりのプレイヤー人数が必要という前提がありました。

そのため、このゲームのポテンシャルを引き出せるのは最大人数の5人というのもよく聞こえてくる言説です。ソロプレイにも対応し、AIプレイヤーのスティーブをプレイヤーとして追加するオプションもあるとは言え、プレイ人数の制約が強めのゲームなのは否めません(また、後発の「モバイルマーケット」はそうした少人数プレイのニーズに応える形で開発された側面もあるでしょう)。



今回追加される2-3人プレイ用ボードは、その名の通り2-3人プレイ専用の新しいマップとなります。「スマートフォン株式会社」は、全体ボードがダブルレイヤー仕様という大掛かりな設計のゲームなだけに、新マップの追加は結構な難しさを感じさせるのですが、ルールの変更で対応するのではなく「新マップを作ります!」という大胆さには大きな意気込みを感じます。

そのため、少人数で遊ぶ機会が多い方にはまさに念願の拡張セットと言えるのではないでしょうか。体積が箱の半分を占めるこの新マップを存分に楽しんでいただければと思います。



また、新マップは単純に少人数向けにアジャストしただけでなく、予算か技術かのどちらかの条件を満たすことでスマホを購入してくれる新タイプのバイヤーも登場します。個人的には少人数で遊ぶ機会が少ない側のプレイヤーなので、なかなかこのマップを楽しむチャンスを得られなさそうなのが歯がゆいところですが、どこかで折を見て試してみたいなと思っています。

ちなみに新マップでは改善ブロックの数が絞られ、各ラウンドで3枚だけしか改善タイルが公開されないのですが、このルールは基本ゲームのマップに流用することもできます。

また、基本ゲームの日本語版とは異なり、マップに貼り付ける地名用の和訳シールはありませんので、ご注意ください。


◆よりシャープな体験をもたらす新技術タイル

それじゃ普段から4-5人で「スマートフォン株式会社」を遊んでいる人にとって「Update1.1」はバリューの薄い拡張セットなのか、と言われれば、いいえ、そんなことはありません。熟練プレイヤーにとっては待望の新しい技術タイルが登場します。


「スマートフォン株式会社」ではゲームごとに5枚の技術タイルが登場します。これらの技術の組み合わせによってゲームの展開は大きく変化します。

ただ、基本ゲームの10種類の技術は組み合わせのパターンが限られているため、繰り返し遊ぶ上ではもう少し新味が欲しいというニーズがありました。



今回の拡張セットでは新しく10種類の技術が加わるため、組み合わせパターンも大きく増加します。基本ゲーム以上にリスクとリターンが顕著な「尖った」技術が数多く登場するため、プレイングにはより高度な判断力が求められるようになります。



中でも白眉なのはゲームに同梱されたCEO駒を盤上で動かし、CEO駒がいる地域に大きな影響力をもたらすCEOテクノロジーでしょう。この技術は他社を圧倒する強烈な効果をもたらす一方、CEOの移動のためにコストを支払う必要があり、効率的にCEOを働かせるという新しいレイヤーの思考が必要になります。


◆指令モジュールで早取り達成要素がプラス



指令モジュールでは、プレイヤー全員の共通目標となる指令タイルがゲームに加わります。他プレイヤーに先んじて目標を達成することで大きなVPを得ることができるので、各プレイヤーの動きにはより細かく目配せする必要があるでしょう。

指令タイルはゲーム開始時に規定枚数が用意されるだけで、ゲーム中に補充されることはありません。獲得の機会は限られるため、指令タイルを目指してプレイするか、それとも自分の戦略を貫き通すかでジレンマが発生することもあるでしょう(もちろん自分の戦略を構築しつつ指令タイルを確保できればベストなのですが)。


指令タイルは多くのゲームでよく目にする早取りの目標達成要素なので、要素自体にはさほど新味はないのですが、手番順がキモな「スマートフォン株式会社」での「早取り」は少し味わいが異なるところがあります。

例えば、指令タイルの目標を複数のプレイヤーが同時に達成した場合です。その場合、タイブレーカーとしてはアクティブな手番プレイヤーが優先され、誰もアクティブではない場合はスマホの設定価格が低いプレイヤーがより優先的に指令タイルを獲得することになります。

そのため、(手番順にしても設定価格にしても)基本ゲームに比べて値下げによりベネフィットを与えた作りと言え、要所での価格競争がより激化するモジュールという性格も持っています。


◆これぞ熟練者向け。コストに頭を悩ませるハードコアモード

「スマートフォン株式会社」の優れた部分は、現実の経済活動を簡略化、抽象化し、複雑なうねりを持つ社会活動を遊びやすくゲーム的に表現しているところにあります。それは大きな美点の一つですが、一方でそうした抽象化によってシミュレーション的な精緻さを失っている側面もあります。



ハードコアモードは「スマートフォン株式会社」の力学を少しシミュレーションに寄せたルールと言えます。具体的には各アクションにそれぞれ費用が発生します。ノーマルモードでは無料で作れるだけ作ったスマホを売れるだけ売り捌き、売れ残りはそのままポイしてきたのが、これからは無駄なく作り、無駄なく売り切ることを目指すようになります。潤沢に予算をかけることができた研究開発や支店開設もこれからは社内の金食い虫と揶揄されることになるかもしれません。

「スマートフォン株式会社」では売り上げはすべてVPとして処理されてきたので、コストの支払いとはすなわちVPの喪失となります。ゲーム開始時の売り上げが立ち行かない時期にはVPがマイナスの領域に飛び込んでしまうこともあるでしょう。

そうした場合には「利子」が発生し、追加でVPを支払わなければなりません! 逆に潤沢にVPを獲得している企業はボーナスとしての「利息」を得ることができます(ただ、支払う利子に対して、得られる利息は小さく、銀行業への暗い感情を抱きそうになります)。ならば先に売り上げを立ててから技術なり販売網なりを拡充するほうがいいのか……? と戦略の立て方が大きく変わってきます。


こうしたコストの概念の登場によって、「スマートフォン株式会社」は大きく様変わりします。技術が全てをいい方向に動かしていくという技術至上主義のゲームが、現実との折り合いをつけるゲームに変貌するのです。コスト周りの計算によって手間は増えますが、よりリアルな経営ゲームを遊びたいという方にお勧めのルールと言えます。スピンオフタイトルの「モバイルマーケット」でもコストの概念が取り入れられていましたが、やはりこの辺りを意識したものなのでしょう。


ハードコアモードがお届けするのはスマートフォン株式会社の持ち味である「心地よいゲーム体験」とは一風異なるものとなります。より世知辛い、苦みの籠ったゲーム体験を味わえると思いますので、こちらもぜひ遊んでみて頂ければと思います。


なお、ハードコアモードでは指令タイルの達成によって即金が手に入るので、基本ルールと比べて指令タイルの重要度がかなり高くなるかもしれません。


◆様々な遊び方が広がる拡張セット

この拡張セットは大幅なルールの刷新といった要素はなく、基本ゲームにある要素を活かしてゲーム展開のバリエーションを増やした内容と言えます。まさに「Update1.1」の名の示す通りの内容と言えます(とは言え、ハードコアモードはゲーム哲学的には結構大胆な変更だとも思います)。

「スマートフォン株式会社」を楽しんでいる方にとっては選んで間違いのない拡張ですので、ぜひとも一緒に楽しんで貰えればと思います。

また、発売までファンの皆様には大変長い時間お待たせしましたが、やはり、ここが拡張セットの難しいところでして、こちらが出したいと思っていても版元の都合によって実現が難しいということは本当に本当によくあることなのです。

そういう細い糸を掴んでなんとか出版に漕ぎ付けたタイトルになりますので、今後も拡張セットの販売を続けられるように皆様のご助力を頂ければと思っています。どうぞよろしくお願いします!
posted by 円卓P at 11:59| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年04月24日

ゲーム紹介 エヴァキュエーション



 数寄ゲームズは、滅亡する地球から避難して新天地に移住する戦略ゲーム「エヴァキュエーション」を発売します。プレイ人数1-4人、対象年齢12歳以上、プレイ時間60−150分で、小売希望価格は税込9900円となります。

 4月27日のゲームマーケット2024春にて先行発売を行い、その後、数寄ゲームズ通販サイトでの販売や全国のボードゲームショップさんへのご案内、流通を予定しております。



 「エヴァキュエーション」は「アンダーウォーターシティーズ」「プラハ 王国の首都」などで知られるウラジミール・スヒィの最新作となります。スヒィさんは「メッシーナ1347」「ウッドクラフト」と新人デザイナーとの共作が続いていましたが、今回は久々の単独デザイン作品となります。「メッシーナ1347」「ウッドクラフト」は優れたシステムだけに留まらずテーマとの親和性も高く評価された2作ですが、「エヴァキュエーション」もその流れを受け継いで、インパクトのある舞台設定によってプレイヤーがやるべきことを明瞭に提示した作りとなっています。

 とは言え、「エヴァキュエーション」はこれまでのスヒィ作品とは相当にゲーム力学が異なる仕上がりとなっています。様々な作品を世に問うてきたスヒィさんですが、過去のどのタイトルとも似つかない独自の魅力を備えた作品となっていますので、その特徴を今回の記事ではご紹介したいと思っています。


◆旧世界と新世界、人類の命運を賭けた地球規模のお引越し



 このゲームの背景設定は、太陽の膨張により、地球の表面が焼け焦げるという強烈な……昨今の激烈な気候変動を彷彿とさせる物語から始まります。地球滅亡までの猶予はわずか4年! もちろんこれはゲーム上で設定された便宜的な"年(ラウンド)"なのですが、残り僅かな時間の中で、プレイヤーは滅亡を間近に控えた地球から新天地へと人々や文明を避難させなければならないのです。


 そうした舞台設定をゲーム上では旧世界、新世界という2つの"場"として構築し、この2つの世界を断絶させることで、新世界への移住という難題を表現しています。

 ゲーム開始時、旧世界にはこれまでの人類の成果でもある多くの工場が林立しているため、様々な資源が自動的に生産される環境が整っています。そして、プレイヤーはこの資源を使って技術を開発し、宇宙船を建造し、工場プラントや人々や資源を新世界に輸送しなければなりません。

 一方、新世界には資源を生み出す工場や施設はまったくなく、すべて1から作り上げなげればなりません。旧世界から運び込まれた工場プラントや人々を入植させることで、新世界は徐々に生産力を高め、やがて旧世界から独り立ちしていきます。


 つまり、このゲームは旧世界での縮小再生産と、新世界での拡大再生産が同時並行で進むゲームと表現できます。拡大再生産は多くのゲームで見ることができる人気のメカニクスではありますが、一方で縮小再生産は快感に乏しい原理からなかなかうまく行った成功例が見当たりません。

 興味深くはあるが快感原則に反する縮小再生産をどう取り扱うのが正解なのか、という問いに対して、拡大再生産を同時に行えばええんや! という回答は、理に適った新しい提案と言えましょう(天才型主人公とその兄貴分(ただし途中で死ぬ)のダブル主人公型アニメみたいな)。


 その試みによって「エヴァキュエーション」は非常に独特なリソース管理ゲームとして完成しています。このゲームの原理として、資源を支払って何かを得る場合、「資源の支払い元と獲得するものは常に同じ世界でなければならない」という原則があります。



 基本ゲームの勝利条件の1つとして「新世界にスタジアムを3件建てる」という目標があるのですが、この目標を達成するためには「新世界で資源を支払って新世界にスタジアムを建設する」か「旧世界で資源を支払って旧世界にスタジアムを建設し、のちにスタジアムを新世界に輸送する」の2つの方法があるわけです。



 ゲームの序盤であれば、資源の豊富な旧世界でスタジアムを建て、それを輸送するほうが確実でしょう。しかし、新世界が発展してからは、輸送の手間を削減できる新世界でスタジアムを直接建設した方が手っ取り早いかもしれません。

 同じ1資源であっても新世界と旧世界のどちらにあるかで全く価値が異なる独特のエコシステムはいつもと違う脳の部位を刺激してくれます。

 ゲームに慣れないうちはこの資源のやりくりに戸惑う部分も少なくないかとは思いますが「旧世界で資源を払ったら旧世界で得る。新世界で資源を支払ったら新世界で得る」という根本原理さえ抑えれば、そうそう混乱はないでしょう(とは言え、旧世界に資源があるのに新世界に資源がない、という状況が頻発するゲームなので、ついつい旧世界の資源を支払って新世界での買い物ができないものかと考えてしまうんですね)。


 リソースの種類も使い道も簡潔で絞られてはいるので1つの世界をミスなく回すのは全く難しい話ではありません。しかし、これが同時に2つ並行処理を求められると途端に難度が跳ね上がるのがゲームデザインの面白いところです。これって宮本茂のいうゲームの面白さの作り方そのものなんですよね。

https://www.nintendo.co.jp/wii/interview/smnj/vol1/index.html



 やるべきことはわかりやすい。でも、実際にやり遂げるのは難しい。「エヴァキュエーション」の2つの世界という組み立ては、ゲームバランスの目指すべき理想を的確に実現しているスジのいいゲームデザインと言えます。


◆早取りのストレス皆無? 独立性の高いアクション選択システム

 「エヴァキュエーション」にはいくつかのゲームオプションが用意されているのですが、初回プレイでは「レースモード」が推奨されています。これはいずれかのプレイヤーが「新世界に3件のスタジアムを建設し、3種の資源の生産量を8以上にする」条件を満たしたら終了トリガーが引かれるサドンデス形式のゲームモードで、ゲーム全体の流れ、大枠を掴むのに適しています。

 ゴールが明確に設定されているため、後はどのようなルートを通ってゴールに到達すればいいかを考えればいいわけです。



 手番では個人ボードの下部に列挙されているアクションスロットから一つを選び、アクションカードを差し込んでアクションを実行します。アクションの実行にはエネルギーを支払う必要があり、エネルギーを支払える限り、ラウンド中に何回でもアクションを実行することができます(といっても1ラウンドで実行できるアクション数は4-5回程度でしょうか)。



 この手のゲームとしてちょっと変わっているのは同じアクションを複数回重ねて実行することもできる点です。ただし、同じスロットのアクションを4回以上選ぶとエネルギーを追加で1つ支払わないといけません。

 また、アクションはワーカープレイスメントなどの早取りではないので、やりたいアクションを他プレイヤーに先に取られて歯噛みするといったストレスがありません。アクション選択の縛りが相当にゆるい作りで、基本的に他者の干渉によって計画が狂う場面が少ないストレスレスで独立性の高いエンジンと言えます。


 これまでスヒィさんのゲームでは「アンダーウォーターシティーズ」「メッシーナ1347」で見られるワーカープレイスメントや、「プラハ 王国の首都」「ウッドクラフト」で見られるダッチオークションのどちらかに属するアクション選択システムを採用していたのですが、「エヴァキュエーション」はその両者にも属さない、独自性の高いアクション選択システムを採用しています。

 その分、手元の経済パズルに集中できる作りになっていて、スヒィ諸作の中でもかなりハッキリとした「内向きのゲーム」となっています。これまでのスヒィ作品の中では「アンダーウォーターシティーズ」が内向き度が高いゲームではありましたが、「エヴァキュエーション」はそれ以上に内向き度が強いタイトルと言えるのではないかなと思います。


 ただ、アクション選択におけるプレイヤー間の相互干渉は薄いものの、多人数ソロパズルに堕してはいません。例えば、新世界の入植は割のいい土地から埋まっていく早取り要素があるので、手番順はかなり重要です。陣取り要素とまではいかないのですが、お目当ての土地を抑えるためには人の動きを常に気にかける必要があります。


 人類の入植地となる新世界にはツンドラ、砂漠、森、海の4つの環境があり、ゲーム開始当初は極寒のツンドラにしか入植できない人類も、スイングバイのような見た目の「進展トラック」を進めることによって新たな環境に入植できる力を身に着けていきます。



 基本的にはこの進展トラックを進めば進むほど新しい環境、より効率的な入植が可能になるのですが、この進展トラックを進めるために必要なのが「パワーレベル」です。



 パワーレベルは各アクションスロットに設定されており、アクション自体の強さとパワーレベルは逆相関関係にあります。強いアクションはパワーレベルが低く、弱いアクションはパワーレベルが強く設定されているのです。そのため、進展トラックを進めるためには敢えて弱いアクションを選択しなければならないジレンマがあります。

 また、進展トラックには様々なボーナスが用意されていて、このボーナスは手番順の早取りになっています。このボーナスによって次ラウンドの入植可能な土地が決まるので、手番順は非常に重要です。


 基本的には多数派の逆張りをすると立ち回りがラクになるので、多数派が進展トラックを積極的に進めるのであれば抑え気味に動き、逆に多数派が強アクションを連打して進展トラックを軽視するようであれば一人で飛び出す動きが強いのではないかと思います。


 また、アクションのパワーレベルがボーナス値と一致するとボーナスフェイズで利益を得ることができます(条件を緩和する選択ルールもあり)。ここで得られるボーナスはかなり魅力的なので、ボーナスを狙うかどうかも重要なポイントです。



 結果として、実行するアクションの内容だけにとどまらず「進展トラックをどの程度進めるか」「ボーナスを狙うか否か」まで含めて選択するアクションを考慮する必要があり、やりたいアクションを単純に選ぶだけではうまくいかないようになっています。これもまた「ひとつひとつはカンタンにできることを2つ同時にやろうとすると難しい」という好例ですね。ディレクションの根底に流れる理屈には常に妥当性があり、ゲームデザインの説得力に繋がっています。


◆「その技術強すぎない!?」 各人異なる技術タイルを使いこなせ!

 スヒィ作品は常々プレイヤーに新しい能力を付与する強化&成長要素があり、どのように戦略を選択するかで毎回悩ませてくれるのですが、「エヴァキュエーション」ではそれは「技術タイル」という形で実装されています。

 この技術タイル、各プレイヤーごとにそれぞれ内容が異なる9枚の1セットが配られます。技術タイルの中には各セット共通の技術もあるものの、ほとんどがユニークで非対称性が強い作りと言えます。



 技術タイルにはLv1、Lv2、Lv3の3種があり、最下段にあるLv1の技術タイルを完成させると、その直上にあるLv2技術タイルの研究に着手できるようになります。同じようにLv2技術タイルを完成させるとその直上のLv3タイルの研究を始められるので…… つまり、技術タイルの並び順は言わば簡易テックツリーとなっています。

 この並び順はセットアップの際にランダムに決まるので、特定の技術を選択したいけれど、前提技術はイマイチだな…… みたいな場面が往々にしてあります。技術の並び順を見て今回はこれでこれでこうかな?と戦略を練るのは楽しい時間になるでしょう。

 また、基本的には技術には目を疑うような強烈な効果が記載されています。他プレイヤーの完成させた技術の効果に「ウソでしょ!?」と言ってしまうこともしばしば。実際、技術の効能は強力で全部の技術を完成させたくもなるのですが、ここがスヒィ作品あるあるで技術の研究に手を割きすぎて勝利が遠のくことも多いので、どの技術経路を拾ってどの技術経路を断念するかの取捨選択が重要になります。


◆得点モード、上級カードアクションルール、各種モジュール

 さて、ここまで「エヴァキュエーション」の特徴として「他者からの干渉が薄く、ゲーム終了までの道筋が明確である」ことを美点として語ってきましたが、実はこの美点はひっくり返すと欠点にもなります。

 「ゲーム終了までの道筋が明確である」ということは言い換えると「選択すべきアクションの組み合わせはほぼ決まっている」ということでもあり、「他者からの干渉が薄い」ということは「計画を崩されるアクシデントも少ない」ということでもあります。

 そのため、ある程度ゲームに慣れた人が1度遊べば、この順序でアクションを選択すれば形になるんじゃないか、という見通しが大方つくと思います。「スタジアムはゲーム開始時に1件持っているので、残り2件を建設するために2手番は割かなければならない。4回しかない輸送の機会を活かすために宇宙船は2隻は必要なのでこの建設にも2手番が必要。では、残りの約16手番をどのように割り振るかというと……」というように演繹的に必要なアクションを割り出すのはそれほど難しいことではありません。一見強力な効果ばかりに見える研究アクションも手数を考えると選択できる回数は実はそれほど多くないこともわかります(それよりは得点行動を優先したほうがいい)。


 「底が見える」という表現をぼくはよく使うのですが、1回のプレイでゲーム力学の奥底が見通せるデザインのゲームは少なくありません。で、一度遊ぶと「エヴァキュエーション」もそうした「底が見えるゲーム」っぽいところがあるのです。


 実際、ぼくも最初はそう思っていました…… が、実は経験者用の「上級カードアクションルール」と「得点モード」を選択すると、この辺の様相はガラリと変わります。



 基本ルールの「レースモード」は、要は勝利条件達成に向けて約20手番をどう振り分けるかのゲームだったのですが、「上級カードアクションルール」では、プレイヤーは4枚のアクションカードを持ち、通常アクションの代わりにカードのアクションを実行することもできます。アクションカードは通常アクションの1手番1アクションの原則をぶち壊して1手番で2アクションを実行できるようなパワーレベルカードが多く含まれているため、条件達成までの経路が爆発的に増大します。自分で引いて「こんなのあるの!?」と叫んだり、他人がプレイして「それ強すぎない!?」と叫んだり、とにかくヤンチャな内容のカードばかりです。


 ただ、アクションが強いということは進展トラックを進めるためのパワーレベルは低いということでもあり、強いアクションに頼ってばかりいるといつまでも入植効率は悪いままという仕組みがよくできているところです。強力なアクションカードをついつい使いたくなってしまうのが人情ですが、勝つためには全体のバランスを考慮しなくてはなりません。


 また、カードを引いてアクションを行うゲームと言えば「アンダーウォーターシティーズ」を連想しますが、「アンダーウォーターシティーズ」は「欲しい色のカードを引いて嬉しい!」「欲しい色のカードが引けなくて苦しい!」といった射幸心に訴えかけるデザインなのに対して、「エヴァキュエーション」のカードは「なんだこれ強いぞ!?」というシンプルな驚きが強く、印象としては全く異なります。「エヴァキュエーション」では通常アクションでゲームの進行に必要なアクションがすでに網羅されているため、カードの引きで手詰まりになることはありませんし、カードプールもごちゃ混ぜでそもそも何を期待していいかわからないので素直にカードドローの結果を楽しめるということもあるのでしょう。

 そんなワケで一口に同じアクションカードという括りでも、それがもたらすゲーム体験は全く違うところが面白いところです。繰り返しになるんですが、「エヴァキュエーション」はスヒィさんの過去作に似てるようで全然似てないゲームです。


 また、「得点モード」では4ラウンド終了フルプレイの後に、それぞれドラフトで獲得した目的カードに応じた得点を得るゲームに変貌します。こうなると終了条件に縛られることなく、特定の得点源を最大化するための尖ったプレイが許されるようになるのです。



 とは言え、それぞれの目的カードがどれくらいの点数を稼ぎ出すかを推測できないと目的カードのドラフトが覚束ないので、やはり初回は「レースモード」から入ったほうがいいかもしれません(または初回プレイ用得点モード用の目的カードセットとかを考案してもいいのかも)。

 初回プレイ推奨のレースモードはサドンデス形式のため、拡大再生産が最高に盛り上がる最終ラウンドの潤沢な資源を使い切れないままゲームが終了するパターンもままあります。より多くの資源を稼ぐのではなく、より早くゴールテープを切るプレイングこそが「うまいゲームプレイ」ではあるのですが、最後までやりきることが好きな人もいるかと思いますので、ここは好みで選んでもいいのかなと思います。


 長々と色々言ってきましたが、つまりぼくが強く言いたいのは「エヴァキュエーション」は初回プレイで底の見えるゲームではないということです。ぜひ「得点モード」と「上級カードアクションルール」まで試してみて欲しいと言いたいのです。

 タイパが重要視される昨今において、1回のプレイのみならず2回、3回と遊んでようやく真価が見えるゲームですよ、とお伝えするのは却って欠点と捉えられてしまう恐れも孕んではいるのですが、それでもこのゲームは1回遊ぶことで見えてくる底は偽りの底であり、二番底、三番底がその奥深くに存在するということを前もって伝えておかないと誤解を招きやすいゲーム構造にはなっていると思うのです。


 前作の「ウッドクラフト」は追加ルールが一切ない、基本ルール一本槍という潔い構成で、こうした構成であれば底の有無で誤解が生じることはありません。ただ、「ウッドクラフト」はそれなりの手練れでも「何をしたら勝てるかわからん!」となることも稀ではない高難度のゲームではありまして(頭をぶん殴られる衝撃でアレはアレでよかったんですが)、それが長所でもあり、短所でもありました。


 「エヴァキュエーション」では打って変わって、様々な選択ルールとモジュールが実装されています。これは段階を追ってゲームに習熟する導線にはなっているものの、ゲームの奥底が誤解されやすいという弱点も抱えています。「拡張ルールを使っても、大体同じでしょ?」という思い込みというか。


 なので今、ぼくはハッキリと「このゲームは2回目以降が本番ですよ!」とお伝えしておきます。1回遊んだだけで理解した気になるにはあまりにもったいないゲームだとぼく自身が感じたからです。

 とは言え、初回プレイが全く実りのないゲームかと言えばそうではなく、しっかりとしたわかりやすい目標設定の元で独特なリソース管理に頭を悩ませるだけでも十分な面白いんです。まあ、だからこそ、却って初回プレイで納得してしまうという側面もあるんですが…… 基本ルールだけで満足感のあるゲームにはなってるんですよね。


 じゃあ、初回から「上級カードアクションルール」から遊べばいいのかというと、それはまたちょっと違ってて、基本ルールで遊んだ初回プレイの経験を元に上級カードアクションルールを遊ぶとその温度差で風邪を引くんじゃないかと思うほどに笑えるので、順序を追って遊ぶのが一番価値の高いプレイ体験になるのではないかと思います。


 また、他にも得点条件を追加するモジュールも複数用意されているので、色々な組み合わせで楽しんでほしいなと思っています。こちらはさすがにゲーム体験が大きく変わるほどではなく、味変くらいの位置づけではありますが。


◆新しい挑戦が、やがて至高の体験へ開花する

 実際のところ、「エヴァキュエーション」は他のゲームには見られない変わった要素が多く盛り込まれているため、初回のプレイフィールは「気持ちよさ」よりも「気持ち悪さ」が勝るところがあるかもしれません。遊びやすいゲームが世に溢れている昨今において、直観的ではない処理が含まれるのは明確に弱点ではあります。

 しかしながら、ゲームデザインの奥深さは現実原則を飛び越えた空間にこそ存在します。最近、本当に多い「すんなりプレイできるけど遊んだ後に何も残らない」タイプのゲームに対して「エヴァキュエーション」はそれとは全く真逆の「プレイヤーの直感に反してでも心にインパクトをねじ込む」タイプのゲームです。一貫してそうしたゲームを作り続けているのがウラジミール・スヒィというデザイナーへの信頼でもあります。

 2回、3回とゲームを繰り返していくことで「エヴァキュエーション」の世界に徐々に「馴染んでいく」ようになっています。そうなれば待ち構えているのはアクションの組み合わせによるめくるめく快感の世界です。これから遊ばれる皆様には上級アクションカードのぶっ飛び具合と初期方針を貫徹せねばという自制心との葛藤をぜひ味わってほしいです。

 用意されている様々な追加ルールの存在もそうですが、技術タイルの非対称性の強さも、繰り返し遊んで欲しいというメッセージを感じます。次は違う技術セットを使ってみたいなと思わせる力があります。


 スヒィさんの作品の中で最も遊びにくい作品なのかと問われると、「ウッドクラフト」や「プラハ 王国の首都」の例があるので、それほどでもないかな、となるのは、まあ、なんというか業の深い作者だなとは思うのですが、プレイフィール自体も重すぎるということはなく、重ゲーに求めるちょうどいい負荷量を与えてくれるゲームだと思いますので、期待を裏切ることはないかと思います。


 なので、繰り返しになりますが、初回プレイだけで見極めたつもりになるのは本当に損なタイトルなので、ぜひ用意されている要素すべてをしゃぶり尽くして頂きたいなと思っています。ウラジミール・スヒィという人は骨太さと華やかさとランダム性と競技性をハイレベルに整えることができる稀有なゲームデザイナーであり、この「エヴァキュエーション」も新時代のニーズに合わせた新たな一歩だと思っています。




エヴァキュエーション

プレイ人数:1-4人
対象年齢:12歳以上
プレイ時間:60-150分

ゲームデザイン:Vladimir Suchy
アートワーク:Michal Peichl
小売希望価格:9900円(税込)
posted by 円卓P at 11:44| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする