2025年05月14日

ゲーム紹介:ネオドリームズ



数寄ゲームズは、「ネオドリームズ」日本語版を発売します。プレイ人数2-4人、対象年齢12歳以上、プレイ時間30-60分で、希望小売価格は税込4950円となります。

5月17日、18日開催のゲームマーケット2024春にて先行発売を行い、その後、数寄ゲームズ通販サイトや全国のボードゲームショップさんへのご案内、流通を予定しています。




「ネオドリームズ」は、「スマートフォン株式会社(2018)」「ファーナス(2020)」などで人気を博したロシア人デザイナーIvan Lashinの最新作です。夢の作成&販売ビジネスが盛況な未来の世界でプレイヤーは夢制作会社の社長となって市場の覇権を争います。未来の夢グループ……ってコト!?

蛇足ながら、この舞台設定を説明する際、ぼくは「寺沢武一のコブラの第1話みたいな……」という言い方をするのですが、「コブラ知らないです」というレスポンスが毎度返ってきて話がそこで終わります。

「その世代じゃないんで……」と言われることもありますが、ぼくも直撃世代ではないですよ! どちらかと言えばぼくよりも5歳、10歳年上の人の方が通じるんじゃないかなあ…… ともあれ、こうした舞台設定の例え話はなかなか世代間の断絶があって難しいものではあります。


さて、こんな話をぶん投げておいてなんですが、この舞台設定、実はゲーム内容とはほぼほぼ関係ありません! 建付けとしては夢市場を巡る会社同士の競争といった表現をしているものの「スマートフォン株式会社」のような需要と供給を巡るインタラクションが主軸に据えられたゲームでもないです。敢えて言えばカードイラストが夢っぽいのでこのテーマを選んだのかな、くらいな風味ですね。


ゲームの中心的なメカニクスはワーカープレイスメントとタブロービルドで、プレイヤーはアクションスペースにワーカーを配置することで様々なリソースを集め、リソースを支払って手札をプレイすることで様々な特殊能力を獲得していきます。獲得した特殊能力によって、よりリソースが集めやすくなり、カードプレイも加速していく…… 皆さん大好きな拡大再生産の構造となっています。

ゲーム構造としては実に王道的な、翻って言えばよくある組み立てなのですが、そこは「スマートフォン株式会社」で新世代の経済ゲームを生み出したIvan Lashin、興味深いツイストを仕込んでこのゲームならではの独自性を生み出しています。


結論から言ってしまえば、このゲームはよいです! もう少し具体的に言えばゲーム全体のバランスがよく、お値段は高すぎず、時間は長すぎず、やることはシンプルで、それでいてコクがある。王道的な作りでありつつ独自性も備えているゲームと言えます。

つまり、すごく多くの人に愛されるゲームなんじゃないかなと思っているので、この記事ではそうした独自性に焦点を当てて紹介していきたいと思います。




◆王道かつ捻りのあるワーカープレイスメントとタブロービルド

まず本作は「誰かがカードを12枚プレイしたらゲーム終了」というゲーム終了トリガーを持っています(と言いつつ、プレイヤーは便宜的なカード2枚をプレイ済みの状態からゲームを始めるので実質的にはカードを10枚プレイしたところでゲームが終了します)。ゲーム終了後に一番多くの勝利点を獲得したプレイヤーがゲームに勝ちます。

プレイしたカードには勝利点がついているので、基本的にはより多くのカードをプレイしたプレイヤーが勝利に近づくことになります。こうした組み立てのゲームと言えば「サンファン(2004)」や「レースフォーザギャラクシー(2007)」といった古典的名作が思い浮かぶ人もいるかもしれませんが、「ネオドリームズ」もそうした諸作の系譜にある作品と表現できるでしょう。


カードをプレイするためにはコストとなるリソースを集める必要があります。リソースはピンクと黄色と緑の3種類がありますが、このうちピンクは黄色と緑のどちらとしても使用できるワイルドなリソースなので、実質的には黄色と緑の2種類のリソースが存在します。

こうしたリソースは主にワーカーをオナイロスフィアと呼ばれるメインボードに配置することで獲得することができます。メインボードには全部で12個のアクションスペースがあり、そのうちいくつかのスペースで黄色、緑、ピンクの各リソースを獲得することができます。



プレイヤーはワーカーを3個持っていて、手番には「ワーカーの配置」を行うか、「配置されたワーカーの回収」を行います。この手のワーカーの配置と回収を選択する作りのゲームは「The Manhattan Project(2012)」が走りとなっていて、その後様々なワーカープレイスメントゲームで採用されています。最近のゲームだと「エイピアリー(2023)」がそういう作りでしたね。


さて、リソースを集めたら今度はカードをプレイしたいのですが、肝心のカードをプレイできるアクションスペースはボード上に12個中1個しかありません。な、なんだってー!? メインボード右下のアクションスペースがそれです。


赤丸で囲んだところだけ(「緑のリソース1個を得てカードをプレイする」のアイコン)

あまりにカードプレイの機会少なすぎんか? こ、こんなことが許されていいのか!?
……と思わせておいて、ここでこのゲームならではのツイストが登場します。


実はこのゲーム、カードをプレイする方法がもう一つあります。それがメインボード右端のアイコン群の利用です。右端のアイコン群は「特定色のカード1枚を得る」か「手札のカード1枚をプレイする」を意味していますが、先述の通りカードをプレイする機会が貴重なゲームなので、基本的にはこれを使ってカードをプレイしたいところです。


3つの段それぞれにカードプレイのアイコンがあります。

そして、このアイコン群にアクセスする方法がさっき少しだけ触れた「配置されたワーカーの回収」アクションなのです。

「配置されたワーカーの回収」とは言いましたが、実はこのアクション、自分のワーカーを回収するアクションではありません。具体的には「配置されたワーカーの回収」を選ぶと、メインボードの上部にある睡眠サイクルトラックにあるマーカーを1スペース前進させます。その後、進んだ先の列と同じ列にあるワーカーだけが持ち主の手元に回収され、ついでにワーカーの持ち主は配置していたワーカーの段の右端にあるアクションを行うことができるのです。

ここ! ここの作りがIwan Lashinらしいナイスな仕掛けですよ!



「配置されたワーカーの回収」は自分のワーカーだけを回収するアクションではなく、特定の列に配置されたワーカー全部を持ち主の手元に戻すアクションです。つまり、自分の手番外にワーカーが手元に返ってくることもあれば、付随してカードをプレイする権利を得られる局面もあるということです。


このゲーム、なるべく多くのカードをプレイしたいゲームなのですが、能動的にカードをプレイできるアクションスペースは先述の通り1か所だけしかなく、それ以外はこの「ワーカーの回収」を通してカードをプレイするしかありません。たくさんカードをプレイしたいのにプレイ機会が限られている実にイジワルな作りのゲームなのです。


先日「ネオドリームズ」を試遊した超新作体験会では、手札からカードをプレイしようとして「違います、それ、カードをプレイするアクションじゃないです!」と止めるシーンが何度もありました。繰り返しになりますが、このゲーム、能動的にカードをプレイできるアクションスペースは1つしかありません。

こうしたプレイミスは「やりたいことをやらせてもらえないストレス下」で起きやすくなります。この例は、本来はカードプレイではないアイコンを自分にとって都合がいいようにカードプレイのアイコンと解釈してしまった認知ミスの一例と言えます。

翻って言えば、それだけこのゲームは「カードをすぐにプレイしたい」けども「カードをプレイするには手順を踏む必要がある」ジレンマに満ちているゲームと言えます。このプレイミスをした方はまさに作者の思惑通りにこのゲームのジレンマに浸っているのですね。


この「ワーカーの回収」の仕組みと「カードプレイの機会制限」の組み合わせが本作のユニークかつ秀逸な点で、UI自体は実に王道的で見慣れた作り、遊びやすい作りなのですが、このツイストの盛り込み1つで、簡単で遊びやすいだけではない、このゲームでしか味わえない深みとジレンマを生み出しているのです。

それに伴ってアクションスペースも単純なリソースを提供する場というだけでなく、より豊潤で多義的な価値を持っています。

例えば次にワーカーが回収される列のアクションスペースは言い換えると「すぐにカードをプレイできるアクションスペース」でもあります。また、同じ列に複数のワーカーを配置するとそのワーカーの回収の際にはカードプレイの機会が同時に複数回訪れるのでリソース管理が難しくなりますし、ワーカーの回収が遠いアクションスペースであれば、カードプレイの機会が遠くなるもののそれまでにリソースを整える準備に時間がかけられるスペースという意味合いも持ちます。


この辺りのカードプレイのタイミングとアクションスペース自体の価値を見積もってワーカー配置を計算する点がこのゲームならではの独特な味わいとなっています。

ワーカープレイスメントは言ってしまえば価値の高いアクションスペースから先に占有していけばいいだけのものなのですが、このゲームでは進行とともにアクションスペースの価値が淀みなく変化していくため、一手一手の最適解がとかく悩ましいものとなっています。しかも資源補充といった手間も省かれている…… めちゃくちゃ合理的で完成度の高いシステムなのです。


◆多様なカードを組み合わせて強力なシナジーを生もう



さて、ゲームには様々なカードが登場します。大きく分けて3種類、3色があり、それぞれカードの特殊能力を起動する方法によって色分けされています。




黄色のカード(明晰)は、ゲーム中1回しか使えないものの強力な効果を持つカードです。これはワーカーを特定のアクションスペースに配置した際に起動することができます。起動後は起動済みマーカーを配置するため、以降は起動できなくなるのですが、カードの中には「黄色のカードから起動済みマーカーを取り除く効果を持つカード」があったりもするので、こうしたカードでコンボを組むと強力な効果を何度も使い倒すことができたりもします。あくどいですね!




ピンクのカード(願望)は、ゲーム中に特定のアクションを選ぶことで起動できるカードです。この時、ピンクのカード1枚を選んで起動するのではなく、すでにプレイ済みのピンクのカードすべてが起動するので、ピンクのカードは出せば出すだけアクション効率がバカ上がりします。様々なシナジー要素を持つゲームではありますが、ピンクのカードはわかりやすく出せば出すだけリターンがあるのでシンプルに強いです。黄色のカードと違ってゲーム中1度だけしか起動できないといった制約もありませんが、その分1枚あたりの効果は控え目となってはいます。




緑のカード(再帰)は、いわゆる永続効果のカードです。「○○した時に××を得る」的な。処理を忘れやすい手合いのカード筆頭とも言えますが、特定の行動にオマケがくっついてくるのが嬉しいですし、特定の行動を連打することで何度もオマケを貰えるので特化戦術のキーカードになることもあります。永続効果のカード同士を組み合わせることで強烈なシナジーを生む場合もあり、これまた色々な悪さのできるカードが揃っています。


とまあ、3種の起動方法の違いから分類されている各カードですが、各カードには上下に分かれた2種類の起動効果が記されています。上段の効果は通常効果でカードをプレイした後に使用できる効果、下段の効果は向上効果でカードをアップグレードすることで使用できる効果となります。

カードをアップグレードするにはメインボードで「物品トークンを獲得」し、それを「物品トークンの配置」アクションでカード上に配置する必要があります。

ちょっと面白いのは、「物品トークンの配置」アクションは手持ちの物品トークンを好きな数だけ配置できるルールになっています。そのため、物品トークンを溜めて溜めて溜めて一気に配置すると手番効率がいいのですが、カードを素早くアップグレードすれば強力な効果を使い倒せるメリットもあるので、この辺りのアクセルの踏み方もまた問われる作りになっています。


◆戦略性とバランスの妙が光る、工夫と悩みどころ満載の本格派ワーカープレイスメント

とまあ、様々な効果を持つカードが手札に色々とあるのでアレも出したい、コレも出したい、となるのですが、先述の通りにカードプレイの機会が限られるゲームなだけにゲーム全編を通して悩ましさが続くゲームです。カード効果は乗りこなし甲斐があるものが多いので、堅実なワーカープレイスメントと派手なタブロービルドがうまく噛み合った実にバランスのいいゲームになっていると言えます。ゲーム終盤はプレイヤー全員がコンボを悪用した何らかの悪さをしでかしているのでベスト悪さ選手権といった様相を呈したりもします。


先述の通り、誰かがカードを12枚分プレイしたところでゲームは終了します。最終的な得点計算としてはカードが持つ基礎的な得点にカードに配置された物品トークンが1枚につき1点となります。あとは余ったリソースがちょちょっと得点にもなり。

カード1枚の持つ点数が3〜6点なので、物品トークン1枚1点はかなり優秀な得点源です。ただ、物品トークンを数多く置くためにはプラットフォームとなるカードが必要なので、やはりカードをより多くプレイしたプレイヤーが勝利に近づくという基本線は変わりません。

トータルではリソース、カード、得点トークンをどのように集め、どのようにプレイしていくか、様々な要素をバランスよく扱うマネジメント性の巧拙を求められるゲームとなっています。


プレイ人数幅について言えば対応人数は2‐4人となっていて、最近のゲームとしては珍しくソロプレイルールがありません。基本的にワーカープレイスメントは人数が多いほどアクションスペースの取り合いが激しくなり、タブロービルドは人数が少ないほどダウンタイムが少なくなって自分の手元に集中できる、といった向きがありますが、その原則はこのゲームにも当てはまります。

そのため、人数が多ければワーカープレイスメントならではのアクション選択肢の良し悪しを競う成分が強くなり、人数が少なくなれば自分の手元のシナジー要素の組み立て方が重要になります。そうしたグラデーションはあるにせよ人数によって大幅にゲーム性が大きく変わることはないため、何人で遊んでも安定して楽しめる内容と言えるでしょう。


長所だけでなく短所もお伝えするのであれば、カード効果はすべてテキストなので、それらを把握するのがちょっと大変という点でしょうか。ゲーム中は6枚のカードが場に並んでいて、それらの中から最適な1枚を選び取る場面も多く、それらのカード効果を読み解くには少し慣れが必要です。ゲーム用語もまあまあ出てきます(よくある質問として「ワーカーを使ってオナイロスフィアでリソースを取った場合〜」は、書いてある通りワーカーを使った配置アクションのみ起動して、「サイクルトラックアクション」は、メインボード上部のトラックにあるアクションを指します)。


こういうカードです


また、物品トークンが大きくテキストが隠れることがあったり、リソースを管理するリソースマーカーがズレやすかったりと、プロダクト面で不便を感じる箇所が目に付くこともあります。この辺りもね、遊びやすさを追求して貰えればよかったんですけどもね。

そうした遊びにくさ、気持ち悪さ、みたいなものが滲み出てはいるにしても、そうした欠点を無視できるほどの面白さがあるゲームなのでこれは日本語版を出版した方がいいよなー、と、確信できたタイトルではあります。


また、日本語版ではプロモカード6種が最初から同梱されています。ちょっとクセのある効果を持つカードではありますが、こうしたゲームでカードプールが増えるのは単純に嬉しいよねと思って同梱としました。


テキストが多い!


そう言えば、日本語版では箱絵を原版から改めています。原版ではかなりサイバーパンク感が強かったので日本語版ではその辺りをやや柔らかく改めています。欧米の方はこういう方がクールでいいんでしょうけどね。日本人の好みとしてはやや色味がキツいかなと。皆さんに気に入って貰えると嬉しいのですが、さて、どうでしょうか。




ゲームマーケットではイベント価格5000円にてご提供します。オペレーションの都合できりのいい価格にしているのですが、これだと希望小売価格より高い値段でのご提供となってしまうため、ゲムマでの販売に限り特別に専用のスリーブをおつけします。

カードサイズが「世界の七不思議」と同サイズのため、専門店などに行かないと調達しづらいタイプのスリーブです。入手困難な部類ではないですが、まあ、ゲムマでご購入頂くとシンプルにオトクだと思います。


ネオドリームズ



プレイ人数:2-4人
対象年齢:12歳以上
プレイ時間:30-60分

ゲームデザイン:Ivan Lashin
アートワーク:Nick Gerts, Evgeny Zubkov
希望小売価格:4950円(税込)
posted by 円卓P at 11:58| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年02月25日

ゲーム紹介:アクアティカ:珊瑚礁



数寄ゲームズは、「アクアティカ:珊瑚礁」日本語版を発売します。プレイ人数1-5人(5人プレイには「氷海」拡張が必要)、対象年齢14歳以上、プレイ時間60分で、小売希望価格は税込5500円となります。

3月3日より数寄ゲームズ通販サイトにて先行予約を始めます。その後、全国のボードゲームショップさんへのご案内、流通を予定しております。


「アクアティカ:珊瑚礁」は、「アクアティカ:氷海」に続く「アクアティカ」の第二拡張となります。部族モジュールの導入でゲーム構成をアグレッシブに変化させた「氷海」に対して、「珊瑚礁」では新しい得点要素となる「珊瑚」と、個人ボードの強化要素となる「岩礁」の2つによって新たなプレイフィールを創出しています。


「アクアティカ」本体及び「アクアティカ:氷海」については以前にも紹介記事を書いているので過去作についてはそちらをご覧頂くとして、この記事では「アクアティカ:珊瑚礁」の新要素を主にご紹介していきましょう。

アクアティカ
http://sukigames.seesaa.net/article/471410197.html

アクアティカ:氷海
http://sukigames.seesaa.net/article/479586750.html


◆新たな強化要素「岩礁トークン」とは?



「岩礁トークン」は、深海シーフォークとともにボード上に並べられ、対応する深海シーフォークを雇用することでオマケに獲得できるトークンです。オマケ……とは言っても実はこっちが本体かも? と言えるほどのポテンシャルも秘めています。

獲得した岩礁トークンは個人ボードのスロットの上部に配置します。以降、対応するスロットは差し込まれたロケーションカードに様々な影響を及ぼす特殊能力を持つようになります。例えば、「このスロットに差し込まれたロケーションカードは即座に完全上昇させることができる」といったようなものです。

なので、深海シーフォークの雇用アクションは、単純に手札を強化するだけでなく、どの岩礁を獲得すべきかの考慮も必要になりました。岩礁トークン自体はモノによって強かったり弱かったりとメリハリのある設計となっているため、岩礁トークンの獲得を目的として深海シーフォークの雇用やコインの支払いを検討するのも全然アリなバランスになっています。


基本ゲームでは手札の強化はそこまで重要ではなく、手札の強化に手番を割くよりもロケーションの獲得に注力した方が展開を優位に進められるゲームではありました。手札プレイをメインエンジンに据えたゲームにも関わらず、手札を強化する行動が実はそこまで強くないというちょっと罠めいた設計だったりもしたのです。

その辺りは「氷海」でゲーム自体の長期化を図ったことで大分風向きが変わってきたんですけども、それをさらにアグレッシブに推し進めようとする動きが「珊瑚礁」での岩礁トークンの役割とも言えます。岩礁トークンを効率的に獲得できる新しい深海シーフォークなんかもいて、この新要素を積極的に活用していくのも一つの手と言えるでしょう。雇用アクションを持つシーフォークの価値も俄然高まりました。


今回追加された新シーフォーク「海の歌姫」は強力な雇用能力を持つカード。


裏を返せば「アクアティカ」に習熟していない人には岩礁トークンの強弱の見極めが難しく、「わからん殺し」にあってしまう可能性がないとは言えません。そういう意味でも「珊瑚礁」は段階を追ってから導入すべき、より玄人向けの拡張セットと言えるのではないかと思います。


◆得点化のルート構築がより重要になる「珊瑚」



「珊瑚」は、岩礁トークンと並ぶ「珊瑚礁」の主要な新要素の1つで、1個あたり1点相当の価値があります。岩礁トークンの多くは珊瑚とも関係が深く、岩礁トークン特有の条件を満たすことでロケーションカード上に珊瑚駒を配置することができます。

ただ、ロケーションカード上に珊瑚を配置するだけでは得点にはならず、ロケーションを得点化することでようやく得点化できます。裏を返せばきちんと得点化まで繋げないとせっかく配置した珊瑚が無価値に終わってしまうため、アクアティカ特有の得点化までの経路をより強調する作りとなっています。よりハイリスクハイリターンに。


珊瑚自体の得点は1個1点と地味な存在なのですが、珊瑚に関係した様々な要素を組み合わせることで強力な得点産出エンジンを組み上げることもできます。盤面によってロケーションを集めた方が強いのか、珊瑚生産エンジンを組んだ方が強いのかが変わってくるため、ゲームごとの変化がこれまでよりも大きくなりそうです。


「アクアティカ:氷海」から登場した「部族モジュール」との絡みでは、部族カードの雇用のためのコストを獲得した珊瑚駒で支払うこともできます(従来通りロケーションカードの得点で支払うこともできますし、珊瑚と混ぜることもできます)
そのため、部族カードにアクセスするためのアプローチ手段が増え、よりフレキシブルに部族カードを利用することができるようになりました。今回の拡張では新しい南方部族も登場します。新要素の岩礁や珊瑚に関連する能力を持つものが多いですね。



◆初期セットアップにも変更点。まさかのさよなら「海の王」?

「珊瑚礁」では、新しい初期セットアップ方法として「手番順マンタモジュール」が加わりました。後手番ほど便利な追加のマンタを持ってゲームを始めるこのモジュール、なんとこれまで親しんできた「海の王」との差し替え、二者択一となります(従来どおり海の王を使って遊ぶこともできますよ)。



様々な特殊能力を持つ海の王と引き換えにマンタ1個を貰うだけではちょっとプレイが地味になるのでは…… と思いきや、マンタ1個から貰える1金や1武力が存外デカく、序盤からハデな動きができるようになるのでこれはこれでアリな内容になっています。

特に、これまで序盤では高額な深海シーフォークに手が出しにくかったのですが、お金を産出するマンタが1つ余計にあるだけで手が届く範囲が広がり、付随してよりよい岩礁トークンを取りやすい、という影響が出てきました。マンタ1個の違いで序盤の自由度が結構変わるので、地味な変化ではありますがぜひ試してみてほしいモジュールです。


一方で従前通りに海の王を使用することも可能です。「珊瑚礁」にも新要素を活用する新たな海の王カードが加わるのでこちらを活かした戦略を探してみるのも楽しいと思います。


初手から強力な岩礁トークンを獲得してゲームを始められる「不朽のライオネル」


また、初期手札として従来の5種に加えて新しく「メデューサ・アルカディオ」が加わります。「メデューサ・アルカディオ」は新しい効果、「駐留」を持つシーフォークです。



「駐留」は、言わばロケーションの独占予約を行う能力で、手持ちのマンタを配置することでロケーションを予約することができます。



予約されたロケーションは捨て札置き場に置かれる際、捨てられる代わりに個人ボードに差し込むことができるため、「探索」を行ってロケーションを流すことでロケーションをタダで獲得することができます(その際、駐留に使用したマンタは「活動状態」で手元に帰ってくるので使用済みマンタを駐留に使うとちょっとオトク)。

マンタ1個がしばらく使えなくなること、ロケーションの獲得までタイムラグがあることと欠点はありますが、どれだけ高額なロケーションであっても無料で獲得できる可能性があるため、「駐留」はかなり強力な効果です。「メデューサ・アルカディオ」自体はマンタを獲得できるロケーションには駐留できないという制約がありますが、新しい深海シーフォークの中には全く制限なしに駐留可能な能力を持つカードもあるため、こうした深海シーフォークをうまく活用するのも手と言えましょう。


「珊瑚鎧の騎士」は「駐留」して即時に「探索」まで行う自己完結型。


また、誰かが「駐留」を行うと、他プレイヤーの心理としては「探索」を手控えたくなったりします。そりゃあ無料でロケーションを明け渡すのはシャクですからね。逆に複数のプレイヤーが「駐留」すると互いに協力して探索を進めることもあったりして、基本的に「アクアティカ」はソロ志向なゲームでしたが、「駐留」によって今までにないインタラクションが発生するのは興味深いです。


◆「氷海」拡張との組み合わせで盛り盛りのゲーマーズゲームに

「珊瑚礁」は基本ゲームと組み合わせることも、「基本」+「氷海」+「珊瑚礁」の全盛りで組み合わせることもできます。

「氷海」との組み合わせでは様々なモジュールの取捨選択ができるのですが、ザックリ言えば「基本モジュール+珊瑚礁」と「部族モジュール+珊瑚礁」の二種に大別できるかと思います。より高難度なのは後者の「部族モジュール+珊瑚礁」で、こちらは基本からはかなり距離の離れた結構なゲーマーズゲームになります。というかテキストが多い!

なにせ手札にテキストがあり、部族カードにテキストがあり、岩礁トークンにテキストがあり、それらが相互に関連しあうため、基本と比べて見るべき情報が爆発的に増大します。そのため、全部盛りはある程度「氷海」や「珊瑚礁」に慣れてからをおススメします。


「基本モジュール+珊瑚礁」は、それよりは穏やかな組み合わせで、新要素の岩礁トークンの存在感を感じられる組み合わせだと思います。基本ゲームをもう少しディープに楽しみたいという人向けの組み合わせで、まずはこちらを試してみるのもよいのかなと思います。

もし仮に予算の都合で「氷海」か「珊瑚礁」どちらか一つしか選べない、ということがあれば、個人的にはプレイ感が大きく変わる「部族モジュール」が楽しめる「氷海」をおススメしたいところですが、実は「珊瑚礁」だけでも「部族モジュール」がお試しで遊べる作りなので、コスパがよいのは「珊瑚礁」と言えるのかもしれません。

「珊瑚礁」には部族モジュールの遊び方が記されていないので、部族モジュール周りのルールを公開します(「氷海」のルールと同一のものです)。
アクアティカ氷海(抜粋).pdf

……と言った感じで新拡張「珊瑚礁」は「アクアティカ」よりディープに楽しめる内容となっています。特に岩礁トークンを軸としたアッパーなプレイ感はより脳が煮える楽しさを味わうことができますよ。

「珊瑚礁」の発売と同時に、長らく在庫切れの続いていました「アクアティカ」「アクアティカ:氷海」も再販となります。色々と価格変更が相次ぐ世の中ではありますが、「アクアティカ」は税込5940円、「アクアティカ:氷海」は税込3520円と以前からの価格を維持させて頂きます。プレイ経験に応じて色々な遊び方ができるタイトルなので、ぜひこの機会にお買い求めいただければ幸いです。



また、ルールブックの内容物の記載に製品との相違があります。
下記が正しい内容物となります(説明書の記載に加えて合計6枚のカードが同梱されます)。

誤:
新しい深海シーフォークカード 22枚

正:
新しい深海シーフォークカード 24枚
新しい海の王カード 4枚



アクアティカ:珊瑚礁


プレイ人数:1-5人(5人プレイには「氷海」拡張が必要)
対象年齢:14歳以上
プレイ時間:60分

ゲームデザイン:Ivan Tuzovsky
アートワーク:Victor Zaburdaev
小売希望価格:5500円(税込)
ラベル:アクアティカ
posted by 円卓P at 12:37| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年12月11日

ゲーム紹介:失われた種の探索



数寄ゲームズは、「失われた種の探索」日本語版を発売します。プレイ人数1-4人、対象年齢13歳以上、プレイ時間60-75分で、小売希望価格は税込6600円となります。

12月16日より数寄ゲームズ通販サイトにて先行予約を始めます。その後、全国のボードゲームショップさんへのご案内、流通を予定しておりますが、こちらは年明けとなる見込みです。


「失われた種の探索」は、絶滅の危機に瀕している動植物を救うため、それら「失われた種」の調査を行うゲームです。インドネシアやパプアニューギニアをイメージした島々をボートや徒歩で移動したり、現地住民に協力を仰ぎながら、失われた種をより早く発見したプレイヤーが勝利に近づきます。ただ、失われた種の発見はあくまで得点源の一つであり、最終的には発表した論文や町カードから得られる得点の合計点で勝敗を競います。


「失われた種」の一つ、アルオオコウモリ。ゲームには6種の失われた種が登場します。

手番ではアプリに質問を行い、その回答を専用シートに書きこんでいくことで情報を整理しています。現在の情報から適切な質問を考えることが勝利へ近づく要諦となるでしょう。



このゲームは太陽系10番目の惑星を探す「惑星Xの探索」の続編です。コンセプトも「惑星Xの探索」と同様に、専用アプリとの対話を通して情報を整理していく論理推理ゲームなので、ゲームの概要については「惑星Xの探索」の紹介も参考になるかと思います。どうぞこちらもご一読を。

ゲーム紹介「惑星Xの探索」

その上で、「失われた種の探索」は「惑星Xの探索」とどのように違うのか? その辺りの差異を中心に「失われた種の探索」の魅力について今回はご紹介していきたいと思います。


◆舞台は東南アジアの島々。島中を歩き回って動物の痕跡を追う!



さて、「失われた種の探索」の最も大きな変更点と言えば、ルックスからもわかる通りのテーマの変更となります。「惑星Xの探索」においてプレイヤーは、白衣に身を包み、望遠鏡をのぞき込み、遥か彼方、遠大に広がる大宇宙をコーヒー片手に仰ぎ見ていましたが、今作では草木生い茂る東南アジアの島々に単身赴き、危険生物の牙や棘を通さない厚手のサファリジャケットで身を守り、時に徒歩で、時にボートで実地調査に臨む探検隊の様相を呈しています。

これは単純なテーマの違いに留まらず、ゲームシステムの変化にも繋がっています。「惑星Xの探索」では夜間にしか見えない星の特性に沿って、調査範囲は常にボードの夜部分、半円に限られていました。

対して「失われた種の探索」ではボードの中心に舞台となる島が存在し、プレイヤー扮する科学者駒が(小さいながらも人間にとっては巨大な)島を巡り巡って調査を行います。つまり、移動力、移動範囲の概念が調査範囲を制限する要素となります。



地球の自転はさすがに人間にコントロールできる代物ではないのですが、島内をどう移動するか、どこに着地するかはコントロールできる、というのが両者の調査アプローチの大きな違いでしょうか。ざっくりと言えば「失われた種の探索」の方が、よりプレイヤーの意思を反映した、自由度の高い調査が可能になっていると言えます。様々なパターンを検討した結果、一手で多くの情報を引き出せるような調査が決まった瞬間は天才になったような気分が味わえて気持ちいいですよ。

ただ、工夫の余地があるがゆえに、よりプレイヤーのテクニックが反映されやすいというか…… 思考空間が広がって自由度が高まったために前作よりもダウンタイムは伸びがちかもしれません。また、プレイヤーの巧拙の差も出やすい作りではあるとは言えます。

そのため、「失われた種の探索」は「惑星Xの探索」から少し踏み込んだゲームではあります。とは言え、その差は0.5歩くらいなので「失われた種の探索」から遊んでも全く問題はないですけどね。

また、プレイヤーの力量差については「惑星Xの探索」と同様に、初期情報の量でハンデをつけることができる作りでもあります。なので、プレイ経験がバラバラのプレイグループであれば、初期情報をうまく調整して挑むとよいのかなと思います。公式にハンデをつけることも可能なゲームって結構珍しいですよね。


小粒ながらも大きな変更点としては「町カード」の存在があります。これは調査隊を助けてくれる現地住民などをイメージしたものなのですが、調査を補助するちょっとした特殊効果をもたらしてくれたり、ゲーム終了時にボーナス得点を貰えたりします。


町カード「道案内人」は時間コスト3の徒歩アクションをコスト2に低減する能力を与えてくれる。

「惑星Xの探索」は、ランダム要素が事実上ないアブストラクト味の強いゲームではあったのですが、「失われた種の探索」は、町カードのランダム性やちょっとした博打性が加わって前作に比べて雰囲気が柔らかくなっています。ゲーム終了時の加点要素が増えたことで、逆転の余地が増えたのは個人的にはよい味付けだと思っていますし、調査の方針決定の補助線としても役立つところもいいですね。


逆転性の強化と言えば、論文の提出のルールが微妙に変わっていて、「惑星Xの探索」では発表フェイズで0-1個の論文を発表していたのが、「失われた種の探索」では0-2個の論文を発表できるようになっています。

「惑星Xの探索」では論文発表が遅れるとその差がなかなか縮めにくい側面があったのですが、「失われた種の探索」では、論文を2個発表し続けるのは難しいため、キャッチアップがしやすい作りにはなっています。ここは後発ならではの冗長性の強化と言えましょう。


とまあ、そんな感じで全体的に「失われた種の探索」は、雰囲気が柔らかい! やっていることの本質は「惑星Xの探索」とあまり変わらないのですが、プレイ中の空気感が結構明るくなっているように感じられます。

ただ、論理推理部分は先ほど触れたように多少難しくなっているようにも思います。今回は前作の「惑星X」に相当する「失われた種」が6種類登場し、それぞれが固有の生息ルールを持っています。失われた種はそれぞれが島に登場する他の動物、ヒインコ、クスクス、ヒキガエル、ニシキヘビとの独自の関係性を持っているため、これらの動物もしっかりと生息地を調査しないと本丸に辿り着かない作りになっている気がします(と思ってたんですが、NPCのティニは一足飛びで失われた種に到達したのでそうでもないっぽい……?)。



プレイのヒントを一つ挙げるとするならば、まずは発見難易度の低いヒインコの生息地を発見し、そこを足掛かりとして他の動物の所在を探っていくのがよいのかなと思います。まあ、これはゲーム中に登場する学説(今回のゲーム特有のルール)との兼ね合いもあるのですが。


登場する学説はゲームごとに異なります。


◆専用アプリも使いやすく、ソロプレイもオススメ

専用アプリは開発元が変わっているため、UIから結構な変化があります。宇宙テーマらしくフラットデザインだった前作も遊びやすい作りではあったのですが、今作のアプリも(ボタンがちょっとわかりにくい作りではありますが)細かいフォローが行き届いていて快適なプレイが可能です。

例えば、セットアップでは様々な初期情報を教えてくれますが、「要は画像の通りにチェックしてったらええんや!」と明快。


とりあえず見たままに✗印をメモシートに書く! それだけ!

質問に対する回答では「メモにはこう書き込んだらいいよ」まで教えてくれるので初見でも遊びやすいです。


今回登場する失われた種がアッテンボローミユビハリネズミであればメモシートには「?はヒキに隣接しない」と書き込めばOK。

NPCプレイヤー「ティニ」との対戦ソロプレイもアプリの補助があって快適です。「ティニ」はソロプレイに限った対戦相手ではありますが、2人プレイに追加のプレイヤーとして加えてもいいかも(ただ、疑似3人プレイだとプレイヤー側の情報が増えるのでティニが相対的に弱体化しそうではあります)



ティニの強さは「簡単」「困難」の2段階から選べますが、困難レベルだとよくわからない調査から唐突に失われた種を発見してきたりもするので油断がならないですよ。他人を気にすることなくじっくりと心ゆくまで時間が使えて、なおかつNPCの操作はアプリが補助してくれるので、とかくソロプレイが楽しいゲームです。ぼくは普段あまりソロプレイをしないほうなんですがこのゲームは「1時間空きがあるなー」みたいな時に取り出して、すでに5回くらい遊んでますね。


◆大変お待たせしましたが、それだけに自信を持ってお届けできるタイトルです!

元々が完成度の高い「惑星Xの探索」をブラッシュアップしたタイトルなだけに「失われた種の探索」は、論理推理ゲーム好きの方には抜群にオススメのタイトルです。最大の特徴であるアプリの積極的活用は今回も健在で、それは裏を返せばアプリを使う環境を整えないと遊びにくい弱点もそのままではあるんですけども、まあ、良くも悪くもそうしたエッジの鋭さがこのゲームの魅力かなと思っています。

また、余談ではありますが、「失われた種の探索」では絶滅危惧種への興味を持ってもらおうという意図から、ルールブックには登場する動物に関するちょっとした解説記事もあります。



ローカライズ作業の難しいポイントとしまして、このゲームにはLoryとCane toadという動物が登場します。これは日本語名ではそれぞれ「ヒインコ」と「ヒキガエル」になります。

で、このゲーム、それぞれの動物の頭文字をメモする作りになっていまして、英語版ではそれぞれ頭文字が異なる「L」と「C」なのが、日本語ではどちらも「ヒ」になってしまうという問題が出てきました。

これをどう解決するかは非常に悩みました。「インコ」と「カエル」の「イ」と「カ」にするか、一方は「ヒ」で、一方を変えるか等々…… 結局、頭文字2文字を取って「ヒイ」「ヒキ」で分別するという形にしましたが、果たしてこれでよかったのかは、今でも悩むところです。

なので、もし、遊んでみて、遊びにくさを感じるようでしたら、そこは柔軟にやって貰えればと思います。自分が情報を整理する上で一番しっくりくる形でやって貰えればいいのかなと。

「惑星Xの探索」の制作の際には頭文字をアルファベットにするか、ひらがなにするか、漢字にするかで頭を悩ませたものですが、なかなかこうした問題は尽きないものです。


また、これまた余談ではありますが、最近ではドイツ製品を始めとしてシュリンク包装を排したゲームが増えてきています。本作もゲーム自体のテーマから環境保護指向の強いタイトルではあり、内容物もプラスチック製品を避けて紙包装への置き換えが進められています。箱の外装も英語版ではシュリンク包装ではなく、四辺へのシール貼りとなっています。

では、日本語版も英語版と同様にシール貼りなのか、と問われると、実は日本語版では箱にシュリンク包装を行っています。

というのは、日本市場においてシュリンク包装を好む人が(現状では)多数派だとぼくは考えているからです。日本語版の出版に際して色々と検討を行ったのですが、最終的に今回はシュリンク包装を行うこととしました。

シュリンク包装の是非については様々なご意見があるかとは思いますが、数寄ゲームズとして何を大事に考えるか、コンフリクトする諸々の事情にどのように優先順位を与えるか、という点を考えた時、「ファンの方に満足して貰うプロダクトをお届けしよう」「何よりもユーザーファーストの立場に立とう」という考えから今回の判断を行っています。

誤解を招かぬようにお伝えしておきますと、個人として、団体として、シュリンク包装の廃絶に絶対的に反対です、という立場ではありません。今回の「失われた種の探索」に限ってはこのように判断したという次第です。自然環境に対する皆様の関心は歳月と共に徐々に変化していくかとは思いますので、数寄ゲームズはアンテナを高くして都度柔軟に対応していきたいと考えていますし、今回の判断についても皆様のご意見を広く聞いてみたいところです(なので今回の判断の是非についてもツイッターとかでもいいので呟いて貰えればと)。


とまあ、そんな感じで色々と制作の際に判断に悩む箇所が多かった作品でもあり、「失われた種の探索」はそれだけに思い入れがあります。発売まで相当な時間がかかってしまいましたが、なんとか発売まで辿り着けて安堵しています。どうぞ皆様に楽しんで貰えれば幸いです。



失われた種の探索

プレイ人数:1-4人
対象年齢:13歳以上
プレイ時間:60-75分

ゲームデザイン:Matthew O'Malley, Ben Rosset
アートワーク:Anh Le Art, Anita Osburn
小売希望価格:6600円(税込)
posted by 円卓P at 14:14| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年11月13日

ゲーム紹介:レオナルド・ダ・ヴィンチ レスター手稿



数寄ゲームズは、「レオナルド・ダ・ヴィンチ レスター手稿」日本語版を発売します。プレイ人数1-5人、対象年齢14歳以上、プレイ時間30-150分で、小売希望価格は税込12650円となります。

11月16、17日のゲームマーケットで先行発売を行い、その後、数寄ゲームズ通販サイトでも予約受付を始めます。その後、全国のボードゲームショップさんへのご案内、流通を予定しております。



「レオナルド・ダ・ヴィンチ レスター手稿」は、巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチの弟子の一人となり、様々な発明を完成させ、最も独創的な発明家となることを目指します。評議会や後援者から支援を得て、工房を拡大し、手足となる弟子を増やし、様々な資材を市場から入手し、7ラウンドの後、最も多くの財産を蓄えたプレイヤーが勝利します。

本作は「アルマ・マータ(2020)」「テラマラ(2019)」などで知られるイタリアのゲームデザイナー集団「アッキトッカ」のデビュー作のリメイクとなります。先ほど上げた2作はアッキトッカ名義……つまり4人組のゲームデザイナー集団として発表したタイトルでして、各デザイナーの関係作を上げると「ロレンツォ・イル・マニーフィコ(2016)」「コインブラ(2018)」「グランドオーストリアホテル(2015)」「ゴーレム(2021)」などなど、重量級名作ゲームがわんさかと出てきます。

今でこそイタリアのゲームスクール(「学校」ではなく「勢力」くらいの意味)は一流ブランドとして世界から一目置かれる存在となりましたが、ドイツがボードゲームシーンの中心地にあった時代に、イタリアにおいてアッキトッカが誕生したことはドイツゲームがユーロゲームへとその定義を広げる駆動力として機能しました(最も大きなのはフランス、アメリカの台頭ではありますが、イタリアの存在感も決して無視できる存在ではありませんでした)。その彼らのデビュー作が2006年に発売された「レオナルド・ダ・ヴィンチ」で、先年フランスのウィリアム・アティアが発表した「ケイラス(2005)」によって芽生えたワーカープレイスメント概念を彼ら流に解釈するという鮮烈なデビュー作となったのです。それは、その後数年に渡りゲームシーンを沸騰させたワーカープレイスメントの探求と発展というムーブメントの最初の一歩でもありました。


原版「レオナルド・ダ・ヴィンチ」はダヴィンチゲームズ(現DVゲームズ)から出版。

その後のアッキトッカの活躍ぶりは先程の関係諸作からもわかるとおりではありますが、一方で今から18年前に発表された「レオナルド・ダ・ヴィンチ」自体の評価はというと、デビュー作という出自も相まって洗練されたゲームとは言いづらく、随所に荒っぽさが見え隠れするゲームではありました。また、当時としては最先端のゲームメカニクスに挑戦しているとは言え、今の時代から見るとその先進性はくすんでしまい、素直な評価が難しいという側面もあります。

とは言え、彼らの挑戦が時代に大きな楔を打ち込んだことは間違いなく、また普遍的な魅力や見るべき長所も数多く備えている作品ではあることに間違いはありません。

そこでゲーム根幹の力学はそのままに、様々な改良を施して今風にリメイクしたものが今回の「レオナルド・ダ・ヴィンチ レスター手稿」となります。出版社は13項目の変更点を挙げていますが、ぼくがルールを読んだところ、それに加えてゲーム進行に大きく関わる変更がいくつもあります。

また、この新版では作家陣にChanghyun Baekの名前が加わっています。彼は本作の出版社Dicetree Gamesの創設者でもあるのですが、ゲームデザイナーとして名前が登場するのは本作が初めてとなります。

Dicetree Gamesは「アベカエサル」「トライコーダ」など古典の名作ゲームを豪華内容物を携えてリメイクする手腕で知られる出版社なのですが、ゲーム自体の大胆な改変を行うイメージはあまりないため、今作は同社としてはかなりアグレッシブに踏み込んだ試みと言えます。それだけ、「レオナルド・ダ・ヴィンチ」は扱いが難しいというか、内容物を刷新するだけで今のゲーマーに満足してもらえるような簡単なタイトルではないという判断があったのかもしれません。そして、その試みは見事に結実していると言えます。

Dicetree Gamesお得意のリッチなコンポーネントで遊びやすさを追求し、ルール面ではゲーム進行の洗練を図り、往時の荒々しさを彷彿とさせる激しい鍔迫り合いを心ゆくまで堪能できる充実の2時間半。当時のゲーム特有の輪郭のはっきりしたインタラクションはそのままに、今風の味付けを施した実にバランスのいい一品に仕上がっていると言えます。

……能書きが長くなってしまいましたが、では「レオナルド・ダ・ヴィンチ レスター手稿」はどんなゲームなのか。それをこれからお伝えしていきましょう。



◆ワーカープレイスメントと競りの融合。先手で逃げる? 後手でまくる?

先ほど述べたとおり、ワーカープレイスメントは2005年の「ケイラス」が先駆けとなって世界に広まったゲームメカニクスです。ワーカープレイスメントはつまりアクションの公開ドラフトで、手順番にワーカーを配置することで様々な効果を持つアクションの実行権を先取りするメカニクスと言えます。

また、現代ではワーカーを配置すると即時にアクションを実行する仕組みのものが多いのですが、「ケイラス」の頃のワーカープレイスメントは「ワーカーの配置」と「アクションの実行」が別フェイズのものが主流でした。つまり、ワーカーを3つ持っていたら3つのワーカーを手順番に配置して、その後、全員がパスしてから実行フェイズで3つのアクションが行われる、といった塩梅です。

何度もお伝えしていますが本作は「ケイラス」の翌年に発表されたタイトルなので、この配置と実行が分離した「初期ワーカープレイスメント」に属するゲームです。さらに本作ではワーカーを配置するだけではアクションの実行権を獲得することができません。

というのは、誰かがワーカーを置いたアクションスペースに他プレイヤーも後乗りでワーカーを置くことができるからです。こうなると1つのアクションスペースに複数のプレイヤーのワーカーが置かれることになるのですが、プレイヤーAとプレイヤーBがそれぞれワーカーを置いているアクションスペースは、さて、どちらが実行権を得るのでしょう? ……実は、この設問に「レオナルド・ダ・ヴィンチ レスター手稿」の最大の魅力が詰まっていると言っても過言ではありません。

答えは「より多くのワーカーを配置しているプレイヤーから、全部で4回あるアクションの実行権を順番に獲得する」です。

4回? 順番? なんのこっちゃ? と思われるかもしれません。こういうときは極端に簡単な例から徐々に話を進めていきましょう。

局面1. あるアクションスペースにプレイヤーがワーカーを1つ置いています。
結果1. プレイヤーはそのアクションを4回実行します。

……うん、これはそこまで難しい話ではないでしょう。

局面2. あるアクションスペースにプレイヤーAがワーカーを2個、プレイヤーBがワーカーを1個置いています。
結果2. プレイヤーAがアクションを行い、プレイヤーBがアクションを行います。その後、プレイヤーAが2回目のアクションを行い、プレイヤーBも2回目のアクションを行います。

全4回のアクションが、ワーカーの配置が多い順番で、プレイヤーA → プレイヤーB → プレイヤーA → プレイヤーBの順番で行われるということです。

人によっては「ワーカーが同数だったらどうなるの?」と疑問に思うかもしれません。ゲームに慣れている人なら「そもそも同数になるようにワーカーを配置できないルールなのかも?」と推測を進めるかもしれませんね。

答えとしては、同数の場合、より先にワーカーを配置している方がより多くのワーカーを配置しているものとみなします。翻って言えばワーカーの同数配置もできますよ、ということになりますね。


さて、全4回のアクションをワーカーを配置したプレイヤー間で振り分ける…… という仕組み自体はそれほど難しいことではないかと思います。が、さらに本作ではアクションの実行コストが絡んできます。1回目のアクションは無料、2回目のアクションは2金、3回目のアクションは3金、4回目のアクションは4金のコストを、ワーカーの配置とは別に支払う必要があるのです。



このルールを加えて先程の局面をアップデートするとこうなります。

局面1. あるアクションスペースにプレイヤーがワーカーを1つ置いています。
結果1. プレイヤーは無料で1回目のアクションを実行し、2金を払って2回目のアクションを実行し、3金を払って3回目のアクションを実行し、4金を払って4回目のアクションを実行します。

テキストが倍以上に増えた! もちろん、十分なお金を持っていない場合は払える限りのアクションを実行するだけとなります。

局面2に至ってはこうです。

局面2. あるアクションスペースにプレイヤーAがワーカーを2個、プレイヤーBがワーカーを1個置いています。
結果2. プレイヤーA無料でアクションを行い、プレイヤーB2金を払ってアクションを行います。その後、プレイヤーA3金を払って2回目のアクションを行い、プレイヤーB4金を払って2回目のアクションを行います。

なかなか複雑になってきました。さらに面倒な話としては、プレイヤーが十分なお金を持っていない場合はどうなるか? という話です。

局面2. あるアクションスペースにプレイヤーAがワーカーを2個、プレイヤーBがワーカーを1個置いています。プレイヤーAは1金、プレイヤーBは7金を持っています。
結果2. プレイヤーAが無料でアクションを行い、プレイヤーBが2金を払ってアクションを行います。その後、プレイヤーAは3金を支払えないのでもうアクションを行えません。プレイヤーBは3金を払って2回目のアクションを行い、さらに4金を払って3回目のアクションを行います。

アクションの実行権は全部で4回あって、それをプレイヤー間で分け合うのですが、お金を支払えないと実行権を得られない、というのがミソなんですね。なので、アクションの実行のためには前もって十分なお金を用意する必要があります。

が、実はこのゲーム、最終的にはお金=勝利点だったりもします。なので、プレイヤーはどこまで勝利点を削ってアクションを実行するかで終始悩むことになります。

その上で様々なアクションスペースにどれくらいのワーカーを割り振るか。これが実に悩ましい。

先手であれば同数配置のタイブレークで有利ではありますが、あまりに少ない配置だと後手にオーバービッドされてしまうかもしれません。ワーカープレイスメント特有のアクションの奪い合いではあるのですが、実態としてはワーカーを使った競りとも言えます。

さらにここに「見習い」と「師匠」という2種のワーカーの配置ルールが絶妙に絡んできます。見習いは一般的なワーカーで、一度見習いを置いたアクションスペースには追加で見習いを置くことはできません。



が、師匠は見習いの置かれたアクションスペースに追加で置くことができます(逆の順番の「師匠 → 見習い」も可)。師匠は見習い2個分相当の強力なワーカーでもあり、どのタイミングで師匠を置くか、師匠と見習いのどちらを先に使うか、細かい判断が実は大きな影響を及ぼす作りになっています(ちなみに能力の異なるワーカーという仕組みを世界で初めて発明したのが原版「レオナルド・ダ・ヴィンチ」の功績の一つでもあります)。


ワーカー配置の総まとめとしてはこう。

本作のワーカープレイスメントは、UI装置としての機能に特化した現代のそれと比べると、相当に濃密なやり取りをプレイヤーに求めるシステムになっています。しかしながら、ゲームの根幹となるアクションスペースは「スタートプレイヤーの獲得」「研究施設の改良」「ワーカーの増加」の3種に絞られていて、「ハイ、ここで争ってくださいね」という意図が極めて明瞭です。リソースやお金を獲得するアクションスペースも用意されているのですが、それらは副次的な存在で争いが起きることはあまりありません。

……とまあ、そんな感じで、2種のワーカーを使い分けてアクションの実行権を競るこのメインエンジン、相当に独特な作りです。結構長いことボードゲームを嗜んでいる身ではありますが、類似の作品は見たことがありません(競りとワーカープレイスメントの組み合わせだと「キーフラワー(2012)」がちょい近いのですが、あれはまた別軸のゲームではあります)。

このシンプルかつユニークなメインエンジンを試してみるだけでもこのゲームを遊ぶ価値があります。18年前に作られたゲームとは思えないほど斬新な……というか、今の時代だからこそ一周回って新鮮さすら覚えるバチバチなプレイフィールをぜひ味わって貰えればと思いますよ。


◆発明を完成させ、巨万の富を得よ!

さて、前項にて本作は中心的なエンジンとしてワーカーを使った競りを行う旨をお伝えしましたが、実は競りの原資となるワーカーにはアクションの実行以外にもう一つ重要な役割があります。それが工房での作業です。

十分な資源が手元にある場合、プレイヤーは発明宣言フェイズで発明を予約することができます。各発明には完成のために必要な作業時間が設定されていて、その数に等しいワーカーを工房で働かせることで発明は完成します。

完成した発明は主に3つの利益である「お金」「カードの特殊効果」「セットコレクション用のアイコン」をもたらします。「お金」「カードの特殊効果」はそのままですが、「セットコレクション用のアイコン」は集めることでゲームの終了時にアイコン数に応じたボーナス点が入ります。



また、ちょっと面白い仕組みとして、1つの発明カードに複数のプレイヤーが同時に予約を行うこともできます。こうなるとどちらが先に発明を完成させるかの競争が始まることになるのですが、一番最初に発明を完成させたプレイヤーがすべての利益を総取りする10:0の関係ではなく、2番目に完成させたプレイヤーも先述の3つの利益のうち「お金」「セットコレクション用のアイコン」の利益だけは貰うことができるようになっています。つまり10:7くらいの関係。裏を返すと「カードの特殊効果」は最初に完成させたプレイヤーだけしか得られないということになるので、カード効果目当ての発明であれば、他人に先んじて完成させる必要があります。


また、利益の中で特に重要なのはお金です。先ほどアクションの実行にはお金が必要だと述べましたが、このゲームのお金の主な入手先は発明の完成によるものです。

そのため、アクションを競り合うことも重要なのですが、並行して発明も完成させなければ効率的に手が進みません。他プレイヤーが発明に注力するならば競りが緩くなるのでアクションを数多く実行するチャンスですし、逆に競りが熾烈ならば自分は発明に没頭するべき、というような他プレイヤーとの押し引きが実は重要なゲームです。


さて、アクションの実行にも研究の進展にも人手が必要なこのゲーム、現代日本と同様に万事人手が足りません。

そこは稀代の天才レオナルド・ダ・ヴィンチ、このゲームでは研究を手伝ってくれる自動人形が登場します。自動人形は発明の作業だけを行うワーカーといった存在で、「専用の部屋を用意して」「自動人形を購入して」「その上でワーカーを配置する」ことでラウンドごとに1回働いてくれるというなかなかに面倒な手続きが必要な存在ではあるのですが、非常に便利な存在です。


自動人形を働かせるには専用の部屋も必要。

特筆すべきはお給料を払わなくてもよいという点で、このゲームでは数ラウンドごとにワーカーにお給料を支払う必要があるのですが、自動人形は人間と違って文句も言わず無給で働いてくれるのです(経営者にとっての理想の労働者!)。

さらに自動人形は改良することでワーカー2人分の作業をこなしてくれるようにもなり、工房運営の戦力として大活躍します。競り&作業に活躍するもお給料の必要なワーカーか、初期投資がかかるもコスパ抜群な自動人形か、どちらを先に充実させるべきかも悩ましい選択です。


◆Book Boxシリーズならではの豪華な内容物も必見

本作は「アベカエサル」と同じくDicetree Games発のBook Boxシリーズと呼ばれる作品群の一作で、豪華でハイグレードな内容物は今回も健在です。実はこの日本語版を出版する際、版元のDicetree Gamesからは「内容物のグレードを松・竹・梅の3つから選べるけどどうする?」と聞かれました。梅コースと松コースの違いは例えば、梅だとお金が厚紙チップになりますが、松だとクレイチップ(!)になったり……といった違いです。



で、「どうせやるなら松でお願いします!」と答えたのが今回の日本語版になります。そのため、ゲームで使用するお金70枚はすべてクレイチップ…… おいおい、キックスターターのアドオンじゃないんやぞという豪華さです。



資材120個のうち木材、レンガ、ロープはUVプリントで模様が印刷されていますし、3枚の個人ボードはダブルレイヤー仕様で機能性バッチリ。ゲームの内容物をスッキリと収める専用トレイも付属していて、すべての内容物を箱の中にキッチリ気持ちよく収納することができます。



そんなワケで本作のお値段は小売希望価格12650円(税込)…… と、数寄ゲームズ史上最高額の製品となってしまったんですけども、様々なアドオンを突っ込んだ豪華版と捉えて頂ければ高すぎる内容ではないことがご理解頂けるのではないでしょうか。……ご理解頂けるとありがたいです。


また、ここまで読んで頂いた方にもう一つ検討材料をお知らせさせて頂きますと、本作は通常の製品よりも製造数を絞っています(これは同時発売の「トライコーダ」も同様です)。製品の性質や価格帯などを考慮するに少しディフェンシブに動かざるを得ない事情はありまして、他の製品とは異なり、本当に欲しい人に届けることを第一の勝利条件として設定しています。

そのため、これからの動きがどうなるかは予想がしにくい部分があるんですけども、本作を待ち望んでいた方はこの機会をぜひお見逃しなく! と、強く強くお知らせしておきたいです。本作はゲームマーケットでの先行発売となりますが、間を置かずに数寄ゲームズ通販サイトでの予約も実施する予定ですので、ゲムマに来場予定のない方もそこはご安心頂ければと思います。

ただ、その後の一般販売や流通、将来的な再販予定などについては他の作品よりも不透明な製品と言わざるを得ません。まあ、爆発的にヒットしたりすれば話はまた違ってきますけども、うーん、それはさすがにないでしょうしね。

元々の原版も「知る人ぞ知る怪作」という立ち位置ではありましたし、重厚な本格派タイトルが並ぶアッキトッカ諸作の中でも賛否の分かれる一作ではありました。ただ、今回のリメイクで賛否の否の部分は相当に削られまして、様々な形で手触りの良化とバランス改善が図られた一線級のゲームに作り直されたのは確かです。

原版が備えていた激しくも精緻なインタラクションはそのままに、独特なワーカープレイスメントの旨味がよりハッキリと味わえる秀逸なリメイク作品となっています。重量級のゲームではありながら処理はスッキリとしていて初回プレイからゲームのキモがわかる明瞭な導線も遊びやすさに貢献しています。

個人的にちょっと驚いているのはプレイ時間で、以前開催された超新作体験会で本作の試遊を4回行ったんですけども、インスト込み3時間で3卓が余裕を持って終了し、残る1卓もロスタイム内でゲームを終わらせることができました。このときはすべて4人プレイだったので、5人プレイになるともう少しプレイ時間が延びるかなという雰囲気はありますが、箱に表記された150分表記がウソじゃないのは確かです。これはなかなか凄いなと。

また、こうした重量級ゲームで拡張なしに5人対応しているものは昨今珍しいので、そうしたゲームを入り用としている人には面白い選択肢になるのではないでしょうか。一方でボード裏面は少人数プレイに対応していて原版よりも少人数プレイへのアジャストが図られています。

そんなワケで、様々な方にどっぷり堪能していただけることは間違いない、令和に蘇った「レオナルド・ダ・ヴィンチ レスター手稿」を、ぜひ多くの方に試してみて頂ければと思います。


……ちなみに豆知識なんですが、箱絵の有名な画像はレスター手稿(水理学を主題として観察や理論が記載された紙片)に記載されたものではなく、ウィトルウィウス的人体図という素描だそうです。




レオナルド・ダ・ヴィンチ レスター手稿

プレイ人数:1-5人
対象年齢:14歳以上
プレイ時間:30-150分

ゲームデザイン:Changhyun Baek, Flaminia Brasini, Virginio Gigli, Stefano Luperto, Antonio Tinto
アートワーク:Seongho Lee
小売希望価格:12650円(税込)
posted by 円卓P at 01:36| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年10月11日

ゲーム紹介:アルデバランデュエル



数寄ゲームズは、「アルデバランデュエル」日本語版を発売します。プレイ人数1-2人、対象年齢12歳以上、プレイ時間60-90分で、小売希望価格は税込6600円となります。

10月14日から数寄ゲームズ通販サイトにて先行販売の予約受付を始めます。その後、全国のボードゲームショップさんへのご案内、流通を予定しております。

「アルデバランデュエル」は、「アンダーウォーターシティーズ」「エヴァキュエーション」などで知られるウラジミール・スヒィの手による2人用ゲームです(ソロプレイもあり)。実際遊んでみて個人的には「これはスヒィさん流の『宝石の煌き』の解釈では!?」などと思ったのですが、一緒に遊んだ人からはあまり賛同を得られていません(笑)

いや、でも、自分としてはかなりその色合いを感じるところが大きいので、この紹介記事ではその辺りも含めてゲームのキモをご紹介していければと思います。一言で言えば、カードプレイを通して手元を育てていくタブロービルド、拡大再生産の色味が強いゲームです。



テーマ的には2つの帝国の間で惑星間紛争が勃発するぞ、というお話ではありますが、生粋のユーロ畑のデザイナーであるスヒィさんらしく、殴り合いなどの直接的な妨害要素はなく、カードのドラフトやカット、2人用ゲームにつきものの綱引きの攻防などでインタラクションが作られています。

また、スヒィ作品と言えば2人プレイ適性の高さに定評があります。「アンダーウォーターシティーズ」は言うに及ばず、「ウッドクラフト」や「エヴァキュエーション」……「シップヤード」もそうかな? 多人数ゲームでも2人で遜色なく遊べるタイトルが数多い今風のデザインを得意としている人なのですが、「それじゃスヒィさんが2人専用ゲームを作ったらどうなるの?」という問いかけはなかなか面白い設問だと思うのですね。

そして、この「アルデバランデュエル」はまさに本気で作られた2人専用ゲームであり、2人専用ゲームならではの工夫がそこかしこに散りばめられています。また、数寄ゲームズではこれまでスヒィさん作品を多く取り扱ってきたのですが、最近では魅力的な2人用ゲームにも注力しています。

ウラジミール・スヒィ×2人専用ゲーム! まさにこれは数寄ゲームズでやるべきゲームでしょ!

……ということで、今回、日本語版を出版することになったのです。

ということで具体的なゲーム内容をご紹介していきましょう。



◆手番には、カードを取るか、プレイするかの2択だけ

「手番にはAかBをするだけの簡単なゲームです」のような言い回しは、昨今では重量級ゲームのインストでの常套句となっている感もありますが(大体は簡単ではない)、本作も組み立てとしては同じです(簡単かどうかで言えば、少し難しい、くらい)。具体的にはカードを取るか、カードをプレイするかの2択。1アクションを行ったら相手に手番を移し、2人ともパスするまでこれを繰り返します。

カードを取るアクションでは、場に並べられた6枚のカードから欲しいものを取るのですが、取り方として「価値3までのカードを取ることができる」というルールがあります。

さて、価値とはなんぞや? と言いますと、カードは場に3段2列に並べられているのですが、下段のカードは価値1、中段のカードは価値2、上段のカードは価値3となります。これらの中から組み合わせで価値3までカードを買っていいよーという仕組みなので、実際にカードを取る組み合わせは「下段2枚」「下段1枚+中段1枚」「上段1枚のみ」のいずれかになります。



カードを獲得した後、空いたスペースは下に詰められて新しいカードが補充されます。そのため、価値3のカードでも待っていれば価値が下がって入手しやすくなります。


注意事項として、このゲームには7枚の手札上限があります。手札上限をオーバーするようにカードを取ることはできませんし、手札が7枚ある場合はカードを取るアクションは行えず、カードをプレイするアクションを選ばなければなりません。

それでは具体的にどのようなカードを取るべきなのか? それをお話しするためには、もう1つのアクション、カードのプレイから説明する必要があります。


カードのプレイでは手札から任意の1枚をプレイします。この時、カードに示されているコストを別のカードで支払う必要があります。

つまり、各カードは「カード」と「コスト」のどちらかの用途で使用することになるわけです。「サンファン」などのゲームを遊んだことがある人ならイメージしやすいかもしれませんね。



そのため、カードを取る際には、もちろんプレイしたいカードを取ることが第一なのですが、そのカードをプレイするためのコストとなるカードも確保しなければなりません。欲しいコストのカードが常に場に出てくるとは限らないのでコストの確保も結構なポイントですよ。


さて、ゲーム中には5種類のカードが登場します。各カードはプレイすることで様々なボーナスをプレイヤーにもたらしてくれるのですが、中にはボーナスを得るために条件が必要なものもあります。

1. 生産ステーション

「生産ステーション」は、プレイすることで、カードプレイに必要な資源を永続的に割引きます。「宝石の煌き」などを遊んだ人ならばわかると思いますが、割引はめちゃ重要です!


2. スペースシャトル

「スペースシャトル」は、プレイすることでラウンド終了時に得点の綱引きを行う軍事/貿易/外交のトラックを1歩進めます。要するに得点獲得手段です。


3. 惑星

3つ目の「惑星」は……ここからがちょっと複雑なのですが、プレイするだけではボーナスを得られず、完成させて初めてボーナスを得られるカードです。基本的には後述する「入植」を行わないと惑星からはボーナスを得られません。


4. 入植

続く4つ目は「入植カード」で、惑星の空きスペースを埋めるようにして配置することで惑星のセットを完成させるパーツです。大体の惑星は入植カードの色を指定してくるので、この辺をマッチさせるのがなかなか難しいところです。


入植の図。最終的には風車みたいな感じになったり。


5. 植民船

最後の5つ目は「植民船」で、入植が完了した惑星1つにつき1枚プレイすることができます。様々なボーナスをもたらすのですが、コストが安くてオトクなカードです。見た目が「スペースシャトル」と似てるのですが、カード右下のアイコンで判別することができます。

コスト比で考えると「植民船」は単純に強いので、惑星の入植を行うならば植民船のプレイまで終わらせて1セットと考えたほうがいいでしょう。「惑星」「植民」「入植船」は1セット。入植は結構手間がかかるので、ここまでやらないと元が取れません。


とまあ、そんな感じで、ゲームの基本的な流れとしては、「カードを取ってプレイする」「カードのボーナスを得ることで割引や得点源を得る」のサイクルを繰り返していく形になります。

これを続けていくとそのうち場札が尽きますので、カードを取ることもプレイすることもできなくなったらパス。両プレイヤーがパスしたところで1ラウンドが終了という流れになります。


◆ラウンド間に研究と綱引き

両プレイヤーがパスしたら次に「研究」を行います。実はプレイヤーの手にはゲーム開始時にドラフトで獲得した研究カードが5枚あり、このうち1枚をこのタイミングでプレイすることができます。カードのプレイにはここだけでしか使えない「科学」の資源を支払う必要があり、この支払いが結構重いです。

科学カード


で、実はこの研究カードが戦略上はかなり重要です。「手札上限が7枚から8枚になる」効果を得られたり、「特定のカードをプレイすると追加の得点を獲得する」効果を得られたりと、かなりハデ目な特殊能力を獲得することができます。この研究カードの選択とプレイが勝敗に大きな影響を及ぼします。

先述の通り、研究カードはゲーム開始時にドラフトで獲得するので、目指すべき戦略の補助線となります。科学カードはゲーム中3枚しかプレイできないので、どのカードをどのタイミングでプレイするかを事前に検討する長期的な視野も必要になりますね。


続いて、影響力ボード上で綱引きを行います。

これは「スペースシャトル」のボーナスで得られた軍事(オレンジ)、経済(緑)、外交(紫)のトラックの差分だけ駒を自分方向に引き寄せるもので、自分の陣地側に駒をより多く引き寄せることで高得点を狙うことができます。



基本的にはある分野に特化すると得点効率がいいので、どれか1分野に集中して1点突破を狙いたいところです。ということは、相手の特化行動を阻止するのも大事ということなんですけども。

また、影響力ボード上の駒はラウンドを跨いでもリセットされない! ので、一度大敗すると2度3度と点数を献上することになってしまったりも。逆に序盤でそうした得点基盤を作れると強いのですが、序盤は生産の土台を作りたい時期でもあるので悩ましく……


とまあ、こんな流れを1ラウンドとして、3回繰り返したらゲーム終了。カードは時代を経るに従ってよりコストが重く、より強力になっていきます。


◆2人専用ゲームならではの駆け引きが熱い!

プレイ時間60-90分という表記からもわかる通り、それなりに要素の多いゲームではあるのですが、慣れてくるとカードの取り合いが熱いことがわかります。

実はこのゲーム、コストを割引してくれる「生産ステーション」が強力です。というのは、先述の通り、後半になればなるほどカードプレイのコストが重くなるため、割引力の差が手数の差として顕著に出てくるのです。そのため、特に序盤の「生産ステーション」は見かけたら即確保で正解と言えます。

例え、価値3で手番に「生産ステーション」1枚しか取れないとしても見返りは十分にあります。というのは、「生産ステーション」を取る行為は同時に相手が取るのを防ぐ行為でもあるからです。いわゆるカットですね。

その前提で、「生産ステーション」を入手するためには手札に空きを作っておく必要があります。そう、手札は7枚までしか持てないんですよ! この縛りが実に効いてます。

手札を7枚にした瞬間にポロッと「生産ステーション」が出てきたら、相手は悠々とそのカードを獲得することができます。こちらは次の手番にはカードをプレイしないと手札が空かないのに!


そのため、ゲームに慣れてくると「今、手札何枚?」と相手の手札枚数を確認する機会が増えてきます。そうした手札枚数のハンドリング、マネジメントが地味に効いてくるゲームなのです。

手札枚数が多いと行動の選択肢が狭まるけど、そもそも手札を溜めないとカードのプレイ自体ができないというこのジレンマ。これを解決する意味でも割引は強力な要素です。また、別解として手札とは別に保持できて、ワイルド資源として支払えるワイルド資源トークンというものもあります。これも強力。


ゲーム全体に渡って「手札上限は7枚」という縛りと「カードをプレイするのにコストとして別のカードが必要」という仕組みがすーーーごくよく噛み合っているんですよね。ぼくが「宝石の煌き」っぽいと評するのはこの辺りのジレンマ構造を指していて、かつ、このジレンマって多人数ゲームでは制御しにくいので(上家の気分次第)、自分の行動が相手に直接的な影響を及ぼす2人ゲームでより輝く組み合わせでもあります(なのでぼくは「宝石の煌き」は理論上は2人ベストだと思っています。が、2人だとガチに寄り過ぎるので3人のほうが適度にゆるく遊べるというのも事実です)。


慣れてくると、いかに「生産ステーション」をポロリさせないように立ち回るかとか、「生産ステーション」がポロリしたとしてもダメージを最小限に抑える動き方だとか、細かいテクニックも見えてくると思います。この辺のリスク管理は、ちょっと「ジャイプル」っぽさがあるかもしれません。

ただ、この駆け引きって「『生産ステーション』が強い」という事前知識がないと思い至らない部分でもあると思います。まあ、1回遊べばすぐわかることでゲームの寿命を縮めるようなことでもないので言ってしまいますが、「『生産ステーション』は強い!」です。

その前提でゲームに取り組むと「相手が欲しがってる資源をカットする手があるぞ」とか、「相手が特化したい分野をカットする手があるぞ」とか、様々な応用も思いつくかと思います。直接的な攻撃手段こそ用意されてはいないのですが、どうしたら相手が嫌がるかを考えて締め付け合い、互いに我慢比べを始める洗面器ゲームの側面もあります。

とは言え、同時に欲しいカードがポロッと出てくるガチャ的な快感もあり、運と技術の要素がバランスよく用意されたタイトルだと思います。苦しいけども窮屈過ぎないというか。また、そうした小細工を吹き飛ばす科学カードのオーバーパワーぶりがチマチマ刺し合うだけのゲームで終始しないスケール感を演出してもいます。


◆出版社 Dino Toysとはナニモノ?

さて、このゲームは、スヒィさんの作品でありながら、出版はいつものデリシャスゲームズではなく、Dino Toysという聞きなれない会社から出版されています。その辺り、ちょっと不思議に思った方もいるかもしれません。

このDino Toys、実はチェコのおもちゃメーカーです。日本だと……カワダさんとかの会社のイメージなんですかね(ぼく自身、カワダさんもDino Toysも全貌を知っているワケではないのであくまでイメージです)。

で、Dino Toysは自前で印刷工場を持っていまして、デリシャスゲームズの作品は殆どがDino Toysの印刷工場で印刷されていたりします。Dino Toysは少量ながらボードゲームを出版していることもあり、そこからの繋がりでスヒィさんのゲームがDino Toysから出版されることになったのでしょう。

一方のデリシャスゲームズ側としても、ゲームを出版する計画が数年先まで既に決まっていて、かつ、それらは多人数用のタイトルであるという方針があり、デリシャスゲームズのリソースでは2人専用の「アルデバランデュエル」まで手が回らなかったという事情もあるようです。まあ、デリシャスゲームズって数人で運営している家庭内出版社ですからね。


Dino Toys自体はボードゲームがメイン事業ではないそうなので、ルールブックの書き方やらアイコンデザインやらサマリーの構成やら、ちょっとこなれてない面はあります。ゲーム自体はそこまで難しくはないんですが、各要素の順序構成など、ルールを読んでて、ちょっとこんがらがる箇所はあり……

個人的にそうした読みにくさを感じたこともあり、今回は手製のサマリーを用意しました。こちらは数寄ゲームズ通販サイトの直販分に添付いたします。大分スッキリと要素をまとめられたと思いますのでプレイの補助にお役立ていただければ幸いです。




そう言えば豆情報ですが、日本語版では「アルデバランデュエル」のタイトルロゴを新たに書き起こしています。原版は意図してレトロを狙っているのでしょうが、なんか古めかしさが先だってちょっと好きになれなかったんですよね。



個人的には日本語版の方が今風な仕上がりになっていると思います。日本のファンの方々に気に入って貰えるように日頃から知恵を絞っているのですが、少しでも気持ちが伝わっていれば嬉しいです。


アルデバランデュエル

プレイ人数:1-2人
対象年齢:12歳以上
プレイ時間:60-90分

ゲームデザイン:Vladimir Suchy
アートワーク:Jozef Bard Murcko
小売希望価格:6600円(税込)
posted by 円卓P at 11:14| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする