2018年10月04日

Klaus Paleschのメイフォロートリテ、「知略悪略」の日本語版を出版します



 はい、というワケで表題通りなんですけども、「知略悪略」の日本語版をゲムマ秋から販売します。プレイ人数は4-6人、対象年齢10歳以上、プレイ時間は30分となっています。イベント価格2000円。数寄ゲームズの他のゲームと同様にその後は一般流通に乗せたいと思っていますが、その際の価格は未定です。


 再販の報に反応する人には耳タコかもしれませんけども、まずはゲームの概要からお伝えさせて頂きますと、「知略悪略」は、1999年にベルリナーシュピールカルテンというドイツの出版社から発売されたゲームです。このベルリナーシュピールカルテンは残念ながら既になくなってしまったんですけども、色々な小箱の名作を世に送り出したメーカーでもありまして、今でいうところのNSV的な立ち位置…… は、まあ、ちょっと言い過ぎでしょうけども、とにかく小さいながらも独自の存在感を示すメーカーではあった……のだろうと思います(ぼくはそこまで深いゲーム歴ではないので当時の感覚を知りませぬ)。ベルリナーで最も有名なのはテンデイズゲームズさんから日本語版から発売されているクニツィアの「ゼロ」でしょうか。

 で、この「知略悪略」、そもそもの出版部数自体の少ない割とレアなゲームなんですけども、カードのみのコンポーネントなので構成としては地味ですし、「ボトルインプ」のように目に見える高値がつかないので存在感も薄く……(笑) 正直なところ、これだけ多くの方に反応して頂いたのは不思議な気持ちではあります。

 ただ、何度かリメイクされた「ボトルインプ」に比べると「知略悪略」は初めてのリメイクなのでその辺も注目されているのかもしれません。「オイオイあいつ死ぬわ」的な注目なのかもしれませんけども(笑)

 まあ、それぐらいマイナーなゲームです。……だと思っているんですけども、ぼく自身は前々からこのゲームを凄く欲しいと思ってはいて、欲しいけど手に入らないので作ることにしました。「欲しいものは権利取って作る」は数寄ゲームズのモットーです。


 さて、「知略悪略」はいわゆるトリックテイキングゲームでして、さらに言えばその中でもメイフォローというルールを備えた割と変化球みの強いタイトルでもあります。メイフォローとはなんぞやという話をすると長くなりすぎるのでここでは説明を割愛しますけども、世の中の多くのトリテはマストフォローを採用しているゲームでして、メイフォローのトリテはユーロゲームの中でも1割にも満たないというマイノリティな存在です。つまり作りづらいゲームなんですね。

 メイフォローに分類されるタイトルの代表格を挙げるとすると今現在はNSVから発売されている「シュティッヒルン」になるかと思います。これも「知略悪略」と同様にパレッシュ作のゲームです。またパレッシュは「ハットトリック」というこれまたメイフォローのトリテを作っていまして、パレッシュはメイフォローを作る名手という不思議なポジションのデザイナーでもあります。


 システムとして特徴的なのは前述のメイフォロー、そして4つのスート(色)のうち、2色だけを集めると高得点、3色以上を集めると今度は得点が目減りしていくというわかりやすい(ルールの字面だけを追うとわかりにくい(笑))得点システムです。


※以下、ルールの話をしますけども、知ってる人は飛ばして貰っていいです。


 メイフォローに関しては前述の「シュティッヒルン」なんかに比べると若干の縛りを持っていまして、要は1トリック中に4スート中3スートしかプレイできないゲームです。なので完全なメイフォローではありません。そういう意味ではメイフォローの亜種という位置づけのゲームではあるんですけども、そのおかげで若干のコントロール性を得ているのでこちらの方を好む人もいるでしょう。

 ちなみにトリテに慣れてる人なら「4スートABCD中、3スートABCしかプレイできないなら、4スート目のDしか手札にない場合はどうなるの?」という疑問を得るかと思いますけども、その場合、ここでトリックを途中終了するとともにラウンドも即座に終わります。カードは配り切りではありますけども、フォローできなかったら即終了(メイフォローでフォローできなかったら、というのも変な言い回しですが)で手札を全部使うパターンはむしろ少ない…… この辺のルールの組み合わせは後年のブルクハルトのトリテ「ポテトマン」での援用を見ることもできますね。

 また、このゲームの語り草でもあるユニークな得点システムは、得点計算に掛け算、割り算を使う結構な大胆不敵ぶりで、4色のスートABCDをA>B>C>Dの枚数で集めた場合の計算式は(A*B)/(C+D)となります。つまりどれだけ得点となるAやBのスートを集めたところでCやDのカードを1枚でも取るとごっそり得点が減っていくという地獄ぶりで、ゲーム終盤は何気ない一手から阿鼻叫喚に至ることも多々。さらにメイフォローならではのコントロールしにくさは、このゲームのリスクマネジメント性を浮き彫りにしていまして「とにかく一手が重い」という遊んだ方の呻き声をよく耳にします。

 そしてこの得点システムを活かすべく、トリックの勝者はカードの半分を獲得し、次いでトリックの敗者が残り半分のカードを獲得するというルールもついてきます。自律的に得点を稼ぐにはトリックに勝つべきなんですけども、強いカードをプレイしている人の欲しくないスートを集めているならトリックに負けるのも一つの手、というような駆け引きもありまして、とにかくメカニクスが相互に噛み合っている、そんな印象を持たせるゲームではあります。まあ、やはりこの辺の機微は実際に遊んで確かめて頂きたいので、今は発売をお待ち下さい、ということになりますかね。


※ルールの話、ここまで。


 やはりルールにユニークな味を持つゲームなので、ついついルールを語りたくなってしまうんですけども、そこは百聞は一見に如かずなので、文章で説明するのは程々に留めておきます。その上でお伝えしたいのは、率直に言えば「どうぞ買ってくださいお願いします!」ということです。

 いや、何もこれはがっぽり儲けたいという意味ではなく、こうした試みを次に繋げたいという気持ちでのお話です。今回の契約に関しましてパレッシュからはある印刷部数を提示されたんですけども、これまでの経験から鑑みるに「この数をそのまま飲み込んだら半分以上売れ残るぞ……」という数字でした。

 なので、そこは日本の市況をお伝えした上で頭を下げて「もう少し少ない印刷部数でお願いできませんでしょうか? これこれこういう条件でもいいので」と冷や汗をかきながらお願いして、結果快く了承して頂きました。

 これは数寄ゲームズ自体、小規模なメーカーで販売力に乏しいことも理由としては当然あるんですけども、それ以上に日本のボドゲ市場、トリテ市場はまだまだ発展途上の域にあるという認識からの判断です。ぼくは小心者なので契約の前に出版経験の豊富な方々に部数についての相談もしていまして、これは何もぼく個人の勝手な憶測ではなく、ある程度の業界の景況などを踏まえての判断です。

 この辺りは本当に残念なことながら多くの名作トリテが日本語版を出版できない状況からもご想像頂けるかとも思います。「トリテは売れない」は、常識のように語られていますし、個人的に大好きな「ペッパー」もひとまず販売終了に至ってしまいました。悲しい。

 ただ、そういう現状とは言え、市場を作っていかなきゃ市場は生まれないんだと私的には思っています。そのために良質なトリテを取り揃えて多くの人にトリテの魅力を知ってもらうことが大事だと思っていますし、それをプレイヤーの方々も求めていると思っています。……ここは幾分かの自己欺瞞も篭っていますけども、でも本当にそう思っていますし、そう信じています。でないと出版なんてやってられませんよ!

 ということで、願わくばトリテを愛する皆様にはぜひお力をお貸し頂きたいのです。

 おかげさまで「ボトルインプ」は大変な好評を頂きました。ただ、正直なところ、「ボトルインプ」はトリテのフラグシップ的な立ち位置のゲームでして、「これが売れなかったらもうトリテは全部諦める!」クラスのゲームです。半分は勝てるなと思っていて、負けるにしても損害は微小で済むだろう、みたいな安心感はあったんです。実際はそれよりもずっといい結果だったんですけども、出す前は(予想以上に大きな勝負に膨れ上がっていたこともあって)ヒヤヒヤものでした。

 で、「ボトルインプ」と比べると「知略悪略」の心もとなさは相当なもので、負けるにしても死なないようにダメージコントロールを幾重にも重ねて、それでも生き残れるのか不安な心境です。予想以上の反応を頂けても「ホンマかいな? みんなそんなに知略悪略欲しいんかな?」と疑っている有様です。

 ただ、逆にこのクラスのトリテを多くの方に支持して頂けるなら、出版の選択肢はめちゃくちゃ広がるんです。みんなの欲しいアレもアレもアレも手を伸ばせます。まあ、先にぼくの欲しいアレとアレとアレから手を出しますけど!

 そして何よりデザイナーの方に「すみません、日本市場は小さいので……」と弁解することもなく自信を持って交渉できます。今回は幸いにも契約に漕ぎ着けられましたけども、大きな部数を作れるなら契約も結びやすくなりますし、色々と条件もよくなるんです。

 今回「知略悪略」をこういう形で出版するのはその辺の事情もありまして、「やりたいこと」と「やれること」の完全な一致を果たせたかと言えばそうではないところはあります。お力添え頂いた方々のベストなパフォーマンスに比べて、ぼく自身の力不足を感じてもいます。ただ「やれること」の中で精一杯の「やりたいこと」を選びました。それは確かです。


 また「知略悪略」を出版する意義として、日本国内で誰でもすぐに参照できるメイフォローのトリテが必要だと感じていたこともあります。

 というのは同時に進行している「ペーターと2匹の牧羊犬」のデザイナーであるところのしぶさんが去年作った別のトリテの試作もメイフォローだったんですけども、正直なところ、あまりよい触感は得られなかったんです。そういう時に参考となるテキストがあるとないのとでは大きく違うので、そうしたゲームはやはり必要なんじゃないかなと思ったのです。

 今回のゲムマでも、なんだか予想以上の数のオリジナルなトリテを目にするんですけども、同時にそうした創作熱に応えられるだけの教科書は足りているんだろうかという疑問はあります。特にメイフォローは扱いの難しい、事故りやすいシステムの最たるものではあるんですけども「カッコいい響きだしルールも複雑にならないしリボークも防げるし」みたいなノリで組んでみて、結局できあがったものはメイフォローではなくノーフォローでした、みたいなこともありがちなので、やはり参考資料はいくらあっても足りないということはないと思っています。

 ただ、メイフォローの教科書として参照すべきゲームとしてまず「知略悪略」を挙げるのかというと、そうではなかろうというのも事実なんですけども……(笑)


 最後に、原題の「Mit List und Tücke」をGoogle翻訳に入れると「狡猾と背教で」と翻訳されるように、「知略悪略」は元々メビウスゲームズさん独自の訳語です(正確には「智略・悪略」)。ミヒャエル・リーネックも同名のゲームを作っているのでドイツではよく使われるフレーズなのかもしれませんがよくは知りません。ともあれ、今回の日本語版の製作に際してはメビウスゲームズさんにお伺いしてタイトル使用の許可を頂きました。この場をお借りして改めて御礼を申し上げます。

 その上で呼称がブレると混乱の元になりますので、今回の日本語版では今現在最も使用頻度が高いと思われる「知略悪略」の表記を採用しました。


 とまあ、そんな感じでサラッと書くつもりで結構な分量になってしまった感もありつつ、まだまだお伝えしたいことは色々とあるもので今後とも数寄ゲームズブログやTwitterにてお知らせしていければと思います。よろしくお願いします。
ラベル:知略悪略
posted by 円卓P at 00:07| Comment(0) | 知略悪略 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする