2018年05月03日

百科審議官:ひもについてとことん語る



 百科審議官のコンポーネントのメインと言えばなんと言っても「ひも」です。他のゲームではあまり見ることのないこのひもは、「ベン図をボードにするとあまりにも大きくなりすぎるからひもで代用しよう」という発想から生まれたものでした。
 実際に百科審議官のプレイに必要なボードを想定するとA3サイズのボードが必要になります。これは重厚な戦略ゲームと同等のボードサイズですし、加えて箱も巨大化せざるを得なくなるので製造コストはうなぎ登りです。それをコンパクトに纏めるためのアイディアがひもなのです。今回の再販ではデザイナーの千石一郎さんと色々相談したんですが、そうした事情からひもを採用した方が何かと便利じゃないかという話に落ち着きました。
 
 さて、この百科審議官の製作を千石さんに持ちかけたのは去年の春のゲームマーケットでのこと。それから千石さんとの話し合いで、コンポーネントのサンプルをまずは試作して、千石さんのお眼鏡に適ったら再販にゴーサインを出しましょう、という流れが決まりました。
 そして、ここで千石さんから出された課題の一つが「ひもの端の処理を自然にできないか」というものでした。初版の百科審議官では輪になったひもの両端を金具で固定していたのですが、これが千石さんとしては苦肉の策でどうも気に入らなかったようです。金具は見た目にも異物感がありますし、ケガに繋がる危険性もあるということでしょう。
 かと言って、ひも同士を結ぶのは結び目の見た目がよろしくないということで、とにかく千石さんはその辺りアーティスティックな思考の方でした。かくいうぼくは再販を実現するためにはどんな難題でも受け入れるしかないもので「わかりました、なんとかしましょう!」と算段もないのに承諾しまして「さて、実際どうしよう……」とそれから長いこと頭を悩ませることになったワケです。


 ちなみにこれがひもの新旧対照。上が旧版なんですが、金具で端を留めているのがわかると思います。

 ボードゲームの製作をこれまで数年続けてきて、ゲームの主要な素材であるところの紙の扱いにはちょっとだけ詳しくなったぼくですが、紙と同様にひももまた奥深い世界でした。そもそもぼくはひもに関しての知識はまったくなくて、百科審議官で採用されているこのひもが一般的になんと呼ばれているかもわからないという有様でした。これは割と重篤な問題で、名前がわからないと同じものを発注できないし、そもそも調べることもできないんですよね。ひもって千差万別なので、単純にひもだけで検索しても欲しい情報って全く出てこないんです。
 手探りで色々と調べたところ、どうやらこのひもはアクリルコード、ファッションコードと呼ばれる部類の組紐だということがわかりました。アクリルコードの名前の通り、アクリルでできた化繊のひもです。コプラスを製作する際には半透明のタイルを作るためにアクリル版について色々と調べたんですが、今度はアクリル繋がりでアクリルコードについて調べることになりました。と言ってもこの二者で共通する知識ってあんまりないんですけども……

 さて、調べたところアクリルコードは熱を加えることで縮む性質があるということがわかりました。ということは、アクリルコードの両端をほぐして搦めて火で炙ってやればなんか合体して一本のひもになったりするのではないか? と考えたぼくは手芸店で買ってきたアクリルコードをチャッカマンで炙る実験に乗り出しました。
 結果から言えば、ひもの両端が焦げただけでまったく絡まないというか、ひもが焦げて短くなるので絡むよりも解ける方向に力が働いてしまうということがわかりました。うーむ、このやり方ではダメだ!
 こんな感じの実験を色々と試しては失敗に終わり、「結局金具を使うのが早いんじゃないの……?」と思ったりもして。しかしながらこの金具がちっちゃい割に意外と値が張るので、コスト面の要請からも金具を使わない方法を見出さざるを得ない状況だったのです。しかも一つ好感触だった試作を千石さんに見せたところ「強く引っ張っても解けないでしょうか?」という指摘が入り、さらにひもの製造条件の一つとして「引っ張っても解けない」が加わったのです。改めて条件をまとめると「見た目が自然で」「簡単で」「安くて」「引っ張っても抜けない」ひも端の処理をぼくは求められていたわけです。うーん、なかなかの無理ゲー。

 それからいろいろと試して千石さんからのオッケーが出たのは秋ゲムマも目前に迫ってきた11月の半ばのことでした。まあ、ボトルインプ日本語版やらの他の案件の合間を縫っての研究ではありましたが、実に半年の間、ひもと向き合い続けてきたことになります。

 秋ゲムマが終わってからは大阪ゲムマに向けてひもの量産に着手することになりました。50m単位のひもをネットで購入して、それをまずは1.5m単位にはさみで切り分けます。この切ったひもは折れたりヨレがあったりと使用感があって見た目がよくないので、このヨレを取るためにスチームアイロンをかけます。スチームアイロンをかけて真っ直ぐになったひもはそうめんのように1回干して水気を抜きます。ほどよく乾いたところで今度はひもを輪にして両端を留めます。これでようやく1本が完成。これを3回繰り返すとようやく1箱分のひもが揃うわけです。
 このひもの量産工程は想像以上に時間がかかって労力もかかるのですが、その光景はまるっきり内職というか、古式ゆかしい同人ゲームの製造工程です。今どきの多くのゲームは印刷所さんに製造を頼めば部材がきっちり箱詰めされてシュリンクまで終えたゲームがスポンと届くことも珍しくないんですが、百科審議官に関しては製造工程の多くの部分が手作業によって賄われています。この辺は初版が発売された12年前の製造工程と同じようなことをやっているんではないかと思います。そういうこともあって、部材のクオリティには若干のばらつきがあるんですが、それも手作りの味だと思って頂ければありがたいです。
 特に製造工程で重い割合を占めるアイロンがけに関しては、作業効率をアップさせるために研究用として新しいアイロンを2つ買ったりもしました。今後も作業効率を上げるための設備投資は積極的に行う予定ではあります。作業面積が広くて収納がラクないい感じのアイロン台も欲しい…… とか言ってると本当にこれはゲームづくりの話なのかという雰囲気でもあります。

 とまあ、そんな感じで皆様にお届けする百科審議官のひもは作られています。大阪ゲムマからのこの1ヶ月、ずっとひも作りに没頭してきたのでぼくのひも作りスキルはなかなかの練度に達してきましたよ。
 一応、数寄ゲームズ製品の常として、ゲムマ後は一般販売が控えているのですが、どれだけの人が求めに来るのか読めないところもあって、ちょっと怖いところもあります。即日でダンボール1箱2箱をポーンと送り出せるゲームではないもので引き合いがワッと来ると怖いなーみたいな、でも売れてくれないとそれはそれで困るなーみたいな、色々と複雑な心境のままでゲムマを迎えることになります。
 まあ、これを読んで「大変だなー」と思われた方は応援の気持ちでお一つお買い求め頂けると、ぼくの一年も報われますんでよろしくお願いします。その結果、またひも作りの日々を迎えることになったとしてもそれは嬉しい悲鳴と言うやつです。ぼくの5月がひも作りに終始することになるかどうかは皆様のお気持ち次第です。
 まあ、百科審議官はそれくらいの苦労をしてでも多くの人に届ける価値のあるゲームということで。皆様どうぞよろしくお願いします!
posted by 円卓P at 23:41| Comment(0) | 百科審議官 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年03月27日

百科審議官、新旧コンポーネントの比較



 そう言えば百科審議官のコンポーネントをお見せしていなかったなと気づいたもので、今回はそれらをお見せしつつ、今回の新版の変更点について触れたいと思います。上記の写真は新版のコンポーネント一覧になります。



 まずは化粧箱の新旧対照。これはもう一目瞭然ですがサイズが違います。旧版の化粧箱はやや縦長のサイズでしたが、新版の化粧箱はもっと一般的な縦横比で、具体的に言えばテンデイズゲームズさんの「四人の容疑者」とか「ペッパー」とかと同サイズの箱です。
 そもそも旧版の箱サイズは千石さんの話によると「ラベンスバーガー小箱を意識した」そうです。ただ、ラベンスバーガーの小箱はアミーゴサイズの小箱なんかと違ってゲームによってサイズがまちまちで明確な規格はないんですね。なのであくまで「ラベンスバーガー小箱っぽいサイズ」なんです。
 なおかつ旧版の箱はあまり見ない特殊なサイズだったので、新しく版を作るよりは既存の版を流用した方が話が早いということで、思想としては同じラベンスバーガー小箱似のテンデイズサイズ(タチキタプリントさんによる通称)を採用することになりました。この辺、千石さんからはサイズに関する注文はあまりなかったように記憶しています。
 それとは別に製造面で千石さんから特に強くお願いされたのは箱表面のエンボス処理でした。これは写真の光の当たっている部分をよく見て貰えればわかるんですが、新版の箱は結構しっかりとしたエンボスがかかっています。
 旧版も写真では表面はつるつるに見えるんですが、実は表紙にエンボスがかかっていて千石さんのエンボスへのこだわりというか、箱の諸々の仕様から強いドイツゲーム愛を感じます。

 というか、そもそも同人ゲームで初めて化粧箱を採用したゲームが実はこの百科審議官だという話を千石さんから伺いまして、なんと今現在ぼく達が煩悶している化粧箱にお金をかけるべきか否か問題のすべての元凶は百科審議官にあったという(いやまあ、千石さんが化粧箱を採用しなくてもそのうちそういう方向に流れたとは思うんですけども)。ちなみに同人ボードゲームで初めてシュリンクをかけたのも百科審議官だそうで(2冠達成)、これは化粧箱の表面を保護するためにシュリンクが必要だったそうです。確かに旧版の表面はニスやらPP加工やら表面保護の処理をしていないのでシュリンクをかけないと輸送時の振動で箱がこすれて塗装が剥げちゃう危険性があるんですね。写真でもおわかり頂けるように角とかフチとかがちょいちょい白くハゲてます。
 しかも12年前は今と同じようなボードゲーム専門の印刷屋さんはないもので、千石さんは箱屋さんに貼り箱を発注したそうです。なんかもう色々と隔世の感がありますね。



 続いてメインのコンポーネントであるひもの新旧対照。上が旧版、下が新版です。まあ、だいたい同じ感じのひもを用意したつもりなんですが、新版の方が若干太いかもしれません。このひもについては話し出すとべらぼうに長くなるのでまた日を改めて苦労話を開陳したいと思います。
 あ、ひもの構成は旧版と同じく3色ランダムです。箱詰めで間違える危険性もあるので色を固定したくはあったんですが色々やってるうちにコスト的にランダムにせざるを得ないなーという結論になりました。



 付箋紙と木コマ。ゲーム的には分類シートと区画マーカという命名がされています。左が旧版、右が新版の内容物ですが、言わないとどっちがどっちだかわかりませんねこれ。
 今回の百科審議官は12年ぶりの再販ということは何度かお伝えしているんですが、まさにこの12年の歳月によって小さくない影響を受けたのがこの辺のコンポーネントでして、付箋紙に関して言えば、今の100均ショップってこのタイプの付箋紙は全然取り扱わなくなっちゃったんですよ。なので調達が面倒…… しかもルール上、このタイプの付箋紙じゃないとプレイに不便なので代替は不可能という縛りもありつつ。
 この付箋紙は通販で大量発注する分にはOKだったので取り寄せて解決しましたけど、小口で調達するのはちょっと難しいので、今後多くの方に広く遊ばれたとして不足分をどうやってお届けしたらいいものか、うーん、ちょっと困っています。

 そして付箋紙以上に調達の困難さを予感させたアイテムが区画マーカとして使用する木コマでした。このゲーム専用の特注品ですからコストも重いですし、そもそも12年経った今でも変わらず発注できるものなのか…… という問題がつきまとっていたのです。
 で、千石さんから当時発注した業者の方のお名前をお聞きして調べてみるとホームページはあるものの、店舗が閉店したとか書いてある…… なんかサイトも更新されているのかいないのか…… という怪しい状況。さすが10年の月日は重いです。
 まあ、お願いするにせよ無理にせよ連絡しないことには先に進めないので「10年以上前にボードゲーム用の木コマを作って貰ったんですが、それと同じものが欲しいんですよー」という怪しいメールを送ったところ、なんと「大丈夫です。版が残ってるから印刷もできます」という返答を頂き、たちどころに問題は解決したのです。これはマジで幸運でした。



 ちなみに木コマに関しては事前に代案として3Dプリンターでプラコマを作ったりもしていました。コスト面ではこっちの方が相当に軽くなるのでメリットも大きかったんですが、千石さんに試作品をお見せしたところまったく芳しい反応がないというか「ふーん、こんなのが作れるんですね。ところで木コマはどうします?」みたいな感じで、そもそも木コマの代わりにプラコマを使うのはどうでしょうという提案自体が伝わっていないような雰囲気だったのですごすごと引っ込めました。他の人に見せる分には「別にプラでもいいんじゃない?」という意見が多かったりもしたんですけども。
 とは言え、実際遊んでみると木コマは重みがあって触感がいいので満足度という観点ではやっぱりいいものですね。その分本体価格に跳ね返ったりもしたんですが、まあ自分で所持することを考えるとやっぱりこの選択でよかったとは思います。



 同梱しているルールのサンプルです。さすがに今の時代にペラ紙はアレでしょうということでこれはカード化しました。化粧箱を採用しつつも中身は家庭用プリンターで印刷したペラ紙という旧版のアンバランスさは時代臭を感じさせてくれて手作り感の温かみがあるんですが、あくまでそれは資料的な価値があるという話であって、新版で形だけ真似ても仕方ないなとw



 旧版のサンプルルールはサンプルと言いつつも初プレイでは使いづらい攻めたルールが多かったので、新版では千石さんの監修の元にスタンダードなサンプルルールを増やしました。サンプルルールの数は単純に2倍になっています。
 で、今気づいたんですが、通し番号を間違えてますねこれ…… サンプルルールの5番が2つある…… うーん、完全にぼくのミスではあるんですが、ゲームの進行にはまったく影響しない部分ではあるのでどうしたものかな……


 とまあ、こんな感じで、企画中は部分部分の変更もありえるのかなと思っていたんですが、最終的にはほぼ原版と変わりない内容に纏まりました。若干のバージョンアップを図っている部分もありますが、まあ、強調するほどでもないかなと。旧版が欲しかったけど入手の機会がないとお困りの方には満足して貰える内容だと思います。
 あ、そうそう、ルールに関しては1点変更が入りました。ゲームの終了条件が若干変わってプレイ時間を短縮する方向に微調整されています。
 ルールのテキストに関しても、構成を今風にしているというか、ゲームのセットアップと基本進行部分をしっかりと分割しています。最初は頂いたデータをそのまま流し込んだんですが、千石さんから「ここ直した方がいいですかね?」と言われて「実はぼくもそう思っていました!」と便乗して速攻で直したという…… この辺、どこまで原版を尊重するのか、出しゃばっていいのか、距離感の測り方は毎回悩んでいるところです。
ラベル:百科審議官
posted by 円卓P at 18:25| Comment(0) | 百科審議官 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年03月26日

解説! 百科審議官ってこんなゲーム!



 大阪ゲムマで新版を再販する百科審議官。2006年に初版が発売されて好評を博したこのゲームも今となっては知らない人の方が大多数かもしれませんね。かくいうぼくも当時のことは人から聞いた話でしか知らなかったりします。
 ちなみに百科審議官が発売された時のゲムマ新作アンケートがこちら。百科審議官は平均評価4.22の堂々の評価第1位を獲得。そして続く2位には国内外を見渡しても奇抜さでは群を抜くトリックテイキングゲーム、落水邸物語が入賞していてそのレベルの高さに驚かされるとともに、往時の熱量をも感じさせてくれます。
 それから12年が経ちましたが、今もなお百科審議官は、独自の立ち位置を失わないユニークな魅力を備えたゲームです。今回、デザイナーの千石一郎さんにぼくが再販を持ちかけたのも「今この時代にもう一度このゲームが遊べる環境があってもいいんじゃないの?」と思ったからです。あと単純にぼく自身、現物が欲しいからというのも理由としては大きいんですけどもw

 さて、このゲームは「自分の決めた秘密のルールを守りつつ、他人の決めた秘密のルールの正体を暴く」論理ワードゲームとでもいうべきゲームです。ある種の正体隠匿型ゲームとも言えるかもしれません。勝利を目指すためには自分のルールを極力隠しつつ、他人のルールを暴いていく論理的思考力が必要になります。
 ゲームの開始時に各プレイヤーは色つきの付箋を受け取り、そこに自分だけの「物を区別するルール」をこっそり記します。ルールは例えば「魚屋で買える」とか「両手で持てる」とか「自分で動く」と言った形式で書きます。



 各プレイヤーが決めた秘密のルールは付箋と同色のひもと対応しています。ひもの内側はルールに対してYESと答えるものの範囲、ひもの外側はルールに対してYESと答えられないものの範囲になります。
 その上で3本のひもはテーブルの上に重ねて配置します。こうすることで7つの区画が生まれ、3つのルールに対するモノの関係性を示せるようになりました。



 例えば3つのひもが重なる真ん中の区画はすべてのルールに対してYESと答える区画になるわけです。つまりこの区画には「魚屋で買えて」「両手で持てて」「自分で動く」モノが入るワケです。うーん、サンマとかですかね?

 さて、ゲームが始まるとプレイヤーは付箋に「ことば」を一つ書いて各プレイヤーに質問します。例えば「わかめ」という単語を書いたとしましょう。これは「あなたのルールに『わかめ』は当てはまりますか?」という質問になります。

 各プレイヤーは自分のルールに対してその言葉が当てはまるかどうかを答えます。わかめは「魚屋で買える」のでこのルールに対してはYESという答えになりますね。
 「両手で持てる」は、どうでしょうか? 市販のわかめは小さくカットされて袋に入ってますが、海の中のわかめは結構大きく育つ印象もあります。ちょっと微妙なところですね。まあ、正確な答えがわからない時は印象で決めてしまってもいいです。なにせこのゲームが生まれた12年前はスマホもありませんでした。ということで答えはNOということにしておきましょう。
 「自分で動く」は、海流でゆらゆら揺れることはあるでしょうけど、自分の力で動いているワケではないのでNOになるでしょうね。

 と言う感じで質問にYES/NOを返すんですが、実際には各プレイヤーは自分のルールを秘密にしたままYES/NOだけを答えます。そして全員の答えが揃うと、付箋が貼られる区画が決まります。結果的に「わかめ」は図でいうところの「マグロ半身」と同じ区画に貼られることになります。もしこれが手番プレイヤーが今回の得点区画として選んだ区画だった場合、プレイヤーは得点を獲得することができます。



 プレイヤーの目的のひとつはすべての区画に自分の付箋を貼ることです。そのためには他人のルールを完璧ではなくてもある程度把握する必要があります。「両手で持てる」というルール自体はわからなくても「なんとなく小さいもの」というルールの雰囲気が掴めれば勝利にグッと近づきます。

 ゲームの開始時には各人のルールがまったくわからないので狙った区画に付箋を貼ることは困難を極めます。自分のルールだけがYESとなる区画を狙っていても意図せず他人のルールにとってもYESとなる「ことば」を選んでしまうことはよくあることです。
 時には自分のルールがバレてしまうような「ことば」をチョイスする必要があるかもしれません。このゲームにはそういう独特の攻防というか他プレイヤーとの間合いを測る味わいがあります。
 また、秘密の暗号を解き明かすスパイのような気持ちで、この世界を構成する謎の大元に少しずつ近づいていくところにこのゲームの手強さがあります。そして首尾よくルールを解き明かした暁には、まるで全能者になったような気持ちで思うがままに「ことば」を操ることができるでしょう。

 そう、「ことば」に操られていたプレイヤーが一転して「ことば」を手足のように操るようになる。このプレイヤーの立場の変化、ダイナミックな逆転の構図がこのゲームの一番のカタルシスです。
 最初はまったく要領を得ない世界の秘密に手も足も出ず、五里霧中でもがき苦しむかもしれません。でも1回ルールの謎を解き明かした時には百科審議官の世界の美しさがわかるはずです。この深淵で不思議な世界をぜひ一度体感してみてください。
ラベル:百科審議官
posted by 円卓P at 21:18| Comment(0) | 百科審議官 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする