◆スチーム(マーティン・ワレス)
ぼくは当初、ゲームの絵面としてスチーム的な風景を想定してて、そのせいもあって応募時の農作物はチップではなくキューブだったんですけども、デベロップで農作物は全部チップに化けました。まあ、この方が親切だよなーとw
スチームは全員で共有している場のキューブを我先に奪い合って運び出すゲームで、個人の所有物と全員の共有物という切り分け方、考え方について色々考えさせられました。デザインの際には六次化農村に登場する様々なものの所有権を引っくり返したり元に戻したりして、最終的に建設施設を村の共有物とするところに着地させました。
一次審査の応募時は誰の農場の生産物でも好き勝手に出荷できる(お隣さんの出荷を手伝うイメージ? 多分にいらぬお節介としてしか機能しないんですが)というアグレッシブなルールがあったんですが、さすがにカオス過ぎるので消えました。
あと役割選択的な特殊能力みたいなのはあってもいいかなと思った時期もありました。「二毛作」「ハウス栽培」「契約顧客」とかそんなカードをスタプレから1枚選べるみたいな。オートモービル的でもあるというか、まあ、ワレス流の香り付けですね。
◆オートモービル(マーティン・ワレス)
ということでオートモービル。需要と供給、商品の品質の差異といった辺りで多分に影響があります。オートモービルは線上に工場がズラッと並んでいて、起点から遠い工場ほどレベルの高い工場という作りなんですが、それに倣ってマップに畑を配置するなら場所による優劣もつけたいなあという考えから農産物を作る順序のルールが決まったという経緯があります。
ただ、あのランダム性のある需要の決め方は好きくないです。
長くなるんで別項としますが、好きくない需要の決め方ゲーとして「アークライト」とか「グランドフロア」とかも挙げられまして、あの手の「出荷した後で本当の需要がわかるよゲー」は需要チップなりをペロッとめくった瞬間が一番盛り上がるんですが、でもそれはあくまでめくりの楽しさでしかなくてマネジメントに対しては不誠実じゃなかろうかとぼくは思うので「六次化農村では需要に運要素を絡ませないぞ」という方向性は最初から固まっていました。
デベロップに際して、レストランの処理で色々意見が出た時にNGO吉田さんから「サイコロで決めたら?」という話があったんですが「それはないです」と即答した覚えがあります。
本当は商品の売れ方に関しては、もうちょい複雑な、でも運要素のない仕組みを応募時は提案したんですが、審査時にその部分が間違ってプレイされていたことが発覚して「複雑に過ぎるんだろうなー」という反省もあってこの処理は簡略化されました。
直売所に色々な商品を並べて、並べ終わってから何が売れるか決まる、というルールは、これは特に何かを参考にしたというワケではなく、割とオリジナルではないかと思います。どちらかと言えばデザインに際して直売所の資料を読んでるうちにこういうルールが妥当だなと思い至った感じです。
でも、種類も違えば持ち主も違う多種多様な商品を一箇所に並べるのは視認性に多大な負荷を与えるので「そりゃ誰もやらんわな」と作ってみてから思ったのでした。でもまあ、製品版はスッキリしているので凄いなあと思います(他人事のように)
◆産業の時代(マーティン・ワレス)
リメイク元のブラスは今年になってから遊びました。畑タイルの並びとか割と産業の時代の個人ボードっぽくないですかね? 畑のグレードアップもその辺を意識してるようなオートモービルとの間の子のような。
産業の時代ではプレイヤーは個別に産業タイルを持っているんですが「これを取り合いにしたら面白いんちゃうの?」という発想から農地は全員の共有物になりました。ここも個人所有か共有物かの反転というかそんな感じです。
グレードアップ元の畑がボードに戻るのは「テラミスティカ」から来てます。
産業の時代は六次化農村の企画を立ててから、「よし、ネットワーク構築の代名詞的なゲームを遊んでおこう!」という流れで遊んだので積極的に何か参考になる部分を掬っていこうという意図で遊んだゲームです。
手番順の決め方も好きです。堪らんす。
ワレスゲーが好きなので、当然借金要素も考えたんですが、借金要素を入れるとゲーマーズゲーム過ぎるという考えからこれは断念しました。一応やり過ぎはマズいという意識はあったんですよ!
そしたら借金要素のあるゲームが二次審査を通過してたので、なんだ入れてもよかったのかなーと。借金って入れるだけで逆転要素を用意しましたよ的なエクスキューズになるので便利でもあって、その上このゲームは拡大再生産なので逆転要素はやはり必要でもあって…… まあ、結局そこはマルチの叩き合いでなんとかしてねってところに落ち着きましたが。
◆フードチェーンマグネイト(Jeroen Doumen, Joris Wiersinga)
今の時代ピックアンドデリバーはあんま流行ってないからワンチャンあるで! と思っていたので、フードチェーンマグネイトを遊んだ時は正直「やられた!」と思いました。でも正直似てる部分ってあんまないな……
フードチェーンマグネイトは「デッキ構築*ピックアンドデリバー」というモジュール*モジュールな組み合わせの部分は考え方として影響されている気がします。こちらは「投票*ピックアンドデリバー」という形なので。
◆インドネシア(Jeroen Doumen, Joris Wiersinga)
どちらかと言えばスプロッターの別のゲームの方が影響度ある気がするなあ。というワケでインドネシア。ゲームの進展で需要が広がる感じが都市の成長とリンクしてていいなと思いました。直売所のLVが上がったり下がったりという部分はここから影響を受けています。
インドネシアは企業買収が凄いダイナミックな面白い部分で、それに影響を受けた土地売却ルールが応募時にはあったんですが、デベロップでサラッと消えました。
◆グレートジンバブエ(Jeroen Doumen, Joris Wiersinga)
これもスプロッター。とにかくマス目を数えるのが面倒なゲームなので、「だったら3マス移動するだけのゲームならどうや!?」という発想の元になったのがこれ。
神々の特殊能力とか競りとかユニークな部分沢山あってスプロッターすげえよって感じですが、全然このゲームとは関係ないですね。
◆イムホテップ(フィル・ウォーカー・ハーディング)
船はいいなあああああ、しかも共有物ってのがいいいなああああと思いました。ピックアンドデリバーではないんですが、輸送手段とインフラの組み合わせだけでもゲームは個性が作れると思います。個人所有のトラック&舗装された道路は制限が少なくてあまりオモシロみがない…… あれ、参考になってない。
道路がだんだんボロくなって通行不可能になる場所とかあってもよかったかもですね。
◆ディマッヒャー(カール=ハインツ・シュミール)
選挙ゲーム。投票面白いなあと思った元凶。このゲームはシステマチックに協力する相手を決めるのが昔のゲームらしくないキレッキレな部分で、それと比べると緩いというかシステム上の縛りがない六次化農村を現代的と呼んでいいものかと思わなくもなく。
投票の醍醐味は開けてみるまでわからないドキドキ感で、現実でも勝利確実と思われていた様々な投票がひっくり返っちゃうことは多々あるワケですが、行き先が全く読めないとこれはストレスが先立つので誰が何票を投じるのか、六次化農村ではヒントをそこかしこに散りばめています。ぼく的にはかなり読み切れるように要素を配置したつもりなんですが、実際プレイしてみると全然読めないのでこのゲームおもしれえなあと思います。
投票コマをお金で買えるルールは一次審査応募時からあったんですが、当時は手番順に買う個数を宣言する形だったそうな(他人事)。二次審査に際して握りに変えて最小数プレイヤーは追加で1個貰えるようにしたのは3つ理由があって
1. インターフェースの統一
投票を全部握りで解決することでフェーズの統一感を醸す。
2. 1票でも多く使えるプレイヤーが議会の支配権を得やすい
順番に宣言すると後出し有利すぎるので。
3. 劣勢プレイヤーの救済
基本、拡大再生産のゲームなのでお金が足りないプレイヤーは投票コマが買えない→拡大できないの負のループに陥るので、その辺のエクスキューズ。……と見せかけて上手く使うのは上手いプレイヤーだったりする例のパターン。
と言った辺りが狙いとしてはあったと思います。この辺、NGO吉田さんにお会いした時に「枯山水の徳みたいにやってることは真面目なんだけど笑える要素が欲しい」みたいな話からこうなったような気がします。
「笑える」は意識したワードではありました。笑える経済ゲー。ぼくはこのゲームが楽しいゲームかどうかは人によると思いますが、笑えるゲームではあると思います。でまあ、NGOの人がいう面白いゲームって笑えるゲームのことなんだろうなあと。バカゲー好きだって公言してますし。
◆ローマの執政官(川崎晋)
今度アークライトから新版が出るからというワケではなくw ボードゲームを初めた割と初期の頃にこのゲームを遊んで投票って面白いなあと思った記憶があります。製品版は1ラウンドの投票回数は2回だけですが、応募時は3回以上投票の機会があって、どこで投票するかが割と重要なところもあって、もう少しローマの執政官っぽかった気がします。
投票でタイが発生した時、ここは日本の伝統「先送り」が発動するべきでしょうよ、と先送りルールを作ったものの、これが各所に不評で、デベロップであっさり消えましたね。
◆シェイクスピア(Hervé Rigal)
残した投票コマで手番順を決めるところ。シェイクスピアと比べると二段階式なのが一捻りありますが、これは元々別ゲーム用に考えてたネタでした。
シェイクスピアのいいところは握り過ぎてもミスではないところで、握り競り嫌い人間としてはちょっと救いがあります。それをもう少し押し進めて握りすぎても見返りがあるゲームがいいなあと思った結果、投票コマ→貢献度へのリソース変換が考案されたのでした。それを土地購入と繋げて循環させたのは我ながらアクロバティックだなあと思ってます。
◆ランカスター(マティアス・クラマー)
補助金採択の押し出しルールとか割とまんまですね。似たような投票ルールのあるゲームは幾つかあるんですが、一番影響があるのはこのゲームです。
色々投票に関して影響を受けたゲームはあるんだけども、みんなの投票で建物をどこに建てるか決めるゲームはないような気が…… オリジナルっぽい気がするけどなんか忘れてるゲームに影響されている可能性も否定できない…… ドルンター・ドルーバーぽいって言われたけど遊んだことないしなあ。
◆電力会社(フリードマン・フリーゼ)
このゲーム、一次審査に応募した段階では土地代の要素がありませんでした。畑は貢献度だけで買えたんですね。一次審査を通過してから土地にもお金を払うようにした方がより高度なリソースの割り振りが要求されて面白いのでは、という考えから土地代を設定することにしました。要は六次化農村はお金というリソースを他のリソースにどう割り振るかというゲームなのですが、その骨子は電力会社から来ています。
あと電力会社は手番順の決め方だったり、発電所のデッキ操作だったり、見どころありすぎゲーでやっぱりぼくにとってはマイベストゲームの一つです。
◆ラグランハ(Michael Keller (II), Andreas "ode." Odendahl)
畑を作ったら作物がスポンと生まれるあのインスタント加減は農業をバカにしてんのか、という勢いでもありますが、これはこれでアリだなと思わせてくれたゲーム。六次化はカバーする範囲が広すぎるので生産部分は簡略化しようという割り切りは当初からありました。
生産について言えば天候の影響とかも検討はしたんですが、例によって運要素が嫌いなので入れませんでした。それだけに「補助金出るからタマネギ作るかー」「タマネギ作る人多いからキャベツ作るかー」みたいな100%人間の都合だけで作付か決まるのがなんか人間臭くて面白いと思います。
◆イントリーゲ(シュテファン・ドーラ)
歴然としたマルチゲーム。六次化農村はマルチゲームなので口八丁手八丁のゲームだと思います。まあ、それがドイツゲームっぽくもあるのかな、いや、古過ぎるかな、みたいな。
◆エルグランデ(ウォルフガング・クラマー,リヒャルト・ウルリッヒ)
ぼくはよく六次化農村を「エルグランデくらいの重さのゲームですよ」と言います。1回しか遊んだことないんですが。
ゲームの規模感として東京ドイツゲーム賞で許される範囲はこの辺だろうという意味での参考としました。90分表記でも180分まではセーフみたいな。全然ゲームとしては似てないんですが、マルチゲームの色合いが強いゲームなので、マルチ感のあるドイツゲームとしてもこの辺まではセーフというモノサシにしています。
番外:実は全然影響受けてないゲー
◆キューバ(ミヒャエル・リーネック,シュテファン・シュタドラー)
農地を開拓して作物を作り、それを加工して出荷。色んな効果のある法案を全員で決めるよ。と要素だけ取り出してみると六次化農村とクリソツ。でも遊んだのは今年が初めて。
キューバ自体はカードプレイがエンジンになってるタイプのいかにも近代的なゲームでして、割と泥臭い六次化農村と比べると大分スマートな作り。六次化農村のエンジンとかインターフェースは割と旧態依然とした作りですね。そこはディマッヒャーよりはマシ、みたいな考え方なんですが。
とまあ、ここまで色々ゲームの名前を挙げて、六次化農村のデザインへの影響について考えてみましたが、まあ、やっぱりというか、ゲーム好き御用達の重いゲームばっかりですね。六次化農村はやっぱりそういう人に刺さるゲームなんだと思います。挙げられたゲームの中に好きなゲームがある方はぼくと近しい趣味をお持ちの方だと思うので、六次化農村を楽しめる率は高いかもしれません。
そんな六次化農村ですが、3日後のゲームマーケットにて、A45「New Games Order」ブースにてお買い求めできます。本日23時までNGOサイトで取り置き予約も受け付けておりますので購入予定の方はどうかご利用ください。
「六次化農村」ゲームマーケット取り置き予約を受け付けます。
一方で、そうは言ってもこれはトゥーマッチだなーという方もいらっしゃると思います。大体そういう方は自分自身の好みというよりはゲーム環境自体が不向きというパターンが多いのではないでしょうか。
ぼくもゲーム自体は魅力的だけど自分のゲーム環境的に買わないor買えないゲームはよくあります。これはまあ、そういうものなのでしゃーないでしょう。
で、宣伝なんですが、2時間はさすがに重い、辛い、長い、という方に45-60分で濃密なゲーム体験が味わえる「夏休み大作戦」というゲームがあるんですねー! ワーオ、これはビックリだわ!


ジャンルは競りです。六次化農村と通じる部分は…… 見つけるのが困難です。作った人が同じというだけです。しかし! ですが! 篭っているスピリットは同質です。ここが一番大事なところです。
去年の春、ぼくは六次化農村、夏休み大作戦、そして「どっちの始末Show」と3つのゲームを掛け持ちして作っていたんですが、どのゲームにも等しく愛着があります。
夏休み大作戦は変なメカニクスを盛り込んだ挑戦的な二段競りのゲームです。一学期で友達を増やし、夏休みは友達と一緒にイベントにでかけて自分だけの日記帳を作る競争性の高いゲームでもあります。
東京ドイツゲーム賞の告知が3ヶ月早かったら正直こっちを応募してたかもしれません。まあ、当時の完成度で言えば六次化農村は芽も出てなかったので……
当時のぼくは軽いゲームばかりを作っていたもので、もう少し本格的なじっくりと楽しめるゲームを作りたいな、という意識がありました。その中で「自分でも製造できる規模の、それでいて王道のラインに沿った本格的な競りゲーム」としての夏休み大作戦と、「自分では実現化は難しいけどゲーマー向けの本格重ゲー」としての六次化農村という2つのラインをぼくは進めていたのです。
夏休み大作戦はディティールが凝っているのがいかにも同人的というか、アートワークに関しては六次化農村は丸投げに近い感じだったんですが、夏休み大作戦はやり過ぎなほどに凝り凝りなのが、やっぱり自分で製造まで手がけるとなると、まあ、そりゃ力を入れざるを得ないよね、という感じで、一見の価値あるデキになっていると思います。ゲムマ当日はぜひ夏休み大作戦の実物を見ていただきたいです。
もちろん、両方を遊ぶのも大いにアリだと思います。同じデザイナーの様々なゲームから通底するエッセンスを見つけるのって鑑賞の最たるものだとぼくは思っています。
まあ、肝心のぼく自身にそれだけの価値があるのかー、というところは、どうにも歯切れが悪くならざるを得ないんですけども。ともあれ、どちらも面白いゲームだとは思うので、六次化農村ならびに夏休み大作戦をよろしくご愛顧お願いします。