これまでのあらすじ。よっしゃー、いらすとやさんの素材を使って日本語版の製作スキームを纏めたぜー! Pennieさんこれでどうですか!? ……あれ、返事が来ない。
困った。これは困った。なんでかわからんけども返事が来ない。もう10日経ってるんですけども……
一応これまでのやり取りでは3日もすれば返信が来るぐらいで、そのレスポンス速度からもPennieさんのノリ気が感じられたんですが、フロー図を送ってからPennieさんからの便りはパッタリと途絶えてしまいました。なーぜーだー。
最もマズいパターンとして考えられるのは、Pennieさんが想定していた日本語版の製作スキームからあまりにかけ離れた提案をぼくがしてしまっている場合です。特に「印刷を日本側主導で行う」という部分は割と大胆な提案でもあって、要はPennieさんの手から出版に関する一切のコントロールを預かる形になりますから、その権限を場末の海外のインディーメーカーに委ねるのはリスクが高すぎる、とPennieさんが考えてもおかしくはないワケですよ。
実際にそういう話も聞きますね。日本の某ゲームに海外のメーカーから出版の声がかかったまではいいものの、いざ製品が出来上がってみたらなんか別物になってたみたいな事例。もちろんデザイナーの許可なしにです。印刷の一切合切を預けるというのはそういうリスクを含んでいます。
ぼくはそんなこと怖くて絶対やらないですけども、他人から、ましてや海外から、その真否を判断できるワケもなく。要は信用問題なんですが、誰かが保証してくれるほど堅固な信用はないという現状でもあって。信用はこれから作っていくしかないんですね。
あとまあ、今回の場合、輸送コストを考えると日本で印刷するのが妥当ですし、何より箱の製造を原版とは全く変えるつもりなので、その辺は日本の印刷会社に頼む方がコストと納期を計算しやすいという事情もあります。海外の印刷会社は小口での注文は難しいとも聞きますし、その辺をPennieさんに丸投げするのもちょっと難しいでしょう。
ということで一番現実味のある提案をしているだけ、というのがぼくからの視点なんですが、果たしてPennieさんにそれが伝わっているかどうかはわかりません。というか、疑問に感じているなら説明しますんでどうか返信をください!
逆に最も楽観的なパターンを考えるなら、それは「ごめん、連絡するの忘れてた!」みたいな場合です。ぼくら日本人からすれば「いやいや、そりゃないだろ!」と思うようなすっぽかしがこの界隈はよくある……らしいので。
日本語版出版の相談をしてたら連絡が半年途絶えた、とか、再販の相談してたらモニャモニャとかウニャウニャとか。海外の人はテキトーだなー! ……という印象はあります。特にイタリアの人。
とは言え、タイミングがタイミングなんすよねえ。いかにもなんか逆鱗に触れてんじゃないかっていう内容ではありまして。
本音を言えば、もう少し時間をかけてお互いの希望や価値観なんかを擦り合わせてから「こういう形で行きましょう!」という話を始めたかったんですが、Pennieさんは話を進めたがってる雰囲気もありましたし、きちんとした案を提示できないと頼りない人だと思われるんではないか、という恐れもあって。うーん、ネゴシエートは難しい……
とは言え、まあ、言うて10日ですわ。まだ10日ですよ。ちょっと忙しくて返事が遅れているだけかもしれません。〆切がある話でもないですし、ここは落ち着いて待ちましょう。
……って、構えていたら1ヶ月経ちました。まだ返信が来ません。 うわああああ、ダメならダメだと言ってくれええええ! それならそれで諦められるから! 別になんか損切りする話でもないし!
で、ちょっと記録を探すのが難しいので若干ここは記憶だけで書くんですが、さすがにこの時は「1ヶ月前に送ったメールの件だけど、どうなってますか?」的なメッセージをTwitterか何かで送ったような気がします。PennieさんはTwitterにちょこちょこ書き込みはしてたので、事故や病気の可能性は薄かったんです。
そしたら。
「ごめんごめん、夏休みだったんだー」 という返事が来ました。
そっかー、夏休みかー!!! 夏休みじゃしょうがないよなー!!! このメールの絶えていた時期はまさに7月半ばから8月半ば。北半球で
夏休み大作戦が決行される時期です。
そりゃー夏休みだもん。休暇中の相手をビジネスメールで追い立てるなんて無粋な真似をPennieさんがするはずがないでしょう。ジャパニーズビジネスマンだって夏は休むに決まってるんですから。あれ、なんか目から水が……
言うて連絡をスッパリ断ち切っちゃうのはそれはそれで豪快すぎやしないかという気もしつつ、いやいや、これくらいの感覚が世界標準なのかもしれぬ、と、なんかもうこの件に関しては拭い難いカルチャーショックを勝手にぼくは味わっていました。まあ、こちらから催促を入れてればまた話は変わったとも思うので、結局のところ、コミュニケーションの取り方に不足があったんでないの、という話になっちゃうんですが。
あ、フロー図自体には「great ideas」と賛意を貰えました。
ただ、実際問題として夏休みであるがゆえに話を進められなかったという事情もあったようで、Pennieさんは知り合いのコンサルタントにフロー図を見せて疑問点を確認したかったけど、まあ、当然その人も夏休みなのでもうちょっと待って欲しい、というようなメールが後ほど(連絡遅れてごめんなさい、とちょっとこちらが恐縮するほど丁寧な文面を添えて)送られてきたのでした。
ちなみにPennieさんご自身は夏休みでどこかの田舎に行ってたらしいです。この方、なんかメールの度に「旅から帰ってきたところよ」と書いてるので本業は旅人なのかもしれません。
さらに余談なんですが、Pennieさんはフロー図に載せたいらすとやさんの外国人女性のイラストをえらく気にいったみたいで
「I really like the cartoon Pennie in the flow chart! Thanks again for sharing your thoughts in an awesome way :) 」
というお褒めの言葉を頂きました。国境すら越えるいらすとやさんパワー、パネエッすわ。
まあ、モヤモヤしっぱなしの1ヶ月ではあったんですが、結論としては日本語版の製作スキームはほぼ了承して貰えたということで、ぼくは「よかったあああああああああ……」と肺の中の空気全部を吐き出すほどの安堵を覚えていたのです。
その時のメールには今年の春にL.C.ベイツミュージアムの新顔になったらしいボブキャットの写真が添付されていて、未だカード化されていないこの写真を送って貰えたことがPennieさんからの信頼の証のようにぼくには思えたのです。……なんかフラグくさい文章だなこれ。
ということで最大の懸念が晴れたぼくはウッキウキでPennieさんにメールを返信したのです。この時ぼくがどれだけウッキウキだったかというと……
「メールをありがとう。君がトラブルに巻き込まれているんじゃないかと心配してたよ。だけどぼくの心は今平穏に包まれているよ! 写真もありがとう。彼はとってもハンサムだね。ぼくの友達が彼の顔真似をしている風景を想像すると顔がにやけてくるよ。ところで君は初版から動物カードを増やすつもりなのかな? それは嬉しくもあるけど…… ワオ、困ったな、製作コストも上がっちゃうね!」
自分で書いてて「なんやコイツ……」と思わざるを得ないウザい書き出しで、ちょっと当時のぼくを殴ってやりたい気持ちが抑え切れません。
さて、これでようやく「Why the long face ?」の日本語版製作の合意が取れました。後ほど契約を取り交わしてからが正式な意味でのスタート、ということにはなりますが、実務的には日本語版をどのような形で出版するのか、より具体的な相談を始める場が整ったワケです。
ここでぼくはゲームマーケット2016秋への出展をPennieさんに提案しました。「日本では新作お披露目の機会としてゲームマーケットというイベントが年に3回あるよ」「そこに間に合わせられたらステキじゃない?」「まあ、間に合わなくても次のゲムマを目指せばいいんだけど」みたいな感じで。
ぼくとしては着地地点を決めることでスケジュール意識の共有を図るとともに、今回のような連絡の途絶を防ぎたい、という意図がありました。さすがに今回みたいなことが再発すると精神的にシンドいですし、催促するにも口実の一つもあった方がやりやすいワケです。
ちなみに12月11日のゲムマ出展に間に合わせるとなると、箱詰め作業やらを考えて11月末には現物が手元にあって欲しい。となると印刷に出すのは10月中旬から下旬がリミット。そしてこの日は8月25日。入稿データ作成に使える時間は最大で2ヶ月。そしてグラフィックデザインをお願いする人はこれから探さないといけない。結論としてはあんまり時間がない。
ということで、秋ゲムマに間に合うかどうかは、大きなトラブルがなかったらと仮定して確率的には70%くらいかなーと見積もっていました。そして多分、この確率は削られることはあっても、回復することはないでしょう。そんなこともあって今回のゲムマカタログのサークルカットには「『Why the long face ?』日本語版を出します!」とは書けなかったワケです。
「まあ、結構ハードワークにはなります」とPennieさんにはお伝えしました。でもまあ、Pennieさんからは「I think it's a great idea.」と了承を頂けたので、ここで日本語版をゲムマ秋に出展したい、という時期的な目標が定まりました。
さて、こうなれば、あとは手を動かすだけです。まあ、実際に汗を流すのはぼくというよりはグラフィックデザイナーさんなんですけども。
で、そのグラフィックデザイナーさんに作業をお願いするにしても、弄るためのデータがなければ作業は空転してしまいます。なので早速Pennieさんにゲームで使う画像データをください、とお願いしました。原版で使ったデータをそのまま貰えればいいですよと。しかし……
しかし、ぼくの手元にデータが届くのはそれから1ヶ月後のことになるのでした。 続きます。