2022年8月19日に「ウッドクラフト」の作者の一人であり、デリシャスゲームズの中心的人物であるウラジミール・スヒィによって「ウッドクラフト」のデザイナーノートがBGGに寄稿されました。今回、デリシャスゲームズから翻訳と公開の許諾を得ることができたため、数寄ゲームズブログにて、その内容を公開させて頂きます。
原文はこちら。
https://boardgamegeek.com/blogpost/135274/designer-diary-woodcraft-or-diary-glued-together-t
このデザイナーノートは前半をウラジミール・スヒィが、後半を共作者のロス・アルモンドが記述しています。一流デザイナーのデザインワークやその哲学を知ることができる機会は貴重と言えますし、本作におけるそれぞれの役割分担や、どのような経緯や試行錯誤を経て現在の形に結実したのか、その一端が伺える興味深い内容となっています。
2021年の1月、Ross Arnoldから「このゲームをDelicious Gamesに提案したいのだが、どうだろうか」というBGGメッセージを受け取りました。私たちはたいてい、試作品のテーマとメカニズムを簡単に確認したあと、「私たちはVladimírのゲームだけを出版する」や「今後2年の出版計画はすでに整っている」といった内容で返信します。どちらも本当のことです。
幸い、私にはまだ(今のところ)取りかかるべきアイディアがたくさんあるので、新たな試作品を熱心に探し求めてはいません。しかし、デザイナーとして考えると、1人のデザイナーが生み出すアイディアの範囲は限られているため、共同デザインはより多くのインスピレーションとモチベーションを得る優れた方法です。簡単に言えば、協力はより多くの“エネルギー”を新たな作品の設計プロセスにもたらすことができます。
RossはBGGのメッセージで「『ウッドクラフト』はユーロゲームだ」と言っていたので、彼にルールを送ってほしいと頼みました。それを読んでいるうちに、私はこのゲームの最も重要なメカニズムが、さまざまな種類の木材を表しているさまざまな色のダイスとワーカープレイスメントに基づいていることに気付きました。プレイヤーはこれらの木材を使って顧客の注文を履行する必要がありました。
このダイス操作メカニズムは、木工テーマと相まって魅力的だと感じました。どちらかというと、私は「マカオ」や「テケン」などの巧妙なダイスメカニズムを備えたゲームを楽しみます。「パルサー2849」を完成させたあと、私はダイスが非常に重要な役割を果たす別のゲームをデザインすることを検討していました。「ウッドクラフト」のルールとテーマは興味深く、“私たちの好みに近い”ものだったので、Rossに試作品の印刷データを送ってもらい、テストプレイできるようにしました。
それまで、私が共同でデザインしたのは「メッシーナ1347」だけでした。Rossの試作品を初めてプレイしたあと、初期段階の「メッシーナ1347」の試作品をテストしたときと似たような気持ちを覚えました。このゲームにはいくつかのいいアイディア――独創的なテーマ、資源としてダイスを使う手法、それらを(文字通りではなく、ゲームのテーマの範囲内で!)切断したり接着したりできること――が含まれていました。一方で、このゲームは楽しいものではありましたが、他方では、中心的なアクション選択メカニズムはワーカープレイスメントでした。これはよく知られており、よく使われているメカニズムで、傑出した創意工夫は何もありませんでした。
試作品を使っての最初の数回のテストプレイのあと、私たちの考えでは、ゲームの展開にもさらなる洗練が必要でした。(試作品における)プレイヤーの戦略として、まず多くの利益や能力を得て、そのあとで単に注文を履行して勝利点を獲得すべきだという流れが明白すぎて、これではゲームプレイがかなり単調になります。「ウッドクラフト」は、この段階では出版できる状態ではありませんでしたが、いくつかの調整とさらなるテストプレイのあとで出版できるものになる可能性が充分にあったので、Rossに協力を申し出ました。私たちはDelicious Gamesがこのゲームを出版するという約束をせずに共同デザインを提案しました。通常、私たちにとってゲームを出版するための決定要因はテストプレイヤーから肯定的な評価を得ることであり、当然ながらこの時点ではまだ得ていなかったからです。
前述のように、私はダイスを使うゲームが大好きなので、ゲームを改善する方法について多くのアイディアを持っていました。次の2ヶ月で、私は試作品を作り直せるような調整を提案しました。私はこのゲームの全体的なテーマを、森の中で自分の工房を建てるという話にすることを提案しました。プレイヤーはこの工房をよりよいものにしなければならず、そのために機能を拡充したり、新たな装置を購入したり、顧客の注文を履行するのに手を貸してくれる助手を雇ったりします。注文を履行するためにダイスを切断したり接着したりするという最高の主要メカニズムはそのまま活かし、独自の(ダイスで表されている)木材の入手源として木を育てるなど、他のいくつかのメカニズムを調整したり、追加したりしました。また、ゲームの流れを必要以上に複雑にしてしまうため、他のいくつかのメカニズムを削除しました。
さらに、主要なアクション選択メカニズムを、選択可能な7枚のアクションタイルから1枚を選ぶものに変更しました。選んだタイルは次の区画に移動し、選んだときにあった区画に応じてボーナスをもたらします。このメカニズムはゲームの最終版まで残っています。これまでは、アクションを選ぶ方法はワーカープレイスメントメカニズムの一種でしたが、このボーナスの選択・獲得方式によって、ゲームはよりダイナミックになりました。このメカニズムは機能しましたが、依然として面倒なタイル操作が必要であり、ボード上で明確に機能するようにするには修正が必要でした。テストプレイヤーからの意見に基づいて、私はアクション選択の中心システム全体を作り直し、一部のアクションでボーナスを得る方法を調整することにしました。私はデザインのこの部分を大変気に入っており、「ウッドクラフト」で使われている方法は、私の他のゲームで使われているどの方法とも違っていると考えています。
この中心メカニズムは、Rossによってさらにバランスが取られ、グラフィックデザイナーのMichal Peichlによって画像が調整されましたが、それ以降は最終版まで変わっていません。このメカニズムを実装してテストプレイしたあと、Rossと私は、このゲームの強力な基礎はできあがっており、次は副次的なメカニズムのバランスを取ることに集中しなければならないということで同意しました。
2021年の秋に、私は「ウッドクラフト」の追加の調整アイディアを思いつきましたが、まだ出版できる段階にはありませんでした。このゲームの開発にはまだ長い道のりがありましたが、アクション(およびボーナス)選択に関する革新的なシステムと、ダイスを利用する独特な手法という2つの中心的な概念を根拠として、私たち(Delicious Games)はこのゲームについて非常に強い前向きな気持ちを持っていました。このため、広範なテストプレイを始める前ではありましたが、私たちはこのゲームを2022年中に出版することに決めました。これは私たちにとって普通のことではありませんでしたが、それだけこのプロジェクトに自信があったのです。
デザインとバランス調整のあいだ、Rossとの意思疎通は極めて徹底的に行われました。新しいアイディア、テストプレイからの意見、さらに新しいアイディアを含む、250通以上のメールをやりとりしました。私は英語をまったく話せないので、私の側からの連絡は簡単ではありませんでしたが、この点でグーグル翻訳はうまく機能してくれたので、私はそれを使えたことに感謝しています。直近の2作、「メッシーナ1347」と「ウッドクラフト」を共同デザインすることができたのは、グーグル翻訳の助けがあったからこそです!
たとえるなら、この意思疎通の“大混乱”こそが、「ウッドクラフト」の大部分をデザインする方法でした。これにはプレイヤーがさまざまな道具で屋根裏部屋を埋める“道具コレクション”ミニゲームが含まれます。結局のところ、工房を運営するには道具が必要なのです! Rossはこのメカニズムを改善するアイディアを思いつきました。最初のアイディアは「ニュートン」のメカニズムの一つに少し似すぎていましたが、私は「ウッドクラフト」に別のメカニズムを追加するというこのアイディアが気に入りました。このアイディアと数多くのやり取りをもとにして、私たちはこのミニゲームの最終版を作成しました。
テストプレイの過程で、私たち(Delicious Games)はゲームの設定をより幻想的なものに変更することにしました。この設定では、プレイヤーは森の中で自らの工房を作り上げますが、森の人々や動物たちの助けを借ります。この種のテーマのゲームをまだ出版していなかったので、ファンタジーテーマは私たちのゲームのラインナップにちょうどいいものでした。ファンタジーテーマにすることで、ゲームにいくつかのメカニズムを実装するのも容易になりました。
ずらりと並んだ美しいイラスト、グラフィック、木製品は、私たちのグラフィックデザイナーであるMichalが生み出したものです。実用性の点で没になったものもありましたが、どれも大変に美しいものでした。
Ross Arnoldと私が共同でデザインした「ウッドクラフト」は、Spiel'22で発売されます。私たちがテストプレイとデザインの道のりすべてを楽しんだように、多くのプレイヤーがこのゲームを楽しんでくれることを願っています。
Vladimír Suchý
私が大好きないくつかのゲームのデザイナー、Vladimír Suchýが、私の試作品を気に入って協力したいと言ってくれたとき、私は有頂天になりました。ボードゲームのことをよく知らない両親に、私はこう説明しました――「父さん、これはスティーブン・スピルバーグが一緒に映画を作ろうって言ってくれてるようなものなんだ!」と。これは脱出ルームのデザインと製作が、2022年の第4四半期に発売される新たなゲームである「ウッドクラフト」にどのようにつながったかについての簡単な物語です。
2019年、私は脱出ルームのデザイナーとして働いており、厳しい締め切りと限られた資源で4つの新たな部屋を作っている真っ最中でした。私はいくつかの大道具の計画を立てていましたが、できるだけ効率的にしなければなりませんでした。可能な限り無駄を省いて仕上げるために、充分な木材があることを確認する必要がありました。このときに初めて、わたしは切断したり接着したりできる資源のアイディアを思いつきました。これは「ウッドクラフト」で使われている主要な資源システムです。
時間を6か月進めると、コロナの世界的流行が始まっていました。誰もが数週間で終息すると思っていたこの疫病により、私は数か月のあいだ仕事を休むことになりました。私は自分のボードゲームのアイディア、特にこのダイス操作のアイディアと、それをどのようにゲームに適合させるかについて、より深く掘り下げ始めました。
熱心な木工職人として、幅広いアイディアの多くが自然に生まれました。プレイヤーが最初に必要とするのは注文を与える顧客であり、それらの注文は指定の期限までに履行する必要があります。そこから、木材を必要な大きさに切断し、接着し、資源を管理するための道具が必要になります。
あなたはこれらの美しい品物を「ウッドクラフト」で作成することができます
当初は、各ラウンドは顧客の列から始まり、各プレイヤーは注文を履行するのにかかる日数を用いて秘密裏に入札しました。最短日数で入札したプレイヤーは最初に選ぶことができますが、締め切りが厳しいものになります。これはDelicious Gamesに送ったバージョンにさえ含まれていませんでしたが、今もゲームに残っている納期の仕組みを思いつくのに役立ちました。
私はアイディアを発展させながら、工房を改善する方法に集中しました。プレイヤーは工具店で新たな道具を購入したり、お金を節約して端材から独自の道具や治具を作ったり、地元の事業主と懇意になって、ボード上のさまざまなアクションスペースを改善したりすることができました。私はプレイヤーの工房を、仕事を成し遂げるために使えるさまざまな“レバーと滑車”で満たされた道具箱のようなものにしたかったのです。これは3つのワーカープレイスメントスペースにある3つのカードデッキの形で用意されました。
1年に渡って取り組んだあと、いくつもの変更、テストプレイ、問題解決を経て、「ウッドクラフト」はついに機能するゲームになりました。なおもゲームのテストと調整を行いながら、私は出版社に販売シートを送り始めました。私はいくつかの素晴らしい反応を得ました! それには、ある出版社との数回の打ち合わせも含まれます。私はそれにとても興奮しましたし、ゲームに興味を持ってもらえました――しかし、15分でルールを説明できるように単純化するよう頼まれました。私は少し悩みました。彼らと一緒に仕事をしたくもありましたが、自分がプレイしたいゲームを出版したくもあったのです。ゲームをうまく単純化して、それで様子を見てみることもできたでしょう。しかし、私は他の出版社に連絡を取り続けました。そのうちの1つがDelicious Gamesでした。彼らはルールブックを読むことに興味を示し、実際にゲームをプレイしてみたいと返信してくれたので、私は印刷してプレイするためのファイルを送り……待ちました。
ゲームをプレイしたあと、評価を添えたメールがVladimírから届きました。彼は「このゲームの出版に潜在的な興味はあるが、現在の形には興味がない。しかし、私(Vladimír)が共同デザイナーとしてあなたと共に作業し、現在の形から改善することをいとわないなら、このゲームがどうなるかを見届けることができるだろう」と言いました。これは私の最初のゲームであり、Vladimírは私が大好きないくつかのゲームのデザイナーなので、これは頭を悩ませる問題ではありませんでした。これは私が尊敬する人から学ぶ大きな機会であり、私はスタートを切ることを強く望んでいたのです。
数人の助手たち
私はVladimírが更新と変更を加えた版のゲームを送ってくれるのを待ち、それを紙とシリアルの箱から適当に作り上げて、できるだけ早くプレイしました。ゲームの一部は合理化され、他の部分は拡張されました。私は何度もゲームをプレイし、そこからメールをやり取りしてアイディア、評価、意見を共有し、4,000マイル離れた場所で同時にテストプレイを行いました。ゲームは私の元のバージョンから大きく変わり、Vladimírと私が共同で仕事をするにつれてさらに変わりました。しかし、それらすべての変更にもかかわらず、このゲームを作るために最初に腰を下ろしたときに望んでいたものができたことに、私は満足しました。
2年以上前に最初の試作品を作り、さらに14か月に渡るVladimirとの共同デザインを経て、「ウッドクラフト」は2ヶ月後のSPIEL'22で発売されます。私はこの過程で多くのことを学びました。このゲームを皆さんと共有できることほど誇らしく、わくわくすることは他にありません。
Ross Arnold
追伸:言語の修正をしてくれたMike Pooleに感謝します。