数寄ゲームズは、滅亡する地球から避難して新天地に移住する戦略ゲーム「エヴァキュエーション」を発売します。プレイ人数1-4人、対象年齢12歳以上、プレイ時間60−150分で、小売希望価格は税込9900円となります。
4月27日のゲームマーケット2024春にて先行発売を行い、その後、数寄ゲームズ通販サイトでの販売や全国のボードゲームショップさんへのご案内、流通を予定しております。
「エヴァキュエーション」は「アンダーウォーターシティーズ」「プラハ 王国の首都」などで知られるウラジミール・スヒィの最新作となります。スヒィさんは「メッシーナ1347」「ウッドクラフト」と新人デザイナーとの共作が続いていましたが、今回は久々の単独デザイン作品となります。「メッシーナ1347」「ウッドクラフト」は優れたシステムだけに留まらずテーマとの親和性も高く評価された2作ですが、「エヴァキュエーション」もその流れを受け継いで、インパクトのある舞台設定によってプレイヤーがやるべきことを明瞭に提示した作りとなっています。
とは言え、「エヴァキュエーション」はこれまでのスヒィ作品とは相当にゲーム力学が異なる仕上がりとなっています。様々な作品を世に問うてきたスヒィさんですが、過去のどのタイトルとも似つかない独自の魅力を備えた作品となっていますので、その特徴を今回の記事ではご紹介したいと思っています。
◆旧世界と新世界、人類の命運を賭けた地球規模のお引越し
このゲームの背景設定は、太陽の膨張により、地球の表面が焼け焦げるという強烈な……昨今の激烈な気候変動を彷彿とさせる物語から始まります。地球滅亡までの猶予はわずか4年! もちろんこれはゲーム上で設定された便宜的な"年(ラウンド)"なのですが、残り僅かな時間の中で、プレイヤーは滅亡を間近に控えた地球から新天地へと人々や文明を避難させなければならないのです。
そうした舞台設定をゲーム上では旧世界、新世界という2つの"場"として構築し、この2つの世界を断絶させることで、新世界への移住という難題を表現しています。
ゲーム開始時、旧世界にはこれまでの人類の成果でもある多くの工場が林立しているため、様々な資源が自動的に生産される環境が整っています。そして、プレイヤーはこの資源を使って技術を開発し、宇宙船を建造し、工場プラントや人々や資源を新世界に輸送しなければなりません。
一方、新世界には資源を生み出す工場や施設はまったくなく、すべて1から作り上げなげればなりません。旧世界から運び込まれた工場プラントや人々を入植させることで、新世界は徐々に生産力を高め、やがて旧世界から独り立ちしていきます。
つまり、このゲームは旧世界での縮小再生産と、新世界での拡大再生産が同時並行で進むゲームと表現できます。拡大再生産は多くのゲームで見ることができる人気のメカニクスではありますが、一方で縮小再生産は快感に乏しい原理からなかなかうまく行った成功例が見当たりません。
興味深くはあるが快感原則に反する縮小再生産をどう取り扱うのが正解なのか、という問いに対して、拡大再生産を同時に行えばええんや! という回答は、理に適った新しい提案と言えましょう(天才型主人公とその兄貴分(ただし途中で死ぬ)のダブル主人公型アニメみたいな)。
その試みによって「エヴァキュエーション」は非常に独特なリソース管理ゲームとして完成しています。このゲームの原理として、資源を支払って何かを得る場合、「資源の支払い元と獲得するものは常に同じ世界でなければならない」という原則があります。
基本ゲームの勝利条件の1つとして「新世界にスタジアムを3件建てる」という目標があるのですが、この目標を達成するためには「新世界で資源を支払って新世界にスタジアムを建設する」か「旧世界で資源を支払って旧世界にスタジアムを建設し、のちにスタジアムを新世界に輸送する」の2つの方法があるわけです。
ゲームの序盤であれば、資源の豊富な旧世界でスタジアムを建て、それを輸送するほうが確実でしょう。しかし、新世界が発展してからは、輸送の手間を削減できる新世界でスタジアムを直接建設した方が手っ取り早いかもしれません。
同じ1資源であっても新世界と旧世界のどちらにあるかで全く価値が異なる独特のエコシステムはいつもと違う脳の部位を刺激してくれます。
ゲームに慣れないうちはこの資源のやりくりに戸惑う部分も少なくないかとは思いますが「旧世界で資源を払ったら旧世界で得る。新世界で資源を支払ったら新世界で得る」という根本原理さえ抑えれば、そうそう混乱はないでしょう(とは言え、旧世界に資源があるのに新世界に資源がない、という状況が頻発するゲームなので、ついつい旧世界の資源を支払って新世界での買い物ができないものかと考えてしまうんですね)。
リソースの種類も使い道も簡潔で絞られてはいるので1つの世界をミスなく回すのは全く難しい話ではありません。しかし、これが同時に2つ並行処理を求められると途端に難度が跳ね上がるのがゲームデザインの面白いところです。これって宮本茂のいうゲームの面白さの作り方そのものなんですよね。
https://www.nintendo.co.jp/wii/interview/smnj/vol1/index.html
やるべきことはわかりやすい。でも、実際にやり遂げるのは難しい。「エヴァキュエーション」の2つの世界という組み立ては、ゲームバランスの目指すべき理想を的確に実現しているスジのいいゲームデザインと言えます。
◆早取りのストレス皆無? 独立性の高いアクション選択システム
「エヴァキュエーション」にはいくつかのゲームオプションが用意されているのですが、初回プレイでは「レースモード」が推奨されています。これはいずれかのプレイヤーが「新世界に3件のスタジアムを建設し、3種の資源の生産量を8以上にする」条件を満たしたら終了トリガーが引かれるサドンデス形式のゲームモードで、ゲーム全体の流れ、大枠を掴むのに適しています。
ゴールが明確に設定されているため、後はどのようなルートを通ってゴールに到達すればいいかを考えればいいわけです。
手番では個人ボードの下部に列挙されているアクションスロットから一つを選び、アクションカードを差し込んでアクションを実行します。アクションの実行にはエネルギーを支払う必要があり、エネルギーを支払える限り、ラウンド中に何回でもアクションを実行することができます(といっても1ラウンドで実行できるアクション数は4-5回程度でしょうか)。
この手のゲームとしてちょっと変わっているのは同じアクションを複数回重ねて実行することもできる点です。ただし、同じスロットのアクションを4回以上選ぶとエネルギーを追加で1つ支払わないといけません。
また、アクションはワーカープレイスメントなどの早取りではないので、やりたいアクションを他プレイヤーに先に取られて歯噛みするといったストレスがありません。アクション選択の縛りが相当にゆるい作りで、基本的に他者の干渉によって計画が狂う場面が少ないストレスレスで独立性の高いエンジンと言えます。
これまでスヒィさんのゲームでは「アンダーウォーターシティーズ」「メッシーナ1347」で見られるワーカープレイスメントや、「プラハ 王国の首都」「ウッドクラフト」で見られるダッチオークションのどちらかに属するアクション選択システムを採用していたのですが、「エヴァキュエーション」はその両者にも属さない、独自性の高いアクション選択システムを採用しています。
その分、手元の経済パズルに集中できる作りになっていて、スヒィ諸作の中でもかなりハッキリとした「内向きのゲーム」となっています。これまでのスヒィ作品の中では「アンダーウォーターシティーズ」が内向き度が高いゲームではありましたが、「エヴァキュエーション」はそれ以上に内向き度が強いタイトルと言えるのではないかなと思います。
ただ、アクション選択におけるプレイヤー間の相互干渉は薄いものの、多人数ソロパズルに堕してはいません。例えば、新世界の入植は割のいい土地から埋まっていく早取り要素があるので、手番順はかなり重要です。陣取り要素とまではいかないのですが、お目当ての土地を抑えるためには人の動きを常に気にかける必要があります。
人類の入植地となる新世界にはツンドラ、砂漠、森、海の4つの環境があり、ゲーム開始当初は極寒のツンドラにしか入植できない人類も、スイングバイのような見た目の「進展トラック」を進めることによって新たな環境に入植できる力を身に着けていきます。
基本的にはこの進展トラックを進めば進むほど新しい環境、より効率的な入植が可能になるのですが、この進展トラックを進めるために必要なのが「パワーレベル」です。
パワーレベルは各アクションスロットに設定されており、アクション自体の強さとパワーレベルは逆相関関係にあります。強いアクションはパワーレベルが低く、弱いアクションはパワーレベルが強く設定されているのです。そのため、進展トラックを進めるためには敢えて弱いアクションを選択しなければならないジレンマがあります。
また、進展トラックには様々なボーナスが用意されていて、このボーナスは手番順の早取りになっています。このボーナスによって次ラウンドの入植可能な土地が決まるので、手番順は非常に重要です。
基本的には多数派の逆張りをすると立ち回りがラクになるので、多数派が進展トラックを積極的に進めるのであれば抑え気味に動き、逆に多数派が強アクションを連打して進展トラックを軽視するようであれば一人で飛び出す動きが強いのではないかと思います。
また、アクションのパワーレベルがボーナス値と一致するとボーナスフェイズで利益を得ることができます(条件を緩和する選択ルールもあり)。ここで得られるボーナスはかなり魅力的なので、ボーナスを狙うかどうかも重要なポイントです。
結果として、実行するアクションの内容だけにとどまらず「進展トラックをどの程度進めるか」「ボーナスを狙うか否か」まで含めて選択するアクションを考慮する必要があり、やりたいアクションを単純に選ぶだけではうまくいかないようになっています。これもまた「ひとつひとつはカンタンにできることを2つ同時にやろうとすると難しい」という好例ですね。ディレクションの根底に流れる理屈には常に妥当性があり、ゲームデザインの説得力に繋がっています。
◆「その技術強すぎない!?」 各人異なる技術タイルを使いこなせ!
スヒィ作品は常々プレイヤーに新しい能力を付与する強化&成長要素があり、どのように戦略を選択するかで毎回悩ませてくれるのですが、「エヴァキュエーション」ではそれは「技術タイル」という形で実装されています。
この技術タイル、各プレイヤーごとにそれぞれ内容が異なる9枚の1セットが配られます。技術タイルの中には各セット共通の技術もあるものの、ほとんどがユニークで非対称性が強い作りと言えます。
技術タイルにはLv1、Lv2、Lv3の3種があり、最下段にあるLv1の技術タイルを完成させると、その直上にあるLv2技術タイルの研究に着手できるようになります。同じようにLv2技術タイルを完成させるとその直上のLv3タイルの研究を始められるので…… つまり、技術タイルの並び順は言わば簡易テックツリーとなっています。
この並び順はセットアップの際にランダムに決まるので、特定の技術を選択したいけれど、前提技術はイマイチだな…… みたいな場面が往々にしてあります。技術の並び順を見て今回はこれでこれでこうかな?と戦略を練るのは楽しい時間になるでしょう。
また、基本的には技術には目を疑うような強烈な効果が記載されています。他プレイヤーの完成させた技術の効果に「ウソでしょ!?」と言ってしまうこともしばしば。実際、技術の効能は強力で全部の技術を完成させたくもなるのですが、ここがスヒィ作品あるあるで技術の研究に手を割きすぎて勝利が遠のくことも多いので、どの技術経路を拾ってどの技術経路を断念するかの取捨選択が重要になります。
◆得点モード、上級カードアクションルール、各種モジュール
さて、ここまで「エヴァキュエーション」の特徴として「他者からの干渉が薄く、ゲーム終了までの道筋が明確である」ことを美点として語ってきましたが、実はこの美点はひっくり返すと欠点にもなります。
「ゲーム終了までの道筋が明確である」ということは言い換えると「選択すべきアクションの組み合わせはほぼ決まっている」ということでもあり、「他者からの干渉が薄い」ということは「計画を崩されるアクシデントも少ない」ということでもあります。
そのため、ある程度ゲームに慣れた人が1度遊べば、この順序でアクションを選択すれば形になるんじゃないか、という見通しが大方つくと思います。「スタジアムはゲーム開始時に1件持っているので、残り2件を建設するために2手番は割かなければならない。4回しかない輸送の機会を活かすために宇宙船は2隻は必要なのでこの建設にも2手番が必要。では、残りの約16手番をどのように割り振るかというと……」というように演繹的に必要なアクションを割り出すのはそれほど難しいことではありません。一見強力な効果ばかりに見える研究アクションも手数を考えると選択できる回数は実はそれほど多くないこともわかります(それよりは得点行動を優先したほうがいい)。
「底が見える」という表現をぼくはよく使うのですが、1回のプレイでゲーム力学の奥底が見通せるデザインのゲームは少なくありません。で、一度遊ぶと「エヴァキュエーション」もそうした「底が見えるゲーム」っぽいところがあるのです。
実際、ぼくも最初はそう思っていました…… が、実は経験者用の「上級カードアクションルール」と「得点モード」を選択すると、この辺の様相はガラリと変わります。
基本ルールの「レースモード」は、要は勝利条件達成に向けて約20手番をどう振り分けるかのゲームだったのですが、「上級カードアクションルール」では、プレイヤーは4枚のアクションカードを持ち、通常アクションの代わりにカードのアクションを実行することもできます。アクションカードは通常アクションの1手番1アクションの原則をぶち壊して1手番で2アクションを実行できるようなパワーレベルカードが多く含まれているため、条件達成までの経路が爆発的に増大します。自分で引いて「こんなのあるの!?」と叫んだり、他人がプレイして「それ強すぎない!?」と叫んだり、とにかくヤンチャな内容のカードばかりです。
ただ、アクションが強いということは進展トラックを進めるためのパワーレベルは低いということでもあり、強いアクションに頼ってばかりいるといつまでも入植効率は悪いままという仕組みがよくできているところです。強力なアクションカードをついつい使いたくなってしまうのが人情ですが、勝つためには全体のバランスを考慮しなくてはなりません。
また、カードを引いてアクションを行うゲームと言えば「アンダーウォーターシティーズ」を連想しますが、「アンダーウォーターシティーズ」は「欲しい色のカードを引いて嬉しい!」「欲しい色のカードが引けなくて苦しい!」といった射幸心に訴えかけるデザインなのに対して、「エヴァキュエーション」のカードは「なんだこれ強いぞ!?」というシンプルな驚きが強く、印象としては全く異なります。「エヴァキュエーション」では通常アクションでゲームの進行に必要なアクションがすでに網羅されているため、カードの引きで手詰まりになることはありませんし、カードプールもごちゃ混ぜでそもそも何を期待していいかわからないので素直にカードドローの結果を楽しめるということもあるのでしょう。
そんなワケで一口に同じアクションカードという括りでも、それがもたらすゲーム体験は全く違うところが面白いところです。繰り返しになるんですが、「エヴァキュエーション」はスヒィさんの過去作に似てるようで全然似てないゲームです。
また、「得点モード」では4ラウンド終了フルプレイの後に、それぞれドラフトで獲得した目的カードに応じた得点を得るゲームに変貌します。こうなると終了条件に縛られることなく、特定の得点源を最大化するための尖ったプレイが許されるようになるのです。
とは言え、それぞれの目的カードがどれくらいの点数を稼ぎ出すかを推測できないと目的カードのドラフトが覚束ないので、やはり初回は「レースモード」から入ったほうがいいかもしれません(または初回プレイ用得点モード用の目的カードセットとかを考案してもいいのかも)。
初回プレイ推奨のレースモードはサドンデス形式のため、拡大再生産が最高に盛り上がる最終ラウンドの潤沢な資源を使い切れないままゲームが終了するパターンもままあります。より多くの資源を稼ぐのではなく、より早くゴールテープを切るプレイングこそが「うまいゲームプレイ」ではあるのですが、最後までやりきることが好きな人もいるかと思いますので、ここは好みで選んでもいいのかなと思います。
長々と色々言ってきましたが、つまりぼくが強く言いたいのは「エヴァキュエーション」は初回プレイで底の見えるゲームではないということです。ぜひ「得点モード」と「上級カードアクションルール」まで試してみて欲しいと言いたいのです。
タイパが重要視される昨今において、1回のプレイのみならず2回、3回と遊んでようやく真価が見えるゲームですよ、とお伝えするのは却って欠点と捉えられてしまう恐れも孕んではいるのですが、それでもこのゲームは1回遊ぶことで見えてくる底は偽りの底であり、二番底、三番底がその奥深くに存在するということを前もって伝えておかないと誤解を招きやすいゲーム構造にはなっていると思うのです。
前作の「ウッドクラフト」は追加ルールが一切ない、基本ルール一本槍という潔い構成で、こうした構成であれば底の有無で誤解が生じることはありません。ただ、「ウッドクラフト」はそれなりの手練れでも「何をしたら勝てるかわからん!」となることも稀ではない高難度のゲームではありまして(頭をぶん殴られる衝撃でアレはアレでよかったんですが)、それが長所でもあり、短所でもありました。
「エヴァキュエーション」では打って変わって、様々な選択ルールとモジュールが実装されています。これは段階を追ってゲームに習熟する導線にはなっているものの、ゲームの奥底が誤解されやすいという弱点も抱えています。「拡張ルールを使っても、大体同じでしょ?」という思い込みというか。
なので今、ぼくはハッキリと「このゲームは2回目以降が本番ですよ!」とお伝えしておきます。1回遊んだだけで理解した気になるにはあまりにもったいないゲームだとぼく自身が感じたからです。
とは言え、初回プレイが全く実りのないゲームかと言えばそうではなく、しっかりとしたわかりやすい目標設定の元で独特なリソース管理に頭を悩ませるだけでも十分な面白いんです。まあ、だからこそ、却って初回プレイで納得してしまうという側面もあるんですが…… 基本ルールだけで満足感のあるゲームにはなってるんですよね。
じゃあ、初回から「上級カードアクションルール」から遊べばいいのかというと、それはまたちょっと違ってて、基本ルールで遊んだ初回プレイの経験を元に上級カードアクションルールを遊ぶとその温度差で風邪を引くんじゃないかと思うほどに笑えるので、順序を追って遊ぶのが一番価値の高いプレイ体験になるのではないかと思います。
また、他にも得点条件を追加するモジュールも複数用意されているので、色々な組み合わせで楽しんでほしいなと思っています。こちらはさすがにゲーム体験が大きく変わるほどではなく、味変くらいの位置づけではありますが。
◆新しい挑戦が、やがて至高の体験へ開花する
実際のところ、「エヴァキュエーション」は他のゲームには見られない変わった要素が多く盛り込まれているため、初回のプレイフィールは「気持ちよさ」よりも「気持ち悪さ」が勝るところがあるかもしれません。遊びやすいゲームが世に溢れている昨今において、直観的ではない処理が含まれるのは明確に弱点ではあります。
しかしながら、ゲームデザインの奥深さは現実原則を飛び越えた空間にこそ存在します。最近、本当に多い「すんなりプレイできるけど遊んだ後に何も残らない」タイプのゲームに対して「エヴァキュエーション」はそれとは全く真逆の「プレイヤーの直感に反してでも心にインパクトをねじ込む」タイプのゲームです。一貫してそうしたゲームを作り続けているのがウラジミール・スヒィというデザイナーへの信頼でもあります。
2回、3回とゲームを繰り返していくことで「エヴァキュエーション」の世界に徐々に「馴染んでいく」ようになっています。そうなれば待ち構えているのはアクションの組み合わせによるめくるめく快感の世界です。これから遊ばれる皆様には上級アクションカードのぶっ飛び具合と初期方針を貫徹せねばという自制心との葛藤をぜひ味わってほしいです。
用意されている様々な追加ルールの存在もそうですが、技術タイルの非対称性の強さも、繰り返し遊んで欲しいというメッセージを感じます。次は違う技術セットを使ってみたいなと思わせる力があります。
スヒィさんの作品の中で最も遊びにくい作品なのかと問われると、「ウッドクラフト」や「プラハ 王国の首都」の例があるので、それほどでもないかな、となるのは、まあ、なんというか業の深い作者だなとは思うのですが、プレイフィール自体も重すぎるということはなく、重ゲーに求めるちょうどいい負荷量を与えてくれるゲームだと思いますので、期待を裏切ることはないかと思います。
なので、繰り返しになりますが、初回プレイだけで見極めたつもりになるのは本当に損なタイトルなので、ぜひ用意されている要素すべてをしゃぶり尽くして頂きたいなと思っています。ウラジミール・スヒィという人は骨太さと華やかさとランダム性と競技性をハイレベルに整えることができる稀有なゲームデザイナーであり、この「エヴァキュエーション」も新時代のニーズに合わせた新たな一歩だと思っています。
エヴァキュエーション
プレイ人数:1-4人
対象年齢:12歳以上
プレイ時間:60-150分
ゲームデザイン:Vladimir Suchy
アートワーク:Michal Peichl
小売希望価格:9900円(税込)
ラベル:エヴァキュエーション