2023年01月13日

ゲーム紹介「シュティッヒルン」



 数寄ゲームズはKlaus Paleschデザインのメイフォローのトリックテイキングゲーム「シュティッヒルン」を発売します。プレイ人数3-6人、対象年齢10歳以上、プレイ時間30分で、小売希望価格は税込1980円となります。

 1月14日より数寄ゲームズ通販サイトにて先行予約を行い、その後、全国のボードゲームショップさんへのご案内、流通を予定しております。


 さて、数寄ゲームズでは世界の名作トリックテイキングゲームを集中的に取り扱っていまして、この「シュティッヒルン」はその第7弾という位置づけになります。数寄ゲームズ名作トリテシリーズをおさらいしますと、

000:ボトルインプ
001:知略悪略
002:トランプ、トリックス、ゲーム!
003:地下迷宮と5つの部族
004:ブードゥープリンス
005:乗り間違い
006:パーラ
007:シュティッヒルン

 ……という並びになります。面白いゲームしかないですね! 今回「ボトルインプ」は小箱版として再販が決まり、晴れてナンバリングを付加することができました。

 さて、このシリーズで言えば、「シュティッヒルン」は「知略悪略」の作者Klaus Paleschの作品でもあり、両作は似通う部分も多々あります。しかしながら「知略悪略」が「言わば知る人ぞ知る名作ゲーム」だったのに対して「シュティッヒルン」は「発売から30年間遊ばれているベストセラーゲーム」という位置づけであり、両作の立場・認知度は大きく異なっていると言えましょう。

 名作トリテシリーズは世界的な絶版タイトルを扱うことが割と多いのですが、この「シュティッヒルン」に関しては英語版やドイツ語版は現在も流通していて、これらのタイトルの中では圧倒的に入手が容易なタイトルではあります(「ブードゥープリンス」も今やドイツでは絶版だったりします)。

 しかしながら、そんなクラシックタイトルであっても、これまで日本語版が出版されたことがなく、手軽に買い求められない現状はよろしくないなーとは常々思っていました。そこで「知略悪略」を出版した縁から作者Klaus Paleschに「シュティッヒルン」の日本語版出版を打診し、色々あって今に至るという形になります。

 実は着手したのは「乗り間違い」や「パーラ」よりも先だったんですけども、これも長々と時間がかかりましてようやく形にすることができました。そういったタイトルが重なったこともありまして、「乗り間違い」「パーラ」「シュティッヒルン」と出版が相次ぐ事態になっております。


◆愉快で美しい完璧なメイフォローのゲーム

 さて、この「シュティッヒルン」の最たる特徴。それはもう完璧なメイフォローのトリテであるという点に尽きるかと思います。

 トリテ界隈にはマストフォロー、メイフォローといった用語があります。これはカードプレイの縛りを意味する言葉で、マストフォローは「最初にプレイされたカードと同スートのカードをなるべく出さないといけないよ」という意味の言葉ですが、翻ってメイフォローとは「同スートのカードを出す場合もあるよ」くらいの意味の言葉です。

 作者のKlaus Paleschは「シュティッヒルン」の他にも「知略悪略」や「ハットトリック」と言ったメイフォローのゲームを作っているのですが、カードプレイに独自の縛りがあったりします。「知略悪略」では4色目のカードはプレイしてはいけない、といった感じですね。

 で、「シュティッヒルン」はこうした付帯条件みたいなものがまっっったくない完全なメイフォローのゲームなのです。ここにどんな価値があるかと言えば、まずルール説明がラクです! マストフォローのゲームに比べて圧倒的にラク!


 手番順にカード1枚を表向きにプレイします。全員がカードをプレイしたら勝敗を判定して、勝った人がカードを総取りします。それだけ! 終わり!


 フォローできる場合とできない場合でどーのこーのとか、切り札がある場合とない場合でどーのこーのとかが取ったカードの配分がどーのこーのとかまったくない。ルールブックもめちゃ簡単でシンプルです。

 日頃めんどくさいトリテばっかり出版してる身でこんなことを言ってしまうのは身も蓋もないんですけども、ルールは簡単なほうが絶対にいいんですよ! 遊ぶ側も説明する側にもメリットしかない!


 もちろん、ゲームを成立させるために必要最低限のルール量というものはあり、独自の面白さを創出するためにルールを書き足していく必要性はあります。それは確かです。トリテで言えば「パーラ」なんかは、まさにそういうゲームですし、基本的にぼくはインストに30分以上かかるような重量級ゲーム大好き人間なのです。

 が、この「シュティッヒルン」は削りに削ったゲームであって、必要最低限のルール量で最高効率の面白さを発揮しているゲームなのです。そりゃ30年間遊ばれるゲームだわなという貫禄を備えています。


 遊ぶ上で必要なルールとしてはあとは3つくらいですかね。

・ディールの初めに全員同時にカード1枚を選んで失点色を決める。その色のカードを獲得したらランクに等しい失点、それ以外の色のカードを獲得したら1枚1点。
・各トリックでは、最初にプレイされたカード色が最弱となり、それ以外のカード色があれば、その中でランクの一番高いカードが最強(同値は先出し勝ち)。トリックに勝った人が次のリードプレイヤーになる。
・0のカードだけは特殊なカードで、これは必ず負け。全員が0を出したらそのトリックはお流れ。


 ……こんなもんじゃないかなマジで。で、これでゲームが成り立っているのかと言えば、驚くことに成り立ってるんですよこれが。

 このゲーム、得点は獲得したカード1枚1点なのでチマチマとしか入らないんですけども、失点はランクに等しい分だけドカッと食らうんで、いかに大きな失点を避けつつこまかく得点していくか、実にテクニカルなゲームなんですよね。相手のアッパーを避けつつボディボディボディ! みたいな。

 で、それだと地味渋いゲームなのかなと思うんですけども、手札の綾で避けられなかったアッパーで一発KOみたいな見せ場もあって、チマチマチマチマ……ドッカーン! みたいな静と動のメリハリがすごく強いゲームなんですよね。

 全員が不慣れだとドッカーンドッカーンドッカーンみたいな展開もあるにはあります。ゲームに慣れるにつれて致命傷を避けるためのテクニックを覚えていくので地味寄りに推移していきますが、攻撃をただ避け続けるだけでは得点を得られないのでどこで勇気を出して得点にチャレンジしていくかが試されるゲームになっていきます。逃げれば1つ、進めば2つ。


 ぼくはこのゲームを「勇気が必要なゲーム」と呼んでいます。砲撃の雨の中、塹壕に引きこもりつつ、勝つために撃って出る。そのタイミングを見極めるゲームとも言えます。このリターンを得るためにリスクを取るという構造こそがまさにゲームだなと思わされるんですよね。

 もちろん、運悪くボッコボコにされることもあるゲームなので、人によっては心に大きなキズを負う可能性もあるゲームとは言えます。ですが、このゲームは「痛くなければ覚えませぬ」というゲームでもありまして、その痛みは必ず次のゲームで役立つのです。

 なので、このゲームはできれば最低2ディール、可能なら3ディールでも4ディールでもいいので、複数ディール繰り返して遊んでほしいんです。最初は脇が甘くてうっかりで地雷を踏み抜いていた新米兵士がいつの間にか酸いも甘いも噛み分けたシュティッヒルンソルジャーに成長していくのは傍で見ててもめちゃ面白いんですよ。


 蛇足ながら、ぼくは長野にいた頃に「シュティッヒルン」だけを何時間も延々と遊び続けたことがありまして、それが今回の日本語版出版の動機の一つになってもいるんですけども、いつまでもダラダラと遊べてしまうポテンシャルを持ったゲームと言えます。それも全てはプレイヤーへのルール量の負荷の小ささと、メイフォローならではの選択肢の広さ、局面の豊富さ、小技を差し込む余地のある懐の深さがなせる業なのかなと思っています。


 一方で30年前のゲーム(言わば「カタン」以前のゲームです)ともなると今のゲームのような気遣いや心配りはないというか、手札運の強弱が素直に勝敗に直結するゲームではあります。手札で勝負の良し悪しが見えるというか運7割、技術3割なゲームです。

 なので、「初めて遊んだら悪い手札で何もできずボロ負け」というトラウマ製造機的な側面もあったりするんですけども、そこは「君が悪いんじゃなくて手札が悪いだけだから!」とちょこっとフォローしてあげてほしいなと思っています。それだけ尖っているというか、ソリッドなゲームではあります。

 ただ、何ディールも繰り返し遊んでみると上手い人はやっぱり上手いことがわかったりもして、技術の介入する余地のあるゲームなのは確かなんですね。このゲーム、基本的にプラス点になることはないゲームだと思っている方もいるかもしれませんが、慣れてくるとコンスタントにプラス点が出せたりします。

 ゲームのちょっとしたコツを言えば、2番手のプレイヤーは物凄く危険です。では、2番手になるのを避けるにはどうしたらいいかというと、自分の右隣のプレイヤーにとっての失点色をプレイすれば2番手になる可能性を抑えられるワケです。なんでもカードを出せるメイフォローならではの考え方ですね。

 基本的に最後手番だったり最後から2番目のプレイヤーが得点チャンスを持っているプレイヤーです。自分をその場所に持ってこれるように立ち回れると得点チャンスが俄然増えることでしょう。

 とまあ、そんな感じの細かいテクニックが色々とあるゲームです。手札運は確実にありますけども、手札運だけでは片付かないゲームなので色々と研究してみてほしいですね。


◆非トリテとトリテの世界を繋げるゲーム

 いつにもなくベタ褒めなんですけども、正直な話、「シュティッヒルン」は完璧なゲームだからです。完璧なので仕方ない。

 何が完璧かと言えば、トリテのトの字を知らなくても普通のカードゲームとして遊べてしまうゲームだからです。事実、ぼくは「シュティッヒルン」をBSW(うーん、懐かしい響き)で初めて遊んだですけども、その時のトリテの知識は0%でした。それでも問題なく遊べますし、地雷だけ避けてなんとかうまいこと得点だけしようという楽しさもわかるワケです。

 なので、「このゲームを数寄ゲームズのトリテシリーズに含めていいのか!?」という葛藤すら実はあるんですよね。別にトリテの枠に押し込む必要はないじゃん、もっと単純に「面白いカードゲームですよ」っていうだけで十分じゃんという。

 もちろん、このゲーム、ルールブックを読むとトリテの文脈から作られたゲームであることがわかりますし、トリテ知識があれば「逆切り札」みたいな表現をすることでゲームの構造が理解しやすくなるので、やはりトリテの文法を踏まえたゲームではあるんです。

 なので、個人的には「シュティッヒルン」はトリテと非トリテの世界を繋げてくれるタイトルなのではないかなと思っています。そして、今まさに必要なのはそうしたタイトルなのです。


 というのは、自分の接客経験からすると「何か面白いカードゲームが欲しいんだけど……」というお客さんにトリテを薦めるのは結構躊躇われるんですよね。でも「シュティッヒルン」であれば、全く臆することなく推していけます。必要な前提知識が全くないのはそれだけ強いです。で、そこから「シュティッヒルンが面白かったので似たようなゲームを探しています」という人が出てくれば、そこからトリテの世界に繋げていくこともできるワケです。

 そういう価値を有したゲームなので、このゲームの出版はとても重要なポイントだと考えています。トリテの世界を知った人が探す定番トリテはいくつかありますが、さらにその前段階、トリテに繋がる定番カードゲームって中々なかったんじゃないかなと思うんです。

 なので、これから「シュティッヒルン」を発売できることにすごくワクワクしています。まだ触ったことがない方はぜひ遊んでみて頂きたいです。


 10年くらいボドゲを遊んでいる人であれば、「シュティッヒルン」はどこかで一度は触ったことがあるくらいの定番タイトルではあるんですけども、最近ボドゲを遊び始めた人にとっては意外と縁遠いタイトルでもあるとは思います。まあ、出版されるタイトル数がめちゃ増えてる昨今、海外のみで流通しているタイトルを積極的に探しに行かなくてもよくなりましたしね。

 でも、遊んだ経験のある人でも、改めて遊んでみると「あれ、これどうするんだっけ?」ってなるタイトルでもあります。やはり普通のトリテとは構造がまったく異なるゲームなので考えどころが全然違うんですよね。

 昔遊んだトリテを久しぶりに遊んでみると「あれ、これってこんなに面白かったっけ?」って言う人、周りで結構多いんですよね。どうも、トリテを遊んでいるとトリテ力って自然と上がっていくみたいなんです。「シュティッヒルン」はクラシカルなタイトルではありますが、改めて遊んでみることで新しい楽しさに気づくことがあるかもしれません。長らく遊んでいないなーという方も久しぶりに手にとってもらえると嬉しいです。


◆日本語版独自のバリアントルール&数寄ゲームズ通販特典

 さて、今回の「シュティッヒルン」日本語版はNSVから発売されているドイツ語版をベースにしています。「シュティッヒルン」はいくつかのバージョンがあるんですけども、箱と説明書を日本語化した点を除いてNSV版と同一と考えていただければと思います(印刷工場も同じ)。なので、すでにNSV版をお持ちの方が買い替えるほどのことはないかなーと思っています。

 ただ、日本語版では作者から提案されたバリアントルール1つを独自に加えています。アミーゴ版「シュティッヒルン」では5つのバリアントルールが掲載されていましたが、今回の日本語版バリアントルールはそれらとは異なるものです。非常に手応えのあるルールなので、ぜひ試してみてください。

 また、数寄ゲームズ通販サイトでの直販分に限り、アミーゴ版で掲載されたバリアントルール5種を含む6種のバリアントルールが掲載されたバリアントルールカードをお付けいたします。色々な楽しみ方ができてプレイバリューがグッと高まりますので、ぜひ数寄ゲームズ通販サイトもご利用いただければと思います。


 あと、話は逸れますが「シュティッヒルン」と言えば「ハットトリック」。アミーゴ版では「シュティッヒルン」を使って同作者の「ハットトリック」も遊ぶことができるよという作りだったので、「アミーゴ版ベースの2in1スタイルで制作できないか?」と作者には問い合わせたのですが、現在の「シュティッヒルン」の版権はNSVが持っているため断念せざるを得ず、NSVベースの仕様で制作しています。はい、昔からの人が言い出しそうなことは当然問い合わせてるんですよ!

 そうした事情もあり、箱のサイズも数寄ゲームズのトリテシリーズとはやや異なるNSVサイズとなります。ここは個人的には口惜しい気持ちもあるにはあるんですけども、前述の通りに日本で出版することに大きな価値のあるタイトルなので、ここは実利を優先しました。


 NSVサイズはちょっと縦長。

 ……数年後にNSVが「シュティッヒルン」の版権を手放したらワンチャンあるかもしれないですけども、まあ、NSV的には定番タイトルなのでそうしたタイミングはなさそうかなー。逆に「ザ・ゲーム」くらい売れてくれれば日本独自のバージョンみたいなのも作れる可能性も出てくるかもしれません。……が、まあ、それだったらNSVが版権を手放す可能性のほうが期待できますね!

 いずれにしても、多くの方に手にとって貰えると、それだけ色々な可能性が生まれてきますので、どうぞご購入をご検討いただければと思います。よろしくお願いいします!


シュティッヒルン

プレイ人数:3-6人
対象年齢:10歳以上
プレイ時間:30分

ゲームデザイン:Klaus Palesch
アートワーク:Oliver Freudenreich
小売希望価格:1980円(税込)
posted by 円卓P at 11:46| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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