2022年12月13日

ゲーム紹介「惑星Xの探索」



 数寄ゲームズは太陽系9番目の惑星を探索する論理推理ゲーム「惑星Xの探索」を発売します。プレイ人数1-4人、対象年齢13歳以上、プレイ時間60分で、小売希望価格は税込6380円となります。


 数寄ゲームズ通販サイトでは12月5日より販売開始、12月21日より全国のボードゲームショップさんでの販売を予定しております。

数寄ゲームズ通販サイト「惑星Xの探索」


 「惑星Xの探索」は、「ふたつの街の物語」の作者としても知られるMatthew O'MalleyとBen Rossetが共作したタイトルで、論理推理ゲームの最先端に位置する作品です。その一番の特徴は積極的な専用アプリの活用で、準備や片付けを含めて遊びやすさを極めたところが特徴的な作品と言えます。




◆惑星Xを当てるだけじゃダメ? 宇宙の全てを解き明かせ!

 このゲームはタイトル通り、太陽系9番目の惑星「X」を発見することを目指すゲームです。皆様が理科の時間で習ったように、太陽系には水金地火木土天海冥……このうち冥王星は今では惑星とはみなされなくなってしまったのでこれを省いて8つの惑星があるワケですけども、それぞれの天体の軌道を計測すると「計算上では太陽系にはさらにもう1個惑星があるはずなんだ!」という仮説が成り立つそうです。これを「プラネットナイン仮説」と呼びます。

 このゲームではプラネットナイン仮説によって存在するはずの惑星、Xを発見することが目的となります。ちなみにXは変数のXの意味ではなくローマ数字のX、つまり10番目を意味する単語なんですけど、「プラネットナイン仮説なのに10番目?」という話はちょっと説明が面倒臭くなるので詳しくはウィキペディアをご参照ください。

プラネットナイン仮説

 さて、惑星Xが存在する宇宙空間はボード上に12の区画として表現されています(初級モードの場合)。そして、プレイヤーは惑星Xの位置を当てるだけでなく、その両隣の区画にある天体も正しく推測しなければなりません。
 天体は惑星Xの他に、小惑星、彗星、準惑星、ガス雲の4種があり、それぞれが独自のルールに基づいて各区画に配置されています。プレイヤーはこれらの天体を様々なアクションを利用して探していくのです。




 プレイヤーが手番で選べるアクションは4つ。そのうち1つは惑星Xの位置を特定した上で宣言するフィニッシュアクションなので、ゲーム中でもっぱら利用するアクションは「天体の調査」「1区画の精密探査」「課題の研究」の3つとなります。これらのアクションはどれも質問事項をアプリに入力するとアプリが答えを返してくれるもので、ゲーム中の光景は「アプリさまアプリさま、どうぞ答えを教えてください」という感じになります。神託を求める巫女かしら?




 プレイヤーはこうして得られた情報を専用シートに逐次書き込むことで情報の整理を行い、様々な惑星の位置を特定していくことになります。各天体は「小」「彗」「準」「ガ」など省略して書き込む形になるんですけども、面倒でも丁寧に漢字で書いたほうが後で見返す時にラクです(体験談)。自分の汚い字を呪いたくなりますね……




 また、ゲーム中、特定のタイミングで訪れる「学説フェイズ」では、これまで得た情報を元にプレイヤーはそれぞれ「この区画にはこの惑星があるんですよ」という学説を発表します。学説を提出するか否かはプレイヤーの気持ち次第、任意ではありますが、正しい学説を発表できると得点になります。……ん、得点!?

 そう、このゲームは惑星Xを一番最初に当てた人が勝ち……という構造のゲームではなく、惑星Xの発見も含めて一番多い得点を獲得したプレイヤーが勝利するゲームなのです。学説で得られる得点が6-7割、惑星X発見の得点が3-4割くらいかな。

 そのため、プレイヤーはこまめに学説を発表していく必要があるのですが、この……発表までの締め切りが結構タイトでして…… ゲーム中課題提出の締め切りに追われ続ける学生のような気持ちでプレイする気分になったりならなかったりもします。ああっ、学説発表したばかりなのにもう次の〆切がっ!


◆学説発表。スムーズな情報公開と悩ましいインタラクション

 さて、このゲームのキモがこの学説発表です。このゲームはソロプレイに対応していることからもお分かり頂けるように、本質的にはインタラクションを必要としない構造のゲームではあるんですけども、この学説発表を巡る選択が他の論理パズルゲームとは一味違うこのゲームならではの駆け引きを生み出しています。

 というのは、学説は「区画10には小惑星があります」といった内容を発表するもので、正解によって得点を得られるものの、プレイヤー全員に貴重な情報が周知されてしまう側面もあるのです。誰も知らない、自分だけが知っている惑星の情報は伏せておくことで独自の立ち回りができますが、一方でゲームの目的としては得点を稼ぐことにあるのですから、情報を寝かせておくだけでは勝利に繋がりません。このジレンマ!


 どのタイミングでどの学説を発表するかは悩ましいところではありますが、基本的には学説による得点の比重が大きめなゲームなので、積極的な情報提供を推奨しているゲームデザインとも言えます。

 しかし、同時にゲーム最終盤の誰が一歩先に惑星Xを特定するかという首の上げ下げ勝負みたいなところでは、持っている情報のほんのわずかな差が明暗を分けるので、公開すべき情報と伏せるべき情報は深く吟味する必要があります。うーん、悩ましい。

 論理推理ゲームでありながらプレイヤー同士が積極的に情報の公開を行っていくスタイルは珍しい手法ではありまして、それも「惑星Xを見つけたら勝ち」というゲームデザインではなく、情報公開も得点として評価する仕組みから来ています。研究者同士が互いの研究成果を引用しあってより真実に迫っていく光景が自然と醸し出されるのは宇宙探査テーマとうまくマッチしています。


 また、ゲームを遊んでて驚くのが、この手のゲームにありがちな情報の停滞、デッドロックがほとんどないことなんですよね。新しい情報が欲しい、ここを埋める何かがないと一歩も進めない、というポイントで天啓のようにポンと新情報が提供されるんです。

 このゲームの情報公開の巧みさは素晴らしくて、デベロップがしっかりと行き届いた新世代の論理推理ゲームだなと驚嘆させられます。遊んでて実に気持ちいいというか、ストレスをギリギリ限界までかけたところでスッと開放してくれるので「そういうことか!」「わかったぞ!」って快感がハンパないんですよね。めちゃくちゃデザイナーの手のひらの上で弄ばれている感もなくはないんですけども、いやいや、これだけうまく踊らせてくれるのであれば文句はございませんよ。


◆専用アプリの積極的活用。これが新世代の論理推理ゲームや!

 また、このゲームでは専用アプリの導入により論理推理ゲームの弱点の多くを克服しています。




 自社製品なので俎上に上げやすいという意味で「厄介なゲストたち」との比較をしますと、まずセットアップが圧倒的にラクです。「厄介なゲストたち」を遊んだ人の多くが「あー、自動的にカードを抜き出してくれる機械とかないもんかなー」とか妄想すると思うんですけども、はい、このゲームのアプリはボタンポチッでセットアップが完了するゲームです。めっちゃ早い。

 当然お片付けも簡単なので、ゲームそのものに取り組める時間の割合が非常に大きいワケです。シャインマスカット並に可食部が多い!


 また、こうした論理推理ゲームの多くはプレイヤー相互の情報のやり取りを通して情報を整理していく構造となっています。ここには一つ問題がありまして、「誤った情報を誰かが発信してしまった場合ゲームが崩壊してしまう」という危うさを抱えてもいます。

 これは意図的であるか否かに関わらず、例えその人の思い込みや小さな勘違いであったとしても、大局的にはパズルが崩れてしまう可能性があるリスクを抱えているわけです。これはもう構造上の問題なので解決策としては「間違えないように注意する」しかないんですけども。


 で、「惑星Xの探索」は、論理推理ゲームの伝統的な構造をアプリの介入によって改善しています。「プレイヤーA ←→ プレイヤーB」が旧来の論理推理ゲームの構造であるとしたらこのゲームの構造は「プレイヤーA ←→ アプリ ←→ プレイヤーB」です。プレイヤー間にアプリを噛ませることでプレイヤー同士の直接的な情報交換を封じているのです。

 こうすることでたとえプレイヤーAがアプリから得た情報を誤解して受け取ったとしても、その誤情報がプレイヤーBまで届くことはありません。プレイヤーBがその情報を必要とするとき、尋ねる相手はプレイヤーAではなくアプリだからです。誤情報の延焼がない、極めて堅牢な構造の論理推理ゲームと言えます。


 こうしたアプリの活用によって「惑星Xの探索」は、遊びやすさとゲーム上の堅牢さの2つの長所を獲得しています。言わばゲームマスター、審判役をアプリに委ねたゲームとも言えます。

 こうしたアプリの本格的活用はTRPG的なゲームや、脱出ゲーム的なゲームではいくつか見られるものの、論理推理ゲームに取り入れた例としては珍しいのではないでしょうか。

 ただ、逆に言えば、アプリをゲームシステムに深く組み込んでいる都合上、アプリなしで遊ぶことができないゲームであるという弱点もあるにはあります。アプリをインストールした端末が1台あれば全員がその端末を交互に使ってプレイすることもできますが、理想を言えばプレイヤー全員が個別に端末を持ってアプリを使うのが一番遊びやすいです(ちなみに英語ベータ版であれば、PC上で操作することもできるにはできます https://beta.planetxapp.com/ )。

 とは言え、諸々の事情でそうした環境を作るのが難しい場合もあるかもしれません。そういう意味では他のゲームと比べて遊ぶためのハードルが一つ多いゲームなのは確かです。


◆悩ましくて快適全振り。論理推理ゲーム入門としても。

 「惑星Xの探索」は、論理推理ゲームというジャンルにおいて、アプリの積極的活用を通して独自の立ち位置を生み出している稀有なゲームと言えます。徹底的なプレイアビリティの追及がストレスのない快適なゲーム体験に繋がっているので、この手のゲームが苦手な人にも一度遊んでほしいタイトルと言えます。「そういうことか!」と目の前が開けるような快感は病みつきになりますよ。


 ただ、ゲーム自体は非常によく練られた作りである一方、ダウンタイムが長くなりがちなゲームという側面はあります。あとちょっと! あとちょっと考えたらいいアプローチが浮かびそうな気がする!

 そう思わせてくれるところが優れたゲームの証明ではあるんですけども、ヒントの出し方、脳のくすぐり方が絶妙すぎて、人によっては考え込んでしまうゲームではあるかもしれません。また前述の学説発表までの〆切がタイトなこともあって最適な一手は何かを考えこんでしまうゲームではあります。

 とは言え、基本的には全員が考え込むゲームなので、自分の手番外もあーだこーだ考え続けていて手隙な感覚はあまりないです。手番になって「あれ、何するつもりだったっけ?」とはなりがちなので、そこは事前にアクションの予定をメモしておくといいかもしれません。


 大変な人気で現在在庫切れとなっています「厄介なゲストたち」との比較で言えば、カード引きの運要素高めな「厄介なゲストたち」と比べて、こちらは運要素が極めて少ない競技的なゲームとも言えます。セットアップ後の運要素はおしなべて控えめで、「研究」や「惑星X学会」でどんなヒントが出てくるかで運試しの側面があるものの、多くの調査に関してはプレイヤーのアプローチや閃きが重要なファクターとなります。

 プレイ感としては相当異なる両タイトルになりますので、片方が片方の上位互換、ということにはならないかと思います。テーマも含めていい意味で差別化ができているんではないかなと。皆様にはぜひ両者を遊び比べて貰って、どちらがより好みか評価してもらいたいです。


 とまあ、全編に渡る悩ましさも含めてゲームで脳のエンジンを回し続けることが好きな人にお勧めのゲームです。ソロプレイや2人プレイでも多人数プレイと遜色なく楽しめるタイトルなので、多くの方に気に入って貰えるタイトルだと確信しておりますよ。

惑星Xの探索(数寄ゲームズ通販サイト「惑星Xの探索」)

プレイ人数:1-4人
対象年齢:13歳以上
プレイ時間:60分

ゲームデザイン:Matthew O'Malley,Ben Rosset
アートワーク:James Masino, Michael Pedro
小売希望価格:6380円(税込)
ラベル:惑星Xの探索
posted by 円卓P at 11:30| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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