数寄ゲームズは、Ivan Lashinデザインの経済ゲーム「スマートフォン株式会社」の日本語版を発売します。プレイ人数1-5人、対象年齢12歳以上、プレイ時間60-90分、小売希望価格は税込7700円となります。
数寄ゲームズ通販サイトにて2月2日より予約開始、2月9日より先行発売を始めます。その後、全国のボードゲームショップさんへのご案内、流通を予定しております。
「スマートフォン株式会社」は、2018年に初版が発売された経済ゲームで、作者のIvan Lashinは最近では「ファーナス」の作者としても知られています。版元のCosmodrome Gamesは「アクアティカ」の出版社でもあり、この「スマートフォン株式会社」を皮切りにその名前が広く知られるようになりました。
様々な関係者にとって飛躍の一作になったこともあり「スマートフォン株式会社」は極めて印象的なタイトルでもあります。数寄ゲームズにとっても2018年の当時に和訳付き輸入版を初めて入荷したゲームでもあり、とても思い入れのある作品です。
あれから早くも3年が経ちまして、ようやく日本語版を皆様にお届けできる態勢が整いました。当時のプレイ前の紹介記事はこちらにあるのですが、この記事では改めて「スマートフォン株式会社」の概要とその魅力をお伝えしたいと思います。
◆手強く、しかし、遊びやすい。洗練された経済ゲーム
※画像は英語版のものです。
「スマートフォン株式会社」において、プレイヤーはそれぞれがスマートフォンを製造販売する会社のCEOとなり、この世界最高の企業となるべく熾烈な市場争いを繰り広げます。
ゲームは全部で5ラウンドで構成され、それぞれのラウンドは8つのフェーズに分割されます。5ラウンドを通して最も多くのVP(勝利点=売上)を稼いだプレイヤーがゲームに勝利します。
テーマや目標は古典的な経済ゲームでありながら、モダンなテーマとUIによって極めて洗練されたプレイフィールを実現しているのがこのゲームの大きな特徴です。
この手の経済ゲームは時にリアリティへの傾斜を要求されがちではありますが、「スマートフォン株式会社」ではそれらが極端に抽象化、簡素化されています。
例えばこの手のゲームにつきものの製造費、人件費、広告費といった支出の側面は完全にオミットされていて、ひたすらスマホを作っては売って儲ける収入の側面に完全にフォーカスされています。なので、計算を間違えたら資金がショートして経営が立ち行かなくなるようなストレスがありません。
その上で、作った製品をキチンと売り切り、他社を凌ぐ利益を稼ぎ出すには創意工夫が必要です。経済ゲームならではの限られた市場を奪い合う熾烈な競争は健在で、他プレイヤーを出し抜く快感、一瞬の経営判断がダイレクトに勝敗に結びつくスケールの大きさはこのゲームの醍醐味の最たるものでしょう。
経済ゲームならではの楽しさを凝縮しつつ、遊びやすさ、親しみやすさも両立しているのがこのゲームの1番のアピールポイントです。本格的なテーマと内容ながら2時間以内でゲームが決着するので、重量級ゲームへ足を踏み入れる第一歩としてもオススメのゲームと言えるでしょう。
プレイ人数は1-5人となっていまして、基本的には人数が多い方が激しい市場争いを楽しめるかと思います。1-4人プレイでは、独自のルールに沿って動く人工知能「スティーブ」をNPCに加えて遊ぶこともできます。
今回の日本語版では先行する英語版との大きな差異はありません。初版と比べて内容物には若干の変更(駒類のアクリルから透明樹脂への変更、オーガナイザーの耐久性向上)はありますが、買い替えが必要なほどの変化はありません。
また、日本語版では全体ボードの地名表記は英語となりますが、日本語シールが同梱されています。
◆会社の命運を決める、パッドの組み合わせ
先述の通り、このゲームは8つのフェーズで構成されています。中でも意思決定に大きく関わるのがフェーズ1の計画フェイズで、ここでプレイヤーはスマートフォンを模した2枚のタイル(パッド)を重ね合わせて以降のフェイズの行動指針を決定します。
このフェーズは同時処理で、各プレイヤーはついたての後ろでそれぞれがパッドを組み合わせ、その後一斉公開します。そのため、(各自がやりたいアクションの選択に悩む時間はあるものの)ダウンタイムが短いのが特徴です。
パットにはそれぞれのフェーズに関連するシンボルや商品の製造を意味するシンボルが記されていて、プレイヤーはそれらをどう配分するかに頭を悩ませることになります。言わばアクションポイントの振り分けのような感じです。
多くのシンボルが見えるようにパッドを配置すれば、各フェーズで実行できるアクション数は増えますが、一方でパッドをより深く重ね合わせることでより多くの商品を生産することができます。
アクション数を重視するか? 商品生産数を重視するか? ここがまず1個目のジレンマとなります。
また、より高性能なスマホを作る「技術の研究」と、製造したスマホを世界中に販売する「物流網の拡大」は、どちらも大企業への成長を目指す上で欠かすことのできない要素で、これらも同時には満たすことができないように巧みにパッドがデザインされています。
よい商品を作るか? 広告宣伝に力を入れるか? 2つ目のジレンマです。
さらに、パッドの組み合わせによってスマホの販売価格も同時に決まります。スマホの販売価格は行動順に影響し、価格を抑えれば相手の機先を制することができますが、高額なスマホを販売することができればその利益は莫大なものとなるでしょう。
狙うはローリスク・ローリターンか? ハイリスク・ハイリターンか? 3つ目のジレンマです。
こうした3つのジレンマをパッドの組み合わせ1つに集約したところが「スマートフォン株式会社」の白眉な点でしょう。選択の自由度を担保しつつ、様々な要素をギュッと押し込んだ簡明さは、短時間で充実したプレイ体験を提供するこのゲームの密度の高さを支える太い幹になっています。
フェーズ1でこのラウンドの実行計画を決めてしまえば、以降は半自動的に進むフェーズが大半です。例えばフェーズ2「価格設定」やフェーズ3「生産」はパッドの組み合わせで自動的にスマホの価格や製造数が決まります。
フェーズ4以降は前述の通り、スマホの販売価格によって行動順が決まります。基本的にはスマホを安価に抑えたプレイヤーが先に行動できて有利です。
フェーズ4「生産改善」では、パッドを強化できる改善タイルを獲得できます。獲得した改善タイルは次のラウンドから使用可能で、2ラウンド目以降はそれぞれの会社の方向性の違いが際立ってくることでしょう。
フェーズ5「技術の研究」では、「4G」「NFC」「Wi-Fi」「リチウムイオンバッテリー」など、スマホの性能を向上させる新技術を研究します。新技術を開発すれば新しもの好きの顧客のハートを掴むことができますし、様々な特殊効果を得ることもできます。
他社に先んじて技術を開発することでゲーム終了時にボーナス点となる特許を取得することもできますが、コモディティ化した技術は他社にとって後追いしやすくもなるでしょう。
フェーズ6「物流」では、新しい地域に進出し、支社を設立することで、新規の市場開拓を目指します。どれだけ高性能のスマホを開発したとしてもそれを販売するマーケットがなければ利益には結びつきません。逆に、自分だけが独占するマーケットを作ることができれば、どれだけ低性能なスマホであっても容易に売り捌くことができるでしょう。
フェーズ7「販売」では、自分の支社がある地域のバイヤーにスマホを販売します。バイヤーには大きく2種類あり、「予算の範囲内でスマホを購入するタイプのバイヤー」と、「欲しい技術を搭載したスマホなら幾らでもお金を出すタイプのバイヤー」がいます。各バイヤーは各ラウンドでそれぞれスマホを1個しか購入しないので、各プレイヤーは競合相手に先んじてバイヤーにスマホを売りつける必要があります。
フェーズ8「VP取得」は、販売したスマホからVP(得点)を得ます。得られるVPはスマホの設定価格と販売数の積なので、簡単に計算することができます(ちなみについたての裏には乗算表が掲載されています)。
また、各地域で一番多くのスマホを販売して市場を支配したプレイヤーはボーナスVPを受け取ります。このため、薄利多売によって競争相手を圧倒する戦略を取ることもできるでしょう。
以上の8フェーズを経て1ラウンドが終了します。ラウンド跨ぎの処理では売れ残ったスマホは全て廃棄されてしまうので(旧式のスマホには誰も見向きもしないのです!)、CEOの皆様はせっかく作ったスマホが売れ残らないように頑張って販売計画を遂行してください。
◆あの衝撃から3年。新星の輝きは今も健在なのか?
この「スマートフォン株式会社」の初版は2018年の冬、エッセンシュピールで初めてお目見えしたタイトルで、発売からは早くも3年が経過しました。3年という時間はなかなかに長いもので、作中に登場する4G通信技術も当時の先端技術ではありましたが、今では日本でのカバー率は90%超とのことで、さほど珍しくもない、言わば身近な存在となっています。
ボードゲームは通信技術やビデオゲームと違って技術の向上がストレートに性能や表現に反映されるジャンルではないものの、その技術体系や思想は日々更新を続けています。
個人的な話ですが、ぼくがボードゲームを好きなのは、まさにこの技術の改善が絶え間なく続いている点にあって、まだ見ぬボードゲームはきっと素晴らしい体験をもたらしてくれるだろう、という期待の源泉にもなっています。毎年、毎年、新鮮で楽しいゲームが遊べるおかげでなんだかんだでこの趣味も10余年を数えることになりました。
さて、このゲームが出版された3年前。無名の出版社、無名のデザイナー、無名のタイトルながら、このゲームの販売によってぼくの観測範囲では結構な衝撃が走りました。「いや、これ、ちょっと凄いゲームなんじゃないの?」
こちらのまとめではそんな当時の様子が少しは伝わるかもしれません。
「スマートフォン株式会社」感想まとめ
3年前の「スマートフォン株式会社」は、間違いなく当時の最先端の思想と製造技術が組み合わさったゲームだったのです。
古典的な経済ゲームのインタラクションの核を残しつつ、手触りはスッキリとした洗練された組み立て。でもってボードは流行りの二層構造で、駒は珍しいアクリル製で見栄えもよく。アートワークも美麗かつ洗練されていてハイクオリティ……
まあ、それと同時に新興出版社ならではの未熟なルールブックなんかもついて回ったんですけども。
とは言え、クサい言葉を使えば夢がありました。まだ見ぬ世界が自分たちを驚かせてくれるんじゃないか、ここから何かが始まるんじゃないか、という未来を感じられたゲームだったんですよね。
それから3年が経ち、当時無名だったロシアの出版社は数々の注目作を発表する期待株へと成長し、当時その出版社の編集者だったデザイナーは開発スタジオを立ち上げ独立を果たしました。あの時感じた未来の種は今振り返ってみると確かに芽吹いているなと感じます(ちなみにデザイナーからは「君が日本で販売してくれたから独立する自信ができたよ」と言われたこともあります。まあ、社交辞令でしょうけど)。
ただ、ちょっとこの出版社、仕事が遅くて、なかなかその注目作を見せてくれないんですけどもね(笑) 「アクアティカ」作者の新作「Astrum」とかどうなってるんじゃーい。
ただまあ、Cosmodrome Gamesとは3年つきあってみてなんとなくわかってきたんですが、どうもコダワリが強いのか、自分が納得しないとGOサインを出さない職人タイプの出版社なのかもしれません。
毎年キッチリ1作仕上げてくるDelicious Gamesのような職人タイプとはまた違った感じの職人で、納期より品質を優先する…… まあ、ファンにとってはかくあるべしという出版社なんですけども、ディストリビューターとしては先行きが見えなくて大変ヤキモキする…… そんな憎いアンチクショウです。
話が逸れましたが、さて、そんな「スマートフォン株式会社」には、今もなお曇らぬ輝きがあるのか? この移り変わりの激しい時代において、今もなお手に取る価値のあるゲームと言えるのか?
ぼくの答えを言えば、それはYESです。あれから3年が過ぎても、このゲームは未だにユニークな存在であり続けています。
馴染みがありつつも緩すぎないテーマ選択。そこから期待される本格感と遊びやすさのバランス。経済を簡素に抽象化しつつも適度にコクを感じさせる特殊能力の数々。それ自体がエポックなパッド重ね合わせシステム……
このゲームの代替になるものはこの3年では見当たらないんですよね。そもそものテーマ自体がフックがめちゃ強くてユニークですし、なおかつシステム的にも完成度がすこぶる高い…… そりゃあ、そんなゲーム、ポンポンと出てくるものではないですよね。
3年という時間は新作補正の興奮が冷めるには十分過ぎる時間です。それでも今振り返ってみて、確かな新しさと面白さのあるゲームだよな、としみじみ思わせるのは、このゲームの地力の高さだと思うんですよね。
英語版では限られた方にしかお届けできなかったこのゲーム、今回の日本語版によって日本全国津々浦々にお届けできるようになるので、このゲームの本当の価値が伝わるのはむしろこれからだと思っています。それだけ力のあるタイトルというか、普遍性のあるタイトルだと思っているので、末永く愛されるようになるといいなと思っています。
……いつもは「このゲームはニッチだから! 好きな人しか買わんから!」と言ってる身なので、ここまで全方向にオススメですよと言えてしまうタイトルを紹介するのも不思議な気分ではあるんですけども。
いや、このゲームも最初はニッチ向けとして取り扱うつもりだったんですが、なぜかこうなってしまい…… まあ、人生そういうこともありますね。
◆完全無欠、と思いきや…… その唯一の弱点とは?
先述の通りで「スマートフォン株式会社」は、いいとこだらけなゲームではあるんですが、明確な弱点が一点あります。それはフルスペックを引き出すには5人ないし4人プレイが望ましいという点です。
少人数でのプレイでもセットアップで人数に伴ったバランス調整を行うので、緩くなりすぎるということはないのですが(そもそもどの人数でも序盤は緩さのあるゲームではあります)、限られた需要を奪い合うという根本的なゲーム性から人数が多い方が争いが激しくなってヒートアップしますし、玉突き事故的なアクシデントも顕著になって笑える場面が生まれるというような、感情を動かす局面が顕著に出やすい点はあります。
人工知能「スティーブ」との対戦を含む1人からプレイ可能なゲームとは銘打っていますが、やはりこのゲームの醍醐味を味わうのであれば、大人数で挑んで欲しいと思います。また、少人数で遊ぶのであれば「スティーブ」の力もぜひ借りてみて欲しいです。
このコロナ禍の状況において、ぜひとも大人数で集まって遊んで欲しいとはなかなか口にしづらくはあるのですが、持続性のあるゲーム文化を実現するためには、「ゲームが楽しく遊ばれること」が「ゲームを楽しく遊ぶこと」と同じくらい大事なことだとも個人的には思っているので、ぜひとも骨折りしていい機会を作って頂いて、それで遊び終わってから「ああ、苦労してお膳立てしてよかったな」と満足して頂きたいです。それだけの価値のあるゲームだと思っています。
ちなみに英語版ではすでに発売されている拡張キット「Status Update 1.1」では、この少人数対応という弱点に対して2-3人用のマップを同梱するという力技で解決を図っています。ただ、今回は拡張キットの取り扱いはなく、基本ゲームのみの販売となります。
つまり、そう、ここまで言えばもうお分かりでしょう、今回の日本語版が皆様に広く楽しまれるようであれば拡張キットの日本語版出版にも繋がりますよということです。ぜひとも多くの方に遊んで頂いて、夢のある未来を作っていきたいと考えている次第です。
拡張キットは当然ながら基本ゲーム以上に売れることはないワケでして、まずは基本ゲームを販売してから考えましょう、という段取りです。個人的にも拡張キットの日本語版は出したいなあと思っていますので、皆様と同じ未来を共有できたらこれに勝る嬉しさはありません。
つまり、例によって「これからの展開は皆様のお力添え次第です」というワケですね。先述の通り、版元はクセの強い出版社でもあるので一筋縄ではいかないかもしれませんが、向こうが喜んで協力してくれるような提案を持ち込めれば実現性も高まると思います。ぜひともご検討よろしくお願いいたします。
スマートフォン株式会社(2022/原版は2018)
プレイ人数:1〜5人
対象年齢:12歳以上
プレイ時間:60-90分
ゲームデザイン:Ivan Lashin
アートワーク:Viktor Miller Gausa
出版社:Cosmodrome Games / 数寄ゲームズ
小売希望価格:7700円
ラベル:スマートフォン株式会社