◆ゲームマーケット春にて発売予定
数寄ゲームズは4月10日、11日に開催されるゲームマーケット2021春にてデリシャスゲームズのエッセン新作「プラハ 王国の首都」を販売します。プレイ人数1-4人、対象年齢12歳以上、プレイ時間45-150分で、小売希望価格は税込8800円となります。また、前述のゲムマ春ではイベント価格として特別に8500円にてご提供させていただきます。
「プラハ 王国の首都」は、「アンダーウォーターシティーズ」「パルサー2849」などのゲーマーズゲームで知られるチェコ在住ゲームデザイナー、ウラジミール・スヒィの手による最新鋭のモダンユーロです。カードプレイとワーカープレイスメントを組み合わせた前作「アンダーウォーターシティーズ」から一転、今回はホイールの位置によってコスト/ボーナスの異なる6つのアクションから1つを選択する王道的なゲームエンジンを採用しています。骨組みこそ質実剛健なモダンユーロの文脈に沿った内容ではありますが、随所に作者らしい捻った工夫もあり、凝ったコンポーネントも相まってプレイアビリティも担保された、非常にハイレベルでバランスの取れたゲーマーズゲームとなっています。
◆実力派デザイナー、ウラジミール・スヒィの本領発揮となる三作目
さて、ゲーム内容そのものに触れる前にまずお伝えしておかなければならないのは、やはりプラハ在住の作者が、そのプラハの名を冠したゲームを手掛けたという意気込みの現れでしょう。曲がりなりにもゲームデザイナーを名乗る人間は、やっぱり自分の生まれ故郷の名前のゲームを一度は作りたいものだと思うんですよね。
「プラハ 王国の首都」作者のウラジミール・スヒィは、「コードネーム」「スルージエイジス」などで知られるチェコゲームズエディションで数々のゲームをデザインしてきました。その後、彼はゲームデザイン専業で生活していくために独立してデリシャスゲームズを設立します。その端緒となったのが世界中で人気を博した「アンダーウォーターシティーズ」だったのですが、このデリシャスゲームズでのスタートアップは、安定した離陸を望む思いもあったのでしょうか、「置きに行った」というか、少し市場に擦り寄せた雰囲気もあったと個人的には感じています。らしさを敢えて抑えて流行りに乗ったというか。
とは言え、「アンダーウォーターシティーズ」の結果を踏まえて出版社としての自信をつけ、適切な温度感も掴んだのでしょう、(ファミリーゲームである「Monster Baby Rescue!」を経て)第3作となる本作ではまさに氏の本領発揮となる王道路線のモダンユーロを繰り出してきました。チェコゲームズエディション時代からの氏を知っている人にとっては氏の諸作の文脈を継承する待望の一作であり、最近になって「アンダーウォーターシティーズ」からその名前を知った人にとっては氏の引き出しの広さ、デザインセンスの普遍性を知る一作になるはずです。
◆手番にはホイール上の6つのアクションから1つを選択
ゲーム中、プレイヤーは手番に、メインボード上のホイールにはめ込まれた6枚のアクションタイルから1枚を選択します。
このアクションタイルはドミノ状と言いますか、2つのアクションが1セットになっていて、プレイヤーは2つのアクションのうちどちらか1つだけを実行することができます。
アクションには「金鉱の運営」「石切場の運営」「アクションの改良」「市壁の建設」「建物の建設」「王の道の建設」の6種類があります。
メインのリソースである黄金と石材を「金鉱の運営」「石切場の運営」で手に入れ、それらを支払って「市壁の建設」「建物の建設」でタイルを購入、得点やボーナスを獲得するのが主な流れです。
アクションそのものを強化してアクション効率を上げる「アクションの改良」や進み具合によって様々なボーナスが得られる「王の道の建設」は補助的なアクションになりますが、こちらも疎かにはできません。
基本的にはリソースを稼いで支払って得点に変換するという、極めてストレートな構造のゲームです。その上でこのゲームが一筋縄で行かないのは、アクションを選択するためのホイールがプレイヤー全員で共有されていて、人気のアクションは追加のコストが発生し、不人気のアクションは追加の勝利点が貰えるという、ダッチオークション的な要素をアクション選択に交えているからでしょう。
これによって「リソースが揃ったから、さあ、次の手番では建設するぞ」と思っていても、手番の直前で目当てのアクションが取られて追加の費用を迫られたり、欲しくなかったアクションがポロリと転がり込んできて突如おいしいアクションに変貌したりと、事前の計画を狂わせるイベントが次々に発生するのです。これがとてつもなく悩ましい!
冷徹に計画を遂行するか、それとも望外の幸運に乗っかっていくか…… 手元のマネジメントはもちろん、アドリブ性を問われる局面が非常に多く、柔軟な対応能力が終始求められるゲームなのです。
また、各アクションタイルは選択すると同時にホイール上に紐付けられたボーナスも獲得できるのですが、「こっちのアクションをやりたいけど、ボーナスはあっちが欲しい!」みたいな場面も多く、これがまた悩ましさを生み出しています。特にホイールボーナスは特殊なリソースの「銀の窓」や「卵」が手に入る貴重な機会でもあるので、時にはアクションを我慢してでもこうしたリソースを手に入れなければならない場面も少なくはありません。ジレンマが! ジレンマが多い!
◆どこから手を付ける? 散りばめられた成長要素の数々
さて、この手のゲームの多くがそうであるように、「プラハ 王国の首都」もアクションの効率を高めたり、永続的な効果を獲得する、成長要素、拡大再生産要素を備えています。
で、こうしたゲームは初手で「アクションを強化するアクション」を選択するのが得てして正解なパターンが多いのですが、実はこのゲームはそうした成長要素が非常に数多く用意されている点が魅力的なのです。
例えば、黄金の生産効率を上げる「金鉱の運営」アクションは、うむ、こうしたゲームなら最初に選んで損のないアクションでしょう。であれば、黄金の代わりに石材の生産効率を上げる「石切場の運営」アクションも、これまた最初に選んで損のないアクションに違いありません。いやいや、しかし「アクションの強化」アクションを打てば「金鉱の運営」や「石切場の運営」アクション自体を強化できるのでこっちを先に打つべきかもしれません。いやいや、それよりも早めにリソースを稼いで永続効果の技術タイルを先取りした方がいいかもしれないし、建物タイルを建てれば報酬で別のアクションが打てたりもするので、これを早取りするべきなのではないか……
知識を高めることで獲得できる知識タイルは永続効果を持つレベル1,2タイルと、追加アクションをもたらす使い切りのレベル3,4タイルがあって、コンボパーツとして有用。欲しい。
とまあ、このように、成長要素AやらBやらCやらDやらが、まあ色々と用意されていて、どれを成長させるのが果たして正解なのか……と初手から非常に悩ましいワケです。初手を絞らせないゲーム、という点だけでも個人的には非常に評点が高くなるポイントです。
◆濃密で楽しくも短い16手番
また、悩ましいのは、そうした成長要素をアレコレ取っている暇が実はないということです。このゲームは手番がたった16回しかないので、少ない手数の中で自分が本当に必要な成長要素だけを取り出し、得点に繋げていかなければなりません。
この手のゲーマーズゲームが平均20回ほどの手番数で構成されていることを考えると、16回という手番数は相当に絞られていますし、実際遊んでみると「何もしてないのにもう半分終わってしまった!」という気分を味わうことすらあります。
しかし、ゲームの前半は言わば準備期間。成長要素を揃えた後半は歯車が噛み合うような怒涛の展開が訪れます。多くの得点要素は掛け算で構成されていることもあり、後半になるほど加速度的に勝利点が入る仕組みになっています。このコンボ感の演出や爽快感は「おかしな遺言」や「アンダーウォーターシティーズ」でも見せた作者の18番でしょう。
そうこうしているうちにゲームは終わってしまうのですが、終わってみるとあっという間にフルマラソンを走りきってしまったかのような不思議な爽やかさを味あわせてくれるゲームでもあります。ルールの分量も含めて相当に複雑なゲームを提供されているのは事実なのですが、工夫を凝らしたコンポーネントも相まって軽快な遊びやすさを実現していて、これはある種の奇術なのではないかと思わせるほどです。
◆モダンユーロの進化とは? 複雑化と遊びやすさの両立
このような所感から「プラハ 王国の首都」は、言わば現在におけるモダンユーロの最進化形態である、と位置づけることができるでしょう。
モダンユーロの文脈、その進化は、プレイヤーからの2つの要求・命題に沿って発展してきたと言えます。すなわち「より複雑なゲームを」という要求と「より遊びやすいゲームを」という要求です。
前者の「より複雑なゲームを」という命題は、特に2010年の「Vinhos」辺りから芽生え、昨今、特に顕著に目にするようになったヘビィなモダンユーロの文脈です。この手のゲームの特徴は「手番数が少なく」「1手番辺りの処理量が多い」というもので、1アクションの実行に対して3つ4つといった手続きを持つことが挙げられます。1つあたりのアクションの処理に要する時間が増えるため、プレイ時間のバランスを取るために手番数自体は抑え気味になり、かつ今度は手番数を抑えるために1手に処理を詰め込む必要がある……という鶏と卵のような関係があります。
「プラハ 王国の首都」もそうした文脈の延長線上にあるゲームであることは間違いなく、1手の選択肢は極めて重く、プレイに大きな影響をもたらします。ゲーマーズゲームの魅力である密度のある硬質な手応えが十分にあるゲームと言えましょう。
そしてもう一つの進化はコンポーネントのリッチ化による遊びやすさの追求です。この端緒となったのは2012年の「ツォルキン マヤ神聖暦」でしょう(考えてみれば「ツォルキン」製作時にスヒィさんはCGE所属だったので、影響を受けても不思議ではないのかも)。手作業ではあまりに煩雑になりすぎる手続きの数々をコンポーネントの工夫によって自動化する試みが新しいプレイ感を演出してきた歴史があります。
「プラハ 王国の首都」ではホイールを使ったアクションタイルのコストの管理や、2層プレイヤーボードによる各種リソースの管理など、これまでの歴史で培われてきたモダンユーロの知恵が存分に活かされています。こうした工夫の数々によって、プレイヤーは雑事に追われることなくプレイだけに没頭することができるのです。
こうしたモダンユーロの2つの大きな文脈を受け継いだ本作は相当に複雑なことを要求されているにも関わらず、それを複雑と感じさせないスマートさも実現してもいて、じゃじゃ馬だけど乗りやすい高級スポーツカーのようなゲームを実現しています。スペック的には「アンダーウォーターシティーズ」と同じか、やや重いくらいでプレイ時間も実際長いんですけども、そこまでの重さを感じさせないというか…… そうした後味の良さも含めて、これは本当に一度試してほしい、と言いたくなる作品なのです。
◆ベテランデザイナー、ウラジミール・スヒィのこれぞ集大成
また、このゲームには氏の諸作を知る人ならば、「これはあのゲームのエッセンスだな」と感じられる要素が多々あります。例えばメインのメカニクスとなるアクション選択は「Shipyard(2009)」の発展形で、人気のアクションほど割高になり、不人気のアクションにはオマケがつく、という仕組みを踏襲しつつも、よりプレイヤー同士の絡みを誘発し、手詰まりも回避しやすいモダンな仕組みに改められています。またこのメカニクスの別の形の発露が「Monster Baby Rescue!(2019)」と言うこともできるでしょう。
タイル同士を繋ぎ合わせてアイコン同士を繋げるとボーナスが得られる絵合わせパズル的な要素は「パルサー2849(2017)」から持ってきたものでしょう。過去作では一直線上の列で扱われていたタイル合わせは今作ではヘクスタイルとなってより組み合わせの複雑さを増しており、タイル配置の向きまで悩ませてくれます。
また、市場に並べられたタイルの交換は「アンダーウォーターシティーズ(2018)」からの援用でしょう。この手の「市場に並べられた3枚のタイルから1枚を取って即座に補充」というシステムはよく見かける仕組みではあるのですが、リソースを支払うことでちょっとだけガチャにチャレンジできるのは射幸心を刺激する楽しい要素です。ぼくはガチャ弱いんでアレですが……
一方でゲーム自体は全般的に運要素が散りばめられていて、(おそらくは適度な運要素こそが必要だと考えているのでしょう)氏の作品に通底するゲーム哲学も伺えます。そうした点も踏まえると「プラハ 王国の首都」はやはり氏にとっての総決算となる一作と言いますか、一つの歴史の区切りを感じさせるんですね。
そういう意味でも過去の氏のゲームに触れたことのある人にとって大きく遊ぶ価値のあるゲームですし、このゲームから氏の過去作に立ち戻ってみるのもまた楽しい路程なのではないかと思います。
◆プラハ在住の作者ならではのアートワークとコンポーネントも見どころ
「プラハ 王国の首都」には特徴的なコンポーネントがいくつもあります。まず目を引くのは立体的な大聖堂と飢餓の壁。言わば2次元の特殊な得点トラックと言いますか、コマを進めることでゲーム終了時に大量の得点を獲得することができる要素です。
ちなみにこれら立体物は取り外しても問題なく遊べます。
このうち大聖堂は「聖ヴィート大聖堂」というプラハでも有名な大聖堂を模したものなのですが、「飢餓の壁」はいわゆる見応えのある観光名所とはちょっと違った地元の人間がよく知る謂れのある名所という感じで、この辺りが地元民ならではのチョイスなのかもしれません。
また立体物としてはボード中央を流れるヴルタヴァ川にかかるカレル橋があります。これも得点に絡む要素の一つなのですが、このカレル橋は建設にあたってモルタルに卵を混ぜたため現在まで一度も崩落していないという伝説があります。ゲームに登場する特殊なリソース、卵はこれに肖ったものなのでしょう。
2版となる日本語版では、オリジナルの厚紙卵トークンの他、木製の卵コマが付属します。
ちなみにゲームにはもう一つ特殊なリソースとして「窓」が登場するのですが、これはおそらく「プラハ窓外放擲事件」にちなんでいるのではないかと思われます(知らない人はググってみてください)。
立体コンポーネントは組立説明書も付属します。
ゲームの説明書にはプラハの歴史紹介にもページが割かれています。世界で一番美しい街とも言われるプラハへの作者の愛情が見て取れますね。
先述した通りメインボード上のホイールや、2層式のプレイヤーボードもこれまた凝った仕掛けが施されていて見逃せないコンポーネントです。ゲーム好きなら絶対ワクワクする内容で、工作好きの人はボードの組み立てだけでテンションが上がるかもしれません(ぼくはガチ上がりしました)。ただ、カレル橋は(史実と違って)決壊しやすいので事前に接着剤など用意しておくとよいかもしれません。
◆コロナ禍の一年を乗り越えて……
去年はコロナ禍に見舞われた激動の一年でした(その余波は今もなお続いているのですが)。ボードゲームもその影響をモロに浴びたジャンルではあって、最も顕著な例は毎年開催されていたエッセンシュピールの開催延期でしょう。
去年のエッセンシュピールに合わせる形で開発が進められていたゲームの多くもテストプレイ環境の不足などから遅れが生じ、実際に去年のSpiel.digitalの出展作は例年に比べて相当に縮小してしまいました(今年はさらにその影響が色濃く出るのではないかと危惧しています)。
また、新興の小規模パブリッシャーにとってエッセンシュピールという場は(比較的)公平・公正な広報・販売活動の機会でもあり、そうした場が失われてしまったことはデリシャスゲームズにとって容易ならざる痛手だったことでしょう(ゲムマが開催中止になって一番キツいのは小規模ブースなのと構図としては一緒です)。
そんな困難な時期にあって、「プラハ 王国の首都」がSpiel.digitalに出展されたのは、ゲーム好きにとって少なからぬ救いになったのではないかと感じています。やはり例年に比べれば寂しさも覚えるラインナップの中で、骨太のゲーマーズゲームが存在することの頼もしさを個人的には感じました。
その後もコロナは印刷のスケジュールにも影響を及ぼしましたし、それ以上に打撃を与えたのが実は輸送です。最近のゲームは中国で印刷されるものも増えてきたのですが、このゲームは伝統的なユーロゲームの流れからチェコで生産されています。
チェコは内陸国で、自前の外洋港を持たないため、輸出の窓口となるのはドイツのハンブルグ港になります。そして、そのハンブルグ港は流通の要所であるがためにコロナの影響を直接受けやすい場所でもあって、輸送は生活物資や日用品が優先され、嗜好品であるボードゲームの輸送はなかなか見通しが立たなかったのです。
加えて全世界的なコンテナの価格高騰…… これもまたコロナの影響の一側面ではありますが、とかくロジスティクスというものは一筋縄ではいきません。実際の製品からは見えないところなので意識されにくいんですが、輸送費はかなり高騰しております。
ともあれ、想定よりは大分異なる形になりましたが、こうしてなんとか皆様のお手元にゲームをお届けすることができそうで、ひとまず安堵しています。加えて開催が危ぶまれていたゲームマーケットもなんとか開催に漕ぎ着けられそうで、一つ一つ積み上げてきたものがようやく結実しそうな気配があります。
あとは実際に皆様に遊んでいただいて、待ちわびた分だけの楽しさを味わって貰えればこれに勝るものはありません。ゲームマーケット当日はブース番号「ア18」数寄ゲームズにて販売予定です。
また、ゲムマ当日はソロプレイBot「ペーター・ハルラー」の日本語ルールとカードを配布する予定なので、どうぞお立ち寄り頂ければ幸いです。「ペーター・ハルラー」は後日このサイトにてデータを公開予定です。
ゲーム本体にも元からソロプレイルールが付属していますが、こちらはスコアアタックの趣があるルールです。「ペーター・ハルラー」はソロプレイに慣れた人向けの、より対人プレイに寄せたNPCとの対戦ルールという違いがあります。
もう一つ、日本語版のちょっぴりアピールポイント。写真ではわかりづらいかもしれませんが、箱の芯材が厚くなり、箱の耐久性が高まりました。持ち上げてみると中身がぎっしり詰まって重量感があります。
プラハ 王国の首都(2021/原版は2020)
プレイ人数:1-4人
対象年齢:12歳以上
プレイ時間:45-150分
ゲームデザイン:Vladimír Suchý
アートワーク:Milan Vavroň
出版社:Delicious Games / 数寄ゲームズ
小売希望価格:8800円(イベント特価8500円)
ラベル:プラハ 王国の首都