2021年01月18日

ゲーム紹介「Minigolf Designer / ミニゴルフデザイナー」



 「Minigolf Designer」は、ミニチュアゴルフ(パターゴルフ)のコースデザイナーとなり、クライアント夫妻の要望を基に最高のゴルフコースをデザインするゲームです。出版社は新興のThematic Games、作者はこれがデビュー作となるAlban Nantyと、良くも悪くも未知数なタイトルながら、ユニークなテーマと遊びやすい内容で要注目な作品となっています。

◆ボードゲーム版「シムゴルフ」を遊びたかった!

 のっけから極めて個人的な話で申し訳ないのですが、ぼくは2001年に発売されたPCゲーム「シムゴルフ」が大好きでして、ゴルフコース作成ゲーム、めちゃくちゃ遊びたかったのです。
 「シムゴルフ」はその名前からも分かる通り、「シムシティ」などで知られるシムシリーズの一作で、これまた想像のつく通りのゴルフリゾート経営シミュレーションとなっています。自由にコースをエディットできるので、プロゴルファー猿もかくやというような攻略不可能じみた難ホールを作ったりできるんですが、そういうホールを作るといつまでもお客さんがホールアウトできず、組が渋滞してコースの評判が下がる! という連鎖が起きるため、ほどよいコースを作ることを求められたりします。

 というかどっちかと言えば、お客さんにはさっさとホールアウトして貰ってコースの回転率を上げるために、600ヤードPAR5のコースで傾斜をめっちゃつけてどこに打ってもボールが延々転がってグリーンにワンオンするような北の将軍様接待ホールみたいなのばっかり作ってました。
 ともあれ、そんな感じでゴルフコースのエディットゲームは熱い! 遊びたい! とは日頃から思っていまして。どうにかボドゲでそれが実現できないものかと一人妄想もしてたので、このゲームを知ったときにはもう「マストバイ!」という気分でした。
 ちなみにトンデモゴルフカードゲーム「グリーン」も、ぼくは大好きです。



◆自分だけのゴルフコースをデザインするタイル配置ゲーム

 話を戻して「Minigolf Designer」は、タイル置き場から手番順に1枚ずつタイルを取り、自分のレイアウトに配置してゴルフコースの完成を目指すタイル配置ゲームです。
 ゲームのセットアップで配られる「土地カード」を元にコースレイアウトを決めるのですが、「限られた区画内で9ホールを作らなければならない」「ホールのグリーンと次のホールのティーはなるべく接続させたい」「土地は全部埋めなければならない」「各ホールの打数は3〜5に収めたい」「コース全体の打数は36打ピッタリにしたい」といったゴルフならではの縛りがよく効いていて、場当たり的にタイルを選択するのではなく、ホールの全体像をざっくり脳内で描いてコースを拡張しつつ時には修正する、という流れがよくできているんですよね。

 また、こうしたタイル配置ゲームでは基本的に1辺が接するようにタイルを配置することが多いのですが、このゲームでは「タイル同士が角で隣接するような配置もOK」という「ブロックス」的な配置もできて、これによって先を見越したタイル選択も重要なのがよくできています。
 とは言え、タイル同士は「カルカソンヌ」のように矛盾のない模様の接続が必要なので、こうした「斜め置き」は将来の待ちを狭めるリスクを持ちます。
 この手のゲームのキモとして終盤ほどタイル配置の選択肢は狭まるので将来のリスクはなるべく抑えたいのですが、なにせこのゲームはゴルフ場を作るゲームです。つまり、十分な数のティーとグリーンが必ず必要になります! 「今はティーいらないんだけど、絶対後で使うから取っとかなきゃ……!」みたいなジレンマにプレイヤーは終始悩まされることになります。
 タイル配置のルールはシンプルでわかりやすく、かつテーマに沿った内容で呑み込みやすいのが◎。ゲームにテーマを乗せる一番の理由かつ効能は、すなわち「ルールを咀嚼しやすくすること」なんですが、このゲームはそこが実に気持ちよく作られています。それでいて、タイルの都合でティーとグリーンだけしかないパー2のホールなんかもできちゃったりして、リアルさとありえなさのバランスもよくできています。

 ゲームは誰かがコースを完成させたところで終了トリガーが引かれ、全員がコースを完成させるか設計中止したところでゲームが終了します。
 最終的な得点計算として、「人気度」「完成速度」「クライアント夫人の要望」「クライアントの要望」「難易度」「土地活用度」「快適度」「可用性」の各項目を採点して、最も満足ポイントを稼いだプレイヤーが勝者となります。
 上級者向けのアドバンスルールでは各項目でマジョリティを競う契約の要素が加わり、より尖ったコースデザインを求められます。

◆「キングドミノ」から、さらに一歩踏み込んだタイルドラフト

 コースデザインに使用するタイルは、それぞれ裏面に数字が書かれていてタイル置き場に昇順に並んでいます。プレイヤーがタイルを選択すると同時にコマを置くことで次のラウンドの手番順も決まり……
 もうここまで言えばこのブログを読んでいる方には説明は不要でしょう。そう、このゲームでは「キングドミノ」のタイルドラフトシステムを採用しています。

 実は「キングドミノ」のあのルール、めちゃくちゃ管理が面倒な変則手番順システムを誰でも遊べるように簡潔明瞭に表現したエポックな仕組みではありまして、個人的に物凄く高く評価しているメカニクスです。「Minigolf Designer」もやっていることは同じなんですが、キックスターターのゲーム特有のリッチなコンポーネント仕様で、「キングドミノ」にはできなかった「あること」を実現しています。
 それがベルトコンベア式タイル補充システム(勝手に命名)です。「Minigolf Designer」にはタイル置き場となるボードが3枚用意されており、これらがベルトコンベア式に入れ替わることによって実にストレスなくタイルを取っていけるんですね。

 「キングドミノ」ってタイルの「選択」と「獲得」にはタイムラグがあって、それが「キングドミノ」特有の滑らかさと言いますか、一手と一手の繋がりを生み出しているんですが、王様コマの下にあるタイルを取るのではなく、これから王様コマを置くタイルを誤って取ってしまうことがあるんですよね。反復横跳びのUIが混乱を招きやすいというか。
 それを完全に解消するためにはタイル置き場を3つ用意して、それらをぐるぐる利用することではないか…… とは、ぼくも考えていたんですけども、コンポーネントが大掛かりになってしまって、現実的ではないなとも思っていたのです。このゲームではそれを実現してタイルの「選択」と「獲得」をタイムラグなく行えるので、個人的には「やるな!」と快哉を叫びたいです。

 また、システムこそ「キングドミノ」に倣ってはいますが、当然ながらタイルの形状はドミノ型ではないのでプレイフィールは異なります。「キングドミノ」は訪れる未来を取捨選択するゲームと言いますか、様々な方向に伸びるはずだった未来から状況に応じて最適な選択肢を選び取って一つの結果に収束させるゲームなんですけども、「Minigolf Designer」は、(おぼろげながら)理想的な未来が最初に提示されていて、タイル運に翻弄されつつもそれに向かってなんとか進んでいく風情があります。

 手番には「タイルを獲得する」以外の選択肢として「パスを行う」という選択肢もあり、これはこの手番でのタイル獲得を完全に諦める代わりに次の手番順を最速にするというオプションで、これによって手番順の変動がよりダイナミックになるとともに「本当にいらないタイルならパスしてもいい」という割り切りができてストレスレスです。単純に「キングドミノ」を引用するのではなく、結構な研究の跡が窺えます。

 結果として、コースが完成した時は、結構思った通りのコースデザインになってます。こういうゲームって「作ってみて実際にそれっぽいコースになるの?」という懸念があるとは思うんですが、いや、これがちゃんとしたコースになるんですよ。ちゃんと作れば。

◆ミニゴルフというテーマ選択の鋭さに着目!

 Thematic Gamesという名前からも分かる通り、ぶっ刺さるテーマ選択(主にぼくに)に全振りしてきたこの出版社ですが、タダのイロモノではなく、実は合理的なコンセプトデザインが垣間見えます。
 まず、テーマが「ゴルフ」ではなく「ミニゴルフ」であること。これは以下のような利点があります。

・9ホール作るだけでいい省力設計
 ゴルフコースは18ホールで構成されているため、もしこれを完全に再現しようとしたら素直に面倒です(手数がめちゃ多くなるし、時間も伸びる……)。ミニゴルフコースは半分の9ホールで構成されているため、コースエディットを楽しむボリュームとしてはいい落とし所です。
 もちろん「ゲームだから」という理由でホール数を減らすことはできるんですけども、なんかそれだとテーマ性としてはどうなのよ、という話にもなるのです。この点をクリアしているのは大きな加点です。

・ゴルフコースのデザインにバラエティがある
 「Minigolf Designer」ではホールを構成するタイルは赤の「通路」と緑の「コース外」に分けられています。この色味の区分けがグッド!
 普通にゴルフコースを作ろうとすると盤面が緑一色に染まってしまい、見た目の面白さに欠ける上にプレイアビリティ的にも不都合があります。
 またミニゴルフならではのマリオゴルフじみた障害物の数々は「そんなんアリ!?」とツッコミ甲斐もあり、完成時には見た目にも面白いコースができあがって満足感があります。

・グリーンの扱いが合理的
 ゴルフコースに必ず必要なのがティーとグリーンです。そしてこの両者は必ず1対1で結びついている必要があります。
 その上で、ゴルフコースって必ずフェアウェイとグリーンが繋がっているワケではないので、この1対1の結びつきを手間なく表現するのって結構難しかったりします。孤島にあるあのグリーンは果たして何番ホールのグリーンなのか…… というような。
 ミニゴルフの場合、ティーとグリーンは通路で必ず繋がっているので、その結びつきが明瞭です。パッと見にも流れを追いやすくジオラマ感が味わえます。

 また、そもそもが「ゴルファーとしてコースを巡るゲーム」ではなく、「ゴルフコースをエディットするゲーム」というコンセプト自体が面白いですよね。「スポーツゲームに当たりなし」とはボードゲームではよく言われる言葉で、これはスポーツの持つ躍動感やスピード感、派手さといったものを静的なボードゲームでは表現しづらく、よって相性が悪いという話ではあるんですが、このゲームはコースデザイン自体をゲームの主眼に据えることで、そうしたスポーツの呪縛からうまく逃れています。

◆テーマも相まって誰でも遊べる楽しいゲーム

 スポーツを題材にしたゲームと言えば、数寄ゲームズで扱っている「タイムオブサッカー」もありますが、あちらはサッカー好きが作ったちょっとネジのハズれたゲーマーズゲーム(だがそれがいい)なのに対して、こちらは家族で遊ぶことを相当に意識したモダンなファミリーゲームに仕上がっています。
 言い換えれば、ゲーマーが喜ぶような斬新なシステムやルールには欠けますし、一手に様々な深慮遠謀を塗り込んで相手の急所を狙い撃つ戦略ゲーならではの重厚さや重苦しさもありません。どっちかと言えば、わんこそばのようなリズムよく手番が進んでいくタイプのゲームです。

 それでいて手応えがスカスカしているかと言えばそんなことはなく、時にリスクを取って将来に必要なタイルを取らなければなりませんし、「このタイル、1手番後なら取れたのに!」と叫ばずに済むようなマネジメント、待ちの広さを意識したプレイングも要求されます。タイル引きの運要素はありながら、結果的にうまく進められた人が勝つ、運と実力のバランスがすごく整ったゲームだと感じています。

 そんなワケで普段からスプロッターとかシュピールヴォルクスのゲームばっかりやってるスレきったゲーマー以外には全力でオススメしたい「Minigolf Designer」。テーマ、コンポーネント、システムがハイレベルで揃ったゲームで(あ、でも、アートは賛否両論あるかもしれないヘタウマ感はあり。ぼくは好きだけど)、買って遊んで損のないゲームだと思います。
 今年もこんな感じで唐突に和訳付き輸入ゲームを紹介していきたいと思っていますが、2021年一発目のサプライズとなる本作をぜひお試し頂ければ幸いです。
ラベル:Minigolf Designer
posted by 円卓P at 22:45| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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