2021年01月18日

ゲーム紹介「アクアティカ:氷海」



◆まずは「アクアティカ」の紹介を

 2019年のエッセンシュピールで発表された「アクアティカ」は、「手番に1枚のカードをプレイするだけ」というシンプルな手続きと、「マンタトークンやロケーションカードを利用したフリーアクションの組み合わせ」でコンボ性を演出する華やかさがマッチした極めて現代的なゲームとして注目を集めました。

 発売元は「スマートフォン株式会社」で一躍その名を知られることになったロシアのCosmodrome Gamesで、「アクアティカ」自体は現在7カ国で流通している人気作です(ポーランドのPotal GamesとかイタリアのCranio Creationsとかが扱ってる)。
 また、「スマートフォン株式会社」は、全面2層レイヤーボードという大掛かりなコンポーネントが話題となりましたが(折り畳むと超分厚い!)、こちらの「アクアティカ」も3層レイヤーのプレイヤーボードというこれまた新機軸のコンポーネントを引っさげて登場しました。この3層レイヤーボードは、カードを差し込むことでカードの状態変化をストレスレスに追跡できる点がエポックで、新技術の投入が見た目の変化だけに留まらずプレイアビリティの向上に繋がっている点が特筆に値します。

 そんな野心的な試みを持つ「アクアティカ」は、発売当初から「最大4人プレイなのに5人プレイ用のスペースがある」など、拡張展開をプンプンと匂わせていていました。野心的というか冒険的というか……
 幸いなことに「アクアティカ」は各国で人気を博し、この拡張展開もポシャらず実現する運びになりました。そうした事情もあり、この度発売される「アクアティカ:氷海」は、まさにファン待望の一作ということになります。

 「アクアティカ」自体の紹介については過去の紹介記事もご覧頂くことで、より深く知ることができるかと思います。
 こちらのプレイ感想もどうぞ。

◆新要素の一番の目玉! 「部族」モジュールとは?

 さて、ここからは具体的に「アクアティカ:氷海」の新要素について触れていきましょう。新登場の「部族」モジュールは、基本ゲームの「目標」モジュールと差し替えて使用する新システムです。

 元の「アクアティカ」には、全員共通の4つの「目標」があり、誰かがその全てを達成することでゲームが終了に向かう仕組みです。基本的にはより早く「目標」を達成することでより多くの勝利点を得ることができるのですが、仕組み自体にゲーム的な駆け引きは薄く、「とにかく早く達成を目指すのが最善」というシンプルな早取りレースではありました。

 初級ルールの目標は普段からボードゲームを嗜んでいる人だと7手番くらいで全部達成できてしまうため、これだけを見て「あっという間に終わってしまうゲーム」という印象を持ってしまう人もいたかもしれません。上級ルールだと攻略に必要な手数は大分増えるんですが、初回の印象に引きずられることはままあるものですよね。
 個人的にはゲームに慣れている人向けには「インストがてらに初級ルールを1回、その後上級ルールを1回遊ぶところまでをワンセット」として遊ぶのをオススメします。まあ、時間があればですけども。



 そして、今回新たに登場する「部族」モジュールは、目標トークンのようにゲーム終了時の得点をもたらすだけでなく、それぞれの「部族」が異なる常時効果/即時効果も与えるゲーマー好みの仕様となっています。「どの部族の効果を軸に戦略を組み立てるか」をゲーム開始時点から模索する、より計画性を求められる作りになりました。



 とても強力、かつ得点も大きい「部族」の雇用は、勝利を目指す上では避けて通れないのですが、実は「目標」ほど気軽にマンタを放り投げられなくなっています。
 というのは、「目標」の達成は言わばフリーアクションのようなもので、本来のメインアクションとは別に手番を消費することなく行えたのですが、部族の「雇用」は(深海シーフォークを雇用するように)1手番をわざわざ使って雇用しなければなりません。
 また、「部族」の雇用では、コインだけでなく、得点化済みのロケーションカードを廃棄することでその得点を仮想コインとして扱える、これまたゲーマー好みの借金めいた仕様があるのですが、これもよくよく考えないと「10点貰える部族を雇用するのに9点を投げてしまった」という事態になりかねません。そのため、基本に比べてコインの価値が上がっているように感じます。

 条件さえ整えば最速で達成が大正義だった目標モジュールに比べて、部族モジュールの活用はかなりテクニカルです。ゲーム終了までの手数も基本的には増加傾向にあり、山札切れによるゲーム終了のみに終了トリガーが絞られました(ちなみに拡張でカード枚数が全般的に増えるのでここも調整が入っています)。
 「部族」モジュールの導入により、ゲームはよりコンボ感が増し、相当にサギ臭い動きができるようになるので、華々しいゲーム展開をお求めの方には特にオススメのモジュールです。一方で勝利への道筋は複雑になるので、基本ゲームのシンプルさがお好みということであれば、今回追加された目標トークンのご利用をオススメします。

 ちなみに部族カードはAとBの2種が10枚ずつあって、1ゲームではAを4種、Bを4種だけしか使わないので、組み合わせのバラエティはかなり豊富ではないかと。それぞれの部族カードもクセのある能力を持っているので、長く楽しめそうです。

◆拡張と言えばこれ! 新カードが続々登場!

 拡張キットと言えば、ゲームプレイをさらに拡充させる新カードの追加がやはり外せません。「アクアティカ」には大きく分けて「海の王」「深海シーフォーク」「ロケーション」の3種のカードがあるのですが、それぞれに新カードが追加されています。



 「海の王」と「深海シーフォーク」を合わせたシーフォークカードでは、新能力の「時間差効果」を持つものが登場します。「時間差効果」は、カードの左側面にテキストが記されているもので、カードプレイ時に通常の効果を行い、さらに捨札の一番上にある時には追加効果を発生させる、一粒で二度おいしいカードです。



 この「時間差効果」は「〇〇する場合、追加の▲▲を得る」といった内容が多いため、カードをプレイする順番がよりパズルチックになります。また、自分の手札を捨てたり、相手の手札を捨てさせたりと言った効果にも深みが生まれることでしょう。まさにそのシナジーを意図した「部族」なんかもあって、「時間差効果」は要注目のカードです。


 部族カード「銀の槌」で時間差効果カードを捨てればエヘヘ……




 「ロケーション」では、5番目の「凍てついた深海」という地形が登場し、5番目のプレイヤーセットのマンタに対応しています。この「凍てついた深海」のロケーションカードには新しい効果として「他人のマンタを1つ疲労させる」「他のロケーションアイコンの効果をコピーして実行する」といったものがあり、特にコピー効果は強力な深海ロケーションアイコンを制約薄めに利用できるので相当に強力です。しかしながら、完全上昇で獲得できるマンタは能力控えめな設定のため、うまくバランスが調整されています。

◆かゆいところに手が届く5人プレイにも対応



 「アクアティカ:氷海」では、基本から予告されていた5人プレイにいよいよ対応します。追加のプレイヤーボード、マンタやカードなど用具一式が追加されていて、より幅広いシーンで遊べるようになりました。

 「拡張キットで5人まで遊べるようになります!」という謳い文句、一昔前はよく目にしたものの、最近では却って珍しさすらあるようにも思います。全世界的にも「大人数で遊べるゲーム」よりも「少人数で遊べるゲーム」への注力が強いトレンドがあり、5人でも遊べる手応えのあるゲームって割と希少ではないかと思います。
 オープン会だと人数調整の効きやすいゲームは重宝するんですが、このご時世としてはなかなか活かしづらいところはあるかもしれません。ともあれ、そういったゲームをお求めの方にはまさにジャストな一作なのではないかと思います。

 ちなみに新要素の部族モジュールではボードの5人目用の目標スペースを躊躇なく潰しているので、「いやこれ結局後からでも5人対応できたんちゃう?」と思ったりなんだり。

◆基本セットのルール変更にも言及

 今回発売する日本語版の「アクアティカ」「アクアティカ:氷海」は2版となり、去年数寄ゲームズで扱った初版の英語版「Aquatica」から若干ルールが更新されています。「アクアティカ:氷海」では、そうしたルールの変更についても言及されていて、英語版と混ぜて遊ぶことができます。
 基本的にはゲームの高速化を図った内容となっていて、初版英語版と拡張日本語版の組み合わせで特定のコンポーネントが足りないということはありません。むしろ2版になってコンポーネントが減ったくらいなので……
 あと2版の基本セットは目標トークンの内容が若干変わっているんですが、これは部族モジュールを使用するなら特に気にならない内容かと思います。

 あと、2版のルールでは表記が曖昧だった「リソース」と「アクション」の差が明確化されています。これは実際に遊んでいる人でも間違いやすいところなので、念の為にここで触れておきますと、「リソース」は「コインと武力」の2種のアイコンを指します。「アクション」はそれ以外のアイコンです。

 また、「リソース」はメインアクションの最中に使用可能で、逆に言えばそれ以外では利用できません。
 「アクション」はメインアクションの最中には使用できず、メインアクションの前後にフリーアクションとしてのみ使用できます。


 ここだけ抑えておけば「リソース」と「アクション」は問題なく活用できるはずです。メインアクションで購入をする時に、「ロケーションからコインを得て、マンタでそのロケーションを上昇させてもう1回コインを得る」とかはできないから気をつけてね!(※「上昇」は「アクション」なので、メインアクション中には使えないのです)

◆新要素でさらに幅広く遊べるように。日本語版から触れるのもいいタイミング

 というワケで「アクアティカ:氷海」、発表から長らくお待たせしましたが、それだけの価値ある内容をお届けできるかと思います。言うてもリリース速度としては日本語版は世界最速の部類ではありまして、やはり去年はコロナの影響が大きく、Cosmodrome Gamesが予定していた出版物の多くが遅延しているようです。



 また、今回は同時に「アクアティカ」の日本語版もリリースします。なのでこれまで「アクアティカ」を遊んだことがない、という方がこれから触れるにもいいタイミングではないかと思います。

 なにせ「アクアティカ」は、手番にカード1枚をプレイするだけというシンプルさ。そしてリソースとアクションによるコンボの爽快感もあり。つまり、わかりやすくて派手さがある。
 これらは日本市場で特に重宝がられる要素です。1ゲーム30-60分というボリューム感もまたよし。拡張ではさらにリプレイアビリティが拡充され、より長く深く楽しむ余地が広がりました。
 また、全体を貫く幻想的なアートは美麗かつ優雅で、深海の蠱惑的な暗さとその奥深くに眠る光景を色とりどりに表現しています。ロシアのゲームは現代的なボードゲームに求められるアートへの意識が相当に強いように感じます。

 余談になりますが、今回の日本語版では日本語ロゴの作成を「ハリウッドセンセーション」のアートワークで評判の高い坂本奈津希さんに依頼しました。坂本さんは職業柄もあってかボードゲームのアートワークには相当にうるさい人なんですけども、「アクアティカ」のアートワークについては「美麗ですね」と一目を置いていらっしゃいました(ぼくは社交辞令だと思っていたんですけども、後で話を聞いてみたらそれ以上の含意があったようです)。
 正直ぼくはあまりアートワークの選り好みがない人種なので、その「美麗」と「美麗じゃない」一線を画すラインがどこに引かれているのか、まったく見えない方なのですが、それからは、ほう、そういうものなのかー、という角度で見ています。なんとなくわかるようなわからないような。

 話が逸れましたが、そういう意味ではコアからカジュアルまで多くの方に楽しんで貰える、極めてバランスのいいタイトルではないかと思っています。それでいてこのゲームならではのリソースマネジメントのユニークさもあり、このゲームだけの確かな魅力を備えたゲームです。この機会にぜひ触って貰えると嬉しいです。

 以下はゲーム内容とは関係のない蛇足です。「アクアティカ」日本語版を出版する意図などについて。




◆「アクアティカ:氷海」をリリースするということ

 去年「アクアティカ」の英語版を販売し、またその内容を堪能した身として、「アクアティカの拡張が出るよ」という話には嬉しさを感じつつも、同時にどうリアクションを返すべきか、という点では非常に難度の高い対応を求められました。
 これは簡単な話で、拡張キットが基本セット以上に売れることはないからです。当たり前の話なんですけど。

 でもって、「アクアティカ」の英語版の流通量はかなり限定的でして、仮にその拡張キットの英語版を販売したとして採算が合うのかと言えば極めて難しい……という勘定だったのです。しかも拡張キットではテキストが増えた「時間差効果」なんてのも登場したおかげで、基本セットの英語版と同じシール添付での対応はさらにコスト増となり、遊ぶ側の立場からしてもシール貼りの手間が増えて満足感は減じるだろうな……という想像ができたんですね。
 基本的に印刷物はスケールメリットが効くものですから、逆に言えば少部数だけを扱うのは縛りがキツいのです。なので「拡張を扱わない」という選択肢も多分にありました。むしろその方がラク! 格段にラク!

 しかしながら。しかしながらいいゲームじゃん「アクアティカ」。概要聞くだけでも面白そうじゃん「アクアティカ:氷海」ということで、うーむうーむと頭を抱えて。
 拡張キットをペイするためには圧倒的に基本セットが足りてないので、一案として基本セットから新しく刷り直すのはどうか、という発想に至りました。シール添付の費用を考えたら日本語版を作る方がむしろ安くなるまであり。
 正直これは賭け金を上乗せするだけのリスキーなプレイなので好ましくはないんですけども、扱うとしたらそれしか選択肢がないよねー、ということで不承不承。

 で、これこれこういう条件なら日本語版として扱えるんですけどー、とCosmodrome Gamesと折衝したところ、拡張を販売するというタイミングもよかったのでしょう、なんとか日本語版を販売できる運びになりました。「やったー!」という嬉しさもある一方で、「サイコロを投げてしまった……」という不安もあり、これからどうなるかは神のみぞ知るといった気分です。
 なので「アクアティカ:氷海」をリリースする、ということは、同時にその親亀となる「アクアティカ」もリリースする、という意味でもあるのです。大変だ!

 しかしながら。また、しかしながらですが。
 「アクアティカ」は、優れたゲームでありながら、まだ世の中に知られていないゲームでもあると思っています。というのはアクアティカ英語版は数寄ゲームズ通販サイトでのみ販売していた商品で、全国的な流通には乗っていないからです。
 去年、英語版を発売してからしばらくが経ち、数寄ゲームズでの動きが止まって「まあ、欲しい人の手元には行き渡ったんだろうなー」と思っていた頃。あることを皮切りに突如急激に在庫が動き始めました。それはゲームマーケットECサイトでの流通開始です。

 皆様もご存知のように去年の春はゲームマーケットが中止となり、代替策としてゲームマーケットECサイトを通して皆様の手元にゲームを届けるという試みがなされました。でまあ、ゲムマ春でも販売予定だった「アクアティカ」の英語版をゲムマECサイトに登録してみたところ、これがあっという間に完売してしまったのです。
 もちろん、数自体はさほど多くはないんですが、それでも流通チャンネルが変わることでこれほど如実に変化が現れるのか、というのは驚きではありましたし、また同時に数寄ゲームズ通販サイトって狭い範囲に向けてやってるんだなーという自省もありました(ただ、狭くやっていることは本当に欲しい人に届けられるという意味でもあり、一概に欠点だとは思ってないんですが)。
 ともあれ、ここからわかることは数寄ゲームズ通販サイトを利用しているのはこのゲームを欲しがってる人のごくごく一部でしかなく、「欲しがっているけど辺りに見当たらない人、買い方がわからない人」が相当数いるんではないかしら、と思えてきたのです。でまあ、日本語版ともなれば直売だけでなく卸でも扱うことができるようになるので、全国のゲームショップさんのお力添えを頂ければなんとかなるんじゃないの、と、こう結論に至ったワケです。

 2020年には日本語版のゲームが200作以上もリリースされたとのことですが、2021年にはその傾向はさらに加速するものと思われます。その状況下で日本語版をリリースするか/しないか、という判断はますます重みを増しています。
 その中で、英語版をまずは扱ってみて、その反応を見てから日本語版の制作を判断できた「アクアティカ」の流れはものすごく健全で幸せなことなんではないかと思っています。最近ボードゲームを始めた方は知らないかもしれませんが、一昔前はそういう流れが主流だったんですけども。
 英語版と日本語版が同時リリースされるような時代になって、遊ぶ側としては大層便利になりましたが、出版社やお店の抱えるリスクはどんどん増大してるんじゃないの、という空気も肌身で感じてはいます。英語版なりを挟んで様子見から入りたいと考えてるところ、結構多いんじゃないかなあと思いつつ、それがなかなか難しい時勢というのもあるにはあります。

 それは翻って言えば「アクアティカ」のゲームの品質自体には確固たる自信があるということでもあります。さっきから不安を零しているのは「まあ、そうは言っても色々なゲームが出版される昨今、目を留めて貰えるかわからんなー!」というぼく自身のビビリであって、ゲーム自体は優れたクオリティを持った自信作なのです。

 なのでまあ、繰り返しになりますが、ぜひ「買って!」と一足飛びには言わないまでも、まずは何かどうにかして「遊んでみて!」と言いたいです。英語版から日本語版へのルート、今では一周回って最大多数の最大幸福を実現しやすい手法なのではないかと仮説を立てているので、今回の例を元に新しい展開ができるかどうか…… 個人的にものすごく注目しています。
posted by 円卓P at 11:40| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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