2019年11月09日

Günter Burkhardtの技巧派トリテ「命中」をリメイクした「地下迷宮と5つの部族」を出版します



 というワケで表題通りなんですけども、トリックテイキングゲームレーベルNo.003として、「命中」をリメイクした「地下迷宮と5つの部族」をゲムマ秋に販売できるように祈っています(もうあとは納品を待つだけなので)。

 プレイ人数は3-5人、対象年齢10歳以上、プレイ時間は30分となっています。イベント価格2000円、数寄ゲームズの他のゲームと同様にその後は一般流通に乗せたいと思っていますが、その際の価格は未定です。今回ちょっと頑張ってしまったので、これまでのシリーズより価格は若干高くなるかもしれません。


 画像クリックで大きな画像が見れます。

 アートワークは描き起こしです。「知略悪略」と同じベルリナーシュピールカルテンが原版の出版社ということもあり、データが残っていなかったので一新を図りました。

 逆に言えばフリーハンドの余地も多かったので、じゃあ、テーマも刷新してみましょうかということで今回は冒険者テーマを載せる形になりました。

 アートワークについてはいくらでも語ることがあるんですが、それだとなかなかゲーム紹介ができないので、それはまた後述します。


 さて、「命中」のリメイクです。良くも悪くもついにここまで来てしまったかという感が否めないんですが……(笑) もう趣味ですよ趣味。

 とは言え、このゲーム、当然ながら出版の意義があると考えたからこその選択でして、他のトリテにはないユニークな魅力が詰まったゲームでもあります。やはりこれもトリテのマスターピースの一つであると考えています。

 このゲームも「知略悪略」も「トランプ、トリックス、ゲーム!」も作風は全然違うんですが、共通点が一つあって、それはトリテが苦手な人にも触ってもらいたいトリテ、ということです。


 非常に多くの事例を耳にするトリテ話なんですけども、「トリテは苦手だけどスカルキングは好き」という感想があります。先日「スカルキング:レジェンド」の日本語版が出ましたね! 素晴らしいことだと思います。

 で、これを更に深堀りしていくと出てくる感想が「スカルキングは手札が弱くても勝てるから好き」です。

 ここが! 実に! 重要な! ポイントで!


 つまり、トリテが苦手な人は「手札が弱いと負けるからイヤ」なんです。


 逆に手札が強ければ勝てるけど、手札で勝ち負けが決まるなら、結局それって手札運に左右される運ゲーじゃないのと。

 「……え、いや、そんなこと言ったってトリテってそういうもんでしょ?」ってなるんですよ。我々トリテ民の思考としては。

 手札運に対しては「強い手札はヒャッハーして、弱い手札は蜂の一刺しを狙う、それがトリテでしょ?」と考えるんです。強ければ強いなりの面白さ、弱ければ弱いなりの面白さ、両方がしみじみと味わえる侘び寂び。それがトリテの良さですよ。はい、それはぼくもそう思います。


 が! 「手札運はありますよね?」と言われたら、く、苦しい! すみませんその通りです! 逃げようがないです!

 トリテ民は、あのスヌーピーの有名なセリフ「配られたカードで勝負するっきゃないのさ…」を全肯定というか諦めて受け入れているワケですが、トリテに限らずボドゲというものは言ってしまえば娯楽なので「バーロー、そんな理不尽は人生だけで十分じゃ!」と言われれば、「はい全く仰るとおりでございまするー!」と白旗を上げざるを得ないワケであります。……これはトリテの立場の弱さの原因の一つです。


 なので、手札運へのエクスキューズ。これが近代的なトリテには常に求められています。

 手札が強いから勝てる。手札が弱いから負ける。予定調和のゲームはもはや時代遅れなんですよ。まあ、このゲームは元々1999年に発売されたものなんですけども……


 なので! このゲームではそうした手札の不平等を解決するための画期的な方策を取り入れました。それがカードの購入です。

 はい、ようやく話が戻ってきましたが、このゲームの一番ユニークなポイントはトリテをする前に点数を支払ってカードを購入するフェイズがあるということです。自分で購入した8枚のカードでトリテをするんです。

 フレーバー的には切り札や高ランクのカード、つまり強い冒険者は雇用するためにより多くのお金と時間が必要となり、弱い冒険者はタダでもホイホイついてくる、みたいなイメージです。


 ランク10は最強! 強い!

 まあ、カードのめくり運の多寡はあるにせよ配り運よりは平等で、かつどのカードを購入するかはプレイヤーに選択権があるので納得感があります。「大枚はたいてその冒険者を雇ったのはさっきのキミでしょ?」と。


 切り札が緑なら緑2も強カード。

 そしてこのゲームでは、このユニークな特徴であるカードの購入をさらに悩ましくする仕掛けが施されています。それが次に続く手役の公開フェイズ。ゲーム的には「パーティ編成フェイズ」となります。

 カードの購入が終わった後、プレイヤーは全員、ポーカーのような手役を公開することで即座に得点を獲得することができます。この役はすごくシンプルな作りで、要は同じランクの組み合わせ、ワンペア、スリーカード、フォーカード……みたいな感じで、複数の冒険者を組み合わせてパーティを編成するイメージになります。


 中途半端なランクでも同じランクを集めたい。

 このゲームの得点手段は大きく2つ、この「パーティの公開」と次のフェイズで説明する「トリックの勝利」とがありますが、極論すればこのゲームはトリックを取らなくてもパーティ公開で得点を稼げば勝てるゲームです。

 なので、一人の英雄に賭けるか、チームワークで勝負するか、どちらの方向性でパーティを整えるかの選択肢がプレイヤーには用意されているワケです。

 単純に強いカードを集めれば勝てるワケではなく、誰もが必要としない空気のようなカードを集めることでも得点を重ねることができる。カードの価値にもう一つの軸が加わったことで、カードの購入の味わいを広げているのがさすがのブルクハルトの手腕と言えましょう。さすブル。


 さて、こうした手役の公開。メルドとも呼ばれるこの概念は近代的な商業トリテにはほとんど見られないものですが、伝統的なトリテではその存在が散見されます。

 おそらくはポーカーとトリテを一緒に楽しむ的なイメージで遊ばれていたと思うんですが、近代的なゲームに親しむ我々からしてみると普通のトリテに比して手札運がさらに強調されていて、ゲームになるのかそれ?(=平等性は担保されているのかそれ?)と疑ってしまう向きがあります(あるいはこの眼差しはトリテを知らない人がトリテに向けるそれと同種かもしれません)。

 もちろん、そうしたゲームはパブゲームの性質が色濃く、競技というよりはギャンブルに寄っているので、運要素への傾斜はその場では問題にはならないんですが、面白いのはそうした本来ギャンブル性を高める手役の公開というメカニクスをカードの購入というメカニクスと組み合わせることでむしろランダム性へのスタビライザーとして機能させているところで、こういう掛け合わせの妙味にぼくはやはりブルクハルトの力量を感じるのです。さすブル。


 まあ、何が言いたかったかと言えば、このゲームは極めて競技性の強いトリテだということです。で、おそらくそれは現代の我々が望むトリテのプレイフィールに極めて近しいのではないか、と考えています。

 ただまあ、これはぼくの仮説なので、果たしてこのゲームが本当にその通りに受け入れられるのかは実際に試してみないとわかりません。とは言え、これまでの2作を見てみる限り、ぼくの仮説はまんざら間違ってもいないんじゃないかと感じてもいます。このゲームを求めている人は絶対にいるはずです。


 あ、そうそう。パーティを公開した後に最後のフェイズがありました。トリックテイキングフェイズです。

 マストフォロートランプありで8トリックをやります。以上。さすブル。


 ……いやまあ、この部分は本当にひねりも何もないどストレートなシンプルトリテなんですが、まあ、ここまで色々な要素を盛り込んだ上にさらにトリテまでひねりを加えると今度は食い合わせになるんでしょう。

 ただ、システムこそシンプルなトリテですが、お互いの手の内はまあバレバレですから、極めて意地の悪いトリテのテクニックがそこかしこで炸裂する面白トリテが楽しめます。切り札狩りなんかも考えただけでワクワクしますよね。


 ちなみにゲームは66点を獲得したプレイヤーがいた場合、ダンジョン深部に安置された聖杯を獲得したことになりゲームに勝利します。66点ピッタリでなくても61点から70点までの範囲で得点を獲得したプレイヤーがいれば、その時点でより聖杯に近い場所にいたプレイヤーが勝利します。



 ちなみにこのダンジョン、ワープの罠が仕掛けられていて、80点をオーバーすると41点の地点に飛ばされてしまいます。あまりに強い冒険者はその本能から無闇にダンジョンを突き進んでしまうので、最後の微調整には神経を尖らせる必要があるでしょう。




 さて、ゲームの紹介が一通り終わったのでアートワークの話をしましょう。「地下迷宮と5つの部族」のアートワークはこのトリテシリーズで毎度お世話になっている別府さいさんの手によるものです。

 今回は冒険者とダンジョンというテーマの選択から、カードに冒険者を割り当てることは決まったのですが、ぼくの当初の考えは「知略悪略」と同様の1スート1キャラクターというものでした。

 ただ、別府さんから「ぜひやりたい!」との申し出を頂き、50枚のカードすべてに異なるキャラを当てる、オールユニークの構成でなんとも華やかで賑やかなゲームに仕上がりました。

 こういうキャラクター満載のゲームはどうしてもキャラを大きく描きがちで、結果として必要な情報が読み取りにくくなることがあります。「細かく描き込まれたキャラの魅力を損ねるのでは?」という気持ちをグッと堪え、今回は敢えてキャラは小さめに、背景色の面積を広くして遊びやすさを担保しています。


 さらに得点トラックとなるボードも地上の建物やダンジョンの奥深くまで細かく描き込まれた力作です。トリテを遊んでいる時に聞かれる「これってどんなゲーム?」という質問は、結構答えにくかったりもするんですが(マジで困るゲームが2,3で収まらないので困る)、これなら傍からパッと見でもゲームの目的がわかるので、テーマ選択の貢献が大きい部分ではないかなと思っています。

 同じような話で、いざこのゲームを遊びたいと思って同卓者にプレゼンするときも「ギュンター・ブルクハルトの絶版トリテのリメイクです!」でノッてくれる人はまあ少数派なワケでして、やはりフックを増やしたほうが遊べる機会も増え、結果としてよいゲームが遊ばれる機会が増えるのではないかと考えています。


 布製のボードは、アートとして美麗さを保ち、なおかつ得点トラックとして機能性を持つデザインを色々と苦労しながら模索したものです。「ダンジョンのそれぞれの階層でガラリと風合いを変えようぜ!」というのはぼくから出した提案で、「世界樹の迷宮」の影響が強いんですが、これが一枚絵としてはカラフルで見栄えがいいんですけど得点トラックとしては統一感がなさすぎて使いづらいという欠点も抱えていまして、このジレンマを解決するためには相当な苦労がありました。


 ボードのラフ。この頃はええ雰囲気じゃないですかと素直に喜んでたんですが……



 背景を描き込んでみると得点トラックの機能性が弱まるので得点マスを明確化するとか。



 あるいは色彩も統一して得点トラックに徹するのはどうかとか。



 いやー、言うてもキレイなボードで遊びたいんで、こんな感じでどうですかと提案。フォントがしょぼいのはぼく提案だからです。



 そんじゃこんなんで? こんなんで? を繰り返す暗中模索。



 最終的には得点マス自体を除くという解決を見ました。


 やはり遊ぶなら美麗なボードで遊びたい。その上で機能性ももちろん必要というのは贅沢な要求ではあって、なんで原版がノンテーマに近い内容なのかいう理由もわかった気がしました。

 ただ、これってアートだけに限らずシステムでもよくある話で、いいシステムはできたけど合致するテーマが見当たらない! というのはトリテ作りあるあるです。

 これはトリテの逃げられない宿命だと思っているので、苦しいけど精一杯向き合うしかないなあ、と腹を括っています。正解か間違いかはともかく、現時点での答えはこれです、というのだけはハッキリと提示しよう、とは常に思っています。


 ボードに話が及んだので製造の話もしましょう。今回、得点トラックを布ボードとして用意したのは夢物語の一つの実現ではありました。

 「もし『命中』がリメイクされるなら得点トラックはボードであって欲しいよね〜!」という理想に対して「そりゃあ確かに嬉しいけど、でも大人の事情で無理じゃんよ〜!」みたいな複雑な思いは当然あったワケです。

 原版はまあ、チープさすらも味わいがあるんですが、それはゲームへの過剰な思い入れの産物という側面もありまして、2019年の基準で冷静に考えればその再現はやはり逃げの選択にも見えるワケです。知らない人が見たらやっぱりちょっとガッカリしてしまうし、ゲームの本質と離れた部分で評価を下げてしまうのはあまりにゲームが勿体ないと思いました。


 なので、予算を考えれば現実的ではない。それが答えでした。……1年前までは。


 この1年間、もっと言えば、同人からゲームを作り始めた5年間の蓄積がこの夢をようやく現実のラインにまで押し上げました。成功するか失敗するかはわからないけれど、チャレンジはできる、までは辿り着いたんです。

 傍目には全然わからないと思うんですが、ぼく内部のボードゲームの作り方はガンガンアップデートを続けていまして、一年前、自分の中の製造ノウハウのベストを尽くした「知略悪略」ですら、今では次善の手法になっています。

 つまり、それってトリテシリーズが続いたからこそ、続けたからこそ、辿り着けた世界線なんです。やらなかったら、できなかった。

 そこから言えることは、ここでもう一つノウハウを積み上げることで、もっと豊かな世界線に移れる可能性がある、ということでもあります。現時点では無理であっても続けることで可能性の領域を少しずつ広げていくことができます。


 実は「トランプ、トリックス、ゲーム!」で、物凄く悔しい思いをしたことがありまして、それは購入した方からの「原版にはあったカードのエンボスはないんですか?」という問い合わせでした。

 「ないです。申し訳ないですが仕様です。」と答えるしかありませんでした。「トランプ、トリックス、ゲーム!」は、特にファランクス版との相違が少ないこともあるため、余計に目についたのではないかと思います。


 今回のカード、実は、エンボスあります。多分あるはずです。



 多分、というのはまだ手元にないから確認できていないだけで、仕様としてはあるはずです! 写真ではエンボスあったんで大丈夫だと思うんですけど……

 だから、そう、これも可能領域の拡大の一つなんです。これが「トランプ、トリックス、ゲーム!」でもできていたらなあ、という思いはもちろんあるんですけども、そこまで待っていたら今「地下迷宮と5つの部族」にはチャレンジができていなかったので。

 細かく説明するとめちゃくちゃ長くなってしまうんで割愛しますけど、「トランプ、トリックス、ゲーム!」を作ったからこそ「地下迷宮と5つの部族」に挑戦できた。実はそういう因果関係があるんです。


 なので! どうか次の因果を結ばせて欲しい! これはぼくの切なる願いです。一年前のぼくは「命中」をリメイクすることになるなんて全く思ってもいませんでした。「いや、無理だから。色々と。」

 ということは、来年には今考えてもいないゲームを手掛けているかもしれないワケです。この考えを面白いと思って貰えるなら未来を買うつもりで1個買ってもらいたいワケです。


 あと、この布ボードを入れるにあたって「シリーズものなので、箱はアミーゴサイズから変えたくない」というジレンマが浮かび上がったのですが、そこは「よし、そんなら箱の厚みを2倍にしよう!」という力技で解決を図ることにしました。

 この力技を実行できたのも、やはり製造ノウハウの蓄積があってこそなので、振り返ってみれば、無理だと思っていたことを一つ一つ潰して来た結果がようやく繋がったんだなあ、よくできたもんだなあ、と思っています。

 小箱と言いつつ体積的にかなりの存在感を持つゲームになったのではないかと思いますが、まだ現物を見ていないのでそこはわかりません!


 そんなワケで「地下迷宮と5つの部族」は現時点でのベストを尽くしたと心から思っています。

 前回の「トランプ、トリックス、ゲーム!」は間違いなく面白いゲームではあるんですけども、レア加減で言えば中くらいというか、まあ、某S屋で5000円くらいで手に入らないこともないくらいの感じで、ゲーム自体の販売コンセプトはどちらかと言えばまだトリテを知らない人向けの提案という側面が強かったんです。

 ただ、今回の「命中」原版は某S屋ではそもそも出品されないレベルのレア加減なので、知らない人向けというよりも知ってる人に向けた提案になります。まあ、これまでの2作に付き合ってくださった方々への恩返しという側面もあります。

 ただ、もう、これは前2作に比べても完全に趣味に走ってるなーという風情も否めないので。改めてこのシリーズの継続のためにもぜひ! どうか! 購入をご検討ください! ストレートに言えば買ってください!

 ……毎回毎回「コンヤガヤマダ」と言ってる記憶がありますが、まあ、例によって今回も続くか否かの分水嶺です。しかしこれが受け入れられるようであれば、やっぱり色々できるチャレンジも広がるので、もう買ってちょうだい! としか言いようがありません。

 今だからこそできる、今求められている、今こそ必要な、トリテです。ぜひ、ゲムマでお買い求めください!


地下迷宮と5つの部族
ゲームデザイン:Günter Burkhardt
アートワーク:別府さい

プレイ人数:3−5人
対象年齢:10歳以上
プレイ時間:30分

イベント価格:2000円
posted by 円卓P at 12:51| Comment(0) | 地下迷宮と5つの部族 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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