
大阪ゲムマで新版を再販する百科審議官。2006年に初版が発売されて好評を博したこのゲームも今となっては知らない人の方が大多数かもしれませんね。かくいうぼくも当時のことは人から聞いた話でしか知らなかったりします。
ちなみに百科審議官が発売された時のゲムマ新作アンケートがこちら。百科審議官は平均評価4.22の堂々の評価第1位を獲得。そして続く2位には国内外を見渡しても奇抜さでは群を抜くトリックテイキングゲーム、落水邸物語が入賞していてそのレベルの高さに驚かされるとともに、往時の熱量をも感じさせてくれます。
それから12年が経ちましたが、今もなお百科審議官は、独自の立ち位置を失わないユニークな魅力を備えたゲームです。今回、デザイナーの千石一郎さんにぼくが再販を持ちかけたのも「今この時代にもう一度このゲームが遊べる環境があってもいいんじゃないの?」と思ったからです。あと単純にぼく自身、現物が欲しいからというのも理由としては大きいんですけどもw
さて、このゲームは「自分の決めた秘密のルールを守りつつ、他人の決めた秘密のルールの正体を暴く」論理ワードゲームとでもいうべきゲームです。ある種の正体隠匿型ゲームとも言えるかもしれません。勝利を目指すためには自分のルールを極力隠しつつ、他人のルールを暴いていく論理的思考力が必要になります。
ゲームの開始時に各プレイヤーは色つきの付箋を受け取り、そこに自分だけの「物を区別するルール」をこっそり記します。ルールは例えば「魚屋で買える」とか「両手で持てる」とか「自分で動く」と言った形式で書きます。

各プレイヤーが決めた秘密のルールは付箋と同色のひもと対応しています。ひもの内側はルールに対してYESと答えるものの範囲、ひもの外側はルールに対してYESと答えられないものの範囲になります。
その上で3本のひもはテーブルの上に重ねて配置します。こうすることで7つの区画が生まれ、3つのルールに対するモノの関係性を示せるようになりました。

例えば3つのひもが重なる真ん中の区画はすべてのルールに対してYESと答える区画になるわけです。つまりこの区画には「魚屋で買えて」「両手で持てて」「自分で動く」モノが入るワケです。うーん、サンマとかですかね?
さて、ゲームが始まるとプレイヤーは付箋に「ことば」を一つ書いて各プレイヤーに質問します。例えば「わかめ」という単語を書いたとしましょう。これは「あなたのルールに『わかめ』は当てはまりますか?」という質問になります。
各プレイヤーは自分のルールに対してその言葉が当てはまるかどうかを答えます。わかめは「魚屋で買える」のでこのルールに対してはYESという答えになりますね。
「両手で持てる」は、どうでしょうか? 市販のわかめは小さくカットされて袋に入ってますが、海の中のわかめは結構大きく育つ印象もあります。ちょっと微妙なところですね。まあ、正確な答えがわからない時は印象で決めてしまってもいいです。なにせこのゲームが生まれた12年前はスマホもありませんでした。ということで答えはNOということにしておきましょう。
「自分で動く」は、海流でゆらゆら揺れることはあるでしょうけど、自分の力で動いているワケではないのでNOになるでしょうね。
と言う感じで質問にYES/NOを返すんですが、実際には各プレイヤーは自分のルールを秘密にしたままYES/NOだけを答えます。そして全員の答えが揃うと、付箋が貼られる区画が決まります。結果的に「わかめ」は図でいうところの「マグロ半身」と同じ区画に貼られることになります。もしこれが手番プレイヤーが今回の得点区画として選んだ区画だった場合、プレイヤーは得点を獲得することができます。

プレイヤーの目的のひとつはすべての区画に自分の付箋を貼ることです。そのためには他人のルールを完璧ではなくてもある程度把握する必要があります。「両手で持てる」というルール自体はわからなくても「なんとなく小さいもの」というルールの雰囲気が掴めれば勝利にグッと近づきます。
ゲームの開始時には各人のルールがまったくわからないので狙った区画に付箋を貼ることは困難を極めます。自分のルールだけがYESとなる区画を狙っていても意図せず他人のルールにとってもYESとなる「ことば」を選んでしまうことはよくあることです。
時には自分のルールがバレてしまうような「ことば」をチョイスする必要があるかもしれません。このゲームにはそういう独特の攻防というか他プレイヤーとの間合いを測る味わいがあります。
また、秘密の暗号を解き明かすスパイのような気持ちで、この世界を構成する謎の大元に少しずつ近づいていくところにこのゲームの手強さがあります。そして首尾よくルールを解き明かした暁には、まるで全能者になったような気持ちで思うがままに「ことば」を操ることができるでしょう。
そう、「ことば」に操られていたプレイヤーが一転して「ことば」を手足のように操るようになる。このプレイヤーの立場の変化、ダイナミックな逆転の構図がこのゲームの一番のカタルシスです。
最初はまったく要領を得ない世界の秘密に手も足も出ず、五里霧中でもがき苦しむかもしれません。でも1回ルールの謎を解き明かした時には百科審議官の世界の美しさがわかるはずです。この深淵で不思議な世界をぜひ一度体感してみてください。
ラベル:百科審議官
【関連する記事】