2016年12月22日

タイブレークの話

 この記事は、Board Game Design Advent Calendar 2016 の第22日目の記事として書いたものです。

 どうも、数寄ゲームズの円卓Pです。なんかボードゲームの動画とかポッドキャストとか色々やってます。ゲーム作りは一昨年のゲームマーケット秋に初出展しましてこれから3年目になります。
 去年に続き、Board Game Design Advent Calendarについて記事を書かせて頂きます。去年の記事は「マジョリティについての話」というドイツゲームによくあるメカニクスの一つの特徴を挙げた内容です。

 で、今年はタイブレークについて書きます。タイブレークというのは言葉通りにタイをブレークすること、引き分け状態を勝ちか負けかに収斂させる方法を指す……のではないかなと思います。とりあえず今回の記事中ではそんな感じの意味合いとして扱います。
 で、このタイブレークという概念はどんなゲームにも大体出てきます。勝利点制のゲームを作るなら、ゲームの終了時に勝利点トップタイのプレイヤーがいた場合、どちらを最終的な勝者とするのか、あるいは「全員が勝利を分かち合う」のか、デザイナーはルールにそれを書き記す必要があるでしょう。
 勝ち負けを分けるのは副次的なリソースだったり手番順だったり…… つまりタイブレークのルールには「結局このゲームにおいては何が大切なのか」が込められています。タイブレークのルール設計によってゲームの方向性をより良く伝えることができるのではないかという話を今回はしてみたいと思います。

 さて、年の瀬になって振り返ってみれば今年もそれなりに多くのゲームに触れてきましたが、今年最も鮮明に覚えているタイブレークのルール…… それはレスリングです。

 いやあ、オリンピックの緊張感は凄かったですね。吉田沙保里選手、残念でした。普段はオリンピック全然見ないマンなんですが、吉田沙保里選手の試合だけは見逃すまいと思って、あの日は夜更かししたのでした。

 いきなりボードゲームから離れた話題でズッコケてる方もいるかもしれませんが、さて、レスリングはポイント制の2人用ゲームです。ゲーム終了時に獲得ポイントの高いプレイヤーが勝利します。そしてフォール勝ちやテクニカルフォールと言ったサドンデスルールもあります。ポイントとサドンデスを併用しているのは、ボードゲームで言えば世界の七不思議:デュエルみたいな感じですね。
 でまあ、サドンデスで決着した試合はおいといて、取り上げたいのは時間切れ同点で終わった場合です。この場合、レスリングのタイブレークルールは以下のように規定されています。

http://www.japan-wrestling.jp/wrestling_rule/

■同点で終わった場合は下記の基準で勝敗を決める。
(1) ビッグポイントの多い選手
(2) 警告が少ない選手 
(3) ラストポイントを取った選手 ⇒ 両者とも2点と判定された展開が最後だった場合は、その技を仕掛けた選手が勝利


 この3つのルールにはそれぞれデザイナーの「レスリングとはこういうゲームであって欲しい」という意思が垣間見えます。が、とりあえず(1)と(2)の説明は割愛します。このルールは真の意味でのタイブレークとしては機能していないからです。
 真の意味でのタイブレーク…… カッコイイ表現だ…… まあ、別にちょっと気取ったことを言いたいワケではなくて、(1)と(2)のルールは両者ともに同値である可能性があって、このルールだけで勝ちと負けを完全に切り分けることはできないんですよね。
 仮に(1)(2)のルールがなくても(3)があれば勝者か決まります。逆に(3)がなかったら(1)(2)のルールだけでは勝者を決められない場合があります。そういう意味でタイブレークとして完全に機能していると言えるのは(3)のルールだけなんです。

 「……ん、だけど両者0ポイントの場合、(3)のルールでも勝敗を切り分けることはできないぞ?」と思った方、なかなかルールを読むことに慣れている方ですね。ぼくも今気づきました。

 で、慌てて今調べてみたところ、レスリングでは試合開始から規定時間が経過した時点で両者0ポイントだった場合、どちらかのレスラーが必ず消極的な試合をしているハズなので審判団は無理矢理にでもどちらかに警告を発して両者0ポイントの状態を崩す、ということらしいです。凄い力技だな!
 この辺、めちゃくちゃ噛み砕いた説明ですので、詳しい人はどうか暖かく見てやってください。

 ともあれ、このルールを加えたことで(3)のルールはようやく完全にタイブレークとして機能することになりました。いやあ、よかったよかった。

 さて、ここで改めて(3)のルールの意図について考えてみましょう。(1)のルールはハイリスクな大技を決めたプレイヤーを評価する意図、(2)のルールはフェアプレイに徹したプレイヤーを評価する意図が窺えます。さて、それでは(3)のルールにはどのような意図があるのでしょうか。

 答えを言えば、(3)には積極的なプレイヤーを評価するという意図があります。先に得点を取ったプレイヤーはリードを守れば時間切れでも勝てるのですから自ずと及び腰になります。しかし、防御に徹したプレイヤーを崩すのは(特にオリンピックのようなハイレベルで選手の技能が拮抗した舞台では)難しいですから、最終的に同点でも劣勢から挽回したプレイヤーをより勝利に近いプレイヤーと見なすワケです。
 同点に追いつかれたらタイブレークルールで負けるとなれば、ポイントで先行しているプレイヤーもなお追加のポイントを狙いに行かなければなりませんし、そうなれば劣勢のプレイヤーにも逆転のチャンスが巡ってくるでしょう。これは安易な先行逃げ切りを許さない、とても良くできたルールだと思います。

 先制点を取ったプレイヤーがそのまま勝ってしまうゲームは、ぼく達の界隈でもあまりよろしくないゲームとして扱われます。逆転の機会をいかにプレイヤーに提供するかはデザイナーの手腕の見せ所ですが、レスリングにおいてもそれは同様なのでしょう。

 こうしたルールの整備によって「レスリングとはプレイヤーが積極的にポイントを取っていくゲームなんだよ」という意思をデザイナーは表明しています。タイブレークのルール設計によってゲームの方向性が明らかになるというこれは一つの例ですね。

 さて、タイブレークのルール設計はゲームの勝敗のみならず、ゲームを構成する各種メカニクスにも歯車として組み込まれています。例えば去年の記事で触れたマジョリティではタイブレークのルール設計は不可欠ですし、メイフォローのトリックテイキングなんかでもこれは避けて通れない課題です。

 例えばメイフォローのトリックテイキングにおいて、あるトリックで最上ランクのカードが複数枚プレイされた場合、先にプレイしたプレイヤーがトリックを取るか、後からプレイしたプレイヤーがトリックを取るか、どのようにタイブレークを設計するかによってゲームの性質はガラリと変わります。
 それは恐らくゲームの目指すべき方向性、トリックを多く取ることを目指すゲームなのか、トリックをなるべく取らないようにするゲームなのか、あるいはビッドに応じてトリック数を調節するゲームなのか、にもよるでしょう。タイブレークはゲームの方向性をより強調するために設計するのが基本になります。

 また、タイブレークの設計次第では、このゲームならではのユニークな味わいを演出することもできます。その例の一つとして挙げられるのは「ハゲタカのえじき」でしょうか。
 これはいわゆるバッティング部分を指してタイブレークと言っているのではなく、全員がバッティングした場合に場札がキャリーオーバーされる部分を指しています。基本的に「ハゲタカのえじき」は1手で獲得できる得点の上限は10点ですが、キャリーオーバーが発生した場合は次のラウンドの得点が11点以上になる可能性があります。まあ、得点が減る場合もあるんですけど。
 タイブレークの設計として全員がバッティングした場合、場札を捨ててもゲームとしては問題なく成立します。しかしながら、キャリーオーバーが発生する方がよりプレイヤーの興奮を掻き立てる展開になることからランドルフは「ハゲタカのえじき」をそのようにデザインしたのでしょう。

 ぼく個人の話をすると「ハゲタカのえじき」はバッティングゲームの常として多人数で遊ぶゲームという印象から4-5人で遊ぶことが多いです。「少なくとも2人で遊ぶゲームじゃねーよ」と思ってもいました。
 結果的にキャリーオーバーが発生したことは稀です。ですが、むしろ2-3人で遊ぶとキャリーオーバーもそれなりに発生するんじゃないでしょうか。
 そうなると切り札となる15をいつ使うのか、相手が15を使ったならこちらはキャリーオーバーも見据えてバッティングを意図して仕掛けていくような、多人数プレイとはまたちょっとキモが異なるゲームに変貌するのかもしれません。

 シンプルなルールの奥底に展開に豊かさを与える仕掛けを隠している。これが凡百のバッティングゲームとは一線を画す「ハゲタカのえじき」の凄さなのかもしれませんね。うーむ、多人数ゲーだと思い込んでいて、ランドルフくんスマンな!

 ちなみに「ハゲタカのえじき」の総得点でタイが発生した場合はどうするんだろう、と思ってルールを読み返してみたんですが、そこはなんも書いてないですね…… まあ、そういうこともあります。

 さて、もう一つユニークなタイブレークルールの設計の実例を挙げたいと思います。それは「そんな顔してどうしたの?」です。ああっ、漂うステマ臭!
 このゲーム、出題者の動物の顔まねを見て、どの動物の顔まねをしているかを回答者が当てるゲームなんですが、正解者が複数いた場合「直接対決」というタイブレークルールが発動します。

 ちなみにこの「直接対決」は原文では「FACE-OFF」というのですが、デザイナーのPenelope Taylorさんが「顔まねゲームでFACE-OFFって、ププッ、シャレてるわー」と思いながら名付けたのではないかと推測しています。訳文ではその辺のダジャレ感を演出できなかったのはちょっと残念なところですが。

 さて、この「直接対決」では、正解者同士が当該の動物の顔まねをするという、かなりぶっ飛んだ処理が唐突に始まります。かつての回答者が今度は顔まねをして、かつての出題者が今度は誰の顔まねが一番ナイスかを判定するんです。
 まあ、そのあべこべ感というか、役割がグルッと反転しちゃう感覚自体がユニークと言えばユニークなんですけども、ぼくが着目したいのはこのタイブレークルールがゲームの局面に幅広さをもたらしているということです。

 このゲームは言ってしまえば、動物の顔まねをいかに上手く再現するかの「表現力」、そして出題者の顔まねがどの動物のものかを見抜く「観察力」、この2つの能力を競うゲームと言えます。そしてこのタイブレークルールのおかげでこのゲームは求められる「表現力」と「観察力」のバランスが毎回変化するゲームになっているなとぼくは感じているのです。
 ……まあ、そこまで真面目に能力を競うゲームかという疑問はここでは置いときます。



 どういうことかと言えば、このようにカードが並んでいて出題者がガバッと口を開けた顔まねを始めたら、回答者一同は「こりゃもう疑う余地なくカコミスルだわ」とカコミスルを指差すことになります。で、その後は正解者全員でカコミスルの顔まねをして、一番ナイスだった人が勝ちになるんですけども、この場合、回答者に求められる能力比は「表現力」:「観察力」が10:0ということになります。観察するまでもなく正解がわかるので、あとはどれだけカコミスルの表情をうまく再現するかの「表現力」の勝負になるワケです。

 逆に同じカードの並びでも例えば出題者がなんか無表情の顔まねを始めたら、これはどの動物の顔まねをしているのか当てるのは難しい…… つまりこの場合、「表現力」よりも「観察力」を競うゲームになるワケです。さらに出題者の表現力の高低によっても求められる「表現力」と「観察力」のバランスは変わってくるでしょう。

 全く同じインターフェースで展開されているにも関わらず、求められる能力が毎回少しずつ変化するこの展開のグラデーション、実は深いゲームなんじゃないですか……? 正直デザイナーさんがそこまでキチンと考えてタイブレークルールを設計したとは思わないんですが(失礼な)、これは天然ならではの直感で正解に辿り着いちゃった一例なんじゃないかと思っています。

 とは言え、正直このタイブレークルールの存在が「そんな顔してどうしたの?」の個性を一段引き上げていることは間違いないので…… フツーのゲームから一歩抜きん出るための工夫とはタイブレーク処理にあるかもしれない、という視座はゲームを作る上で何かしらのヒントになるかもしれません。


 ということでここまでタイブレークルールの幾つかの事例について触れてきました。最後の「そんな顔してどうしたの?」の例でもわかるように個性的なタイブレークルールはゲームのインパクトを決定づける強さを持っていることもあります。
 ただ、凝ったタイブレークルールは煩雑さの裏返しでもあり、どこで力を入れるか、どこで力を抜くかはセンスの求められるところです。ランドルフだってハゲタカの最終得点では手を抜いているんです。力を込めたところで劇的にゲーム展開が広がるのでもなければ無理に工夫を凝らす必要もないでしょう。
 あとは逆にタイブレークの機会を極力なくすゲームデザインというのもあるかと思います。スッキリしたルールになると思いますが、スッキリしすぎて意外性が乏しくなることもあるので、そこをどう味付けするかですね。

 そう、タイブレークルールを考える上で意外性という言葉はキーワードだと思います。基本的に勝ちか負けが本線のところにスッと出てくる第3の道タイブレークの存在感というような。ゲーム自体がスッキリしすぎているならタイブレークでコクを出す的な使い方はあるかもしれません。
 まあ、そこまでタイブレークだけに拘る必要ってないんですけど、なんか一つの手法として頭の隅に留めておくとそのうち役に立つかもしれませんね。


 そんなところで。
posted by 円卓P at 23:41| Comment(0) | ゲームデザイン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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