2014年11月05日

姫騎士逃ゲテ〜製作記録 このデザインを作ったのは誰だ!

 先日ボドゲフリマから帰ってくると玄関に箱が積まれていました。箱の中身は箱。その中身も……箱!?
 という怪異話ではなく、タチキタプリントさんに頼んだ姫騎士逃ゲテ〜の箱が届いたのでした。やったー!



 ちなみに家族に「あの箱何が入ってるの?」と聞かれて「箱」と答えたらめっちゃ怪訝な顔されました。ホントだし! 事実だし! でも、さすがに姫騎士とか言えんじゃろ!
 で、そんな姫騎士逃ゲテ〜の箱と言いますか、デザイン全般については結構な苦労があったんですが、今回はそのお話をさせて頂こうと思います。例によってムチャクチャ長文になってしまいましたので、興味のある方だけお時間を作って追って頂ければと思います。


 記録によるとそれは9月1日のこと。蒼猫の巣の仲間である一発命中Pの一言から始まります(またこの人だよ!)。
 「ちょっと悪い知らせがある」との一発Pの言葉にぼくはすぐさまピンときました。「ダメならダメで次善策考えないといけないから。結果出たんなら教えて」と伝えて返ってきた言葉にぼくは思わず天を仰いだのです。

 「端的にいうと仕事が忙しくてダメが出ました」

 オーマイガー…… なんてこったい……
 さて、どういうことか簡単に説明しますと、一発命中Pという男は(ぼくもよー知らんのですが)なんか編集関係? でコネを持つ人で、イラストレーターさんとかの知り合いが結構いるらしいんですね。
 イラスト? イラストはバチさんにお願いしたんじゃないの? と思われた方。そうです。その通りです。バチさんも一発命中Pからの紹介だったのは以前もお話した通りではありますが、それとは別口に一発命中Pにはもう一つ特命を依頼していたのです。それがカードデザインやロゴなど全体のデザインをお願いできる方との橋渡しです。
 この辺、絵が描けないぼくのような人は絵が描ける人への万能信仰をしばし抱きがちなのですが、「人物や背景などのイラスト」と「カード枠やロゴなどのデザイン」は似てるようで、まっ! たくの! 別枠! まったくの別枠なんであります!
 例えるなら同じ理科の科目でもその内容が物理、化学、生物、地学と別れるようなものでしょうか。イラストとデザインはそれぞれ重なる点もありつつ別個に独立した技術の体系で、この片方を修得するだけでも結構なスキル振りが必要なのに両方を修得するとなるとそれはもう相当経験値が必要になるわけです。まあ、若干の融通は効くとは思うんですが、その辺はぼくは専門ではないのでよくわからない!
 今回のゲームマーケットでも例えばタンサンファブリークさんがアートワークを担当したゲームですとか、長谷川登鯉さんが担当したゲームですとか滅法多いですけど、それはなぜかと言ったらこの界隈で有名な方々はイラストとデザインを両方こなせるマルチなタレントの持ち主だからなんですね。魔法と剣技がいっぺんに使える魔法剣士みたいなもんです。全部パッケージしてくれるんだからそりゃラクだ!
 単純な絵柄の好みで言えば、多分色んな解があるとは思うんですが、別個でデザインを発注する手間や予算など膨れ上がる面倒臭さに目を潰れる人はあんましいないんじゃないかなあと思います。実際手配してて面倒くさいことこの上なくて!

 というワケで一発Pの持って来た話題は「予定してたデザイン担当の方にお願いできなくなった」という悲報だったワケですね。なので早速ぼくは次善の策を検討するフェイズに入りました。もうこの段階でわりかし面倒くさい! バランス調整しなきゃいけないのに!
 一番理想的な解決策があるとしたら、それはバチさんがなんかいいことデザインのスキルも持ちあわせていて「デザイン? そんなの余裕っすよ!」と言ってくれることでしょう。実のところ、その辺は深くは聞いたことがなかったのでした。イラスト自体がどれくらい手間がかかるか依頼の段階では目算が立たなかったこともあり、もうデザインは別の人にお願いしようと最初から決め打ちしていたのです。それがひっくり返されたので今すげー慌ててるんですが。
 ただ、実際作業を進めてみたらバチさんは手の早い方で、予想以上の速度でイラストが上がってきてたので、まあ、ここで追加の作業をお願いしてもなんとかなるんじゃね、的な雰囲気はありました。あと、「アクションカードのイラストのスペース配分とかどれくらいになりますかね」みたいな質問も受けてたりして、その辺はイラスト担当の方がデザインも担当できると自分好みの配分で置けるので案外その方がトータルでまとまるんじゃね、みたいな考えもあったのです。
 で、実際にバチさんに聞いてみたところ。

 「無理です」

 即答でした。これはもうスキル的な問題だと。あれだけ振り幅の広いバチさんでもデザインに対しては仕事を果たせないという…… やはりイラストとデザインはまったくの別物なのだな、という事実に戦慄した瞬間です。
 あるいは誰かデザインの得意な知り合いの人を紹介して貰えないかとか食い下がってはみたんですが、これもダメで。うーーーーーん、これは困ったことになったぞおおおお、という雰囲気が本格的に漂ってまいりました。
 まだだ! まだ終わらんよ! あとはぼくの伝手で、最初にイラストを頼んで断られた人の中で「カードデザインだけとかピンポイントだったらできたんですけど……」という方がいらっしゃったので、その方に至急の連絡を取ることにしましょう! その頃よりも時間的な制約がキツくなってるのが問題ではあるけど、とりあえず聞いてみるより他にはない!

 「すいません、ゲーム会社に詰めて描くことになっちゃったんで……」

 うおおおい、凄いことになってんな! それは残念! 頑張って!

 「円卓P、円卓P」

 なんじゃい一発さん! こっちは結構切羽詰まってるんだけども!

 「いやー、デザインお願いした人が別口を紹介してくれたんだけど」

 え、マジで!? やったあああ! 相当アレじゃなければぼくは乗っかるよ! 乗っからざるを得ない空気だよ!?

 「それがさー、冒険企画局の人紹介されたんだよね」

 なんじゃそれえええええ! 無理! 無理ですぼくの手には余ります絶対無理!

 おかしなことにぼくが負うリスクが凄まじい勢いで膨れ上がったのがこの時期でした。丹念にリスク回避を続けてきたつもりではありましたが、やはりリスクというものは降って湧いて出てくるものなんですNE。って、冗談じゃねえぞおい!
 ともあれ一番のネックはやはり「時間」。入稿までのタイムリミットが45日という状況では打つ手は限られすぎていて、見つかる手にしてもぼくが負うリスクが高まるばかり。

 これは、マジでやばいんじゃないか……!?

 そんな雰囲気が否応なく漂って参りました。
 この姫騎士逃ゲテ〜というゲームは数多の艱難辛苦を乗り越えて完成に至ったゲームではあるのですが、最大の障壁となったのはまさにこの時の「デザインしてくれる人見つからない問題」でした。最低最悪の手段としてぼく自身がデザインをやるという奥の手はあったのですが、バチさんのイラストを損なわないデザインがぼくにできるかと言えば、素人のぼくに何を夢見ているのかという話であって、まあ、それはない。ありえない。
 大体今はゲームの調整でぼくは頭を使わなきゃいけない時期なんですよ! せっかくVASSALを使ったオンラインでのテストプレイ環境が整って。少しずつ。少しずつ姫騎士逃ゲテ〜が非対称対戦ゲームとして形を整えつつあるこの状況で。ぼくが二足のわらじを履く猶予なんかあるはずがないんです。

 クオリティの確保を解決する手段はあることにはあったんです。要は時間不足が最大の原因なので、つまるところ秋ゲムマの出展を諦めて次回に回してしまえば必要な時間を捻出できるし、デザインの方とももう一度話しあう余地が生まれるワケです。まあ、同人誌の製作にしても、アナログゲームの製作にしても、イベントまでに間に合いませんでした、という例は珍しくないワケで、間に合わせの低クオリティでご破産にしてしまうよりも、仕切り直して体勢を整えた方がぼくの望むクオリティのゲームを作れるのは道理です。
 時間の猶予はデザインだけでなくバランスの品質向上にも繋がるでしょうし、秋ゲムマに出展するという考えがそもそも無謀すぎたのかもしれません。テスト版の出展でもそれなりのカッコはつくでしょう。そして勇気ある撤退が時に必要なことをぼくはゲームから学んだはずです。

 ただ、撤退するとして、それでぼくの気持ちには踏ん切りがつくとして。バチさんには心底申し訳ない……!
 せっかく期限を切って、それに間に合うように急いでイラストを上げてくださっているのに、その労力に応えられない自分がいる。ぼくは恥をかけばいい。それはぼくの責任ですし。
 だけど、それに付き合わされたバチさんはいい迷惑だ。記念すべき初の同人体験を自分の与り知らないところで宙ぶらりんのまま半年置かれるという経験で塗り潰すのは、なんというか、それは、人として凄くやってはいけないことなんじゃないか!?

 打つ手なし……
 まったくもって、打つ手なし……
 決断が必要でした。重く、苦しく、痛みの必要な決断が。
 何かを得るために何かを失わなければならない。十全を得るための権利をぼくは既に失っていて、あとはただ撤退戦。それも、なるべく被害が少なくてすむように全力で挑まなければならない撤退戦。
 これがまあ、デビュー戦なんだから、なんというかヒドい有り様です。しかし、これはぼく自身が選んだ戦場なのです。その事実が全くもって度しがたくもあるのですが。
 くっそ、こうなったら……

 ええええええい! わかった! わかったよコンチクショー! やるよ! ぼくがやる! ぼくがデザインやってやる!
 全部ぼくがやる!


 決断の末、まず、ぼくはバチさんの了承を取り付けました。デザインを担当してくれる人が見つからない。その上でぼくがデザインを担当する。多分バチさんのイラストとはまったく釣り合わない。それでもやれる限りはやる。お騒がせして申し訳ない。

 ……まあ、ホントヒドい言い草ではありますが、この時はただただバチさんに説明責任を果たさなければという思いでした。本当に真摯な態度というのはもっと別のやり方であるはずで、ぼくのやっていることはまったく不実の極みではあったのですが、この時はこれが最善の…… とはさすがに言えないな! ぼくにできる限界だったのです。

 で、この時からゲームデザインはひとまず置いといて、アートワークの方のデザインにかかりきりになりました。とりあえず何を置いても急がなければならないのがロゴのデザインで、〆切の迫っていたサークルカットにロゴを載せられるかどうかという瀬戸際でした。
 サークルカットにきちんとしたロゴが載れば、見た人は「あ、これは力入ってんな」と思ってくれるでしょう。技術の問題ではなく本気度の表明です。それは楽屋裏を明かせばハッタリ以外の何物でもないのですが、ハッタリを掛ける余力があるうちに手札は使わなければなおさら不利な状況に追い込まれるのはわかっていたので、今はただ全力で真実になるはずのブラフをかけ続けるしかなかったのです。事実は後から作ればいい!(ダメです)

 そして、ぼくが突貫で作ったのが皆様御存知の姫騎士逃ゲテ〜のロゴになります。色んなツールを試してみたんですが、結局一番手に馴染むAviutlという動画制作ツールでロゴを完成させました。
 姫騎士逃ゲテ〜の逃ゲテ〜の部分は、文字がバウンドするような表現を取っていますが、これはAviutlの動画エフェクトで文字をバウンドさせて、なんかよさげなタイミングでスナップショットを取っています。で、そのタイミングをぼくは厳密にはメモったりしてないので、ロゴによって逃ゲテ〜の位置が実はバラバラだったりします。それじゃアカンなってことである時期からは一定の位置に定まったんですけども。
 このロゴは案外評判悪くはありませんでした。思ったよりも様になってると。ぼくにとっては悪くないという評価よりも、とにかく見た目が安っぽくなければそれでもう十分という考えでした。ブラッシュアップの余地も多分にあったとは思うんですが、何よりもぼくには時間と技術が足りなかったのです。

 ※ぼくが発見したどんなゲームでも絶対ギャルゲーになる配色

 次に手がけたのがキャラカードのデザイン。これはフォトショップ用のフリー素材の飾り枠ブラシを片っ端からダウンロードしては試してを繰り返してなんとか現行の形に持って行きました。フリー素材は偉大! あとシルエットも偉大!
 ぼくにとってありがたかったのは、ロゴやカードデザインを見せた時のバチさんの反応が割と好意的だったことです。本音はまた違うのかもしれませんが、見通しの暗さは幾分か薄れ、これでなんとか戦線を維持できる…… やってやれないことはないという手応えを若干ながら掴めたのでした。

 で、一番難題だったのがアクションカードのデザインです。カード枠のデザインで一番何が困るかと言えば、オッシャレーなデザイン枠というやつは素人には絶対作れないということです。
 なので、ここは極力枠を廃したデザインで行くしかない……! これは逃げだ……! そう、逃げではある……! だが、これはプライドのある逃げだ!

 ところで、世の中のゲーム評価において、デザインにはどれだけの比重がかかっているものなのでしょう。デザインの瑕瑾がどれだけゲームの評価を損ねるものなのでしょう。
 ぼく自身に課せられた責任は重いとは言え、重さにはそれぞれグラデーションがあるはずで、その重責を数値的に可視化したいとまずぼくは思いました。それは重圧に耐え切れず、なんとか外部に言い訳を求めようとしただけなんですが!

 ぼくのこの悩みはあるゲームの発見で一気に解決しました。
 BGGランキング2位の偉大な名作、スルージエイジス! いわばボードゲームの頂点を飾るそのゲームは、数多くの偉大な足跡とは裏腹にカードのデザインは手抜きを疑うほどにシンプル極まりない……!



 つまり! これは! カードのデザインがヘボくても! 世界は狙えるということに他ならない!

 この事実にぼくは救われた気分でいましたが、同時にこれは物凄い勘違いを伴っています。実際、スルージエイジスのカードデザインはムチャクチャシンプルでやる気ない雰囲気なんですが、ゲームとしては凄まじく面白いので、だからあれでも許されているんです。
 つまり、「スルージエイジスと同等のクオリティさえ確保すればいいよね」というのは、逆に言えばゲームの面白さで言えばスルージエイジスに匹敵するものを作り上げなければならないということで、実は自分の首を全力で締め上げていることに…… 残念ながらこの時のぼくは気づいてなかったんです。
 ところでこの記事を書く直前にスルージエイジスがテラミスティカに抜かれて3位に転落し、世界第2位のゲームという惹句を使いづらくなるという妨害工作を受けたんですが、これは一体……

 さて、「カードデザインは別にシンプルでもいい!」という事実(?)に勇気づけられたぼくは実際に色々なゲームをパク…… もとい参考にすることにしました。この「参考」というのはデザインそのものを真似るというよりも、どこまでデザインを省力化しても許されるかというラインを見極める意味での「参考」です。
 スルージエイジスは偉大な先達ではあるがゆえに、安易に近づけば後光で身を焼き焦がしかねないということはアホなぼくでもなんとなくわかっていて、より具体的な着地点としての模倣先を探していたのです。
 そして今回ぼくがパク…… 厚く参考にさせて貰ったのが今年のエッセンのスカウトアクションでも名前が出てきたあの国産ゲーム、Machi-koroこと街コロのそれでした。初期のカード枠のデザインはまるっきり街コロを真似てましたし、その趣は今もかなーり色濃く残っています。やっぱプロのデザインは凄いっすね!(唐突な持ち上げ)

 ※溢れ出る街コロ感

 バチさんのイラストを配置してみると、やはり、もうちょっと、なんか手の施しようはあったんじゃないか、と思わなくもないんですが、下手に装飾を入れたりするとセンスの悪さが露呈するのでぼくにできるギリギリのラインで手を止めました。よし、これでスルージエイジスには勝ったぞ!(暴言)


 その他、カード裏のデザインとかパッケデザインとか色々デザインしなきゃいけないものはあったりしたんですが、まあ、これも全部手作りです。デザイン力ゼロの人間の仕事なので、まあ、ホントダメな感じの一歩手前でなんとか食い止めたレベルのアレです。
 バチさんをはじめ蒼猫の巣の面々には色々と意見を貰いました。パッと見てダメな部分をとにかくリテイクしまくってなんとか見れる形にまで持っていくと。そんなことをずっとやっていました。

 そんな感じで9月の半ばまではデザインに忙殺されていたような記憶があります。デザインを自分でこなすのはいい面もあって、リテイクが凄い気楽にやれますし、唐突なゲームの仕様変更にも都度対応できるので、ゲームの形がこれからもガシガシ変わり続けるこのゲームにおいてはぼく自身がデザインをこなすのはある意味で最適解だったのかもしれないと今では思…… 思わねえよ!
 やっぱり人にやってもらうべきだったよこれは! 次回があるなら絶対人に頼むから! 自分でやろうなんて思わないから!
 だから誰かデザイン力ある方いらっしゃったらホントお願いします! もうちょっと余裕持たせるつもりですから!


 ……という魂の叫びを最後に今回は締めにしたいと思います。プロとアマの違いは何かといえば精度と生産性で、アマがそれを真似るには時間をかける以外にありません。実際のところ、素人デザインのアレコレで浪費した時間はあまりにも貴重な時間ではあって、そのツケがバランス調整の遅れを促し、ひいてはこのゲームを瀕死の淵に立たせる重大な危機に繋がっていくのですが……
 その話はまた別の機会にお話したいと思います。まだ終わらないんですよこれ。枯山水の苦労話にも負けない自信があります(白目)
posted by 円卓P at 20:46| Comment(0) | 製作記録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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