姫騎士逃ゲテ〜の一番の特色は姫騎士1人vsオーク3人の非対称な構図でドラフトをやっちゃおうという部分ではないかなと思うんですが、最初期のこのゲームはそうした枠組みのゲームではありませんでした。なので、今日はこの枠組みが決まったシステム上最大の転換点の話をしましょう。
これはバチさんにお声がけしてから実際にイラストを発注する間の3週間ほどの話です。書き出してみたら物凄い長文になりましたので、興味のある方だけお読み頂ければと思います。
最初期の姫騎士逃ゲテ〜は、プレイヤーそれぞれが秘密裏にキャラカードを1枚持って自分の陣営を勝利に導くという、まあ割と人狼ライクな感じのゲームではありました。乗せてるテーマもまだ推理小説でしたし。
ただ、ぼく自身が人狼亜種ゲームの「カラヤのスルタン」という…… これ、あんまり知名度ないゲームなんですけど、ぼくは大好きでして、正体隠匿ゲームなのに正体がコロコロ入れ替わってしかも個人戦ライクなので勝ち陣営が見えたら勝ち馬に慌てて乗り変える、みたいなところが凄い独特で面白いゲームなんですね。
なので、姫騎士Ver1とでも言うべきゲームは、その風味を拝借する形でプレイヤーとキャラカードがヒモ付けされていて、アクションカードの効果でキャラカードがガンガン入れ替わりつつ、自陣営の勝利を目指すというアグレッシブなゲームでした。
高度な読みを要求されるカオス極まりないこのゲーム、「こりゃ面白いぞ!」と自信満々に地元ゲーム会で取り出してみたんですが、まあ、これが、その…… もうボロクソでした!
悔しくて悔しくて色々と分析してみたんですが、カラヤのスルタンと姫騎士Ver1の一番の違いはキャラカード(役職)の公開・非公開だったんですね。姫騎士Ver1は、現状のようにキャラカードを公開で円状に並べてアクションカードの効果で自前のキャラがドンドコ交換されるゲームなんですが、あの、普通の人はですね、正体を明かした自分のキャラを交換されるのってメチャクチャ不愉快なんですよ! これはホント、同系列のゲームを作ろうと考えている人は覚えておいたほうがいいです。ぼくは血反吐を吐く思いでこれを理解しました。
特に、そういう陣営がコロコロ変わるゲームだという事前の了承がないと、これはもう生理的嫌悪感に近いレベルで拒否感を抱かれます。ぼくはそのままならなさ、理不尽さを楽しむゲームという提案をしたつもりだったんですが、もう、これが、全然ダメでした。
「自分のキャラが姫騎士だから姫騎士を勝たせるようにカード取ったらオークになってたんだけど!?」
「いや、だからオークに交換されることを見越してオークを勝たせるようにアクションカード取るんですよ!」
当時、マジでそんな会話をしてたんですが、今考えてみるとかなりのメタ読みを要求してますね、ぼく…… まあ、元ネタのひとつ、あやつり人形がそういうメタのメタのメタを読んで正解を導き出すタイプのゲームなので、それくらいのメタ読みは許されるだろう的な考えがあったんですが、正直な話、認識が甘すぎるというか、どれだけ濃いゲーマー相手のゲームを想定してたのかという話ではあります。
あ、今でも姫騎士逃ゲテ〜は基本濃いゲーマーが大好きなゲームではあると思います。そこをフォーカスしてます。大分、万人向けに丸くはなりましたけども。
これが正体隠匿だとキャラの交換って仕組みとして成り立つんです。なぜかというとですね、キャラの交換は自分の情報が増えるメリットがあるからです。自分だけの情報が増えるというメリットがあるからキャラ交換というままならなさに目を潰れるんですね。行動にはメリットを含ませなければならないんです。逆にいうと、メリットを提示することで行動をコントロールできる、という意味でもあります。
なのでキャラカードを公開しつつのキャラ交換はアカン! と、断腸の思いで姫騎士Ver1の路線をぼくは切り捨て…… いや、簡単には切り捨てられず、「これから一体どうしたらいいんだ……」と途方に暮れたのでした。
……まあ、この時期はまだゲムマ出展応募前なので、いくらでも取り返しはつく時期ではあったんですが、いろんな人に「秋ゲムマ目処でゲーム出したいNE!」みたいなことは既に放言してて、メンツ的にもう撤退の二文字はないという精神状態に追いやられていたのです、ぼくは。
正直なところですね、失敗の一番の原因は人様の作ったゲームにまったく理解を示さない狭量なプレイヤ…… いや、違う! それは違うぞ! 直感的な理解を妨げる複雑な設定を持ち込んだぼく自身のせいだイヤーッグワーッ!
……などと容疑者は語っており、人のせいにできればそりゃ気持ちはラクになりますが、それでゲームが寸分でも面白くなるかと言えば! まっ! たく! まったく面白くなるワケがないので、自分の失敗は自分で責任取らなきゃならんのだよなという当たり前の結論にぼくは至ったのです。
要はぼくのゲームを面白くできるのはぼくだけなんですよ。ぼくの判断だけなのです。つまり悔しいことにゲームが面白くないのは、ぼくの判断が間違っていたということなのです……!
さて、この件でぼくは学習しました。テーマを設定するなら。特に姫騎士VSオークなんて濃いいいテーマを設定するなら。ゲームの姿形はそのテーマに即したものでなければならないと。
ぼくの場合、これは巷でよく言われる「テーマとシステムは一致した方がいいよね♪」とかそういう話よりももっと切実な「テーマとシステムを一致させないとそもそもゲーム自体を理解して貰えない!」という恐怖に由来するものです。これはトラウマですわ……
なので、ぼくは姫騎士逃ゲテ〜の新しい枠組みを用意することにしました。簡単に説明すると「プレイヤーは妖精さんになって、姫騎士とオーク陣営、どっちが勝つかを賭ける」ゲームです。
プレイヤーとキャラクターがヒモ付けされている限り、キャラクターの交換はできない! しかし! コンポーネントの制約から交換をメインアクションに据えなければならない!
だからプレイヤーは…… そう、妖精さん! 妖精さんだ! オークでも姫騎士でもない! 妖精さんになって第三者の視点で下界の争いを眺める! これだ! これならプレイヤーとキャラクターのヒモ付けを切り離せる!
……なんかもう真顔で妖精さんを連呼するキマった人に成り果ててますが、割とマジでこの頃こんな感じでした。
ぼくがもう一つ学習したのは、この案を早々にゲーム会に持ち込むという無謀は避け(仮に持ち込んだとしても凄まじい勢いで警戒されたんではと思いますが)、とりあえずこの案を人に見せて感想を聞くということでした。ヒアリングというやつでしょうか。すなわち「姫騎士VSオークのテーマにこの枠組みはマッチしてると思う!?」と。
答えは案の定「マッチしてねーよアホか」でした。重いワンツーパンチ!
しかしここでへこたれている暇はぼくにはありません。ならばどんな枠組みがこの姫騎士テーマには相応しいのか、必死でしがみついてヒアリングを続けたのです。もう、「ぼくの中で生まれてくる直観に裏切られ続けるのならば、いっそ人の提案に乗っかってしまおう!」くらいの心持ちでした。まあ、同時に「だが、最終的な判断を下すのはぼく自身だぜグワーッハッハッハ!」というチンケなプライドも併せ持っていたワケですが。
さて、そんな哀れな男を見かねたTakPが提案してくれた次の枠組みが「プレイヤーは全てオークとなって、誰が真っ先に姫騎士を捕まえるか競う」というものでした。
なるほど……! 確かにこれは姫騎士VSオークのテーマで大多数がパッと連想する枠組みと言える! わかりやすい!
しかし、この枠組みは1ラウンド制とはかなり相性が悪いな!? どうしたって先手有利になってしまう! ならば1ラウンド制を捨てざるを得まいか……!? うーん…… まあ、それもアリか!
当時のぼくは切羽詰まっていたので、このゲームのコンセプトすらブン投げる勢いだったんですね。恐ろしい。
わかりやすい枠組みに飢えていたぼくは一も二もなくこの提案に飛びつきました。これこそ姫騎士VSオークのテーマを実現させる唯一無二の方法なのだと。
しかし!
同じようにヒアリングをした一発命中Pという男が、姫騎士逃ゲテ〜の命運を決めた禁断の一言を放ったのです……
「姫騎士のロールプレイしたい人もいるんじゃねーの?」
そ、そうかああああああああ! それは盲点だったああああ!
……この頃のぼくは心が濁っていたこともあり、人の提案をそのまま受け入れる超絶素直な人間でした。後になって一発命中Pのこの思いつきに散々苦しめられることになるのですが、この時ばかりはこの提案は物凄く説得力があるように聞こえたのです……!
姫騎士VSオーク! 確かにこのテーマはオークだけではない! 姫騎士が必要だ! 姫騎士のロールなんかしたいヤツがいるのかはよくわからんが! そもそもロールプレイのゲームなのかこれは!?
しかし! しかし、問題がある! そんな複雑な構造をたった8枚のアクションカードに乗せきれるのか!? それはぼくの手に余るんじゃないか!?
とは言え……! とは言え、姫騎士とオークの非対称対戦ゲーム……! これなら……! これなら1ラウンド制を崩すことなく、作り上げることができる……かもしれない!
何よりも、そう、ユニーク……! ユニークだ……! 完成したら多分物凄いユニークなゲームになる……! これはワンチャンあるんじゃねえの……?
そんな熱病患者のような風情でウフフアハハ言いながら1人の姫騎士と3人のオークが対決する、姫騎士逃ゲテ〜の現行の枠組みの開発が始まったのです。
課題はありました。一つの大きな課題は苦渋を舐めた前回のテストプレイで、とあるテストプレイヤーが言い放った「姫騎士は牢屋にブチ込みてーよなー」という妄言の実装。
これまでの姫騎士逃ゲテ〜は、姫騎士を捕まえたら勝ちという基本線自体は同じなのですが、その具体的な勝利条件が「ゲーム終了時に姫騎士とボスオークが隣接している」ことだったんですね。なので現行の「姫騎士を牢屋に送る」カードの類はこの頃一切なくて、カードプールの殆どがキャラクターカードの位置を入れ替えるカードで構成されていたのです。あと、あやつり人形の暗殺者みたいな他人のアクションを打ち消すカードなんかもありました。
この勝利条件には大きなメリットがあって、どんな展開になってもとりあえずゲームに白黒つくんです。どちらかの陣営は勝つ。隣接しなきゃ姫騎士の勝ちだし、隣接したらオークの勝ち。わかりやすい。なのでカードプールに結構な自由度があったんですね。バランス調整も見通しが付きました。
しかし、姫騎士を牢屋に送ることを勝利条件として設定するとなると、当然ながら「姫騎士を牢屋に送るカード」にカードプールの幾ばくかを割かなければなりません。たった8枚の中に!
もちろん、1枚ではちょっと心もとないというか、そのカードが不発に終わった時点でオークの勝ち目がなくなるので、まあ最低でも2枚、あるいは3枚くらいはそうしたフィニッシュカードが必要になるでしょう。でも、増やせば増やすだけオークの勝率があがるワケでそうそう簡単に増やしていいってもんでもない。
さらに姫騎士が1枚しかカードをピックできないことを考えると、その1枚のピックで勝ち負けがバランスよく展開するような、そんな都合のいいカード構成が必要で…… そんなんできるのか!? ぼくに!?
難題でした。難題しかなかったとも言えます。
ただ、「姫騎士を牢屋に送る」案。これはやらねばと思いました。現状の隣接したかしないかの勝利条件はオーク側のカタルシスがあまりにも薄かったのです。なんか巡りが終わったら勝ってた、みたいな。勝利の実感が乏しかったんですよね。
なので「姫騎士を牢屋に送る」という凄い字面。これはアリだとぼくは思ったのです。それくらいの困難を乗り越えてこそ勝利の実感が湧くのだと。
で、秋の夜長を自転車で30キロくらい走って考えました。職質されたら「すいません、イングレスやってて……」とか言い訳しようかと思っていましたが、幸いそういうことはありませんでした。
今の季節になるともう寒くてそんなことできませんけど、やっぱ体を使ってヘトヘトになった時に、人間なんかこう、フッと降りてくるもので、エウレーカと叫んだアルキメデスじゃないですけど、そうした心持ちで突如浮かんだ一つのアイディアを抱いて家路を急いだわけです。
……できました。ぼくの中で、ある種の確信を抱いて作り上げた「姫騎士非対称版」。
当時はまだタイトルが決まってなかったので姫騎士○○版という呼び方をしていたんですが、その時相談に乗ってくれたあひるホイッPに姫騎士非対称版をメインの案として見せたところ、待っていたのは驚愕の一言でした。
「姫騎士のロールプレイって、いる?」
え!?
いるか、いらないか、と問われれば…… ……どうなんだこれ!?
「だ、だって、一発命中Pはそう言ってたし(責任転嫁)」
「別にいらないんじゃ……」
な、な、なんてこったー!
今でこそ、この方向性でよかったとは思うんですが、この当時のぼくは非対称的なこの枠組みの魅力を論理的に説明できる根拠がなかったんですよね。なんか面白そうだから……くらいで。
なので、本当にそれが必要なのかという根本的な質問には笑っちゃうぐらい動揺するしかなかったのです。マジで情緒不安定だなこの人!
「でも、可能性は感じる」
「……え?」
「オーク側がドラフトを介して無言で協力して…… それを姫騎士が打ち破るっていう」
「そ、そう! そうなんだよ! その通り!」
このゲームの今後磨くべき魅力の方向性をズバリ言い当てたのは、多くのテストプレイヤーの中でもあひるホイッPただ一人です。こと同人ゲームを見る目に関して彼女の相馬眼は並々ならぬものがあるとぼくは思っているのですが、その彼女がそういうのだからぼくの確信もまんざら間違ってはいないのではないかと、そう思えたのです。
ちなみに実際あひるさんからその時貰ったコメントがこれ↓です。面白さの核から問題点まですげーよくわかっててくださる……
メモ・やはりコンセプト3の非対称が面白そうな気がする。
プレイヤー人数+1枚のアクションカードをプレイヤーAから操りドラフトする、残りのカードは公開してある状態。A姫騎士、BCDがオーク
Dは最後2枚から1枚を選ぶ、最後の一枚はそのまま効果なしになるか、姫騎士が効果を発揮させるか選べるか、効果マストで発揮させるかは保留
ドラフトがおわったあと、効果を発揮させると思うんだけど、そのときは、操りのように、1番ー、2番ー、とかってやるんだろうか?それとも全員アクションカードを公開して数字の若い順にアクションしていくのだろうか?
カードが回ってきたときから、誰が何を取ったか、というパターン推理がはじまるため、最後のプレイヤーがかなり長考になる可能性がありそう。砂時計をつけるわけにもいかないだろうけどry、そこの悩みが面白さの部分でもあるし難しそう。
姫騎士は1つのカードを取ることによる、オーク陣営の混乱を誘い、オーク陣営は某さいころ倶楽部3巻のごいた回のような、無言の意志の疎通を楽しむのかなー、可能性を感じる。シンプルなポイント制?テストプレイ後検討?メモ
追記、どのコンセプトで行くにしろ、人数分のアクションカードリストがあるとプレイアビリティあがると思う。
これは、行けるんじゃないか……? そんな自信を得て、ぼくはこの非対称の対戦ドラフトゲームという枠組みで勝負することに決めました。
バチさんに若干のテーマ変更を告げ、正式にイラストを依頼しました。軸足はこれで定まりました! あとはただひたすら磨くだけです!
……と、この時は、そう思っていたのです。
しかしながら、このゲームが完成するにはまだまだ大きな壁が立ちはだかっていたのですね。まあ、それはまた別の機会に……
そんなところで。
2014年10月29日
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