
ゲムマのブースマップが公開されましたね。我が数寄ゲームズこと蒼猫の巣出張所はC-04となりました。春のゲムマではR&Rステーションがあった辺のブースです! ゴッズギャンビットとか売ってましたねえ、春は。
元商業ブースのスペースってことはつまり壁際! 壁サークルですよ壁サークル! 近くには錚々たる著名サークルの方々。あ、これ緩衝帯になるヤツや……!
ということでC-04蒼猫の巣出張所。売り物は姫騎士逃ゲテ〜。これぞまさしく壁サーの姫……! ということで、どうかよろしくお願いしますー。
さて、姫騎士VSオークにテーマを決めた経緯について書いて欲しい、との話を受けて、その辺のテーマ決定の経緯についてちょっと触れていきたいと思います。
いきなり話は逸れるんですけど、ゲムマ秋の新作でゴリティアってあるじゃないですか。ゴリラがテーマの。
で、多くの人は「一体なぜそのテーマを選んだ!?」と思わずにはいられなかったと思うんですよね。いや、もちろん、作る側には明確な理由があるでしょうし、ぼくもある程度は推測ができるんですけど、大胆なテーマ選択に踏み切った最大の要因は何か、というのは誰もが気になるところだと思うんです。
で、「どうしてそのテーマを選んだゲー」という分類を作るなら多分この姫騎士逃ゲテ〜も同じカテゴリに分類されてしまうのではなかろうかと。いえ、ゴリティアとこれを一括りにするのは僭越にも程があるのですが、どうも出落ちゲーだと思われている節がなくもなく。いや、ゲーム部分もマジメに作ってますよ!
で、「どうしてそのテーマを選んだのか?」という問いかけには、純粋な好奇心と一緒に「製作者の精神状態は大丈夫なのか?」という成分が混じっているようにも感じるんですね。この人は本当に正気なのかと。
ぼくからするとこのテーマ選択にはまっとうな理由しかないので、わざわざそれを開陳することに気恥ずかしさすら覚えるのですが、まあ、自身の正気を証明しないことには色々と誤解を招くもので、これからちょっとばかし姫騎士VSオークのテーマ選択に至った経緯について触れたいと思います。
前置きが長くなりましたが。実は当初このゲームは推理小説をテーマにしたゲームとして製作が始まったのです。ウソじゃないです。
なので、姫騎士とオークを犯人と探偵なりに置き換えると、ほら、推理小説っぽくなりませんか? ゲームの紹介でスコットランドヤードとの類似を自分でも挙げましたが、来歴からするとそれも当然なのかもしれないと思えてきます。
とは言え、当時のシステムは現行のものとは全く似ても似つかないもので、姫騎士逃ゲテ〜の発表を見て「面白そう!」と言ってくれたテストプレイ経験者の方が、ぼくが伝えるまで同じゲームだと気づかなかった、ということもありました。
まあ、システムの変遷についても色々と語れることはあるんですがそれは長くなるので、今回はテーマの変遷に絞って話を進めたいと思います。
さて、推理小説テーマのゲーム。いいじゃないですか。魅力的なテーマだと思いますし、売れ筋としても固いです。名作も多い人気のテーマと言えましょう。
それがなぜイロモノ方面に転落…… もとい、ギャルゲー落ち…… もとい、誰もが未開拓の荒野に切り込んだかと言えば、そこには切実な理由があったのです。
このテーマ変更を思いついたのは6月の頭でした。6月上旬。季節は初夏。ボードゲーム界隈に何があったかと言えば、そう、ゲームマーケット春です。春ですが初夏。あの照りつける日差しに入場前から体力をガリガリ削られたゲムマ春です。秋は事前入場できるからイイナーヤッター。
そしてゲムマ春。そのゲームはあったのです。
PURPRINさんのあやつり殺人事件……!
実はこのゲーム、テーマとシステムがモロ被りでした。ゲムマブログでこのゲームの発表を見た時ゲエエエエと叫んだ記憶があります。
まあ、全く同じゲームってのはそうそうないわけで、実際買って遊んでみたら違うことは違ったんですけど、困ったことにこれが面白かったんですね。面白かった。そう、面白かったんです(3度目)。
これは…… その…… 真正面から勝負を挑むのは危険なのではないか……?
ぼくの脳内で警戒警報がけたたましく鳴り響きました。あやつり殺人事件は売れ行きも好調らしく早い時間での売り切れをぼくも確認していたので、やはりテーマ選択的にこれはアリ、なのではあるけれども、やはり人気のテーマだけあって競合の可能性は高い……!
現に推理小説テーマという区分では秋のゲムマではハッピーゲームズさんの幻影探偵団というゲームが出てきたわけで、やはり激戦区にツッコまなくてよかったと胸をなでおろした次第です。
なんかノリがアオイホノオじみてきましたが、当時はマジメにそんなことを考えてました。競合は避けたい。が、残り物には残るだけの理由があるのです。いわばこれはテーマ選択のドラフト+バッティングゲーム……!
競合を避けつつ勝負になるようなテーマ選択。それもシステムとマッチするもの……! 何か……! 何かないのか……!
悩んだぼくはゲーム本来の魅力に立ち返ろうと思いました。快感を生む仕組みについて考えました。
つまるところ、この推理小説ゲームは探偵が犯人を見事捕まえるその一点にカタルシスがあると言えます。犯人であれば逆に逃げ延びることにカタルシスがあるでしょう。
であれば、捕まえたら嬉しいキャラクターを配置すればもっと嬉しいし、捕まりたくないキャラクターを配置すれば必死で逃げたくなる。そういうもんなんじゃないか?
システム的な制約もありました。捕まる側は少数で捕まえる側が多数になる構図でなければなりませんし、捕まる側が暴力で捕まえる側を殴り倒すような事態はあまり望ましくありません。非力な少数と強大な多数。それがベストです。
考えを進める中でふと浮かんだのは、ピーチ姫とクッパ一族でした。ぼくは任天堂っ子なのです。
……姫。姫か。姫っていいんじゃないか? 男の子だったら捕まえたくなるもんね、姫をね……!?
姫は捕まる。これは伝統的なヒロイックファンタジーでも多用される由緒正しい法則です。ならばやはりそこには人間の根源的な本能とか欲求とか快感とかなんかそんなのがいっぱい詰まってるのでありましょう。
王道だ! これが王道なのだ!
……で、思いついたのが姫騎士VSオークだったんですね。姫はいいとして相手が魔王とかだとちょっと相手が強すぎる。魔王相手に逃げ延びる姫というのはヒロイックファンタジーの文法を破壊するものでギャグになってしまいます。
オーク相手だったら、まあ逃げられる術もあるでしょう。体格で勝る相手を知恵で翻弄するというのは、トムとジェリーではありませんが、これも昔から綿々と受け継がれている黄金率で、何より日本人は牛若丸と弁慶の例からもわかるようにその手の構図が大好きなのです。
ここまで語れば姫騎士VSオークがいかに優れたテーマであるかご理解頂けることでありましょう。しかし、確信の萌芽こそあれ、ぼくの胸奥には未だに疑問の火種が燻っていたのです。
姫騎士VSオーク。同人ボードゲーム界において人跡未踏の大地。行けるかもしれない。しかし、このテーマには大きな弱点がある……! それは……!
すごろく屋さんに置いてもらえない!
……アオイホノオがなぜギャグとして成立するかと言えば、それは島本先生がマンガ家として大成した事実があるからで、未だ何も成していない、ぼくが、これを、言ってしまうのは、余りに、も…… うわあ、痛い痛い痛い!
……書いててちょっと辛くなってきましたががんばります。すごろく屋さんの主要な客層はファミリー層です。ならば子供の教育に好ましくないゲームは置かれないことは明白。「姫騎士ってなーに?」って子供に聞かれてもお母さん困るでしょ!? ぼくも困るわ!
ちなみに今現在のイラストを見て「いやー、そんなこともないんじゃないかなー」とお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、当時はまだバチさんにイラストを頼むことが決まってなくて、もっとウッフンアッフンな選択肢も視野にあったというか、ゲムマ春の直後というこの時期、スライムアドベンチャーがTwitterで盛り上がっていた頃でもありました。当時、あやつり殺人事件ショックに自我を喪失していたぼくはその影に翻弄されていたのです。
まあ、すごろく屋さんは置いとくとしても、このテーマは明らかに人を選ぶというか、推理小説テーマよりも狭い範囲にしか訴求できないことは確かです。自らマーケットを狭めるがごとき愚行をよしとして果たして勝ち目はあるのでしょうか? いや、勝ちってなんだよって話でもありますが。
確かに訴求範囲は狭いのです。明らかに狭い。ですが、鋭さもある、かもしれない……! 大きなインパクトで一点を叩く。その衝撃で訴求範囲を広げられればあるいは……!? 大事なのは訴求層を確実に射抜く鋭さだとエラい人も言っていたような気がします。しかし……
とかまあ、悶々と悩み続けたんですが、一人考えてみても自家中毒といいますか、考えにバイアスがかかるだけなので、単純に回りの人に聞いてみることにしました。「推理小説テーマと姫騎士VSオークのテーマ、どっちが行けると思う?」 ……聞かれた人は困ったでしょうねこれ。
で、多分、これは聞いた相手が悪かったのかもしれないと今では思っているんですが、回答は全員「姫騎士VSオークの方が行ける」でした。全員って。もうちょっと顧客層とか考えようよおおおお!
ぼくはむしろ「被ったとしても推理小説テーマで勝負した方がマシ」みたいな答えを実は期待していたんですが、まー、他人事だと思って適当言ってくれやがったなこの野郎というか、みんな自分の心に正直すぎると思います。
ただし、ここで勝つための条件を一つ課されました。これも全員まったく異口同音で言うもんで君ら共謀してるんじゃないかと疑ったんですが。
それは魅力的なアートワークを用意すること。デスヨネー。ぼくだってこのテーマは絵力が必要になることはよーわかるわ。
というわけで、条件つきながら姫騎士VSオークはいけるんじゃないか、という結論が出たのです。とは言え、実際にイラストを依頼するまでのここから2ヶ月ほど、ぼくはテーマ選択をどっちにも切り替えられるように保険をかけてリャンメン待ちでゲーム製作を進めていったのでありました。
とまあ、随分長くなりましたが、ここまでがテーマ選択の能動的な理由ということになります。受動的な理由としてはシステムの手直しが進むに連れて「推理小説テーマに拘らなくてもいいんじゃね?」という、システムとテーマの乖離が進んだこともまた理由の一つとして挙げられるのですが、それは強引に姫騎士に寄せるか、強引に推理小説に引き戻すかの違いでしかないので、決定的な理由ではないかなと思ったりもします。
「姫騎士VSオークとはまた安易に流行に乗っかったなー」なんて見方もあるとは思いますが、ぼくとしては割と苦慮した末の選択というか、やはり選んだからには魅力は理解してはいるものの正解かどうかは疑問ですし、答えが出るのもこれからなのです。さらに当時はイラストのアテもなく、完成形の魅力が自分でもわからんわけです。そこが自分で絵を描けない人間の弱みですね。
逆に素晴らしいイラストができあがったとしてもシステムがグダグダだったらこれはもう目も当てられないワケで、イラストに力を入れるのは掛け金を上乗せするのと同義で、ますます勝負としてはシビアになるわけです。こう、制作費にも乗っかって来るわけですしね。
まだこの時期なら「ポッドキャストやってる人がノリでゲーム作ってみましたテヘ」ってのが許される時期だったのですが、この頃を境に「本格的にいいモノを作らねばヤバい」というプレッシャーが生じてきたのです。言わば自分で自分を追い込んでいったのですね。
そんなところで。