2023年06月12日

デザイナーノート:ウッドクラフト



2022年8月19日に「ウッドクラフト」の作者の一人であり、デリシャスゲームズの中心的人物であるウラジミール・スヒィによって「ウッドクラフト」のデザイナーノートがBGGに寄稿されました。今回、デリシャスゲームズから翻訳と公開の許諾を得ることができたため、数寄ゲームズブログにて、その内容を公開させて頂きます。

原文はこちら。
https://boardgamegeek.com/blogpost/135274/designer-diary-woodcraft-or-diary-glued-together-t

このデザイナーノートは前半をウラジミール・スヒィが、後半を共作者のロス・アルモンドが記述しています。一流デザイナーのデザインワークやその哲学を知ることができる機会は貴重と言えますし、本作におけるそれぞれの役割分担や、どのような経緯や試行錯誤を経て現在の形に結実したのか、その一端が伺える興味深い内容となっています。




2021年の1月、Ross Arnoldから「このゲームをDelicious Gamesに提案したいのだが、どうだろうか」というBGGメッセージを受け取りました。私たちはたいてい、試作品のテーマとメカニズムを簡単に確認したあと、「私たちはVladimírのゲームだけを出版する」や「今後2年の出版計画はすでに整っている」といった内容で返信します。どちらも本当のことです。

幸い、私にはまだ(今のところ)取りかかるべきアイディアがたくさんあるので、新たな試作品を熱心に探し求めてはいません。しかし、デザイナーとして考えると、1人のデザイナーが生み出すアイディアの範囲は限られているため、共同デザインはより多くのインスピレーションとモチベーションを得る優れた方法です。簡単に言えば、協力はより多くの“エネルギー”を新たな作品の設計プロセスにもたらすことができます。

RossはBGGのメッセージで「『ウッドクラフト』はユーロゲームだ」と言っていたので、彼にルールを送ってほしいと頼みました。それを読んでいるうちに、私はこのゲームの最も重要なメカニズムが、さまざまな種類の木材を表しているさまざまな色のダイスとワーカープレイスメントに基づいていることに気付きました。プレイヤーはこれらの木材を使って顧客の注文を履行する必要がありました。

このダイス操作メカニズムは、木工テーマと相まって魅力的だと感じました。どちらかというと、私は「マカオ」や「テケン」などの巧妙なダイスメカニズムを備えたゲームを楽しみます。「パルサー2849」を完成させたあと、私はダイスが非常に重要な役割を果たす別のゲームをデザインすることを検討していました。「ウッドクラフト」のルールとテーマは興味深く、“私たちの好みに近い”ものだったので、Rossに試作品の印刷データを送ってもらい、テストプレイできるようにしました。





それまで、私が共同でデザインしたのは「メッシーナ1347」だけでした。Rossの試作品を初めてプレイしたあと、初期段階の「メッシーナ1347」の試作品をテストしたときと似たような気持ちを覚えました。このゲームにはいくつかのいいアイディア――独創的なテーマ、資源としてダイスを使う手法、それらを(文字通りではなく、ゲームのテーマの範囲内で!)切断したり接着したりできること――が含まれていました。一方で、このゲームは楽しいものではありましたが、他方では、中心的なアクション選択メカニズムはワーカープレイスメントでした。これはよく知られており、よく使われているメカニズムで、傑出した創意工夫は何もありませんでした。

試作品を使っての最初の数回のテストプレイのあと、私たちの考えでは、ゲームの展開にもさらなる洗練が必要でした。(試作品における)プレイヤーの戦略として、まず多くの利益や能力を得て、そのあとで単に注文を履行して勝利点を獲得すべきだという流れが明白すぎて、これではゲームプレイがかなり単調になります。「ウッドクラフト」は、この段階では出版できる状態ではありませんでしたが、いくつかの調整とさらなるテストプレイのあとで出版できるものになる可能性が充分にあったので、Rossに協力を申し出ました。私たちはDelicious Gamesがこのゲームを出版するという約束をせずに共同デザインを提案しました。通常、私たちにとってゲームを出版するための決定要因はテストプレイヤーから肯定的な評価を得ることであり、当然ながらこの時点ではまだ得ていなかったからです。





前述のように、私はダイスを使うゲームが大好きなので、ゲームを改善する方法について多くのアイディアを持っていました。次の2ヶ月で、私は試作品を作り直せるような調整を提案しました。私はこのゲームの全体的なテーマを、森の中で自分の工房を建てるという話にすることを提案しました。プレイヤーはこの工房をよりよいものにしなければならず、そのために機能を拡充したり、新たな装置を購入したり、顧客の注文を履行するのに手を貸してくれる助手を雇ったりします。注文を履行するためにダイスを切断したり接着したりするという最高の主要メカニズムはそのまま活かし、独自の(ダイスで表されている)木材の入手源として木を育てるなど、他のいくつかのメカニズムを調整したり、追加したりしました。また、ゲームの流れを必要以上に複雑にしてしまうため、他のいくつかのメカニズムを削除しました。

さらに、主要なアクション選択メカニズムを、選択可能な7枚のアクションタイルから1枚を選ぶものに変更しました。選んだタイルは次の区画に移動し、選んだときにあった区画に応じてボーナスをもたらします。このメカニズムはゲームの最終版まで残っています。これまでは、アクションを選ぶ方法はワーカープレイスメントメカニズムの一種でしたが、このボーナスの選択・獲得方式によって、ゲームはよりダイナミックになりました。このメカニズムは機能しましたが、依然として面倒なタイル操作が必要であり、ボード上で明確に機能するようにするには修正が必要でした。テストプレイヤーからの意見に基づいて、私はアクション選択の中心システム全体を作り直し、一部のアクションでボーナスを得る方法を調整することにしました。私はデザインのこの部分を大変気に入っており、「ウッドクラフト」で使われている方法は、私の他のゲームで使われているどの方法とも違っていると考えています。





この中心メカニズムは、Rossによってさらにバランスが取られ、グラフィックデザイナーのMichal Peichlによって画像が調整されましたが、それ以降は最終版まで変わっていません。このメカニズムを実装してテストプレイしたあと、Rossと私は、このゲームの強力な基礎はできあがっており、次は副次的なメカニズムのバランスを取ることに集中しなければならないということで同意しました。

2021年の秋に、私は「ウッドクラフト」の追加の調整アイディアを思いつきましたが、まだ出版できる段階にはありませんでした。このゲームの開発にはまだ長い道のりがありましたが、アクション(およびボーナス)選択に関する革新的なシステムと、ダイスを利用する独特な手法という2つの中心的な概念を根拠として、私たち(Delicious Games)はこのゲームについて非常に強い前向きな気持ちを持っていました。このため、広範なテストプレイを始める前ではありましたが、私たちはこのゲームを2022年中に出版することに決めました。これは私たちにとって普通のことではありませんでしたが、それだけこのプロジェクトに自信があったのです。

デザインとバランス調整のあいだ、Rossとの意思疎通は極めて徹底的に行われました。新しいアイディア、テストプレイからの意見、さらに新しいアイディアを含む、250通以上のメールをやりとりしました。私は英語をまったく話せないので、私の側からの連絡は簡単ではありませんでしたが、この点でグーグル翻訳はうまく機能してくれたので、私はそれを使えたことに感謝しています。直近の2作、「メッシーナ1347」と「ウッドクラフト」を共同デザインすることができたのは、グーグル翻訳の助けがあったからこそです!

たとえるなら、この意思疎通の“大混乱”こそが、「ウッドクラフト」の大部分をデザインする方法でした。これにはプレイヤーがさまざまな道具で屋根裏部屋を埋める“道具コレクション”ミニゲームが含まれます。結局のところ、工房を運営するには道具が必要なのです! Rossはこのメカニズムを改善するアイディアを思いつきました。最初のアイディアは「ニュートン」のメカニズムの一つに少し似すぎていましたが、私は「ウッドクラフト」に別のメカニズムを追加するというこのアイディアが気に入りました。このアイディアと数多くのやり取りをもとにして、私たちはこのミニゲームの最終版を作成しました。

テストプレイの過程で、私たち(Delicious Games)はゲームの設定をより幻想的なものに変更することにしました。この設定では、プレイヤーは森の中で自らの工房を作り上げますが、森の人々や動物たちの助けを借ります。この種のテーマのゲームをまだ出版していなかったので、ファンタジーテーマは私たちのゲームのラインナップにちょうどいいものでした。ファンタジーテーマにすることで、ゲームにいくつかのメカニズムを実装するのも容易になりました。

ずらりと並んだ美しいイラスト、グラフィック、木製品は、私たちのグラフィックデザイナーであるMichalが生み出したものです。実用性の点で没になったものもありましたが、どれも大変に美しいものでした。

Ross Arnoldと私が共同でデザインした「ウッドクラフト」は、Spiel'22で発売されます。私たちがテストプレイとデザインの道のりすべてを楽しんだように、多くのプレイヤーがこのゲームを楽しんでくれることを願っています。

Vladimír Suchý





私が大好きないくつかのゲームのデザイナー、Vladimír Suchýが、私の試作品を気に入って協力したいと言ってくれたとき、私は有頂天になりました。ボードゲームのことをよく知らない両親に、私はこう説明しました――「父さん、これはスティーブン・スピルバーグが一緒に映画を作ろうって言ってくれてるようなものなんだ!」と。これは脱出ルームのデザインと製作が、2022年の第4四半期に発売される新たなゲームである「ウッドクラフト」にどのようにつながったかについての簡単な物語です。

2019年、私は脱出ルームのデザイナーとして働いており、厳しい締め切りと限られた資源で4つの新たな部屋を作っている真っ最中でした。私はいくつかの大道具の計画を立てていましたが、できるだけ効率的にしなければなりませんでした。可能な限り無駄を省いて仕上げるために、充分な木材があることを確認する必要がありました。このときに初めて、わたしは切断したり接着したりできる資源のアイディアを思いつきました。これは「ウッドクラフト」で使われている主要な資源システムです。

時間を6か月進めると、コロナの世界的流行が始まっていました。誰もが数週間で終息すると思っていたこの疫病により、私は数か月のあいだ仕事を休むことになりました。私は自分のボードゲームのアイディア、特にこのダイス操作のアイディアと、それをどのようにゲームに適合させるかについて、より深く掘り下げ始めました。

熱心な木工職人として、幅広いアイディアの多くが自然に生まれました。プレイヤーが最初に必要とするのは注文を与える顧客であり、それらの注文は指定の期限までに履行する必要があります。そこから、木材を必要な大きさに切断し、接着し、資源を管理するための道具が必要になります。



あなたはこれらの美しい品物を「ウッドクラフト」で作成することができます


当初は、各ラウンドは顧客の列から始まり、各プレイヤーは注文を履行するのにかかる日数を用いて秘密裏に入札しました。最短日数で入札したプレイヤーは最初に選ぶことができますが、締め切りが厳しいものになります。これはDelicious Gamesに送ったバージョンにさえ含まれていませんでしたが、今もゲームに残っている納期の仕組みを思いつくのに役立ちました。

私はアイディアを発展させながら、工房を改善する方法に集中しました。プレイヤーは工具店で新たな道具を購入したり、お金を節約して端材から独自の道具や治具を作ったり、地元の事業主と懇意になって、ボード上のさまざまなアクションスペースを改善したりすることができました。私はプレイヤーの工房を、仕事を成し遂げるために使えるさまざまな“レバーと滑車”で満たされた道具箱のようなものにしたかったのです。これは3つのワーカープレイスメントスペースにある3つのカードデッキの形で用意されました。

1年に渡って取り組んだあと、いくつもの変更、テストプレイ、問題解決を経て、「ウッドクラフト」はついに機能するゲームになりました。なおもゲームのテストと調整を行いながら、私は出版社に販売シートを送り始めました。私はいくつかの素晴らしい反応を得ました! それには、ある出版社との数回の打ち合わせも含まれます。私はそれにとても興奮しましたし、ゲームに興味を持ってもらえました――しかし、15分でルールを説明できるように単純化するよう頼まれました。私は少し悩みました。彼らと一緒に仕事をしたくもありましたが、自分がプレイしたいゲームを出版したくもあったのです。ゲームをうまく単純化して、それで様子を見てみることもできたでしょう。しかし、私は他の出版社に連絡を取り続けました。そのうちの1つがDelicious Gamesでした。彼らはルールブックを読むことに興味を示し、実際にゲームをプレイしてみたいと返信してくれたので、私は印刷してプレイするためのファイルを送り……待ちました。

ゲームをプレイしたあと、評価を添えたメールがVladimírから届きました。彼は「このゲームの出版に潜在的な興味はあるが、現在の形には興味がない。しかし、私(Vladimír)が共同デザイナーとしてあなたと共に作業し、現在の形から改善することをいとわないなら、このゲームがどうなるかを見届けることができるだろう」と言いました。これは私の最初のゲームであり、Vladimírは私が大好きないくつかのゲームのデザイナーなので、これは頭を悩ませる問題ではありませんでした。これは私が尊敬する人から学ぶ大きな機会であり、私はスタートを切ることを強く望んでいたのです。



数人の助手たち


私はVladimírが更新と変更を加えた版のゲームを送ってくれるのを待ち、それを紙とシリアルの箱から適当に作り上げて、できるだけ早くプレイしました。ゲームの一部は合理化され、他の部分は拡張されました。私は何度もゲームをプレイし、そこからメールをやり取りしてアイディア、評価、意見を共有し、4,000マイル離れた場所で同時にテストプレイを行いました。ゲームは私の元のバージョンから大きく変わり、Vladimírと私が共同で仕事をするにつれてさらに変わりました。しかし、それらすべての変更にもかかわらず、このゲームを作るために最初に腰を下ろしたときに望んでいたものができたことに、私は満足しました。

2年以上前に最初の試作品を作り、さらに14か月に渡るVladimirとの共同デザインを経て、「ウッドクラフト」は2ヶ月後のSPIEL'22で発売されます。私はこの過程で多くのことを学びました。このゲームを皆さんと共有できることほど誇らしく、わくわくすることは他にありません。

Ross Arnold

追伸:言語の修正をしてくれたMike Pooleに感謝します。
posted by 円卓P at 11:04| Comment(0) | ゲームデザイン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年06月09日

ゲーム紹介「ウッドクラフト」



 数寄ゲームズは木材に見立てたダイスを加工して木工品を作る戦略ゲーム「ウッドクラフト」を発売します。プレイ人数1-4人、対象年齢12歳以上、プレイ時間60−120分で、小売希望価格は税込8800円となります。

 6月12日から数寄ゲームズ通販サイトにて先行予約及び販売を行い、その後、全国のボードゲームショップさんへのご案内、流通を予定しております。



 「ウッドクラフト」は、「アンダーウォーターシティーズ」「プラハ 王国の首都」「メッシーナ1347」と立て続けに快作をリリースし続けるVladimir Suchyが、新人Ross Arnoldとタッグを組んで世に送り出すユニークなリソースマネジメントゲームです。プレイヤーは様々な木工細工を作る職人となり、材料や消耗品を調達したり、助手を雇ったり、工房の設備を強化したり、新たな注文を受注したりして、より多くの注文の達成を目指します。


 中でも特徴的なのはダイスを木材に見立てた独自のリソースマネジメント部分で、ダイスの出目を木材の大きさに見立てることで、ダイスをカットして2つに分割したり、端材を接着してダイスを増やしたり、異なる2つのダイスを接合したりと、ダイス目をいじる形で木工品をちまちま作る感覚を表現しています。これがテーマと実にマッチしているんですね。


 メインエンジンは「プラハ 王国の首都」を彷彿とさせるダッチオークション的なアクション選択。「Shipyard」から連綿と続くスヒィさんお気に入りのメカニクスが更に洗練され、一手一手が悩ましくもオトク感のある作りになっています。次の項目ではその辺りをより詳細にお伝えしましょう。


◆独特のダイス操作と、さらに洗練されたアクション選択システム

 このゲームの中心的目標となるのが、注文カードの達成です。多くの勝利点やお金は注文カードを通して得られる作りなので、注文カードをどのように達成するかを考えれば、おおよそうまく回る仕組みになっています。



 注文カードにはそれぞれ様々な木工品のイラストが描かれ、カードの下部にはこの木工品を完成させるのに必要なダイスやトークン、左には注文を達成することで得られる報酬が示されています。


 こうした依頼達成を中心に据えたゲームはさほど珍しくはないのですが、「ウッドクラフト」で特徴的なのは、注文に対して要求されているダイスと「まったく同じ出目&色のダイスを支払う必要がある」点です。出目が1多くても1少なくてもダメ。ぴったりジャストのダイスを支払う必要があるため、プレイヤーは様々な手段を用いて出目の調整に頭を悩ませることになるのです。


 ダイスの調整に活用できるのが工房の様々な設備です。「切断タイル」は1つのダイスを2つのダイスに分割することができますし、「継ぎタイル」はダイスに廃材を継ぎ足すことで出目を増やすことができます。「接着タイル」なら異なる2つのダイスを1つのダイスに合体させることさえできます。



 こうした手元の(言い換えると他人との関わりがない)パズルチックな試行錯誤は、原始的な全数探索とならざるを得ないため「作業感が強い」と表現されることもままありますが、「ウッドクラフト」ではそこに木工業という手作業のカバーを被せて、これは木工業の面倒臭さ&楽しさなんですよ、と魅力に転化させているのが面白い提案と言えます。このダイス目いじり、手元リソースをこねくり回す手作業感がこのゲームの持つ大きな特徴と言えましょう。


 また、材料となるダイスの調達も重要です。このゲーム、ごろごろと多量のダイスが含まれていますが、それらを振る機会は殆どありません。ダイスが振られるのは補充の時だけで、そうしたダイスを市場から直接購入したり、植木鉢に植えて育てたりします。基本的には出目の大きなダイスほど高価で入手しにくいため、それらを入手するには多くのお金や時間が必要になります。


 さまざまな能力でプレイヤーを手助けしてくれる助手も重要な存在です。助手はカード左下に描かれている様々な能力でプレイヤーを助けてくれることもあれば、カード右上の生産能力でリソースをもたらしてくれることもあります。



 基本的に能力の強い助手は生産が弱く、能力の弱い助手は生産が強い作りになっているので、どちらを重視するか、自分の工房の方針に沿った助手の雇用が重要です。


 とまあ、注文の達成にやるべきことは数多くあり、ダイスの調達、消耗品の購入、工房の強化、助手の雇用…… どれもがお金や時間を要求する作りになっています。
 しかもこのゲーム、手番はわずか13手番(2,3人プレイなら14手番)しかありません。しかも3,4ラウンドに1回決算が入り、それまでに履行できなかった注文は報酬が減額されてしまうのです。
 限られた時間と予算をどうやりくりするか、工房の運営は実にシビアな経営感覚を求められます。


 さて、こうしたプレイヤーの様々な判断はアクションタイルの選択を通して行われます。
 プレイヤーは手番でアクションタイルを1枚選択して実行するとともに、様々なフリーアクションを行うこともできます。メインとなるアクションは「ダイスの購入」「ダイスの売買」「資材の購入」「注文の選択」「助手の選択」「生産/植樹」「工房の改善」の7種類があり、これらはアクションホイールにタイルとして配置されています。



 誰もが選択しない不人気のアクションにはオマケがついてくるため、今実行したいアクションと今欲しいオマケとでプレイヤーは終始ジレンマに悩まされることになります。


 また、メインのアクションに加えて、工房の設備の稼働や注文の履行などのフリーアクションを行うこともできます。メインアクションの最中にフリーアクションを割り込ませることさえできるやりたい放題仕様なので(この手のゲームにしては珍しい!)、場合によっては強烈なコンボムーブが発生することもあります。



 よく言えば手番の自由度が高いのですが、ダウンタイムが長いと感じる人もいるでしょう。このあたりは手番数が少なく一手が重いメガユーロの特徴そのままと言えます。


 限られた手数の中でやるべきことは多いですが、満遍なく手を出すよりも一極集中したほうがうまくいくタイプのゲームです。しかしながら、アクション選択システムは同アクション連打、特化戦略に対して厳しい作りなので、プレイヤーに求めるものと提供されるものはまったく真逆と言っていいでしょう。

 このジレンマの海でうまく舵を切るには、他プレイヤーの裏をつく…… 同じ戦略であっても、手段やタイミングを少しずつズラして実利を掠め取る器用さが重要です。他人とのインタラクションこそ希薄なゲームではありますが、他人を今何をやりたいと思っているのか目配せする必要が常にあります。



 そんなワケで、エコでロハスでスロウな暮らしっぽい見た目のゲームですが、実際のところはかなり手強い内容と言えます。まあ、そもそもスローライフを唄うゲームが本当にスローライフを満喫できた試しはないですからね!


◆安打製造機スヒィさんに死角なし! ……と思いきや、一抹の不安も?

 ゲームの概要をあらかたご説明したところで、「ウッドクラフト」発表時のぼくの第一印象がどんなものだったのかをお話しようと思います。


 プロトタイプの紹介ビデオ。ブルーベリーのチップが手作りで、ダイスもありあわせのものを使っています。


 「メッシーナ1347」で見事なタッグワークを見せたスヒィさんの今回のタイトルはまたもや新人デザイナーとのコンビネーション。前回の例を見るにデリシャスゲームズのデベロップ力は申し分ないし、今回も期待できるのでは!? ……と、ファンが色めきだつ一方で、存外にぼくの第一印象は冴えないものではありました。


 うーん、このゲーム、ちょっと危ないかもしれないぞ……


 仕事柄、発売前の新作タイトルについて、ルールだけを読んでその良し悪しを判断するのは珍しくはないことなのですが、「ウッドクラフト」の初見の印象は正直そこまで芳しくはありませんでした。

 この辺、割と自分の判断力というか、相馬眼にはちょっとした自信があります。まあ、だからこそ、こうした仕事を続けていられるところもあるんですけども。


 今この記事を読んでいる方は「ルールを読んだだけでゲームが面白いかどうかなんてわかるもんなの?」と思われるかもしれませんが、昔のインタラクションの強いゲームならいざ知らず、最近のゲームはルールを読めば良し悪しが掴めるものが多いです。ルールを読んで思い描いてみた雰囲気をテストプレイで確認してみたら、やっぱりその通りだったなー、という例が大半でして、ルールだけでこれは面白そうだぞと思えるゲームはやっぱり遊んでみて面白いものなのです。


 それが、「ウッドクラフト」に関しては、ちょっと響くところが薄かったんですよね。ルールブックを読む上でゲームの良し悪しを決めるポイント(これは商売上の秘密)はいくつかあるんですけども、そのことごとくがうまくハマらなかったんです。


 特に一番悩ましく感じたのが、「プラハ 王国の首都」の流れを濃く感じた点でした。特徴的なアクションホイールを思い出させるメインエンジンといい、わずか13手番(2,3人では14手番)の手番数といい、「ウッドクラフト」が「プラハ」と同じメガユーロ文脈にあるゲームなのは間違いありません。「プラハ」自体はまさにスヒィさんの集大成、一つの到達点と言ったゲームではあるんですけども、詰め込んだ想いがゆえに若干トゥーマッチな作品でもあることも否めなく、日本市場でメガユーロのゲームが果たして受け入れられるんだろうかという点については疑問がありました。この辺、そのソリッド感から日本市場にマッチするぞと第一印象で感じた「メッシーナ1347」とはまるで正反対だったんです。


 もちろん、「プラハ」と比べてシェイプされている点はあります。用意されている要素のどれを伸ばしてもOK、様々な方法で名声を得ることができる……言い換えるとメイン戦略が絞りにくかった「プラハ」と比べて、「ウッドクラフト」は木工品を作るという確固とした軸があり、他の諸要素はそれに従うものとメイン・サブの切り分けが明確で、コンセプトの明瞭さから後発ならではのアドバンテージを感じます。


 とは言え、「メッシーナ1347」で見せたピリッと締まった王道的モダンユーロ路線ではなく、「プラハ」のプレイヤーを圧倒する覇道的メガユーロ路線に舞い戻った点がぼくとしては不安材料ではありました。とは言え、やはりスヒィさんの本性は既存のメカニクスに安住しないシステムモンスターではあって、やはり安定よりも冒険を求める人なのだなあと改めて実感したところはあります。


 あともう一つ不安材料を挙げるとすれば、パッケ絵の妖精の目が怖い……


 目が怖い妖精さん

 いや、パッケ絵って本当に大事なんです! 誰もが一番最初に目にするもので、パッケ絵一つでワクワク感って大きく変わってきちゃうものなんですよ。

 デリシャスゲームズは毎度毎度面白いゲームを作り出してくるのでそこのところは本当に尊敬できるんですけども、パッケ絵のセンスは正直物足りなさがあり…… この辺、例えばパッケ絵からビビッと遊んでみたい欲を喚起してくるコスモドロームゲームズなんかとは正反対なんですよね。「モバイルマーケット」のパッケ絵とか超いいじゃないですか。


 そこのところ、ちょっと垢抜けない感じが、翻って朴訥な好ましさ、微笑ましさでもあるんですけども、うーん、こればかりはセンスなんですかねえ。今年のエッセン新作として予定されている「Evacuation」も「うん、悪くはない! 悪くは!」って感じです。初期稿はもうちょっとダサかったのでちょっとは安心しました。


 Evacuationの最初の案はこんなの。


 そんなこともあって「ウッドクラフト」日本語版では妖精さんの目についてプチ整形を行ったりもしています。一時はもっと大胆なパッケ絵の変更も検討していたんですけども、最終的には現行の形で行こうということになりました。


右がアイプチ後の妖精さん

 ……話がだいぶ逸れましたが、まあ、色々な要素を検討したところ、「ウッドクラフト」の第一印象はそれほどよくはなかったのです。うーん、困った。


◆遊んでみて初めてわかる、底の見えない懐の深さ

 そんな感じで、不安を感じたポイントはいくつかあったのですが、そうこうしているうちにサンプルが届きまして、まあ、実際に試してみようということになりました。


 で、遊んでみての感想は「スヒィさん、スマンな!」。いやはや、コイツはどエラいゲームを作りよったもんだわ……


 先述の通り、まあ、色々なゲームのルールを読んだり、遊んだりしている身ですから、普通のゲームは1回遊べばある程度の底が測れるといいますか、最大のポテンシャルを発揮した場合の面白さはこの辺ね、みたいなところが見えてくるもんなんです。ましてやスヒィさんのゲームとは長い付き合いですから、伸びしろの推測もついて当然みたいなところはあるワケです。

 ……しかし、この「ウッドクラフト」、1回のプレイでは奥底が全然見えなかったんです。これは相当にレアな体験でした。


 「ウッドクラフト」を遊ぶ前には、いくつか新人デザイナーの中重量級のタイトルを遊んでまして、その中には結構気に入ってたタイトルもあったんですよね。いやー、最近の人はゲーム作りうまいねー、みたいな。これとか日本語版作っちゃおうかなー、みたいな。

 ……しかし、「ウッドクラフト」を遊んだ後にそんな余裕は吹っ飛びました。なんか全然違うんですよね。奥行きが。


 ただ、これはゲームが面白すぎて次元が違う、という意味ではなく、むしろ逆に下手すぎてまったく真髄に触れることができなかった、ひたすら打ちのめされて茫然自失としたというべきでして。要はあまりにも惨たらしいロースコアだったんですよね。


 まあ、この手のゲームに馴染みがあれば、なんとなく普通にやっても10枚くらいは注文を達成できるイメージがあるじゃないですか。ある程度まとまった数を最後に数えて、いやー、今日も仕事したなー、みたいな感慨にも浸れるワケです。


 ところがですね、初プレイの結果は6枚でした。しかも、このゲーム、最初に注文カードが4枚配られるところからスタートするので、自分の意志で獲得した注文は2枚だけ。「注文の選択」アクションなんかゲームを通してほとんど使われることもなく…… これがこのゲームの本当の姿かと言ったらもう絶対に違うだろ! と言わざるをえないんですよ。

 もうホントに「オレらボドゲにはそこそこ一家言あるよ?」みたいなプライドをぶち壊しにするかのようなロースコアっぷりで、いや、マジで舐めてかかってスミマセンでしたとしか言いようがなかったんです。


 単純にルールが難解なゲーム、ということではないんですよね。デリシャスゲームズの中ではわかりやすい方だとは思いますし、ゲーム中の様々な挙動が現実的な法則から外れているということもありません。そこはちゃんとテーマとの一体感があります。プレイヤーが妖精さんであることにも意味がある!(1箇所だけ)

 また、メガユーロ文脈のゲームではありますが、要素の多さに圧倒されるという感覚はなく、要素の全てが視界に入ってる気はするんです。

 ですが、全体像が掴めない。盲人象を撫でるという言葉がありますが、まさにそんな感じなんです。


 ともかくルール読みから受けた第一印象とは全く異なるプレイ感だったワケです。ただまあ、それで一つ得心したこともありました。


 というのは、デリシャスゲームズ作品によくある上級ルールがこのゲームには一切なくて、ルールブックを読んだ時にそれが気になってはいたんです。でまあ、終わってからわかったのは「これ、最初っから上級ルール相当なんだわ!」ってことです。

 この手のゲームが、なぜ初級ルールと上級ルールの2つを用意するのかと言えば、ゲームの勘所を掴む上で不要な要素は省きますよー、という親切心……もあるにはあるとは思いますが、それは割と副次的な理由で、主要な理由としてはリプレイアビリティを担保するという割と商売的な事情が大きいのではないかと思っています。

 モダンなゲームでは特にゲーム内のあらゆる内容物がリプレイアビリティに密接に関係しています。一見して「ウッドクラフト」の内容物構成はリプレイアビリティに乏しいように見えるんですけども、実のところは、内容物に依らず、ゲーム自体の骨格によって豊かなリプレイアビリティを生み出しているんです。

 こんな作りは今の時代にそぐわない熱血硬派っぷりではあって、いや、でも、しかし、ゲームってかくあるべきだよな、と襟を正す気持ちにさせられたりもするのです。


 なので、このゲーム、初回プレイで全然うまく行かなくて「なんだこのクソゲー!!!」ってなる人、絶対いると思うんですよ。これ、断言します。

 ただ、4人で遊べば1人くらいは偶然うまく転がる人もいて、そうなれば「いや、実はうまく回せる方法もあるのか?」と気づきをチラつかせもする、そういう人間の学習能力や向上心を信じているゲームなのではないかと思います。

 実際、1回遊んだ後はどうしたら得点を伸ばせるのか、もうそればかりをメチャクチャ考えていました。そういう乗り越えたいハードルとしての欲求を強烈に喚起させてくれるゲームなんです。


 でもって、復讐に燃え滾った心で2戦目に挑んでみると、初戦では見えなかった様々なルートが明瞭に見えてくるんですよね。最終的には10枚の木工品を完成させることができたりもして、こうなるともう脳汁ドバドバなワケですよ。スヒィさんのゲーム特有の浮遊感すらあるコンボ性を体験できたりもして、システムを攻略しているわーという実感が味わえるんですよね。

 ですからこの「ウッドクラフト」、現在主流の快楽装置をドカンと置いて、おもてなししまくり接待しまくりで誰でも彼でも気持ちよくさせるゲームとは一線を画した、めちゃくちゃドSで硬派なゲームなんです。親切だとは到底言い難い、ゲーム好きへの挑戦状としか言いようがない、極めて人を選ぶゲームです。


 今の世の中を見れば、商売的に難しいゲームではあると思います。でも、やっぱり、こういうゲームが最高だと思って作ってるんだろうなと感じてしまって。そりゃあもうこっちとしてもやるしかないよなあとなった次第です。


 そんなワケでぜひ皆様も「オレってこんなにゲーム下手だったのか……?」と打ちのめされて、そこから這い上がる体験をぜひ味わって貰いたいと思います。なんだろうな、コンシューマゲームでいうところのフロムソフト的な立ち位置なのかもしれませんね。


◆数寄ゲームズ通販特典として特製サマリーをプレゼント

 さて、そんな感じで色々と紹介してきた「ウッドクラフト」。色々と脅かすようなことも言いましたが、本場の讃岐うどんのようにコシがすこぶる強靭なゲームなので、よーく噛んで何度も味わって貰えれば嬉しいです。


 単純に手元のリソースをアレコレやりくりする感覚は楽しいもので、数少ない手数からベストの解法を導き出すパズル的快感は誰でも存分に味わえるはずです。また、アクションの選択も悩ましさと嬉しさの両方がある作りなので、自分のやりたいアクションにちょうどいい感じのオマケがついて来たりすると、もうそれだけで快感があるんですよね。


 その上で、何度も遊び込んで高みを目指すことのできる懐の深さも備えているので、1つのゲームを長く深く楽しみたい方にとって、最適なゲームと言えるんじゃないかと思ってもいます。ゲームデザイン的には2人プレイでも問題なく機能しますし。


 また、取りうる戦略の多彩さと、そのバランス感覚が優れている点は個人的に大きく評価したい点です。

 この手のモノづくりゲームで、テーマに沿ったメイン戦略を取るよりも別の行動を取るサブ戦略の方が強いゲームってあったりしますよね。サブ戦略がメイン戦略を完全に食ってしまうと興覚めになってしまうものですが、かと言って一本道だとそれはそれで味気ない…… なかなか人間、欲張りにできているものです。

 「ウッドクラフト」は、このメイン戦略とサブ戦略のバランス比が実にうまーくできていて、メインとなる木工品作りをやっていれば大筋は間違いないんですけども、様々な要素をうまく使いこなすとチートっぽいズルい動きもできたりする…… このサジ加減が絶妙なんですよね。

 かといって、カードの出方次第で勝敗が決まってしまうような極端なバランスではなく、サブ戦略でメイン戦略を打ちのめすのはどちらかと言えばロマン寄りです。ロマン寄りですが、やれなくもない…… 「理屈としては可能」なのがゲーム好きの心をくすぐるんですよね。詳しく説明してしまうとネタバレになってしまうので具体例は伏せますが、皆様、ぜひ色々な戦略を見つけてみてください。


 ソロプレイルールはデリシャスゲームズ恒例のAIの妨害を切り抜けつつハイスコアを狙うスコアアタックルールなんですけども、記載されている得点例が、うーん、結構難しいような…… これまた歯応えがメチャクチャありそうですね。


 また、数寄ゲームズ通販サイトでお買い求め頂いた方には、デリシャスゲームズ恒例とも言える、特製のサマリーを添付いたします。例によってアイコン量も多く(デリシャスゲームズ製品としてはスッキリしてるほうですが)、要素の多いゲームであることは間違いないので、初回プレイやインスト抜けなどに役立つのではないかと思います。



 特に切断タイルと替刃トークンの関係はちょっと複雑で、インストでも浸透しにくい部分だったので、切断の一例を載せているところは注目ポイントかなと思っています。植樹の際に魔法の力で1回だけカットできるのも入れとけばよかったな……


ウッドクラフト

プレイ人数:1-4人
対象年齢:12歳以上
プレイ時間:60-120分

ゲームデザイン:Vladimir Suchy
アートワーク:Michal Peichl
小売希望価格:8800円(税込)

posted by 円卓P at 11:03| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする