2023年05月12日

ゲーム紹介「モバイルマーケット」


 数寄ゲームズはスマートフォン開発会社のCEOとなってスマホ市場の覇権を争う戦略ゲーム「モバイルマーケット」を発売します。プレイ人数1-4人、対象年齢12歳以上、プレイ時間60分で、小売希望価格は税込5500円となります。

 一般販売に先駆けて、ゲームマーケット2023春の「コ35」数寄ゲームズブースにて先行発売を行います。イベント特別価格5000円での提供となります。

 ゲームマーケット後は数寄ゲームズ通販サイトにて販売を行い、後に全国のボードゲームショップさんでもお買い求め頂けるようにする予定です。



 「モバイルマーケット」は2018年にCosmodrome Gamesから発売されてスマッシュヒットとなった「スマートフォン株式会社」の流れを組むタイトルで、「ファーナス」でもその技巧を見せつけたロシア人デザイナーIwan Lashinの作品です。「スマートフォン株式会社」の拡張ではなく、単体で遊ぶことができるタイトルとなります。


 「スマートフォン株式会社」は、そのユニークなアクション決定システムとスピーディで流麗なゲームデザインが高く評価された作品でして、「モバイルマーケット」はその特徴を受け継ぎつつも、より今風のエッセンスを採り入れた手強くも華のあるタイトルに仕上がっています。

 両者の一番の相違はボードメインだった「スマートフォン株式会社」に対して、「モバイルマーケット」はカードメインのゲームに変貌したということでしょう。一見、これは巷によくある〇〇○カードゲームのような元ゲームの精髄を抜き出して小型化したゲームのように思えますが、「モバイルマーケット」について言えば、むしろより情報を詰め込んでマッシブさを増した「フルアーマー版スマートフォン株式会社」と言う趣があります。既存のゲームで言えば「テラミスティカ」と「ガイアプロジェクト」の関係に近いかもしれません。



 カードメインということもあって「スマートフォン株式会社」よりもお手頃な価格でご提供できるのですが(というか全体ボードを2層構造化した「スマートフォン株式会社」はそりゃ高くなって当然という仕様なのですが……)、中身までお手頃かと言えば全然そんなことはなく、むしろそういう気分で取り組むと逆に頭をぶん殴られるまである、非常に挑戦的かつ歯ごたえのある経済ゲームです。「スマートフォン株式会社」をすでにプレイしたことのあるプレイヤーにとっても新鮮味の多い、探究余地の広大なゲームと言えましょう。


 では、その魅力はどういったものなのか。それをこれからご紹介していきましょう。


◆ゲームの概要や流れを簡単にご紹介

 テーマやゲームの流れは概ね「スマートフォン株式会社」と同じではありますが、「モバイルマーケット」独自の部分も多くあります。


 「モバイルマーケット」において、プレイヤーはスマホ開発会社のCEOとなって、(1ラウンド1年に換算される)5ラウンドを通してより多くの利益=VPを稼ぐことを目指します。



 各ラウンドはスマホ販売にまつわる様々な業務を表すいくつかのフェイズから構成され、プレイヤーは技術開発や広報活動、スマホの設計、製造、販売活動を通してより多くの利益を上げられるように努めます。


 プレイヤーが各ラウンドで最初に決定を求められるのが2枚のパッドの組み合わせです。簡潔かつ悩ましいこのアクション決定メカニクスは「モバイルマーケット」の心臓部分と言っていいでしょう。先述の様々な企業活動の方向性はこのパッドの組み合わせによって決定されます。



 さらにパッドの組み合わせによって、スマホの販売価格も同時に決定されます。この販売価格は単純に将来の売上の見込みが決まるというだけではなく、以降のフェイズの行動順を決定する重要な要素です。

 基本的にこのゲームは、早取りのゲームです。技術の獲得、販売施策の獲得、顧客への販売、全てが早取りで構成されていて、先手を取ることに大きな強みのあるゲームと言えます。

 そして、スマホの販売価格をより安く抑えたプレイヤーは、他プレイヤーよりも先に行動することができます。……基本的には。

 そのため、時には得られるであろう利益を投げ売ってでも先手を取らなければならないタイミングがあるのです。この互いの読み合い、駆け引きが「モバイルマーケット」の醍醐味と言えます。


 さて、それぞれがアクションを決定し、行動順が決まったところで迎えるのが技術フェイズです。



 このフェイズでは、スマホを製造する工場をアップグレードする技術カードやスマホに様々な機能を搭載する機能カードが購入できます。

 さきほどのパッドの組み合わせによってプレイヤーはいくつかの技術ポイントが貰えます。この技術ポイントを支払うことでプレイヤーは技術カードや機能カードをお買い物できるのですが、先述の通り、スマホの販売価格によって決まる手番順で購入していくので、後手番のプレイヤーは残り物を買うかどうかという辛い選択を迫られます。

 余った技術ポイントは次ラウンドでも使えるので無駄にはならないのですが、このゲームは拡大再生産のゲームなので基本的には使い切るのがベストです。よーく考えて自社に必要な技術や機能を開発しましょう。


 続くフェイズは販売促進フェイズです。このフェイズでプレイヤーはスマホ販売活動にまつわる様々な販売施策カードを購入します。



 「スマートフォン株式会社」既プレイヤーにとって注意して頂きたいのはこのフェイズのみ手番順とは逆順に処理を行うということです。つまり、スマホをより高値で販売するプレイヤーが先に行動することができます(このフェイズは「スマートフォン株式会社」既プレイヤーほど処理を間違えやすいので注意が必要です)。

 技術フェイズと同様にパッドから得られたポイントを支払ってカードを購入するのですが、余ったポイントは持ち越しできず、後に商品を販売する顧客カードの獲得に使用されます。


 続く生産フェイズではスマホの生産数が決まります。とは言え、ここは手順に沿って生産数が決まるのでプレイヤーの判断が絡む部分はありません。

 重要なのは次の販売フェイズです。プレイヤーは先程生産したスマホを全て売り切ることを目指します。顧客にはガジェット好き、一般顧客、コアユーザーの3種があります。



 顧客は販売する製品の機能と価格にのみ興味があります。そこで、プレイヤーは購入した機能カードのうち、必要と思われる機能をスマホに搭載し、機種の設計を行います。



 プレイヤーは様々な機能を搭載したハイエンド機種を販売するのか、それとも手頃な機能で価格を抑えた割安スマホを販売するのか、どの顧客にどういった商品をアピールするかを考えなければなりません。

 注意するべきは製造コストの概念でしょうか。ありとあらゆるコストの高騰が頭痛の種となる昨今ではありますが、その世相を反映したのか、スマホがタダで生産できた「スマートフォン株式会社」とは異なり、「モバイルマーケット」では様々な機能を搭載すると製造コストも上がってしまうというデメリットがあります。


 製品を販売できる顧客には大きく分けて2種類あります。各社競合で奪い合う「市場の顧客」と、自社の製品のみを買ってくれる「お得意様」です。

 「市場の顧客」は、それぞれの顧客の手持ち予算に合わせて並べられた顧客カードの一群です。プレイヤーは手番順にそれぞれの顧客カードをチェックし、条件が満たされた顧客カードがあれば、商品を販売できたものとして獲得します。これは先述の通り、手番順に実行するので、後手プレイヤーには製品を販売できる顧客カードが残っていない場合もあります。



 一方で「お得意様」はそれぞれの企業が独自に囲い込んだ顧客で、他プレイヤーに奪われることがない自社だけのファンです。しかしながら「お得意様」には優先的に商品を提供する必要があり、「市場の顧客」に商品を販売する前に「お得意様」の都合を優先しなければなりません。「お得意様」ばかりにかまけているとせっかくの「市場の顧客」を逃してしまうこともあるのです。


 こうして商品の販売を行った後、利益の精算を行います。まず最も多くの商品を販売したプレイヤー(これはこのラウンドで獲得した顧客カードの枚数で表現されます)は、市場シェアのボーナスを得ます。

 続いて最初に決めた販売価格からスマホの製造原価を引いた「粗利」と「販売したスマホ数」を乗算した額を乗算した「利益」を受け取ります。より利益幅の大きいスマホをより多く売るのがベストですが、遊んでみるとそれがなかなか難しいことがわかるでしょう。


 以上がラウンドのざっくりとした流れで、これを5回繰り返したところで最も多くの利益を上げたプレイヤーが最終的な勝者となります。


◆タブロービルドに舵を切って、よりゲーマーズゲームに

 さて、「スマートフォン株式会社」と「モバイルマーケット」、両者の細かい違いを上げればキリがないのですが、その一番の大きな違いはやはり内容物の変化と密接に関わっています。つまりカードをメインに用いることで最近の流行の一つであるタブロービルド性の強いゲームに変貌しているということです。


 タブロービルドとはなんぞや? 「タブロー」は日本語で言えば「場」のことで、ザックリと言えばタブロービルドとは場にズラズラとカードを並べて、それぞれの各カードが自分の様々な要素をパワーアップさせるゲームのことです。こういったゲーム、お好きな方は多いのではないでしょうか。

 「スマートフォン株式会社」でもそういった自社の強化要素は用意されていたのですが、さほど組み合わせに広がりはなく6枚のタイルの裏表によって利用できる組み合わせが決まっていました。

 一方で「モバイルマーケット」では30枚の技術カード、30枚の販売施策カードの計60枚によってこれらが表現されるため、バリエーションは爆発的に増加しています。さらにこれらのカードは、カードという形質から他者との共有ができない…… 言い換えれば自社独占のアドバンテージになるため、それぞれの企業がそれぞれの独自戦略を行使できるゲームに変貌しました。



 そのため、どの技術カード、どの販売施策カードを狙うかの駆け引きは実に濃厚で、最初の価格設定から早くも激しい読み合いが始まります。「スマートフォン株式会社」の第1ラウンドなんかはまあのんびりしたもので、お互いの本拠地は離れているし、技術の獲得に出遅れても別に後乗りできるしで、「まあ、ゆるゆると肩を暖めて行こうや」と言ったノリだったのですが、「モバイルマーケット」では各カードを取得できるのは先着1名限りということもあって、最初から激アツなテンションでゲームが始まります。

 そして、技術カードは販売価格を安く設定したプレイヤーから、販売施策カードは販売価格を高く設定したプレイヤーから獲得するため、必ずしも安売りが正義ではありません。重視すべきは技術か宣伝か、自社の成長性を踏まえた選択が重要になります。


 強化要素の増大は自由度という観点から言えば大幅なパワーアップではあります。一方で、特殊能力をゲーム冒頭にだけ確認すればよかった「スマートフォン株式会社」に対して、「モバイルマーケット」は各ラウンドでユニークカードを確認する必要があるため、プレイの負荷は高まっているとも言えます。


 遊びやすさだけに焦点を絞るのであれば、軍配は「スマートフォン株式会社」に上がるとは思います。スッキリとしたプレイ感でドッシリとした満足感を得られるのは「スマートフォン株式会社」の大きな利点です。

 一方で、回数を重ねるとどうしても戦略が似通ってしまう、同じようなゲーム展開になりやすいと感じる方もいるのではないかとも思います。そういった方々に対して「モバイルマーケット」が用意するカード群はバリエーション豊かな戦略を提供します。完成度が高いのはどちらかを云々するのは実に難しいのですが、ゲートウェイゲームとしての「スマートフォン株式会社」、エキスパートゲームとしての「モバイルマーケット」という表現が両者の対比としては適切なのかなと感じています。

 ただ、そのエキスパートゲームという表現にしてもメチャクチャ複雑な処理を要求するよという意味合いではなく、比較対象はあくまで「スマートフォン株式会社」ですから、この手のゲーム(数寄ゲームズがよく出すゲーム)に慣れている人であれば標準的な複雑度ではあります。その辺の塩梅の取り方はデザイナーIwan Lashinの上手さですね。


 また、プレイ感の割と大きな変化として、タブロービルド感が強まって、手元のカードの構築要素の比重が高まったため、最終ラウンドのジャンケン感がうまく漂白されているようにも感じます。もちろん、最終ラウンドの結果が一番大きく勝敗に影響を与えるように意図的なインフレが設定されているんですけども、それ以上にそれまでのラウンドで積み重ねてきた技術や販売施策の蓄積が勝敗を左右する部分が大きく、結果への納得感が強いのではないかと思います。


 テーマ性からの視座で言えば、大きなボードならではの陣取り要素がオミットされて、単一の市場にフォーカスされたのも感覚としては大きな変化があります。要するに「スマートフォン株式会社」で地球を捉えていた衛星カメラがグーッと地表をズームアップしていって顧客の顔が見える距離まで近づいたのが「モバイルマーケット」という感じで、ゲームのスケール感で言えば小さくなってはいるんですけども、泥臭くも現実味のある単一商圏での争いはよりロールプレイの肥やしにしやすい舞台設定とも言えます。

 また、各ラウンド冒頭で公開され、ゲーム展開にちょっとした影響を及ぼすイベントカードも実装されました。これはKS版「スマートフォン株式会社」のストレッチゴールの要素を取り込んだものなんですけども、フレーバーとその影響がよくマッチしていて面白いですね。




◆スマホ&モバマ比較レビューコンテスト、やります

 とまあ、それぞれの違いを軽く語り出したらなかなか終わらないのでちょっと困っているんですけども、「スマートフォン株式会社」と「モバイルマーケット」は同じようでいて結構な違いがある両作です。どちらかがどちらかの完全上位互換ということはなく、相補的な関係の二作と言えるので、ぜひ両作の違いを楽しんでみて貰えると楽しいのかなと思っています。


 また、個人的にこうしたゲームデザインの比較対照を趣味として楽しんではいるんですけども、もっと多くの方々にそういった楽しさを共有してもらいたいなと思いまして、今回の発売を記念して、「スマートフォン株式会社」と「モバイルマーケット」の両者の違いに関するレビューを募集するコンテストを実施したいと思います。これはテキストだけに限らず、動画レビューも受け付けたいなと。


 今回の紹介記事でもいくつかの相違点については述べさせて貰ったんですけども、いやいや、両作にはこれだけに留まらない様々な特徴の違いがあります。似通っているだけにその差が際立つところはあるので、レビュー記事を書くためのお題としてはやりやすいのではないかと思っています。


 以前発売した「厄介なゲストたち」でバリアントルールを募集するコンテストを開催したんですけども、ノリとしては同じような感じで、優れたレビューを応募して頂いた方には賞品を贈呈したいなと考えています。

 「厄介なゲストたち」のバリアントルールコンテストは審査がめちゃくちゃ大変なこともあって応募者の方々にご迷惑をおかけした部分もあるんですけども、こちらはそれほど審査の負担は大きくないとは思うので大丈夫なんじゃないかと思っています。詳しい要綱は改めて告知させて頂きますが、それまでに「スマートフォン株式会社」を復習して頂きまして、レビュー内容を練って頂けると嬉しいです。


 また、レビューコンテストの開催に合わせて両作のオトクなセット販売なんかも考えていますので、どうぞご検討頂ければと思います。


◆長らくお待たせした「モバイルマーケット」がいよいよ発売です

 さて、この「モバイルマーケット」は、出版社がロシアのCosmodrome Gamesということもあり、なかなか先行きが見えなかったタイトルではあります。戦争が継続中の間はCosmodrome Gamesもなかなか動きにくい状況ではあるでしょうね(今年のエッセンも出展できないでしょうし)。

 ついでに言えば、開発会社のOpen Borders Studioは旧名Comrades Development(和訳すると「同士開発」)という名前だったんですけども、この響きがあまりにもロシアっぽかったんで設立後わずか数年で改名したりもありました。戦争の影響はこんな形で現れたりもするワケです。


 そうした事情もあり、なかなか発売を発表できず、やきもきさせた方々も少なくないのではないかと思いますが、なんとか発売までの道筋が見えたこともあり、先日告知をさせて頂きました。大変多くの反響を頂きまして、ちょっとビックリしたくらいです。


 Cosmodrome Gamesは戦争を抜きにしても仕事が早いとは言えない出版社ではありまして、「スマートフォン株式会社」は日本語版の発売までに相当な時間がかかりましたし、こちらもなんだかんだで5年くらいは付き合いがあるので、その辺の性格も熟知してる感じではあります。


 なので、ようやく発売できそうな…… まあ、この記事を書いている最中はまだ手元に現物が届いてないんですけども、なんとか発売できそうで、いやー、良かったなーと思っています。


 また、「スマートフォン株式会社」と比べて対応人数が1−4人と狭まりはしましたが、これは単純なスペックダウンと言うよりは「スマートフォン株式会社」がフルスペックを発揮するのに多くのプレイヤーを必要としていた面もあるため、「モバイルマーケット」は意図して少人数寄りにフォーカスしたゲームと言えます。タブロービルド系のゲームはそもそもが内向きの少人数寄りのデザインになりがちではあります。

 ソロプレイ用のバリアントではAIプレイヤー「スティーブJr.」が対戦相手を務めてくれますが、これを2人プレイに持ち込んでもいいかもしれません(ルールブックではそうした推奨はありませんが)。


 元々「スマートフォン株式会社」は優れたタイトルではあったんですけども、それがよりお求めやすい価格で、かつ、より深化した内容のものをお届けできるということで、個人的にもとても期待しているタイトルです。

 ぜひ皆さん、大いに遊んで頂いて、さらに言えばゲームレビューコンテストにも応募して頂ければこれ以上の嬉しさはありません。

 どうぞ「モバイルマーケット」をよろしくお願いいたします!


モバイルマーケット

プレイ人数:1-4人
対象年齢:12歳以上
プレイ時間:60分

ゲームデザイン:Ivan Lashin
アートワーク:Viktor Miller Gausa
小売希望価格:5500円(税込)
posted by 円卓P at 11:30| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする