2022年07月22日

ゲーム紹介「乗り間違い」



 数寄ゲームズは、Jürgen Kraulデザインのトリックテイキングゲーム「乗り間違い」の日本語版を発売します。プレイ人数は3-4人、対象年齢10歳以上、プレイ時間30分です。小売希望価格は1980円(税込)となります。


 数寄ゲームズ通販サイトにて7月25日より予約開始、8月1日より先行発売を始めます。その後、全国のボードゲームショップさんへのご案内、流通を予定しております。


 ぼくのライフワーク、もしくは商売抜きの趣味として続けています、数寄ゲームズの名作トリックテイキングシリーズの第5弾にあたるこの作品は、トリテ好きの中では知られた……というか、トリテ好き以外に知られることのないゲームの一つでして、まあ、その日本語版が出る世界線というのは、結構えらいところに来てしまったなーという感もあります。まあ、その辺りの顛末は後ほど書きたいと思います。


◆勝つべきか、負けるべきか、徐々に明らかになるトリテ

 さて、このトリテ、トリテ部分だけを切り出してみると物凄くスタンダートな仕組みのゲームです。マストフォロー、切り札スートあり、4スート、ランクは0から12まで。

 これだけで、「はい、どうぞ始めてください」で通じるくらい、シンプルな仕組みなのです。逆にこれだけ読んで「なんのこっちゃ?」とお思いの方はもちろんいるでしょうが、これはスタバの注文みたいなものなので、そういう暗号めいたやり取りがある界隈も世の中にはあるのだとご理解頂ければ幸いです(ぼく自身はスタバで流暢に注文できる自信はないですが、まあ、そういう慣例は自ずと生えてくるものなのだろうなあと捉えています)。

 さて、しかし、これでゲームを始めろと言われても、これだけではおそらくカードをプレイする手は動かないでしょう。と言うのは、ゲームで一番大事な要素である得点体系について、全く説明していないからです。

 果たしてこのゲームはトリックを取っていいトリテなのか、それともトリックを取ってはいけないトリテなのか。ビッドがあるのかないのか、あるとしたらそれはどういう形式なのか……


 トリテの真髄はまさにこの得点システムにあります。それ以外の部分は得点システムを活かすためだけに存在するもので、カレーで言えば福神漬くらいの立ち位置です。

 ですから、あるカレーがユニークかどうかを問う時、一番大事なのはカレールー自体がユニークかどうかです。福神漬を酢ダコに取り替えてみても、それはちょっと変化をつけたカレーだね、というだけであって、ユニークなカレーとは呼べません。

 その上で、「乗り間違い」がユニークなカレーなのかと言えば、そうですね…… 間違いなくユニークだと思われます。というのは、このカレー、甘口なのか辛口なのか、一口食べただけではわからなく、食べ進めるにつれて徐々に辛さが判明してくるカレーだからです。


 ……変な喩えをしたせいで謎ばかりが深まってしまいましたね。もっと直截的な表現をすると、このトリテは「トリックを取るべきか、取らざるべきかがラウンド中に決まるトリテ」ということになります。

 あるラウンドは「なるべくトリックを取った方がいいラウンド」になり、また別のラウンドでは「なるべくトリックを取らない方がいいラウンド」になる。得点ルールがまったく真逆になるワケです。
 しかもそれがラウンド冒頭に決まっているのではなく、ラウンドの最中にどちらになるかが決まる…… 摩訶不思議ですよね。

 では、この得点ルールがどう決まるかと言えば、その方法にこのゲーム一番のハイライトがあります。プレイヤーはそれぞれが最初に配られた手札から1枚を選んで秘密裏に伏せます。伏せられたカードはすべてをシャッフルして捜査情報の山を作ります。

 捜査情報…… そうそう、言い忘れましたが、このゲームにおいてプレイヤーの立場はロンドン市街を飛び回る怪盗の行方を突き止めんと奮闘する警察組織やらの一員になります。

 捜査情報の山からは特定のタイミングでカードが1枚ずつ公開されていくのですが、ここで着目すべきはカードのランクです。このようにして公開されたカードのランクの合計によって、このラウンドの得点ルールが決まります。


・公開されたすべてのカードのランクの合計が一定値を超えた場合 → 怪盗は市外に逃げた! なるべく多くのトリックを取るラウンドになります。

・公開されたすべてのカードのランクの合計が一定値を超えなかった場合 → 怪盗は市内に潜伏している! なるべくトリックを取らないようにするラウンドになります。


 つまり、各ラウンドの得点ルールはプレイヤーの総意によって決まるのです。多くのプレイヤーが「より多くのトリックを取りましょうよ!」と意思表示すればそうなるし、逆もまた然りということです。

 しかしながら、伏せるカードとプレイヤーの希望は概ね相反することが多いのです。ここがシンプルながらよくできていて、「トリックをなるべく多く取るラウンド」を実現するためには、トリックを確実に取れるような強いカード1枚を伏せなければならないのです。うーん、ジレンマ!

 あるいは、他にも同じように考えている人がいて、自分が少し手抜きをしても事態が都合よく展開するかも…… という可能性も当然あるにはありますが、果たして未来がどうなるかはわからない…… 遊んでみるとわかるんですが、ラウンドの得点ルールを定める閾値設定が実に絶妙なのです。


◆ディール中に様々なイベントが起こる賑やかトリテ

 さて、先述のように、「全員の総意によって得点ルールが分岐する」という点が「乗り間違い」の最大の特徴と言えます。そして、そのメインギミックを活かすために様々な工夫が用意されているのもこのゲームの巧みなところです。


 例えば、4人プレイでは、伏せられた4枚のカードは2,3,4,5トリックの終了時に開示されます。じわりじわりと情報が公開されていく過程には独特な緊張感がありますし、自分が伏せたカードがどのタイミングで公開されるかによっても有利不利が微妙に変化します。

 「いきなり切り札をプレイしてトリックを取るプレイヤーがいる…… ということは……?」と推測を働かせることもできたりもして、他人の思惑を推理するのが殊の外楽しいんですね。トリテの序盤ってスートが枯れないうちに確実にトリックを取りに行くようなムーブが多かったりで、ゲーム体験としては淡白になりがちなんですけども、このゲームは最初から腹の探り合い全開で一挙手一投足に込められたメッセージを見落とすまいとアレコレ考えるのが楽しいところです。


 また、手札が残り4枚になったところで切り札が変わる可能性がある、というのもユニーク……というか変なギミックです。

 このゲームは特定の1色が切り札カラーに指定されるタイプのトリテなんですが、そのラウンドにおいて一番不利なプレイヤー(最も多くのトリックを取っているプレイヤー、もしくはその逆)は、手札が残り4枚になったタイミングで切り札を変更する権利をもらえます。

 当然ながら自分の手札に合わせて切り札を選択できるため、残り4トリックでの逆転の余地が生まれます。手札がめちゃくちゃ弱くても、突然切り札ばかりの手札に変貌する可能性があるのです。

 このルールを考慮すると、切り札の使用タイミングは悩ましいです。得点ルールが(おおよそ)決まってからの切り札の変更タイミングまでは2トリック程度しかないので、手札に切り札をいっぱい抱えていても使い切れない可能性があるのです。

 かといって早めに切り札を使った後に、そのラウンドがトリックを取らないラウンドに決まったら目も当てられません。さて、切り札をプレイする最適なタイミングは……? なかなかテクニカルなプレイングを要求されるゲームなのです。


 とまあ、こんな感じで、「捜査情報の公開」と「切り札の変更」という2種のイベントが用意されているゲームなのですが「どこで何が起こるかなんて覚えてられないよー」という方もいるかと思います。手札残り4枚になったところで切り札変更とか絶対に忘れるでしょ!



 ご安心ください。それに備えて、今回の日本語版では各イベントが起こるタイミングがわかるようにバスチケット型のチップを用意しております。トリックを獲得したプレイヤーはバスチケットを1枚獲得し、獲得したバスチケットが青なら「捜査情報の公開」、赤なら「切り札の変更」を実行することで、イベントの遺漏なく進行することができるのです。

 なお、恥ずかしながら、同梱のルールブックとサマリーにおいてバスチケットの配置の記述に誤りがありました。製品には修正したルールブックとサマリーを添付いたします。また、上記の図は修正後の配置図ということになります。発売前から気勢を削いでしまって申し訳ないのですが、お買い求めの際にはご理解を頂ければと思います。


◆王道にして異端。要素の組み合わせが絶妙なパーティートリテ

 ということで、「乗り間違い」の特徴を纏めますと、トリテ部分は極めてオーソドックスなスタイルながら、得点ルールにまつわる部分にこれでもかとばかりに奇妙な工夫が盛り込まれている王道かつ異端なトリテです。トリテを知ってる人ならプレイ感は極めて軽く、遊びやすいルールなのですが、やはりこの独自性を理解して乗りこなすまでは結構なじゃじゃ馬ぶりを感じさせてくれます。


 トリテを全く知らないという方には…… ちょっとルールが多いかもしれません。日本語版ではバスチケットを用意して視覚的に流れを理解しやすくなってはいるとは思いますが、ルール量自体は普通のトリテ+αなので、まずは「ブードゥープリンス」辺りから始めてみるのもいいかもしれません。


 また、トリテには競技的なカッチリとしたトリテと、パーティーライクなワイワイ楽しむトリテの2種があるのですが、このゲームはどちらかと言えば後者です。そもそもがディール中に切り札を変更できるルールを採用してる時点で結構なカオス属性、パーティ寄りと言いますか、志向しているのが明らかにそっち側なんですよね。

 推理要素的な部分もそこまでカッチリしたものではなく、ある程度見切り発車で動いた方が結果的にうまくいくこともあり、格闘ゲームでいうところの「ぶっぱ上等」なところもあるにはあります。まあ、そういう大らかさも含めて、感情を振幅させる装置としてはうまく機能していて、ともするとプレイングが地味になりがちなトリテにおいては珍しく感情を揺らすポイントがいくつも用意されているゲームです。


 そういう意味で、古典的、競技的なトリテを好む人にはちょっと肌に合わないかもしれませんが、昨今のトリテ事情的にはこうしたタイプのトリテは多くの人に好まれるのではないかと思っています。回り回って王道的なところと、変化球的なところのバランスのいいトリテなのではないかなと。

 ちなみにトリテ部分は前述の通りスタンダードなものなので、アンコントローラブルな理不尽さは感じないとは思います。稀によくある気持ち悪さが先に立つトリテではない、ということです。

 まあ、切り札の変更などという飛び道具はありますが、トリテ者ならイベントが起きる前になんとかできますよねー。


 また、このゲームにはバリアントとして、「プレイした場合には最弱となり、さらに切り札を変更する権利を貰える怪盗カード」を加えたルールも同梱されています。このルールだと切り札は最大2回変更される可能性があるため、ゲーム展開はよりカオスに! どのタイミングで怪盗が出てくるかでゲーム展開も大きく変わりそうなので、こちらもぜひ試してみてください。


◆自分でも驚いた、まさかの復刻

 さて、以降はゲームそのものとはあまり関係の内容です。ゲームの出版の周辺の事情に興味があるという方だけお読み頂ければと思います。


 「乗り間違い」は、出版社が今は亡きBerliner Spielkarten(「知略悪略」もここの出版社)から出ていたゲームということもあり、ファンからは復刻が絶望視されていたタイトルの一つです(復刻が絶望視されてるトリテ、結構多い)。

 「知略悪略」も結構な難物ではあったんですけども、「乗り間違い」の一番の障害はこのゲームの権利者であり、作者であるJürgen Kraulが、これ以外のゲームを全く作っていないという点にありました。このゲームは元々が2001年に発売されたそうですが、つまり20年近くゲーム業界との接点がない人と交渉する必要があったのです。

 「知略悪略」のKlaus Paleschなんかはそうは言っても「シュティッヒルン」やらの現行作品がありまして「とりあえず権利者が明確に存在していて、かつ対話が可能な状態である」ことがわかっている状態だったのですが、一昔前の寡作のデザイナーはひょっとしたら現在はご存命でないかもしれないという可能性もあり(新型コロナウイルスという人を選ばない災禍の最中ということもあります)、まず対話のテーブルに着くことができるかどうか、という点が一つのハードルとして如実に存在していたのです。


 で、当然ながらぼくは日本在住の身でして、ドイツのどこかにいる(かもしれない)1デザイナーとコンタクトを取るというのはかなりの難問です。早々に独力での解決を諦め、コネに頼ることにしました。

 コネ……つっても微々たるものですが、やはりここは「知略悪略」でもお世話になったBerliner Spielkartenの元編集の方にお力添えを願うべきでしょう(細々とでもこうした活動を続けることの意義の一つは、こうした人間関係を広げていけることだと思います)。「乗り間違い」の日本語版を出版したい旨を伝え、デザイナーの連絡先を知ってたら教えて欲しいと頼みました。

 ところがやはり20年前の話、メールも電話も不通であると返信があり、あー、これは断念せざるを得ないかー、と肩を落としたのでした(ちなみにアートワークのデータが残っているかも聞きましたが、これも当然のように存在しないとのこと)。

 「Jürgenはベルリンにいると思うよ」というのが彼から得られた唯一の情報でした。ベルリンて。広いて。


 それから数日後。彼から再び連絡がありました。曰く、Jürgen Kraulの古い住所を見つけたのでそこに手紙を送ってみるとのこと。手紙作戦! この令和の時代に! 手紙!

 手紙作戦の弱点はこれまでの条件の諸々に加えて「転居してない」という条件が課せられることです。しかしながら、ここまで来たら手がかりとなるのはそれくらいしかありません。ぜひ手紙を送ってみて欲しいと彼に嘆願し、返信を待つことにしました。

 しかし、自分には何の得にもならんというのにお手紙まで書いてくれる元編集の人、めちゃくちゃいい人じゃないか? ボドゲ業界の聖人だわ。


 それからさらに数日後。なんとJürgen Kraulから返信があり、彼とコンタクトを取ることに成功したという連絡がありました。うおおおお、マジでかー! ちなみに本当にベルリンにいました。


 正直なところ、「こういう形で追い詰められてからの一手が逆転に結びつくなんて、そんなマンガみたいな話はさすがにないよなあ〜〜〜」と諦観していたので、手紙作戦が成功したことにめちゃくちゃビックリしました。メールも電話もダメなら最後は手紙。人間最後まで諦めてはなりません。


 で、Jürgen Kraulに直接連絡を取ってみたところ、彼は日本語版の出版にとても乗り気で、これなら現実的に日本語版を出せそうだぞ、という段になりました。

 しかしながら、日本語版を作れる…… 作れるかもしれないけど、果たして一体どれくらいの人が「乗り間違い」を喜んでくれるんだ!?

 この点については、大きな疑問が拭えないのは確かでした。なんつってもマイナーオブマイナーゲームなんですよこれ。


 正直なところ、これまでの数寄ゲームズトリテシリーズの中で一番ヤバい…… 一番勝算のない戦いと言ってもいいかもしれません。皆さんに覚えておいて貰いたいんですけども、絶版になるゲームって言うのはですね、そもそもが重版するだけの人気がなかったってことなんですYO!

 それを今になって身銭を切ってアレコレ復刻しているというのは…… 冷静に考えてみるとなんなんでしょうね…… まあ、当世の人気だけでは計り切れない価値がこのゲームにはあるんじゃないかと思い込んで、暴走しているだけなのかもしれません。基本的にダイヤグラム10:1で分の悪い勝負なので、他人には絶対にオススメしません!


 そんなワケで連絡がついた喜びから一転、「マジで出版するの?」という非常に現実的で身も蓋もない判断を要求される事態になったのですが、しかしながら、最終的には「この機会を逃したら一生出せなくなるかもしれん! そして一生悔いるかもしれん!」という強迫観念にも似た感情に押されて契約書にサインしました。


 ……そんなワケでこのゲーム、自分の中ではすごく複雑な感情を持っている作品ではあります。相当に分の悪い勝負に挑んでいるなという実感はあるので、このシリーズの存続のために、どうぞ皆様、お買い求め頂けると幸いです。


◆アートワークとテーマ設定について

 さて、分の悪い勝負を分の悪いままにするのは、これまた本意ではないので、なるべく足掻いてみようとは思いました。アートワークの選択です。

 先述の通り、原版のアートワークは残っていませんでした。ということで、日本語版のために改めて描き起こす必要があります。

 しかし、この原版のアートワークが極めて魅力的なことは、復刻においては逆に問題でした。あまり美術の造詣がないので言語化が難しいんですが、すごくポップでインパクトが強いイラストなんですよね。グラフィックデザインもいい……

 これはどうやってもアートワークでどうこう言われるやつー、と思ったので、ここは方針を切り替えて、原版とは全く違う切り口で行くことにしました。

 さて、話は全く逸れますが、そもそもの「乗り間違い」という邦題は「Auf falscher Fährte=間違った手がかり」を「Auf falscher Fahrte=間違った旅」とウムラウトの有無からくる誤訳で生まれた邦題だったりするんですけども、この誤訳はトリテ好きにはちょっとは知られた定番ネタだったりします。なので、日本語版を作るにあたってはタイトルについてもこの誤訳に則るのか、それとも正確な邦訳を改めて当てるのか、これがディレクションの一つとして提示されました。


 個人的にこのジレンマを「どきどきワクワク相性チェックゲームを復刻するとしたらタイトルはどうするか問題」と呼んでいるんですが、個人的な思いとして、これまでの日本のトリテ文化を尊重する向きで行きたい、という考えから、恥も含めて文化であると、敢えて誤訳である「乗り間違い」というタイトルを選択することにしました。


 でまあ、元々は誤訳なんですが、だったらそれに合わせてテーマを揃えればええんちゃうのと。ついでに言えば、それがルールの理解に沿った形にもできそうだぞと。

 そんなところから「乗り間違い」のテーマ設定を市バスを乗り継いで逃亡する怪盗と、それを追いかける探偵や警察の面々といった形に落とし込むことにしました。


 ちなみにシャーロック・ホームズやら名探偵が活躍する時代には公共交通機関としてのバス網というのは存在しなかったので、バスと探偵という取り合わせは時代考証としてはちょっと歪な感じになります(人力車に乗る侍みたいな?)。時代的には鉄道の方が適してはいるんですが、鉄道の乗り継ぎとなると規模感が大きくなりすぎてしまうので(1回の乗り間違いがあまりにもクリティカルになるので)、取り回しのいいバスをここでは選択しています。


 でまあ、テーマ選択としての大枠を決めたところで、「さて、誰にイラストをお願いするか」が非常に難問でした。先述の通り、原版のイラストがすごく魅力的な作品なだけに、それに力負けしないイラストが必要なのです。

 ここはやはり実力のある方にご登板願おうということで、ニューゲームズオーダーさんの諸作でお馴染みのママダユースケさんに今回はイラストをお願いすることになりました。ママダさんからは最初から現在のテイストの絵柄をご提案頂き、こちらとしてもこれでぜひお願いしたいということで、イラストの作業自体は非常にスムーズに進んだように思います。

 一点だけ、こちらからは「このゲームはパーティーライクなトリテのため、ちょっと間の抜けたユーモラスな要素が欲しい」ということをお願いしました。

 そのため、ゲームの登場人物は誰もが、本人のアイコンとなるようなアイテムを別のものにすり替えられてしまっています。探偵であればパイプ、警官であれば警棒というような……
 

 で、このすり替えは怪盗によって行われたものであるということが、実は怪盗のカードで示されているんですね。この辺のアイディアはママダさんによるものです。



 このすり替えによって、登場人物にも怪盗を追いかける動機が生まれる側面もあり、ゲーム内の物語性を広げる一助になっていたらいいなあ、と思っています。


 ルールブックのデザインや、イラストを除くグラフィックデザインは、これまでのトリテシリーズと同様に別府さいさんに担当して貰いました。ニューゲームズオーダーさんのゲームではママダさんはグラフィックデザインも担当していらっしゃるのでどうなのかなと聞いてみたところ、ママダさんからは「そちらは専門の方にお任せしたい」という要望があり、今回のような座組になりました。

 こちらからするとママダさんのグラフィックデザインは十分な出来栄えにも見えるのですが、画業の方からは見え方が違うのかもしれません。別府さんには今回もいい仕事をして頂きました。

 とまあ、そんな経緯があり、原版とはまったく異なるテイストのアートワークに仕上がったのですが、皆様からの反応も上々でまずはホッと胸を撫で下ろしています。なかなか分の悪い勝負だったのが、なんとか勝負できるところまで持ち込めたのではないかと思っています。


 ということで、アートワークが完成したのが実は去年の夏……(笑) 本当に本当に多くの方をお待たせしたタイトルになってしまったのですが、いよいよ販売の準備が整いました。数寄ゲームズの名作トリテシリーズ第5弾として、非常に意義のある一作をお送りできるのではないかと思っています。


 名作トリテシリーズと言えば、最近よく「次はどのレアトリテを復刻するんですか?」的な質問を受けるのですが、実はこれはぼくの本意ではありません。別にレアトリテを扱いたいワケじゃないんです! そんな分の悪い勝負ばっかりしたくないんです! 売れるゲームを扱わせてください!(本音)


 さて、数寄ゲームズ名作トリテシリーズの選定条件はまず最初に「面白いこと」が挙げられます。これは、多くの方に面白いトリテを遊んでもらってトリテの世界の豊かさを知ってもらうことをミッションの最重要課題に据えているからです。

 ですから面白いことが大前提なんです。例えば「ブードゥープリンス」はまったくレアでもなければ昔のゲームでもないのですが、遊んでみて実に面白いトリテだったのでシリーズに加えました(ちなみにシュミット版が絶版になってしまったせいで、現行のアートを使っているのは日本語版だけになってしまい、結果として世界規模ではレアっぽい立場になりつつはあります……)。結果を見れば、それは大正解だったと思っています。

 そして、「乗り間違い」もこのシリーズに相応しい、実にユニークな面白いトリテです。レアである、ということが選定の理由には……なってる節もまあ、なくはないんですけども、決して「レアだから復刻した」という理由ではないことはお伝えしておきたいと思います。それは「乗り間違い」の後に控えている「パーラ」についても同様です。

 シリーズを銘打つからには、個々のタイトルが連なることでそれらが一つの文脈を浮かび上がらせることが望ましいのです。その上で、このシリーズに通底する文脈とはやっぱり「面白いトリテ」に尽きますし、それが翻って「トリテは面白い」に繋がってくれると、ぼくにとっては望ましい未来に繋がるんじゃあないかなあ、と思っています。



乗り間違い(2022/原版は2001)

プレイ人数:3〜4人
対象年齢:10歳以上
プレイ時間:30分

ゲームデザイン:Jürgen Kraul
イラストレーション:ママダユースケ
グラフィックデザイン:別府さい
出版社:数寄ゲームズ

小売希望価格:1980円(税込)
ラベル:乗り間違い
posted by 円卓P at 11:37| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする