2022年07月24日

ゲーム紹介「コード破り」



 数寄ゲームズは、Reiner Kniziaデザインのダイスゲーム「コード破り」の日本語版を発売します。プレイ人数は1-4人、対象年齢8歳以上、プレイ時間30分です。小売希望価格は2420円(税込)となります。

 数寄ゲームズ通販サイトにて本日7月25日夜より予約開始、8月1日より先行発売を始めます。その後、全国のボードゲームショップさんへのご案内、流通を予定しております。


 数寄ゲームズの名作小箱ゲームシリーズ第1弾と銘打ったこちらの作品は、2007年にラベンスバーガーから発売された「Code Knacker(Code Cracker)」の復刻という形になります。

 ルール上の変更点は特にありませんが、プレイ人数が元々1-6人だったものを1-4人に変更するとともに、自分の得点更新を狙うだけだったソロゲームに段階的な目標設定を加えています。この辺りは「2007年ではともかく、令和の時代であればこうあるべきでしょう」というモダナイゼーションとなっています。


◆基本的なゲームの流れをご紹介



 「コード破り」はより多く、より価値の高いお宝タイルを集めるゲームです。

 テーブルの上には、3枚のお宝タイルが並べられています。このうちいずれかのお宝タイルに描かれたすべての暗証番号(コード)に赤チップが置くことができたら、手番終了時にそのお宝タイルを取ることができます。

 獲得されたお宝タイルはすぐに補充されるので、手番プレイヤーは常に3枚のお宝入り金庫と勝負することになります。お宝タイルが補充できなくなったところでゲームは終了し、獲得したお宝タイルの価値の合計が最も大きいプレイヤーがゲームに勝ちます。


 手番にはまず5個のダイスを振ります。そして、少なくとも1個以上のダイスを脇によけてキープします。1個もダイスがキープできない場合、手番は強制的に終了してしまいます。

 キープするダイスの出目が数字の場合は、その出目と同じコードに赤チップを1個置きます。ダイスはいくつでもキープできますが、それぞれ出目に対応するコードに赤チップを置く必要があります。

 キープするダイスの出目がマイクロチップの場合は、赤チップを置かず、今のところはただキープするだけです。


 この時点で、いずれかのお宝タイルのすべてのコードに赤チップが置かれていたら、そのお宝タイルを取って手番を終えることができます。あるいは、残ったダイスを振りなおすこともできます。

 何度か振りなおして、すべてのダイスをキープした時、2個以上マイクロチップをキープしていれば、ダイス5個すべてを改めて振りなおすこともできます。マイクロチップの数が足りない場合は手番終了です。


 手番終了時、手番プレイヤーは、すべてのコードに赤チップが置かれているお宝タイルを獲得し、3枚になるようにお宝タイルを補充します。赤チップを置ききれなかったお宝タイルは赤チップを取り除かずにそのままにしておきます。


◆進むか、引くか、ジレンマたっぷりのチキンレース

 「コード破り」は「ヤッツィー」(最近の人には「ヨット」でも通じるかも)の系譜にあるダイスゲームです。ヤッツィー系とはつまり、手番にダイスをじゃらっと全部振り、そのうち1つ以上の出目をキープして残りを振り直し、以降キープと振り直しを続ける……という手順のゲームです。

 その中で「コード破り」の最も特徴的なポイントは、赤チップを置いていくお宝タイルを個々人がそれぞれ保有しているのではなく、全員で共有している点にあります。

 これがどういうゲーム力学を生み出すかと言いますと、お宝タイルに中途半端に赤チップを置いたまま手番を終了させた場合、次のプレイヤーはそのお宝タイルを容易に獲得できてしまうのです。つまり、次のプレイヤーにおいしいトスを上げることに繋がってしまうのですね。


 この仕組みが実に強烈なジレンマを生み出す種になっています。首尾よく金庫を解錠できればよし。しかしながら、やりかけの仕事は他人の助けになってしまう。それでは、どこまでダイスを振り続けるのか、どこでやめるのか。進むか引くかのチキンレースに悶え苦しむことになるのです。


 また、特殊な出目であるマイクロチップもいい味を出しています。このマイクロチップ自体は解錠を直接的には進めないのですが、2個以上のマイクロチップを揃えることで、言わば追加の手番を得ることができます。追加手番! なんと心地のよい言葉か!



 実際のところ、このゲームの一番楽しい時間(そして他プレイヤーにとってイライラする時間)は、このマイクロチップの多用による「ずっと俺のターン!」の実行でしょう。この間、まるで自分が全能のハッカーにでもなったかのような気分でダイスを振り続けることができます。

 しかしながら「ビンゴ!(ッターン!)」とかハッカーごっこに興じてると、他プレイヤーからなじられますので、そこはホドホドにしておきましょう。


 さらにご注意ください。運良く金庫の解錠に成功したとしても、「自ら手番を終えることを選択」しないとお宝タイルを獲得することはできません。もう一つ金庫を解錠できそうだからと欲張って、運悪く1つもダイスがキープできなかったら、その瞬間に手番は強制終了してしまうのです。

 室内には突如として警報が鳴り響き、あなたはお宝を置いて逃げ出す羽目になります。「やっぱり止めておけばよかった!」と後悔することにもなるでしょう。


 こうしたリスクとリターンの検討も含めて、このゲームは、「もう一振りするのかい? しないのかい? どっちなんだい!?」という問い掛けを常にプレイヤーに投げかけてきます。答えるために必要なのは、確率計算、そして運。果たしてあなたはどのような判断を下すでしょうか?

 自分の手番で解錠は無理だと判断したならば、いっそ一振りだけで手番を終えることが正解になることさえある。そんな局面もあるのがこのゲームの奥深いところです。


◆ダイスの名手クニツィアの、これまた優れたダイスゲーム

 さて、このゲームは、数多の名作で知られるライナー・クニツィアの手によるダイスゲームの一つです。クニツィアと言えば、競りゲームがその得意ジャンルとして知られていますが、同様に得意ジャンルとして知られているのがダイスゲームです。クニツィアの著書である「ダイスゲーム百科」を読むと、ダイスというランダマイザが、彼の得意フィールドである確率計算や駆け引きといった要素と極めて相性がいいことがわかります。

 ダイスを使ったゲームの代表作として「ヘックメック」「ロイヤルターフ」「ロスバンディッド」と言った辺りはよく知られているところですし、「ラー」「メディチ」「ケルト」「頭脳絶好調」といった有名タイトルをダイスゲームに転用することも珍しくはありません。その中でもこの「コード破り」はダイスの魅力と奥深さを気軽に楽しめるタイトルとして「ヘックメック」と双璧をなす存在と言えましょう。

 その上で「ヘックメック」が得点の奪い合いというスパイシーで直接的なインタラクションを採用しているのに対して(クニツィアは時にそうしたインタラクションを好む場合があります)、「コード破り」は得点機会の譲渡といういやらしくも婉曲的なインタラクションを採用しているところに大きな違いがあります。

 どちらかが好みかは人にもよりますが、同じダイスという題材でありながら異なるインタラクションでそれぞれ違った個性を創出しているのは見事です。この辺りのクニツィアの引き出しの広さにはまったく驚かされるものがあります。


 また、クニツィアと言えば、よくよく言われるのが「クニツィアはゲームのテーマ性に興味がない」という指摘です。まあ、どちらかと言えば、これはクニツィア個人の性向というよりもドイツゲーム、ユーロゲーム全般に当てはまりがちな性向ではあります。

 ちなみに、クニツィア自身は「私はテーマを重視している」と反論しています。が、これは「別にノンテーマでも問題ないゲームにテーマ付けしているからテーマはめっちゃ重視してるよ」くらいの意味合いだと個人的には思っています。個人的な! 個人的な見解ですよ!


 えーっと、話が逸れましたが、まあ、一般的には、クニツィアのゲームはテーマ性が薄いとされています、ということを言いたかったのです。「ケルト」がケルトテーマである理由ってなんや? という話と言いますか。

 基本的にクニツィアのゲームの多くはテーマを別のものに差し替えても、まあ、大した変化はないと言えばないのです。逆に言えば、クニツィアのゲームはテーマに左右されないしっかりとしたゲーム性を内包しているということでもあるんですけども。


 その上で、この「コード破り」は、クニツィアにしては珍しくテーマ性とシステムがマッチしたゲームです。もうちょっと正確に言えば、テーマ性と内容物がマッチしたゲーム……という表現になるかもしれませんが。

 この辺りが原版をディベロップしたラベンスバーガーの功績なのか、クニツィアのアイディアなのかはちょっと知らないのですが(聞いてみればよかったなー)、内容物に大きな特徴があるところを見るに、ラベンスバーガー側の仕事のような気もします。うっ、やはりクニツィアはあまりテーマに興味がない可能性が……


 さておいて、「コード破り」においては、進むか引くかのジレンマが金庫破りの緊張感とすこぶるマッチしていまして、鬼に金棒、クニツィアに良テーマと言わんばかりの良質なプレイフィールをもたらしてもいます。興奮を生み出す手法としてギャンブル性の高いダイスというランダマイザはとかく優れていまして、例えばその最たる例は先程も名前を挙げた「ロイヤルターフ」なんですけども、「コード破り」もまたうまい建付けでクニツィアらしからぬ…… と言っては怒られるかもしれませんが、テーマとシステムがシンクロしているゲーム特有の気持ちよさを存分に味わうことができます。


◆ラベンスバーガー版の特徴的な内容物を踏襲

 先程も少し触れましたが、「コード破り」の内容物は相当に特徴的です。全般的におもちゃテイストの雰囲気が強い内容物で、やはりおもちゃメーカーであるところのラベンスバーガーの風合いといった趣があるのですが、今回の日本語版ではそうしたラベンスバーガー版の内容物の構成を踏襲しています。

 お宝タイルに半透明の赤チップを置くことで、覆われたコードは数字が見えなくなり、✗マークが浮かび上がります。この仕掛けが! いいんだよ!



 実は「コード破り」は海外では何度かリメイクされているタイトルで、英語版ではモンスターを作るゲームになってたり、韓国語版ではアイドルユニットを作るゲームになってたりします。で、当然ながらそのテーマでは赤チップなんかは必要ないワケでして、単純にカードの上に厚紙チップを置く形になっています。

 つまり、赤チップでどーのこーのというのはゲーム性そのものには1ミリたりとも関与してないのです。なくてもゲームは成立する。それが赤チップなのです。


 で、当然ながらそんな特殊な仕様を選択するよりも、ただのカードとチップの方が製造費的には安く上がるワケです。では、なぜ今回の「コード破り」でその方向を選択しなかったかと言ったら、「赤チップのない『コード破り』は『コード破り』足り得ないだろ!」とぼくは結論づけたからです。

 「コード破り」は現在において、ちょいとレア感のあるゲームです。世の中に数多あるダイスゲームの中で、なぜ「コード破り」が独自の立ち位置を形成できたかと言えば、やはり、1にも2にもその特徴的な内容物の存在あってこそだと思っています。

 もちろん、「コード破り」は十分なゲーム性を備えたゲームではありますが、システム面はそこまで奇抜なゲームではありません。でも総体として考えてみるとやっぱり他に例を見ないユニークなゲームではあって、そのユニークさを支えているのは内容物の独自性なのです。


 なので、英語版や韓国語版のような路線は、最初からぼくの中には選択肢としてはありませんでした。「自分が欲しいものは何か?」を突き詰めて「やっぱりこれだよなあ!」という、偽らざる本音に従ったのです。


 置いた時に嬉しさのある半透明赤チップと特殊印刷!
 赤チップを置いてズレるようなカードは気持ちよくないから、やはりタイルは厚みが欲しい!
 そしてコンパクトに収納できる箱! ラベンスバーガー版のタイルはスペース余り過ぎやからもっとデザインを詰め込めるでしょ!


 ということで、今回の「コード破り」は原版よりもコンパクトサイズに仕上がっています。原版のコード破りはラベンスバーガーの小箱サイズというちょい大きめの弁当箱みたいなサイズだったのですが、今回はアミーゴサイズよりやや大きめサイズの箱になっています(NSVとかあの辺)。ただ、厚みはありますけども。

 これはやはり日本のゲームシーンにおいて、特にこの手の軽量級ゲームは小箱の方が持ち運びに便利で活用機会が多いであろうという観点からそうしてます。この辺はクニツィアの諸作をリメイクしてきた実績を持つニューゲームズオーダーさんメソッドを勝手に踏襲しています。


 しかし、あまりにも内容物に拘るあまり、完成まではメチャクチャ時間がかかってしまいました。これは、お待ちして頂いた皆様にはお詫びしなければなりませんし、作者であるクニツィアにもお詫びしなければなりません。

 コロナ禍という特殊な情勢下という事情はあるにはあるのですが…… というか、コロナ禍の最中という状況を逆に利用して、「遅れてゴメンね! コロナだから! 仕方なくて!」くらいの勢いで試作をガンガン繰り返していた感も…… 実は…… あります…… まあ、いい言い方をすれば「ピンチをチャンスに変えた」という表現になるでしょうか。


 今回、アートワークに携わって頂いたSEIMIさんにはめちゃくちゃ精力的にアイディアを出して頂きました。こちらがドン引きするほどに様々なアイディアを出して頂いたので、こちらもがっぷり四つで組み合う、非常にパワフルで創造的な時間を過ごさせて頂きました。終わってみればいい思い出だったなー感もありますが、やってる最中は果たしてゴールがどこにあるのか、五里霧中で走り回ってた感もあります。

 折角の機会なので、ここでは、SEIMIさんから提案されたアイディアをご紹介したいと思います。いや、ホント、これがぼくのハードディスクの中にだけあるのはもったいないので。








 これまた色々な方向性で作ってもらった案。どれも異なる魅力があってSEIMIさんすごいなーと思いました(小並感)。

 チップの色も赤じゃなくて青でもいいんじゃないか、とか検討していたこともありました。クールな感じでテーマにも合うのではと。結局は視認性優先で従来通りの赤になりました。






 徐々に固まってきた感じ。キャラクターはメカニカルな方向性を模索もしていたのですが、ちょい怖いかも、ということで今の方向に。この辺の大人すぎず、子供すぎず、という塩梅が難しいところでした。

 どこかの段階で「グリッチを強く入れたい」という提案をして、最終形に至ったような記憶があります。


 当初は赤チップで浮かび上がるマークも工夫を凝らしたものにしようとか、マイクロチップのデザインも凝ったものにしようといった考えがあったのですが、試作を重ねていくにつれ、あまり凝ったデザインを作っても視認性が確保できないということがわかり、最終的にラベンスバーガー版のデザインに近似の場所に落ち着くという工程を辿ったりもして、最終的な出力物からは窺い知ることのできない試行錯誤の成れの果てだったりもします。

 デザイン上の試行錯誤という点では、技術的な課題も含めて、これまで作ってきたどのゲームよりも難航したのは確かです。特に赤チップの見え方は非常な苦労があって、「赤チップを置く前は赤い数字が見えなければならない」「赤チップを置いた後は青いバッテンが見えなければならない」というバランスをどう取るか、これが本当に難しかったのです。

 最終的にはドイツ語版の原版をサンプルとして印刷工場さんに送り、印刷工場さんで分析してもらうという手段を取って、ようやく納得の行く色味のバランスを取ることができました。最後の決め手は赤チップの厚みでした。タイルの色味じゃなくてそっちか! わかんないワケだわ!


 まあ、ラベンスバーガー版の内容物を踏襲する、という時点である程度の苦労は予想していたのですが、予想と実践は大違いで、企画の立案から完成まで実に3年近くの時間が経過しています。自分でメールを見返してみてちょっとイヤな汗が出てきました。

 まあ、その時間、ずーーーーっと制作にかかりっきりだったワケではないんですが、半年ほどの製作期間で「ブードゥープリンス」を完成させて勝ち得た信頼で手を付けた「コード破り」がこの有様で、いやー、マジで申し訳ないなーという気分ではいます。まあ、すべてコロナのせいということにさせてください。


◆今の時代に適した「ちょうどいい」ダイスゲーム
 
 さて、今このタイミングで「コード破り」を復刻する狙いの1つとして、このゲームが「実にちょうどいいダイスゲームである」という点が挙げられます。

 「ちょうどよさ」とは何か? それは初めてボードゲームを楽しむ人にオススメできるゲームという表現が近いかもしれません。これはこのゲームならではのいくつかの強みによるものです。


 まず、1つ目の強みは「小箱のダイスゲーム」という点です。ルールの平易さ、どこへでも持ち運びできる取り回しやすさや収納の簡便さ、手に取りやすい価格…… 消費者目線に立った時、小箱ゲームは、ローリスクで挑戦しやすいタイトルです。

 その上でボードゲームならではの要素であるダイスを使ったゲーム。「ダイスを使うゲームが一つ欲しいな」と思った時にスッと候補に上がりやすいゲームなのではないかと思います。


 2つ目の強みとして「非ロール&ライトのゲーム」という点も挙げられます。小箱のダイスゲームにおいてロール&ライトは今では主流ジャンルの1つで、手元のカチャカチャ感が楽しいタイプのジャンルではあるものの、ダイスを振ってワッと盛り上がる感覚がその分弱まるところがあります。戦略的な内容のゲームも多いのですが、ややマニアックな方向に振れがちでもあるので、シンプルにダイスを振る楽しさにフォーカスしたゲームが望ましいかなとも思います。


 3つ目の強みとして「1人プレイ対応、2人でも楽しい」という点も挙げられます。これはぼくのボードゲームショップ勤めの体感から来るものなんですけども「2人でも楽しいゲームで、できれば多人数でも楽しめるゲームはないですか?」と聞かれるケースがひっじょーーーーに多いのです。

 「コード破り」は人数が少なくても楽しい…… 人によっては2人が一番面白いという意見もあるゲームですし、人数によってゲーム性が大きく変わるということもありません。店頭で接客していて「あ、手元に『コード破り』があればご紹介できたのに!」という場面が少なくなかったんです。いやまあ、完成が遅れたのは自らの不徳の致すところなんですけども……

 ともあれ、人数を問わない。2人でも楽しい。なんなら1人でも遊べる。おまけにカードゲームではなく「やっぱりせっかくだからボードゲームが欲しいんですよね」というニーズにも対応できる。これはなかなかに対応範囲の広いゲームなのではないかと思うのですね。


 4つ目の強みとして「テーマがよい」という点も挙げられます。何をするゲームなのか、何をしたら勝ちなのかが、物凄くわかりやすいんですね。

 子供と一緒に遊ぼうとする親御さんからするとアングラなテーマはちょっと顔をしかめるところかもしれませんが、お金や宝石といった光り物は老若男女万人が興味を抱く強力なテーマです。訴求年齢をどこに設定するかはデザイン上、非常に悩ましいところではあったんですけども、今回は数寄ゲームズのプロダクトとしては珍しく「広いところに向けよう」という方向性で行きました。


 とまあ、こうした理由から「実は今、求められているゲームはこれなんじゃないか?」という仮定をぼくは立てています。この仮定が果たして的を射ているのか否か…… うーん、こればっかりは正直なところわかりません!

 そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない…… これまで色々なタイトルに関わってきましたが、この辺りはなかなか読めないところです。だからこそ面白いんですけども。


 とは言え、このゲームならではの魅力を存分に備えているゲームであることは確かです。それはルールも、テーマも、内容物もです。

 これら3拍子が揃ったゲームはなかなかに希少です。その上でダイスゲームの魅力である「今、どの目が欲しいか全員が容易に理解できる」「その上で成功と失敗が即座にわかる」と言う構造が十全に備わっているのですから、これは価値のあるタイトルなんではなかろうかと。

 皆様に喜んで貰える製品であることには自信がありますので、ぜひ、一度触ってみて頂ければと思います。よろしくお願いいたします!


コード破り(2022/原版は2007)

プレイ人数:1〜4人
対象年齢:8歳以上
プレイ時間:30分

ゲームデザイン:Reiner Knizia
アートワーク:SEIMI
ルールブックデザイン:別府さい
出版社:数寄ゲームズ

小売希望価格:2420円(税込)
ラベル:コード破り
posted by 円卓P at 23:14| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年07月22日

ゲーム紹介「乗り間違い」



 数寄ゲームズは、Jürgen Kraulデザインのトリックテイキングゲーム「乗り間違い」の日本語版を発売します。プレイ人数は3-4人、対象年齢10歳以上、プレイ時間30分です。小売希望価格は1980円(税込)となります。


 数寄ゲームズ通販サイトにて7月25日より予約開始、8月1日より先行発売を始めます。その後、全国のボードゲームショップさんへのご案内、流通を予定しております。


 ぼくのライフワーク、もしくは商売抜きの趣味として続けています、数寄ゲームズの名作トリックテイキングシリーズの第5弾にあたるこの作品は、トリテ好きの中では知られた……というか、トリテ好き以外に知られることのないゲームの一つでして、まあ、その日本語版が出る世界線というのは、結構えらいところに来てしまったなーという感もあります。まあ、その辺りの顛末は後ほど書きたいと思います。


◆勝つべきか、負けるべきか、徐々に明らかになるトリテ

 さて、このトリテ、トリテ部分だけを切り出してみると物凄くスタンダートな仕組みのゲームです。マストフォロー、切り札スートあり、4スート、ランクは0から12まで。

 これだけで、「はい、どうぞ始めてください」で通じるくらい、シンプルな仕組みなのです。逆にこれだけ読んで「なんのこっちゃ?」とお思いの方はもちろんいるでしょうが、これはスタバの注文みたいなものなので、そういう暗号めいたやり取りがある界隈も世の中にはあるのだとご理解頂ければ幸いです(ぼく自身はスタバで流暢に注文できる自信はないですが、まあ、そういう慣例は自ずと生えてくるものなのだろうなあと捉えています)。

 さて、しかし、これでゲームを始めろと言われても、これだけではおそらくカードをプレイする手は動かないでしょう。と言うのは、ゲームで一番大事な要素である得点体系について、全く説明していないからです。

 果たしてこのゲームはトリックを取っていいトリテなのか、それともトリックを取ってはいけないトリテなのか。ビッドがあるのかないのか、あるとしたらそれはどういう形式なのか……


 トリテの真髄はまさにこの得点システムにあります。それ以外の部分は得点システムを活かすためだけに存在するもので、カレーで言えば福神漬くらいの立ち位置です。

 ですから、あるカレーがユニークかどうかを問う時、一番大事なのはカレールー自体がユニークかどうかです。福神漬を酢ダコに取り替えてみても、それはちょっと変化をつけたカレーだね、というだけであって、ユニークなカレーとは呼べません。

 その上で、「乗り間違い」がユニークなカレーなのかと言えば、そうですね…… 間違いなくユニークだと思われます。というのは、このカレー、甘口なのか辛口なのか、一口食べただけではわからなく、食べ進めるにつれて徐々に辛さが判明してくるカレーだからです。


 ……変な喩えをしたせいで謎ばかりが深まってしまいましたね。もっと直截的な表現をすると、このトリテは「トリックを取るべきか、取らざるべきかがラウンド中に決まるトリテ」ということになります。

 あるラウンドは「なるべくトリックを取った方がいいラウンド」になり、また別のラウンドでは「なるべくトリックを取らない方がいいラウンド」になる。得点ルールがまったく真逆になるワケです。
 しかもそれがラウンド冒頭に決まっているのではなく、ラウンドの最中にどちらになるかが決まる…… 摩訶不思議ですよね。

 では、この得点ルールがどう決まるかと言えば、その方法にこのゲーム一番のハイライトがあります。プレイヤーはそれぞれが最初に配られた手札から1枚を選んで秘密裏に伏せます。伏せられたカードはすべてをシャッフルして捜査情報の山を作ります。

 捜査情報…… そうそう、言い忘れましたが、このゲームにおいてプレイヤーの立場はロンドン市街を飛び回る怪盗の行方を突き止めんと奮闘する警察組織やらの一員になります。

 捜査情報の山からは特定のタイミングでカードが1枚ずつ公開されていくのですが、ここで着目すべきはカードのランクです。このようにして公開されたカードのランクの合計によって、このラウンドの得点ルールが決まります。


・公開されたすべてのカードのランクの合計が一定値を超えた場合 → 怪盗は市外に逃げた! なるべく多くのトリックを取るラウンドになります。

・公開されたすべてのカードのランクの合計が一定値を超えなかった場合 → 怪盗は市内に潜伏している! なるべくトリックを取らないようにするラウンドになります。


 つまり、各ラウンドの得点ルールはプレイヤーの総意によって決まるのです。多くのプレイヤーが「より多くのトリックを取りましょうよ!」と意思表示すればそうなるし、逆もまた然りということです。

 しかしながら、伏せるカードとプレイヤーの希望は概ね相反することが多いのです。ここがシンプルながらよくできていて、「トリックをなるべく多く取るラウンド」を実現するためには、トリックを確実に取れるような強いカード1枚を伏せなければならないのです。うーん、ジレンマ!

 あるいは、他にも同じように考えている人がいて、自分が少し手抜きをしても事態が都合よく展開するかも…… という可能性も当然あるにはありますが、果たして未来がどうなるかはわからない…… 遊んでみるとわかるんですが、ラウンドの得点ルールを定める閾値設定が実に絶妙なのです。


◆ディール中に様々なイベントが起こる賑やかトリテ

 さて、先述のように、「全員の総意によって得点ルールが分岐する」という点が「乗り間違い」の最大の特徴と言えます。そして、そのメインギミックを活かすために様々な工夫が用意されているのもこのゲームの巧みなところです。


 例えば、4人プレイでは、伏せられた4枚のカードは2,3,4,5トリックの終了時に開示されます。じわりじわりと情報が公開されていく過程には独特な緊張感がありますし、自分が伏せたカードがどのタイミングで公開されるかによっても有利不利が微妙に変化します。

 「いきなり切り札をプレイしてトリックを取るプレイヤーがいる…… ということは……?」と推測を働かせることもできたりもして、他人の思惑を推理するのが殊の外楽しいんですね。トリテの序盤ってスートが枯れないうちに確実にトリックを取りに行くようなムーブが多かったりで、ゲーム体験としては淡白になりがちなんですけども、このゲームは最初から腹の探り合い全開で一挙手一投足に込められたメッセージを見落とすまいとアレコレ考えるのが楽しいところです。


 また、手札が残り4枚になったところで切り札が変わる可能性がある、というのもユニーク……というか変なギミックです。

 このゲームは特定の1色が切り札カラーに指定されるタイプのトリテなんですが、そのラウンドにおいて一番不利なプレイヤー(最も多くのトリックを取っているプレイヤー、もしくはその逆)は、手札が残り4枚になったタイミングで切り札を変更する権利をもらえます。

 当然ながら自分の手札に合わせて切り札を選択できるため、残り4トリックでの逆転の余地が生まれます。手札がめちゃくちゃ弱くても、突然切り札ばかりの手札に変貌する可能性があるのです。

 このルールを考慮すると、切り札の使用タイミングは悩ましいです。得点ルールが(おおよそ)決まってからの切り札の変更タイミングまでは2トリック程度しかないので、手札に切り札をいっぱい抱えていても使い切れない可能性があるのです。

 かといって早めに切り札を使った後に、そのラウンドがトリックを取らないラウンドに決まったら目も当てられません。さて、切り札をプレイする最適なタイミングは……? なかなかテクニカルなプレイングを要求されるゲームなのです。


 とまあ、こんな感じで、「捜査情報の公開」と「切り札の変更」という2種のイベントが用意されているゲームなのですが「どこで何が起こるかなんて覚えてられないよー」という方もいるかと思います。手札残り4枚になったところで切り札変更とか絶対に忘れるでしょ!



 ご安心ください。それに備えて、今回の日本語版では各イベントが起こるタイミングがわかるようにバスチケット型のチップを用意しております。トリックを獲得したプレイヤーはバスチケットを1枚獲得し、獲得したバスチケットが青なら「捜査情報の公開」、赤なら「切り札の変更」を実行することで、イベントの遺漏なく進行することができるのです。

 なお、恥ずかしながら、同梱のルールブックとサマリーにおいてバスチケットの配置の記述に誤りがありました。製品には修正したルールブックとサマリーを添付いたします。また、上記の図は修正後の配置図ということになります。発売前から気勢を削いでしまって申し訳ないのですが、お買い求めの際にはご理解を頂ければと思います。


◆王道にして異端。要素の組み合わせが絶妙なパーティートリテ

 ということで、「乗り間違い」の特徴を纏めますと、トリテ部分は極めてオーソドックスなスタイルながら、得点ルールにまつわる部分にこれでもかとばかりに奇妙な工夫が盛り込まれている王道かつ異端なトリテです。トリテを知ってる人ならプレイ感は極めて軽く、遊びやすいルールなのですが、やはりこの独自性を理解して乗りこなすまでは結構なじゃじゃ馬ぶりを感じさせてくれます。


 トリテを全く知らないという方には…… ちょっとルールが多いかもしれません。日本語版ではバスチケットを用意して視覚的に流れを理解しやすくなってはいるとは思いますが、ルール量自体は普通のトリテ+αなので、まずは「ブードゥープリンス」辺りから始めてみるのもいいかもしれません。


 また、トリテには競技的なカッチリとしたトリテと、パーティーライクなワイワイ楽しむトリテの2種があるのですが、このゲームはどちらかと言えば後者です。そもそもがディール中に切り札を変更できるルールを採用してる時点で結構なカオス属性、パーティ寄りと言いますか、志向しているのが明らかにそっち側なんですよね。

 推理要素的な部分もそこまでカッチリしたものではなく、ある程度見切り発車で動いた方が結果的にうまくいくこともあり、格闘ゲームでいうところの「ぶっぱ上等」なところもあるにはあります。まあ、そういう大らかさも含めて、感情を振幅させる装置としてはうまく機能していて、ともするとプレイングが地味になりがちなトリテにおいては珍しく感情を揺らすポイントがいくつも用意されているゲームです。


 そういう意味で、古典的、競技的なトリテを好む人にはちょっと肌に合わないかもしれませんが、昨今のトリテ事情的にはこうしたタイプのトリテは多くの人に好まれるのではないかと思っています。回り回って王道的なところと、変化球的なところのバランスのいいトリテなのではないかなと。

 ちなみにトリテ部分は前述の通りスタンダードなものなので、アンコントローラブルな理不尽さは感じないとは思います。稀によくある気持ち悪さが先に立つトリテではない、ということです。

 まあ、切り札の変更などという飛び道具はありますが、トリテ者ならイベントが起きる前になんとかできますよねー。


 また、このゲームにはバリアントとして、「プレイした場合には最弱となり、さらに切り札を変更する権利を貰える怪盗カード」を加えたルールも同梱されています。このルールだと切り札は最大2回変更される可能性があるため、ゲーム展開はよりカオスに! どのタイミングで怪盗が出てくるかでゲーム展開も大きく変わりそうなので、こちらもぜひ試してみてください。


◆自分でも驚いた、まさかの復刻

 さて、以降はゲームそのものとはあまり関係の内容です。ゲームの出版の周辺の事情に興味があるという方だけお読み頂ければと思います。


 「乗り間違い」は、出版社が今は亡きBerliner Spielkarten(「知略悪略」もここの出版社)から出ていたゲームということもあり、ファンからは復刻が絶望視されていたタイトルの一つです(復刻が絶望視されてるトリテ、結構多い)。

 「知略悪略」も結構な難物ではあったんですけども、「乗り間違い」の一番の障害はこのゲームの権利者であり、作者であるJürgen Kraulが、これ以外のゲームを全く作っていないという点にありました。このゲームは元々が2001年に発売されたそうですが、つまり20年近くゲーム業界との接点がない人と交渉する必要があったのです。

 「知略悪略」のKlaus Paleschなんかはそうは言っても「シュティッヒルン」やらの現行作品がありまして「とりあえず権利者が明確に存在していて、かつ対話が可能な状態である」ことがわかっている状態だったのですが、一昔前の寡作のデザイナーはひょっとしたら現在はご存命でないかもしれないという可能性もあり(新型コロナウイルスという人を選ばない災禍の最中ということもあります)、まず対話のテーブルに着くことができるかどうか、という点が一つのハードルとして如実に存在していたのです。


 で、当然ながらぼくは日本在住の身でして、ドイツのどこかにいる(かもしれない)1デザイナーとコンタクトを取るというのはかなりの難問です。早々に独力での解決を諦め、コネに頼ることにしました。

 コネ……つっても微々たるものですが、やはりここは「知略悪略」でもお世話になったBerliner Spielkartenの元編集の方にお力添えを願うべきでしょう(細々とでもこうした活動を続けることの意義の一つは、こうした人間関係を広げていけることだと思います)。「乗り間違い」の日本語版を出版したい旨を伝え、デザイナーの連絡先を知ってたら教えて欲しいと頼みました。

 ところがやはり20年前の話、メールも電話も不通であると返信があり、あー、これは断念せざるを得ないかー、と肩を落としたのでした(ちなみにアートワークのデータが残っているかも聞きましたが、これも当然のように存在しないとのこと)。

 「Jürgenはベルリンにいると思うよ」というのが彼から得られた唯一の情報でした。ベルリンて。広いて。


 それから数日後。彼から再び連絡がありました。曰く、Jürgen Kraulの古い住所を見つけたのでそこに手紙を送ってみるとのこと。手紙作戦! この令和の時代に! 手紙!

 手紙作戦の弱点はこれまでの条件の諸々に加えて「転居してない」という条件が課せられることです。しかしながら、ここまで来たら手がかりとなるのはそれくらいしかありません。ぜひ手紙を送ってみて欲しいと彼に嘆願し、返信を待つことにしました。

 しかし、自分には何の得にもならんというのにお手紙まで書いてくれる元編集の人、めちゃくちゃいい人じゃないか? ボドゲ業界の聖人だわ。


 それからさらに数日後。なんとJürgen Kraulから返信があり、彼とコンタクトを取ることに成功したという連絡がありました。うおおおお、マジでかー! ちなみに本当にベルリンにいました。


 正直なところ、「こういう形で追い詰められてからの一手が逆転に結びつくなんて、そんなマンガみたいな話はさすがにないよなあ〜〜〜」と諦観していたので、手紙作戦が成功したことにめちゃくちゃビックリしました。メールも電話もダメなら最後は手紙。人間最後まで諦めてはなりません。


 で、Jürgen Kraulに直接連絡を取ってみたところ、彼は日本語版の出版にとても乗り気で、これなら現実的に日本語版を出せそうだぞ、という段になりました。

 しかしながら、日本語版を作れる…… 作れるかもしれないけど、果たして一体どれくらいの人が「乗り間違い」を喜んでくれるんだ!?

 この点については、大きな疑問が拭えないのは確かでした。なんつってもマイナーオブマイナーゲームなんですよこれ。


 正直なところ、これまでの数寄ゲームズトリテシリーズの中で一番ヤバい…… 一番勝算のない戦いと言ってもいいかもしれません。皆さんに覚えておいて貰いたいんですけども、絶版になるゲームって言うのはですね、そもそもが重版するだけの人気がなかったってことなんですYO!

 それを今になって身銭を切ってアレコレ復刻しているというのは…… 冷静に考えてみるとなんなんでしょうね…… まあ、当世の人気だけでは計り切れない価値がこのゲームにはあるんじゃないかと思い込んで、暴走しているだけなのかもしれません。基本的にダイヤグラム10:1で分の悪い勝負なので、他人には絶対にオススメしません!


 そんなワケで連絡がついた喜びから一転、「マジで出版するの?」という非常に現実的で身も蓋もない判断を要求される事態になったのですが、しかしながら、最終的には「この機会を逃したら一生出せなくなるかもしれん! そして一生悔いるかもしれん!」という強迫観念にも似た感情に押されて契約書にサインしました。


 ……そんなワケでこのゲーム、自分の中ではすごく複雑な感情を持っている作品ではあります。相当に分の悪い勝負に挑んでいるなという実感はあるので、このシリーズの存続のために、どうぞ皆様、お買い求め頂けると幸いです。


◆アートワークとテーマ設定について

 さて、分の悪い勝負を分の悪いままにするのは、これまた本意ではないので、なるべく足掻いてみようとは思いました。アートワークの選択です。

 先述の通り、原版のアートワークは残っていませんでした。ということで、日本語版のために改めて描き起こす必要があります。

 しかし、この原版のアートワークが極めて魅力的なことは、復刻においては逆に問題でした。あまり美術の造詣がないので言語化が難しいんですが、すごくポップでインパクトが強いイラストなんですよね。グラフィックデザインもいい……

 これはどうやってもアートワークでどうこう言われるやつー、と思ったので、ここは方針を切り替えて、原版とは全く違う切り口で行くことにしました。

 さて、話は全く逸れますが、そもそもの「乗り間違い」という邦題は「Auf falscher Fährte=間違った手がかり」を「Auf falscher Fahrte=間違った旅」とウムラウトの有無からくる誤訳で生まれた邦題だったりするんですけども、この誤訳はトリテ好きにはちょっとは知られた定番ネタだったりします。なので、日本語版を作るにあたってはタイトルについてもこの誤訳に則るのか、それとも正確な邦訳を改めて当てるのか、これがディレクションの一つとして提示されました。


 個人的にこのジレンマを「どきどきワクワク相性チェックゲームを復刻するとしたらタイトルはどうするか問題」と呼んでいるんですが、個人的な思いとして、これまでの日本のトリテ文化を尊重する向きで行きたい、という考えから、恥も含めて文化であると、敢えて誤訳である「乗り間違い」というタイトルを選択することにしました。


 でまあ、元々は誤訳なんですが、だったらそれに合わせてテーマを揃えればええんちゃうのと。ついでに言えば、それがルールの理解に沿った形にもできそうだぞと。

 そんなところから「乗り間違い」のテーマ設定を市バスを乗り継いで逃亡する怪盗と、それを追いかける探偵や警察の面々といった形に落とし込むことにしました。


 ちなみにシャーロック・ホームズやら名探偵が活躍する時代には公共交通機関としてのバス網というのは存在しなかったので、バスと探偵という取り合わせは時代考証としてはちょっと歪な感じになります(人力車に乗る侍みたいな?)。時代的には鉄道の方が適してはいるんですが、鉄道の乗り継ぎとなると規模感が大きくなりすぎてしまうので(1回の乗り間違いがあまりにもクリティカルになるので)、取り回しのいいバスをここでは選択しています。


 でまあ、テーマ選択としての大枠を決めたところで、「さて、誰にイラストをお願いするか」が非常に難問でした。先述の通り、原版のイラストがすごく魅力的な作品なだけに、それに力負けしないイラストが必要なのです。

 ここはやはり実力のある方にご登板願おうということで、ニューゲームズオーダーさんの諸作でお馴染みのママダユースケさんに今回はイラストをお願いすることになりました。ママダさんからは最初から現在のテイストの絵柄をご提案頂き、こちらとしてもこれでぜひお願いしたいということで、イラストの作業自体は非常にスムーズに進んだように思います。

 一点だけ、こちらからは「このゲームはパーティーライクなトリテのため、ちょっと間の抜けたユーモラスな要素が欲しい」ということをお願いしました。

 そのため、ゲームの登場人物は誰もが、本人のアイコンとなるようなアイテムを別のものにすり替えられてしまっています。探偵であればパイプ、警官であれば警棒というような……
 

 で、このすり替えは怪盗によって行われたものであるということが、実は怪盗のカードで示されているんですね。この辺のアイディアはママダさんによるものです。



 このすり替えによって、登場人物にも怪盗を追いかける動機が生まれる側面もあり、ゲーム内の物語性を広げる一助になっていたらいいなあ、と思っています。


 ルールブックのデザインや、イラストを除くグラフィックデザインは、これまでのトリテシリーズと同様に別府さいさんに担当して貰いました。ニューゲームズオーダーさんのゲームではママダさんはグラフィックデザインも担当していらっしゃるのでどうなのかなと聞いてみたところ、ママダさんからは「そちらは専門の方にお任せしたい」という要望があり、今回のような座組になりました。

 こちらからするとママダさんのグラフィックデザインは十分な出来栄えにも見えるのですが、画業の方からは見え方が違うのかもしれません。別府さんには今回もいい仕事をして頂きました。

 とまあ、そんな経緯があり、原版とはまったく異なるテイストのアートワークに仕上がったのですが、皆様からの反応も上々でまずはホッと胸を撫で下ろしています。なかなか分の悪い勝負だったのが、なんとか勝負できるところまで持ち込めたのではないかと思っています。


 ということで、アートワークが完成したのが実は去年の夏……(笑) 本当に本当に多くの方をお待たせしたタイトルになってしまったのですが、いよいよ販売の準備が整いました。数寄ゲームズの名作トリテシリーズ第5弾として、非常に意義のある一作をお送りできるのではないかと思っています。


 名作トリテシリーズと言えば、最近よく「次はどのレアトリテを復刻するんですか?」的な質問を受けるのですが、実はこれはぼくの本意ではありません。別にレアトリテを扱いたいワケじゃないんです! そんな分の悪い勝負ばっかりしたくないんです! 売れるゲームを扱わせてください!(本音)


 さて、数寄ゲームズ名作トリテシリーズの選定条件はまず最初に「面白いこと」が挙げられます。これは、多くの方に面白いトリテを遊んでもらってトリテの世界の豊かさを知ってもらうことをミッションの最重要課題に据えているからです。

 ですから面白いことが大前提なんです。例えば「ブードゥープリンス」はまったくレアでもなければ昔のゲームでもないのですが、遊んでみて実に面白いトリテだったのでシリーズに加えました(ちなみにシュミット版が絶版になってしまったせいで、現行のアートを使っているのは日本語版だけになってしまい、結果として世界規模ではレアっぽい立場になりつつはあります……)。結果を見れば、それは大正解だったと思っています。

 そして、「乗り間違い」もこのシリーズに相応しい、実にユニークな面白いトリテです。レアである、ということが選定の理由には……なってる節もまあ、なくはないんですけども、決して「レアだから復刻した」という理由ではないことはお伝えしておきたいと思います。それは「乗り間違い」の後に控えている「パーラ」についても同様です。

 シリーズを銘打つからには、個々のタイトルが連なることでそれらが一つの文脈を浮かび上がらせることが望ましいのです。その上で、このシリーズに通底する文脈とはやっぱり「面白いトリテ」に尽きますし、それが翻って「トリテは面白い」に繋がってくれると、ぼくにとっては望ましい未来に繋がるんじゃあないかなあ、と思っています。



乗り間違い(2022/原版は2001)

プレイ人数:3〜4人
対象年齢:10歳以上
プレイ時間:30分

ゲームデザイン:Jürgen Kraul
イラストレーション:ママダユースケ
グラフィックデザイン:別府さい
出版社:数寄ゲームズ

小売希望価格:1980円(税込)
ラベル:乗り間違い
posted by 円卓P at 11:37| Comment(0) | ゲーム紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする