
数寄ゲームズは、「ネオドリームズ」日本語版を発売します。プレイ人数2-4人、対象年齢12歳以上、プレイ時間30-60分で、希望小売価格は税込4950円となります。
5月17日、18日開催のゲームマーケット2024春にて先行発売を行い、その後、数寄ゲームズ通販サイトや全国のボードゲームショップさんへのご案内、流通を予定しています。

「ネオドリームズ」は、「スマートフォン株式会社(2018)」「ファーナス(2020)」などで人気を博したロシア人デザイナーIvan Lashinの最新作です。夢の作成&販売ビジネスが盛況な未来の世界でプレイヤーは夢制作会社の社長となって市場の覇権を争います。未来の夢グループ……ってコト!?
蛇足ながら、この舞台設定を説明する際、ぼくは「寺沢武一のコブラの第1話みたいな……」という言い方をするのですが、「コブラ知らないです」というレスポンスが毎度返ってきて話がそこで終わります。
「その世代じゃないんで……」と言われることもありますが、ぼくも直撃世代ではないですよ! どちらかと言えばぼくよりも5歳、10歳年上の人の方が通じるんじゃないかなあ…… ともあれ、こうした舞台設定の例え話はなかなか世代間の断絶があって難しいものではあります。
さて、こんな話をぶん投げておいてなんですが、この舞台設定、実はゲーム内容とはほぼほぼ関係ありません! 建付けとしては夢市場を巡る会社同士の競争といった表現をしているものの「スマートフォン株式会社」のような需要と供給を巡るインタラクションが主軸に据えられたゲームでもないです。敢えて言えばカードイラストが夢っぽいのでこのテーマを選んだのかな、くらいな風味ですね。
ゲームの中心的なメカニクスはワーカープレイスメントとタブロービルドで、プレイヤーはアクションスペースにワーカーを配置することで様々なリソースを集め、リソースを支払って手札をプレイすることで様々な特殊能力を獲得していきます。獲得した特殊能力によって、よりリソースが集めやすくなり、カードプレイも加速していく…… 皆さん大好きな拡大再生産の構造となっています。
ゲーム構造としては実に王道的な、翻って言えばよくある組み立てなのですが、そこは「スマートフォン株式会社」で新世代の経済ゲームを生み出したIvan Lashin、興味深いツイストを仕込んでこのゲームならではの独自性を生み出しています。
結論から言ってしまえば、このゲームはよいです! もう少し具体的に言えばゲーム全体のバランスがよく、お値段は高すぎず、時間は長すぎず、やることはシンプルで、それでいてコクがある。王道的な作りでありつつ独自性も備えているゲームと言えます。
つまり、すごく多くの人に愛されるゲームなんじゃないかなと思っているので、この記事ではそうした独自性に焦点を当てて紹介していきたいと思います。

◆王道かつ捻りのあるワーカープレイスメントとタブロービルド
まず本作は「誰かがカードを12枚プレイしたらゲーム終了」というゲーム終了トリガーを持っています(と言いつつ、プレイヤーは便宜的なカード2枚をプレイ済みの状態からゲームを始めるので実質的にはカードを10枚プレイしたところでゲームが終了します)。ゲーム終了後に一番多くの勝利点を獲得したプレイヤーがゲームに勝ちます。
プレイしたカードには勝利点がついているので、基本的にはより多くのカードをプレイしたプレイヤーが勝利に近づくことになります。こうした組み立てのゲームと言えば「サンファン(2004)」や「レースフォーザギャラクシー(2007)」といった古典的名作が思い浮かぶ人もいるかもしれませんが、「ネオドリームズ」もそうした諸作の系譜にある作品と表現できるでしょう。
カードをプレイするためにはコストとなるリソースを集める必要があります。リソースはピンクと黄色と緑の3種類がありますが、このうちピンクは黄色と緑のどちらとしても使用できるワイルドなリソースなので、実質的には黄色と緑の2種類のリソースが存在します。
こうしたリソースは主にワーカーをオナイロスフィアと呼ばれるメインボードに配置することで獲得することができます。メインボードには全部で12個のアクションスペースがあり、そのうちいくつかのスペースで黄色、緑、ピンクの各リソースを獲得することができます。

プレイヤーはワーカーを3個持っていて、手番には「ワーカーの配置」を行うか、「配置されたワーカーの回収」を行います。この手のワーカーの配置と回収を選択する作りのゲームは「The Manhattan Project(2012)」が走りとなっていて、その後様々なワーカープレイスメントゲームで採用されています。最近のゲームだと「エイピアリー(2023)」がそういう作りでしたね。
さて、リソースを集めたら今度はカードをプレイしたいのですが、肝心のカードをプレイできるアクションスペースはボード上に12個中1個しかありません。な、なんだってー!? メインボード右下のアクションスペースがそれです。

赤丸で囲んだところだけ(「緑のリソース1個を得てカードをプレイする」のアイコン)
あまりにカードプレイの機会少なすぎんか? こ、こんなことが許されていいのか!?
……と思わせておいて、ここでこのゲームならではのツイストが登場します。
実はこのゲーム、カードをプレイする方法がもう一つあります。それがメインボード右端のアイコン群の利用です。右端のアイコン群は「特定色のカード1枚を得る」か「手札のカード1枚をプレイする」を意味していますが、先述の通りカードをプレイする機会が貴重なゲームなので、基本的にはこれを使ってカードをプレイしたいところです。

3つの段それぞれにカードプレイのアイコンがあります。
そして、このアイコン群にアクセスする方法がさっき少しだけ触れた「配置されたワーカーの回収」アクションなのです。
「配置されたワーカーの回収」とは言いましたが、実はこのアクション、自分のワーカーを回収するアクションではありません。具体的には「配置されたワーカーの回収」を選ぶと、メインボードの上部にある睡眠サイクルトラックにあるマーカーを1スペース前進させます。その後、進んだ先の列と同じ列にあるワーカーだけが持ち主の手元に回収され、ついでにワーカーの持ち主は配置していたワーカーの段の右端にあるアクションを行うことができるのです。
ここ! ここの作りがIwan Lashinらしいナイスな仕掛けですよ!

「配置されたワーカーの回収」は自分のワーカーだけを回収するアクションではなく、特定の列に配置されたワーカー全部を持ち主の手元に戻すアクションです。つまり、自分の手番外にワーカーが手元に返ってくることもあれば、付随してカードをプレイする権利を得られる局面もあるということです。
このゲーム、なるべく多くのカードをプレイしたいゲームなのですが、能動的にカードをプレイできるアクションスペースは先述の通り1か所だけしかなく、それ以外はこの「ワーカーの回収」を通してカードをプレイするしかありません。たくさんカードをプレイしたいのにプレイ機会が限られている実にイジワルな作りのゲームなのです。
先日「ネオドリームズ」を試遊した超新作体験会では、手札からカードをプレイしようとして「違います、それ、カードをプレイするアクションじゃないです!」と止めるシーンが何度もありました。繰り返しになりますが、このゲーム、能動的にカードをプレイできるアクションスペースは1つしかありません。
こうしたプレイミスは「やりたいことをやらせてもらえないストレス下」で起きやすくなります。この例は、本来はカードプレイではないアイコンを自分にとって都合がいいようにカードプレイのアイコンと解釈してしまった認知ミスの一例と言えます。
翻って言えば、それだけこのゲームは「カードをすぐにプレイしたい」けども「カードをプレイするには手順を踏む必要がある」ジレンマに満ちているゲームと言えます。このプレイミスをした方はまさに作者の思惑通りにこのゲームのジレンマに浸っているのですね。
この「ワーカーの回収」の仕組みと「カードプレイの機会制限」の組み合わせが本作のユニークかつ秀逸な点で、UI自体は実に王道的で見慣れた作り、遊びやすい作りなのですが、このツイストの盛り込み1つで、簡単で遊びやすいだけではない、このゲームでしか味わえない深みとジレンマを生み出しているのです。
それに伴ってアクションスペースも単純なリソースを提供する場というだけでなく、より豊潤で多義的な価値を持っています。
例えば次にワーカーが回収される列のアクションスペースは言い換えると「すぐにカードをプレイできるアクションスペース」でもあります。また、同じ列に複数のワーカーを配置するとそのワーカーの回収の際にはカードプレイの機会が同時に複数回訪れるのでリソース管理が難しくなりますし、ワーカーの回収が遠いアクションスペースであれば、カードプレイの機会が遠くなるもののそれまでにリソースを整える準備に時間がかけられるスペースという意味合いも持ちます。
この辺りのカードプレイのタイミングとアクションスペース自体の価値を見積もってワーカー配置を計算する点がこのゲームならではの独特な味わいとなっています。
ワーカープレイスメントは言ってしまえば価値の高いアクションスペースから先に占有していけばいいだけのものなのですが、このゲームでは進行とともにアクションスペースの価値が淀みなく変化していくため、一手一手の最適解がとかく悩ましいものとなっています。しかも資源補充といった手間も省かれている…… めちゃくちゃ合理的で完成度の高いシステムなのです。
◆多様なカードを組み合わせて強力なシナジーを生もう

さて、ゲームには様々なカードが登場します。大きく分けて3種類、3色があり、それぞれカードの特殊能力を起動する方法によって色分けされています。

黄色のカード(明晰)は、ゲーム中1回しか使えないものの強力な効果を持つカードです。これはワーカーを特定のアクションスペースに配置した際に起動することができます。起動後は起動済みマーカーを配置するため、以降は起動できなくなるのですが、カードの中には「黄色のカードから起動済みマーカーを取り除く効果を持つカード」があったりもするので、こうしたカードでコンボを組むと強力な効果を何度も使い倒すことができたりもします。あくどいですね!

ピンクのカード(願望)は、ゲーム中に特定のアクションを選ぶことで起動できるカードです。この時、ピンクのカード1枚を選んで起動するのではなく、すでにプレイ済みのピンクのカードすべてが起動するので、ピンクのカードは出せば出すだけアクション効率がバカ上がりします。様々なシナジー要素を持つゲームではありますが、ピンクのカードはわかりやすく出せば出すだけリターンがあるのでシンプルに強いです。黄色のカードと違ってゲーム中1度だけしか起動できないといった制約もありませんが、その分1枚あたりの効果は控え目となってはいます。

緑のカード(再帰)は、いわゆる永続効果のカードです。「○○した時に××を得る」的な。処理を忘れやすい手合いのカード筆頭とも言えますが、特定の行動にオマケがくっついてくるのが嬉しいですし、特定の行動を連打することで何度もオマケを貰えるので特化戦術のキーカードになることもあります。永続効果のカード同士を組み合わせることで強烈なシナジーを生む場合もあり、これまた色々な悪さのできるカードが揃っています。
とまあ、3種の起動方法の違いから分類されている各カードですが、各カードには上下に分かれた2種類の起動効果が記されています。上段の効果は通常効果でカードをプレイした後に使用できる効果、下段の効果は向上効果でカードをアップグレードすることで使用できる効果となります。
カードをアップグレードするにはメインボードで「物品トークンを獲得」し、それを「物品トークンの配置」アクションでカード上に配置する必要があります。
ちょっと面白いのは、「物品トークンの配置」アクションは手持ちの物品トークンを好きな数だけ配置できるルールになっています。そのため、物品トークンを溜めて溜めて溜めて一気に配置すると手番効率がいいのですが、カードを素早くアップグレードすれば強力な効果を使い倒せるメリットもあるので、この辺りのアクセルの踏み方もまた問われる作りになっています。
◆戦略性とバランスの妙が光る、工夫と悩みどころ満載の本格派ワーカープレイスメント
とまあ、様々な効果を持つカードが手札に色々とあるのでアレも出したい、コレも出したい、となるのですが、先述の通りにカードプレイの機会が限られるゲームなだけにゲーム全編を通して悩ましさが続くゲームです。カード効果は乗りこなし甲斐があるものが多いので、堅実なワーカープレイスメントと派手なタブロービルドがうまく噛み合った実にバランスのいいゲームになっていると言えます。ゲーム終盤はプレイヤー全員がコンボを悪用した何らかの悪さをしでかしているのでベスト悪さ選手権といった様相を呈したりもします。
先述の通り、誰かがカードを12枚分プレイしたところでゲームは終了します。最終的な得点計算としてはカードが持つ基礎的な得点にカードに配置された物品トークンが1枚につき1点となります。あとは余ったリソースがちょちょっと得点にもなり。
カード1枚の持つ点数が3〜6点なので、物品トークン1枚1点はかなり優秀な得点源です。ただ、物品トークンを数多く置くためにはプラットフォームとなるカードが必要なので、やはりカードをより多くプレイしたプレイヤーが勝利に近づくという基本線は変わりません。
トータルではリソース、カード、得点トークンをどのように集め、どのようにプレイしていくか、様々な要素をバランスよく扱うマネジメント性の巧拙を求められるゲームとなっています。
プレイ人数幅について言えば対応人数は2‐4人となっていて、最近のゲームとしては珍しくソロプレイルールがありません。基本的にワーカープレイスメントは人数が多いほどアクションスペースの取り合いが激しくなり、タブロービルドは人数が少ないほどダウンタイムが少なくなって自分の手元に集中できる、といった向きがありますが、その原則はこのゲームにも当てはまります。
そのため、人数が多ければワーカープレイスメントならではのアクション選択肢の良し悪しを競う成分が強くなり、人数が少なくなれば自分の手元のシナジー要素の組み立て方が重要になります。そうしたグラデーションはあるにせよ人数によって大幅にゲーム性が大きく変わることはないため、何人で遊んでも安定して楽しめる内容と言えるでしょう。
長所だけでなく短所もお伝えするのであれば、カード効果はすべてテキストなので、それらを把握するのがちょっと大変という点でしょうか。ゲーム中は6枚のカードが場に並んでいて、それらの中から最適な1枚を選び取る場面も多く、それらのカード効果を読み解くには少し慣れが必要です。ゲーム用語もまあまあ出てきます(よくある質問として「ワーカーを使ってオナイロスフィアでリソースを取った場合〜」は、書いてある通りワーカーを使った配置アクションのみ起動して、「サイクルトラックアクション」は、メインボード上部のトラックにあるアクションを指します)。


こういうカードです
また、物品トークンが大きくテキストが隠れることがあったり、リソースを管理するリソースマーカーがズレやすかったりと、プロダクト面で不便を感じる箇所が目に付くこともあります。この辺りもね、遊びやすさを追求して貰えればよかったんですけどもね。
そうした遊びにくさ、気持ち悪さ、みたいなものが滲み出てはいるにしても、そうした欠点を無視できるほどの面白さがあるゲームなのでこれは日本語版を出版した方がいいよなー、と、確信できたタイトルではあります。
また、日本語版ではプロモカード6種が最初から同梱されています。ちょっとクセのある効果を持つカードではありますが、こうしたゲームでカードプールが増えるのは単純に嬉しいよねと思って同梱としました。

テキストが多い!
そう言えば、日本語版では箱絵を原版から改めています。原版ではかなりサイバーパンク感が強かったので日本語版ではその辺りをやや柔らかく改めています。欧米の方はこういう方がクールでいいんでしょうけどね。日本人の好みとしてはやや色味がキツいかなと。皆さんに気に入って貰えると嬉しいのですが、さて、どうでしょうか。


ゲームマーケットではイベント価格5000円にてご提供します。オペレーションの都合できりのいい価格にしているのですが、これだと希望小売価格より高い値段でのご提供となってしまうため、ゲムマでの販売に限り特別に専用のスリーブをおつけします。
カードサイズが「世界の七不思議」と同サイズのため、専門店などに行かないと調達しづらいタイプのスリーブです。入手困難な部類ではないですが、まあ、ゲムマでご購入頂くとシンプルにオトクだと思います。
ネオドリームズ

プレイ人数:2-4人
対象年齢:12歳以上
プレイ時間:30-60分
ゲームデザイン:Ivan Lashin
アートワーク:Nick Gerts, Evgeny Zubkov
希望小売価格:4950円(税込)
ラベル:ネオドリームズ